第 21 回日本排尿機能学会賞

学会賞 受賞演題・論文解説
第 21 回日本排尿機能学会賞
臨床部門
術前 MRI における骨盤底所見は,
前立腺全摘出術後尿禁制の予測因子となる
れた症例でも術後尿失禁に悩まされることをしば
はじめに
しば経験します。このような事実から,術後尿禁
前立腺全摘出術は,限局性前立腺癌における治
制には手術手技だけではなく患者側に術前から備
療として広く行われていますが,尿失禁は重要な
わった因子も関連していると考えられており,こ
術後合併症の 1 つで,患者の QOL を低下させる原
れまでに術後尿禁制に影響を与える術前因子とし
因となります 。近年,ロボット腹腔鏡下前立腺
て,年齢 3),肥満 2),前立腺体積 2),術前の排尿機
全摘出術が広く行われるようになりましたが,術
能 4),最大尿道閉鎖圧 5)および骨盤底の解剖学的
後尿禁制に関しては,開腹手術に比べて優位性は
因子 6)‐11)が報告されています。
それほど大きくないとの報告があります 2)。術後
また,術後尿禁制に影響する解剖学的因子とし
の尿禁制を維持するために勃起神経,膀胱頚部,
て,
膜様部尿道長(membranous urethral length;
尿道および括約筋を温存するといった手術手技の
MUL)
が最も注目されています 6)‐11)。術後尿禁制
工夫がなされますが,手術時に温存が十分になさ
には,手術操作による尿道括約筋損傷が大きく関
1)
連するので,周囲を尿道括約筋に囲まれている膜
様部尿道の長さは尿禁制に与える影響が大きいと
考えられます。しかし,実際に MRI 画像で MUL
を測定しようとすると,膜様部尿道と前立腺また
は球部尿道との境界は不明瞭で MUL を測定する
ことは難しく,定まった測定方法・測定基準はあ
りません。また,膜様部尿道の一部は手術操作に
東北大学大学院医学系研究科泌尿器科学分野
佐竹 洋平
よりダメージを受けるために必ずしも術後の膜様
部尿道機能を反映しないという問題もあります。
そこで,今回我々は,手術侵襲を受けにくく,また,
Yohei Satake
術後尿禁制に関与していると考えられている肛門
職歴
挙筋より遠位側の膜様部尿道に着目し,遠位部尿
2003年 3 月 札幌医科大学医学部卒業
道の長さと術後尿禁制との関連を調査しました。
2003年 5 月 仙台市立病院初期研修医
2005年 5 月 東北大学病院泌尿器科
対象・方法
2006年 4 月 宮城県立こども病院泌尿器科
2006年10月 総合磐城共立病院泌尿器科
2008年 4 月 東北労災病院泌尿器科
2012年 4 月 東北大学大学院医学系研究科
泌尿器科学分野入学
2016年 3 月 同 修了
80
(80)
2007 年 8 月~2010 年 3 月までに東北大学病院で
前立腺癌のため骨盤 MRI を撮影した 276 例のう
ち,同病院にて恥骨後式前立腺全摘出術を受け,
排尿障害プラクティス Vol. 24 No. 1 2016
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