(D2-2) 財団法人山口大学教育研究後援財団「学生の海外派遣等助成事業」[成果報告書] 平成 25 年 4 月 8 日 財団法人山口大学教育研究後援財団理事長 殿 部局長名 印 下記のとおり報告がありましたので、提出します。 1.実 施 者 所属学部等 医学部 医学科 6 学年 ふりがな う め だ ゆ う な 氏 名 梅田 夕奈 2.研修先 (欧文名)Universidad de Guadalajara(IFMSA-JAPAN exchange) (訳文名)グアダラハラ大学(国際医学生連盟日本の交換留学事業を介して) 3.派遣期間(移動日を含む。) 平成 25 年 3 月 10 日~ 4 月 1 日( 22 日間) 4.概要とその成果 申請者は,国際医学生連盟日本の交換留学事業を介して,メキシコ・グアダラハラ大学循環器研究室に 3 週間滞在し, メキシコの糖尿病治療の現状を見聞した(注 1). メキシコでは糖尿病をはじめとする生活習慣病が国家的な問題となってい る.この背景にはひとつにはメキシコ人の食習慣があるものと考えられるが,グアダラハラ大学循環器研究室では,メキ シコ人の食習慣を中心に基礎研究が行なわれるとともに,現在,糖尿病患者に対してインクレチンの試験的投与を行い, 対象患者群の健康状態を継続的に把握している.ここで申請者は,月に一度やってくる患者さんたちの血圧・血糖値・体 重・ウエスト・ヒップの計測に参加した.また,付属病院の見学を行い,メキシコの医療の一端を垣間見た. メキシコでは公的医療は無料であり,大学病院の前には診察を待つ患者さんの長蛇の列ができている.見学できた付属 病院(The Old Civil Hospital)では,雑多な疾患の患者さんがホールに並べられたベッドに寝ており,患者さんの整理・ 配分システムにおける日本との差異を感じた.すなわち,日本では一次救急,二次救急,病棟へとそれぞれ配分される(べ きだと感じられる)患者さんたちが,そこには一同に集められていた(注 2).臨床実習生に多くの手技と治療が許されてい るのも印象的であった.日本人の目からは「未整理」とも映るこれらの状況を「発展途上」と捉えるべきなのか,それと も与えられた状況での最善解と捉えるべきなのかは,今後,日本での医療に従事するなかでも考えていきたい点である. また,滞在中偶然にも,この循環器研究室にデバイスを寄贈しているとある日本の医療器機メーカーのビジネスマンが メキシコ人ドクターたちとのミーティングを行なうという機会があり,このミーティングに参加できたことは日本人とし て興味深い体験であった.日本の医療器機メーカーがメキシコをどのように市場として捉え,その健康政策にある種の使 命感をもって参与しようとしているか,メキシコ側と日本側の両方から見聞できた. メキシコは厚い歴史と文化と学問伝統を持った国ではあるが,日本のように整理された救急制度や治療ガイドライン, 豊富な医療器機が備えられているわけではない.メキシコの医療の現状を見聞するとともに,スペイン人到来以前の遺跡, 植民地時代の教会群などを見るなかで感じたことは,メキシコのリアリティは,重層的に形成されており-まさに首都の中 心地において,アステカ時代の遺跡の上にメトロポリタン教会が建てられていることが視覚的に示すように-,医療は生活 世界の重要な一部ではあるが,日本とは少し異なる位置取りをしているように思われるということである.病院のなかに も各階に祈りの場所が設けられており,復活祭を前に人びとは熱心に教会を訪れており,人びとが近代医療に「スピリチ ュアルな」救済を求めている様子は見受けられなかった.これは宗教的なリアリティが低減し,「スピリチュアルな」苦 悩にも対応せよということが医療の使命のひとつに掲げられている先進国の状況とは大きく異なる点である.宗教と医療 とは,具体的な個人の苦悩に介入する技術というだけではなく,ともに人間の安全保障実感に関わる社会制度と言えるだ ろうが,日本人として体感的に「『健康上の治安』が日本ほどよくはない」と感じられるメキシコにおいて,医療が社会 にもたらす安全保障実感とはなんなのか,相対化する視座を多少とも得られたことが,今回のメキシコ滞在でなによりの 収穫であった. 注1. 国際医学生連盟からはコエンザイムQ10の糖尿病患者への投与に関するプロジェクトへの受け入れを打診されていた が,このプロジェクトは終了したということで,糖尿病患者に対するインクレチン投与の効果を分析するプロジェクトへ の受け入れとなった. 注 2. しかし,この他にグアダラハラ大学には The New Civil Hospital が存在し,ここでは異なったシステムがとられて いるということである.
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