窒化ホウ素(BN)コーティング埋没法によるチタン鋳造体の改質効果

2007 年 10 月
601
日歯保存誌 50(5):601∼607,2007
窒化ホウ素(BN)
コーティング埋没法によるチタン鋳造体の改質効果
邵 本 奇 佐 藤 秀 樹 小 松 正 志
東北大学大学院歯学研究科 口腔修復学講座 歯科保存学分野
(主任:小松正志教授)
抄録:チタンは鋳造過程において酸素などの元素と激しく化学反応を起こすことが知られている.生じた表
層反応層により,鋳造体の物性が低下したり,耐腐食性が減弱したりする劣化が生ずることが判明している.
本研究では歯科合金鋳造における埋没材の焼き付きを抑え,離型性と清掃性を高め,表面粗さを減少するなど
表面性状の改善に効果があると報告されている窒化ホウ素(BN)を応用し,チタン鋳造体の表面性状および表層
反応層の微小硬さと元素分布に及ぼす影響を検討した.
マグネシアを主成分とし,アルミナセメントを結合材としたチタン・クラウン専用試作埋没材(HK−7F,岡
崎鉱産物)
およびリン酸塩系埋没材(Hi−Temp, Whip Mix, USA)を用い,BN をコーティングした BN(+)群と BN
をコーティングしなかった BN(−)群鋳造体表層のマイクロビッカース硬さを測定した(n=4).次いで X 線マ
イクロアナライザー
(EPMA)を用い鋳造体の表層反応層の中に分布する各元素を計測した.さらに表面粗さ測
定器を用い鋳造体表面の中心線平均粗さ(Ra)を測定した(n=5)
.平均値と標準偏差を求め,one−tail repeated
(α=0.05)にて分析した.
measures ANOVA
(α=0.05)
と one−tail Mann Whitney U−test
HK−7F 使用群においては埋没材の焼き付きが少なく,Hi−Temp 使用群のほうが焼き付きが多くみられた.
両群とも BN
(+)群と BN(−)群との間に表層硬さの有意差は認められなかった.HK−7F 使用群において酸素
の分布は深さ約 75μm から表層にかけて徐々に上昇する傾向がみられた.また酸素濃度は BN(−)のほうが大
(+)群と BN(−)群の各元素
(Si,P,O,S,Mg,Ca)の分布に著しい
きかった.Hi−Temp 使用群において BN
差異はみられなかった.HK−7F 使用群の BN(+)群と BN(−)群との間に表面粗さの有意差は認められなかっ
た.
BN コーティング層と鋳型埋没材との間の付着力はきわめて小さいため,鋳型を焼却した後コーティング層
が内壁から剝がれる現象が多くみられた.今後はコーティング層と埋没材との界面接着強さを向上させるか,
埋没材自体に BN を一定の割合で混入した埋没材を試作し,実験と検討を重ねていく予定である.
キーワード:チタン鋳造体,窒化ホウ素,埋没材