粉体テクノロジー第1章実用化へのナノ粒子(PDF

J. Soc. Powder Technol., Japan, 42, 265-268( 2005)
連載講座 Lecture Series
粉体ナノテクノロジー
Powder Nanotechnology
【
】
第1章 実用化へのナノ粒子
1.13
1.
1. 13
導電性ナノ粒子の応用
Nanoparticle for Practical Use
Electroconductive Nanoparticles
柳澤 恒夫
Tsuneo Yanagisawa
応用範囲は広いと考えられる。
1.はじめに
また,ナノ粒子はその表面がバルク材料より活性で
金属酸化物,貴金属など無機材料をナノ粒子化する
あることから,比較的低温度で粒子間の焼結を起こす
ことにより,バルクの材料で見られなかった特殊な性
ことができるという特徴を持つ。このことは,これら
質を帯びるようになりうることはすでに知られてい
の導電性ナノ粒子を用いて導電ぺ一ストを作製すれ
る 1 )。 導 電 性 無 機 材 料 に 関 し て も , ナ ノ 粒 子 化 す る こ
ば,その硬化温度は従来の導電ぺ一ストより低温度化
とにより,その導電性を保ったままナノ粒子独特の性
できることを示唆している2)。
質を持つように工夫することができる。
以下においては,当住友大阪セメント株式会社にお
特に,Mie理論によれば,光の波長より粒径が小
さくなった場合は,ナノ粒子による光の散乱反射が起
こらなくなる。従って,このような導電性ナノ粒子を
ける導電性ナノ粒子を中心に,その具体例,及び,用
途,応用例についてを述べることとする。
用いることにより,透明性のある導電材料を作製する
2.
ことができるようになる。
導電性金属酸化物ナノ粒子
このことは,たとえば膜状の電極に関して,もとも
導電性金属酸化物としては,酸化錫,酸化インジウ
と可視光領域内に光の吸収能を持たない酸化錫や酸化
インジウムだけでなく,バルクでは可視光に対して不
ムなどがよく知られている。また,酸化錫,酸化イン
透明な,金属材料のような導電材料を用いた場合で
ジウムそれぞれにアンチモンや錫をドープすることに
も,ナノ粒子化することにより,光に対する十分な透
より,これらの酸化物内に自由電子を多く発生させて
過率を確保することができることを示しており,その
導 電 性 を 高 め る こ と が で き る 3 ,4 )。 酸 化 亜 鉛 に つ い て
も,純粋な酸化亜鉛では絶縁体に近い抵抗値しか示さ
ないのであるが,アルミニウムなどをドープすること
2004年9月30日受付
により導電性を持たせることができることが知られて
(株)住友大阪セメント 新規技術研究所 新材料研究グループ
(〒274-8601
千葉県船橋市豊富町585)
TEL
いる3,4)。
047-457-0747
<著者紹介〉
平成2年早稲田大学大学院理工学研究科博士
課程修了,工学博士。現在,住友大阪セメン
ト株式会社新規技術研究所新材料研究グルー
ブ所属。
専門:シリカ系ゾルゲル化学、結晶性シリカ
の有機無機複合体の合成.メソポーラスシリ
カの合成,金属酸化物,及び貴金属ナノ粒子
の合成と応用の研究に従事
Vol.42 No.4 (2005)
これらの導電性金属酸化物は,可視光領域にほとん
ど吸収を持たない点に特徴があり,この特徴を利用し
て各方面で透明電極などとしての応用が広く行われて
いる。
導電性金属酸化物による電極の作製は,スパッタ法
や反応蒸着法などの,いわゆる乾式成膜法により成
膜 ・ 応 用 さ れ て い る 場 合 が ほ と ん ど で あ る 4 )。 し か
し,乾式成膜法の場合,導電性薄膜を作製する基板を
( 31 )
265
図2
図1
可視光反射防止原理図
ATOナノ粒子のTEM写真
つものが得られる。
また,ATOナノ粒子の持つ屈折率の高さを利用
圧力調整容器の中に入れて、その中を真空にしてか
ら成膜作業を行う必要があり,その生産効率,特に,
大型基板上への連続的成膜は難しいという欠点があ
し,より低屈折率なシリカの薄膜と組み合わせること
により,膜に可視光反射防止性能を持たせることが可
能となる。この反射防止性能は,空気-膜界面,膜-基
板界面などで反射する光の位相をそれぞれ変化させ
る。
当社では,アンチモンドープ酸化錫(ATO),及び
錫ドープ酸化インジウム(ITO)をナノ粒子化し,そ
れぞれを溶媒中に分散した,各導電性ナノ粒子の塗
布液の開発に成功している。図1は,当社で製造さ
れているATOナノ粒子分散液の透過型電子顕微鏡
(TEM)による像を示している。図1より明らかなよ
て,干渉により反射光をキャンセルさせることにより
発揮されるものであり,ブラウン管など各種ディスプ
レイの表面をはじめとして広範囲の用途に応用可能で
ある。このようにして得られるディスプレイ用帯電防
止可視光反射防止膜は,膜厚が約100ナノメートルで
表面抵抗109Ω/□前後の値を持っている(図2)。
これらの導電性ナノ粒子と低屈折率材料との組み合
うに,当社のATOは粒径が10ナノメートルと特に
わせによる帯電防止可視光反射防止膜は,プラスチッ
小さい上に,高い分散性を持っている。
当社のATOナノ粒子はその分散性の高さから容
易に塗布液化することができ,ここから成膜される
クフィルム,または,板にも応用ができ,現在当社よ
り上市されている。
ATO薄膜としては,帯電防止膜には十分な性能を持
表1
266
さらに,より導電性の高いITOナノ粒子を用いて
ITOナノ粒子分散塗布液,及び,当塗布液により作製されたITO透明電極の性能の一例
( 32 )
粉体工学会誌
図4
銀ナノ粒子例
1)導電性金属酸化物ナノ粒子では得られないよう
図3
住友大阪セメント社製熱線紫外線遮蔽膜
透過スペクトル例
な高い導電率を持った材料を得ることができる。
2)銀を材料として選ぶことにより,ITOより導
電性ナノ粒子自体のコストを低減することができ
インクやペ一ストを作製することにより,印刷法を用
る。
いた透明導電膜のパターニングが可能となる。このパ
3)貴金属ナノ粒子が着色していることを利用して
ターニングされた透明導電膜は,スパッタ法などの乾
カラーフィルターの性質を持たせることが可能と
式法により作製された透明導電膜に迫る性能を持たせ
なる。
ることができることが分かっている(表1)。
導電性ナノ粒子として応用する貴金属材料として
また,導電性金属酸化物ナノ粒子は,n型半導体と
して振る舞うため,それが持つ自由電子に起因するプ
ラズマ周波数より長い波長の電磁波を反射するという
性 質 を 応 用 す る こ と が で き る 3 、4 )。 特 に , 酸 化 錫 や 酸
化インジウムナノ粒子のプラズマ周波数は近赤外線領
域にあるため,上記性質を利用した,透明な熱線反射
膜を作製することができる。当社においては,紫外線
遮蔽材料と組み合わせた塗料をプラスチックフィルム
上に適用することにより生成した熱線紫外線遮蔽フィ
は,銀がコスト面,反応性の両面から有利である(図
4)。その反面,ナノ粒子化することによる反応活性
の高まりにより,たとえ銀といえども比較的穏和な条
件で酸化などの化学反応を起こし,その導電性が失わ
れやすいという特徴を持つ。当社においては,より貴
な金属である金を少量銀ナノ粒子に添加,合金化する
ことにより,銀ナノ粒子に金の持つ特徴を加えて化学
的耐性を向上させることに成功している(図5)。
このようにして得られた貴金属ナノ粒子は,プラズ
ルムを開発し,自動車用,建材用として出荷してい
モン吸収により可視光範囲内に若干の吸収を持つが,
る。その分光透過曲線の一例を図3に示す。
図3より明らかなように,当社熱線紫外線遮蔽フィ
ルムは,熱線,紫外線をほぼ完全に遮蔽すると同時
に,可視光領域においてはほぼ全域で高い透過率を保
つという特徴を持っている。
また,当社では800nm〜1100nmの近赤外線領
域の遮蔽に特化したプラズマディスプレイパネル
(PDP)向けの透明近赤外線遮蔽膜も開発し,PDP
メーカーに出荷を行っている状況である。
3.
貴金属ナノ粒子
貴金属ナノ粒子を導電材料として用いた場合のメリ
ットとして,以下のようなものが上げられる。
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図5
( 33 )
金銀合金ナノ粒子
267
図6
貴金属ナノ粒子を用いた透明導電膜の一例
顔料を用いて色目を調整することにより,カラーフィ
ルター付き電磁波シールド可視光反射防止膜としてブ
ラウン管などに用いられるようになっている(図6)。
また,銀については,製法を工夫することにより
ナノ粒子の形状をある程度制御することが可能とな
図7
板状銀ナノ粒子
る 5 、6 )。 当 社 に お い て は , 図 7 に 示 し た よ う な 板 状 の
銀ナノ粒子を合成することに成功しており,この銀ナ
ノ粒子を利用した導電性超薄膜などの応用について研
究開発を続けている状況である。
多くなされているが,粒径が小さいことから現れる粒
子自体の反応性の高さを利用した用途,たとえば,低
温で硬化するバインダーレスな導電性ぺ一ストなどへ
の応用も期待される。また,その他の,ナノ粒子独特
4.
終わりに
の特徴を応用した応用も将来現れる可能性があり,今
導電性ナノ粒子の応用について,当社で研究開発さ
れているものについて紹介してきた。導電性ナノ粒子
後も注目すべき材料の一つとなっていく分野であると
考えられる。
については,その透明性と導電性を両立させた応用が
参考文献
1)日本化学会:“超微粒子 科学と応用”,学会出版センター
(1985)
2)小 山 賢 秀 : “ ナ ノ ペ ー ス ト : 次 世 代 回 路 実 装 工 法 の 取 り 組
み”,電子材料, 2004年7月号別冊, p.83 (2004)
3)日 本 学 術 振 興 会 , 透 明 酸 化 物 光 ・ 電 子 材 料 第 1 6 6 委 員 会 :
“透明導電膜の技術”, オーム社 (1999)
4)澤田 豊:“透明導電膜の新展開Ⅱ”, シーエムシー出版
(2002)
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5)R. Jin, Y.-W. Cao, C. A. Mirkin, K. L. Ke11y, G. C.
Schatz and J. G, Zheng: "Photoinduced Conversion
of Silver Nanospheres to Nanoprisms.", Science, 294,
1901-1903 (2001)
6)S. Chen, and D. L. Carroll: "Silver Nanoplates: Size
Control in Two Dimensions and Formation Mechanisms.", J, Phys. Chem. B, 108. 5500-5506 (2004)
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粉体工学会誌