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理科教育におけるロールプレイとその可能性

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科教研報 Vol.23 No.5
理科教育におけるロールプレイとその可能性
The Possibility of Role Playing in Science Education
内ノ倉
真吾
静岡大学教育学部
UCHINOKURA,Shingo
Faculty of Education, Shizuoka University
[要約] 第一に、ロールプレイの背景として、
「遊び」を教授手段化することによって、伝
統的な知識伝達型の授業スタイルの変容が必要である一方で、「遊び」の本性が変容され
うる可能性があることを確認した。また、ロールプレイにおける身体表現および言語表現
という行為は、レトリックを基盤とした認識活動があることを指摘した。第二に、遊びと
いう観点から、従来のロールプレイのカテゴリーを拡張し、その具体例を整理・提示した。
第三に、これまで認められてきたロールプレイによる教育的な効果に加えて、今後、理科
教育では、内容や文脈に即した社会的スキルや、オーディエンス意識などの言語スキルの
育成、対話を重視した理科授業の促進という点から、教授方法としてのロールプレイの重
要性が高まることを指摘した。
[キーワード]
1.
ロールプレイ
遊び
社会的スキル
はじめに
言語スキル
教授ストラテジーとしてのロールプレイが広く取り
一般的に、ロールプレイとその活動としてのロー
入れられているものの、その理論的な背景などが十
ルプレイングは、カウンセリングや一般的な社会的
分に検討されていない可能性が示唆されるのである。
スキル修得の一つの手法として利用されることが多
もちろん、ロールプレイの背景にある理論などが既
い。また、言語習得のための常套的な手段でもある。
に常識的なものになっている、あるいは、カウンセ
一方、理科教育においても、ロールプレイは、効
リングなどの他の領域の理論を借用すれば十分であ
果的な教授ストラテジーとして考えられている(角
る、とも考えられなくはない。いずれにしても、少
田、2000)。例えば、TIMSS1999 の理科授業ビデオ
なくとも、
日本の理科教育研究関連の代表的なジャー
研究によれば、アメリカの理科授業時間の 23%は、
ナル『理科教育学研究』、
『科学教育研究』には、ロー
興味・関心を喚起する活動に配当されており、その
ルプレイの理論的な基礎を提供する研究は、散見さ
一つのストラテジーとして、ロールプレイが利用さ
れない。
れていることが明らかとなっている(小倉・松原、
2004)。また、日本の高校理科教科書『理科基礎
そこで本稿では、諸外国におけるロールプレイに
自
関する理論的・実践的な研究を参照することを通じ
然のすがた・科学の見かた』では、科学と社会との
て、理科教育におけるロールプレイの背景や実践形
関係を学習することを目的とした章において、
「災害
態、教育上の効果を検討することにしたい。
とその予防」をテーマとするロールプレイングが取
り入れられている(上田、他、2008)。さらに、実際
2.
の授業では、
「疑似体験」、
「表現活動」などの様々な
1)
「遊び」の教授手段化
名称にて、ロールプレイ類似の学習活動が取り入れ
ロールプレイの背景にあるもの
ロールプレイとは、心理療法の観点から見て、
「社
られている。
会生活での対人行動や集団活動において要請、期待
しかしながら、ロールプレイが、様々な呼称にて
される役割行動や、実生活で経験不可能な人生経験
理科授業で取り入れられていることは、裏を返せば、
を、即興的に設定された特定場面で演示させ、社会
11
的適応性、自己統制力や自己確信、自発性などを育
とで学習効果を高めようとするならば、伝統的な知
成・喚起させること」を目的とした活動である(遠
識伝達型の授業スタイルで通用しうる、教師や生徒
藤、1998)。
の心理的・活動的状況は、変容が迫られるのである。
一方、理科教育では、このような心理療法との関
それとは反対に、理科授業も独自の目的や社会的・
連だけではなく、発達や学習との関連でもロールプ
文化的コンテクストを備えた構造体であるため、
ロー
レイが位置付けられるのである。マックシャリーら
ルプレイの「遊び」の側面も制約を受けることにも
によれば、特に「遊び」
(play)の観点が重要となる
なる。すなわち、本来の「遊び」は、表1の第一に
(McSharry & Jones, 2000)
。ここでの「遊び」とは、
挙げられているように、目的自由性がその特徴であ
不真面目や骨休みといった真剣さや誠実さを欠いて
るのに対して、理科授業では、学習内容の修得とい
いる行為、という消極的な意味ではなく、人間形成
う目的のための手段と化してしまい、
「遊び」の本性
において不可欠な行為、というより積極的な意味を
の変容が生じかねないのである(マイヤー、2004:
もった学習活動として認識されるものである。
274-275)。それゆえに、遊びの一形式である、ロー
「遊びとは何か」について(遊び論)は、これま
ルプレイを教授手段化するときに、
「遊び」がもつ人
で多くの教育学者や文化人類学者などによって、人
間形成上の本質的な部分を十全に保持ししようと思
間形成上の価値、労働との関係、教具などの観点か
うならば、理科学習の目的と遊びそれ自体の目的と
ら、論じられてきたテーマである(山田、1994)。マ
を調和させる工夫が必要となる。この調和が達成さ
イヤーによれば、論者によって、
「遊び」の捉え方に
れていないとき、活動の外的形態が「ロールプレイ」
は差異が認められるものの、おおよそ表1のような
であったとしても、それは活動の内的形態、つまり、
認識が共通して認められるという
(マイヤー、
2004)。
学習者の心理的な状態が「遊び」になっていない、
ということになりうるのである
(山田、
1994:11-14)。
表1.「遊び」のもつ特徴
① 遊びは、それ以外の目的から制約をうけるもので
2)レトリックを基盤とした認識活動
はない。
ある対象を別の存在物にて代替・象徴したり、子
② 遊びは、それ自身のもつ目標に方向付けられる。
ども自身が演じる、といったロールプレイ行為の背
③ 遊びは、虚構の世界で行われる。
景には、幅広く比喩や類推などを基盤としたレトリッ
④ 遊びの進行は、多義的であり、開かれている。
ク的な認識活動がある。
⑤ 遊びは、遊び仲間と遊ぶ対象との活動的な関わり
例えば、イギリスの教科書
を生み出す。
Framework Science
の電気回路の単元(キーステージ3)では、エネル
⑥ 遊びは、ルールの承認を必要とする。
ギー伝達を説明するために、水流モデルに代わる、
⑦ 遊びの中で、すべての遊び仲間に対して、同等の
新しいモデルの生成として、次のようなロールプレ
参加の権利と利益が存在しなければならない。
イが行われる(Jagger et al., 2003)。まず、コップ、
⑧ 遊びは、現時点で実現される。
キャンディー、電球の絵を描いたカード、電池の絵
⑨ 遊びは、楽しい。
を描いたカードを準備する。続いて、導線、電球、
理科教育におけるロールプレイも、
「模倣」という
電池の配役を決定し、導線役の生徒には、コップを、
形態をとっているために、広い意味での「遊び」の
電池役の生徒には、キャンディーを渡す。上述の準
一種であると捉えることができ、授業展開のあり方
備が整ったら、
表2のような活動を行うことになる。
や成果なども、上述の遊びの特徴を反映したものに
このロールプレイを通じて、生徒には、電気回路
なると考えられるのである。つまり、ロールプレイ
では電流ではなく、エネルギーが変換されることを
の「遊び」の側面から理科授業の構造が影響を受け
理解することが期待されるのである。このことを理
るのである。ロールプレイを理科授業に導入するこ
解する上では、ロールプレイの行為それ自体には、
12
3.
ロールプレイの分類と具体例
理科教育では、ロールプレイに関連する様々な学
表2.電気回路のロールプレイ
① 各役の生徒が、円形に広がる。
習活動が取り入れられている。この多種多様な活動
② 電池役の生徒は、導線役の生徒のコップに2つず
について、マックシャリーらは、ロールプレイの基
つキャンディーを入れる(電池役の生徒はこれ
礎には「遊び」があることを着目し、表3に見られ
を繰り返す)。
るように、遊びとの連続性を重視した分類を提案し
③ キャンディーを受け取った導線役の生徒は、隣の
ている(McSharry & Jones, 2000)。
生徒にコップを受け渡す。
④ 導線役の生徒は、コップを次々に受け渡す。
表3.ロールプレイの分類
⑤ 電球役の生徒のところまで達すると、その生徒は
1つのキャンディーを食べて、
1つが残ったコッ
プを隣の生徒に渡す。
カテゴリー
ロールプレイ演習の例
ゲーム
カードゲーム、
ボードゲーム、
サイコロゲーム(表4参照)
プレゼンテーション
ラジオやテレビのコメント、
科学演劇(表5参照)
メタファー的ロール
プレイ
アナロジーロールプ
レイ
シミュレーション
人体模型、パントマイム(表
6参照)
科学理論の対象や要素とし
て子どもを利用(表7参照)
組織化されたディベート、模
擬会議、模擬裁判(表 8 参照)
劇場ロールプレイ
「外部」の聴衆の参加を求め
る劇
⑥ 導線役の生徒は、コップを次々に受け渡す。
⑦ 1 個しか入っていないコップが電池役の生徒のと
ころまで戻ってきたら、その生徒は、新しくキャ
ンディーを 1 個追加する。
⑧ ② ⑦をしばらく繰り返す。
電気に関連する対象や現象が見られるわけではない
ので、何が何に対応しているのか、ある行為がどの
ような行為を象徴しているのか、ということが認識
されなければならないのである。このように別の存
在や行為を通じて、ある対象を認識する過程とは、
まさにレトリック的な認識活動である。電気のロー
ただし、マックシャリーらは、いわゆる実験活動も
ルプレイでは、例えば、電子を人に見立てる擬人化、
ロールプレイの一つに分類しているのだが、ある対
消費されるもの(類)をキャンディー(種)で象徴
象や役割を代替しているという特徴から、少しかけ
化するシネクドキなどの、レトリック的な認識活動
離れているため、ここでは除外してある。なお、一
に支えられているのである。しかも、これらの認識
般的に、
ロールプレイとして認識されているものは、
様式では、必ずしも認知内容が言語化される必要が
プレゼンテーション、メタファー的ロールプレイや
なく、イメージや身体の感覚や経験という水準にお
アナロジーロールプレイに相当する。
アナロジーロー
いても、このような認識活動が進行するために
(Lakoff
ルプレイをシミュレーションロールプレイと呼びこ
& Johnson, 1980)
、ロールプレイの行為自体が一種の
ともあるが(Aubsson et al., 1997)、あるシステムや構
レトリック的な認識活動となりうるのである。それ
造をもったロールプレイに対して、
「シミュレーショ
ゆえに、ロールプレイは、身体表現や言語表現を含
ン」という名称を与える方が適切であろう。
めて、子ども自身の創造性が発露する契機にもなる
もちろん、ここに挙げた例以外にも、これまで提
のである。その一方で、学習内容とロールプレイの
案されてきたロールプレイがある。例えば、科学・
行為との関連づけを誤ることで、誤った理解を生み
技術・社会の相互関係(STS)を扱ったロールプレイ
出してしまうといった、アナロジーやメタファーに
として、アメリカ理科教科書『ケムコム』では、
「水
基づいた推論に特有の危険性が、つきまとっている
の供給」という単元にて、多様なステイクホルダー
のである(Aubsson et al., 1997)。
の役割を設定し、市議会のシミュレーションをする
学習活動が設定されている(アメリカ化学会、1994:
84-90)
。
13
ゲームの名称
切りはり
カードサイクル
マッチングカード
20の質問
ボードゲーム
表4.ゲームの活動内容と単元例(McSharry & Jones, 2000 より)
予測される活動
カリキュラム適用の例
子ども達が正しい順番に切ったり、つけ 理科カリキュラムの全て、例えば、惑
たりする、ごちゃ混ぜの言葉、語句、絵 星の名前、人体の骨と組織、周期表、
を含むワークシート
電気記号など。
子ども達がグループで、予め準備された 科学の循環的な側面。例えば、水循環、
情報カードを円環にまとめていく。
炭素循環、窒素循環、血液循環、崩壊
循環、岩石循環、食物連鎖
言葉や絵の描かれたカード。言葉や定義、 一致するものできる科学の側面。例え
もしくは言葉からの連想できるものを書 ば、言葉と定義、放射のタイプとその
いたカードを、テーブルの上に裏返して 放射源、機械とそれらがどのように動
おく。一度に、2枚のカードだけを取る くのか、装置とエネルギー変化、組織
ことができる。子ども達は、カードが一 と機能、電気回路の図と記述、音と音
致するように続ける。最後にたくさんの 源
カードをもっていたほうが、勝ちとなる。
子ども達の背中に言葉や絵を貼り付けて 元素、化合物、混合物、周期表、金属
おく。ラベルに何が書かれているのかを と非金属、骨格、細胞とその機能、分
推測するために、20個までの質問がで 類、エネルギー源、力のタイプ、化学
きる。答えは、はいかいいえに限られる。 方程式、電磁気スペクトル、太陽系の
子ども達は、2人組みで活動する。
惑星
質問とチャンスカード。素朴な競争、ヘ 理科カリキュラムのすべての側面。例
ビとはしご、ブロック破壊、ビンゴ
えば、成長と発達。性教育、化学物質
の属性、生息地、電気回路
サイコロゲーム
子ども達は、いろいろな部分に数字が割
り振られている、科学的な図を集めるた
めに、サイコロを振る。
骨格系、人体の組織、花の部分、周期
表の部分、電気回路
記憶ゲーム
1分間テーブルやトレーに置いてあった
ものを全て覚えておくように求める。
生物、化学、物理の器具やことば、金
属や非金属、おもちゃの動物、様々な
燃料。
表5.プレゼンテーションの活動内容と単元例(McSharry & Jones, 2000 より)
ロールプレイ演習の例 提唱される活動
カリキュラム適用の例
学習発表
個人もしくはグループで、科学的なテキ 理科カリキュラムの全ての側面。例え
ストを読解、分析、報告する。
ば、異なる環境で生き残るために、い
ろいろな動物がもっている性質、α、
β、γ線とその属性、地震と火山活動
ラジオやテレビのコメ 個人やグループで、ラジオやテレビのた 結論や解決策に至るために、どのよう
ント
めに、科学的なスキル、知識、理解を利 にインベスティゲーションが実行され
用して、話しを計画し、伝える。話しは、 たのかを大まかに述べる。将来のため
オーディオカセットやビデオカメラで記 のエネルギー資源の重要性、汚染物質
録するか、クラス全体に披露する。
とそれが地球の将来をどのように壊し
ているのか、健康的な食生活とそれが
意味すること
科学演劇
クラスやもっと広く学校の聴衆の前で演 科学史上の人物のライフヒストリー。
じるのにふさわしいカリキュラム領域を 例えば、キュリー、ダーウィン、ファ
記述するために、グループで長短の演劇 ラデー、科学史、発明史、科学が社会
を準備する。
に及ぼす多くの影響、科学の利用の倫
理的な考察。
14
表6.メタファー的ロールプレイの活動内容と単元例(McSharry & Jones, 2000 より)
個人もしくはグループがそれぞれ形作る。 金属や非金属の属性、生命プロセス、
もしくは、感情や物理的な属性を表す形 石のタイプ、細胞構造と機能、薬のタ
状や態度へと、クラス全体で作り上げる。 イプとその効果、色。
パントマイム
生徒一人が、シナリオをパントマイムす 理科カリキュラムのいろいろな側面。
る。残りのクラスの生徒は、内容を推測 例えば、実験室での安全、装置のタイ
する。
プ、分類、惑星とその他の天文体。
人体彫刻
表8.原子力問題のシミュレーションの役割例
(McSharry & Jones, 2000 より)
役割
基本的な考え方
科
目
学習内容
政府役人
生
物
化
学
循環器系、細胞の構造と機能、酵素反応、
食細胞、蒸散、抗体・抗原反応、捕食など
原子構造、原子価、濃度効果、表面積効果、
気体法則、拡散など
物
理
表7.アナロジーロールプレイの単元例
(McSharry & Jones, 2000 より)
原子力基地の建設に熱心である。
・国は、もっと電気を必要とする。
・新しく安全な技術を導入する必要がある。
・セラフィールド社のリサイクルにもっと
燃料を使う必要がある。
・ここは孤立した領域であり、どこに建て
るよりも影響が少ない。
地域住民 原子力基地の建設に反対である
の連盟
・居住する上での危険性が怖い
・祖国の土地をダメにしたくない。
・観光収入の損失が怖い。
・輸送物で村を溢れかえらせたくない。
科学者
地球の友
(環境団
体)
地方公共
団体首長
地域のガ
ン病院勤
務者
4.
運動、物質の状態、拡張、電気回路、色の
吸収、屈折と反射、惑星と月の運動など
ロールプレイによる教育的効果と可能性
一般的に、教授手段としてのロールプレイについ
ては、ラドロースが提案したような教育上の効果が
あ る と 考 え ら れ て い る ( Aubusson & Fogwill,
原子力基地の建設に熱心である。
・重要で新しい研究を遂行する必要がある。
・新しい技術で研究したい。
・原子力が安全であることを示すのに熱心
である。
・エネルギーの再生可能な形態を利用する
ことに熱心である。
原子力基地の建設に反対である。
・核汚染に、特に、野生生物や地域住民へ
の影響を心配している。
・国の中には既に基地が十分にある。
・チェルノブイリのような事故を心配する。
原子力基地の建設に熱心である。
・地域の雇用が大幅に改善されるであろう。
・領域の歳入が大幅に改善されるであろう。
・設備の改修にお金を使える。
・住宅投資へとお金を使える。
原子力基地の建設に反対である。
・人々やその家族へのガンの影響が増えて
いることに気付いている。
・ガンの処置の研究を進めるために利用で
きる、別枠のお金がないことを心配してい
る。
・患者が保障されない、ということを心配
している。
・患者が予測通りに増加すると、病院のベッ
ドが十分にないことを心配している。
2006:93)。
表9.ロールプレイの教育的効果
① 生徒に自分自身の現実性を創造することを提唱
する。
② 他者と相互作用する能力を育成する。
③ 生徒の個性を脅かすことがない。
④ 生徒の動機付けを高める。
⑤ 生徒の自信(self-confidence)を形成するの
に役立つ。
⑥ 生徒に自分自身の経験を授業に持ちこむことを
認める。
⑦ 楽しい。
⑧ 誤った理解を特定するのに役立つ。
⑨ 内気な生徒に、積極的に参加できるような仮面
を与える。
これ以外に、特別活動の時間などで中心的に育成
されている社会的スキルについても、ロールプレイ
を利用することで、理科教育の中でも、ある内容や
コンテクストに即しながら、社会的スキルの育成が
可能になると考えられる。例えば、ロールプレイの
例にも見られるような STS 的トピックとは、現実世
界では、多様な利害関心が衝突する問題であり、扱
いには配慮を要する。一方、ロールプレイは、ある
生徒の人格や価値基準を直接的に問題にすることな
15
く、価値の問題を扱えるという利点がある。もちろ
ら、教授方法としてのロールプレイの重要性が高ま
ん、理科教育においても、科学的スキルだけではな
ることを指摘した。
く、社会的スキルの育成が重要であるとした場合に
謝辞
本研究の一部は、科学研究費(課題番号 21730691)
の助成を受けて行われたものである。
限られるのだが、ロールプレイは、重要な教授方法
の一つとなりうる。
ロールプレイは、言語スキルの育成という点から
も、今後重要性を増して来るであろう。例えば、身
引用文献
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What
Happens
When
Students
Do
Simulationn-role-play in Science?, Research in Science
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Aubusson, P. J., Fogwill, S. (2006): Role Play as
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小倉康、松原静郎(2004):TIMSS1999 理科授業ビデオ
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Yore, L.D., Bisanz, G.L., Hand, B.M(2003): Examining
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山田敏(1994):『遊びと教育』、明治図書。
体表現を中心としたロールプレイであっても、その
活動によって、言語表現が活発になる(Aubsson et al.,
1997)
。このことは、ライティング活動において、
「書
かない」という心理的な問題を軽減できたり、理科
学習のコンテクストにて、外国籍児童を含む、言語
能力の乏しい生徒の言語スキルを発達させられる可
能性を示唆しているのである。また、多様な役割が
割り当てられることによって、言語活動において重
要なオーディエンス意識(相手意識)の育成など、
言 語 ス キ ル を 育 成 す る 学 習 環 境 (Yore et al.,
2003:716-717)が豊かになるに違いない。さらに、
PISA2006 年調査(国立教育政策研究所、2007)で課
題として浮き彫りになった、
「対話を重視した理科の
授業」への改善策の一つとしても期待できる。
5.
おわりに
本稿では、諸外国におけるロールプレイに関する
理論的・実践的な研究を参照することを通じて、理
科教育におけるロールプレイの背景や実践形態、教
育上の効果を検討した。
第一に、ロールプレイの背景として、
「遊び」を教
授手段化することによって、伝統的な知識伝達型の
授業スタイルの変容が必要である一方で、
「遊び」の
本性が変容されうる可能性があることを確認した。
また、ロールプレイにおける身体表現および言語表
現という行為は、レトリックを基盤とした認識活動
があることを指摘した。第二に、遊びという観点か
ら、従来のロールプレイのカテゴリーを拡張し、そ
の具体例を整理・提示した。第三に、これまで認め
られてきたロールプレイによる教育的な効果に加え
て、今後、理科教育では、内容や文脈に即した社会
的スキルや、オーディエンス意識などの言語スキル
の育成、対話を重視した理科授業の促進という点か
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