Extreme Universe Space Observatory の焦点面開発研究

1.題名 平成 14 年度選定 宇宙環境利用に関する公募地上研究 研究成果報告書(概要版)
2.研究期間 平成 14 年度∼15 年度
3.研究分野 宇宙科学
4.研究区分 重点研究
5.研究テーマ名 Extreme Universe Space Observatory の焦点面開発研究
6.研究者名 永野元彦 A、宮崎芳郎 A、戎崎俊一 B、高橋義幸 B、川崎賀也 B、榊直人 B、
清水裕彦 C、滝澤慶之 C、広田克也 C、手嶋政廣 D、林田直明 E、竹田成宏 E、水本好彦 F、
井上直也 G、吉田滋 H、千川道幸I、村上敏夫J
7.所属機関
A) 福井工業大学工学部宇宙通信工学科 〒910-8505 福井市学園三丁目 6-1
B) 独立行政法人理化学研究所計算宇宙物理研究室 〒351-0198 埼玉県和光市広沢 2-1
C) 独立行政法人理化学研究所イメージ情報研究ユニット 同上
D) Max-Planck-Institut für Physik, Föhringer Ring 6, 80805 München, Germany
E) 東京大学 宇宙線研究所 空気シャワー部 〒277-8582 千葉県柏市柏の葉 5-1-5
F) 国立天文台 光学赤外線天文学・観測システム研究系 〒181-8588 三鷹市大沢 2-21-1
G) 埼玉大学 理学部 〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保 255
H) 千葉大学 理学部 〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33
I) 近畿大学 理工学部 〒577-8502 大阪府東大阪市小若江 3-4-1
J) 金沢大学理学部 〒920-1192 石川県金沢市角間町
8.研究成果概要
[目的] 宇宙から飛来する最も高いエネルギー領域の宇宙線を高い統計精度で観測するた
めに、広角の近紫外屈折望遠鏡を国際宇宙ステーションに搭載し、超高エネルギー宇宙線
が大気に入射したときに生じる空気シャワー現象を大気蛍光法で観測する計画を進めてい
る。これは、Extreme Universe Space Observatory(EUSO)という名称で、日欧米の共同
で European Space Agency (ESA) に提案し、2004 年 2 月まで、ESA での Phase-A とし
て基礎開発、概念設計をおこなってきた。この装置を、光学系、焦点面検出器、エレクト
ロニクスと大きく三分割し、米、日、欧がそれぞれを担当している。本研究計画では、日
本が担当する焦点面検出器として仕様に適合する弱電子収束型マルチアノード光電子増倍
管の開発を行う。
[成果] 観測にかかる空気シャワー現象は、焦点面では幅が 4.5mm 程度、長さが 10mm
程度から 200mm 程度の輝線として観測される。したがってピクセルサイズの最適値(4.5
×4.5)mm に合致する 36 のアノードを持ち、有感面積率をあげるため弱電子収束型に改
良したマルチアノード光電子増倍管を本研究の目標に定め開発をおこない、2003 年 1 月
に浜松ホトニクスで試作品(R8900-M36)が完成した。各ピクセルには 2.5μsec 間に 1
∼1000 個程度の光子が入射するが、観測精度をあげるには、出来るだけ 330-400nm の近
紫外領域における検出効率(量子効率 QE×電子収集効率 CE×有感面積比 EA)の向上が必
要である。本研究開始時のベースラインであった(R7600-M64) の(QE×CE×EA)は 0.2
×0.7×0.45=0.063 であったが、本研究により 0.25×0.7×0.85=0.15 の高量子効率バイア
ルカリ R8900-M36 の製作が可能になった。観測される光電子数が 2.4 倍となる大きな成
果である。
試作された光電子増倍管は、(1) 単一光子計数能力、(2) 10nsec よりも速い応答特性、
(3) 330-400nm の近紫外線領域での検出効率が 12%以上、(4)高度 400km の軌道上での
5年間の動作(稼働率 50%を仮定)で, 陽極感度の劣化が 25%以下の耐久性、(5) 打ち上げ
時に予想される振動(12.7G, 120 秒間)に対して、感度の劣化が 10%以下、(6) 衛星軌道上
での地磁気による感度の変動が±5%以下、(7) 単位面積あたりのコストが低い、等の仕様
を満足し、Phase A のまとめにおける基本設計として採用され、当初の目標を達成した。
更に 30%軽量化のバージョンである軽量化高量子効率バイアルカリ R8900-M36 の製作
の見通しがつき、2004 年 3 月 3,4 日に仏グルノーブルで開催された EUSO 焦点面ワーキ
ンググループで、Phase B に向けた開発課題として承認された。これらのオプションにつ
いては、光電子増倍管の外形、ピンのレイアウトを互換にし、焦点面支持、エレクトロニ
クス等他の設計に影響を及ぼさないことが確認されている。
一方現在 EUSO で基本採用された R8900-M36 を 4 本束ねた大きさに相当する 144 ア
ノードのフラットパネル型マルチアノード光電子増倍管(R8400-03-M144)が初期投資の
予算さえ得られれば製作可能であり、かつ仕様を満足するであろうことが、試作された 256
アノ−ドの R8400-03-M256 の特性測定で見通しを得た。
EUSO 実験では、入射する光子数が少ないので、少しでも光子-電子変換効率の向上が
望まれる。そのため、開発が間に合えば互換可能な高量子効率の GaAsP の光電面を用い
た光電子増倍管の利用をめざした開発をおこなってきた。紫外線光子の波長を可視光領域
まで伸ばす波長変換素材と、変換された光を効率良く光電面に導くための多層膜ダイクロ
イックミラーの開発を行い製作の目途がたった。しかし、R8900-M36 相当の有感面積を
持つ GaAsP 光電面を持つマルチアノード光電子増倍管の開発には、コストダウンを含め
更なる努力が必要である。
焦点面では直径 2.25m の面上におおよそ一様に電力消費による発熱(総発熱量:最大
700W)に加え、国際宇宙ステーションの 90 分の軌道周期で昼夜を繰り返す環境下におい
て、検出器温度を常に 0℃以上 40℃以下に制御する必要がある。EUSO 全体のシステム設
計はイタリアのアレニア社が担当しているが、本研究でも熱的環境の評価を行った。その
結果、焦点面検出器の背後に受熱板をおき、それにとりつけたヒートパイプを通じて 5m2
の放熱板で放熱すれば、最高温度 10℃以下に保てるとの結果を得た。温度変化による光電
面の量子効率の変動を±1%に収めるためには、焦点面全域にわたる温度分布の変動を常
時±10%以内の精度で計測することが必要である。中央、周辺の温度差は最大 3.5℃であ
り、温度センサー数は 15 個程度で十分であろうとの見通しを得た。
9.論文·特許等
1) Shimizu, H.M. et al.: EUSO Detector, Proceedings of the International Workshop
on Extremely High-Energy Cosmic Ray, (ed. by M.Teshima and E.Ebisuzaki),
Universal Academy Press, INC, Tokyo, pp. 135-144, 2003
2) Takeda, M. et al.: Study on Wavelength Shifters and Multilayer Half-Mirror for
High-QE PMT, Proceedings of 28th ICRC Tsukuba , pp. 857-860, 2003.
3) Shimizu, H.M. et al.: The Focal Surface of EUSO Telescope, Proceedings of 28th
ICRC Tsukuba, pp. 923-926, 2003
4) Sakaki, N. et al.: Development of Multi-Anode Photomultipliers for the EUSO Focal
Surface Detector, Proceedings of 28th ICRC Tsukuba, pp. 931-934, 2003.
5) Nagano, M. and EUSO collaboration, : AGASA results and EUSO,
Proceedings of
28th ICRC Tsukuba , pp. 1077-1080, 2003.
1) 特願 2002-320102「波長変換素材およびその製造方法ならびに光検出器」
清水裕彦、高橋義幸、戎崎俊一、滝澤慶之、竹田成宏、川崎賀也、榊直人、和田達夫、
青山哲也、角田治彦(平成 14 年 11 月 1 日提出)
10.備考
http://euso.riken.go.jp/JSF-report/