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エネルギー効率が高いことは、よりクリーンな明日への第一歩か
他にも世界的な問題が多々ある中で、気候変動対策が最近世界の懸念と関心を一身に集めている。し
かし気候変動は、これまでの製紙産業の運営方法が継続できなくなるという、シンプルかつ重要な事
実を告げる警告としてとらえることもできる。複雑な問題ではあるが、将来に待ち受ける脅威を多方
面から検討し、より持続可能で効率の高い運営に向け、取り組んでいくことが必要である。
NGO から見た持続可能な製紙産業
環境ペーパーネットワーク(Environmental Paper Network: EPN)は、世界中から 100 以上の環境・社
会団体が集まってつくるネットワークである。EPN は、紙製品の市場を大きく変えつつある。EPN
のメンバーである NGO は、ステイプルズやオフィス・デポなどの大手文房具チェーン店から、グッ
チなどのファッションブランド、ランダムハウスに代表される出版社まで、紙製品を購入する主要企
業と協力し、より持続可能な製紙産業の実現に取り組んでいる。それら NGO の「共通ビジョン」で
は、
「責任あるパルプ原料を確保(すなわち動植物の生息地や生態系の価値を保全)し責任ある森林
管理を行うこと」
、
「業界全体のリサイクル率を最大限に引き上げること」
、
「よりクリーンな技術を開
発すること」
、
「製紙産業の社会に与える影響を肯定的なものにし、地域社会や先住民の権利を侵害し
ないこと」という 4 つの基本が掲げられている。
英国に本部を置く NGO「クライメイト・フォー・アイデア」(Climate for Ideas)は、他の NGO や企
業とともに、気候、森林、生物多様性、紙業界に関する最善の科学知識・技術の入手に取り組んでい
る。その代表、ジム・フォード(Jim Ford)氏は、北米、ヨーロッパでの EPN の創設メンバーの一人
である。
(本文)
気候変動は、現在私たちが直面している最も困難な課題と言える。製紙産業が省エネ化へ投資するの
は当然のことだが、今後エネルギー価格がほぼ確実に上がることを考えれば、その必要性はますます
大きくなる。必要なエネルギー量が減れば、エネルギー資源の消費が減るだけでなく、エネルギーを
得るために使用する木材やバイオマスの量も削減される。これは、きわめて重要な課題である。気候
変動対策のための行動は、化石燃料の使用量を減らすことを意味すると同時に、森林に蓄えられた炭
素を維持し、この炭素貯蔵量を歴史的な水準もしくは有史以前の水準にまで戻すことを可能とする。
エネルギー源として木を使い続ければ、炭素貯蔵を枯渇させ、気候変動の大きな原因となることは、
多くの研究で証明された事実である。
「森林破壊」だけが問題なのではない。地球上の炭素貯蔵量全
体が問題なのである。今後、炭素貯蔵量の高い森林に対しては、炭素貯蔵量の特に高い土地の「生態
系サービス」に対する直接支給や税の優遇や減税などの形で、保全のための経済的援助が導入される
ことも予想される。
環境負荷をどうやって減らすべきか、製紙業界は新たな方法、また場合によっては古い方法を、常識
にとらわれずに検討していくことが懸命であろう。農業から出る残渣を紙原料として利用することも
真剣に考えてみる必要がある。リグニンの含有量が低い農業残渣を使用することで、エネルギーや化
学物質の使用量が削減されるからである。また、農業残渣は廃棄物として扱われることが多いため、
森林に残しておくべき木を使用する場合に比べ、安価な原材料となる。
紙パルプ産業は、新技術の開発にも積極的に取り組んでいかなければならない。有望なアイデアはい
くつもある。例えば、紙の乾燥時の総エネルギー使用量の削減は、エネルギー消費削減のための重要
ターゲットである。このような技術革新の実現には、産業界がこれまで以上に R&D や投資に献身し
ていく必要がある。しかし同時に、森林の炭素貯蔵を脅かすことなく製紙業界に継続可能な未来を与
え、環境保全に大きく貢献することも可能となる。
持続可能な発展に向けて
(p10)
「持続可能な発展」とは何を意味するのか。「現在と未来の世代の人々に快適な生活の機会を保障す
ることを目的とした、地球、地域、地方レベルでの、継続的かつ管理された社会的変化」と定義する
ことができるかもしれない。持続可能な発展には経済の持続可能性が必要であり、それは持続可能な
発展におけるその他全ての局面にも必要な基盤を提供する。その結果、持続可能な発展は赤字財政支
出や資源の枯渇のない、安定した経済成長の上にのみ築くことができるのである。持続可能な発展は、
「生態学」
、
「社会」
、
「文化」という 3 つの機能的側面から、より広義に定義することができる 1。
1. 生態学的に持続可能な発展。現在の生物多様性を保持し、人類の経済および他の身体活動を地球
の天然資源と環境容量に適合させることを基本とする。
2. 社会的に公正な発展。個人の経済的繁栄への平等な機会、基本的人権の実現、最低限の生活に必
要な物品の入手、自国および国際社会の意志決定への参加と責任に関し、平等な機会を保障する。
3. 人類の知的発展。持続可能な発展は、自由な知的活動、倫理的成長、文化的多様性の維持と発展
を世代を超えて促進する。
生態学的な持続可能性の 3 つの重要な要素(エネルギー効率、原材料効率、生態学的効率)は、近ご
ろ大きな感心を集めている。これらの要素のひとつひとつは、一般的に「『特定の統合された全体に
存在する付加価値の量』を『調査対象となった要素を示す基準』で割ったもの」と定義することがで
きる。例えばエネルギー効率は、
「工程による付加価値(完成品の生産高の増加、精製レベルの向上
など)
」を「消費されたエネルギー量」で割ったものを意味する。従って、エネルギー消費量を同レ
ベルに抑えたまま製品を増量または向上させることで、あるいは、製品の質を変えずにエネルギー消
費量を削減することで、エネルギー効率を上げることができる。
材料効率の検討や生態学的効率を測るための環境負荷の査定を行う際には、エネルギー消費量ではな
く、原料の使用量に注目することもできる。その際、どれだけの価値をどれだけのコストで加えるべ
きかを考えることが重要である。今後の課題に取り込む際、単に新たな価値を加えるだけでは不十分
であり、業界の枠組みの中で全く新しい考え方を追求していくことが必要とされている。
水の有効利用も、材料効率では重要な要素である。1987 年から 2003 年までの工業用水の使用状況を
見ると、そのほとんどが先進国での工業工程で消費されていることがわかる(図 1)。途上国の産業
は今後急速に成長すると考えられ、水の消費量にも影響を与えることだろう。地球上の水資源の分布
を見ると(図 2)
、先進工業国でこの数十年間に培った水利用の技術をそのまま途上国に提供するこ
とは不可能だとわかる。従って、水の消費を削減するための新たな方策を見つけていかなければなら
ない。
私たちの年間「エコロジカルフットプリント(環境への足跡)」は、世界の資源使用量を資源の生成
量と関連づけて示したものです。別の方法として、ライフサイクル分析による生態学的パフォーマン
スの調査があり、この方法は、酸性化や富栄養化などの環境影響に関する情報も得ることができ、独
立した対象物の輪郭が明確な調査では特に有効だが、地球規模での生態学的効率の測定基準としては、
エコロジカルフットプリントの使用が最も威力を発揮する。私たちのエコロジカルフットプリントの
指数は 1987 年頃に 1 を超えた。これは、この年以降に人類による天然資源の使用量が、地球によっ
て生成される天然資源量を超えてしまったことを意味している 3。
今後エコロジカルフットプリントが増えるという前提では、このまま「現状維持」が続けば、2050
年には人類のエコロジカルフットプリントが 2 を超えてしまう。これは、未来のに必要となる資源も
考慮すると、地球が 2 つ必要だということになる(図 3)。人類のエコロジカルフットプリントは増
加する一方であり、
「アース・オーバーシュート・デー」と呼ばれるその 1 年に生成される天然資源
量を人類が使い果たしてしまう日、つまりエコロジー的収支バランスが赤字になる日が年々早まって
いる。2009 年には、その日がついに 9 月 25 日になってしまった 4。
このような状況を抑制する力は、全要素の継続的な改善にかかっている。ここでいう継続的な改善と
は、エネルギー消費量や排出量を「論理的最低値」に近づける取り組みではなく、毎日の業務に効率
改善の対策がしっかり取り入れられた操業方法を意味している。より広く全体像を見ることでそれぞ
れの状況に最も適した効率改善対策の選択が容易になること、また、その効率改善対策をとる対象は
ひとつの要因に限るべきではないことも念頭に入れておく必要がある。
紙パルプ業界への影響
欧州の紙パルプ業界は、この 20 年で、電気と可燃性燃料の両方でエネルギー原単位の削減に成功し
た。しかしここ数年間では、この傾向が特に燃料消費量において減速している 6。この長期的な改善
の理由には、一貫製紙工場での廃棄物利用が向上したこと、また運転効率対策があげられる。
一方、この進歩が低速化していることは懸念すべき材料であり、効率向上のレベルを維持するために
は、将来的には技術面で画期的な方法が必要かもしれない。また、ヨーロッパの紙パルプ生産の構造
改革もひとつの原因であろう。例えばフィンランドでは、近年、新聞の生産量が低下し、一方で機械
パルプを使用した塗工紙の生産が増加している 7。機械パルプ製造はエネルギー集約型であるため、
必然的に消費電力の増加にも影響してくる。しかし、技術の躍進により生成エネルギーが削減できる
と期待され、特定の紙種の生産においては、成長がより長く持続するとみなされている。
すなわち、各国あるいは各地の生産状況は、消費者による選択に加え、エネルギーの価格と入手状況
に左右されることがある。今後の発展には、水や原料へのアクセスと環境規制が、ますます重要な要
素となるであろう。(図 4)
。
紙パルプ業界の変化は、遠い先にも影響を与えるかもしれない
8-9
。そのため、今後の発展傾向をで
きるだけ早い段階で見つけ、検討しておく必要がある。
技術による解決?
技術導入は、操業や生産にどれだけの影響を持つのだろうか。業界や導入段階によってむろん異なる
が、エネルギー消費量においては、既存の技術と理論的最低値の間にかなり顕著な差があることが調
査によってわかっている。既存の技術と BAT(利用可能な最善の技術)との差が 30%にもなること
がある(図 5)
。
この点でも、
私たちはエネルギーだけにとらわれるのではなく、より広く全体を考慮する必要がある。
持続可能な発展をより広い視野で考えた場合、製紙技術の提供を通して、尐なくとも以下の分野での
貢献が可能である。
・エネルギー効率の高い工程
・資源効率の高い工程(原料および水)
・最新の清浄技術
・最適な諸元
・軽量あるいは代替機械の設計および工程
・最適な建屋採寸および原材料選択
・一貫製紙工場の他部門から得る二次エネルギーの有効活用
・再生可能エネルギーの最大限の使用
このような進展をもたらすひとつの方法は、よりモジュラー式のユニットを建設し、その生産と稼働
に際して高効率で最適な資源の利用を考慮することである。もちろん、常に全体像を考える必要があ
るのでこれだけでは十分ではないが、全体につながる多くのチャンスと課題をもたらしてくれる。
技術に関しては、当然、その使用方法や使用者が担う側面もある。使用者に影響を与え誘導する方法
のひとつは、全体的な自動化を促進することで、より広範囲の最適化を同時に行うことができるよう
になる。しかしその一方で、整備修理する項目が増え、投資の必要性も増加する。
「十分な」レベルで満足する世界へ?
この数年間、製紙業界における競争では、最終製品の質が重大な役割を果たしていた。生産を最大化
するためにマシンの増速、広幅化といったあらゆる取り組みが行われてきた。近頃、多くの紙種の生
産において、成長が横ばい、もしくは減尐が見られる
11
が、この新たな事実が新しい市場環境にお
ける消費者行動に実際に影響を与え始めているのかもしれない。
今まで、生産の原料効率を向上に関連しているため、品質のプロパティで最も注目を集めてきたのは
「嵩」であった。一方、紙の使用最終目的に応じた表面の質の善し悪しに対しては、意外なほど関心
がはらわれてこなかった。例えば、紙の光沢や平滑性に関しては、どんなコストをかけてでも、常に
最高のレベルのものが求められてきた。しかし、昨今のエネルギー価格の上昇によってこの傾向には
ブレーキがかかり、それぞれの特質には、最終使用に応じた「十分適切なレベル」が求められるよう
になるだろう。
生産効率と生産量がエネルギー効率(従って持続可能な発展)に与える影響も検討すべき課題である。
これまでは、生産効率を上げることはエネルギー効率を上げるよい方法であると考えられてきた。こ
れは多くの場合に当てはまるが、全てにおいて正確な見解ではない(図 6)。例えば、マシンの全体
効率が向上した場合、生産 1 トンあたりのエネルギー消費量は減尐するが、その生産ラインが 1 年間
で与える環境への負荷は逆に増加することになる。その対応として、当該地域の環境法令が強化され、
生産が抑制されることも考えられる。このように、マシン効率の影響は、常に個々のマシンの状況を
具体的に調べ、全体像と制約を考慮して判断しなければならない。
言い換えれば、この非常に困難な問題は、「新しいメガネ」を通して見ることが必要であり、それに
よって今後の生産経済性をコントロールするための新たな方法が生まれるであろう。(図 7)
。
場所の重要性
マシンの地理的な設置場所も、操業の持続可能性を決定する重要な要因である。近頃、コスト削減の
目的で古いマシンの移設が行われている。この傾向は地域のマクロ経済には悪影響があるかもしれな
いが、資源効率と持続可能な発展の面ではよい効果がある場合もある。まず、移設によって原材料や
機材の持続可能な使用が促進される。新たな設置場所が市場や原料の近くであれば、原料の運送によ
る環境への影響が削減される可能性がある。一方、全てのケースにこれがあてはまるわけではない。
例えば、移動先の国が必ずしも持続可能な発展の方針に従うとは限らない。また、移設したマシンの
サイズや設計も、市場の要求事項や課題に最大限に対応できるかを左右する。通常、これは明確な答
えを持たない、非常に困難な問題である。しかし重要なのは、持続可能な発展の面から見て、総合的
に最適な場所で生産を行うことである。
今後は、生産性の最も高いマシンがフル稼働する一方で、小型で技術的に旧式のマシンは、利用可能
な資源と原料の制約を受けて綱渡りの状態で生産することになるかもしれない。
結論
世界規模の課題は、国境を越えた協力がなければ解決できない。従って、紙パルプ業界とプロセスや
機器のサプライヤはこれまで以上に協力を強めていかなくてはならない。全関係者の得る利益を最大
化するため、新たな技術を協力開発し、より迅速に導入していく必要がある。
新たな課題に対処するためには、全体像を新たな視点から見る必要がある。このためには、過去にこ
だわるのではなく、しっかりと将来に向けて進んでいくことが必要である。
図 1. 工業用水の消費量(1987~2003 年)2
図 2. 世界の水資源 2
図 3. エコロジカルフットプリントが増える前提での予想 5
地球 2.3 個(BAU)
地球 1.1 個(2050 年予測)
炭素フットプリント
耕作地
放牧地
森林用地
生産能力阻害地
漁場
図 4. 将来の紙パルプ業界の改革を担う要因
考慮すべき項目数
エネルギー効率
材料効率
生態学的効率
時間
特集
図 5. 技術がエネルギー消費量に与える影響 10
利用可能な技術
R&D の必要な技術
空想上の解決策
26/
4.2 MMBtu/fst
3.0 MMBtu/fst
1.3 MMBtu/fst
0.9 MMBtu/fst
27/
現在の平均的製紙工場
BAT(利用可能な最善の技術)
・最先端技術
実現可能最小値
理論的最小値
28/
図 6. メッツォの新聞と非塗工上質紙のエネルギー効率調査結果の概要 12
29/
指標
WFU
新聞
30/
生産能力
製紙機械の時間効率
生産ラインの総合的効率
製紙機械リールの平均速度
PM リールの設計紙幅
31/
エネルギー効率の向上
エネルギー効率の低下
顕著な影響なし
32/
過去
原動力
成果物
33/
生産能力と質の向上
34/
・投資の回収期間の短縮
・機械の稼働性の向上
・対称的な紙構成
・自動化の促進
・塗工階級のオンライン技術
・質の向上
35/
将来
原動力
成果物
36/
持続可能性
37/
・投資コストの削減
・シンプルな概念
・エネルギー、原材料、水の効率
・環境負荷の低減
・
「十分な」紙質
・
「十分な」生産効率
38/
図 7. 製紙および関連技術に影響を与えるこれまでと今後の原動力 13