サン電子工業株式会社深谷工場

シリーズ「埼玉県内進出企業に聞く」
県内立地の魅力とは ⑤
サン電子工業株式会社深谷工場
深谷工場全景
操業開始から7年目の春
セガや、玩具メーカーのタカラトミーから受
託しているゲーム機器には、子供向けの『ム
深谷に工場を移してから、この4月で丸7
シキング』や『ポケモントレッタ』などがあ
年目。今では工場全体に働く従業員も設備も
る。家庭用のゲーム機器は一切扱わず、業務
馴染んで、滞りなく製品を出荷している。そ
用だけに特化しているが、受託製造だけでな
の製品はゲームセンターに設置されている業
く自社で開発・製造しているゲーム機器もあ
務用の機器が主体で、電源基板類も自社開発
り、最近では介護業界にも進出し、リハビリ
して製造しているが、こちらは当社設立から
用のゲーム機器を独自に開発、製造販売して
の製品。そもそも、1985年(昭和60年)に秩
マスコミにも取り上げられるようになった。
父郡皆野町で産声を挙げた当社は、オーディ
オアンプなどの基板類をコントロールボード
本社工場の拡張で新工場を計画
とともに設計・製造して販売を始めたのが始
当地に工場を開設することになったのは、
まり。それが今では基板類よりも業務用ゲー
秩父市内の本社・工場が手狭となったことが
ム機器の設計開発と製造に主軸が移ったのは、
大きな理由。朝香純男社長によると、新工場
アミューズメント機器用に電源基板を納入す
の建設に当たって「本社に近く、交通の利便
るようになってからのこと。以後、ゲームセ
性と敷地面積が5,
000坪以上という条件を設
ンターなどの市場拡大とともに、自社でもゲ
定した」と話す。2004年(平成16年)春のこ
ーム機器本体を製造するようになり、今では
とで、同年中には現在地である深谷市本田と
国内にとどまらず海外にも販路を広げ出した。
寄居町の2か所に候補地が絞られた。現在地
ちなみに、当社が大手ゲーム機メーカーの
は敷地が約8,
000坪で、寄居町は1万坪。敷
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地条件は両方ともクリアーできたが、寄居町
にある候補地には老朽化した建物があったの
がネックとなり、最終的に更地だった現在地
への新工場建設を「2005年の夏に決断した」
と言う。
現在地は秩父市内の本社工場にも近く、関
越自動車道の花園インターチェンジや嵐山小
川インターチェンジにも近接している。「そ
れより何よりも、秩父市内の本社工場から東
一貫生産可能な工場内
県も深谷市も後方支援
京都内の取引先へ出向くのに、クルマで1時
当地への進出が決定してから用地造成、そ
間以上、電車ではそれ以上に掛かることを考
して建物の着工までスムーズに進捗したが、
えたら、この深谷工場は便が良い」と話す。
その裏には県や深谷市の後方支援があったか
当地への進出の決め手となったのは、交通の
らで、
「深谷市とは現在でも親密な関係が続
利便性が最大要因だったようで、決定後すぐ
き、イベントへの参加や当社の新製品開発で
に造成工事に取り掛かり、2006年12月には工
の PR など、様々な事で協力し合っている」
場建設に着手した。
と朝香社長。進出当初5年間は固定資産税の
完成した建物は、2万6,
328平方メートル
減免措置を受け、その他各種の優遇も受けた。
の敷地に、鉄骨鉄筋コンクリート造2階建て
県も深谷市との調整に奔走し、住民説明会の
延べ約5,
375平方メートルの規模。工場内は、
開催などを支援。
「お蔭で一番のメリットは
顧客別に多品種少量生産が可能な設備が整っ
当工場の進出に住民の理解が得られたこと」
ているほか、熱の出ないスイッチング電源を
と言うように、少しでも住民の反対があった
開発したり、太陽光発電も導入して環境にも
ならば、
「進出は諦めた」と話す。
配慮した工場になっている。投資額は用地購
もっとも、進出の決断がもう1年、2年遅
入費を含めて約10億円だが「土地代が非常に
かったならば、あるいは住民の理解を得るの
安かった。また購入タイミングが良く、工場
に時間が掛かり、工事着手が先延ばしになる
を設立して良かった」と朝香社長は話す。
などの問題が発生していたら、現在の深谷工
場はなかったかもしれない。操業を開始した
2007年は米国でサブプライムローン問題が発
生し、翌年のリーマン・ショックを境に世界
的な金融危機に見舞われた。
「リーマン・シ
ョック前までは業界の景気も良く、当社の決
算も赤字にならないでいた。そのような状況
の中で深谷工場の新設を決断したが、時期が
ずれていたならどうなっていたかは分からな
い」と振り返る。
そのリーマン・ショックを乗り越え、今や
日本経済はアベノミクス効果で景気回復の度
創業時から製造している各種スイッチング電源基板
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工場が進出した際には、
「どうにも人が集ま
らず苦労した」と打ち明ける。
リハビリ用ゲーム機器も開発
一方で、近隣住民との関係も7年間にわた
ってトラブルもなく、今では自治会から工場
リハビリ用のゲーム機を説明する朝香純男社長
見学の申し込みがあるほどで、学校関係から
を強めている。深谷工場稼働から7年目の春
も児童・生徒の見学希望も寄せられ、年に数
を迎えたが、朝香社長は「進出して良かった
回は受け入れている。朝香社長個人にとって
と正直思っている。特に業務用ゲーム機器業
も、深谷工場は居心地が良いようで、昨年4
界の形態が変化してきたことから、当工場を
月からとうとう秩父の本社から常駐態勢に移
見学してもらうと、
『ここならすべて一貫生
行。深谷工場から毎日、取引先を訪問するト
産できますね』と理解され、新規顧客の開拓
ップセールスを繰り広げている。
に結びついている」と、今では売り上げの4
そして、いま最も力を注いでいる事業が介
割を「新規取引先が占めるようになった」と
護業界への進出で、九州大学と連携してリハ
言う。
ビリサポートマシーンを開発した。モグラた
広い工場内には、基板の実装会社も協力企
たきの要領でカエルを叩く『ハンマーフロッ
業として入居。これが基板部品から完成品ま
グ』や、足で蛇を蹴飛ばす『ドキドキヘビ退
で、一貫して生産が可能な事を顧客にアピー
治』など、遊びながら運動機能と脳機能を活
ルすることができ、強みになっている。さら
性化させるゲーム機器で、多くのマスコミで
に、朝香社長を満足させているのは、人材雇
取り上げられている。さらに、アミューズメ
用でも大きなメリットがあったことだ。「製
ント業界も国内だけでは厳しくなってきたこ
品開発に必要な頭脳集団を確保するのに、秩
とから、海外にも販路を拡大。今年7月まで
父では地理的に限られていた。しかし、当地
にカジノ用の機械『ビンゴ』をスペインに出
は全県下から集まり満足している」と。とは
荷する計画で、事業の柱に据えて新展開を図
言っても、パート雇用や派遣社員の確保には
ることにしている。
頭を抱えた時期もある。近隣の寄居に大きな
サン電子工業株式会社深谷工場 概要
所
在
電
F
地 深谷市本田3077‐1
話 048‐578‐2200(代表)
A
X 048‐578‐2205
敷 地 面 積 26,
328平方メートル
建物延べ面積 5,
375平方メートル
業 務 内 容 アミューズメント機器の製造
従 業 員 数 約50人(パート含む)
建設投資額 10億円(2007年)
スペインに出荷されるカジノ用ビンゴ機
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