浮腫 松山赤十字病院 腎センター MATSUYAMA RED CROSS HOSPITAL レジデント NEPHROLOGY SERVICE 宿理(しゅくり) 朋哉 浮腫とは? 細胞外腔に液体成分(間質液)が貯留し、 生じた腫脹が体表面から認識できる状態 毛細血管での血漿と間質液間の体液の移動は 基本的にStarlingの仮説(法則)に従う Starlingの仮説 毛細血管での血漿の移動方向は、血漿膠質浸透圧と静水圧差により決まる 要するに、浮腫の形成には以下の機序がある ②血管透過性亢進 ①血漿膠質 浸透圧低下 ③血管静水圧の上昇 ④リンパ障害 もしくは間質膠質浸透圧上昇 浮腫の診察:浮腫の性状 圧痕が残る Pitting edema(圧痕性浮腫) 低アルブミン 血症を示唆 40秒未満 fast edema 約10秒圧迫して 回復時間が 40秒以上 slow edema 圧痕が残らない non Pitting edema(非圧痕性浮腫) 餅をこねるような 感触 浮腫の診察:浮腫の分布 全身性?or 局所性? 全身性 内科的疾患が原因のことが多い 局所性 静脈やリンパ管閉塞、炎症性浮腫など 浮腫の鑑別疾患 浮腫の性状 pitting slow → fast non pitting 静水圧上昇 浮 腫 の 分 布 めっちゃ多い!! 血管透過性亢進 血漿膠質浸透圧低下 全 身 性 ・産生低下 ・心不全 肝硬変、低栄養 ・腎不全 ・排泄増加 ・妊娠 ネフローゼ症候群 ・甲状腺機能低下症 蛋白漏出性胃腸症 ・(特発性浮腫) ・消費亢進 悪性腫瘍、感染症 ・薬剤性 吸収不良 NSAIDs、CCB、ACE-I、β 遮断薬、ビオグリタゾン、 吸収不良症候群、アミロイドー PPI、甘草‥‥ シス 局 所 性 ・ 片 側 性 ・リンパ浮腫 ・リンパ節郭清術後 ・蜂窩織炎、蕁麻疹 ・血腫、外傷 ・フィラリア症 ・血管炎などの炎症 ・RS3PE症候群 ・アナフィラキシー ・(特発性浮腫) ・肥満 ・静脈閉塞 ・慢性静脈不全 ・熱傷 よくみる浮腫の原因 心不全 腎不全 肝不全 RAS系活性化による腎のNa再吸収亢進により 細胞外液量過剰状態 治療 塩分制限を大前提として + 利尿薬 ・ループ利尿薬 ・サイアザイド ・カリウム保持性利尿薬 ・その他 浮腫あるある:利尿薬抵抗性の浮腫① Q、利尿薬が全然効きません。 A、塩分制限してますよね? あとNSAIDsは使ってませんか? ・全身性浮腫の治療の際に塩分制限は絶対!! ・NSAIDsはPGの合成抑制により腎血流低下をおこしNa再吸収 を亢進させる→利尿薬抵抗性を生む またNSAIDsにより腎機能障害やネフローゼ症候群、あるいは 血管性浮腫をおこすこともある 浮腫あるある:利尿薬抵抗性の浮腫② Q,まだ利尿薬が効きません。 A、投与量は足りていますか? 健常人 尿 中 Na 排 泄 率 心不全 ・RAS系、交感神経活性化 ・GFR低下による 尿細管腔への分泌低下 ・低アルブミン血症 腎不全 フロセミド濃度 心、腎、肝不全では増量が必要 フロセミドの maximal effective dose(mg) フロセミド 正常 CKD(IV/PO) IV PO 20<GFR<50 GFR<20 40 80 120/200 200/400 *maximal effective dose 利尿薬の濃度がある程度以上となると、利尿効果はプラトーに達する。 この濃度を得るための最少濃度のこと。 浮腫あるある:利尿薬抵抗性の浮腫③ Q,それでも効きません。 A、サイアザイドや抗アルドステロン薬 と併用してみては? ~ループ利尿薬の代償性抗利尿~ ループ利尿薬を投与中、再吸収されなかった Naが遠位尿細管に達し、Na再吸収が増加する。 遠位尿細管以降のNa再吸収を抑制する サイアザイドや抗アルドステロン薬の使用により 利尿の相乗効果を得ることができる。 その他の浮腫あるある Q,(術後などで)全身浮腫が出現しているが乏尿+AKI。 乏尿だしやっぱりvolume負荷したほうがいい? A,難しいですね‥やはりケースバイケースになります。 浮腫改善のためvolumeをひいたほうがいいケースも ありますよ! 理由 被膜のある組織(肝とか腎)は圧を逃がすことが出来 ない分うっ血に弱く、組織低酸素をひきおこしやすい! 日常診療で結構ある浮腫:薬剤性浮腫 原因薬剤となりうる薬剤 1)Na及び水の排泄量低下 β遮断薬、ヒドララジン、ニトログリセリン、NSAIDs、インスリン、ビオグリダゾン、 副腎皮質ステロイド、男性ホルモン、経口避妊薬、クロルプロマジン、カルバマゼ ピン、炭酸リチウム、甘草、グリチルリチン酸ジカリウム 2)毛細血管静水圧上昇 カルシウムチャネル拮抗薬 3)Na及び水の負荷量増大 過剰輸液、Na含有抗菌薬(ペニシリン、セフェム系、ホスホマイシン) 4)毛細血管透過性亢進 インスリン、IL-2製剤 5)血管性浮腫 ACE-I、ARB、 NSAIDs 、経口避妊薬、ペニシリン、線溶系薬剤 日常診療で結構ある浮腫:特発性浮腫 ・性徴期以降の女性にみられる、月経周期とは無関係の周期的な浮腫 ・病因は不明であるが、立ち仕事の従事者や利尿薬服用経験者に多い ・循環血漿量の増加はない ~Thornの基準~ ①朝夕の体重差が1.4kg以上 ②浮腫をきたす器質的疾患の除外 ③精神障害または感情の不安定 以上の3つをすべて満たすとき特発性浮腫とされる 薬剤性浮腫にしても特発性浮腫にしても‥ 原則利尿剤は使用しない! ・薬剤性浮腫 →原因薬を中止すれば約3日以内に浮腫の改善を認める! ・特発性浮腫 →利尿薬使用によるRAS系亢進が危険因子である可能性! 治療としては塩分制限が1st 浮腫×救急 1、深部静脈血栓症 ・肺血栓塞栓症のリスク ・片側性(左下肢に多い)、急性発症のことが多い ・血液凝固能の亢進、血流の停滞、血管壁の損傷(Virchowの血栓形成3大 因子)が誘発因子となる 2、遺伝性血管性浮腫 ・C1-INHの欠損あるいは機能低下(当てはまらないものもある) ・10歳代からの身体各所に繰り返す浮腫が特徴、数時間~数日で自然消退 ・浮腫の場所は四肢→腹部→喉頭の順に多い。 →喉頭浮腫は気道閉塞おこすことがある! ・ACE-I内服者も血管性浮腫を起こすことがある! 結語 浮腫はcommonな症状であるが、原疾患は様々。 「まあいいや」で片づけず、必ず1度assessmentを!
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