The Australia-Japan Dialogue on Disaster Management

災害対策に関する豪日意見交換会:企業と政府間の状況在日
オーストラリア大使館
2012
災害対策に関する豪日意見交換会:企業と政府間の状況
2012 年 11 月 30 日、在日オーストラリア大使館
プログラム
歓迎の言葉、開会挨拶
スピーカー:
Mr Jason Hayes (PwC)
Professor Andrew O’Neil (グリフィス大学アジア研究所)
セッション 1: 豪日協力:二国間関係の元帳
司会:
Professor Andrew O’Neil
スピーカー:
Mr Yoshi Kodama (外務省アジア大洋州局大洋州課課長)
Professor Nick Bisley (ラトローブ大学)
セッション 2: 災害と事業継続管理:観点の共有
スピーカー:
Mr Kazuaki Niwa (PwC)
Mr Nobuyuki Tsuji (PwC)
Mr Shaun Wilcocks (PwC)
セッション 3: 災害と政府間協力:日本とオーストラリアの経験
司会:
Associate Professor Anne Tiernan (グリフィス大学)
スピーカー:
Mr James McGowan (クイーンズランド州コミュニティ安全省前長官)
Mr Junichi Yoshina (埼玉県県民生活部長)
セッション 4: 組織の復活力と最悪のシナリオ
スピーカー:
Mr Scott Williams (PwC)
セッション 5: 災害リスク管理の枠組に向けて
スピーカー:
Mr Scott Williams (PwC)
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ディスカッション概要
はじめに
本イベントの目的は、日本とオーストラリアが災害対策の分野で各々直面する課題と企業に
とって災害がどのような意味をもつかについて意識を高めるために、両国の専門家同士の対
話を促進することであった。日本とオーストラリアでの自然災害は復活力を試したと同時に、
二国間関係の強さを証明した。日本とオーストラリア、特にクイーンズランド州は経済と貿
易の面で強いつながりがあるが、豪日関係は単なる取引以上に深いものであり、両国は基本
的価値観を共有している。人と人との絆は固く結ばれており、教育・観光市場は重要である。
両国において最近自然災害が発生し地域社会と企業の継続性に影響する深刻な被害が生じた。
人口とインフラの分布に関して、クイーンズランド州は世界的に最も分散した国の中で最も
分散した地域である。それゆえ、様々なレベルの政府が協調して大規模な災害対策を行うと
いう難題は特に重要であり、そのような環境で事業を継続することは大きな課題となる。最
近クイーンズランド州で自然災害がもたらした状況は日本で圧倒的な数の人々が影響を受け
た状況と比較すれば小規模に見えるが、それでも災害対策に関して学んだ教訓を分かち合う
べき範囲は大きい。
企業にとって、このように不確実な環境で生き残り成功するためには業務全般に渡る復活力
が必要である。すなわち、広範なリスク事象(予期せぬ災害を含む)の影響を軽減して回復
し、変化を予測して適応し、リスク事象に隠された機会を捉えることができなければならな
い。多数の企業はリスク評価を時々、多くの場合は災害後に行うだけである。また、リスク
管理として定着したアプローチでは発生する事象の速度、結合、悪化に対応することが困難
である。
知識を得て情報を交換する機会は貴重である。ワークショップの主要目標は、災害対策と復
活力の分野に関する既存の知識バンクに追加貢献することであった。
セッション 1: 豪日協力:二国間関係の元帳
日本の観点
オーストラリアは日本にとって戦略上重要な国である。豪日関係の側面は 3 つの柱、すな
わち経済的利益、政治・戦略的利益、人材交流に分類することができる。経済的利益の点で、
オーストラリアは日本のエネルギーと食料の主要供給国である。政治・戦略的領域では、日
本とオーストラリアは基本的価値観と利益を共有し、戦略的パートナーとしてアジア太平洋
地域の平和と安定を維持するために積極的な役割を果たすことが可能である。また米国は両
国共通の同盟国であり、日本とオーストラリアの軍隊は災害対策において重要な任務を遂行
する。人材交流も次のような面で大切である。
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オーストラリアに住む日本国民は 7 万 4 千人(世界第 3 位)
オーストラリアに所在する日本企業は 694 社
姉妹都市提携は 109 件
オーストラリアの日本語学習者の数は 28 万人(世界第 4 位)
オーストラリアと日本の共通利益は長期に渡る信頼関係と、天然資源やエネルギー、農産物
を含む補完的な経済関係に基づいている。日本はオーストラリアにとって最大の貿易黒字を
生む取引相手であり、第 2 位の貿易相手国である。この関係をさらに強化するのが継続中の
自由貿易協定(FTA)交渉である。共通の経済的利益に加え、オーストラリアと日本は人道
的、安全保障、防衛面での協力においても類似の方針をとっている。さらにオーストラリア
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と日本は APEC、EAS、ARF、PALM、NPT、気候変動、国連安全保障理事会、G20、WTO など
の地域・国際フォーラムを通して世界的舞台で協力している。
二国間協力の歴史は有力な戦略的関係の一層の深化につながっている。豪日両国による災害
支援協力を通して多くの教訓が得られた。また、3・11 のような災害の影響によって、日本
とオーストラリアの間での協力と協同の現状が注目され改善した。経済的支援および軍隊に
よる支援や国際救助隊のコーディネート(宿泊、交通手段、食料と水を含む)など災害対応
上の課題は、ベストプラクティスと協力を分かち合うことができる分野である。例えば、オ
ーストラリアは国際救助隊のコーディネートが得意で軍隊にバックアップされた自給自足の
民間救助隊を派遣することができるため、被災地に余分な負担をかけることなく支援活動を
行うことができる。
日本には多くの規制と手続きがあり、最近の自然災害発生後にその欠点が顕在化した。例え
ば、税関と検疫は救助隊と装備を迅速に受け入れ手続きする必要がある。これに含まれる救
助犬は厳密な検疫手続きを経なければならない。経験が示すように災害救助では発生から最
初の 72 時間が極めて重要である。もう 1 つの例は交通の点で、運転免許証と車両モデルに
ついて規制上の要件を緩和する必要がある。また医療の面でも、医師が至急必要となるが
様々な国で医療活動を行う資格がない場合もある。これら災害対応上の国相互の権限に関す
る課題全ては現在討議中で次回の 2+2 ディスカッションに含まれる予定である。
オーストラリアの観点
オーストラリアと日本の間の経済協力は 1970 年代および 1980 年代に始まり、当時は主に
市場としての関係だった。また APEC などの地域フォーラムも開始した。防衛面での公式な
関係が発展したのは 1990 年代からだが、機密情報の共有など非公式な連携の歴史はかなり
古い。さらに ASEAN、CSCAP などの公的組織を通しての協力や米国主導による地域内交流も
行われた。国連平和維持活動における協力によって安全保障上の関係が強化された。
今日の経済協力はやや混迷気味である。FTA の締結は主に農業分野で合意に至らず延期され
ている。しかし防衛上と安全保障上の協力は大きく発展した。安全保障協力に関する共同宣
言(JDSC)が 2007 年に発表され、災害救援活動はこの合意がまさに真価を発揮した時であ
った。これは協力を推進し戦略的利益を一致させるものである。もしこの合意がなければ規
制によるハードルは一段と高かったであろう。結果的にオーストラリア国防軍は最近の日本
の地震に迅速に対応することができた。
二国間協力は、より広範な地域の安全問題など多くの理由で拡大した。例えば、地域内での
中国の台頭と米国の衰退や日本国内の変化などである。これらの影響で日本とオーストラリ
アの関係は一段と強固になると思われる。
全体討論
FTA と災害対策
延期中の FTA 交渉は日本における歴史的な政府の交代と改革や最近の地震など多くの理由
から、前向きな状況に転じる可能性がある。FTA に災害対策(災害準備および災害支援と復
旧)を含めるべきかという問題が提起された。FTA の大部分は貿易・投資分野で法律と環境
に関する問題も含まれる。災害支援と災害準備は新分野であり含めることができる可能性は
ある。災害対策と災害支援活動は規制の面で強い関係がある。災害準備と寄付される支援物
資の手配および効率化に関しては、法的枠組よりも非公式な合意の方が適している。しかし、
貿易と災害支援の連携問題についてはもっと公式な合意が考えられる。貿易に関する政治的
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憂慮は戦略的関係をより広い範囲で見直すことによって軽減される。例えば、イラクの国家
再建のための豪日軍による協力は経済的パートナーシップに貢献した。
政府間の問題
国際支援に関連して問題となるのは政府間の関係であり、貴重な時間がロジスティックスに
関する話し合いに費やされてしまうことである。業務とコミュニケーションの準備の点で日
本は改革が必要である。例えば最近の地震では、官僚組織には実行力が不足していた。1 つ
の例は、ある県から別の県への交通関係手続きを緩和する必要性である。この問題は日本だ
けに限られる訳ではない。
豪日協力の将来
新しい安全保障協定の可能性と技術移転を含めるべきかいう問題が提起された。交流の拡大
に伴い複数の合意が 1 つに集約される可能性は高い。豪日関係が将来進む可能性のある道は
2 つある。1 つは日本、オーストラリア、米国の間で現在よりも大きな責任を分担し大規模
で正式な交流を盛んに行う同盟関係である。より穏健な道としては、交流は拡大するが人道
的なレベルなどもっと低いレベルにおけるものなどである。このような交流は共通する中程
度の問題への対処について協力するなどである。
セッション 2: 災害と事業継続管理:観点の共有
日本での地震:企業への影響と事業継続管理の価値(BCM)
2011 年 3 月の地震と津波を契機に企業は考え方を改めた。PwC のあらた基礎研究所は、将
来企業に影響をもたらすと思われる経済・社会の基礎的な流れに関して中長期的視点に立っ
た理論的かつ実務的な調査研究を行った。これには復活力や事業継続性などのトピックが含
まれる。
東日本大震災の教訓
被害の規模:90%復旧までに要した日数:
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電力:6 〜10 日
電話:14 日
携帯電話:14〜20 日
水道:24 日
ガス:34 日
産業別の影響:
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電力:限られたシナリオ:原子力発電所の供給、輪番/計画供給、原子力発電の再
考、訓練の必要性を理解
通信:通信量増大による複数の通信手段停止、ただし連絡が取れ効果的にコミュニ
ケーションできる通信手段(例、ソーシャルメディア経由)もあった、地震に関す
る最新情報を維持することが重要であった
金融機関:重大な影響なし、間接的には主要銀行システムに問題が発生、金融庁
(FSA)は銀行に事業継続計画の再検討を要請し各金融機関は着実に方法を改善して
いる
製造業:特殊製品の代替を見つけるのは困難、サプライヤーを含めた災害準備が必
要、利益性追求の再考、サプライチェーンの再認識が課題
5
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医療:医師、看護師、関係スタッフの不足、人材に大きく依存、医療データ保護の
必要性、人材ローテーションなど異なるシステムとアプローチの利用
本調査研究を踏まえて組織が行うべきこと
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予期せぬ問題に備える:可能性が低いと思われてもリスクの影響は大きい可能性が
あるためリスクを無視しない、他社や公共団体と協力する
効果的なテスト実施:専門家を活用、BCM が通常カバーしないシナリオを使う
現在のリスク枠組を見直す:コストとコントロール(リスク許容度)のバランス、
リスクのカバー範囲がそれぞれ異なるシナリオを使う
リスクからの復活力:事業継続管理の意味を再評価する
復活力と事業継続性の間には共通性がある。企業は BCM の検討時に影響が様々異なる種類
の危機があることを認識する必要がある。
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急激に発生した事象
隠れた危機
業務上の障害
速度の遅い戦略的な市場変化
企業が危機管理に対応する方法は多種多様である。危機管理として考えられる方法の例とし
て以下が含まれる。
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保険
保安警備
監査
安全衛生
システム障害復旧
危機管理
全社的リスク管理
事業継続管理
企業は自社の BCM 戦略の目的を生存から(大半の BCM 戦略の内容)適応、復活力、そして
究極的に新しい発想を得る方向へ転換しなければならない。
変化が難しい理由
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複雑すぎる規制、基準、方法
サイロ型危機管理
不誠実な「トップの姿勢」:経営陣のサポートが必要
第三者的な態度
不安をあおる/無頓着
集団思考
IT 責任者にバックアップをとるよう依頼する方が簡単
変化するための方法:バッファーと適応能力
今日では、CEO、中間管理者、顧客、バランスシートの全てがストレスを抱えている。リス
ク管理の議論が否定的にみなされることもあるが、事業継続性リスクに対処する方法は様々
ある。
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財務面または業務面での「バッファー」を利用し、誤りや障害があっても衝撃を吸
収できる許容範囲をつくる
適応能力:衝撃発生時に実行プロセスとシステムがどのように適応できるかを事前
に考え、戦略的・商業的機会を認識する
復活力と継続性に対する認識を変えることは役員会議の会話を変えることであり、反応とし
て戦術を考えるアプローチ(BCP 計画の低レベル)から、より能動的に戦略を実施するアプ
ローチへ移行し、短期・中期・長期の影響を異なるシナリオで検討する。組織は衝撃に対す
る回復力を以下のような方法で高めた。
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トップダウン方式の姿勢
用語とリスク観の簡略化
自社の重要事項と社内・社外の異なる依存状態を理解する
「バッファー」の場所と衝撃を吸収するゆとりや余裕がない業務の場所を知る
効果のある全社的リスク管理プロセスを備え、リスクに関する情報(例、主要リス
ク管理指標)とそれらを長期間監視する能力を提供する
衝撃への様々な対応策を考案し、変化するリスクに対して適応できるようにする
サプライチェーン:供給がストップする時:自動車業界のケーススタディ
サプライチェーンリスクは日本の地震と津波を契機に表面化し、自動車業界における経済イ
ンフラの一時停止と大規模な供給遅れにつながった。自動車部門での影響は次の通りであっ
た。
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自動車、半導体部品の供給元が被害を受けた
部品管理と部品注文の問題は 3 次および 4 次サプライヤーに集中(1 次および 2 次
サプライヤーは問題を回避したが 3 次、4 次は不可能)
待機と復旧支援を要請
生産の縮小
代替生産を依頼
自動車設計の変更
脆弱なロジスティクス
日本:
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運行停止(鉄道、地下鉄)
渋滞:緊急車両の影響
海外:
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企業緊急アクセスシステム(Corporate Emergency Access System: CEAS)
CEAS データベースに登録
災害レベルに応じて立ち入り許可
シナリオ:首都圏に直下型地震が発生した場合
東京を震源地とする地震が発生した場合のシナリオを想定し、組織が影響を受けていない場
所へ生産を振り替え復旧する方法、またこれを事前に計画する方法を考えた。
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安定した状況へ復帰するための計画に関する要因には以下が含まれる。
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近隣の代替生産先
全国の代替生産先(および必要な追加供給数の計算方法)
調査と計画のために検証と計算が必要
準備活動が必要
このシナリオ分析により、被災地で需要と供給のバランスをとる必要があることが明らかに
なった。
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地震後の 1 ヶ月目および 2 ヶ月目の需要数は通常と比較してそれぞれ 50%、20%増加
する
これらの月間の供給数は製造企業の被害と従業員の避難のため 40%、30%減尐する
このように需要と供給のバランスに関して想定される問題が表面化し、企業はこれらを状況
回復のための要因として考慮する必要がある。
全体討論
ベンチマーキング
業務と復活力に関する評価とベンチマーキングを独自に実施する企業は尐ない。しかし PwC
は数社をサポートしており今後は優先順位が上がると見込んでいる。金融サービス機関はこ
の分野について進んでおり、リスク管理文化、規制圧力、ガイドラインが他部門より発達し
ている傾向がある。
復活力への期待
より高いレベルの倫理、統治、管理を求めるステークホルダーからの圧力に支えられ、BCM
設定によって復活力と透明性を組織内で向上させようとする動きが高まっている。
セッション 3: 政府間協力
日本の経験
日本では被害への主要な対応は市町村が行い、都道府県は支援を提供する。中央政府は都道
府県に加えて同様な支援を提供し財政援助も行う。2011 年 3 月に日本は甚大な被害を受け
被災地の地方自治体は機能不全に陥り防災計画の不備を露呈した。
この災害に際して政府は対処法として初動措置を講じた。第 1 に行き場を失った人々の世話、
第 2 に電力消費を抑制するための停電の実施、第 3 に原子力発電所関連の事故処理であっ
た。これに伴い避難者の受け入れ、放射能制御、パニックの抑制を行った。その後、物資供
給と支援の問題に対処した。
2011 年 3 月、東京では数百万人が帰宅困難者となった。中には 20km まで歩いて帰った
人々もいた。公共施設は一時避難所として利用された。合計 1030 ヶ所の施設が滞在場所と
して使われた。セブンイレブンなど様々な店および指定供給場所が水やその他の物資を徒歩
帰宅者に提供するよう依頼された。また可能な場所に通信手段も提供された。
福島原子力発電所の事故によって電力供給を制限する必要が生じた。これに関して以下が行
われた。
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計画停電
停電の予告
停電を行わない施設の決定
交通信号が止まった場所への警察官出動
発生した課題と問題には以下が含まれた。
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情報が頻繁に変わり伝達が困難であった。
計画停電は実際には無計画停電となった(複雑な送電網システムによる)ため、住
民への連絡が足りず不安が広まった。停電した家としなかった家があったので多数
の苦情が寄せられた。
コールセンターが設置されたが入電数が多すぎてつながらず不満が高まった。
福島発電所の事故は予想外であった。困難な課題の 1 つは福島からの避難者の受け
入れであった。通常、避難者に関する業務は都道府県ではなく市町村の責任である。
全ての地方自治体に避難所の開設が要請されたがそれらの大半はかなり小規模であ
った。大競技場など、都道府県レベルが多数の避難者に提供できる施設が必要とな
った。これらの施設に伴う費用が課題になった。避難所の設置は通例として市町村
の責任とされていた。この規定は現在改正され、都道府県も避難所を設置できるよ
うになっている。
放射能問題にも対応する必要があった。埼玉県は放射能に関する専門知識がなかっ
た。防災マニュアルには原子力発電所が被害を受けた場合の問題についての記載は
なかった。住民に安全対策と除染方法について情報を伝える必要があった。
また、新鮮な水などの物資を提供する必要もあったため自衛隊の支援を利用した。
県内に保管されていた食料を全て集め分配した。一部地域ではメディアの過熱報道
により過剰供給が発生し、他の地域では供給不足や分配問題が発生した。
最後に、供給された物資とニーズのミスマッチが起こった。個人から送られる尐量
の物資は分配が難しく手間がかかり過ぎた。
オーストラリアの経験
両国にとって災害対策は政治的優先事項となった。両政府とも被害軽減と災害対策のための
方法を検討すると共に、個人と地域社会の復活力を拡大する必要がある。
災害による影響とコストも人口増加、経済発展、気候変動のために増大した。気候関連の災
害が発生する頻度は 1950 年のデータ収集開始以来 10 倍に増加した。気候変動は、特にア
ジア太平洋地域において気候パターンを一層予測困難で極端なものにすると考えられる。
オーストラリアでは、緊急災害管理の責任は次のように分担されている。
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連邦政府:州または準州の資源が不足し援助が要請された場合に支援を提供する。
さらにセーフティネットとして災害支援および復旧のために財政援助を提供する。
州政府および準州政府:自然災害への準備対応と復旧に関して主要責任をもつ。
地方自治体:州政府と協力し地域の防災計画と準備を遂行する。
緊急災害管理では国の政策と財政援助の枠組によって以下を規定している。
 連邦政府が関与すべき場合とその方法に関する明確な基準および手順
 主要責任は州政府および地方自治体が有する
異なる階層の各政府が果たすべき役割と責任を規定によって明確化し理解を共有した上で、
補完原則と管轄能力を尊重すれば、効果的な結果がより得られやすい。
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クイーンズランド州における
災害対策の枠組
クイーンズランド州における
最近の災害対応の効率性は、
オーストラリアの災害対策シ
ステムに基づく各政府間の政
策能力に従っていた。政府間
協力の枠組に体制、通例の手
順、関係が規定されているた
め準備段階での調整が容易で、
より効果的な危機対策を基本
的に「ボトムアップ」方式で
行うことが可能であった。
互いから学べる教訓
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復活力の向上に政策の焦点を当てるべきである
政策と財政に欠けているのは予防と軽減
災害対策計画の想定範囲を狭める
準備、対応、復旧に渡るリスクに「全ての危険を全ての機関で」対処するアプロー
チが必要
対応および復旧計画はいずれも予測可能な事象の前と予期せぬ事象の発生日に開始
すべきである
特にコミュニケーション面でのリーダーシップの重要性
災害対策システム、業務方針、プロセスおよびシステムの中に技術を統合すべきで
ある
「関係」は重要な成功要因である
オーストラリアにおいて、COAG(オーストラリア政府間評議会)の災害対応力のための全
国戦略(National Strategy for Disaster Resilience)は、災害が人々、環境、経済に与える影響
を減らすための効果的で実用的なステップを示している。これは緊急サービスの対応に集中
する伝統的なアプローチから、災害を予防し軽減するために全レベルの政府を含む地域社会
の全部門が責任を共有するという復活力へ移行する内容である。確実に地域社会の対応活動
が現地の知識を踏まえて安全に行われ全ての機能を補完できるようにするために、全段階で
「全ての危険」を「全ての機関」で対処するアプローチと効果的な関係を示している。
オーストラリアの災害対応政策における深刻なギャップは、「全ての危険」に集中し復活力
を向上する政策と財政援助の枠組を統合する必要があることである。この統合不足のため災
害対策および予防(対応と軽減)政策上の深刻なギャップが生じている。その結果、予防と
準備段階の間の財政配分にゆがみが生じ、対応と復旧に集中してしまっている。
経験が示す通り自然災害計画の想定範囲は狭すぎるものである。「全ての危険を全ての機関
で」対処する全範囲のリスクへのアプローチを、コミュニケーション、コーディネーション、
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相互運用性、情報照合および共有についての対応機関の組織文化上の障壁に関わらず、効果
的に運用化する必要がある。
災害発生中および発生後に最も優先順位が高いのは、業務上のリーダーシップを明確化する
ことである。実行責任者の指名はその権威を確立するために極めて重要である。任命を公的
な場で速やかに行うことは各対応機関での混乱を最小限にとどめ、行政機関が事態を掌握し
ていることを市民に知らせることで安心させ、対応の不備が生じた場合でも「責任転嫁」の
余地を減らすことにつながる。
また、災害発生中および発生後の政治的リーダーシップも極めて重要な成功要因である。政
治的主導者は対応と復旧に専念するが、課題はどうやって「平常時」の責務に関心を引くか
である。
正確で信頼できる最新情報は、緊急サービス隊の出動と同様に準備対応段階においても重要
な機能であると今や考えられている。また技術も統合する必要がある。
非常に優れた法律、業務手順、構成モデルがあっても、関係が悪くコミュニケーションが混
乱すれば十分な対応ができるとは限らない。関係は「平常時」に築き全機関および担当者の
役割と責任を明確にする必要がある。訓練は特定のスキルだけではなく災害対応関係者の役
割と関係にも集中するべきである。
復活力のある地域社会をつくるために調査は不可欠である。オーストラリアでは軽減戦略お
よびプロジェクトの経済的利点に関する最新の学術調査と、災害の影響を受けた海外の国と
の共同研究が必要である。
オーストラリアと日本は、知識と経験の共有、状況判断力と情報収集力の向上、共同研究、
アジア太平洋地域内への参加拡大によって協力関係を築くことができる。
全体討論
決定を可能にし優先順位を設定するために重要な調整センター
政府機関を含む全ての組織を共同設置し、全ての情報を 1 つのセンターに集約することが可
能である。埼玉県では災害発生中および発生後に情報を共有することの重要性を学んだ。現
在では映像機器を備える危機管理防災センターが設置されている。
投資に必要な財源と調査
投資の集中先は災害の影響緩和に向けるべきである。これは堤防建設や、津波警報システム
などより迅速な対応を可能にするものへの投資といった、過去の方法の踏襲を意味する場合
もある。また、建築基準法や市民の意識向上、災害時の役割理解に関することもある。災害
緩和に投資することで得られる経済利益を確定するために調査が必要である。
改善と教訓
日本には多くの規制と規則があるため迅速に決定を下すことが困難な場合もある。状況によ
っては地方自治体にもっと大きな権限を与えることが必要であるが、財源は国が管理してい
る。災害時に政府が権限と財源の一部を被災地の自治体に移譲することは有益であると思わ
れる。オーストラリアの状況では、役割と責任は適切に決められているようである。コミュ
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ニケーションは確実に行われている。しかし、オーストラリアは日本で発生したような大災
害による試練をまだ受けていないことを考慮しなければならない。
セッション 4: 組織の復活力と最悪のシナリオ
組織内の復活力について根本的に考え直す必要が今ある。災害に強いシステムと構造を設計
し実行すればよいだけではなく、災害に強い人々を育成する必要がある。組織のあらゆるレ
ベルで相互関連する非常に複雑で破壊的な事象を想定し、指揮命令系統のサイロ型組織構造
から発想を転換することが不可欠である。
過去 250 年間に渡り、人類は経済活動、海外投資、人口拡大、自動車の増加を含む多くの
分野で達成の速度を高めてきた。ただし、この進歩には重い代償が伴った。この時代は「影
響を伴う成長」と定義されている。つまりこれらの達成に伴って、酸素を供給する熱帯雨林
の破壊、気候を一層不安定にする温室効果ガスの排出、淡水の不足、異常気象を引き起こす
気温上昇の速度も高まった(人口密度の高い北半球で特に顕著)。
残念ながら、究極的に内部だけで動くクローズドシステムで経済活動を行い天然資源を使用
することによる超拡散的な成長の時代は、結果として食品系、水系、海洋生態系、金融シス
テムなど人間が作り出した体系の崩壊をもたらすことになる。超拡散的な成長の時代に作ら
れた全システムは、革新と適応の速度がそれを継続させるシステムを維持するために必要な
資源の枯渇の速度よりも遅くなるにつれて崩壊する。これは将来の事業戦略、リスク管理、
投資判断について大きな影響を及ぼす。
問題は、より大きな事象に備え対応するために組織レベルで何ができるかということである。
EVIT は価値の共有という概念をもつことで組織内の復活力を高めるための変化の枠組であ
る。これまでに述べた不確実性の増加に従い、株主価値を超えて明確で幅広い環境・社会価
値へ移行する必要性が生じている。つまりインプットから、持続可能な将来をつくる正しい
インセンティブを備えたインパクトへ移行するということである。
この枠組みを利用して実際に復活力を達成するための 4 つのステップは次の通りである。
1.
2.
3.
4.
教育(Educate)
価値(Value:行動しないインパクトと行動するインパクト)
インセンティブ(Incentivize)
変化(Transform)
情報源:PwC 分析
セッション 5: 災害リスク管理の枠組に向けて
国連では災害対策活動に関する国連組織のフォーカルポイントとして国際防災戦略事務局
(UNISDR)が発足した。UNISDR は災害リスク管理に関する総合的な視点に立って、政府、
産業界、NGO や災害支援団体を統括する。UNISDR と PwC は公共部門と民間部門を連携させ
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る長期プロジェクトに取り組んでおり、これまで兵庫行動枠組を実施し民間部門の資源とス
キルを利用することで協力拡大と標準化アプローチの機会が明らかにあることを示した。
災害リスク管理枠組(DRM-F)は災害前と災害後に分けて、自然災害への「理解」と「対応」
の両方に関わる重要要素を示す。このプロジェクトの目的は、リスク管理プロセスを分析す
るための理論的な共通枠組と、DRM-F 成熟度評価ツールと業務上の意志決定や長期投資に
対する評価を短時間で行うための日次ツールキットを提供するポータルを含む、より実務的
な手段の両方を提示することである。
プロジェクトのこれまでの主要コンポーネントはグローバル企業数社が参加した一連のワー
クショップで、災害前と災害後に民間部門が公共部門と一層効果的に協力する際に生じる課
題の主要テーマについて理解を深めた。テーマの一部は以下の通りである。




全体像と細部:事象に対する広い視野と高度に構造化された視点を災害後に維持す
ることは大きな課題である。
戦略と業務の面:どの国も回復力の向上に強い関心はあるが、防災問題に関する原
則合意とは別の話で、民間部門と協力して合意を運用化することはずっと難しい。
長期と短期:今後 5、10、20 年間の効果的計画を作るために目前の課題よりも先の
ことを考える。これに関していくつかの点では政府よりも企業の方がはるかに優れ
ており、民間部門が主導権を握るべき時を共に理解しておく必要がある。民間部門
は災害が発生するとインフラ面での損失が非常に大きく事業継続が困難となる場合
が多い。
実務家と学者:追加調査の重要性、独立した公共部門のシンクタンクが企業と協同
し障壁を減らして効果的な共通理解を深め自然災害に対応することは有望な分野で
ある。
最後に、このワークショップが示す通り、オーストラリアと日本は互いの経験から学ぶこと
ができる。それぞれがもつ課題のスケールと性質は異なるものの、ベストプラクティスを共
有し、両国が復活力を強化した将来へ進むために役立つ方法の発案と実施にむけて協同で取
り組むことは可能である。
ワークショップ後援:
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