平成26年10月16日 山口大学大学院医学系研究科ゲノム・ 機能分子

平成26年10月16日
山口大学大学院医学系研究科ゲノム・
機能分子解析学分野
院内感染対策の基礎と実際
財団法人平成紫川会 小倉記念病院
感染管理部/婦人科
KRICT 理事
インフェクション・コントロール・ドクター
日本感染症学会認定専門医
日本化学療法会認定抗菌指導医
宮﨑 博章
講演の内容
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感染症ニュース
感染症は社会問題

耐性菌とは
日常臨床は耐性菌との戦い

院内感染対策
感染予防策と抗菌薬管理
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耐性菌の現状と対策
バンコマイシン耐性腸球菌を実例に
エボラ熱死者4000人突破=感染急拡大、1カ
月で倍増-WHO
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【ジュネーブ時事】世界保健機関(WHO)は10日、西アフリカで発生したエボラ
出血熱の死者が、疑い例を含め8日までに計4033人、感染者が8399人に達し
たと発表した。リベリアを中心に感染拡大ペースが衰えず、死者数はほぼ1カ月
で倍増した。
エボラ熱は、アフリカ以外での人から人への感染では初めて、スペインで女性看
護スタッフの発症が確認された。感染国は8日までに計7カ国に上っている。
国別の死者は、リベリアが2316人と全体の約6割を占め、深刻な状況が続い
ている。シエラレオネは930人、ギニア778人、ナイジェリア8人。米国は、リベリ
アから入国し感染が確認された男性が初の死亡例となった。
医療関係者の犠牲も増えており、計416人が感染し、233人が死亡した。
感染が集中するリベリア、ギニア、シエラレオネ3カ国では患者を隔離・治療す
るベッドが不足。WHOや国際医療支援団体「国境なき医師団」などは現地での
封じ込めに全力を挙げているが、感染の加速度的拡大が続いている。
(2014/10/11-07:42)
エボラ出血熱、米国内での感染を初確認
読売新聞 10月13日(月)6時42配信
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【ワシントン=中島達雄】米疾病対策センター(CDC)は12日、米南部テ
キサス州ダラスの病院の女性看護師がエボラ出血熱に感染し、発症し
たことを正式に確認したと発表した。同州の暫定調査で11日に陽性反
応が出たため、CDCが確認を急いでいた。
米国内でのエボラ出血熱の感染は初めて。発症は2人目。女性は8日に
同病院でエボラ出血熱で死亡したリベリアの男性患者の手当てを担当。
病院内で男性から感染したとみられ、10日に微熱が出たため検査を受
けた。
同病院ではCDCが定めたガイドラインに従って、万全の感染防止対策
を講じていたはずだったが、何らかの手違いがあり、患者から看護師に
感染してしまったとみられる。
同州とCDCは、死亡したリベリアの男性が発症後、隔離されるまでの間
に接触した48人の経過観察をしているが、今回感染が確認された看護
師は、この48人には含まれていなかった。今後、病院内で感染が起きた
原因を調べる。
最終更新:10月13日(月)6時42
デング熱の国内感染を確認、約70年ぶり埼玉の女性
朝日新聞デジタル2014年8月27日11時37分
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厚生労働省は27日、埼玉県内に住む10代後半の女性が、東南アジ
アや中南米で流行しているデング熱に感染したと発表した。女性は海外
への渡航歴がなく、国内で感染したとみられる。海外渡航者の感染は毎
年200人程度確認されているが、渡航歴がない人の国内での感染確認
は約70年ぶりという。厚労省は、海外で感染して帰国した人から、蚊を
介して感染した可能性が高いとみている。
デング熱は蚊が媒介するウイルス性の感染症で、熱帯地域に多い。38
度を超えるような急な発熱や頭痛、筋肉痛が主な症状だ。人から人へは
直接感染しない。世界保健機関(WHO)によると、適切な対症療法が取
られれば致死率は1%以下とされる。日本では1940年代前半に流行し
たが、その後発生は確認されていなかった。
厚労省によると、女性は8月20日に突然の高熱で、さいたま市内の医
療機関を受診し入院。国立感染症研究所の検査で26日にデング熱の
感染が確認された。女性は入院中だが、症状は安定しているという。女
性は東京都内の学校に在学中で、厚労省とさいたま市が関係自治体と
連携をとり、感染ルートを調べている。
デング熱、新たに2人確認 感染計153人に
朝日新聞デジタル2014年10月1日15時01分

厚生労働省は1日、デング熱の国内感染が新た
に2人確認され、感染者は17都道府県在住の計
153人になったと発表した。新たに感染が確認さ
れたのは、9月23日に発症した東京都内の20代
女性と24日に発症した都内の10代男性。女性は
代々木公園周辺で感染したとみられる。男性の感
染場所は調査中という。
新型耐性菌か、院内感染110人 大阪医療センター
野中良祐、佐藤建仁 中村通子2014年3月18日17時07分
ほとんど全ての抗菌薬が効かない多剤耐性菌「メタロβ(ベータ)ラクタマーゼ(MBL)産生菌」の院
内感染が、国立病院機構大阪医療センター(大阪市中央区)で起きていたことがわかった。過去3
年間に入院した約110人の患者が保菌・感染していた。現在は10人程度でいずれも無症状という。
同センターが国立感染症研究所(東京都)や大阪市保健所に調査を依頼し、詳しく調べている。
同センターや保健所によると、年明け以降、複数の患者からMBL産生菌を検出。過去の入院患
者もさかのぼって調べたところ、複数の診療科で2011年度から年間30~40人、計約110人が保
菌・感染していたという。
同センターは2月中旬に保健所に「複数の患者から耐性菌が検出された」と届け出た。MBL産生
菌は免疫が弱った人が感染すると肺炎などになることがある。入院中に死亡した患者もいたが、い
ずれも持病があり、因果関係は調査中。同センターは感染拡大を防ぐため、一部病棟で新規の入
院患者受け入れを停止したり、病院職員に手指の消毒徹底を指示したりしている。
保健所によると、国立感染症研究所と共同で同センターに立ち入り調査し、MBL産生菌の種類が
肺炎桿菌(かんきん)など4種類以上あることを確かめた。事情を知る感染症の専門家は「新型多剤
耐性菌(CRE)による院内感染だ」と説明する。CREの大規模院内感染は国内では報告例がない
という。
CREは世界各地で広がっており、日本でも最近報告された。厚生労働省では国への報告対象に
することを検討している。(野中良祐、佐藤建仁)
医療関連感染対策
感染と感染症



感染症とは、微生物(感染源)が宿主の体内に侵入、
定着(感染経路)して、宿主(感染性宿主)に対して
発症する病気を感染症という。
微生物が感染して、発病することを顕性感染 という。
微生物が宿主に浸入しても、感染した証拠があり、
発症しない場合は不顕性感染という。
定着とは?




細菌やウイルスは、ヒトに接着しても必ずしも感染
症を発症するわけではない。
感染因子が感染症を起こしやすい部位
(susceptible area)に単に付着、あるいは汚染した
だけの状態を「定着」という。
「感染」とは、感染因子が感染症を起こしやすい部
位で増殖し、炎症を引き起こした状態である。
定着で、感染症を発症していない場合は、治療の
必要性は、全身状態や細菌などによって異なる。
病院とは?



もともと、感染を起こしやすい人たちが集まってい
る。
常に、院内感染がおこりやすい状態である。
すべての、医療従事者は、細心の注意を払って、
患者さんに対して、感染症の危険から守らなけれ
ばならない。
院内感染とは?

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

病院で、原疾患とは別に、48時間たって新たな感染に
罹患すること。
本来、病院は、感染しやすいヒト、つまり免疫能が低下
している、乳幼児、高齢者などが、一カ所に集合して、
生活圏をともにする、感染が波及しやすい。
さらに、感染症に対して、抗菌薬を使用することで、薬
剤耐性菌を増殖させる。
つまり、病院は、人間にとって、感染症を発症しやすい
きわめて危険な環境であるという認識が必要。
感染対策の重要性

質の高い医療


医療従事者の負荷の軽減


感染を抑制することで、人件費、薬剤、材料の削減が可能
入院日数の削減


院内感染で生じる、時間のロス、医療従事者の労力、精神的ストレ
スの軽減
経済的効果


感染の感染に対する取り組みで、患者の基本的権限を守る。さらに、
病院間の差別化が生じる。
感染症は、在院日数、医療費を左右する。包括医療においては極め
て重要。
訴訟の問題

院内感染に対する、一般の社会の関心。院内感染で多額の賠償金
の請求
感染の成立と対策
病原体
宿主
感染経路
対策



病原体を殺滅すること
感受性のある宿主を正常化させる
感染経路を遮断する
辻 明良
感染制御の基礎知識より
感染制御のためには
病原体を
 持ち込まない
 持ち出さない
 広げない
感染経路の遮断と病原体の排除が必要
辻 明良
感染制御の基礎知識より
財団法人平成紫川会
小倉記念病院
病床数 658床
診療科 24診療科
内科、血液内科、腎臓内科、糖尿病・内分泌・代
謝内科、呼吸器内科、
循環器内科、消化器内科、神経内科、精神科、
皮膚科、外科、乳腺外科、
心臓血管外科、血管外科、整形外科、脳神経外
科、形成外科、泌尿器科、
婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、頭頸部外科、麻酔
科、放射線科
心臓病センター、脳卒中センター、消化器病セ
ンター、
腎センター、内視鏡センター、健康管理センター
平均在院日数:12日
2006年10月
日本医療機能評価機構 (Ver.5) 認定病院
NPO法人「KRICT」(北九州地域感染制御ティーム)加盟
インフェクション・コントロール・チーム
(ICT: Infection Control Team )

兼務医師(ICD=Infection Control Doctor)
ICD(感染対策委員長)1名
 ICD 感染症専門医、抗菌薬化学療法認定医(副委員長)1名


看護師(ICN=Infection Control Nurse)
感染管理認定専任2名
 副看護部長1名
 チーフリンクナース1名


薬剤師


感染制御専門薬剤師2名
細菌検査技師常勤3名

臨床検査技師2名
各都道府県、政令市、特別区 衛生主管部(局)長殿
厚生労働省医政局指導課長
医療機関等における院内感染対策について
平成23年6月17日
(感染制御チーム)
・病床規模の大きい医療機関(目安として病床が300床以上)においては、医師、看護師、検査技師、
薬剤師から成る感染制御チームを設置し、定期的に病棟ラウンドを行うこと。
・感染症患者の発生状況等を点検、各種の予防策の実施状況やその効果等を定期的に評価し、臨
床現場への適切な支援を行うこと。
・医療機関内の抗菌薬の使用状況を把握し、必要に応じて指導を行うこと。
(医療機関間の連携について)
・緊急時に地域の医療機関同士が速やかに連携し、各医療機関のアウトブレイクに対して支援がな
されるよう、医療機関相互のネットワークを構築し、日常的な相互の協力関係を築くこと。
(アウトブレイク時の対応)
・医療機関内の対応:アウトブレイクが疑われると判断した場合、院内感染対策委員会又は感染制
御チームによる会議を開催し、1週間以内を目安にアウトブレイクに対する院内感染対策を策定か
つ実施すること
・支援依頼:アウトブレイクに対する感染対策を実施した後、新たな感染症の発病症例を認めた場
合、速やかに通常時から協力関係にある地域のネットワークに参加する医療機関等の専門家に感
染拡大の防止に向けた支援を依頼すること。
・報告:同一医療機関内で同一菌種による感染症の発病症例が多数にのぼる場合(目安として10
名以上となった場合)または当該院内感染事案との因果関係が否定できない死亡者が確認された
場合においては、管轄する保健所に速やかに報告すること。
【新たに追加した事項】
ICD (infection control doctor)制度



1996年から、日本感染症学会内で、病院感染を
防止し、病原体の伝播を抑制するための専門医
の必要性につい議論されてきた。
1999年より日本感染症学会と日本環境衛生学会
が主体となり、ICD協議会が発足し、第一回の認
定が行われた。
2003年12月までに、3,981名がICDとして任命され
ている。
ICDに要求されること
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細菌学的な基礎知識
感染症診断学、治療学の知識
細菌検査の実際
抗菌薬に関する知識
感染制御に関する知識
耐性菌、術後感染などのサーベイ
病棟運営、看護業務の実際
病院経営陣、診療科、看護部との調整
地域病院との調整
感染症に関する学会参加
滅菌・消毒業務
感染症治療、管理の教育
インフェクション・コントロール・ドクター(ICD)
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病院感染の実態調査(サーベイランス)
病院感染対策の立案と実施
対策の評価および対策の見直し
職員の教育・啓発
病院感染多発(アウトブレーク)時の対応
伝染性感染症発症時の対応
インフェクション・コントロール・ナース(ICN)
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感染管理システムの構築
医療関連感染サーベランス
感染防止技術
職業感染管理
感染管理教育
コンサルテーション
ファシリティマネジメント
感染管理薬剤師

抗菌薬の適正使用





TDMの推進



抗菌薬のマネージメント
抗菌薬の管理
抗菌薬の情報の提供
ガイドラインの確認
治療効果を高める
副作用の軽減
消毒のアドバイス

感染対策マニュアルの作成
当院での細菌検査室の役割

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




細菌の同定、薬剤感受性試験の報告
アンチバイオグラムの作成
感染に関する情報提供
院内細菌のデータベース
週1回のICTカンファ、1カ月毎の感染対策委員会
の出席
抗菌薬選択に関するアドバイス
研究サポート
耐性菌とは?
生物の分類
細菌の分類
細菌のクラム染色
ブドウ球菌
肺炎球菌
腸球菌
大腸菌
緑膿菌
肺炎桿菌
グラム陽性菌
グラム陰性菌
抗生物質とは?
耐性菌とは?







耐性菌とは、本来効果があった抗菌薬に対して効果が認めれていたに
も関わらず、効果が消失した細菌。
代表的な細菌に、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA: methicillinresistant Staphylococcus aureus)がある。
MRSAとは、メチシリンで代表されるペニシリン・セフェム系などのβ -ラ
クタム薬のほとんどに耐性を示す黄色ブドウ球菌である。
MRSAは1961年に英国で最初に臨床分離され、その後、全世界に広がり、
現在では、MRSAの検出されない国はない。
日本でも1980年初期から全国に蔓延し、ほとんどすべての病院の院内
感染菌として定着した感があります。
日本のMRSAは独特の遺伝型をもっており、上記の外国のMRSAとは性
質が異なる。
すべての抗菌薬に対して、耐性菌が存在する。
細菌の薬剤耐性メカニズム
抗菌薬と耐性菌の変遷
耐性菌はなぜ問題なのか?

診断の問題


治療の問題点



既存の細菌による感染症に、新たな耐性菌による感染症の可能
性に配慮する必要性
耐性菌治療に配慮して、抗菌薬の選択が広くなる。
耐性菌治療薬は、広域の治療域をもっており、新たな耐性菌の
出現に配慮する必要性がある。
感染対策の問題点


日和見感染の起炎菌となることが多く、定着した患者から感染症
と発症しなくとも、免疫の低下した患者から、感染症として発見さ
れることがある。
拡散防止対策に、コストパフォーマンスの低下、人材資源の投入
が必要となる。
市中感染と院内感染

市中感染
通常の社会生活を送っている健康な人(高齢者あるいは
基礎疾患を有している患者さまも含む)に発症する急性
の感染症
 一般的に強毒菌が多く、薬剤感受性が良好。


院内感染
病院における入院患者さまおよび外来患者さまが原疾患
と異なり新たに病院内で罹患した感染症、または医療従
事者が病院内で罹患した感染症
 一般的に耐性菌が多く、抗菌薬が効きにくい。
 日和見感染が多い。

臨床的に問題となっている耐性菌耐性菌
菌種
耐性菌
肺炎球菌
PRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)
PISP(ペニシリン低感受性肺炎球菌)
黄色ブドウ球菌
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
GISA(グリコペプチド低感受性ブドウ球菌)
VISA(バンコマイシン低感受性黄色ブドウ球菌)
VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)
CA-MRSA(市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
腸球菌
VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)
インフルエンザ桿菌
BLNAR(β ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ桿菌)
BLPACR(β ラクタマーゼ産生AMPC/CVA耐性インフルエンザ桿菌)
腸内細菌(大腸菌など)
ESBLs(基質拡張型β ラクタマーゼ産生菌) KPC β ラクタマーゼ産生大腸菌
メタロβ ラクタマーゼ産生菌、キノロン耐性菌
肺炎桿菌(クレブシエラ)
ESBLs、カルバペネム耐性肺炎桿菌 KPC β ラクタマーゼ産生肺炎桿菌
緑膿菌、アシネトバクター
メタロβ ラクタマーゼ産生菌
MDRP(多剤耐性緑膿菌)、MDRA(多剤耐性アシネトバクター)
結核菌
MDRTB(多剤耐性結核菌)
ふたつのタイプの薬剤耐性化
突然変異型の耐性化
耐性遺伝子獲得型の耐性化
突然変異型(内因性)の耐性化


星飛雄馬
自らを鍛えるこ
とにより強化さ
れる。
ある程度の能力
があれば、環境
因子で、誰でも
獲得できる。
自らの能力を引き出す
突然変異
努力型
耐性遺伝子獲得型(外因性)の耐性化
モンキー・D・ルフィ


悪魔の実を食べて強
化された
悪魔の実は「海の悪
魔の化身」と言われ
ており、食べた者は
特殊な能力が身に付
く
外から別の能力を獲得する
耐性遺伝子獲得
天才型
突然変異型と耐性遺伝子獲得型の特徴
突然変異型
耐性遺伝子獲得型
薬剤耐性遺伝子を外来から獲得
細菌は、もともと薬剤耐性の能力を持って
さらに、遺伝子が拡散、伝播して他
いる
の細菌も耐性化する
薬剤耐性度にばらつきがある
遺伝子獲得によるものは耐性度が
高い
抗菌薬投与によって、薬剤耐性度が上昇 複数の遺伝子獲得により、多剤耐
する
性化する
院内感染は少ない
院内感染しやすい
耐性菌の分類
市中型
キノロン耐性大腸菌(突然変異型)
院内型
多剤耐性緑膿菌(非メタロβラクタマーゼ)
ペニシリン耐性肺炎球菌
突然変異型(内因性)
アンピシリン耐性インフルエンザ菌*
耐性遺伝子獲得型(外因性)
市中感染型MRSA
院内感染型MRSA
ESBL産生大腸菌(ESBL産生肺炎桿菌)
多剤耐性緑膿菌(メタロβラクタマーゼ)
キノロン耐性大腸菌キノロン耐性遺伝子)
多剤耐性アシネトバクター
ESBL産生大腸菌、ESBL産生肺炎桿菌
バンコマイシン耐性腸球菌
*BLNAR: β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌
スーパー耐性菌
突然変異型
耐性遺伝子獲得型
スーパー耐性菌
ほとんどの抗菌薬が効かない
伝播・拡散能が高い
開発されない抗菌薬
米国で承認された抗菌薬の数,
1983–2002, per 5-year period.
Brad Spellberg et alCID 2004:38 (1 May) • 1279
1998年以降承認された新しい抗菌薬
Drug
Year approved Novel mechanism
Rifapentine
1998
No
Quinupristin/dalfopristin
1999
Noa
Moxifloxacin
1999
No
Gatifloxacin
1999
No
Linezolid
2000
Yes
Cefditoren pivoxil
2001
No
Ertapenem
2001
No
Gemifloxacin
2003
No
Daptomycin
2003
Yes
Brad Spellberg et alCID 2004:38 (1 May) • 1279
世界の15の最大手の製薬会社の研究開発プログラムで公
的に明らかにされる抗感染性新しい薬剤(31例)
type of agent
No. of NMEs
抗HIV
12
他の抗ウイルス
5
抗菌薬
5
抗寄生虫薬
5
抗真菌薬
3
軟膏
1
耐性菌と抗菌薬の矛盾と感染症




今後、メタロβラクタマーゼなどのカルバペネマー
ゼや、多剤耐性化した緑膿菌に対する抗菌薬へ
の道は遠い。
メイアクトが2006年に登場して以降、新たな経口
セフェムは登場せず、また、ESBL産生菌の内服薬
は、現実的に認めれない。
抗菌薬適正使用と感染対策が重要となり、それを
支える細菌検査室の役割は重要となる。
2012年度から国は感染対策を総合的に行う方
向に舵を切った。
なぜ、耐性菌は伝播するか?
VRE伝播と選択圧と保菌圧の関連
伝
播
力
V
R
E
が
伝
播
す
る
ま
で
の
日
数
日
%
保菌圧
%
セファロスポリン使用日数/入院日数
選択圧
Bonten MJ et al. Arch Intern Med. 1998 May 25;158(10):1127-32.
耐性菌の伝播の因子

保菌圧=院内に耐性菌を保因している割合
 耐性菌を保因している患者が多ければ、伝播する時間が
短くなる(伝播力が強くなる)

選択圧=特定の抗菌薬を投与されている割合
 抗菌薬を投与することで、耐性菌を保因する患者を増や
す

伝播力=耐性菌の感染する力
 保菌圧が高く、選択圧が高いと伝播力が強くなる。
 逆に保菌圧が低く、選択圧が低いと、伝播力は低くなる。
耐性菌が伝播を抑止する。

耐性菌の「保菌圧」を下げる。
 標準感染予防策をおこなう。
 個人防護具(手袋、エプロン、マスクなど)を確実に使
用する。
 感染経路別の対策を行う

抗菌薬の「選択圧」を下げる。
 適切な抗菌薬を使用して、不必要な抗菌薬の使用を
抑える。
 的確な抗菌薬治療を行い、感染症を抑える。
感染経路別の感染予防策


標準予防策(スタンダードプリコーション)
感染経路別対策
 接触感染予防策
 飛沫感染予防策
 空気感染予防策
標準予防策(スタンダード・プリコーション)
標準予防策はCDC(アメリカ疾病管理予防センター)の隔離予防策のガイドラインで
まとめられた、病原体の伝播による感染を防止するための対策である。
患者の病気に関係なく、全ての患者の
1.血液
2.汗を除く全ての体液、分泌物、排泄物
3.傷のある皮膚
4.粘膜
との直接接触、及び付着した物との接触が予想される時に予防具を用い、手洗いを
して自分自身を防御すると同時に拡散を防止するものである。
標準予防策
手洗い
手袋
マスク
ガウン
(プラスチックエプロン)
体液・体物質に触れた後
手袋を外した後
患者接触の間
通常、ふつうの石けんを使う
体液・体物質に触れるとき
粘膜・傷のある皮膚に触れるとき
使用後、非汚染物質・環境表面に触れる前、他の患者のところに行くときは外し、手洗いをする
体液・体物質が飛び散って、目、鼻、口を汚染しそうな場合着用する
衣服が汚染しそうなとき
汚れたガウンはすぐに脱ぎ、手洗いをする
器具
汚染された器具は、粘膜、衣服、環境などを汚染しないように注意深く取り扱う
リネン
汚染されたリネンの粘膜、衣服、他の患者や環境を汚染しないように、取り扱い、移しかえ、処理する
患者配置
その他
環境を汚染されるおそれのある患者は個室に入れる
個室がないときは専門家に相談する
針刺し事故対策
毎日の清掃
細菌が環境に存在する期間
菌種(あるいは属名)
環境での菌の生存期間
アシネトバクター属菌
3日~5ヶ月
大腸菌
1.5時間~16ヶ月
肺炎桿菌を含むクレブシエラ属菌
2時間 ~30ヶ月以上
緑膿菌
6時間~16ヶ月(乾燥局面: 5 週間)
セラチア・マルセッセンス
3日~2ヶ月(乾燥局面:5 週間)
ブドウ球菌(MRSAを含む)
7日~7ヶ月
腸球菌(VREを含む)
5日~4カ月
医療現場における手指衛生
のためのCDCガイドライン
~米国の新しい手指衛生ガイドライン ~ 2002年10月
目に見える汚れがある場合
石けんと流水
目に見える汚れがない場合
速乾性手指消毒薬
パームスタンプによる手指検査
記録の途中
パソコン作業中
パソコン作業後→ゴージョーで消毒

ゴージョー使用前

ゴージョー使用後
感染経路別病原体の種類
病院感染対策: 大正富山医薬品株式会社
感染経路別予防策
空気感染
主な適応疾患
麻疹
水痘
結核
飛沫感染
インフルエンザ
マイコプラズマ肺炎
風疹
手袋
マスク
接触感染
VRE
MRSA
腸管出血性大腸炎O157
疥癬
部屋にはいるときは手袋を着用
汚物に触ったときは交換
部屋を出るときははずし、消毒で手洗いをする
部屋にはいるときはN95マスク
患者の1メートル以内で作業するときは
サージカルマスク
ガウン
患者、または環境表面・物品に接触しそうなとき
は、部屋に入る前に装着し、部屋を触れるときに
室内でガウンを脱ぐ
ガウン(プラスチックエプロン)を脱いだ後は衣
類が環境表面に触れないようにする
器具
できれば専用にする
できなければ、他の患者に使用する前に消毒す
る
患者配置
個室隔離:部屋の条件
陰圧
1時間に6回の換気
院外換気
病室のドアは閉じておく
個室の管理ができない場合は
、同一病原体による感染患者
を同室とする
個室隔離あるいは集団隔離あるいは1メー
トル以上離す
個室隔離、集団隔離あるいは病原体の疫学を患
者集団を考えて対応する
患者移動
制限する
必要なとき、サージカルマスク
を使用する
制限する
必要なとき、サージカルマスクを使用する
必要なときのみ制限する
抗菌薬の適正使用とは?
抗菌薬の適正使用




副作用と耐性菌発現を最低限に抑えつつ、最大
の治療効果を発揮する。
実際には、患者にとって必要なときだけ、特定の
微生物を標的として適切な薬剤、容量、期間を
もって治療すること。
十分な量を、適切な期間投与しなければ、抗菌薬
の効果判定ができない。
効果がない場合、適切な抗菌薬でなかったか、あ
るいは、不適切な投与による効果不十分化か、判
定ができない。
抗菌薬適正使用の問題点




原因菌の分離同定に関し、特定困難な場合が多く、ま
た、一定の時間を要す。しかし、感染症治療に対しては
抗菌薬の迅速な投与が必要で、実際には抗菌薬の治
療は分離、同定以前に開始しなければならない。
起炎菌の薬剤感受性が病院や地域によって異なる。
感染源と臨床経過から疾患、起炎菌を理論的に推察し
て、効果がある抗菌薬を選択する、いわゆるEmpiric
therapy(経験的治療)が、初期治療として広く行われて
いる。
臨床医の経験、感染に対するレベルについて格差があ
り、根拠に基づいた経験的治療が必ずしも適切に施行
されているかが、重要な問題である。
初期抗菌薬選択時に必要な項目

感染症のフォーカス、原因微生物の想定
肺、心臓、腹部、血流、中枢神経などによって、起炎菌が異
なる。細菌培養を検査を施行する。
 臓器別の微生物の薬剤感受性を考慮した、投与経路、投与
量
 各施設で分離される起炎菌の抗菌薬感受性(antibiogram)
を配慮する


抗菌薬効果判定


抗菌薬の変更、継続、中止
細菌交代現象や耐性菌の出現
起炎菌の耐性化、定着した細菌の耐性化
 偽膜性大腸炎など新たな感染

抗菌薬管理システム
抗菌薬適正使用のガイドライン
特定抗菌薬の使用制限
1.
2.
•
カルバペネム薬、抗MRSA薬の届出制、許可制
特定抗菌薬の長期使用の制限
3.
•
継続使用の届出制、許可制
情報の共有化
4.
•
特定抗菌薬使用患者、主治医、病棟などの情報開示
難治性感染症に対するコンサルテーション
病院感染サーベイランス
5.
6.
•
抗菌薬の治療効果に対する検証
宮﨑博章: Medical Practice vol.22: 2094-2096, 2005 改変
当院におけるカルバペネム薬の適正使用の指針




重症感染症のempiric therapy
敗血症
高齢者の重症肺炎
カルバペネム薬のみに有効な細菌感染症



ESBLs (extended spectrum β-lactamases) 産生菌、ペニシリ
ン耐性肺炎球菌などの耐性菌感染症
術後の重症感染症
他の抗菌薬無効の難治性感染
宮﨑博章: Medical Practice vol.22: 2094-2096, 2005
情報の共有化

カルバペネム系抗生剤、抗MRSA薬を長期投与さ
れることによる問題点





耐性菌の誘導
耐性菌の拡散
易感染状態
耐性菌から、長期投与されている患者を守り、か
つ、新たな耐性菌の拡散を防止する必要がある。
そのため、すべての医療従事者が情報を共有す
ることで、院内感染の拡散を防止する。
宮﨑博章: Medical Practice vol.22: 2094-2096, 2005
特定抗菌薬使用の手順
医師が届出用紙に抗生剤の使用目的、期間、量、併用薬等の記載
薬剤部での確認
薬剤の払出
2週間以上の使用
2週間未満の使用
医師が継続使用届出用紙に抗生剤の使用目的、期間、量、併用薬等の記載
毎月、感染対策委員会で、使用医師、投与期間、患者を公開
医師への勧告
宮﨑博章: Medical Practice vol.22: 2094-2096, 2005
当院での感染原因別の感染対策管理
カテゴリー4
最高リスク
院内感染として、危機的な状態
結核菌、 MDRP(薬剤耐性緑膿菌)、 VRE(バンコマイシン耐性腸球
菌)などのアウトブレークなど
カテゴリー3
高リスク
1例でも検出されると重大な院内感染の
危険がある。もしくは、院内感染として、
危険な状態
結核菌、MDRP、 VRE 、バンコマイシン低感受性および耐性
MRSA (メチシリン耐性ブドウ球菌) 、出血性大腸菌、レジオネラ菌
による感染
クロイフェルト・ヤコブ病、流行性角結膜炎、疥癬、
MRSA、ESBLs (extended-spectrum β -lactamase)産生菌などの
アウトブレーク
結核、バンコマイシン耐性腸球菌の疑い
その他感染症法に基づく第一類~第四類感染症など
カテゴリー2
中等度リスク
今後、危険な院内感染に進展していく
可能性がある
MRSA、ESBLs産生菌、セラチア菌、BLNAR (β ラクタマーゼ非産
生アンピシリン耐性インフルエンザ桿菌) 、PRSP (ペニシリン耐性
肺炎球菌)などの院内感染
インフルエンザ感染など
カテゴリー1
低リスク
現時点では、重大な院内感染の危険性
は低い
BLNAR 、PRSP などの市中感染の持ち込みなど
カテゴリー3以上の場合、ICTが状況の把握、分析、解決への取り組みを行う。
耐性菌の現状と対策
耐性菌感染症の動向




市中感染の起炎菌が、従来の薬剤感受性菌から
耐性菌による院内感染型に置き換わっている。つ
まり、市中感染の薬剤耐性化が深刻。
新たな抗菌薬の開発が滞っており、耐性菌感染
に対する有効な抗菌薬が減少している。
高齢化社会が急速に進行しており、高齢者の感
染対策は、従来の感染症治療と概念を変える必
要がある。
グローバル社会であり、他の国で起こった特定の
耐性菌が一期に世界中に拡散する。
世界的にアウトブレークしている耐性菌
菌種
耐性抗菌薬
主要耐性因子
特徴
代表的クローン
黄色ブドウ球菌 methicillin(院内感染)
MecA
多剤l耐性・病原因子数少
ST5
黄色ブドウ球菌 methicillin(市中感染)
MecA
β ‐ラクタム耐性・病原因
子数多
ST8, ST30
腸球菌
vancomycm
VanA. VanB
院内感染欧米に多い
CC17(Enterococcus
faecium)
大腸菌
カルパベネム
カルパベネマーゼ
市中感染,ベンガル地域
に多い
ST131
肺炎桿菌
カルパベネム
カルバベネマーゼ
院内感染・市中感染米国
ST11, ST1, ST258
に多い
緑膿歯
多剤耐性
メタロβ ラクタマーゼ,アミノグリコシド修飾酵素 キ
院内感染.世界的に流行
ノロン耐性決定領域の突然変異
アシネトバク
ター属菌
多剤耐性
OXA 型カルバベネ マーゼ.アミノグリコシド修飾酵
素,キノロン耐性決定領域の突然変異
中東に多い 院内感染
ST235
international clone 2
石井良和 臨床と微生物 40巻3号【耐性菌Up Date -疫学・耐性メカニズムから臨床症例まで】 2013年
抗菌薬の適正使用




副作用と耐性菌発現を最低限に抑えつつ、最大
の治療効果を発揮する。
実際には、患者にとって必要なときだけ、特定の
微生物を標的として適切な薬剤、容量、期間を
もって治療すること。
十分な量を、適切な期間投与しなければ、抗菌薬
の効果判定ができない。
効果がない場合、適切な抗菌薬でなかったか、あ
るいは、不適切な投与による効果不十分化か、判
定ができない。
微生物検出検査の問題点
利点
グラム染色
(塗末鏡検)
細菌培養
迅速、簡便
ある程度の細菌の推定
炎症の有無や治療効果
細菌の同定が可能
薬剤感受性判定可
欠点
検出感度に限界(検体1ml当たり105個以上必要)
習熟の必要性
良好な検体が必要
毒素感染症には無効
微生物によっては検出不可
時間がかかる
施設、コスト、人件費などの費用対効果
迅速、簡便
特定微生物によって特定の検出キットが必要
特異度が高い場合がある
感度、特異度を理解する必要
抗原、抗体や遺伝子検査など
検体が微量で可
薬剤感受性判定不可
血液、尿など間接的な検体でも可 感染源の特定は不適
細菌に背番号をつけよう!
この人は誰でしょう?
巨人軍 背番号1
王貞治
(現在は福岡ソフトバンク
ホークス球団取締役会長)
なぜ、王貞治と分かったか?
• 日本プロ野球選手
• 読売ジャイアンツ
• 永久欠番
王貞治と分かれば……
年
球
度
団
1959
巨人
1960
1961
1962
1963
1964
1965
1966
1967
1968
1969
1970
1971
1972
1973
1974
1975
1976
1977
1978
1979
1980
通算:22年
試
打
打
得
安
合
94
130
127
134
140
140
135
129
133
131
130
129
130
130
130
130
128
122
130
130
120
129
2831
席
222
502
471
586
609
599
575
549
566
580
576
553
565
572
560
553
523
536
570
566
506
527
11866
数
193
426
396
497
478
472
428
396
426
442
452
425
434
456
428
385
393
400
432
440
407
444
9250
点
18
49
50
79
111
110
104
111
94
107
112
97
92
104
111
105
77
99
114
91
73
59
1967
打
31
115
100
135
146
151
138
123
139
144
156
138
120
135
152
128
112
130
140
132
116
105
2786
二
塁
打
7
19
25
28
30
24
19
14
22
28
24
24
18
19
18
18
14
11
15
20
15
10
422
三
塁
打
1
3
6
2
5
0
1
1
3
0
0
0
2
0
0
0
0
1
0
0
0
0
25
本
塁
打
7
17
13
38
40
55
42
48
47
49
44
47
39
48
51
49
33
49
50
39
33
30
868
塁
打
盗
打
61
191
176
281
306
340
285
283
308
319
312
303
259
298
323
293
225
290
305
269
230
205
5862
点
25
71
53
85
106
119
104
116
108
119
103
93
101
120
114
107
96
123
124
118
81
84
2170
塁
3
5
10
6
9
6
2
9
3
5
5
1
8
2
2
1
1
3
1
1
1
0
84
盗
塁
死
1
4
5
4
5
4
4
4
5
1
2
4
2
0
1
5
0
1
3
2
1
1
59
犠
打
1
3
4
3
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
12
Wikipedia:ウィキペディア→データベース
感染症診断と治療の2大革命
MALDI-TOF MS 法
 遺伝子解析(次世代シーケンサー)

感染症診断と感染対策の課題と新技術

感染症の原因となる微生物は目に見えない
顕微鏡
 培養検査


培養検査に時間がかかる
MALDI-TOF/MS
 迅速検査


培養できない


メタゲノム解析
微生物の性質を知りたい

遺伝子タイピング
MALDI-TOF MS 法
菌が培養できたら、短時間で菌の同
定が可能
1検体あたり約2分で1,900種類以上の微生物を同定できる
AXIMA微生物同定システムを発売 2010/06/25
島津製作所は1,900種類以上の微生物の種類を簡便な操作で迅速に同定することができる
「AXIMA微生物同定システム」の販売を6月末より開始します。本システムは、微生物同定に最
適化した質量分析計「MALDI-TOFMS AXIMAシリーズ」*と仏Biomerieux社が提供する微生物同
定ソフトウェアを組み合わせたシステムです。
*生体高分子などの大きな分子を壊さずにそのままレーザーでイオン化し(マトリックス支援レー
ザー脱離イオン化法=MALDI)、検出器に到達する時間の違いから質量を分析する(TOFMS)質
量分析装置です。
微生物をMALDI-TOFMSで直接分析すると、微生物固有のタンパク質などの分子量を反映した
ピークパターン(マススペクトル)が得られます。これを約40,000のマススペクトルを元に構築さ
れたデータベースと照合することにより、1,900種類以上の微生物を同定することができます。
通常の微生物同定法(生化学法・培養法・PCR法)で必要となるグラム染色や形態学的判定など
の前処理を必要とせず微生物を直接分析できるため、従来法では数時間かかっていた微生物
の同定を本システムでは約2分で行なえ、最速で1日1,000検体のハイスループット分析が可能
となりました。また、前処理試薬も不要なためランニングコストも既存の方法の約半分に低減で
きます。
AXIMAによる高速・高感度質量分析と、豊富で信頼性の高いデータベースとの組み合わせによ
る簡便・迅速な微生物同定を可能にした本システムは、食品加工分野における混入微生物の
同定や、医薬品の探索研究における新規有用微生物の同定などへの活用が期待されます。
MALDI-TOF MS 法と従来法との比較
従来法(所要時間約6~12 時間)
スメア法20 検体での全行程所要時間は約60 分(1 検体約3 分)
東山智宣ら Mycotoxins, 63 (2), 209-216 (2013)
MALDI-TOF MS 法の利点





同定に要する時間が極端に短い.これにより,感染症の治療方
針の決定が約1 日早まることが予想される.
MS 測定の処理能力が極めて高いことである.これにより,多数の
サンプルを一気に同定することが可能である.
測定ランニングコストが安価であること.
好気性一般細菌,嫌気性菌,酵母様真菌いずれがサンプルで
あっても,基本的な測定手技が同じであること.これにより検査効
率向上や検査試薬の無駄削減が可能である.
MS 法で得られるマススペクトルパターンは個々の菌株特異的な
パターンを示すことから,これを用いて複数株のグルーピングが
可能であり,パルスフィールドゲル電気泳動法(Pulsedfieldgel
electrophoresis:PFGE)に替わる菌株識別法として院内感染アウト
ブレイク対策の有用なツールとなると考えられる.
東山智宣ら Mycotoxins, 63 (2), 209-216 (2013)
MALDI-TOF MS 法の問題点



薬剤感受性試験ができないこと.すなわち,現時点で
はMS 法は同定専用機と考えてよい.
糸状菌や抗酸菌など,まだ十分な同定成績が得られ
るプロトコールが確立していない菌種については同定
できないことがある.
遺伝子学的には相違のない菌種同志(大腸菌と赤痢
菌など)は区別が不可能な場合がある.複数の菌種
が混在している試料の場合に,すべてを漏らさず同
定することが困難である.ただし,ソフトウェアのバー
ジョンアップで2 菌種の同定は対応可能の見通し.
東山智宣ら Mycotoxins, 63 (2), 209-216 (2013)
遺伝子解析(次世代シーケンサー)
菌が生えなくても、菌の同定が可能
見えない感染症がわかるかも……
細菌に背番号をつける
次世代シーケンス微生物相解析



次世代シーケンス微生物相解析では検体中にど
のような細菌がどのくらいの割合で存在している
かを解析が可能。
土壌、地下水、汚泥など様々な微生物が存在す
る検体から直接DNAを抽出し、PCR増幅後シーケ
ンス解析を行うことで、培養の必要がなく、培養の
困難な微生物の解析も可能。
1検体当たり数万の配列が得られるため、これま
でT-RFLP解析やクローン解析で検出できなかった
マイナーな細菌の検出も可能となった。
次世代シーケンサーを使った細菌叢解析のコマーシャル
次世代シーケンスを用いた微生物相解析とは?
次世代シーケンスのもたらすもの
培養なしでの解析
培養が困難な菌の検出
菌叢解析
細菌のデータベース化

次世代シーケンサーによる遺伝子解析
2013防菌防黴学会TaKaRa Bio
MLST (multi locus sequence typing)とは




菌株ごとに複数遺伝子の配列の差異をパターン化してそ
れらを統合し遺伝子解析ソフトにより解析する手法である。
このようなDNA 解析の高速化、低コスト化潮流の中で、細
菌のDNA 解析においても多数の菌株についてそれぞれ5
~ 6 遺伝子領域を同時に数百塩基ずつを日常的に解析
することが可能となった。
それぞれの菌種においてし,だいに解析対象の遺伝子が
一定の組み合わせとなってきている。
本手法は、複数の遺伝子領域(通常7 領域以上)のそれ
ぞれ400 塩基程度の配列を読み、それらをもとに菌のタイ
ピングを行う方法である。菌株ごとに複数遺伝子の配列
の差異をパターン化して(alleles に分別)、それらを統合
遺伝子解析ソフトにより総合的に解析することにより、
PFGE法以上の解像度での株識能を達成できる。
細菌に背番号をつけると
細菌に背番号をつけると
大腸菌
ST
131
耐性菌の実例
バンコマイシン耐性腸球菌を実例に
はじめに




当院では、2007年から、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のアウ
トブレークを経験した。
そのほとんどがVanB型E.faecium であり、スクリーニングの便
検体や臨床検体から分離されており、感染症の起炎菌と
しても重要である。
感染症法では暫定的に、VCMのMIC値が≧16μg/mlであ
る腸球菌についての報告が求められているが、MICが
8μg/ml以下であるVREが確認されている。
今回、PCR法でvanBを確認された当院で分離されたVanB
型E.faecium 95株を臨床的背景を解析して、さらに、2012
年に分離された2株を、東邦大学微生物学講座でMLST (multi
locus sequence typing)を行い、その結果をふまえて、総括する。
当院でのバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)報道
VRE院内感染か 入院患者3人死亡
北九州市小倉北区の小倉記念病院(延吉正清院長、658床)は18日、
入院患者10人から、抗生物質がほとんど効かないバンコマイシン耐性腸
球菌(VRE)を検出したと発表した。
うち3人が死亡したが、「VREと死亡との因果関係はない」としている。
同病院は院内感染の可能性があるとして感染経路の解明を進める。
同病院によると、2月29日、下痢を訴えた男性患者(71)の便からVRE
を検出。この後、検査を受けた9人から検出した。このうち71~76歳の、
男性2人と女性1人が4月3~18日に死亡。1人の死因はVREによっても
発症する敗血症だったが、同病院は別の菌によるものと説明している。
(2008年4月19日 読売新聞)
北九州市立病院でVRE感染 新規患者の入院中止
北九州9 件市は10日、市立若松病院の入院患者8人がバンコマイシ
ン耐性腸球菌(VRE)に感染し、新規入院患者の受け入れを中止したと
発表した。菌の遺伝子型がほぼ一致し、院内感染の疑いが強い。8人の
うち80代の男性1人が死亡したが、もともとの病気によるもので、VRE感
染が原因ではないとしている。
市によると、8月に肺炎で入院した90代女性の検査で、VREが検出さ
れた。その後、同じ病棟内の全患者を検査した結果、さらに6人の感染を
確認。ほかの病棟でも1人の感染が確認された。
8人はいずれも外科を受診していた。感染症の症状はなく、うち3人は
既に退院している。
記者会見した天野拓哉院長は「感染が判明した患者を個室に移すなど
対策を取ったが、ほかの病棟にも拡大した。入院患者全員の検査をし、
消毒など感染防止策を徹底する」と話した。
2010/09/10 21:28 【共同通信】
患者39人VRE感染 済生会山口総合病院 ‘10/8/12
中国新聞
▽1月以降、1人に症状
山口市の済生会山口総合病院で、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が院内感
染していたことが11日、分かった。入院患者39人が感染し、うち1人に感染症の
症状が出たという。
同病院によると、1月から5月までに同じ病棟の患者計18人からVREを検出。こ
のうち89歳の男性1人に発熱や悪寒などの症状が出た。男性の症状は1週間ほ
どで治まったという。
さらに7月下旬から8月9日にかけ、他の5病棟の全患者を検査したところ、2病
棟計21人から検出した。検査結果が判明していない5日には、救急患者2人の入
院受け入れを市内の他の医療機関に依頼したという。
VREは抗生物質バンコマイシンが効かない腸球菌。抵抗力が弱い場合、敗血
症や腹膜炎などの感染症を起こすケースもある。同病院は感染者が出た3病棟の
新規入院を抑制し、感染した入院患者は同じ病棟に集めるなどの対応をしている。
(石井雄一)
腸球菌とは?







腸球菌(Enterococcus属)は、人の常在菌で、病原性は低い。
セフェム系抗菌薬に耐性があり、セフェムの多用により、臨床
材料から高頻度に分離されるようになった。
尿路感染症、敗血症(感染性心内膜炎)、胆道感染症、腹部感
染症の起炎菌。
日和見感染症、院内感染症となる。
多くの場合、緑膿菌や大腸菌などと混合感染することが多い。
臨床的に多く分離される菌は、Enterococcus fecalis、Enterococcus
faecium、Enterococcus aviumの3菌種
分離頻度は、7:2:1である。 Enterococcus fecalisとEnterococcus
faeciumは、尿、喀痰、膿汁、胆汁、血液などの順で分離される。
Enterococcus faecium 血液寒天培地
Enterococcus faecium 電子顕微鏡
腸球菌の特徴
グラム染色
45℃発育試験
6.5%食塩発育試験
Pyrrolidonyl arylamidase 試験
カタラーゼ試験
陽性
発育
発育
陽性
陰性
球菌
細菌が環境に存在する期間
菌種(あるいは属名)
環境での菌の生存期間
アシネトバクター属菌
3日~5ヶ月
大腸菌
1.5時間~16ヶ月
肺炎桿菌を含むクレブシエラ属菌
2時間 ~30ヶ月以上
緑膿菌
6時間~16ヶ月(乾燥局面: 5 週間)
セラチア・マルセッセンス
3日~2ヶ月(乾燥局面:5 週間)
ブドウ球菌(MRSAを含む)
7日~7ヶ月
腸球菌(VREを含む)
5日~4カ月
バンコマイシン耐性腸球菌
VRE: vancomycin-resistant Enterococcus



VRE感染が問題になるのは、VanA、VanBタイプの遺伝
子を持っているE.faecalis、 E. faecium等の腸球菌である。
VanCタイプの遺伝子を持つE.gallinarum、E. casseliflavus
やE. flavescensは、臨床的に感染の意義が確立されてい
ないことにより、現時点では、VRE感染としは取り扱う必
要性が低いと考えられているため、これらの菌種との鑑
別も重要となる。
VREが腸管に定着した場合、自己感染を発症すると重篤
化すると考えられている。
VREの耐性メカニズム
病院感染対策: 大正富山医薬品株式会社
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の種類と特徴
薬剤耐性遺伝子獲得のメカニズム
VREの薬剤感受性試験




感染症法では、各医療施設において日常的に実施されている
分離・同定試験や薬剤感受性試験法により、腸球菌であって、
VCMに対する判定結果が、MIC値で≧16μg/mlと判定された
症 例について届け出を求めている。
ただし、旧NCCLS(米国臨床検査標準化委員会)の判定基準
では、VCMのMICが≧32μg/mlを「R:耐性」としているが、この
基準では一部のVanAやVanB型VRE を見逃す可能性があるた
め、感染症法では暫定的に、VCMのMIC値が≧16μg/mlであ
る腸球菌についての報告が求められている。
しかし、MICが8μg/ml以下なら、 vanAやvanBを保有していても、
検査室ではVREとして報告されない。
正確には、PCRを行い、 vanAやvanBの検索が必要であるが、
手技やコスト面で、現在は困難。
当院で検出されたVanB型E.faecium 95例
すべてPCRにてvanBを遺伝学的に確認

年齢
 72.1±1.4歳

性別
 男性

70例(73.7%) 女性 25例(26.3%)
検出別
 臨床検体
59例 監視培養 36例
VRE検出数の推移
総分離数
臨床検体 監視培養
2007年
2
2
0
2008年
31
13
18
2009年
35
21
14
2010年
10
9
1
2011年
9
8
1
2012年
8
6
2
薬剤感受性試験の実際
MICの分布 n=95
35
30
25
1μg/ml
2μg/ml
20
4μg/ml
8μg/ml
15
16μg/ml
32μg/ml
10
5
0
1μg/ml
2μg/ml
4μg/ml
8μg/ml
16μg/ml
32μg/ml
PCRにてすべてvanBを確認
感染症法の暫定的基準では64.2%が陰性と判定されてしまう。
BD Vancomycin Resistant Enterococci Selective Agar
VRE選択培地




vanA・vanB選択剤によりvanA・vanB型 VREの
耐性度を上げ選択的に検出
バンコマイシンを高濃度添加することによ
り、vanC型VREおよびその他のグラム陽性
菌の発育を抑制。
また、TTC(トリフェニルテトラゾリウムクロラ
イド)を培地に添加することにより、TTCを還
元しないE.faeciumはピンク色のコロニーを、
TTCを還元するE.faecalisは濃赤色コロニーを
呈し培地上で推定の鑑別が可能。
培地表面を下に向け、35℃〜37℃の温度
で24〜48時間好気環境下で培養。
E.faecalisはTTCを還元するため、濃赤色のコ
ロニーを呈し、E.faeciumはTTCを還元しない
ため、ピンク色のコロニーを呈する。
日本ベクトン・ディッキンソン株式会社 web サイト
当院のバンコマイシン低感受性VRE(E.feacium vanB)検出マニュアル
0
2012年11月
2012年9月
2012年7月
2012年5月
2012年3月
2012年1月
2011年11月
2011年9月
2011年7月
2011年5月
2011年3月
2011年1月
2010年11月
2010年9月
2010年7月
2010年5月
2010年3月
12
2010年1月
2009年11月
2009年9月
2009年7月
2009年5月
2009年3月
2009年1月
2008年11月
2008年9月
2008年7月
2008年5月
2008年3月
2008年1月
2007年11月
2007年9月
2007年7月
2007年5月
2007年3月
2007年1月
2007年4月から2012年12月までの当院で確認された95例
VanB型E.faecium 月別検出数
14
入院患者245人 VREスクリーニング
MIC2㎍/ml以上:12株vanB E.feacium
12/245= 4.9%
10
8
6
監視培養
臨床検体
4
2
分離検体と早期死亡率の関連
N=38
9
6
2
2
1
1
100%
90%
80%
70%
60%
50%
30日死亡
40%
31日以上
30%
20%
10%
0%
便
尿
喀痰
創部
血液
胃液
CAPD
当院のVanB型E.faeciumの解析
陰性化
全体
n=95
50.5%
臨床検体 監視培養 MIC 8以下 MIC 16以上
n=59
n=36
n=61
n=34
45.8%
58.3%
57.4%
38.2%
30日死亡
22.1%
25.4%
16.7%
23.0%
20.6%
14日以内陽性
29.5%
30.5%
27.8%
29.5%
29.4%
MIC 8以下
64.2%
61.0%
69.4%
MIC 16以上
35.8%
39.0%
30.6%
臨床検体
62.1%
59.0%
67.6%
監視培養
37.9%
41.0%
32.4%
ドイツで収集されたvanBタイプのE.feacium 129株(2005年から
2011年)のMueller-Hinton培地でのMIC分布
Performance of three chromogenic VRE screening agars, two Etest® vancomycin protocols, and different microdilution methods in
detecting vanB genotype Enterococcus faecium with varying vancomycin MICs
Klare et al. Diagnostic Microbiology and Infectious Disease 74 (2012) 171–176
ドイツで収集されたvanBタイプのE.feacium 129株(2005年から
2011年)のVITEK® 2で測定されたMIC分布
Performance of three chromogenic VRE screening agars, two Etest® vancomycin protocols, and different microdilution methods in
detecting vanB genotype Enterococcus faecium with varying vancomycin MICs
Klare et al. Diagnostic Microbiology and Infectious Disease 74 (2012) 171–176
ステルス型耐性菌とは?
細菌
染色体
遺伝型
バンコマイシン耐性遺伝子
表現型
バンコマイシン:感性
プラスミド vanB
表現型と遺伝型が一致しない
薬剤感受性試験は表現型を見るので、
検査をすり抜けてしまう。
ステルス型
当院のVanB型(2株)
E.faeciumはST78と判明
東邦大学微生物 石井良和 教授ら
E.faeciumのMLSTによるクラスター分布でのST78位置づけ
2株はST78タイプと判明
Willems et al. Emerging Infectious Diseases • www.cdc.gov/eid • Vol. 11, No. 6, June 2005
complex-17の世界的分布
Global distribution of complex-17 isolates. Red
circles indicate cities where complex-17 isolates
were recovered. Numbers indicate
epidemiologic sources:
1, animal isolates;
2, human community surveillance isolates;
3, surveillance (feces) isolates from hospitalized
patients;
4, human clinical isolates;
5, isolates from documented hospital outbreaks.
Numbers of isolates are indicated in
parentheses.
Willems et al. Emerging Infectious Diseases • www.cdc.gov/eid • Vol. 11, No. 6, June 2005
京都を中心とした地域のバンコマイシン耐性Enterococcus faecium と
Enterococcus faecalis広がりと制御
京都地域のバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の後の大規模感染の有病率を調査た。調
査期間は2005年から2010年でで、糞便サンプルはVREスクリーニングに供して、バンコ
マイシン耐性遺伝子の検出を行った。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用い、遺伝子を、SmaIで消化してゲノムDNAのパルス
フィールドゲル電気泳動(PFGE)により、および多座配列タイピング(MLST)により決定した。
VRE制御プログラムは、実験室ベースの糞便VREスクリーニングシステム、病院の入院患
者の年間調査し、適切な感染制御対策の推進からなる、2006年に設立した。vanAEnterococcus faecium 、vanB-Enterococcus faeciumとvanB-Enterococcus faecalisは、それぞれ、
35、12及び5か所の病院で検出された。
遺伝子型分析の結果、2005年からバンコマイシン耐性のEnterococcus faeciumはST78、
Enterococcus faecalisはST64の菌株が3つの病院から検出されている。
それが2,035人登録された患者の24人(1.2%)に達し。サーベイランスに登録した患者の
うち、糞便からVRE定着率は、2007年までは増加した。定着率は2008年に2010年までに、
2408人登録された患者のうちVRE4定着患者は4人(0.17%)に低下した。
VREは京都領域内に広がったが、VRE制御プログラムにより、全体的なVREの広がりを制
御することに成功につながった。
A. Matsushima et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2012) 31:1095–1100
Genotype analysis of vancomycin-resistant
Enterococcus faecium and Enterococcus faecalis
isolates. a Pulsed-field gel electrophoresis
(PFGE) and multilocus sequence typing (MLST)
analysis of vancomycin-resistant E. faecium
isolates. Thirty-five vanA-positive isolates and
12 vanB-positive isolates were included in the
analysis. The dendrograms was created using an
UPGM (unweighted pair group method, Dice
coefficient) algorithm, with optimisation 0.54%
and bandtolerance 0.91%. This analysis
revealed four and two clusters of genetically
related isolates (PFGE pattern ≥80% similarity)
among the vanA- and vanB-positive isolates,
respectively. FN-1, a vanA-type E. faecium
(Kyoto, 1996) was included as a control. Both
ST78 and ST16 belonged to clonal complex 17.
E.faecium ST78の特徴




世界的にアウトブレークしているVREのCC17に属
している。
病原性を認める。
アンピシリンに高度耐性のため、vanB遺伝子を持
つと、バンコマイシンが無効であり、リネゾリドが治
療薬となる。
2005年にすでに本邦で確認されており、広く本邦
に広がっている可能性がある。
まとめ





当院で検出されたvanBタイプのE.feacium は、Low level
expression of vanB resistanceの可能性が高い。
そのため、薬剤感受性試験で検出されにくき、アウトブ
レークの要因となる。
ヨーロッパですでにアウトブレークの報告があり、本邦でも
同様の可能性がある。
MLST解析の結果、ST78タイプと判明。2005年にヨーロッ
パで院内感染としてアウトブレークしているCC17に属する
菌株で、本邦でも、2005年に京都市ですでにST78タイプ
は認められていた。
今後、検査体制の構築やなぜMICにばらつきがあるか、
本邦でどの程度のvanBタイプのE.feacium が拡散している
か、検討する必要があると思われる。
今後の感染対策の方向性






耐性菌は、さらに薬剤抵抗性を高めて、市中感染化
して行くと思われる。すでに、環境にも存在する。
また、本邦の超高齢化やグローバル化が進むことで、
耐性菌の在り方が複雑化する可能性が高い。
また、抗菌薬の開発が期待できない現状はさらに感
染症治療に厳しい。
しかし、MLSTなどの遺伝子解析を行い、細菌と感染症
のデータベース化が進むと、今後、感染症治療や感
染対策が革命的に変わる可能性がある。
今後、感染症は医療においてさらに重要な分野となり、
地域連携もさらに強化されていく。
感染症、感染対策や基礎研究に携わる専門家の育
成が重要
これからの感染症診断と感染管理




感染症の診断技術に革命をもたらす新しい技術
の導入が開始され、感染対策、感染症診断なら
びに治療に活用が期待できる。
感染症症例のデータベース化が進み、臨床治療
や感染対策に反映される。
一方、新規の抗菌薬の開発、実用化は期待でき
ず、既存の抗菌薬を工夫して治療を行わなけれ
ばならない。
今後、限られた治療薬を、適正使用するために、
新たな技術も活用していく方向になると思われる。
皆さんに期待すること





感染症に興味をもってほしい。
細菌学は楽しい。
抗菌薬治療は、実地臨床では、必要不可欠。
耐性菌のメカニズムは、複雑化、多様化しており、専
門家の育成が急務。
感染対策は、感染予防策と抗菌薬管理の融合が重
要である。
第12回ひびき薬剤耐性菌シンポジウム 2015年6月20日(土)~21日
(日)
参加者
学術集会会長 白濱智美
場所:民営国民宿舎ひびき
〒811-3512 福岡県宗像市鐘崎79-6
概要
組織の名称:NPO法人KRICT
Kitakyushu Regional Infection Control Team
(北九州地域感染制御ティーム)
社会背景
「病院感染(院内感染)」という用語が、感染制御専門家のみならず一般の人々にも認
知されるほど、医療機関で発生する感染症への関心が高まっています。医療従事者に
とって「病院感染」は起こさないことが当然の基本であり、病院感染対策には専門的知
識が必要不可欠ですが、適切に対応できる感染対策の専門家がいない施設が多いの
も現状です。
また、ひとりの患者が複数の医療機関を受診する機会が増え、一施設で行う病院感染
対策には限りがあります。
KRICTは、北九州市とその近郊を地盤に、医療機関のみならず高齢者施設などの医療
関連施設も含めた地域全体の感染対策のなかで、地域の人々により安心安全な医療を
提供できるよう活動しています。
ロゴとその由来
感染制御の実働部隊として活動する会員の、情熱を象徴する「赤」と、冷静沈着な判
断力を象徴する「青」を基調に、「手」をモチーフとして、人への優しさ、連携、接触感染
対策に重要な手洗いを表現しています。
役員・委員会名簿
KRICT役員(平成23年度)
理事長
松本 哲朗 (産業医科大学病院院長・同大学医学部泌尿器科学教授)
副理事長 谷口 初美 (産業医科大学医学部微生物学教授)
理事
伊藤 重彦 (北九州市立八幡病院副院長・救命救急センター長)
理事
朔 晴久 (医療法人社団愛信会 小倉到津病院院長)
理事
高橋 康一 (福岡新水巻病院泌尿器科部長)
理事
宮﨑 博章 (社会保険小倉記念病院婦人科副部長)
理事
宮本 比呂志(佐賀大学医学部病因病態科学講座教授)
理事
元石 和世 (前北九州市立医療センター看護科)
理事
山口 征啓 (健和会大手町病院総合診療科・感染症科部長)
理事
山中 直子 (新日鐵八幡記念病院看護科)
監事
﨑田 幾子 (北九州市立八幡病院看護科)
幹事
橋本 治 (戸畑けんわ病院薬剤科)
監事
廣瀬 宣之 (北九州市立門司病院院長)
幹事
大島 司 (九州厚生年金病院内科呼吸器科部長)
幹事
草場 惠子 (北九州市立八幡病院看護科)
幹事
向野 賢治 (福岡記念病院感染制御部長)
幹事
鈴木 克典 (産業医科大学病院感染制御部助教)
幹事
中川 祐子 (北九州市立八幡病院看護科)
幹事
眞柴 晃一 (北九州市立医療センター総合診療科主任部長)
幹事
松田 和久 (済生会福岡総合病院麻酔科主任部長)
幹事
溝口 裕美 (社会保険小倉記念病院感染管理部)
幹事
森口 弘之 (産業医科大学病院感染制御部)
大分支部長 岡田 薫 (大分赤十字病院副院長)
田川支部長 佐々木 宏和(ささきこどもクリニック院長)
研究協力機関責任者 村谷 哲郎 (株式会社キューリン検査部長)
事務局長 池野 貴子 (産業医科大学医学部微生物学)