1495.首のこりや片頭痛もすっきり 「猫背」の治し方 ゆがみリセット学(2) 日本経済新聞2013.4.2.竹井仁・首都大学東京健康福祉学部理学療法学科准教授 知らず知らずのうちに前屈みに背中を丸めてあごを出し、浅い呼吸でデスクワークをしていま せんか? 猫背だという自覚はあっても、「どうすれば治るの?」と困っている人は多いはず。筋 膜博士・竹井仁さんに最も効果的な猫背リセット法を教えもらいました。 首のこりや片頭痛、二 重あごや首のたるみも猫背を治せばすっきり? 猫背と日常習慣、気になる不調の関係も明ら かになります。 首から腰にかけて通っている背骨。首の頸椎は前カーブ、胸の胸椎(きょうつい)は後ろカー ブ、腰の腰椎(ようつい)は前カーブ、というふうに、緩やかにS字曲線を描いています。しかし、 現代人の大部分は胸椎の後ろカーブがきつい猫背の状態にあります。この猫背を正して「美し い姿勢」を作る方法を今回はお話ししましょう。 ■猫背は「楽な姿勢」だが「いい姿勢」ではない そもそも人間は、丸まろうとする力が強い生き物です。赤ちゃんはくるんと背骨を丸めて生ま れてきますし、年を取るにしたがって、背中はだん だん丸くなる。この「丸まろう」とする力に抗 うのが筋肉の力なのですが、現代人は筋肉が本来の仕事をしていない。これが猫背を生み出 す原因となります。 あなたが猫背かどうかは、気を抜いているときの立ち方で一目瞭然。横から見て、頭は体の 軸の真上にのらず前に出て、あごは上がるのが猫背。特にイスに座るデスクワークによってさ らに悪化します。なぜかというと、猫背の方が楽だから。詳しく説明しましょう。 理学療法では、体重を支える、体と床が接している部分をぐるりと囲んだエリア──これを「支 持基底面」と呼びます。イスに座った姿勢のときの支持基底面は、お尻がイスに接する面と、両 足が床に接する面をぐるりと取り囲んだ範囲内となる。このとき、最小限の負荷で安定する、最 も楽な姿勢は「体の“重心”が支持基底面の中心にあるとき」です。では、座ったときの“重心”っ てどこにあるのでしょうか。ちょうど胸椎の9番あたりなんです。胸椎9番とは、女性ならばブラジ ャーの背骨側のベルトから指2~3本分下がったあたり。 ここが重心になるので、きれいに背すじを伸ばすと、重心が後ろ寄りになります。すると、姿勢 を安定させるためには腹筋を使わないといけない。ところが、ここで背中を前に丸めると、重心 が前に移動する、つまり支持基底面の中心に近づくんです。「背中が丸まっている方が、座ると きには楽だ」ということになる。人は楽をしたい生き物ですから、自然に猫背になるのは当然と いうわけです。 -1- ただ、ここで誤解してはいけないのは「楽な姿勢」と「いい姿勢」はまるっきり違う、ということ。 猫背の姿勢をとっているときは、背骨のたわみと骨周囲の靱帯ぐらいしか動員されていませ ん。筋肉は、ただその上に漫然とのっかっているだけ。筋肉が本来やるべき伸びたり縮んだりと いった動きを繰り返すことができず、調子がおかしくなってしまうのです。 【普段の座り姿勢を確認しよう】 なにげない座り姿勢をチェック。頭が前に出て、あごが上がり、背中が後ろに丸くなるのが「猫 背」。腰も曲がってしまい、骨盤の後ろ側の骨、仙骨(せんこつ)や尾てい骨を座面につける「仙 骨座り」になることも。 ■首こり、片頭痛、耳鳴りなど不調の原因にも 猫背姿勢でパソコン画面を見ようとすると、あごを突き出しますね。すると首の後ろ側が縮まる 一方になります。首の後ろには様々な自律神経が通っていますから、圧迫を受けて片頭痛や耳 鳴り、かすみ目などの不快な症状が起きます。また、肩が前に出る「巻きこみ肩」の姿勢にな り、呼吸が浅くなり、気持ちも滅入ります。本来、肩まわりには腕を前後、上下、斜めに、と自在 に動かすのを支える大胸筋や小胸筋がいろいろな方向に走っていますが、これらの筋肉が固 まると猫背がさらに強化される。“猫背になるための筋トレ”をしているような皮肉な状態です (笑)。もちろん、胸を張るのがつらくなるからバストも下がる。下の図のように、手を上げて体の 左右でひじを肩と同じ高さに上げようとしても、ひじが上がらない。固まった大胸筋や小胸筋が -2- 邪魔するからです。 猫背の人は、ブラジャーのベルトを下げたがるという特徴も。前屈みになると背中にベルトが 食いこむ感じがするので、つい下げるんですね。実際、女性スタッフに「左右1cm ずつ上げてく ださい」と検証してもらうと、気持ち良く胸が張れるようになった、と驚かれますよ。 あごを引くと二重あごになってしまう、首のシワやたるみが気になるという人も、猫背が原因か もしれません。猫背特有のあごを突き出す姿勢は、首の後ろを縮める代わりに、前側を異常に 引き伸ばすからです。ゴムと同じで、伸ばされっぱなしでは皮膚も戻る力を失い、たるんでしま います。 特に、腰まで丸まった、若い人に多い「仙骨座り」も、猫背を悪化させます。イスに座るときに 背骨が丸まっていると、連動して腰も丸まり、骨盤の後ろ側の仙骨や尾てい骨で支える座り方 になってしまう。本来は、骨盤の下部、座ったときにお尻の下にある、ぐりぐりとした「坐骨結節」 を座面につけて体を支えるのが美しい座り方なのですが、背すじを支える腹筋がないと長続き しません。 ■こまめに根気強く修正、猫背は治る 姿勢を改善しようと矯正ベルトなどを背中につける人がいますが、こういったものは短時間の トレーニング用。長時間つけるのには向きません。猫背によって胸の大胸筋や小胸筋がガチガ チになっているのに、ベルトで無理に胸を反らせると、体は腰を反らせることによって胸を広げ ようとする。結局、腰が痛くなるだけです。体はひと続きにつながっているから、一部分だけの矯 正は故障のもと。それよりも、日々の動作の中でこまめに筋肉を動かせば、確実に体は学習 し、筋肉の質も変わっていく。急がば回れ、なのです。 私自身、仕事に集中するとどうしても猫背になってしまいます。でも「まずいな」と思うとしばらく 修正姿勢をとる。つらくなったら元に戻る、ということを日々やっています。こうやって、猫背 →修 正→疲れた→猫背→修正→疲れたと繰り返すことが、筋肉に伸び縮みの刺激を繰り返し与える ことになる。ずーっといい姿勢をとる必要はないんです。1時間に1回は自分で「あ、姿勢」と気 づいて修正しつつ、1日に1回、体に筋肉の使い方を再学習させましょ う。 猫背をリセットするために、「縮んで硬くなった筋肉をストレッチ、伸びて衰えた筋肉を鍛える」 という2段構えでお教えしましょう。 猫背で凝っている部分は、おおまかに2カ所あります。首の後ろにある「後頭下筋群」「頸椎の 脊柱起立筋」と、胸の「大胸筋」、大胸筋の下にある「小胸筋」。ここは、伸ばしてストレッチしま -3- す。 反対に、伸びて力を失っているのが、背中の「胸椎を支える脊柱起立筋」、首の前側の「舌骨 上・下筋群」。こちらはしっかりエクササイズして、筋力を取り戻さないといけません。 【縮んだ胸側を伸ばす】 猫背姿勢によって圧迫された胸側にある筋肉と首の後ろをストレッチ。 まずは、大胸筋をうーんと伸ばす「バンザイ体操」。肩甲骨の一番下が中心になるように、丸 めたバスタオルを敷くと、丸まりがちな胸椎を効果的にストレッチできます。腰が反らないよう、 両脚を上げて壁につけて行うのがコツです。あごが上がらないように注意してください。 「猫伸び体操」も、丸まった胸椎と大胸筋・小胸筋、首の後ろの筋肉群を伸ばす効果的な動き です。四つばいになったときの手とひざの距離を広くとりすぎると、伸びをしたときに腰椎だけ反 ってしまい、効果が半減してしまうので注意。最初の姿勢で手とひざの距離を近づけ、横から見 て「逆台形」になるようにすると、胸椎をストレッチする効果がぐっと高まります。 -4- どちらの体操も、1回に伸ばす時間は、最低でも30秒はとりましょう。長い、と思うかもしれま せんが、硬直した筋肉を伸ばすには、そのくらい時間が必要なんです。 ゆっくりと30秒伸ばし、10秒ほど休んでからもう1セット。合計3セットやってみると、その意味 が実感できるはずです。最初はぎしぎしと突っ張るだけのように感じても、2セット目には「あれ、 ほぐれたかな」、3セット目には「ずいぶん伸びるようになった」と、どんどん伸び代が広がってい くのを感じ取れるでしょう。 ほぐしている裏で背中が鍛えられる さらに、伸びた背中側を鍛える「腕引き体操」で仕上げを。 鍛える、といっても、この体操は、固まった背中や肩、腕まわりがストレッチできる気持ちいい 体操なんです。「あぁ、ほぐれる~」という気持ちになりながら、実は肩から背中にかけてある 「僧帽筋の下側」や背中から脇腹にかけて走っている「広背筋」が鍛えられている、というおトク な体操でもあります。 【伸びた背中側を鍛える】 猫背姿勢によって伸びてなまけている、背中の筋肉と、首の前の筋肉をトレーニングする。 -5- 最初に肩甲骨を伸ばす意識で、水泳の「蹴伸び」のように背中を伸ばす。あごを引くと首の後 ろも伸びます。10秒伸びたら、首は真っすぐにし、ひじを引いて10秒。このとき大胸筋がストレ ッチされています。次に、ひじの位置はそのままに、手のひらを前に向ける。このとき、小胸筋 がストレッチされていますね。自然にひじが下がってしまう人は大胸筋が硬い証拠です。ひじが 下がらないように意識すると、背中の筋肉がぐーんと刺激されます。 胸を広げるって気持ちいいな、いつもより呼吸も深くなってきた、と感じられたら、心の凝りもほ ぐれてきますよ。 竹井仁(たけい・ひとし) 首都大学東京 健康福祉学部理学療法学科准教授。1966年、愛媛県生まれ。筑波大学大 学院修士課程(リハビリテーション)修了。2002年、医学博士(解剖学)学位取得。理学療法士。 医学的知識に基づいた筋力トレーニング、リハビリテーションを研究する。著書に『不調リセット』 (ヴィレッジブックス)などがある。 ヨシダコメント: 棒線引用をせずに読み流しながら感じました。ヨシダはほとんど似通ったことを実践している、と。 この種の助言記事で必ずと言ってイイほど欠落(シツレイ)している言葉は「実行力・実践努力の 強調」です。どんなにイイことを知っても、実践しなかったらゼロです。メニューを追うのはさほど 難しくなくても、「三日坊主」にならない努力は数十倍の努力と決意が不可欠です。 No.1(1-300) No.2(301-400) No.3(401-500) No.7(996-1100) No.4(501-700) No.5(701-900) No.8(1101-1300) No.9(1301-1500) -6- No.6(901-996)
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