大学施設における環境配慮設計の施工報告 正会員 川野 芳行(TONETS

大学施設における環境配慮設計の施工報告
正会員
○川野
芳 行 (TONETS CORPORATION)
1.はじめに
「環境配慮設計」を実際に施工した際の留意点、工
夫した点等について報告する。
この建物は大教室(2室)と教員・大学院室(98
室)をメインとした新たな教育研究の拠点となる建物
である(図1)
。特徴は、機能性・安全性に優れ、自然
換気システムや全館 LED 照明等の採用により環境に配
慮した設計になっている点である。
2.建物概要
図1 3号館平面図
3.主要機器
建物用途:大学校舎
構造
:S・RC・SRC造
3.1 空調換気設備
階数
:地上4階、地下 1 階
冷温水発生器(冷却塔・冷却、冷温水ポンプ一体型)
建築面積:2,901㎡
延床面積:7,559㎡
・・・・・・・・・70USRT×2台
冷却塔(開放式)冷却能力・・・・・413kW×2台
冷却水ポンプ・・・・・・・1,167L/min×2台
冷温水ポンプ・・・・・・・・・705L/min×2台
空調機(大教室系統) ・・・・・・・・・・・2台
ビル用マルチエアコン(一般系統)
・・・・・・27台
(屋外機・・・・・・・6台)
空冷パッケージエアコン(教員・大学院室他系統)
・・・110台
(屋外機・・・・・110台)
全熱交換器
・・・・・・・・・・16台
送風機(大教室系統) ・・・・・・・・・・・4台
送風機(一般系統)
写真1 建物外観(北側より)
・・・・・・・・・・31台
3.2 給排水衛生・消火設備
給水設備(既設、共同溝内分岐)
・・・・受水槽+加圧給水ポンプ方式
給湯設備(局所給湯方式)
・・・・・・電気温水器6台
屋内消火栓設備(既設ポンプ、共同溝内分岐)
1号消火栓・・・・・・・・・・15台
4.空調設備概要
5.給排水衛生・消火設備概要
大教室(写真1)2室の空調は、熱源として冷温水
衛生設備・消火設備は共に既設利用になっており、
発生器(冷却塔・ポンプ一体型)を2基設置し、空調
建物北側に埋設されている共同溝内より主管分岐し、
空気は空調機2機で供給している。
3号館に取り込んでいる。
その他、教員・大学院室等一般室等はパッケージエ
アコンで空調している。
給湯設備は各コミュニケーションロビーのミニキッ
チンに電気温水器を設置し、個別給湯される。
換気設備については教員・大学院室はパイプファン、
その他一般エリアは全熱交換器、便所は局所換気で行
また、屋上に降る雨水の一部を地下雨水貯留槽に集
め、各種植栽の散水用給水として利用している。
っている。
また、建物としての自然換気を採用していて、階段
室の屋上部、4階教員研究室のトップ部分にハイサイ
ド窓を設け自然換気を促している(図2)
。ハイサイド
窓は自動制御により温度・降雨を監視し、開閉の有効
無効を制御する(手動・自動開閉は後押し優先)。
写真2 大教室内
図2 環境配慮イメージ
6.本建物に採用された特徴的なシステム
新3号館の特徴として、大教室の大空間空調は省エ
ネを配慮したシステムが採用されている。
内容として、
夏季は空調機に入る外気をクールヒートトレンチで予
の外気予熱はクールヒートトレンチとエアフロー
ルーフの有利な方を自動選択する)
、
同様に外気負荷を
削減している(図4)
。
中間期には自然換気システムを利用し、外気温が室
冷することで、外気負荷を削減している(図3)
。
内温度より下がった場合に、外気冷房として外気を積
また、冬季はエアフロールーフで外気を予熱し(冬季
極的に取り入れ、省エネを図っている(図5)
。
図3 夏季の大教室エアフロー図
図4 冬季の大教室エアフロー図
図5 中間期大教室エアフロー図
また、大教室の制御内容は、空調ゾーニングを1・
(各階の大教室前方・後方それぞれサーモセンサーで
2階の前方と後方2系統に分け、使用状況(人員負荷
監視し必要最小限の運転を行い、1・2階どちらかの
の偏り等)に応じて柔軟な空調を可能としている
みの使用時は VAV にて切替えを行う)図6。
図6 制御システム図(夏季・中間期)
図7 原設計 熱源系統図
図8 変更 熱源系統図
7.施工上の改善・工夫点
7.2 空調機(大教室系統)
原設計空調機は、大教室1・2階それぞれ前方・後
7.1 熱源機(大教室系統)
原設計では、熱源機は冷却塔分離型で設計されてい
方と個別に空調機が設置される計画であった。
しかし、地下機械室のダクトワークを検討した結果、
たが、想定していたより熱源機の全高が高く屋外機械
機械室内に空調機4台が納まらず1・2階前方系統、
置場内に納まらなかった為、冷却塔・ポンプ一体型を
1・2階後方系統と空調機を2台に集約し、それぞれ
採用した(図7、図8)
。これにより有効なメンテスペ
1・2階分岐ダクトにVAVを設置することで対応し
ースを確保する事が出来た。
た(図9、図10)
。こちらも屋外機械室同様に、
有効なメンテスペースを確保できた。
大教室2
大教室1
図9 原設計 大教室空調系統図
大教室2
大教室1
図10 変更 大教室空調系統図
7.3 室内環境(気流シミュレーション)
気流シミュレーションにより大教室内の温度・気流
大教室の施工では、構造上の理由(構造梁と干渉)
分布を試運転前に確認でき、施主・設計事務所に安心
により床吹出口の配置変更を余儀なくされた。そのた
感を与ることができた(図11~19・次ページより
め、設計事務所から気流シミュレーションによる検討
シミュレーション結果を説明する)
。
依頼があった。
図11 設定条件
図12 使用ソフト・PC
図13 解析モデル図
図14 発熱領域図
図15 解析結果
図16 温度コンター図
図17 温度コンター図
図18 流速ベクトル図
図19 流速ベクトル図
8.おわりに
今回の大空間空調と省エネのシステムの施工は自分
にとって初めての経験であり、大変勉強になった。し
かし、施工工程の確保や、適正な計画の検証等はまだ
まだ改善できたと思われるので、これからも努力をし
ていきたい。
最後に建物外観(北・南側)を示す(写真2・3)
。
9.謝 辞
最後になりましたが、今回の工事に当たりご指導・
ご協力いただきました、各担当者、協力業者の担当者
写真3 建物外観(南側より)
の皆様には、厚く御礼申し上げますとともに、今後と
も何卒よろしくお願い申し上げます。
7.4 室内環境(騒音)
大教室の1・2階間の騒音(透過損失)について、
現状の計画で良いか確認するために騒音計算書を作成
した結果、現状の計画では不適となることがわかり、
1階天井内の2階用空調(SA)ダクト全てに遮音処
理を施した。
特に遮音性能の要求水準が高い部屋に対しては事
前に十分な検討、確認が必要であると感じた。
7.5 試運転
工事全体として工期圧縮等により作業工数増があ
った。また、試運転期間の確保が出来ず(10日→6
日)
、
協力業者に無理を強いる場面があったので反省し
ている。また同様な機会があった場合は日頃からの建
築担当者との打合せ、主張をしっかり行い、調整・交
渉を密にし、工程確保に努めたい。