(グリーンマスダンパー)による建物の設計 (その3)

屋上緑化を利用した制振構造(グリーンマスダンパー)による建物の設計
(その3) 高速度対応ダンパーの性能確認試験
キーワード
ビンガムダンパー
速度依存
高速度・大振幅
リンク機構
1.はじめに
本建物では(その2)で述べた応答解析結果に示すように、
建物頂部とマスの間には大きな相対速度と相対変位が生じる。
本報では、この高速度・大振幅に対するビンガムダンパーの性
能確認試験の概要を述べる。
正会員
正会員
正会員 近藤 豊史 *2
石塚 馨 *1
早野 裕次郎 *2 正会員○鈴木 清春 *3
藤生 重雄 *3
正会員 志気 一顕 *3
併せて示す。速度と抵抗力の関係は、低速域から高速域まで
ほぼ設計式通りである。
2.ビンガムダンパーの概要
一般的に普及しているダンパーを分類するとオイルダンパー
や粘性ダンパーを速度比例型のダンパー、鋼材の曲げやせん
断変形を利用したダンパーや摩擦ダンパーは変位比例型ダン
パーと呼ばれる。ビンガムダンパーは、速度比例型と変位比例
型ダンパーの特性を合わせ持ち、減衰力はある速度までは速
度変化に対応し急激に増加し、それ以上の速度では変化が穏
やかになる。今回の試験に使用したビンガムダンパーを図-1
に特性を表-1に示す。
図-2 試験装置概要図
図-3 リンク機構
図-1
ビンガムダンパー概要図
表-1 供試体の仕様
定格速度
定格容量
最大ストローク
表-2 アクチュエーター能力と最大加振能力
アクチュエーター能力
1.2 m/sec
600 kN
±300 mm
リンクによる増幅率
1:2.25
3.試験計画
本試験では、アクチュエーターの最大加振速度を超えた条
件で行うため、図-2および図-3に示すようにリンク機構を用い
ることで、加振速度を 2.25 倍に増幅させる。アクチュエーター
の仕様と最大加振の仕様を表-2に示す。本試験の加振は正
弦波とし、試験の種類により振動数を 0.48Hz から 1.91Hz、振
幅を±50mm から±280mm の組み合わせで加振速度を変化さ
せて実施する。加振条件を表-3に示す。
4.試験結果
(1)速度依存
上述の加振条件による試験結果より得られた、加振速度―抵
抗力関係を図-4に示す。図中に本ビンガムダンパー設計式を
水平荷重±1500kN
水平変位±1000mm
加振速度 1.0m/sec
最大加振荷重±654kN
最大加振速度 2.25m/sec
最大加振振幅±2250mm
表-3 加振条件
試験種類
振幅依存性
振動数依存性
繰返し振幅
振幅
(mm)
±50
±100
±200
±280
±100
±100
±100
±100
±50
振動数
(Hz)
0.48
0.48
0.48
0.48
0.24
0.48
0.95
1.91
0.48
加振速度
(m/sec)
0.15
0.30
0.60
0.84
0.15
0.30
0.60
1.20
0.15
入力波数
4
4
3
2
4
4
4
4
200
Design of seismic control using roof garden as mass damper
Part 3 Test on the efficiency of a damper for high velocity
ISHIZUKA Kaoru , KONDO Toyoshi, , HAYANO Yujiro, SUZUKI Kiyoharu, FUJIU Sigeo , SHIKI Kazuaki
最大加振
±280
1.02
1.80
1
1000
F max=707.4
最大振幅
(mm)
279.0
最大抵抗力
(kN)
707.4
温度上昇
(℃)
5.1
抵抗力 (kN)
F =589.16V 0.1
0.24
0.48
0.95
1.91
1.02
(Hz)
(Hz)
(Hz)
(Hz)
(Hz)
100
0.1
1
速度 (m/sec)
10
図-4 加振速度―抵抗力関係
エネルギー吸収量 (kN・mm)
800000
700000
図-7 最大加振試験結果(1.02Hz±280mm)
600000
500000
5.まとめ
400000
0.24
0.48
0.95
1.91
300000
200000
100000
表-5に抵抗力およびエネルギー吸収量の、試験結果と設計
値の比較値を示す。
表-5 試験結果
(Hz)
(Hz)
(Hz)
(Hz)
振動数
0
0
50
100
150
振幅 (mm)
200
250
図-5 振幅―エネルギー吸収量関係
図-6 履歴曲線(0.48Hz±100mm)
(2)振幅依存
本試験による振幅―エネルギー吸収量関係を図-5に示す。
速度による差はあるものの、吸収エネルギーは振幅に対してほ
ぼ比例関係を示し、変位比例型ダンパー的な特性が見られる。
また、履歴曲線の一例(振動数 0.48Hz、振幅±100mm)を図6に示す。
(3)最大加振
最大加振試験(振動数 1.02Hz、振幅±280mm)の結果を表
-4および図-7に示す。表-4には最大の片側振幅を示す。図7に示す履歴曲線より、最大速度 1.8(m/sec)のもとで最大振幅
まで安定した特性を示すことが確認出来る。
表-4 最大加振試験結果
実振幅
300
(Hz)
0.48
0.48
0.48
0.48
0.24
0.48
0.95
1.91
(mm)
±50.9
±100.2
±192.2
±273.9
±95.7
±100.2
±99.1
±91.5
抵抗力
対設計値
(%)
-0.5
+5.7
+11.6
+13.1
+2.5
+5.7
+6.7
+11.0
エネルギー吸収量
対設計値
(%)
-7.9
+3.6
+11.2
+12.6
+0.03
+3.6
+2.0
+5.1
また、本試験結果から以下のことが確認された。
・速度特性(図-4参照)として、特性式 F=589.16×V0.1 に対し
高速域での抵抗力が高くなる傾向を示し、その設計値に対す
る比率は約+13%であったが、全体的にはほぼ設計値通りの
結果であった。設計クライテリアは 10%であるが、製作精度を
高くすることでこれには対応出来ると考えられる。
・最大加振試験の結果、抵抗力 707.4kN に対しダンパーに異
常は見られなかった。
・本試験における最大温度上昇は 15℃であり、性能に及ぼす
影響は無かった。
(その1)の建物で採用されるダンパーと、本試験体は最大減
衰力など仕様に若干の違いはあるが、今回の試験によってビ
ンガムダンパーの主要性能はほぼ確認することが出来たと考
えられる。
これからの課題としては、より製作精度を高め、高速域での特
性が設計クライテリアを満足出来るようにしていく必要がある。
*1 森ビル株式会社 設計部 構造設計グループ
*2 株式会社 山下設計 第二構造設計部
*3 オイレス工業株式会社
Mori Building Co.,LTD Design Dept Structural Systems
Yamashita Sekkei Inc. Structural Design Dept
OILES Corporation