35 2015年 4月 東ティモール 医療友の会 東ティモール 医療友の会 AFMETニュースレター No. 2015年4月12日発行 (1) 東ティモールの歯科事情とAOHPFの活動 東ティモール医療友の会(AFMET)理事長 小林 裕 近年、 日本では歯科医師過剰時代 に常駐している、デンタルナースの 向にあるようです。ちょうど日本で戦 と言われ、地域によってはコンビニ ところへ行って歯を抜いてもらいま 後、子どもの虫歯が激増した状況に の数より歯科医院のほうが多いとこ す。歯を削って詰め物をしたり、歯の 似ているのかもしれません。 ろもあるようです。私たちは自分の 神経の治療をしたりすることはあり 乳歯の虫歯は、そのうち生え代わ 好みにあった歯科医院を選択するこ ません。デンタルナースは日本でい ることから親たちの関心も薄く、 ほと とができます。 しかし、東ティモール う歯科衛生士さんですが、日本と違 んどの場合そのまま放置されます。 では日本とは事情がかなり異なって うところは屈強な男性のデンタル このような状況をなんとかするため います。 ナースが圧倒的に多いことです。 に東ティモールで活動しているのが 現 在 、東ティモー ルの 人 口は約 歯科の病気は口の中にできる悪性 日本のNGO、 アジア歯科保健推進基 120万人と言われていますが、国全 腫瘍を除いて、直接生命を脅かすこ 金(AOHPF)です。長野県の歯科医 体で歯科医師の数はわずか8名(そ とが少ないため、予防の面からもあ 師、村居正雄先生が代表を務められ のうち東ティモール人の歯科医は3 まり重要視されていません。政府か ているAOHPFは、虫歯予防に重点 名、 他はキューバ人、 インドネシア人) ら支給される麻酔の薬も、予算が無 を置き、乳幼児期での歯ブラシ習慣 しかいません。 いからという理由で供給がストップ の徹底や食生活環境の改善、また、 首都ディリには、有料ですが、 プラ されることもあり、病院の歯科を受 デンタルナースに対する教育支援を イベートの歯科医院が数件あるもの 診しても歯を抜いてもらえないこと 現地の歯科医師と共に行っていこう の、地方の村では人々は虫歯になる もあります。 と計画しています。AFMETは東ティ と痛いのを我慢してそのまま放置す 最近はインドネシアなどから入っ モール歯科医療の発展を願って、さ るか、各県に1つある無料の国立病 てくるお菓子が簡単に手に入るの さやかながらAOHPFの活動に協力 院やコミュニティー・ヘルス・センター で、特に子どもの虫歯が増加する傾 しています。 1 3 写真 街で出会った子どもたち 1. 2. 3. 4. 2 4 アサライヌ村で ロスパロスの住宅地で 学校からの帰り道(メハラ村) ロスパロスの街中で No.35 2015年 4月 AFMETニュースレター (2) 栄養失調の改善に取り組みたい 母親の意識改革 AFMETは発足当時から今日までの 15年間、 ラウテン県内で活動を展開し てきました。拠点のあったフィロロ近辺 から徐々に活動範囲を広げ、北部の大 半の地域を網羅してきました。 しかし、 ラウテン県の南部は道も悪く、なかな か活 動を広げることができませ ん 。 AFMETの現地代表であるジュベンシ オさんは、ラウテン県南部こそ医療 サービスが行き届かずAFMETの手が 必要だとずっと考えてきました。 これまで実施してきた「衛生的なか まど」普及事業が一段落した頃、味の素 「食と健康」国際協力プログラムが東 ティモールを対象として案件を募集し ていることを知りました。 「もしこの助 成事業ができるのであるならば、長年 の希望であったラウテン県南部のイリ オマール準郡でいまこそ事業展開を図 りたい」と現地スタッフの中に強い熱 意が湧き上がってきました。 イリオマールへは、ラウテン県の中 心であるロスパロスから車で南へ3時 間半、約40kmの未舗装路をガタガタ と進んでいきます。首都ディリからも遠 く、主だった産業もなく住民は農業を 中心に細々と生活しています。 このニュースレターでもたびたび登 場するSISCaは月に一度村々で行わ れる保健行政が行う母子保健プログラ ムですが、調査したところイリオマール イリオマールへの道路 準郡のSISCaは、郡保健局の人手不足 や運営する保健ボランティア(PSF)の 技量不足で、十分機能している状態で はないことがわかりました。また、村人 の中には家からSISCaの場所までが 遠く、参加できない家庭も少なくない ことがわかりました。SISCaに行かな いと、新生児に母子手帳が配布されま せん。配布された母子手帳の数で子ど もの数を把握していますので、その子 どもの存在は数に入っていません。ま た体重測定や健康診断を受けないの で子どもが栄養不足でも、母親がそれ に気づかないケースも多々あることも わかりました。準郡病院長は「SISCaを 担当する職員は他の部署も兼任してお りSISCaに同行できないことも多い。 PSFにも情報を伝えることができず PSFのスキルアップも望めない。栄養 失調児は増える事はないが、減る事も ないという状態が続いており、 なんとか 打開策をみつけたい」 と言っています。 そこで、今回味の素「食と健康」国際 協力プログラムの助成を受け、イリオ マール準郡の栄養失調児への対策を 行うことにしました。 行動を変えるには、 意識を変える AFMETが、 この15年間の活動の中 で気づいたこと。それは、 「行動を変え イリオマール準郡の対象地域 るには、意識を変える」 ということです。 今まで長年にわたり村人にトイレを作 ろう、 トイレを使おうと呼びかけてもな かなか成果が現れませんでした。他の NGOが作ったトイレが使われずに放置 されていることも珍しくありません。 そこで、2009年からCLTSという 手法を用いて、各戸に住民自らの手で トイレを設置してもらう活動を展開して きました。このCLTSは(Community Led Total Sanitation)の略で、 「住 民主導の全村的環境衛生活動」 と訳さ れます。スタッフが住民に根気強く寄り 添い、教えるのではなく住民の気づき を促し、意識を変えて、住民が自主的に トイレを作っていくのを促す活動です。 AFMETはこのCLTSをちょっと応用 し、住民がトイレを使いやすくするため に水利設備の整備という 「うまみ」も加 えて推進してきました。 今回イリオマールで展開しようとし ているプロジェクトはトイレではなく、 栄養失調児への対策ですが、 この「気 づきを促す」方法を活用しようと考えて います。 対象となる地域は、ラウテン県南部 にあるイリオマール準郡です。全部で 5つ の 村 が あります 。カエンリウ村 (1,273名、240世帯)、ティリロロ村 (1,679名、334世帯) フアト村(887 名、156世帯)、 アイリベレ村(845名、 (3) AFMETニュースレター No.35 2015年 4月 空芯菜の炒め物は 日常的なおかず 186世帯)イリオマールI村(1,205 名、253世帯) です。 イリオマール準郡の5歳以下の子ど もの人数は、約1,470名(母子手帳配 布部数)。また、身体測定ができた5歳 以下の子どもは、989人です。2013 年度に実施したSISCaの中で栄養不 足であると診断された5歳以下の子ど もは302名。つまり約30%の子ども が栄養不足であると考えられます。 人びとの生活はつつましく、食生活 は限られた野菜を炒めるのみというお かずが中心で、調理のレパートリーも 限られ、 また、肉などのたんぱく質を摂 取する機会はごくわずかというのが現 状です。毎日の料理を作り、家族や子ど も達の成長をつかさどるのは母親で す。母親は子どもが元気に育つのを心 から願っています。限られた食材でも 栄養があって、おいしい食事を提供す るのは料理を作る人の願いです。 そこで、住民、家庭、特に母親の意識変 容を促し、栄養や料理の知識を増やし てもらい子ども達の栄養不足を改善し ていこうと考えました。 まず各戸を一軒一軒まわり基礎調査 を行います。そこで5歳以下の子ども を特定します。同時に、配布されている はずの母子手帳から、SISCaに毎月 行っているかをチェックします。 そして、SISCaを利用し、5歳以下の 子どもを持つ母親への総合セミナーを 行います。セミナーでは、❶ハンドブッ クや教材を用いて、 「意識を変える」工 夫もくわえ、栄養の知識を増やしても らいます。❷地域にある季節の食材を 利用した調理セミナーを実施し、食材 や調理法の紹介も行います。❸栄養状 態を向上させる食材を確保できる家庭 菜園のためのセミナーを実施し、幅広 い食材を各家庭で利用できるように促 します。❹年2回、5歳以下の子どもが いる母親が集い、栄養に関する情報交 換やセミナーの発表を行うほか、モデ ルケースとなる家庭を表彰する「母親 大会」を開催します。 SISCaでは、栄養失調児を持つ母 親への個別相談も行い、母親の不安を 解消していきます。同時に、栄養失調 児のいる家庭には、保健ボランティア、 栄養課担当者、AFMETスタッフによ る家庭訪問を行い、フォローアップを はかります。 さらに、年2回関係者会議を行って いきます。関係者会議には、準郡知事、 村長、PSF(保健ボランティア)、保健 局、地域の診療所であるヘルスポスト、 SISCa担当者、NGOなどが参加し、関 係者全員を巻き込んでプロジェクトを フォローしていきます。 今回用意する 「うまみ」は家庭菜園と 母親大会です。市場に行って買ってこ なくても家庭菜園で必要な食材が入手 できるようになるでしょう。豆類も導入 してタンパク質も摂れるようにしたいと 考えています。母親大会での表彰がモ チベーション (やる気) を高め、 また目標 となることを願います。そしてなによ り、子ども達が元気に育ち、毎日の食卓 で「おいしい!」 という声が聞ける喜びが 母親を、家庭を変え子どもの栄養不足 を解消していくことでしょう。 このプロジェクトは3年間の計画で す。年間一村を対象に行っていきます。 そして事業終了後は、3年間培った経 験と実績について県保健局と評価を行 い、それをパイロットプランとし、保健 省に提出し全国レベルでの実施を政府 に提案していこうと考えています。 今回のプロジェクトは「栄養失調児 の減少を目的とした母親対象の栄養と 食に関する知識向上プログラムとその 実践」という長いタイトルが命名され、 味の素社から助成決定の内示を受け ております。4月から始まるこのプロ ジェクトの成功に向け、皆様のご支援を 心からお願いいたします。 味の素「食と健康」 国際協力支援プログラム 味の素グループは、1999年の味の素KK創業90周年 を機に味の素「食と健康」国際協力ネットワークプログラム (AINプログラム) を開始しました。 「食・栄養」分野の国際協 力支援活動で、NGO/NPO、大学、専門家などと連携し、 その国の課題に合ったプロジェクトを支援しており、人材の 育成、人・情報ネットワークづくりの支援、そして現地活動の 支援を行っています。 今回、 AFMETが申請したのは、 この現地活動の支援にあ たる 「味の素『食と健康』国際協力支援プログラム」です。 配布されている母子手帳。緑色の中に測定値があれば正常だが、 この子の場合 徐々に下回っているのが分かる。 AFMETニュースレター No.35 2015年 4月 アニミズムについて ① (4) AFMET現地派遣者 深堀 夢衣 私が活動を続けている東ティモールの 再会する事ができました。 ます。そのうちの1つを、 フレイタスさん 端っこ、 ラウテン県。 ここには、 アニミズム 雷の他は、 フクロウ、 カエル、身体を消 が話してくれました。 信仰が今も根強く残っています。今回は、 すことができる人 (フピア=ファタルク語) 「最近、 甥の鶏とバイクが立て続けに誰 雨期にぴったりの、 雷を祖先とする血族の などが兄弟の中にいます。兄弟の名前は、 かに盗まれた。探しても探しても見つから お話です。 祖先から伝えられた人のみ、呼ぶことが ない。怪しいなぁと思った人はいたけど、 私が所属しているNPO法人AFMETの 可能です。悪用する人がいるために、 血族 聞いても自分じゃないって言うし。だから、 スタッフの一人、 ジュゼ・フレイタスさん。 の中で規制をしているのだそうです。固 祖先を呼んだんだ。甥の鶏とバイクを盗 彼は、 ウルラパ族です。 有名詞を使用することを約束して、祖先 んだ人に警告して下さいって。その日は ウルラパ族は、昔むかし、天から7人の の話を聞かせてもらうことができました。 晴れていたけど、雲が出ていたから呼べ 祖先が地に降りてきたことに始まります。 名前を呼ぶと祖先に怒られてしまうとの たんだ。雲が無い日は呼べないんだよ。 彼らは兄弟で、 1人ひとり、 名前がありまし ことでした。 雲がどんどん黒っぽくなってね、 雷がゴロ た。昔は、 天と地の距離が近く、 ココナッツ 雷の祖先は、人が物を盗んだ時、重大 ゴロ言いだした。自分じゃないって言って の木で行き来ができるほどでしたが、 いつ な罪を犯した時のみに呼ぶことができま いた人が慌てて鶏を持って来たよ! のまにか遠く離れてしまい、 ココナッツの す。呼ぶ時は、 14粒の赤米を使用します。 でもバイクは見つからないから、 もう一 木を登っても天に届かない程になってし 赤米7粒をきれいなお皿に盛り、彼の名 度警告してもらったんだ。今度はその人 まいました。 前を呼びながら、地に放ちます。これを2 の家の周りの木に落として下さいって頼 兄弟の一番下、 ライ・ラカン (テトゥン語 回繰り返します。すると、物を盗んだ人や んでね。雨も降りだしてね。大きな雷が落 で雷という意味。 ファタルク語で雷はチー 故意に人を殺した人に対して、 雷が落ちる ちたんだ! そしたら泣きながら、バイク です) は、 天に置いてきた飼い犬のことが のです。1度目は、家の周りなどに落とし を盗った若者たちがやって来た。もうしな 気になって気になって、仕方がありませ て警告をしますが、反省していない、 もし い、 っていうから許してあげたよ。バイク ん。天と地が遠く離れてからというもの、 くは盗んだ物を帰しに来ない場合は、本 の色は全部変えられちゃっていたんだけ 全く会えなくなってしまったからです。誰 人に落ちます。雷が落ちた周りにチピレプ ど…ハハハ」 かエサをやっているだろうか? 誰かに盗 と呼ばれる白い花があったら、 祖先が来た この話を聞いたとき、開いた口が塞が まれていないだろうか? ……犬も、 天か 証拠です。雷の落ちた人が犯人であるた らなくなってしまいました。本当? と疑 ら叫ぶようになりました。 「ワンワンワン! め、犯人だと疑っている人の名前や顔写 問に思われても仕方がない、 とフレイタス ウ∼ワン!」。 とうとう放って置けなくなった 真などは一切必要が無いのだそうです。 さんは笑います。 「だけどね、本当なんだ ライ・ラカンは、 天に帰り、 飼い犬と無事に 雷にまつわるエピソードはたくさんあり よ」 と言いながら。 祖先を呼んだ後は、特定の場所に帰す 献金のお願い HAPPY EASTER! ! イエス・キリストの復活の歓びを申 しあげます。 いつもみなさまには並々ならぬ ご支援をいただき、心から感謝申し 上げます。 この 春 、現 地AFMETは、この ニュースレターでお知らせしており ますように、 これまでの実績をふま え、医療サービスの届いていない 必要があります。赤い豚か鶏 (赤い豚! ?と 理事一同 思われる方もいるかもしれませんが、 ファ タルク人の間では、普通の豚を赤い豚と 地域に活動を広げる必要を強く感 じ、現地スタッフの熱意によって、 新たな地域の住民への活動を開始 することになりました。 ただ、現在、活動を支える助成金 が十分ではなく、 AFMETを支援し てくださるみなさまに、引き続きの ご支援をたまわりたいと存じます。 東ティモールの方たちの健康と 生活向上をめざして、 よりいっそう の活動を続けて参りますので、 どう ぞよろしくお願い申し上げます。 言います) を殺し、名前を呼んで「あなた の場所に帰りなさい」 と言うと、決まった 場所に帰って行きます。 祖先の名前は、血族の中の長老のみ、 知ることができます。亡くなる前に、必ず 子孫に伝えるのだそうです。血族ごとに伝 わるこの信仰。ラウテン県の開発が進ん だら、いつの日か、無くなってしまう時が 来るのでしょうか? ちょっと寂しい気が してしまいます。 雨降りの毎日。雷が鳴ると、 「お、 誰か悪 い事したのかな?」 と、 ついついフレイタス ゆうちょ銀行振替口座 00200-5-29126 AFMETニュースレター No.35 2015年4月12日発行 特定非営利活動法人 さんを思い出してしまう、 私なのでした。 理事長 小林 裕 事務局 〒106-0032 東京都港区六本木4-2-39 TEL 03-5414-5227 FAX 03-5414-0991 [email protected] http://afmet.com/ 東ティモール医療友の会(AFMET)E-mail
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