第 144 回雑誌会

第 144 回雑誌会
(June 15, 2012)
(1) 粘土鉱物から見た古環境の解析‐来馬層群の堆積環境‐
後藤 道治,田崎 和江
粘土科学 38(2), 91-102 (1998).
レビュー:荒生 靖大
近年,地球規模の海水準変動や地域的な気候変動の解析において,過去の堆積環境を明らかに
するため,粘土鉱物学的解析が多く用いられている。過去の堆積環境,ならびに環境変動は,堆
積物中の粘土鉱物の変動と堆積物の化学組成の変化から読み取ることができる。そこで本研究で
は,陸から海にかけて広範囲に堆積場が存在する来馬層群(榀谷層,寺谷層,似虎谷層)におい
て,各層から 52 試料を採集して,粘土鉱物を解析した。各試料は,X 線粉末回折分析(XRD)
,
および蛍光 X 線分析(XRF)を用いて,それぞれ粘土鉱物同定と元素量を分析した。
来馬層群の各層において,沿岸部に集中して堆積するカオリナイトと雲母類粘土鉱物の含有量
が大きく変動した。似虎谷層では,沿岸生二枚貝の化石が産出された層において,カオリナイト
の大きな変動が確認された。このことから,似虎谷層は河川の増水や洪水などの陸水の影響を強
く受けたことがわかった。また寺谷層では,沖合で堆積する化石が産出された層において,カオ
リナイトとスメクタイトの含有量が増加したことから,堆積場の沖へのシフト,または陸の上昇
といった海水準の変動が発生したと考えられる。このことは,先行研究で示唆されている世界的
な大陸の移動による海水準変動と一致している。また,来馬層群の粘土鉱物の供給源を明らかに
するために,来馬層群の堆積物と富山湾の海底泥の化学組成を三角ダイヤグラムでプロットした
結果,黒部川から運ばれてくる花崗岩類に近い化学組成を示した。以上の結果から,粘土鉱物の
解析によって,堆積物の供給源や海水準変動,気候の変化などの古環境の解析ができることが明
らかになった。
(2) Characterization of fecal indicator bacteria in sediments cores from the largest
freshwater lake of Western Europe (Lake Geneva, Switzerland)
Florian, T., Nicole, R., Cinzia, B., Mauro, T., Thierry, A., Walter, W. and John, P.
Ecotoxicology and Environmental Safety, 78, 50-56 (2012).
Reviewed by H. Shimauchi
大腸菌や腸球菌などの糞便汚染指標細菌(FIB)は,人間活動,および動物による糞便汚染の評
価指標である。環境水中における FIB の存在割合は,水中よりも栄養素が豊富な堆積物中の方が
高い。また,人間活動や自然現象によって FIB を含む堆積物が再濁し,FIB が傷口などに接触し
て感染を引き起こす可能性がある。このことから,健康リスク対策として堆積物中の細菌学的調
査を行うことが重要である。西ヨーロッパ最大のジュネーブ湖北部に位置する Vidy 湾は,生活雑
排水と産業排水の処理水が多く放流されているため,最も糞便汚染が懸念されている地域である。
しかしながら,堆積物中の FIB の性質,ならびに蓄積量に関する知見は得られていない。そこで
本研究では,Vidy 湾の排水処理施設における排水口周辺部(V4,V7)の堆積物コアサンプル(深
さ 0~60 cm)を用いて,過去数十年の vidy 湾に蓄積された有機物含有量と FIB との関連性を評価
した。FIB の菌種同定には,PCR 法を用いた。また,MALDI-TOF MS 法を用いて,FIB を分類し
た。
V4 と V7 のコアサンプルの 18~24 cm 層において,全窒素含有量(N%)と全有機炭素(Corg)
は,それぞれ 1.5 %と 12%という高い値を示した。この層は,ジュネーブ湖において発生した富栄
養化に起因すると考えられた。V4 コアサンプルの 0~20 cm 層における大腸菌数,および腸球菌
数は,それぞれ 14.7~35.2×106CFU/100 g の範囲と 3.8~9.0×106CFU/100 g の範囲で検出された。
それに対して,22~60 cm 層における大腸菌数,および腸球菌数は,それぞれ 0~1.6×106CFU/100
g の範囲と 0.8~97×103CFU/100 g の範囲と低濃度で検出された。V4 コアサンプル中の全層にお
いて,腸球菌が検出された。この腸球菌の種類と PCR で解析した結果,ヒト特有の腸球菌
(Enterococcus faecium,E. faecalis)が同定された。さらに,V4 コアサンプルの 22 cm と 50 cm の
各層について MALDI-TOF MS 法を用いた結果,優占種は E. faecium であることが分かった。これ
らの結果から,富栄養化の時の有機物はヒト糞便汚染と関連していることが示唆された。