産油国石油産業等産業基盤整備事業 終了時評価報告書 《評価対象

産油国石油産業等産業基盤整備事業
終了時評価報告書
《評価対象:平成19年度終了基盤整備事業》
平成21年 3月
財団法人 国際石油交流センター
終了時評価委員会
Ⅰ.評価の背景及び目的
昨今、基盤整備事業は、補助金事業という性格上、透明性及び公正性を高めることが
更に重要となってきており、また、予算の有効活用の観点から、効率的かつ効果的な事
業の実施が過去にも増して求められている。
以上を踏まえ、H18年度より、センター内の全事業については、企画運営小委員会で
毎年、単年度評価(外部評価)を実施することになった。一方、基盤整備事業では 3 年程
度を基本に複数年度にわたるプロジェクトを実施している事業が多く、事業終了時にプロ
ジェクトごとの評価を実施することとした。
基盤整備事業の終了時評価は、単年度評価ではなしえない、複数年度にわたる事業
をプロジェクトの当初計画、プロジェクト実施におけるマネージメントの状況、進捗状況及
び外部環境の変化への対応、相手国の満足度を含む成果等の全体を通して総合的に
評価するところに特徴がある。
終了時評価で得られた結果及び助言等は、以後の基盤整備事業を実施する際に反
映することとし、基盤整備事業を効率的・効果的に推進することに努める。
Ⅱ.評価の実施
1.評価対象
今回の評価対象は以下の5事業に対して実施した。
1)評価対象事業
①サウジアラビアに於ける高過酷度流動接触分解技術のスケールアップ調査
②クウェートKNPC直脱装置の水素化分解型への適用に関する調査(フェーズ 2)
③アラブ首長国連邦(UAE)の石油産業における酸性ガスの処理に関する調査
④イラン原油出荷基地のタンクスラッジ対策技術適用調査
⑤カタール・メサイード製油所におけるLPG回収に関する調査
2.評価基準
評価は、「①事業の目的・位置づけ」「②事業のマネージメント」「③事業の成果達成
度」「④事業の実用化・波及効果」の4つの視点から、評価項目を設定し、評価項目ご
とに評価を行い、最終的に総合評価を行うこととした。また、評価委員間の評価レベル
の統一化および客観性を確保するという観点から、4段階(S=非常に良い/A=良い
/B=概ね良い/C=良くない)で、各評価結果のランク付けを行うこととした。
2
3.評価委員会
◆平成20年7月~8月までの間に計2回の評価委員会を開催し評価を行った。
評 価 委 員 リ ス ト
氏名
法人名
委員長
大倉 一郎
東京工業大学
委員
小川 芳樹
東洋大学
所属
理事・副学長(企画担当)
経済学部 総合政策学科主任
教授
東北センター
委員
水上 富士夫
産業技術総合研究所
コンパクト化学プロセス研究センター
センター長
大学院 工学系研究科
委員
水野 哲孝
東京大学
応用化学専攻
教授
Ⅲ.評価結果
1.全体概要(評点結果)
全般的には A や S ランクが多く、一部にはBランクがあるものの、事業の所期の目
標どおりもしくは目標以上の成果が得られたと評価された。
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H20年度終了時評価委員会評価結果一覧
事業名
サウジ
高過酷度流動接触
分解技術の
スケールアップ
UAE
クウェート
直脱装置の水素化 石油産業における酸
性ガスの処理
分解型への適用
イラン
原油出荷基地の
タンクスラッジ対策
カタール
メサイード製油所に
おけるLPG回収
H19T-01
H19T-05
H19T-06
H19T-16
H19T-17
① JCCP事業としての妥当性
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
② 事業目的の妥当性
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
③ 相手国にとっての妥当性
S-3
A-1
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
対象外
対象外
対象外
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
A-4
対象外
S-1
A-3
対象外
A-4
対象外
⑩ 成果の技術的意義
S-1
A-3
A-4
A-4
A-4
A-1
B-3
⑪ カウンターパートレベルアップに貢献
A-3
B-1
S-4
A-4
A-4
A-4
⑫ 外部発表・特許取得
S-4
対象外
S-4
A-4
対象外
判定基準(項目別)
Ⅰ (事業の目的・位置付け)
Ⅱ (事業マネジメントについて)
④ 計画の妥当性
⑤ 実施体制の妥当性
⑥ 費用対効果
⑦ 情勢変化への対応
A-3
B-1
A-3
B-1
Ⅲ (事業成果について)
⑧ 目標の達成度
⑨ 未達成部分への対応
Ⅳ (実用化、事業化の見通し)
⑬ 成果の実用化可能性
⑭ 他への波及効果
⑮ 相手国の認知度
⑯ ビジネス化への展望
S-1
A-3
S-2
A-2
S-2
A-2
A-4
A-4
S-3
A-1
A-4
A-2
B-2
A-4
A-4
A-3
B-1
A-4
S-4
S-2
A-2
A-4
対象外
対象外
対象外
A-4
対象外
注1)評価結果一覧の見方:例)A―4(4名の評価委員全員がA評価をつけた。例)S
-2 A-2(2名の評価委員がS評価をつけ、2名の評価委員がA評価をつけた。)
4
2.事業評価結果
1)サウジアラビアに於ける高過酷度流動接触分解技術のスケールアップ調査
(事業概要)
重質油を分解して石化原料と高オクタンガソリンの効率的生産を行なう高過酷
度接触分解技術(HS-FCC)を発展させ、要素技術を商業化可能なレベルまで高
め、装置規模・最適立地・経済性の評価を行う事により、商業化の可能性を検討
する。具体的には反応シミュレータを用いて、流動シミュレーションを行い、要素
技術のスケールアップ検討を行うと共に、商業装置の概念設計・経済性評価を
行う。
(評価結果)
以下の成果を元に標準以上の評価を得た。
・本事業は、CFD シュミレーションを用いて、HS-FCC 固有機器であるインジェクター
やセパレータの形状最適化やスケールアップやセパレータの形状最適化やスケー
ルアップ時の触媒補修率予測を行なった。 これら根幹技術の確立は、PEC により
計画されている 3,000BD セミコマーシャル装置へと引き継がれ、商業化装置への
展開も視野に入ってきた。
・本事業を通して日本からのサウジアラビアへの技術の移転を行い、サウジアラビ
ア人自らによる技術開発の能力を向上することに成功したと認められる。
・サウジアラビアは、これら技術の商業化を熱望しており、サウジアラビアの技術レ
ベルの向上並びに日本の技術に対する認知度向上に多大な役割を果たした。
2)クウェートKNPC直脱装置の水素化分解型への適用に関する調査(フェーズ 2)
(事業概要)
平成14年度~16年度に検討した Kuwait National Petroleum Company (KNPC)
直脱装置の水素化分解型への転換に関する調査結果を基に、KNPC の実装置を
使った実証運転を行い直脱装置の効率的活用を実証する。
(評価結果)
以下の成果を元に標準以上の評価を得た。
・直脱装置の効率的活用という観点では、分解型触媒での約 11 ヶ月の安全運転を
実証すると共に、パイロットプラントと実装置との性能差の原因を究明してカウンタ
ーパート(CP)と共有化したことによりプロジェクト目標も達成された。実証運転の
目標値に対して、一部未達部分があったので、原因究明のための詳細検討を行
い、結果を CP と共有化した。
・CP にとって未経験の分解型触媒の運転を実施したことで、運転解析、触媒特性、
水添加の影響等に関する議論を深めることができ、これらを通して着実に CP の技
術力は向上した。
5
3)アラブ首長国連邦(UAE)の石油産業における酸性ガスの処理に関する調査
(事業概要)
UAEでは、石油・ガス産業を中心とする経済発展が著しく、一方、それに伴う地
球温暖化、環境汚染問題への関心が急速に高まっている。この流れの中、UAE 大
学は、アブダビ国営石油会社(ADNOC)グループ会社の一つであるアブダビガス液
化会社(ADGAS)のニーズに基づきダス島LNGプラントをモデルとして、酸性ガス処
理に関する技術調査を強く要望してきた。
従来、LNG中の酸性ガス(CO2 や H2S など)はアミン等を使用して再生塔・吸収塔
で処理していたが、腐食やフォーミングなどの問題があるため、より効率的なガス
処理開発を目指してメンブレン・コンタクターを使用した事業を行うことで UAE 大学
側と合意した。
本事業では CO2/CH4 の 2 成分系について、メンブレン・コンタクターを用いたア
ミンによる CO2 吸収と吸収済みアミンの再生に関して数理モデル計算と実験を実
施し最適化を図っている。
(評価結果)
以下の成果を元に標準以上の評価を得た。
・新規酸性ガス処理技術の有効性を確認し、研究を通じて CP 及び現地企業との関
係が強化され、フェーズⅠの目標は成功裏に達成された。
・定着しつつある技術によって、CP は今後も主体的にフェーズⅡを実施するものと
確信でき、これによって更に高度な技術定着が期待できる。
・大学幹部が入閣し、全学年度研究発表会などを通じて政府/石油・ガス産業界の
要人、教授陣、学生などの日本の技術に関する認知度が向上した。
4)イラン原油出荷基地のタンクスラッジ対策技術適用調査
(事業概要)
カーグ島原油出荷基地が抱える喫緊の課題に、タンクスラッジ堆積による貯油能
力の圧迫、基地操業効率の低下が挙げられる。湾岸戦争時に受けた設備的なダメ
ージにより、同基地の貯油能力は大量の出荷をまかなう上でほとんど余裕が無い。
これに加えて、タンク底部から2mにも及ぶスラッジ堆積が事態をさらに悪化させて
いる。イラン国営石油会社(National Iranian Oil Company, NIOC)および同基地を管
轄する国営石油基地会社(Oil Terminals Company, NIOC 傘下、以下 OTC)は、こ
れら基地操業にかかわる問題解決を重要視し、ここ数年、出荷設備のリハビリや計
量システムの近代化等を積極的に実施しはじめたが、効果的なタンクスラッジ対策
ができていなかった。
日本ではタンクスラッジ堆積を低減する最も実際的な方法として、タンク底板に
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設置する旋回式ジェットノズル(SRJ装置)が挙げられる。OTC はカーグ基地への
導入を検討しているが、国外技術でイランでの採用実績がまったく無いこと、また、
設備の性質上事前の性能評価が困難であること等から、現在のところ実現に至
っていない。そこでカーグ島原油タンクへの試験導入を実施し、実運転を通じて、
技術移転を図るとともに、効率的な運転方法を検討した。
(評価結果)
以下の成果を元に標準以上の評価を得た。
・ハード、ソフト両面での技術移転が成功裏に終了し、事業の目的は達成された。
・SRJ 装置と技術ノウハウは継続して操業に貢献している。CP 側も、独自に同技術
の運用検討を実施しており、すでに定着し始めている。
・相手国の技術レベルを上げる人材育成の機会をつくると共に、人的な交流による、
日・イ技術者間の信頼関係の醸成に寄与できた。
・NIOC グループ全体(イランのオイルセクター全般)に、SRJ 技術の有効性を JCCP
事業の成果として認知させるに至った。
5)カタール・メサイード製油所におけるLPG回収に関する調査
(事業概要)
カタール石油のメサイード製油所で放出されているフレアーガス量等に関する現
状調査を行い、フレアーガス及び燃料ガス中に含まれる LPG 等の有価物の回収を
含む改善提案の可能性調査(FS)およびFEED( Front End Engineering Design )を
共同で実施する。
(評価結果)
以下の成果を元にほぼ標準の評価を得た。
・CP が推進中の製油所の効率化に沿った本事業は投資基準もクリアー出来、建設
する方向で検討中であることから目標を達成したといえる。
・日本企業の有するエンジニアリング技術を生かした設計関係の成果品は BDP とし
て CP に納入され相手国の技術レベルの向上および認知度向上が図られた。
Ⅳ.今後の事業に向けた提言・所感
評価の結果、今後の事業に向けて、以下のような貴重な提言・所感が評価委員より得ら
れた。今後の基盤整備事業の遂行及び事業評価を行なう上での参考として用いる。
7
事業名
今後のJCCP事業に対する提言・所感
(1)今後ともサウジアラビアとの関係維持及び強化は、必要である。今後も本技術やそ
の周辺技術の普及や商業規模での技術交流は、継続していくことが重要である。
(2)サウジアラビアが強い関心を持っており、世界的にも重要な意味を持つ技術開発で
あるので、開発のタイミングを失しないように、我が国の戦略的な継続的な支援を今後
も考慮すべきである。
サウジ 高過酷 (3)3,000BDセミコマーシャル装置を是非とも成功させ、30,000BDコマーシャル装置を完
度流動接触分解 成させていただきたい。これにより、サウジアラビアとの関係が益々密にしかも強固にな
技術のスケール ると言えよう。したがって、本プロジェクトの今後の展開は、わが国の今後のエネルギー
や化学原料の安定確保のために、極めて重要な課題である。
アップ
(4)サウジアラビアとの提携関係を特に強く重視するのであれば、サウジアラビアの興
味・関心が失せないように、もっと速いテンポでコマーシャルベースの装置開発を実現で
きるように取り組むべきである。
(5)日本での技術開発の実施を中心にするのではなく、サウジアラビアでのプロジェクト
の実施とCPの大規模な関与に関しても配慮を払うべきである。
(1)我が国の国家PJの成果をクウェートという原油の重質化と高硫黄化に悩む国に応用
することができた意義はきわめて大きい。
(2)本事業はCPの既存の直脱装置を、わが国の既存技術を移入することによって、水素
化分解用に転用する試みであったが、水添加による触媒の劣化・活性化について新規
な知見を種々得ている。特に興味深いのは、途中からの水添加で触媒がより活性化す
クウェート 直脱 ることである。このCPとの今後の共同研究で、この現象の反応機構解明がなされ、活か
装置の水素化 されてより良い実プロセスが生まれることを期待したい。
分解型への適用 (3)クウェート独自の水添加という特別処理に対する対策を工夫して、今後さらなる打開
を図る必要があるが、クウェートのCPと事業終了後も民間ベースの協議を進めている
点は評価できる。せっかくクウェートとの間にできた提携関係を切らないように頑張って
ほしい。
(4)クウェートの重質・高硫黄原油で重油水素化分解触媒の技術をさらに一層高めること
ができることは、日本の技術力を高める上でもプラスに働くと考えられる。
(1)本事業では、炭酸ガス並びに硫化水素除去に対するメンブレン・コンタクターの有効
性と優秀性が実証された。本メンブレン・コンタクター方式では、既存の炭酸ガス・硫化
水素除去装置に比べ、装置が二桁小さいサイズのコンパクトで簡便かつ高機能なもの
になる。今後は寿命とコストダウンの課題を解決し、フェーズIIも是非成功させ、早急に
コンパクトなメンブレン・コンタクターをUAEで実用化していただきたい。
UAE 石油産業
における酸性ガ (2)日本の技術を高めながら、産油産ガス国に技術協力することで、費用対効果の面や
これらの国々の必然性から見て我が国の高い評価を獲得できる適切なプロジェクトであ
スの処理
ると考えられる。
(3)フェーズⅡ、フェーズⅢと今後も着実な成果を挙げながら産油産ガス国のさらなる評
価を得られる形で根付かせてほしい。
(4)産油産ガス国からきわめて高い評価を獲得しやすいプロジェクトで、費用対効果も高
いと判断され、我が国は力を注ぐべきである。
イラン 原油出
荷基地のタンク
スラッジ対策
(1)更にイランへ技術を定着させるためには、機械製作分野など幅広い技術協力が必要
である。
(2)日本側からの何らかの支援を継続し、この事業で実証したSRJ装置がカーグ島の残
り30基や、イランの他の原油ターミナルや製油所にも設置されようにしていただきたい。
これは、イランからのわが国への石油の安定供給に寄与すると共に、今後の日本ーイ
ラン間の関係強化に貢献すると思われる。
(3)日本の確立された既存技術でプロジェクトを実現でき、その技術がイランの多様な分
野でアプライされると、イランからはきわめて高く評価される内容で、その意味できわめ
てコスト効率的である。
(4)一定の実証成果を上げることができていると思うので、このプロジェクトをベースとし
て我が国民間ベースのビジネス展開の可能性を追求してほしい。
(1)本事業の成果がCP国上層部の一時的な認知・認識に終わらないよう、大なり小なり
の種々の働きかけや支援を継続していただきたい。この種の支援・努力で、CPの近い
将来におけるLPG回収プラントの建設が現実のものとなり、わが国との絆がより強くな
り、またわが国への信頼もより増すでしょう。
カタール メサ (2)製油所のフレアガスをLPGだけでなく燃料ガスとしても回収する全体像を描きながら
イード製油所に 燃料ガスの利用を断念せざるを得なかった点は残念な結果である。産油産ガス国のど
おけるLPG回収 ういう特殊事情があって、このような結果になったのかを十分に分析して、産油産ガス
国でより意味を持つプロジェクト提案となる検討を加えるべきである。
(3)カタールの場合、製油所のLPGは、油田の随伴ガスからのLPG生産やLNGプラントで
の副産物としてのLPG生産に比べると、必然的にマイナーなポジションに置かれること
になる。この辺も十分に考慮した製油所オフガスの有効な活用方法を検討・提案すべき
である。
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