常滑市議会「創造未来」視察報告書 冨本 健、成田勝之、杉江繁樹、伊藤辰矢 調査日時:平成 26 年 7 月 1 日~3 日 調査場所:長崎県諫早市、長崎県長崎市、長崎県五島市 ■長崎県諫早市 平成 17 年に 1 市 5 町が合併し、長崎県中央部に位置する人口 14 万人の市。東は有明海、西は大村湾、 南は橘湾と 3 つの海に囲まれ、県下最大の穀倉地帯も広がっており、自然の恵が豊かである。長崎県内 の交通結節点として整備が進み、多様な産業が集積している。 調査項目「スクールネット事業について」 出席者(敬省略) : 辻伴幸(学校教育課指導主事) 安楽智史(学校教育課指導主事) 古賀良一(議会事務局事務局長) 樋口勝也(議会事務局書記) スクールネットとは 学校・幼稚園、地域、教育行政機関のイントラネットを 構築し、情報の共有化や校務の効率化を図るため、平成 18 年 4 月より運営を開始した。地域の将来を担う子供た ちが安心して活動できる学校・地域社会の実現のために、 再構築されたウェブサイトや電子メール、携帯メールを 使って、学校・幼稚園・保護者・地域に対して災害や事 件等に関する様々な情報提供を速やかに行い「安心・安 全なまちづくり」の実現を目指している。 教育の情報化 ○教育機関の連携強化 教職員ポータルによる教育委員会や各学校間における情 報共有の実現とコミュニケーション機能の強化を行う。 防災、業務連絡、各種教材、イベントカレンダーなどの 機能にて教育関係者の連携を行う。 ○児童生徒と先生、学校間の交流促進 児童生徒ポータルによる教材等の授業活用や先生への相談など、交流促進を行う、また学校からの連絡 1 などの機能にて学校間の交流を行うことを狙う。しかしながら、児童生徒ポータルは現在利用がなく、 活用が大きな課題となっている。 ○地域への積極的な情報提供や防犯の啓発 市民ポータルによる保護者や地域住民への情報提供を行い、こどもたちの安全確保のための参加を促進 すると共に、携帯メールによる防災・安全情報の即時提供、教育委員会や学校からの連絡、またホーム ページによる行事報告、イベントカレンダーの機能にて地域への積極的な情報提供を行う。市民ポータ ルサイトは保護者の携帯メールで登録してあり、学校・学年・学級からの連絡が送信される。登録に関 しては、親が一度登録し、その後子供を介して紙ベースでも登録し、なりすましの防止に努めている。 質疑応答 Qスクールネット事業を始めるきっかけは何かあったのか。また始める前は子どもたちが事件に巻き込 まれるということがあったのか。 A諫早市は平成 13 年に諫早小学校の 1 年生が連れ去られ、2 日後に遺体で発見されるという事件があっ た。教育委員会が中心となり子どもの安全を守る委員会が結成され、各団体と連携し、登下校の見守り や子ども 110 番の整備等の活動などを行うようになった。 平成 18 年 4 月、合併に伴い運用を開始することとなった。また安全だけでなく、情報の共有化も大きな 目的の一つである。 Qスクールネット事業を始めたことによる全体の安全安心に対する意識向上などはあるか。 A不審者情報や災害情報(総務課)などスクールネットを通じて流す。保護者などに安全安心の意識向 上ができた。ただし学校によって差がある。(登録数などにより) Q全体の登録者の中で地域の人たちはどの程度登録しているのか。 A一般が 4,256 人、全体は 10.357 人。世帯としては 85%。地域の方は卒業生が多い。 Qすべての学校をつないだことによるメリット、また良い事例はあるか。 A先生同士のメールのやり取りができるので、情報の交換、中学校でいえば試合の申し込みなどが可能 になった。各種主任等の連絡網としても活用している。グループ登録により手軽に活用できる。 Q事業にかかる年間の費用はいくらか。 A三菱の子会社に委託。事業の導入に4千万円。年間の保守費用は 648 万円、通信接続料は 550 万円。 Q運用しているうえでトラブルや問題となった事例はあるか。 A学校からのお知らせが届かないという事例が発生した。その原因は個々の携帯電話の設定によるもの が多い。迷惑メール防止機能などによる。また卒業した後に削除希望したが、消えないことがあり、 それに対するクレームもある。 登録したがメールが届かないと連絡があった。その原因は学校が情報を発信しないことによる。そう 2 いった学校は登録者数も少ない。 Q学校ごとにばらつきがあると思うが、教育委員会からどのように指導しているのか。 A保護者宛の文書を送付し、登録を促している。個々の登録については学校に任せている。校長会など でお願いしている。 Q各学校の情報発信を一元化することによるメリットは何か。 A各学校で起こっていることを教育委員会は把握しているのかという問い合わせも多く、各学校の発信 を集約することにより様々な事案を把握することができる。 Q各団体には登録のお願いなどはしているか。 A特にしていない。学童の方たちが登録したいとのことはあった。 Q児童ポータルサイトなどを今後どのように活用するのかというビジョンはあるか。 A例えば問題集を掲載するなど、児童生徒に有益な情報などを考えていきたい。 Q各学校は将来的にSNSを利用していくのか。 A現在、県下でも少ない。様々な危険性などもあり、今の段階では検討するのは難しい。 Q平成 18 年より約 8 年が経過したが、現場などからの意見で変更したことはあるのか。 A全部の要望に応えることができるわけではないが、様々なマイナーチェンジは行っている。 Q教育委員は関わりがあるのか。 A運営には一切関わっていない。 所感 これからの教育を考える中で、学校、保護者、地域が一体となり進めていく必要性がある。そんな中で スクールネットにより、それらの連携を強いものにしていく仕組みというものが出来ている。一方で、 機能が十分活かされていない、学校や先生によってシステムを利用する得手不得手があり差が出るなど の問題点があり、今後それらを解消し、このシステムを使いこなしていく必要があるとのこと。 常滑市においても学校単位でメール配信を利用しており、今回の視察を通して学んだ情報共有のメリッ ト・デメリットを参考に、より子どもたちの安心安全を高め、学校、保護者、地域全体で取組める体制 を考えていきたい。 3 ■長崎県長崎市 九州の北西部に位置する都市で、長崎県の県庁所在地であり、人口約 44.3 万人の中核市である。古くか ら外国への玄関口として発展してきた港湾都市である。外国からの文化流入の影響や、坂の多い街並み などから、日本国内の他都市とは違った景観を有する。 三菱重工業長崎造船所、三菱電機などの工場が集中し、三菱の企業城下町とも言われている。また東シ ナ海などでの漁業や、西彼杵半島南部での肉牛・乳牛など畜産業も行われている。商業は大きく分けて 4 つの地区に分かれ、鹿児島市、大分市と並ぶ市場の大きさである。 調査項目「しごと改革推進室について」 出席者(敬省略) : 山本 勉(長崎市しごと改革室室長) 中路崇弘(長崎市議会事務局局長) 廣田公平(長崎市議会事務局議事調査課) しごと改革推進室とは 現市長の1期目当選後に職員力推進室をつくり、2期目 当選後、しごと改革推進室という名に変更し、市役所の 13の重点項目の1つとして取り組んでいる。市長直属 であり、部に属さない。 人口減少・少子高齢化の到来、市民ニーズの多様化等、 そして職員数の減少や自主財源の減少などにより、市役 所を取り巻く環境や、求められるニーズが変化し、市役 所が時代の変化に的確に対応できなくなってきた。 それを変えるため、市民のみなさまに信頼され続けるパートナーとしての市役所、職員が常に市民のみ なさまの立場にたって仕事に取組み、成果をあげることのできる市役所を目指すために始まったプロジ ェクトである。 しごと改革の取組方針 イキイキと活躍する職員 職員がやりがいをもって、積極的にしごとに取り組む環境をつくる。 ・平成 25 年 7 月に幹部によるキックオフミーティングを開き、将来の都市像をざっくばらんな雰囲気で 話し合った。それが市役所カワルプロジェクトの始まり。 ・同世代カフェトークという場を設け、普段あまり話すことのない他所属の同世代職員と話す機会を設 けた。言いっぱなしではなく、その問題点等にどのように対応できるか等も話し合った。職場の雰囲 気を変えるリーダーができることも期待している。 ・まるかじり講座を設け、長崎市内外の各分野で活躍している講師の話を聞く中で、新たな気づき等に より職員自らが意識や行動を変えていくきっかけを作ることを目的としている。勤務時間外に開催し 4 ているが、700 人がいずれかの回に参加している。 ・職員のモチベーション向上を図るために人事評価制度の構築に取り組んでいる。適材適所の人事配置 や昇任、給与制度、人事育成などを通して組織パフォーマンスの向上を狙う。 チーム一丸となって目的、目標を達成する職場 職員がチーム一丸となって仕事に取り組む環境をつくる。 ・部課長のオフサイトミーティングを開催した。職場での対話を促進し、職員同士の関係性を高め、職 場活性化につなげる。交流型ミーティングにおいて部課の現状や問題点・解決策などを語り合った。 ・ミーティングリーダーの養成に取り組む。ミーティングを進めるきっかけや、どのように成果に結び 付けるかを導くリーダーが必要。 ・部長会メンバーゼミを開催。年度変わりにより部長職が入れ替わったのを機に、土日に 1 泊で勉強会 を行った。 職員と職場の力を成果につなげるしくみ 職員・職場の力を、成果や持続的な成長につながるしくみを作る。 ・PDCA サイクルの確立。ムダな事業、業務の減量化や効率化を図るため、評価・ふりかえり→見直し・ 改善の流れを強化した。 ・職員提案制度の見直し、改善に取り組む。改善が当たり前の職場を目指し、一人一改善報告をめざす。 部課長が改善に率先して取り組む意識と姿勢と行動。 ・人材ビジョンの明示。階層別の役割と責任を再確認する。 職員提案制度 改善提案報告を平成 19 年より行っている。初年度は 11 件だったが、平成 25 年には 392 件の改善報告 があった。改善発表会をもうけ、職員がプレゼンを行う。 市民サービスの向上や事務の効率化につながるような改善について職員が自由に提案できる制度を設け た。毎年、職員で組織する「業務改善推進委員会」が、全ての自由提案を審査し、台帳登録の有無を決 定している。表彰対象かどうかは市長・副市長の前でのプレゼンテーションで決定している。 市っぽく手弁当会議 職員と市長が一緒に手弁当を食べながら意見交換を行う機会を設けた。話しやすいよう 10 人程度の回に している。昼休みの自主的な意見交換の場である。平成 19 年より現在までに計 41 回開催した。 質疑応答 Q職員提案制度により主体的に、前向きに取り組む雰囲気は醸成されたのか。また賞を与える制度によ る職員の意識変化はあるか。 A改善件数が伸びてきているので、少しずつではあるが改善に取り組む姿勢が伸びてきている。当たり 前の風土になるにはまだほど遠い。賞を与える意味は、しっかり取り組んだ人が認められることにあ る。そういった仕組みの一環。 5 Q職員の意識改革への取組に対する市民の評価はどのようなものか。また市民の職員に対する考えなど に変化あるか。 A市役所の中の取組であり、市民の皆さんの意見を聞く機会がないのが現状。自治基本条例の検討委員 会があり、ワークショップ形式で行う中で、市民の方より 10 年 20 年前より職員の態度が良くなった という意見を頂いた。一方で今の職員はコミュニケーション能力に欠けるという意見もあった。 Q意識改革に積極的に取り組む職員、取り組むことのできない職員の隔たりが進んでいるということは ないか。 A積極的に取り組むことのできる職員を増やすのがこのプロジェクトの目的だが、後ろ向きの職員がい ることも事実。そういった職員に対しては、課内での対話の中において他職員に引っ張って行っても らうことを望んでいる。 Q2011 年より前身の職員力推進室から名称変更とともに第2ステージに入っている。きっかけは何で主 な変更点は何か。 A研修を通じて職員力を高めるのが主な目的だったが、現在のプロジェクトになり職員の力だけでなく、 職場の雰囲気や仕組みを変えることにより、市役所全体の資質向上を目指すようになった。 Q自由提案の中で新たな事業としての提案が実際に施策として実現したものはあるか。 A実施困難なものもあるが、かなりの提案を実施している。職員提案により予算化し、実施している事 業もある。(記念日おもてなし事業)お金がなくとも少しの工夫でできることが沢山ある。 Qトヨタの改善研修によく似ているが、このプロジェクトを始めるにあたり、民間の企業等へ勉強に行 ったりはしたのか。 A導入時は分からないが、最近は地元企業である三菱重工の改善の仕組みについて勉強しに行った。ま た民間とコラボしたプロジェクト等を行う中で、民間のノウハウについて勉強している。 Q市長の肝いりプロジェクトだが、庁内での職員の反発はどうだったか。 A市長になりすぐに職員力推進室を作ったのは、職員時代から職員力の必要性を考えていたのだと思う。 目の前の仕事に精いっぱいで改善まで手が回らない職員も多いが、理解している職員もいる。 Q時間外の参加などもあるが、職員はどのように考えているか。 A業務外の自由参加は明記してあるので、参加したい人だけが参加している。ただし業務にかかる部分 については時間外扱いもする。 Q他部署の取り組みを知る機会はどのような時があるのか。 A表彰式等である。現在考えているのは部長表彰の機会を考えている。その中で各課の刺激につながる ような取り組みも考えている。 6 所感 すべての自治体、会社において、時代の変化と共に変わる環境に適応した人材育成は大きな課題である。 長崎市はその重要性、緊急性を認識し、市長直属の機関としてそれらに取り組んでいる。職員の意識改 革に関してはどこも取り組んでいるかと思うが、計画だけの取り組みになりがちである。今回、一つ一 つを実践する過程や問題点など様々な事を学ぶことが出来た。 常滑市においても意識改革への取り組みはあるが、なかなか現状の仕事をこなす事で精一杯になってい る。立てた計画に対し、一歩一歩取り組んでいけるよう、今回の視察をもとに考え、提案していければ と思う。また職員のやる気をのばせられるような提案制度、報奨制度についてもこれからさらに調査し ていきたい。 7 ■長崎県五島市 長崎県の西部、五島列島の南西部に位置する人口約 4 万人の市であり、11 の有人島と 52 の無人島によ り構成されている。2001 年よりトライアスロンが行われるなど、観光業に力を入れている。島内には未 来型観光ドライブのモデルとして電気自動車スタンドを設置し、電気自動車をレンタルすることが出来 る仕組みを作っている。その他にも漁業や畜産業が盛んである。 調査項目「観光振興計画について」 出席者(敬省略) : 角野 隆(五島市観光交流課課長補佐) 宮本康久(五島市観光交流課係長) 観光振興計画の策定 現計画は平成 25 年度から平成 27 年度までの 3 か年を期 間として定められた。 近年の観光は、団体から個、観て遊ぶから交流、体験、 学びなど滞在型へ変化している。五島市への観光客も平 成 17 年の 22 万 1 千人をピークに減少に転じている。 多くの変化の中で、観光振興の取組にあたり、農林水産 業・商工業などの産業振興や文化・教育・国際交流の推 進と言った、各分野での取組と融合を進め、一体的に取 り組む必要がある。市民、観光関連事業者、観光関係団 体、観光協会及び行政が一体となって、観光地づくりを 計画的、戦略的に展開さることを目的とし、観光振興計 画を策定した。 体験型観光を活用した観光地づくり ○農林漁業体験観光(グリーンツーリズム・ブルーツー リズム) 体験型観光の充実を図るため、体験メニューを提供する 人材の育成、地域特性を活かした体験メニューづくりへ の支援を行い、農林漁業体験の受入体制の充実を図る。 ○エコツーリズム 資源を活かした発や企画の支援、コーディネーターの育 成に取組む。さらに環境に優しい電気自動車で観光地を めぐる「長崎 EV&ITS プロジェクト」の定着を推進する。 8 ○着地型観光の推進 観光協会が自ら企画造成した旅行商品を販売促進するために、地域限定旅行業の登録を推進すると共に、 旬の情報収集体制の確立、総合案内機能の整備などの取組を推進する。 情報発信の強化 ○各種媒体を活用した情報発信の強化 パンフレットや情報誌、ホームページなど既存媒体による情報発信の充実と共に、スマートフォンや携 帯電話などを活用した情報発信の強化を図る。またホームページの観光情報の検索性と訴求性の向上を 図る。 ○戦略的な情報発信 県内を主とした情報発信をしているが、交通網、利便性などを考慮した戦略的な情報発信に取り組む。 福岡圏を中心に狙いたい。 ○周辺地域との連携 五島列島を一つの観光地としてとらえ、観光情報発信や PR を行うなど、周辺自治体の観光資源と連携し た施策について検討していく。 質疑応答 Q体感型観光プログラムの企画・広報・運営はどこがどのようにして行うのか。 A五島市観光協会と観光交流課が連携をとって行っている。 Q体感型観光の受付を一括して行う総合窓口のようなものはあるのか。 A五島市観光協会が窓口となっている。 Qプログラム単体でビジネスとして採算はとれているのか。 Aまだ進めている段階であり、モニターツアーを行っている。現段階では検証等を行う段階であり、採 算に関してはこれから。 Q国内外からの観光客誘致に際し、着地型観光を推進するには旅行会社の協力がより必要と考えるがど のような状況か A長崎県の観光連盟が旅行者を集め、観光の PR を進めていく予定となっている。JTB から職員を一人 派遣してもらっている。また修学旅行等での助成制度を設けるなどの連携を行っている。 Q公共交通機関の充実を望む声が大きいようであるが対策はされているか A対策はしていない。県の補助で船の製造に対し補助をだし、運賃の抑制に努めている。 9 所感 常滑市は大型商業施設等があり、流入人口は多い。それらを市内の観光施設等へ来訪してもらうような 施策を考えることが急務であり、重要である。 「観る」から「体験・体感・学ぶ」などへと変化している 観光のニーズをしっかりと捉え、市内の観光業の活性化を図る必要がある。行政だけでなく、多くの観 光関係団体等、そして近隣市町と連携をとる仕組みつくりも大切である。 今回の視察を活かし、しっかりと調査研究を重ね、提案していきたい。 10
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