平成25年度第1回BOPビジネス支援セミナー BOPビジネスにおけるファイナンスと社会性評価 2013年5月21日 独立行政法人 国際協力機構 民間連携事業部 連携推進課 若林 仁 1. BOPビジネスにおけるファイナンス 2 BOPビジネスのファイナンス上の課題 ①一般的課題 1. Missing Middle • マイクロファイナンスと伝統的な金融 (デット、エクイティ、ボンド等)の間で、 資金調達が困難な領域が存在。 • IFC、IDB等の融資は10 Million USD 以上を対象としており、大半の案件 は国際機関の出融資にアクセス不 可能。 出典:http://goldenmeancap.com/about/ 2. デットの不在 • ADBが行った調査によれば、アジアの多くの国においては、銀行からの融資 が受けられない(収益性が低い、返済期間が長すぎる)こと、また借りられたと してもコストが高すぎるため、結果としてエクイティに頼らざるを得ない状況で あるとの指摘がある。 • また、各国の銀行法により、企業が他国の金融機関の融資を受けられないこ と等の法規制の問題もある。 (ADB Regional Forum: Impact Investing for Inclusive business in Asia (November 29 -30 2012)) 3 BOPビジネスのファイナンス上の課題 ② 入口段階 期待収益率の低さ、投資規模の小ささ 軌道に乗るまでの期間の長さ、期間のミスマッチ 土地等の所有制度がないことによる担保物件・土地 がない 現地銀行の信用性が低い(L/C開設等が困難) 信用がない、借入コストが高い、実績がない (トラックレコードの欠如) カントリーリスク 4 BOPビジネスのファイナンス上の課題 ③ 案件審査~出口 発掘の難しさ、PEファンドとのマッチング デューデリジェンスのコストの高さ そもそもの財務情報がない、遠隔地のためコストが高い 社会性をどのように保つのか 法制度の問題 出資規制、外資規制、持ち出し規制、関税、資金調達など 案件監理のむずかしさ 特に遠隔地の案件は管理が困難。また、事業者の能力(会計、語学力 等の不足)にも限界 リスク管理のむずかしさ バリューアップの問題 出口:買い手がいない(IPO、M&A困難) 5 調査を完了した案件からのフィードバック ~事業化におけるポイント~ 調査完了済の案件20件に係る企業へのインタビュー結果 成功のためのポイント • 現地パートナーの存在(多数の意見) • 経営陣の強いコミットメント ボトルネック • • • • • • 法制度、政府からの許認可(時間がかかる、等) 公共性の高い事業は収益性が確保しにくい(水、電気など) 現地の優良ビジネスパートナー等の情報が不足している 流通網の構築が通常のビジネスよりも複雑。 低利益、長期間の資金回収というBOPビジネスの特性 資金のニーズと供給のミスマッチ(特にアーリーステージ) 6 BOPビジネスにおけるファイナンス~JICA調査からの教訓 資金調達にかかる教訓 • 中小企業の案件→資金調達が事業化の最大のボトルネックの一つ。 • 日本の銀行はなかなか融資しない。 • アーリーステージ段階(事業開始後2~3年)の事業資金、イニシャ ルコストに対する支援が得られない。 • 公共性の高い事業についての資金調達のハードルが顕著 • 大企業は自己資金はあるものの、投資不適格となる場合もある→ 開発効果評価の重要性。 • そもそも日本では世界的なソーシャルファイナンスのオプションが まだ知られていない。情報が整備されていない。 JICA内の課題 • 案件の審査・モニタリングコスト (規模的に小さい案件に多数出融資し、個別にモニタリングを行う ことは、限られた人材リソースの中では可能性が低い) →資金調達オプションの拡大が急務 7 インパクト投資(Impact Investment)の領域 Impact Investment 収益性 民間金融機関 従来型事業 PEファンド 国際機関 Social First Investors Finance First Investors 財団・NGO Threshold Threshold 失敗事業 クラウドファンディング 出典:Bridge Ventures 2010 “Investing FOR Impact”を基に筆者作成 フィランソロピー、ODA 社会性 8 インパクト投資の傾向 出典:JP Morgan and GIIN 2013 “Perspectives on the Progress: The impact investor Survey” Global Social Finance, Jan 7 2013 投資先 : 中南米、アフリカが多い。 投資分野: 農業、食品、保健衛生など (JICAのBOP F/Sにも多い分野) 出典:同上 9 事業フェーズ別の実績 出典:JP Morgan and GIIN 2013 “Perspectives on the Progress: The impact investor Survey” Global Social Finance, Jan 7 2013 多くのインパクト投資家は、Venture Stage以降の案 件に投資し、アーリーステージの案件には慎重。 →アーリーステージでリスクテイクできる効果的 な資金調達オプションの導入が急務 10 エクイティ JICAが目指す方向性①-1 JICAの支援メニュー(案) 1. ファンドへの出資 いわゆる”Missing Middle”にある案件(数千万円~10億円程度)の案件を扱うファ ンドに対して出資、ファンドを通じて資金提供を行う。 BOP F/Sをファンドのデューデリジェンスプロセスに活用する。 2. 海外投融資(融資) 比較的大規模なものについては、海外投融資(融資)の活用可能性。 (例:メザニン(劣後融資等)を通じた投資家の資金調達をプロモートする) デット 3. 保証基金 地場銀行が企業に融資する際の保証等をファンドを通じて行うことにより、地場 銀行からの融資を受けやすくする。 4. 円借款によるツーステップローン等 地場銀行に対しツーステップローンを提供、地場銀行やその他金融機関との連 携による融資をプロモートする。 *上記についてはアイディアであり、実施を何らコミットするものではありません。 11 JICAが目指す方向性①-2今後検討すべき事項 ファンド参入時の検討事項 誰から資金調達を行うのか 個人投資家:投資先のわかりやすさが重要 機関投資家:投資の効率性、規模、流動性が重要 その中間(学校法人・宗教法人) 現状として、①アクセスする方法がない、②効率的にセールスする 方法がない、③ソーシャルリターンが高い商品が準備できてきない Finance Firstか、Social Firstか 開発援助機関のJICAとしては、Social Firstであることが必要である一 方で、リスクフリーレート以上のリターンも必要。社会面を重視する ファンドにおいては、社会性が確保できていれば、ネガティブなリタ ーンが出たとしてもそれでよし、としている個人投資家もいる。 ターゲット(セクター、国) 投資の効率性、ファンドマネージャーの能力を考えると、地域・セク ターを絞る必要があるが、その際のターゲットをどうするか。 JICAとしての参入意義 JICAがファンドに参加し、リスクをより積極的にテイクすることで、民 間投資の呼び水とすることが出来ないか。 12 JICAが目指す方向性② エコシステムの構築 • BOPビジネスの投資環境上のボトルネック →法制度の不完全性、資本の不足、政策の不備 • JICAとして、投資環境改善関連のプロジェクトはいくつかの国 で実施してきている。(専門家派遣(政策アドバイザー)等) • 「BOPビジネス育成」のための技術協力の可能性? • そのためには、国・分野等のターゲットについても要検討。 • 他援助機関、投資家との連携も模索。 政府の関与が有益と考えられる分野(例) ・優遇税制 ・政府保証 ・投資関連法制度 ・政府からの出資 13 2. BOPビジネスの社会性評価 14 なぜBOPビジネスに社会性評価の考慮が必要か ~JICAとしての視点~ • これまで4回公示を実施(応募340件、採択65件) • BOPビジネスを通じた社会性追求における課題 募集・選考 多種多様な案件を評 価することの難しさ。 → 容易に事前の評価 ができるフレームワー クが必要 調査実施中 如何に開発効果を発 現させるためのシナリ オを調査の中で作り上 げるかが課題。 → 企業の多くは、事 業性を第一に考える中 で、BOPビジネスの開 発効果を後回しにする 傾向。 → 開発の専門家がい ないとシナリオ作りは 困難。またシナリオの 質もバラバラ。 事業化 資金調達の困難さ → インパクトファンド 等新たな資金提供先 に繋げることが必要。 その際、社会的価値に 関する共通言語として、 評価フレームが必要。 社内の投資基準がな かなか満たせない → 新たな価値尺度と して、「社会性」を如何 に経営陣トップに説明 するのか。 15 調査を完了した案件からのフィードバック ~企業の社会性評価に対する考え方~ 調査完了済の案件20件に係る企業へのインタビュー結果 メリット • 副次的なメリットの存在 (マーケティング分析用情報、ステークホルダーの意見が聞け た、事業の具体性が見えた、等) 克服すべき点 • 開発効果指標の定義、インプットなどが分かりにくい • 開発効果を調査するためのコスト・手間が多大 • 開発効果指標設定・モニタリングの実施をするための明確 なインセンティブの欠如 16 社会性評価と投資 投資家アンケート調査:インパクト評価指標の使用状況、IRISに準拠したものか?(n=98) 出典:JP Morgan and GIIN 2013 “Perspectives on the Progress: The impact investor Survey” Global Social Finance, Jan 7 2013 ・インパクト投資家の96%が何らかの評価手法を投資判断に活用。 ・うち82%が、IRIS(※)か、IRISに準拠した方法を使っているとの結果。 (※IRIS (Impact Reporting and Investment Standards)=米国NGOであるGIINが 開発した社会性評価指標。) ・また投資家の6割は第三者機関の評価結果を活用。 ・デューデリジェンス費用の平均1割をインパクト評価に費やしている。 →インパクト投資には、財務的観点のみならず、社会的側面を評価する 社会性評価が普及してきており、我が国BOPビジネスでも導入が必要。 17 社会性評価のユーザーとインタレスト ユーザー インタレスト 投資家 ・投資判断に活用→デューデリジェンスが難しい ・インパクト投資においては、社会性を如何に担保 するかが必要 企業の経営陣 ・投資判断に活用 ・特に収益性が担保できない場合においては、社 会性等の経営上のメリットが必要 ・企業の社会的価値、信頼性の向上 ・第三者評価によるお墨付き 実務家 ・社会性を如何に担保するのか、そのシナリオ作り 及びモニタリングに活用 ・環境・社会面でのリスクの判断材料 ドナー ・BOPビジネスを支援することに対する説明責任を 果たす。 BOP層、顧客 ・企業の製品の社会性を判断→購買につながる 18 このイメージは、現在表示できません。 BOPビジネスの開発インパクト指標の整備 他の開発援助機関等でも、開発インパクト指標の開発はBOPビジネスの 中心的な課題の一つとなっている。以下はその一例。 団体 概要 社会性投資を目的とした指標 米:GIIN IRIS 米国NGOのGlobal Investment が作成した、財務面と社会面の両面のリターン を求める投資家のための指標。 http://iris.thegiin.org/ 企業活動の社会性を立証するための指標 英:Oxfam Poverty Footprint 実際に活動している企業の調査研究をもとに、企業行動が社会や貧困の中 で暮らす人々に及ぼす影響を測るための手法。 http://www.oxfam.org/sites/www.oxfam.org/files/oxfam-poverty-footprint.pdf 開発援助機関による開発インパクト計測手法(モニタリングが主目的) Africa Enterprise Challenge Fund (AECF) ヨーロッパの複数の援助機関(英、独、仏、蘭等)が出資するBOPビジネスに 対する支援制度。 申請書及び中間報告において、定められたフォーマットに基づき定期的に進 捗を報告するためのフレームワークを構築。ベースラインを設定した上で、そ れに従ったモニタリングを行い、半年に1回報告。 →JICAとしても、これらのツールを参考としつつ、我が国BOPビジネ スにとって有益な社会性評価指標の構築を検討中。 19 BOPビジネスの開発効果拡大に向けた 評価・ファイナンス手法基礎調査 ~概要~ 狙い 調査概要 調査スケジュール • • • これまでの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)におけるファイナン ス上の教訓のまとめ JICA版開発インパクト評価マニュアルの作成 海外投融資等を活用した資金調達オプションの構築(ファンド等) 海外の投資家、BOPビジネス実業家等とのネットワークの構築 • • • • • • • • これまで実施した協力準備調査(BOPビジネス連携促進)案件レビュー 既存の開発インパクト評価フレームに係る情報収集、インタビュー JICA版評価フレームワークの作成、バックテスト 評価マニュアルの作成 社会的投資家のマッピング 社会的投資における課題の抽出 資金調達オプションの増大に向けた考察 今後のファイナンスオプションの検討 • 4月 5月~6月 6月~7月 7月下旬 8月 9月 これまでJICAが実施した案件等におけるインタビュー 社会的投資家、社会性評価に係る現地調査 (欧・米・アジア) 評価フレーム、ファイナンス手法検討 ドラフトファイナルレポート セミナー ファイナルレポート、調査終了 20 今後検討すべき事項 何を目的とするのか 社会性評価には、① 投資判断のためのデューデリジェンス、②ポ ートフォリオ管理、③ 経営支援能力強化、④社会的価値のコミュニ ケーションツール、といった目的がある。JICAとして何を社会性評価 指標の構築において求めるのか。 誰が評価を行うのか、評価のコスト 本格的な社会性評価を行うとなると、企業外に評価を外注せざるを 得なくなり、コストもかかる。また、難しくなれば、読み手にも相応の 評価に関する知識が必要となってくる。 コストについては、企業にとって「コスト」ではなく、「投資の一部」と 認識してもらう仕組みが必要。 21 お問い合わせ先 独立行政法人国際協力機構 民間連携事業部 連携推進課 課長 若 林 仁 〒102-8012 東京都千代田区二番町5-25 二番町センタービル TEL:03-5226-6960 FAX:03-5226-6326 EMAIL : [email protected] 参考資料 23 JICAのBOPビジネスに対する支援 協力準備調査(BOPビジネス連携促進) 貧困層(BOP層)の抱える社会的・経済的な問題解決に資するBOPビジネスの F/S調査支援制度。通称、BOPビジネスF/S。 BOPビジネスの事業提案を公募し、採択案件の提案者に調査の実施を委託。 ※ 委託費上限5,000万円もしくは2,000万円(後者は中小企業のみ選択可) 年2回公募 (第5回公示 2013年4月26日〆切済、次回は9月公示予定) 過去4回の公募で、合計340件の応募、65件採択済 JICA民間連携ホームページ トップページ > 企業の方(民間連携) http://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/index.html 25 海外展開をするためのグローバルな人材を採用したい 企業の皆様、PARTNERをご活用ください。 PARTNERは、JICAが企画・運営する 国際協力の世界で活躍を目指す方と、国際協力人材を求める組織や 団体に様々な情報をお届けする「国際協力キャリア総合情報サイト」です。 PARTNERには海外経験や高い語学力、専門性を有した人材が多数登録しています。また、登録者の中には、 途上国の過酷な条件下で活動したJICAボランティアも多数含まれています。JICAボランティアは、異文化適応 力、コミュニケーション能力、タフさなどを身に付けて帰国します。引き続き海外での活躍を希望する者も多く、 企業の海外展開やCSR活動にも貢献できます。 PARTNERに団体登録頂きますと、人材検索画面で、ニーズにあった人材を検索し、プロフィール情報を閲覧す ることが可能です。 また、気になった人材情報については、「お気に入り」登録をして候補者をリストアップ、 PARTNERを通してメールでスカウト、直接コンタクトすることが可能です。 PARTNERの提供 サービス <PARTNERトップ画面> PARTNERの団体登録は2種類あります。まずはPARTNER 団 体登録(簡易登録※)をお済ませ下さい。 ※約10分で登録申請は完了します。(登録基本情報の「団体登録を行 う」のチェックを外してください。※※の項目のみが必須となります) 登録が完了すると、以下の★(①~③)のサービスが無料(通 信費用は御社負担となります)でご利用になれます。 ①PARTNER掲載情報、人材情報の閲覧 ★ ②PARTNERに登録している個人へのオファー(求人への応募勧奨等) ★ ③企業・団体情報の掲載、広報機能(プレスルーム)の掲載 ★ ④企業・団体の求人情報の掲載 ⑤企業・団体の研修・セミナー情報の掲載 JICAは、国際協力キャリア総合情報サイト:PARTNER でお手伝いします。 PARTNER 検索 http://partner.jica.go.jp/
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