平地研究室技術メモ No.20090531 倍電流整流回路を用いた DC/DC コンバータ (読んでほしい人:パワエレ初心者) 2009/5/31 舞鶴高専 平地克也 ■DC/DC コンバータの変圧器のターン数決定方法 近年、電子回路の電源電圧が低下しています。昔は 12V や 5V が一般的でしたが、最近では 1V 以 下の場合もあります。図1のような電子回路に電力を供給する DC/DC コンバータでは、電子回路の 電源電圧(即ち DC/DC コンバータの出力電圧 Vout)が低い場合、変圧器の設計方法を変える必要 があります。通常、変圧器のコイルのターン数は次のように決定します。 ① DC/DC コンバータの入力電圧から 1 次コイル印加電圧最大値 V1max を計算。 ② DC/DC コンバータの動作周波数と最大通流率から最大 ON 時間 Tonmax を計算。 ③ V1max、Tonmax および鉄心の断面積 S から 1 次コイルターン数 n1 を決定。 ④ 出力電圧 Vout と入力電圧 Vin の関係から変圧比を決定し、2 次コイルターン数 n2 を決定。 このうち①②③は鉄心の最大磁束密度 Bmax を決定するために必要な手順であり、Bmax が鉄心の 飽和磁束密度 Bsat を越えないように n1 を決定します。計算式は次のようになります。 Bmax = V1 max Ton max < Bsat n1 S n1 > 故に V1 max Ton max SBsat しかし、近年の定格電源電圧の低い電子回路に電力を供給する DC/DC コンバータでは上記の方法で ターン数を決定すると 2 次コイルのターン数 n2 が 1 ターン未満になってしまいます。1 ターン未満 のターン数は物理的に不可能なので結局 n2 は 1 ターンにします。その場合、ターン数の決定手順は 次のようになります。 ① n2=1 ターンとする。 ② 出力電圧 Vout と入力電圧 Vin の関係から変圧比を決定し、1 次コイルターン数 n1 を決定。 この方法で n1 を決定した場合は Bmax は Bsat よりかなり低い値となってしまい、鉄心の能力を充 分に利用できてないことになります。 Ld T3 Vin T2 Vout Cd v1 T4 図1 v2 n1 v3 n2 DC/DC コンバータと電子回路 1 電子回路 T1 E ■倍電流整流回路 図1の回路では変圧器 2 次電圧 v2 の整流回路は通常の全波整流回路です。図2に倍電流整流回路 を用いた DC/DC コンバータの例を示します。図1の回路から 2 つのダイオードをリアクトルに置き 換えた形になっています。 この回路では図1の回路と比較して n2 の値を 2 倍にすることができます。 n1 よって、n2 が 1 ターンの場合 n1 の値を半分まで抑制できる可能性があります。 L1 L2 vL1 E vL2 T3 Vin v1 T2 Vou t iL1 T4 iL2 v2 n1 Cd 電子回路 T1 n2 D1 D2 倍電流整流回路 図2 倍電流整流回路を用いた DC/DC コンバータ なお、Vout が低い場合は通常 D1、D2 は FET を用いて「同期整流」を行います。 ■動作原理 図3に倍電流整流回路を用いた DC/DC コンバータの動作モードと電流径路を示します。 L1 T1 L1 L2 T1 T3 L2 T3 Cd T2 T4 n1 Cd T2 n2 D1 T4 n2 D1 Mode 1 D2 Mode 3 L1 T1 n1 D2 L1 L2 T1 T3 L2 T3 Cd T2 T4 n1 T2 n2 Mode 2 図3 Cd D1 D2 T4 n1 n2 Mode 4 D1 D2 倍電流整流回路を用いた DC/DC コンバータの動作モードと電流径路 2 Mode 1 では T1 と T4 が導通しており、 L1 にトランス 2 次電圧が印加されて L1 電流が増加します。 Mode 3 では逆に T2 と T3 が導通し、 L2 にトランス 2 次電圧が印加されて L2 電流が増加します。Mode 2 と Mode 4 では T1∼T4 は全て OFF しており、L1 と L2 の電流は 2 次側を環流します。 図4に動作モードと理論波形を示します。 ON T1 T4 OFF ON T2 T3 OFF v2 n2 V n1 in 0V n2 − n 1 Vin iL1 0A iL2 0A Mode 1 2 3 図4 4 動作モードと理論波形 ■出力電圧計算式 定常状態ではリアクトル電流 iL1 の増加と減少が等しいので、この関係を用いて出力電圧の計算式 を導出します。iL1 は Mode 1 で増加し、Mode 2∼4 で減少します。 <Mode 1 の iL1 の変化量の計算> Mode 1 の v2= n2 Vin n1 vL1=v2−Vout Mode 1 の継続時間= 1 α f ただし、f は T1∼T4 の動作周波数、αは T1∼T4 の通流率 よって、iL1 の変化量 ΔiL1= 1 1 n2 Vin − Vout α L n1 f 3 ・・・・正の値であり増加 <Mode 2∼4 の iL1 の変化量の計算> Mode 2∼4 では vL1=−Vout Mode 2∼4 の継続時間= 1 (1−α) f よって、iL1 の変化量 ΔiL1= 1 (− Vout ) 1 (1 − α ) ・・・・負の値であり、減少 L f <Vout の計算> Mode 1 での iL1 の変化量と Mode 2∼4 での iL1 の変化量の合計は 0 なので、 1 1 1 1 n2 Vin − Vout α + (− Vout ) (1 − α ) =0 L f L n1 f n2 Vin − Vout α + (− Vout )(1 − α ) =0 n1 よって、 Vout = n2 Vinα n1 なお、図1の回路ではよく知られている公式により、 Vout = 2 n2 Vinα となります。 n1 よって、図2の回路では Vin と Vout が等しい場合、図1の回路と比較してトランスの変圧比 n2 を n1 2 倍にすることができます。 以上 4
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