ファッション写真の展開 写真史講義 5 ファッション写真の展開 広告産業は、第一次世界大戦後の工業化の進行と消費社会の拡大、そして印刷技術の向上によって、企業と消費者との 間を結ぶ一大産業へと成長していきました。広告写真やファッション写真は、消費社会において、見る人の購買意欲を 掻き立てたり、企業やブランドのイメージアップを図ったりするという重要な役割を担っています。そのため、写真家 は広告写真やファッション写真を撮影するにあたって、色彩や照明効果、アングルなどにおいて、細心の注意を払って います。 ファッション写真の歴史 19 世紀後半 流行の衣装を纏った女性たちのポートレート写真を専門とする大型写真館(ルートランジェやメイヤー &ピアソンなど)が人気を博する。 1910 年代 1909 年 『ヴォーグ』や『ハーパース・バザー』、 『ヴァニティ・フェア』等に写真が数多く掲載される。 『ヴォーグ』がコンデ・ナスト社に買い取られ、本格的なファッション雑誌に転向する ! バロン・アドルフ・ド・メイヤー 1914 年から『ヴォーグ』で活躍。ソフトフォーカスの描写や、バック・ラ イトを多用しモデルを明るく浮かび上がらせることによって、繊細でエレガントな世界を作り出す。 ! エドワード・スタイケン モダニズムの美学を反映し、人工光の照明を用いてシャープな描写を試みたり、背 景や布、画面の構成にキュビスムの要素を取り入れたりしている。 ! ジョージ・ホイニンゲン・ヒューン、ホルスト・P・ホルスト 古代ギリシア芸術に関心を持ち、シュルレアリ スムから影響を受け、巧みな照明とモデルや小道具の配置によって厳密な構図の画面を作り上げる。 ! マーティン・ムンカッチ 小型カメラによるスナップショットをファッション写真に応用。 1936 年にコダクロームが開発され、1940 年代には、ファッション写真においてその実用化が試みられた。 ヨーロッパの写真家たちが第二次世界大戦期にアメリカに亡命・移住し、戦後にアメリカがファッション写真の発信基 地となる基盤を作り上げる。 1950 年代 アーヴィング・ペン、リチャード・アヴェドンなどの活躍。 『VOGUE』の表紙に見るファッション写真の変遷 映画『パリの恋人』(原題:Funny Face 1960 年代後半以降 オードリー・ヘップバーン/フレッド・アステア主演) カウンター・カルチャー、性的な表現との結びつき 映画『欲望』(原題:Blow Up ミケランジェロ・アントニオーニ監督) デヴィッド・ベイリー、ヘルムート・ニュートン、ギィ・ブルダン ファッション写真の展開 写真史講義 5 写真による性表現 ステレオ写真/ポストカード 19 世紀半ば以降に流行 写真による性表現の生産・流通 1850 スコットランドの科学者デイヴィッド・ブリュースターがステレオスコープの製造を開始 1907 フランスでエロティックなポストカードの流行。 " 1942 " 1953 ピンナップ セックス・シンボルの創出 ベティ・グレイブルの水着ピンナップが人気を集める。 雑誌 ヒュー・ヘフナー、雑誌『プレイボーイ』を創刊。 写真による性表現と検閲 猥褻罪(猥褻物陳列罪) → インターネットの高速化に伴うポルノ画像の氾濫、児童ポルノ問題 ! 検閲の理由 → 何のために検閲を行うのか。 (性犯罪の防止) ! 検閲の基準 → 誰が検閲の基準を決定するのか (保守的な価値観、宗教的な観点・フェミニズム) ! 検閲の問題 → 表現の自由の抑圧、 「性」に関する問題のすり替え、多様性の否定 アルフレッド・C・キンゼイ&キンゼイ・インスティテュートとは アルフレッド・C・キンゼイ(1884-1957)は、1938 年からインディアナ大学で性科学の研究に着手し、 延べ 18000 人に性意識調査のための面接を行い、性行動における個人差を徹底的に調査した。 その成果 を、 『男性の性行動』 (1948)と『女性の性行動』 (1953)という、あわせてキンゼイ・レポートと称され る両著作で発表。キンゼイ・レポートは、 同性愛の実在などアメリカ人の性の実態(米国の主婦の 4 人 に 1 人が婚外交渉を持った経験がある、男性の 10 人に 1 人が同性愛経験を続けている、など)をレポー トする衝撃的な内容でベストセラーになった。 キンゼイ研究所による写真の蒐集と分類 ! 個人の性行動のドキュメント(面接調査・フィールドワークの資料の一環として) ! 警察に押収された写真 (1940∼50 年代は性表現に対する規制が厳しかった。ニューヨークやロサンゼルスといっ た都市部のスタジオで撮影されたもの。ホモセクシュアル、SM に関連するものが多い。) ! 19 世紀∼20 世紀初頭にかけて制作された写真 (アルビュメン・プリント、ステレオ写真、ポストカード) ! 写真家の作品(ヴィルヘルム・フォン・グローデン、ジョージ・プラット・ラインス、ブラッサイ等) ! ピンナップ、広告、雑誌など ダニエーレ・ブエティ フ ダニエーレ・ブエティ(Daniele Buetti, b.1956)は80年代からヨーロッパ各地で精力的に作 品を発表しているスイスのコンセプチュアル・アーティスト。消費社会のファッション、 ライフスタイルなどをテーマに、写真やビデオアート、イラスト、オブジェなど様々な手 法を用いて表現している。 http://buetti.aeroplastics.net/ 映画『欲望(Blow Up)』(1966年) フ ミケランジェロ・アントニオーニ監督の作品。1960年代中盤のロンドンを舞台に、人気カ メラマンの主人公が撮った、ある写真にまつわる奇妙な出来事を描く。「スウィンギン グ・ロンドン」と言われた、当時のイギリスの若者のムーブメントを織り交ぜつつ、サス ペンスかつ不条理な独特の世界観となっている。 http://ja.wikipedia.org/wiki/欲望(映画) リチャード・アヴェドン フ リチャード・アヴェドン(1923-2004)は、第二次世界大戦後、革新的なファッション写真 で一世を風靡した。1956年に公開されたフレッド・アステアとオードリー・ヘップバーン による写真家とファッションモデルを題材にした映画 ファニーフェイス(邦題:パリの恋 人) はアベドンがモデルと言われている。 http://www.richardavedon.com/ ギィ・ブルダン フ ギィ・ブルダン(1928-1991)は、1960年代後半からシャルル・ジョルダンの靴の広告写真 を手がけて、一気に名声を得た。シュルレアリズムの影響を受けた彼のファッション写真 は非常に独創性かつ挑発的なものだった。生前はまったくギャラリーの展示や写真集の出 版を行わなかったことでも知られている。 http://www.guybourdin.org/ ヘルムート・ニュートン ヘルムート・ニュートン(1920-2004)は、1950年代から『プレイボーイ』誌などで写真 を発表し始め、1960年代からは「ヴォーグ」を始めとするフランスの雑誌に作品を載せ る。ニュートンは、しばしばサディズム、マゾヒズムとフェティシズムをともなったエロ チックな型式美による場面構成で特徴づけられた特別のスタイルを確立した。 http://www.helmutnewton.com/ フ
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