Transaction M&A News 持株会社の組織再編時における事業関連性の 判定について Issue 74, December 2014 In brief 企業買収の手法としては、対象となる資産を直接取得する株式買収や事業譲渡から、会社法上の合併や株 式交換といった組織再編行為を利用するものまでさまざまですが、合併や株式交換といった組織再編行為を 利用する場合には、税法上の適格組織再編に該当することで、買収対象企業若しくはその株主において課 税を発生させずに企業買収を実行することが可能なケースもあります。 グループ外企業の買収における適格組織再編の要件の一つとして、買収企業と被買収企業の事業が相互に 関連していること(事業関連性要件)が求められていますが、昨今、企業グループの経営手法として採用する 企業が多い持株会社体制下での買収で、持株会社自体が買収当事者となるケースについて、当該持株会社 の事業と買収対象企業が営む事業との関連性をどう見るかについて、実務上判断が難しいケースがよく見受 けられます。 本ニュースレターでは、国税庁のホームページで公表された文章回答事例「持株会社を株式交換完全親法 人とする株式交換における事業関連性の判定について」(以下「本件照会」)に基づき、事業関連性の判断に ついての一つの例をご紹介いたします。 In detail 1. 本件照会の概要 H社は、資本関係のないI社を株式交換完全子法人 とする株式交換(以下「本件株式交換」といいます。) を行いました。 株式交換完全親法人となるH社は、傘下の子会社の 経営指導等を主な事業とする持株会社であり、その 子会社には小売業(百貨店等)を営む事業会社が含 まれています。また、株式交換完全子法人であるI社 は、小売業(大規模スーパー等)を営む事業会社で す。 ところで、資本関係のない法人間における株式交換 の適格判定において、株式交換に係る株式交換完 全子法人の子法人事業(当該株式交換完全子法人 の当該株式交換前に営む主要な事業のうちのいず れかの事業をいいます。以下同じです。)と当該株式 交換に係る株式交換完全親法人の親法人事業(当 該株式交換完全親法人の当該株式交換前に営む 事業のうちのいずれかの事業をいいます。以下同じ です。)とが相互に関連するものであること(以下、 「事業関連性要件」)が要件の一つとされています (法令4の3⑯一)。 本件照会では、一見して同一の事業とは判断できな い持株会社であるH社の事業と事業会社であるI社の 事業が、事業関連性要件を満たすか否かについて 照会が行われました。 2. 本件照会における検討の概略 資本関係のない第三者との間で共同事業を営むた めの適格株式交換の要件を満たすためには、事業 関連性について株式交換完全子法人の子法人事業 と株式交換完全親法人の親法人事業とが相互に関 連するものである必要があります(事業関連性要件) (法令4の3⑯一)。 「相互に関連する」ものについてその株式交換が、次 に掲げるイ及びロの要件に該当するものである場合 には、株式交換完全子法人の子法人事業と株式交 www.pwc.com/jp/tax Transaction M&A News 換完全親法人の親法人事業とは「相互に関連する」ものとされています(法規3①③)。 イ 株式交換完全子法人及び株式交換完全親法人が当該株式交換の直前においてそれぞれ次に掲げる要件の全てに該当 すること ①事務所、店舗、工場その他の固定施設を所有し、又は賃借していること ②従業者(役員にあっては、その法人の業務に専ら従事する者に限ります。)があること ③自己の名義をもって、かつ、自己の計算において事業を営んでいること ロ 株式交換完全子法人の子法人事業と株式交換完全親法人の親法人事業との間に、当該株式交換の直前において次に掲 げるいずれかの関係があること ①子法人事業と親法人事業とが同種のものである場合における当該子法人事業と親法人事業との間の関係 ②子法人事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源(事業の用に供される設備、事業に関する知的財産権等、生産技 術又は従業者の有する技能若しくは知識、事業に係る商品の生産若しくは販売の方式又は役務の提供の方式その他これら に準ずるものをいいます。以下同じです。)と親法人事業に係るこれらのものとが同一又は類似するものである場合における 当該子法人事業と親法人事業との間の関係 ③子法人事業と親法人事業とが当該株式交換後に当該子法人事業に係る商品、資産若しくは役務又は経営資源と当該親法 人事業に係るこれらのものとを活用して営まれることが見込まれている場合における当該子法人事業と親法人事業との間の 関係 各社における事業の実体について上記イの要件を充足した上で、持株会社と事業会社の事業関連性については、上記ロ③の 各社の事業について再編後に事業シナジーが見込めるか否かがポイントになります。 この点について、本件照会では、納税者から示された以下の事実関係に基づき、上記イ及びロ③の要件を充足している旨の見 解が示され、これについて当局は当該見解による解釈で差支えない旨が回答されました。 H社及びI社において、本件株式交換の直前において、主要な事業として、それぞれ以下の事業が営まれていること H社:百貨店等を中心とした多様な小売業等を営む子会社に対する経営指導業務及びH社グループ共通のシステム を活用した管理システムの提供等、小売業に係る経営指導等の事業(以下「H社事業」) I社:総合的スーパーマーケット事業(小売業)及び食料品を主に取り扱うスーパーマーケット事業(小売業)(以下「I社 事業」) 本件株式交換後において、見込まれる以下のシナジー効果 H社:I社に対する小売業に係る経営指導等の実施 I社:H社グループ共通のシステムへの統合、経営指導を通じたH社の有する小売業に係るノウハウ等の活用による顧 客サービスの充実及び事業の拡大 (出典:国税庁ホームページ。一部編集して掲載しております。) 3. 結び 上述の通り、組織再編によるグループ外企業の買収における適格組織再編の要件の一つとして、買収企業と被買収企業 の事業が相互に関連していること(事業関連性要件)が求められていますが、昨今、企業グループの経営手法として採用 する企業が多い持株会社体制下での買収で、持株会社自体が買収当事者となるケースについて、当該持株会社の事業 と買収対象企業が営む事業との関連性をどう見るかについて、実務上判断が難しいケースがよく見受けられます。 今回の事例は、I社事業とH社事業の間に買収後のシナジー効果が認められる等、一定の事実関係に基づき判断がなさ れたものですが、一見して事業内容が同一でない企業間の事業関連性については、実務上、判断が難しいケースがあり ます。このため、組織再編による企業買収の実行にあたっては、できるだけ早い段階から専門家を交えた検討が必要にな ると考えられます。 PwC 2 Transaction M&A News Let's talk より詳しい情報、または個別案件への取り組みにつきましては、当法人の貴社担当者もしくは下記までお問い合わせください。 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 〒100-6015 東京都千代田区霞が関3丁目2番5号 霞が関ビル15階 電話 : 03-5251-2400(代表) www.pwc.com/jp/tax パートナー 小野寺 美恵 03-5251-2791 [email protected] パートナー 山岸 哲也 03-5251-2460 [email protected] マネージャー 和田 光正 080-9173-9709 [email protected] 税理士法人プライスウォーターハウスクーパースは、PwCのメンバーファームです。公認会計士、税理士など約500人を有する日本最大級のタックスアドバイザーとして、法人・個人の 申告をはじめ、金融・不動産関連、移転価格、M&A、事業再編、国際税務、連結納税制度など幅広い分野において税務コンサルティングを提供しています。 PwCは、世界157カ国 におよぶグローバルネットワークに195,000人以上のスタッフを有し、高品質な監査、税務、アドバイザリーサービスの提供を通じて、企業・団体や個人の価値創 造を支援しています。詳細はwww.pwc.com をご覧ください。 本書は概略的な内容を紹介する目的のみで作成していますので、プロフェッショナルによるコンサルティングの代替となるものではありません。 © 2014 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 無断複写・転載を禁じます。 PwCとはメンバーファームである税理士法人プライスウォーターハウスクーパース、またはPwCのネットワークを指しています。各メンバーファームは、別組織となっています。詳細は www.pwc.com/structureをご覧ください。
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