1 常染色体多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療について 2014 年

1
常染色体多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療について
2014 年 6 月 15 日(日)杏林大学病院での公開市民講座講演内容のまとめ
当日は 120 名の会議室を用意していましたが 230 名近く参加し、急きょ会議室を変更する
など参加者にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
【利益相反に関する情報の開示】
大塚製薬のサムスカに関係する講演会ですので、大塚製薬との利益相反(COI)を説明いた
します。私は2007年からこの薬剤開発のサイエンティ フィック コミティーのメンバ
ーをしています。米国、ヨーロッパの多発性嚢胞腎研究者6人で構成され、サイエンティ
フィックなアドバイスをしています。研究費の寄付を大塚製薬からいただいています。
【上図左】基本的な事項です。病院の死亡患者さん対象では、500人に一人くらい、地
域の病院に来る患者さんの数をその地域の人口で割った場合は3000人から4000人
に一人くらいの頻度で ADPKD 患者さんがいます。世界各国から大体同じような値が報告さ
れています。遺伝子は PKD1 と PKD2 があります。各々の遺伝子が一個ずつ蛋白を作ってい
ます。
【上図右】多発性嚢胞腎は全身の病気です。腎臓に嚢胞ができるのは、病気の定義で
すから 100%です。肝臓に嚢胞ができる頻度は高い。稀ですが、膵臓にもできます。嚢胞以
外の一番大きな問題は、腎不全です。腎不全は今日の講演のトピックスです。あと、高血
圧が60~80%の人にあります。脳動脈瘤が5~12%の頻度であります。脳動脈瘤、
脳動脈硬化症や高血圧も重なって、脳卒中が起こりやすい。腎臓結石も、普通の人と比べ
数倍頻度が高い。原因として、尿の流れがスムーズでないこと、尿が酸性になり過ぎて、
尿酸結石ができやすいこと等があります。肉眼的血尿、嚢胞の感染は患者さんの多くが経
験されていると思います。脳出血、頭蓋内出血の頻度も高いことが知られています。
【予後:スライド省略】1992年の全国調査では、65歳から70歳で約50%の患者
2
さんが透析になると報告されています。外国からの報告を含めた結果では、50歳から7
0歳くらいで、大体50%から60%の人が透析になります。
【遺伝子について、上図左】遺伝子には、PKD1と PKD2があります。頻度は PKD1が85%、
PKD2 が10%ぐらいの割合です。PKD1の方が、病状が厳しく、腎不全になった人の平均年
齢は53歳と69歳です。高血圧のオッズ比(罹患しやすさの尺度)は、PKD1を1とした
場合、PKD2 は4分の1(0.25)です。尿路感染症は PKD1を1としたら PKD2 では半分くら
いの頻度。血尿は60%くらいの頻度です。
【上図右】PKD1と PKD2の腎不全あるいは死亡
までの年齢を示したグラフです。昔は透析とか腎移植はありませんでしたから、腎不全=
死亡でした。したがって、腎不全か死亡ということを指標にして調査をしています。結果
は PKD1の方が早く死ぬか、腎不全になります。この表のコントロールは病気になっていな
い家族の方です。
【上図左】1995年から2009年にかけて、杏林大学、帝京大学、北海道大学へ通院
していた患者さんたちの255名のデータです。このグラフは血清クレアチニン分の1(腎
3
機能の指標)を縦軸に、横軸に患者年齢を示しています。そうすると腎機能の変化には、
患者さんによって、色々なパターンがあることが分かります。
【上図右】縦軸に eGFR を、横軸に同じ患者さんの左右の腎臓容積を合計した値を示してい
ます。GFR というのは糸球体濾過量です。e は推測 estimated の略です。eGFR というのは、
腎臓の働きの指標です。腎臓の働きには、いろいろな働きがありますが、中心的な働きは、
血液をきれいにする事です。血液をきれいにする作用は、糸球体で血液をろ過する事から
始まります。1分間に何 cc の血液をろ過するか、ということが一番基本的な働きの指標で
す。その働き(糸球体濾過量)を正確に測定するのは、面倒な検査が必要です。そこで、
正確に測定する代わりに、血液検査でクレアチニンを測ったり、24時間の尿を集めたり
して糸球体濾過量を推測します。尿を集めるのも手間暇かかりますから、採血だけで糸球
体濾過量を推測するのが eGFR です。
横軸の腎臓容積ですけれども、杏林大学では2007年から放射線科の技師さんのご協
力をいただいて、コンピュータで正確に測っています。図から腎臓体積が大きい人は腎臓
機能が悪いという関係が分かります。ここに書いている P というのは、Probability の P で
す。この事実が正しくない可能性が0.001(=0.1%)以下という意味です。
統計学では P 値の判断には5%がひとつの目安になっています。P値が 5%以下だと、観
測した事実が確からしいと判断します。
【上図】CKD (Chronic Kidney Disease) は慢性腎臓病の略です。慢性腎臓病の病期は1期
から5期に分かれています。1期は eGFR が90以上、2期は60以上から90まで。3期
は30から60まで、4期は15から30まで、5期が15ml/分/1.73m2 以下になります。
4
このグラフは患者の病期別に年齢と腎臓容積の変化を示しています。各病期別の箱毎に年
齢が入っています。縦軸は腎臓の容積です。1~2 期は比較的腎機能が良いグループで、5
期は eGFR が15以下で透析の患者さんも入っています。病期が進展するに従って、腎臓体
積が大体大きくなる傾向にあります。しかし、腎臓容積はあまり大きくないが腎機能が悪
い人もいます。腎臓容積はかなり大きいが、eGFR が60ml/分/1.73m2 以上の人もいる反面、
腎臓があまり大きくないのに進んだ病期の人もいます。嚢胞の数が増え、また大きくなる
と、腎臓の実質(=働く部分)が圧迫されて減少し腎機能が低下します。腎臓に非常に多
くの小さい嚢胞ができて、実質を圧迫するが、腎臓全体の容積はそう大きくならない多発
性嚢胞腎もあります。そのような腎臓では、全体の容積は大して大きくなくても、腎実質
がほとんどなくなり、機能が悪くなります。腎臓の全体の容積を測るよりは、残存してい
る実質容積を測れば腎機能を良く表すのですが、実質だけの容積を測定するのは非常に手
間ひまがかかり、普通には行っていません。
【上図左の左図】年齢と腎機能の低下の関係を示したものです。横軸は年齢で縦軸が腎機
能(eGFR)です。年齢が高くなるに従って、腎臓の働きが落ちています。
【上図左の右図】は
年齢と、腎機能悪化速度の関係です。腎機能悪化速度は年齢による差がありません。
【上図
右の左図】年齢と腎臓容積の関係です。高齢者の方が腎臓容積が大きいと思っていました
が、全体としてみた場合には、高齢者の腎臓容積が大きいという傾向はありませんでした。
個人個人を見たら、年齢と共に腎臓容積が大きくなりますが、患者さんの集団で観察する
と、年齢と腎臓容積は比例しない事がわかりました。人によって腎臓の大きさには差があ
るという事が考えられます。
【上図右の右図】横軸は測定を開始した時の年齢、縦軸は腎臓
容積増大速度(ml/年)を示しています。年齢と容積増大速度の間には有意な相関関係はあり
ませんでした。
5
【腎臓の機能は低下すれば、一層早く低下する傾向がある、左上図】
横軸には CKD 病期を示し、
その下には病期に該当する eGFR を示しています。
各病期別に eGFR
低下速度を示しています。
「腎臓機能が悪くなればなるほど、腎臓機能低下速度は速くなる」
という事がわかります。絶対値は違いますが、同じ事実を TEMPO 試験(トルバプタンが多
発性嚢胞腎に有効かどうか検討した国際臨床試験)でお薬を服用しなかったプラセボ群で
も観察されています(スライド略)。【左上図】また「腎臓機能が悪くなればなるほど、腎
臓増大速度は速くなる」こともわかります。
【若い患者さんで腎機能が良い場合でも要注意、上図】
薄い水色は正常腎臓を持っている人(生体腎移植で腎臓を提供する方)で、濃い青色は多
発性嚢胞腎患者さんです。図の左は、糸球体濾過量を実際に測定した結果です。1、2、
6
3、4と書いているのは、対象者を年齢別に 4 等分した区分です。若い ADPKD 患者さん(区
分 1)では糸球体濾過量は健常者と比較して、統計学的に有意な差はありません。しかし腎
血漿流量は低下しています(右上の図)ので、腎臓の血流量は落ちていても糸球体濾過量
は保たれていることになります。その原因は腎臓の血管の抵抗が増えて、糸球体にかかる
圧力(血液を濾過する圧力)が増えているからです。濾過率(糸球体濾過量/腎血漿流量)
が多発性嚢胞腎患者さんでは上昇しています(右下の図)。すなわち過剰濾過になっていて、
このような状態が続くと糸球体障害が起こり、糸球体濾過量が低下していきます。若い時
に腎機能が良くても、安心できません。腎臓の血管抵抗を減らす作用がある降圧剤を服用
するのも選択肢です。
【左上図の左】横軸にコペプチンとあります。コペプチンは抗利尿ホルモンを表し、抗利
尿ホルモンより測定しやすいので、代わりに測定しています。縦軸には実測した GFR を表
しています。グラフから GFR が下がってくると、抗利尿ホルモンが高くなる事がわかりま
す。このグラフは多発性嚢胞腎患者さんで測定されたものですが、「腎機能が低下すれば、
血液中の抗利尿ホルモンが上昇する」現象は一般に認められることです。
【左上図の右】縦
軸には腎機能の低下速度(1年間に eGFR が低下した量)を表しています。横軸はコペプチ
ンの濃度です。抗利尿ホルモンが高いと腎機能低下速度が速くなります。
【右上図】多発性
嚢胞腎で嚢胞が増大するに従い腎機能が落ちて来ます。腎機能が落ちて来ると尿の濃縮能
が落ちてきます。腎機能が低下すると、尿の濃縮力が低下するのは、多発性嚢胞腎に限ら
ずどの腎疾患でも認められることです。また、それ以外に、多発性嚢胞腎では腎機能が低
下していなくても、尿濃縮能が低下しています。尿濃縮力が低下すると、血液の浸透圧が
上がり、抗利尿ホルモンが高くなります。多発性嚢胞腎の場合には抗利尿ホルモンが病気
の進展を後押しします。その結果、悪循環に陥り、腎臓の機能が悪くなれば、一層抗利尿
ホルモンによって悪化が促進されることになります。
7
腎臓容積は平均5%から6%、毎年大きくなっていきます。毎年 5~6%増えると指数関
数的に腎臓の容積が増えていきます。腎臓の働きは若い時は過剰濾過の為に、見かけ上は
あまり悪くなりません。しかし、過剰濾過で代償できなくなると腎機能低下が始まります。
腎機能低下が進むと、抗利尿ホルモンの作用が加わり、腎臓の増大速度と、糸球体濾過量
の悪化速度が増進していきます。
【上図:遺伝子変異が起こす、嚢胞増大のメカニズム】
PKD1 と PKD2 遺伝子は各々ポリシスチン 1(PC1)とポリシスチン 2(PC2)蛋白を作ります。
両蛋白は腎臓尿細管細胞の管腔側にある繊毛に存在しています。尿細管の中に尿細管液が
8
流れると繊毛はたわんで流れを感知し、PC 蛋白は尿細管液の中にあるカルシュム(Ca)を細
胞の中に流入させます。多発性嚢胞腎では、PC 蛋白の Ca 流入機能がうまく働かないので、
細胞の Ca 濃度が低くなっています。
【上図】
細胞内 Ca 濃度が低下するとサイクリック AMP(cAMP)を壊す蛋白(PDE)機能が低下し、cAMP
を作る蛋白(AC)の活性が上昇します。その結果、cAMP 活性が高まり、その先にある PKA 活
性が高まります。抗利尿ホルモンは、この過程の始まりにある、AC を刺激します。
PKA の作用として
1)尿細管細胞を行儀よく並ばせます。多発性嚢胞腎細胞ではこの機能が失われて、尿細
管細胞は嚢胞化します。
2)クロライド(Cl)を輸送するポンプ CFTR を刺激します。嚢胞に溶液が分泌されて嚢胞
が大きくなります。
3)細胞増殖を促進します。その結果細胞の数が増えて嚢胞が大きくなります。
9
【上図:トルバプタンが抗利尿ホルモン(AVP)の作用を阻害する】
多発性嚢胞腎細胞では cAMP と PKA 活性が高まっていますが、トルバプタンは AVP の作用
をブロックする事で、cAMP と PKA 活性の高まりを抑制します。その結果、嚢胞液分泌や細
胞増殖が低下します。
トルバプタンが多発性嚢胞腎患者においても有効かどうかを試す臨床試験が、1445
名の患者が参加して行われました。服薬は 60mg から始めて、服用可能であれば 90mg さら
に 120mg と増量して服用可能な薬用量で3年間継続服用しました。3 分の 1 の患者さんはプ
ラセボ(偽薬)を服用しました。以下はその結果です。
【左上図:腎臓の体積の増加を抑制】プラセボ群では、年間 5.5%の増加率でしたが、ト
10
ルバプタンを服用した群では、2.8%に低下しました。腎臓の増加速度を約50%抑制して
います。
【右上図:腎臓機能低下を抑制】腎臓の機能を血清クレアチニンの逆数で見ていま
すが、低下速度を -3.8 ml/mg/年から-2.6 ml/mg/年 へと、約 30%緩和しました。eGFR で
見た場合でも、同様に低下速度を約 30%緩和しています。
【左右上図】複合評価項目(高血圧、蛋白尿、腎臓痛、腎機能)の結果です。高血圧と、
蛋白尿では効果はありませんでしたが、血清クレアチニンの逆数(腎機能)が 25%減少す
る割合を 61%低減させ、治療を必要とする腎臓痛の頻度を 36%減少させています。
【左上図】トルバプタンとプラセボで起きた有害事象(薬に関係しなくてもすべて集計
対象に含めます)は各々98%、97%でした。重大な有害事象は 18%と 20%でした。ト
ルバプタンでは水利尿作用による有害事象(多尿に起因するもの)が多く、プラセボに多
い有害事象は多発性嚢胞腎に由来する症候(腰痛、血尿など)でした。検査値異常として、
肝機能障害、血清ナトリウム濃度上昇(飲水の不足に起因)
、高尿酸血症がありました。
【右
上図】肝機能異常(ALT や AST の上昇)はトルバプタン服用で約 5%に認められ、重大な肝機
11
能障害は 2.5%に認められました。その為、トルバプタンを服用する場合には毎月血液検査
をすることが義務付けられています。肝機能障害が起きてくるのは服用開始後 18 か月以内
で、それより後では肝機能障害は発生しますが、発生頻度はプラセボ群とほぼ同じです。
また、服薬を中止、休薬することで殆んど回復しています。
【左右上図】上図は TEMPO 試験の結果を参考に、不足のデータ領域(腎機能が悪い人は
TEMPO 試験に含まれていませんでした)は、推測に基づいた数値を用いています。また、2
0歳時の eGFR を 140 と仮定しています。左側の図は、そのような仮定に立って服用開始時
年齢を基に作成した予測図です。右側の図は服用開始時の eGFR に基づいて、腎不全までの
延長期間を推測したものです。このような予測式(図)は、本来は患者さんの実データに
当てはめてみて検証する必要がありますが、そのような検証はしていません。また、誤差
範囲を計算する必要もありますが、出来ていません。一応の、大まかな目安位に考えてく
ださい。
【司会者(奴田原)
】質問のある方いらっしゃいますか。
【質問者】薬を飲んだ副作用として、肝機能障害が5%から6%の方に起こるという事だ
ったんですけれども、お薬を中断した方がその事を理由に中止したのは2%の方だという
事でしたが、残りの3〜4%の方は肝機能障害が出ても飲み続けたんでしょうか。
【東原医師】本人の希望と、その時の主治医の見解で飲み続けた人がいます。
【質問者】20代で飲み続けると、腎臓機能の低下が遅くなる、という風に伺ったんです
けれども、もし、途中で中止したらまたもとに戻るという事ですか?
【東原医師】途中でやめたら、また元のようなスピードで腎臓容積は増加していきます。
12
しかし、飲んでいた期間の効果は残ります。
以下は飲水についての講演です。この講演内容については私のサイトで
「2014/05/22
飲水は病気進行を緩和するか?」で詳しく述べていますので、そちらを参
考にしてください。
http://www.pck.jp/column/2014/05/127/
【司会者(奴田原)
】今、飲水試験関係の、皆さんとても興味があるところじゃないかと思
いますが、何かこの件に関してご質問がありますでしょうか。
【質問者】今のお話で大量飲水の方は、ちなみに一日どのくらい飲まれていたんでしょう。
【東原医師】大量に飲んだ人たち(高飲水群)の一日尿量は元々2000ml 位でした。飲
水試験中は、一日尿量平均は2691mlです。天候、環境で飲水量と尿量の関係は変化
しますから、はっきりとは判りませんが、一日 2~3L飲水していたと思います。
【質問者】実際、トルバプタンを飲んでいるんですけれども、やっぱりのどが乾くんです
ね。そんなときは今おっしゃったように水は飲まない方がいいんでしょうか。
【司会者】トルバプタンを今お飲みになっていて、それでどの程度お飲みになればいいか、
という事ですね。
【東原医師】トルバプタンを飲んでいたら、今の話は関係ありません。十分お水を飲んで、
のどが乾かないようにした方がいいと思います。脱水になります。
【東原医師】
もし、サムスカを飲むとしたら、どういう必要があるか、という事をお話します。
【上図】厚生労働省が決めた服薬基準です。両側腎臓の合計容積が750ml 以上あること。
13
腎臓の増大速度が概ね5%以上である事が必要です。服用させてはいけない人(禁忌)に
ついては、下段にまとめています。
【上図】サムスカ服用中の脱水についての注意を書いています。
【上図】この表は、サムスカ服用には関係ありませんが、薬の作用として抗利尿ホルモン
分泌を刺激し、血中の抗利尿ホルモンの濃度を上昇させます。多発性嚢胞腎の病気進展を
促進する可能性が考えられますので、注意して下さい。
14
【司会者(奴田原)】これまでの話を通して質問がありますか。
【質問者】腎不全になって透析になる患者さんがどんどん増えていく時代だと伺っている
んですが、これをどう解決できるかと考えるんですが、もし、母子手帳なんかに生まれた
子供が臓器提供をしてもいい、という項目を書いたとしたら、移植を待っている方が減る
と思うので、そういう事を提案できるのでしょうか。
【回答者(奴田原)】
確かに両親が了解したら死体腎の臓器移植をしてもいい、という
のはありますけれども、移植というのは個人の意志によってできるものですから、個人の
意志を鑑みないでそういう事を決定するという事はできないです。
【質問者】嚢胞のお薬のお話で、かなり長い期間お薬の服用が必要になると思いますが、
例えば、何年間服用すると、何年間透析を受けなくてすむ、そういう試算というのはあり
ますでしょうか。薬を多分飲む、飲まない、という選択肢があると思うんですけれども、
結局薬を飲んだ方がコスト的にいいよ、となるのは、透析を受ける期間がどのくらい短く
なった時になるのか、というのがあればいいな、と思ったんですけれども。
【東原医師】20歳で服用開始したら17年間伸びるというのは試算ですが、それをどう
いう風に判断するのか、というのは患者さん個人個人の判断だと思います。それから難病
の法律が試行に向けて準備状況になっていますが、どういう風に施行されるかによってお
薬の使いやすさが変わってくると思います。いろいろな変化条件があるので、簡単には答
えられないと思います。
【回答者(奴田原)】
コストパフォーマンスとか、そういう形の統計的な仕事がありま
す。薬を1年飲んだら、どれだけの経済的メリットがあって、そこにどれだけの費用がか
かったか、そういう計算は多方面でやっています。この薬が使用できるという事になった
ので、厚生労働省の研究班でもそういう研究を始めているところです。
【質問者】診療ガイドラインが書き換えられる予定というのはありますか。なぜかという
と、私の知り合いがこの病気にかかっていて、病院にいても結局、「あー」というような
感じで、例えば病期が進行しているわけではないので、MRI とって嚢胞がいくつか発見され
ていて、「嚢胞がいくつかありますね」というような感じで、特に何か、という事をされ
るわけではありません。先ほどサムスカの話を聞いて、早めに飲めば飲むほど、透析まで
の時間が長くなったりとか、腎不全になるまでの時間が長くなるというような話もありま
したので、そういうような先生方が、早めにサムスカみたいなお薬を勧めるような事があ
るとすれば、これは指針ガイドラインを見て勧める、勧めないという事を決めていくんだ
15
と思うんですが、これが書き変わるという事があるのかな、という点はどうでしょうか。
【奴田原先生】一応、やはり厚生労働省の班研究がございまして、そちらの方でガイドラ
インの書き換えを行うようになっております。一般的な診療指針という Q&A みたいなもの
があるんですけれども、これが今年の8月の終わりくらいに改訂版の原稿を出してくださ
いという依頼がきています。それが出るのが多分、本として出るのが12月くらいだと。
ですから、このお薬が出たために改定しないといけないという事で、いろんなところで動
きがあります。実際にこれが出版物として出るのはやはり12月くらいです。
【東原医師】今の質問に私なりに答えさせていただくと、かつては私もガイドラインを作
る立場にいたんですけれども、医者にも色々差があるから、ガイドラインを作っても全然
見ない医師が多いのは普通です。裁判になったら、ガイドラインは一つの判断基準になり
ますけれども、数多くあるガイドラインを、医者のみんなが熟知しているとはとても思え
ません。たとえガイドラインが出ても、知っている人もいるし、知らない人もいる。まだ
ら状態というのが現実世界だと思います。今でもそうですが、今後今以上に、医師は病気
に関して専門家されてきて、患者もそこに集まってくる、というのが時代の進展とともに
あるんじゃないかな、と思っています。
【質問者】例えば、指針を逆にこちらが示すという事はできるんですか。
【東原医師】患者さんが?
【質問者】はい
【東原医師】本当はガイドラインが作られ始めの頃には、医者は作成に反対していて、患
者が作る、保険会社が作るという状況になり、慌てて医者が作り始めた、という歴史があ
ります。ですから、勝手なんです、ガイドラインを作成するというのは。世界的にガイド
ラインを作る組織(KDIGO)がありますが、立ち上げたのは私的なグループです。多発性嚢
胞腎のガイドライン作成には、世界中から患者の会の代表も参加しています。ですから、
患者さんもガイドラインを作ったっていいわけです。作るのは自由だと思います。しかし、
あまり勝手に作ると信頼性がなくなるので、信頼性の担保として、”Evidence based
medicine”(証拠に基づいた医学)という考え方が提唱されています。医学的根拠に基づ
かないと、そのガイドラインは信頼性がないと評価されます。
【質問者】薬が飲めるのは条件の制限があると思うんですが、例えば eGFR が15未満は飲
めないと書いてあります。それは14になったらだめだと言う事ですか。
【東原医師】
微妙で今回は14でも次回は15とか16とか言う事もあるし、透析を
している患者さんは飲んでも透析から離脱できるわけではないし、そういう事で決めたん
だと思います。腎機能がすごく悪くなったら飲んでも効果はないだろうと言う事が、多分、
16
厚生労働省の判断だと思います。
【質問者】飲む量によって、120まで飲んでいる、最後まで飲みきった患者さんは半分
くらいに減るという棒グラフがあったんですけれども、女性の方が肝嚢胞が大きくなりや
すいという事です。
【東原医師】飲む量が多かったら、肝障害が起きやすいか?という質問ですね。
【質問者】男女の割合、その実験をされた男女の割合を教えていただきたいんです。
【東原医師】参加した人の男女の割合ですか。ほぼイコールでした。日本だと女性の方が
多いんですけれども、数字を見ていて、若干女性が多いですが、有意差はないです。
【質問者】ひとつ前の人の質問と同じ事になるんですが、クレアチニンの値がだいたいい
くつ以上だったら薬はいただけないんですか。
【東原医師】eGFR が15で一つの基準を厚生労働省は示しています。それは飲んだら健康
障害が起きるという意味ではなくて、薬のむやみな使用を抑えようと言う事だと思います。
15くらいになると、ほとんど透析に近い状態ですから、そういう患者さんにトルバプタ
ンを飲んでいただいても、そんなに何年も伸びるわけではないという事が背景にあって、
そういう基準を決めたと思います。
【質問者】会社の定期診断でクレアチニンの数字しか出ていません。クレアチニンの数字
でお聞きしたんですけれども。
【東原医師】クレアチニンの数字から eGFR を計算できるから、eGFR は検査結果表にはたい
がい書いています。暗算で計算はできないです。指数関数ですから。
【質問者】新薬を飲むにあたって、食生活で食べては行けないものとか、飲んでいけない
ものとか、そういう制限はあるんでしょうか。
【東原医師】
薬の代謝が SYP3A4 に関係していて、
SYP3A4 を阻害する薬剤が多数あります。
その薬を飲む時には、サムスカを飲んで悪いわけじゃないんですけれども、サムスカの量
を半分にするとか、4分の1にする必要があります。それからグレープフルーツも SYP3A4
を阻害しますが、阻害作用は強くないことがわかっています。その他には大きな問題はな
いと思います。お水をよく飲むという事と、一般的には食塩は制限した方がいいと思いま
す。また、カフェインを含む飲料水は避けた方がいいと思います。
【質問者】今降圧剤を飲んでいるんですけれども、ちょうど新薬を飲んでいても降圧剤と
かも出されるんですか。
【東原医師】降圧剤は服用した方がいいと思います。降圧剤の中に SYP3A4 を阻害する薬
剤も入っていますので、その場合はサムスカの量を少なくします。
17
【質問者】60、90,120というのは、腎機能が悪い人ほど、飲む量はやっぱり
【東原医師】飲めたらたくさん飲む、というのは、飲めたらたくさん飲んだ方がよりバゾ
プレッシンの効果をブロックするだろうという趣旨ですね。頭の中で考えた。それで実際、
60、90,120 と服用量を上げていったら、効果も比例して上昇するのかというとそうで
はないと思います。服用量を 2 倍にしても、効果の方は少ししかあがっていません。
【質問者】さっきも先生の表を見ると、60でだいたい表が同じような。
【東原医師】表に示していた尿の浸透圧については、患者さんの割合でした。腎臓容積の
大きくなるスピードを、60、90,120で比べてみた結果は、あまり差がありません
でした。服用量は多い方がより有効ですが、そんなに大きな差はありませんでした。
【質問者】先生が診察の時に処方量は決めていただくんですか。それとも患者が決めるん
ですか。お薬のお値段も高いので、そういうのを長い目で見ると、踏み切る一つの目安に
なるかな、と思います。
【東原医師】高額医療の補助があるでしょ。補助制度を使うと、60と90と120の自
己負担は結局は同じですね。そういった意味で今の医療制度は恵まれていて、その事を心
配して「じゃあ、60で我慢」という事はあまり考えなくてもいいと思うんです。今の社
会制度の中では、かかる費用は同じなんです、ほとんど。
【質問者】ありがとうございます。
【質問者】今現在の緑内障の目薬なんかを使っている場合というのはいかがですか。
【東原医師】少数患者に緑内障が発症したという例があるから、慎重に行う必要がありま
す。慎重に眼圧も測りながら試した方がいいと思います。
【質問者】妊婦または妊娠している可能性がある婦人、投与中は避妊をする事が必要とい
う事なんですけれども、男性の方はどうなんですか。
【東原医師】男性には関係ありません。