機関車のエコ化で環境保全を促進 - 燃料電池モデリング -

ゼネラル・エレクトリック(GE)社のハイブリッド機関車
機関車のエコ化で環境保全を促進
- 燃料電池モデリング -
GE社のエコマジネーションSM技術を体現するハイブリッド機関車、
Evolution®。GE社はこの機関車の動力に電池の使用を計画している。
写真転載許可:GEトランスポーテーション社
もしすべてのディーゼル電気機関車をハイブリッド技術仕様に切り替えることができれば、1年間に4億2500万ドル以上の
コスト削減が現実のものとなります。貨物機関車用動力としての電池の使用は経済上有意義なことなのです。温室効果ガス
の排出も大幅に削減され、ゼネラル・エレクトリック(GE)社のハイブリッド機関車は地球にやさしい未来へと近づく環境保
全効果をもたらします。GE社グローバル・リサーチのMichael Vallance氏は環境保全効果を現実のものとするだけでなくさ
らに高めるため、ハイブリッド機関車用動力となるナトリウム・金属塩化物電池のシミュレーションを行っています。
Phil Byrne (COMSOL AB) による報告
図1 機関車はブレーキをかける時に相当量のエネルギーを消耗している。ハイブリッド
機関車はこのエネルギーを電池に蓄積し、エンジンから出力されるエネルギーを補う。
略図転載許可:GEトランスポーテーション社
GE’s Evolution® Hybrid Locomotive
B
D
E
A
A
C
A
How it works
仕組み
In a conventional locomotive, energy generated by the traction motors
C
C
A
C
A
C
A
A during braking is dissipated entirely as heat through resistor grids B .
従来の機関車では、
ブレーキ時に主電動機Aが作り出すエネルギーのすべてが、
In contrast
, in a hybrid locomotive,
some of that energy is captured in a series of lead-free,抵抗器グリッドBを通して熱として放散される。
rechargeable batteries C .
The captured
energy can then be used to provide
power in one of three ways:
ハイブリッド機関車では対照的に、
エネルギーの一部が一連の無鉛蓄電池Cに取り込まれる。
• In combination
with diesel-electric power (provided by the engine D and the electrical system E ) to consistently deliver the required horsepower.
取り込んだエネルギーは次の3つの方法のいずれかで再利用が可能。
• As an addition to full diesel-electric power for quick acceleration from a full stop.
• As the primary power source (full battery power).
・ディーゼル電気動力(エンジンDおよび電気システムEが提供)と組み合わせ、必要な馬力を一定供給
・完全停止状態からの急加速の際、ディーゼル電気動力100%に加えるプラスアルファの動力とする
・主電源として使用(フル充電時)
燃料電池車はいまだ完全な商品化をみていないもの
ば、十分に動力として貢献できるのです。
の、燃料電池は「エコ」な輸送を実現する解決策として
長年推進されてきました。トヨタのプリウス、フォード
失われていたエネルギーの利用で排出量を削減
のエスケープ、シボレーのマリブといったハイブリッド
車は、水素エネルギーの普及を待つまでもなく、既存の
「自動車と大きく異なる点は、機関車はダイナミック
技術をシンプルかつ効果的に活用すれば車が環境にやさ
ブレーキの際、数秒ではなく数分を要するということ
しくなれることを示しています。何よりもハイブリッド
です。これにより大量のエネルギーを作りだせるの
車はすでに店頭に並んでいます。
ですが、通常は失われてしまっています」とMichael
ハイブリッド車は繰り返されるエンジンの始動・停止
Vallance氏は話します。GE社では、このエネルギーを
を利用して内燃機関・電気駆動を併用するため、内燃機
利用してハイブリッド機関車の使用燃料を最大で15%
関のみの車に比べ燃費が良いことを今では誰もが知っ
(ディーゼル油に換算すると1年間で1台あたり2万5000
ています。その一方で、電池で動く電気機関車を重量物
~3万ガロン)削減すると同時に、二酸化炭素排出を30
の高速・長時間・長距離輸送の現実的な選択肢と考える
万kg(自動車2600台分に相当)以上削減しようとして
人は多くはないでしょう。しかし、驚くべきことに、電
います。NOxの排出もさらに高い割合で削減されます。
池も機関車を動かす2000馬力を作り出すことができれ
しかしそのためには、乗用車に使用されるリチウム電
した。GE社の電池技術は現在、運転可能な
実物大見本を顧客候補の企業にお披露目で
きる段階にまで進んでいます。2007年に
は、ロサンゼルス市のユニオンステーショ
ンにハイブリッド貨物機関車第一号が到着
する実演走行が、同社のジェフリー・イメ
ルトCEO立ち会いのもと行われました。
貴重なヒント
チーム発足以来電池開発に取り組んでいた
Vallance氏とメンバーは、電池が機能する
メカニズムをより深く理解したいと考えて
図2 ナトリウム・金属塩化物電池とその構成部品。
いました。
写真転載許可:GEトランスポーテーション社
図3 電池ジオメトリの断面図。
池や金属水素化合物電池
モデルリングの領域は以下の通り。
に代わる燃料電池の開発
1. 負極:溶融塩
が必要でした。新型の電
2. ベース:ナトリウムを伝達する
池は長距離輸送用機関車
固体電解質(β”‐アルミナ)
の環境に耐えうるエネル
3. 正極:鉄および溶融塩電解質(塩化
ギー密度の高さを持つだ
ナトリウムが飽和したテトラクロロアル
けでなく、高電圧が流れ
ミン酸塩(STCA)
る一連のセルの一部に不
4. STCA貯留部
具合が発生しても、安全
5. 正極電流コレクタ
かつ効率よく継続使用で
きるものでなければなり
図4 電池の放電深度58.9%時の電流密度のベクトルおよび分布。矢印は、正極電流
ません。
コレクタとSTCA貯留部がつながる部分で発生する高電流密度が集中する領域を示す。
高温型のナトリウム・金
色は、電池内で電気化学反応が受ける波面の特徴を示す。
属塩化物電池を独自に開
発するため、GE社はニス
カユナ(米国ニューヨー
ク州)、上海(中国)、
バンガロール(インド)
にあるグローバル・リ
サーチ・開発センターの
拠点からメンバーを集め
チームを立ち上げまし
た。チームは発足後、米
国ペンシルベニア州エ
リーにあるGEトランス
ポーテーション社のエン
ジニアと緊密な連携をと
り開発に取り組んできま
そこで、Vallance氏は燃料電池の電気化学反応、物質移
動、エネルギー移動をシミュレートできるモデリング
ソフトウェアを探し始めました。候補の1つにあがった
のが、COMSOL Multiphysicsのソフトウェアプラット
フォームです。COMSOL Multiphysicsの情報を集めるた
め、Vallance氏は2007年のCOMSOLカンファレンスに出
席しました。その会場で、電気化学シミュレーションの
第一人者であり、サウスカロライナ大学化学工学部で教
えるRalph E. White博士と知り合ったVallance氏は、高度
な電気化学現象をモデルに取り込む方法について助言を
受けました。
ナトリウム・金属塩化物電池の動作挙動を余すところな
くシミュレートするには、複数のメカニズムを扱わなけ
ればなりません。電極における動的な電気化学反応をバ
トラー・ボルマー方程式で解くと同時に、泳動・拡散・対
流によって電極に向かって輸送されるイオンの動きも同
じモデルに取り入れる必要があります。電池の充電・放
電時に数多くの物質に現れる位相の変化や、同時に発生
する動きも要素として取り込まなければなりません。さ
図5 放電深度とセルでの抵抗の関係を調べた実験結果(赤
線)とモデルによる予測(黒線)の比較。イオンの減少と移動
抵抗により、セルでの抵抗は放電深度が約60%を超えると急
激に増加する。
らに、温度はイオンの移動度や相といった電池物性の多
くに大きな影響を与えるため、稼働温度はある一定の狭
い範囲で保たれなければなりません。
モデリングの重要性は、電池の使用方法にまで広がって
このような要素をすべて勘案した時、組み合わせや同時
います。セルの抵抗と放電深度DoD(電池内反応物質の
解析というCOMSOL Multiphysicsの機能は重要でした。
消費限度)のプロットからは、オペレータが充電サイ
そのため、このソフトウェアが正確で現実的な電池モデ
クルを開始すべきタイミングを見出すことが可能です。
ル作成に用いられたのです。
セルの抵抗は約60%のDoDで急激に増え始めるため、電
池はこの点を超えて長時間放電されるべきではありませ
深い理解がもたらす設計変更
ん。 COMSOL Multiphysicsは今後も、機関車内でさらされる
こうして作成されたモデルは、電池のより深い理解につ
振動や圧力に対する電池の構造的妥当性など、さまざま
ながるシミュレーション結果をもたらしました。メン
な特性の研究に役立っていくことでしょう。
バーは現行バージョンの電池において電流密度の高い場
所を突き止めることができ、この情報を基に重要な部位
の製造公差調整が行われました。また、陰極での対流に
ついての理解も深まり、形状修正の実験調査につながり
ました。
計測エンジニアリングシステム株式会社
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