座標変換によって生じる鉄道線形への影響 Effects on Railway Liner

座標変換によって生じる鉄道線形への影響
清水 智弘,中山 忠雅,中川 秀晴,田中 俊作,高田 直明
Effects on Railway Liner Caused by Coordinate Transformation
Tomohiro SHIMIZU,Tadamasa NAKAYAMA,Hideharu NAKAGAWA,Syunsaku TANAKA
and Naoaki TAKADA
Abstract: With the partial amendment of the measurement method, the geographical
coordinate system has also been shifted from Tokyo Datum to WGS-84.
Therefore,
in executing the plans of railway structures which were originally designed
according to Tokyo Datum, we need to change the linear planning according to
WGS-84. We examined some methods of converting it and we adopted a coordinate
transformation software offered by Geographical Survey Institute. In this paper, we
consider some specific problems and measures in railway business caused by
changing the coordinate transformation and investigate the geographical coordinate
system from a linear point of view.
Keywords:
鉄道( railway),線形計画( liner planning),
座標変換( coordinate transformation)
1.はじめに
そのため,当初,日本測地系で設計されていたもの
わが国では,平成 13 年 6 月に測量法の一部が改正
が,最終的な成果としては,世界測地系での設計へと
され,平成 14 年 4 月に施行されている.改正測量法
変更する場合がある.このように鉄道業務では,現在
の施行により,測量業務や地図・GIS 用地図データベ
でも測地系の変換は多くの場面で生じている.
ースの作成,法令・告示の緯度・経度表示など,すで
今回の業務の中でも,当初,日本測地系で計画・設
にあらゆる面において従来の日本測地系から世界測地
計されていたものを,実施設計では世界測地系に準拠
系への移行が進んでいる.
した線形計画を行う必要が生じた.
鉄道業務においても世界測地系に対応した設計成
今回,鉄道業務において,測地系の変換がどのよ
果は必須となっている.また,鉄道業務での設計は,
うに影響するのかを示す.具体的には,鉄道線形計画
計画段階から実施設計段階まで長期間にわたる場合が
といった観点から測地系変換によって線形に生じる鉄
多い.
道業務特有の課題と対策を述べるとともに,鉄道線形
清水:〒532-0011 大阪市淀川区西中島 5-4-20
ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社
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の観点から測地系に対する考察を行うこととする.
2.業務概要
3. 座標変換
2.1 施工順序
日本測地系(ベッセル楕円体)から世界測地系
本設計では,列車運行が可能な仮線を設け,列車運
(GRS80 楕円体)に準拠した情報に置き換える方法
行を切替えた後,切替え前の線路(現在線)の所定の場
には,再測量を行う「改測」,既存データを用いて再
所に構造物を構築し新規の線路(計画線)を設ける仮
計算する「改算」等もあるが,本設計では効率よく世
線工法を採用している(図-1).すなわち現在線と仮
界測地系への移行するため安価・高速である「座標変
線,計画線といった3つの鉄道線形に対して測地系変
換」を優先的に採用することとした.
換による影響の検討が必要となる.
3.1 変換手法
2.2 特徴
「座標変換」には,大別して以下の方法が考えられ
本業務の特徴としては,用地境界がすでに日本測地
る.
系から世界測地系へと変換され,用地境界がすでに確
定していることが挙げられる.そのため線形を世界測
①国土地理院が提供する座標変換ソフト
地系へ変換する際,線形が用地境界を侵さないように
(TKY2JGD)を利用した座標変換を行う.
注意した設計が必要となった.具体的には,軌道中心
②アフィン変換・ヘルマート変換を行う.
から用地境界までの距離を仮線時には 4m,計画線時
③線形を図形としてそのまま貼り付ける.
には高架区間では 3.4m,バラスト区間では 3.5m確
保する必要があった.
図-1 施工順序図
座標変換を行う際に,特に注意すべき点は鉄道線
IP.2
形の曲線箇所である。曲線諸元には,半径 R や IP
日本測地系
曲線諸元
R =○○
TCL=○○
IP.2’
( Inter Point: 中 間 点 ) , IA(Inter Angle: 交 角 ) ,
TL(Tangent Length:接線長),CL(Curve length:曲線長),
TCL(Transition Curve Length:緩和曲線長)または,
②
曲線諸元
R =○○
TCL=○○
IP.4
IP.4’
IP.1
IP.1’
①
BTC(Beginning of Transition Curve),BCC(Beginning of
世界測地系
IP.3 IP.3’
作業手順: ①座標変換(TKY2JGD)
②線形作図(当初諸元使用)
Circular Curve),ECC(End of Circular Curve),ETC(End
図-3 座標変換
of Transition Curve)などといったものが存在する.
この中で,半径 R や TCL については,鉄道の安全
走行に関わる重要な要素であるため変更できない.そ
の他についても用地境界を確保するためには,従来通
りの諸元を採用することが望ましい.
3.2 変換結果
世界測地系に準拠した線形を作図した結果,座標の
変化量は最大 1.7 ㎝(偏差)の計算となった.また,IP
以上を踏まえ,アフィン変換やヘルマート変換とい
点間距離にすると最大 5 ㎜,IA に対しては 1″のズ
った一般的な幾何変換方法を用いて鉄道線形を図形と
レが発生した(表-1).すなわち作図された世界測
して一挙に変換させることは困難であると考えた.
地系の線形は,日本測地系の線形と座標位置が異なる
そこで,線形を作図するにあたり IP 点のみを座標
変換し,線形を復元することとした.
だけでなく,線形自身の形状も異なる.これは,両測
地系の持つ楕円体の違いによるものと考えられる.
この結果,高い精度が求められる線形計画において
は以下の問題点が生じることとなる.
①線路延長が変わる.
②複線の場合、線間が変わる(線間 3,800 ㎜).
③分岐器の角度が変わる.
図-2 曲線諸元
④工事始点/終点の位置にズレが生じる.
すでに世界測地系の座標で決定されている用地境界
は,TKY2JGD を用いた座標変換(手法①)が採用さ
れていた.そこで,今回も TKY2JGD を用いて座標変
換を行い,線形を作図することとした.
具体的には,各線(現在線・仮線・計画線)の IP
点に対して座標変換ソフト(TKY2JGD)を用いるこ
とにより,日本測地系座標から世界測地系座標へと変
換することとした.また,曲線半径,緩和曲線長とい
った曲線諸元については当初通りとし,変換した世界
測地系の IP 点を用いて線形を CAD により再作図し
た(図-3).
表-1 座標変化量
(ex.) 計画下り本線
日本測地系
IP点
X
Y
1
-171422.1898 -55256.3155
2
-171583.4642 -55396.6205
3
-172354.2710 -56372.4632
4
-172554.7034 -56601.3569
5
-172667.8078 -56734.2817
6
-172818.3380 -56898.2358
7
-172857.3313 -56945.0276
世界測地系
X
Y
-171075.0736 -55517.5952
-171236.3453 -55657.9019
-172007.1377 -56633.7494
-172207.5661 -56862.6440
-172320.6681 -56995.5693
-172471.1952 -57159.5245
-172510.1879 -57206.3165
測地系変換移動量
(D)
Y
X
347.116
261.280
347.119
261.281
347.133
261.286
347.137
261.287
347.140
261.288
347.143
261.289
347.143
261.289
2429.932
1829.000
偏差=座標変化量
(D-μ)
Y
X
0.006
0.017
0.005
0.014
0.000
0.000
-0.001
-0.004
-0.002
-0.007
-0.003
-0.010
-0.003
-0.010
0.002
-0.001
IP点
1
2
3
4
5
6
7
合計
平均
(μ)
347.133
261.286
日本測地系
-
10°40′22″
02°54′09″
00°48′47″
02°09′42″
02°45′00″
-
I.A
世界測地系
-
10°40′21″
02°54′09″
00°48′47″
02°09′42″
02°44′59″
-
差
-
01″
00″
00″
00″
01″
-
IP点間距離
日本測地系
世界測地系
差
213.764
1243.548
304.246
174.533
222.576
60.909
213.763
1243.543
304.244
174.531
222.575
60.909
0.001
0.005
0.002
0.001
0.001
0.000
2216.163
2216.153
0.011
4.対策
IP 点に対して座標変換ソフト(TKY2JGD)を用い
跨線橋
①現在線:現地測量(世界測地系)
駅舎
て座標変換したことで,上述したいくつかの問題点を
生じることとなり,解決すべき対策が必要となる.
天王子方
和歌山方
対策として,現在上下線に関しては現地測量の結果
を元に作図し,仮下り線は,その現在上り線の線形を
使用した.計画下り線は手法①の座標変換によって作
図を行った.また,仮上り線・計画上り線に関しては,
②仮下り線:現在上り線を使用
仮上り線:仮下り線との平行区間に
おける線間を(3,800 ㎜)確保
跨線橋
駅舎
天王子方
和歌山方
それぞれ仮下り線,計画下り線から 3,800 ㎜の線間を
3,800㎜確保
確保するように線形を作図した.このように現地測量
結果と座標変換とを適宜使い分けることで線形を復元
している(図-4).
③計画下り線:座標変換(IP 点による作図)
計画上り線:計画下り線との平行区間に
おける線間を(3,800 ㎜)確保
また,用地境界が確保できなかった箇所について,
集約した結果を表-2に示す。用地境界に対して座標
天王子方
和歌山方
変換によって作図した線形は,現地測量を元に作図し
た線形とそれほど大きな差はみられなかった。更には
3,800㎜確保
図-4 対策(各線形の作図方法)
GIS 上に展開することで視覚的に把握可能となった
(図-5).
5.考察
今回行った線形計画は,完成時の用地境界がすでに
決まっていたことから,用地境界の確保を優先する必
表-2 座標変化量
世界測地系変換方法
用地境界不足数 (点)
合計(電柱基礎) (点)
用地境界不足率 (%)
平均(OUTのみ) (m)
計画下り線
計画上り線
座標変換
座標変換
54
17
217
217
25%
8%
0.002
0.001
仮上り線
現地測量
47
184
26%
0.021
要があり,結果として座標変換の手法が制限されてし
まった.つまり,用地境界を世界測地系に変換する際
には,線形を世界測地系へと移行してから用地境界を
再設定する方が効率的だといえる.
また,線形を世界測地系へ座標変換する際は,各座
標点によって変化量が異なることから,日本測地系の
線形と比べ線形の座標位置が異なるだけでなくその形
状も異なることがわかった.このように,「座標変
換」は,安価で効率的手法ではあるが,一概に適切な
手法とはいえないことを注意しておく必要がある.
図-5 座標変換結果(計画線)
「座標変換」には計算誤差が必ず発生してしまう.よ
って,変換時の優先事項を把握し,然るべき変換方法
が必要となる.しかしながら,以下のような場合であ
れば十分に適用可能な手法であることも同時にわかっ
た.
6.おわりに
このように本報告では,世界測地系への変換に伴う
影響を把握することで,座標変換における留意事項を
①用地境界の変更が可能な場合。
把握することができた.これは,今後も座標変換が必
②新線の場合。
要とされる業務において円滑な設計につながる手掛か
③用地境界が確定していない単線の場合。 ・・・等
りになったと考えている.