事業保険獲得セミナー - フォルテッツァグループ

保険情報ライブラリー
事業保険獲得セミナー
フォルテッツァ・グループ代表取締役
税理士 井上 得四郎
障額を算出 1
BS/PLから適正保
障額を算出 2
BS/PLから適正保
障額を算出 3
BS/PLから適正保
障額を算出 4
BS/PLから適正保
障額を算出 5
BS/PLから適正保
提案 1
BS/PLから節税の
提案 2
BS/PLから節税の
提案 3
BS/PLから節税の
1
生命保険で資産運用
2
用
生命保険で資産運
3
生命保険で資産運用
険の販売
法人における変額保
ください。
タイトルをクリックして
Hoken Joho Library
1022
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから適正保障額を算出 1』
中小法人の実態を把握
掲載: 1999年4月9日
●万一のときの保障を
今回の連載は、かかる時代の中で、中小企業を理解
●求められる真のコンサルタント
し、生命保険を積極的に検討し、最低限の保障を確保
日本FP協会の会員数が激増している。ビッグバンに
していただきたい。
伴い従来の生保販売の方法から、FP的な視点からの販
万が一の事があった場合、自宅をも売り飛ばさなけ
売が求められ始めたことを意味しているのであろう。
れば会社の借金が返せない、そんな不幸はあってはな
ライフプランを作成するにしても、生涯設計を顧客と
らない。そのことから先述の保険ニーズのうち、第1
の間で、インタビューしながらまとめあげる。
点目について展開する。
顧客のニーズを聞き出す、それは技術というより営
業マンの生き方が重要であろう。当然、年金の知識、
日 本 の 中 小 企 業
相続税・所得税等の税金の知識、不動産・金融商品の
知識が必要不可欠になる。
法人についてもFP的なアドバイス・コンサルティン
次ページの図は、日本の企業数(平成10年版中小企
業白書より)である。業種によって、規模の区分けは
グが必要である事も言を待たない。中小法人経営者の
異なる。中小企業白書によれば小規模とは従業者1∼19
ライフプランは、当然にも法人の経営を見ながらプラ
人(卸・小売業、サービス業については1∼4人)、中規
ンニングしなければならない。中小法人の経営者の収
模とは従業員300人未満(卸業については100人未満・小
入(役員報酬・賃貸料等)は、法人の経営に左右される
売業、サービス業については50人未満)、大規模とはそ
からである。サラリーマンと本質的に異なる。
れ以上ということになる。
実に73%が小規模、25%が中規模であり、大規模以
●3つの法人ニーズ
外が実に98%ということになる。中小企業というイメ
生保商品を法人的に考えた場合には、3つのニーズ
ージからいくと、中規模の大部分30人未満の事業所と
が考えられる。
第1が社長に万が一のことがあった場合等の保障で
ある。
第2が法人税等の節税商品としての生保である。
第3が資産運用商品としての生保である。
赤字法人が公表64%とされている。しかし、毎月税
いうことになるのではないか。その規模の法人こそ会
計事務所の顧問先であるとともに、日本の法人の大部
分である。この本質を把握すること、それなくして生
保を売ることも、FP的な視点もありえない。
ちなみに、法人の組織は一般的には株式会社と有限
会社がある。この相違は、有限会社は小規模法人向け
理士業務で法人の決算書を作成している現場から見る
に、役員登記の簡素化等からスタートしたものであり、
と、この数字は、実態と離れていよう。
株式会社と課税等については何ら変わるものではない。
例えば、会社が赤字になる場合、第1に減価償却費
の計上をやめる(法人税法上は減価償却は任意である)。
次に代表者の役員報酬を下げる。またはゼロにする。
代表者の適正な役員報酬は最低でも60万円と言われて
経 営 者 の 体 質 を 知 る
中小企業経営者の本質とは何であろう。大企業経営
者との違いは何なのだろう、そこから考えてみる。
いるが、実際はそれ以下が多い。既に生活を切り詰め
1)自宅を担保に供している
られる限界を超えているという事であり、その結果の
会社借入の保証人になっていない中小企業の経営者
黒字など粉飾決算以外の何物でもない。
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
はいるだろうか。大企業の場合、まさか会社の借入金
1
日本の中小企業数
中規模事業所
大規模事業所
5,086,173
1,485,769
50,304
4,901,641
1,582,565
57,445
4,923,362
1,547,170
61,448
4,757,730
1,675,827
69,367
小規模事業所
89年
91年
94年
96年
中小企業白書
の保証人になる必要はあるまい。責任を問われ退任し、
退職金を放棄し、あとは株主代表訴訟さえなければ、
●中小企業経営者の体質
追われることはない。つぶれた日債銀のように、その
1) 朝令昼改
直前に退職金がもらえるほどいい加減な会社もある。
朝考えていた事が、昼には変わっている。この気の
大企業の役員になりたがらない社員も出てきたようで
変わりの早さが冴えている場合には、決断の速さに変
ある。
わる。大企業との差になるが、中小企業の経営者は一
東京都国立市の中央道インター近くのラブホテルで、
人で決断する。だから早い。大企業がカンパニー制度
中小企業の社長が3人自殺したのは2年前である。残
を導入したのは、この決断の速さである。中小企業の
念な事だが、最期は命を賭けるかどうかを問われるの
財務とはまさにこの決断の資料を、可能な限り早く作
が、中小企業といえるかもしれない。
成することである。
2)資金が足りなければ社長個人の預金を投入
2)短気
金融機関から借りる手間を考えると面倒だというこ
短気と朝礼昼改は同意語かもしれない。
ともあるが、まず個人の預金を投入する。余剰資金の
3) 経営に費やす時間
出た時、返済を受ける。この連続が不況の時代では、
実に良く働く。従業員以上に働く。会社に来てから
その額が増加する事はあれ減少する事はない。その内
日経を読む大会社の幹部とは大違いである。新聞はト
に個人の預金が底をつくと、金融機関に飛び込む。そ
イレの中15分、ニュースは7時から30分、
んな時には、すでに金融機関は融資しない。
出社は誰よりも早く、10時ごろ。運転手付で重役出
3) 役員報酬が低い
勤とは大企業の言葉である。昼食時間は20分以内、趣
平均月額で百万円くらいであろうか。年俸で1200万
味はゴルフ。この趣味だけは大中小企業経営者の共通
円。大企業の社長より働き、リスクを負う。赤字にな
項だろうか。まさか、経営と相通ずるものがあるとは
ればすぐ役員報酬は下げられる。自分の報酬が取れな
思えないが。
くても、従業員にはキチンと支払う。
2
その他 2.1%
22.9%
世間水準
取
締
役
報
酬
の
決
定
基
準
資本金
100億
以上
39.6%
従
業
員
規
模
別
社
長
報
酬
会社業績
35.4%
賃金バランス
5.2%
その他 3.0%
世間水準
19.6%
賃金バランス
資本金
3000万
未満
356万円
1万人
以上
72.2%
会社業績
3千∼
1万人
330万円
1千∼
3千人
295万円
3百∼
1千人
260万円
1百∼
3百人
201万円
1百人
未満
152万円
0
50
100 150 200 250 300 350 400
賃金管理研究所「社長・重役の報酬・賞与年収額の実態」より
中小法人にとっての決算とは
●決算書の意味
●本末転倒の現状
決算は会社の業績の数値による1年間のまとめであ
本来、企業の決算書とは企業会計原則・商法によっ
る。決算書とは、
て作成されなければならない。それが、税務判断基準
・会社の財政状態を表示する「貸借対照表」
で作成されているのが現状である。
・経営状態を表示する「損益計算書」
減価償却は法定耐用年数で計算、賞与引当金・貸倒
からなる。
引当金・退職給与引当金等の引当計上は損金算入限度
会社は事業年度終了後2ヵ月以内に法人税の申告書
額で計算、交際費は表に出すのは損金算入限度額まで
を提出しなければならない。また、金融機関に現状の
といった具合である。
報告として、毎年提出するのが原則である。毎年提出
1年以上回収できなければ貸倒れ処理が出来る。だ
してあれば、融資を申し込んだ時に話が早いのである。
から回収に努力しない等々。本末転倒である。企業の
建設業・医業等の場合には、所轄の官庁に決算書を提
活動を規定してしまう税務とはなんだろうか。
出しなければならない。許認可の関係、あるいは入札
会社のための作成は経営管理のために作成する。当
の関係である。これらはいずれも、会社にとって必要
然、制度のための作成と異なり、自社の経営内容を把
というよりも外部のための作成理由である。決算書は、
握するために作成する。社長の、経営判断のための資
最低、この目的のために作成しなければならない。
料である。その意味では社長が分かりやすい資料でな
全法人数
2,465,347
●赤字法人は全法人の64%に達する
1,783,434
欠損法人数
1,598,163
同じアプローチで通用するのか
利益計上法人数
935,432
848,002
欠損法
人割合
867,184
52.5
51.3
49.6
48.4
49.7
53.1
59.1
62.7
64.5
64.7
64.8
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
税務統計からみた法人企業の実態(国税庁)
3
ければならない。
●会計事務所と決算業務
会計事務所の業務は毎月企業から伝票など会計資料
を預かり、月次の決算書を作成し、年次決算を組み、
税務署等へ提出する。毎月の数字を把握しているのが
会計事務所である。
その数字だけ考えれば、プロである分、経営者より
把握している。しかし、会計事務所もピンキリであり、
資産税が得意な事務所、土地の有効活用への特化して
いる事務所、昔ながらの手書きで決算を組んでいる事
務所、多種多様である。
その中で、経営の相談に乗る事務所が少ないと言わ
れているが、顧客側で期待していない部分も見受けら
れる。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理士、
(株)フォルテッツァ代表取締役、(株)M&A代表取
締役。生命保険会社、会計事務所勤務を経て84年独立。
税理士向け、資産家向け、中小企業経営者向けセミナ
ー講師年間70∼80回。最近は財務に関する講演、特
に中小零細企業向けの「戦略財務システム」の構築に
関する講演が多い。連載、著書も多数。連絡先
TEL0426-21-1261
FAX
0426-21-0690(質問はF
AX以外は受け付けません)。
4
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1023
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから適正保障額を算出 2』
掲載: 1999年5月21日
は資金の問題ということになる。
中小法人の事業承継
2)
幹部の退職
社長に万が一のことがあった場合、中小企業にどの
「俺は社長に仕えたのであって息子に仕えるつもり
ようなことが起こるのであろうか。以下のようなリス
はない」「社長がいなくなったら、俺も引退するよ」な
クが考えられる。
ど、事業承継は経営者の交代であると同時に、ナンバ
1)
売上激減
中小企業の営業は、そのほとんどが経営者に頼って
ー2の交代でもある。次期の経営者の育成は同時にナ
ンバー2の育成でもなければならない。
いるのが現状である。私の事務所の顧問先社長に聞い
3)
社長退職金の財源
てみた。「社長に万が一の事があったら、売上はどうな
大企業の社長と違って、自宅が担保に入っている、
りますか?」。現状を維持できるのはすでに後継者が育
あるいは自分の退職金の準備が出来ていない。あんな
ち、事業継承が終っている場合である。その他は、「半
に苦労して退職金すらとれない。これが、現状である。
分かな」「ゼロに近い」等々である。
中小企業に係わる方たちは、本気で経営者の声を聞く
その時に会社はどうなるのか。突き詰めれば、それ
べきである。味方だと思っていた金融機関はわが身か
わいさに、なり振り構わず、貸し渋ったのである。
損益計算書
4)
取引条件の変更
仕入先・金融機関が後継者を未だ信頼できない事か
ら発生する問題である。仕入先はそれまでの手形取引
売上高
売上原価
売上総利益
販売費及び一般管理費
営業利益
営業外収益
営業外費用
経常利益
特別利益
特別損失
当期利益
を現金取引に変えてくれと要求し、金融機関は早く返
せと要求してくる。現在では、社長に万が一のことが
あったわけでもないのに、返済を早くしろと言ってき
ている。金融機関問題である。
決算書が読めて保険は売れる
1)
決算書は決して難しくない。非常に理論的に表示さ
れている。その仕組を理解し、数字的も中小企業の姿
を理解してほしい。これから、中小企業の経営者のラ
イフプランを作成する時には、決算書の分析から入る
べきである。
2)
決算書から保障金額は計算される
残念ながら、日本の生保業界は決算書から保障金額
を計算したことがなかった。算式は持っていたにして
も、何の意味も持たない算式であった。財務で生きて
いる中小企業経営者を納得させる保障金額の計算はな
かったのである。
3)
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全ては数字で表現される
経営者のライフプランは会社の事業計画
1
中小企業経営者のライフプランは、会社の事業計画
と費用を表示している。
により役員報酬の計画値を個人の収入計画にフィード
「金融機関へ利息を支払わなければ利益が出る」と
バックする形になる。給与がそれであり、死亡退職
いった表現が多い。これは営業利益は利益が出ている
金・生存退職金も事業計画と連動しなければ無意味で
が、経常利益が赤字であるということである。
・当期利益
ある。
経常的な利益に特別な利益、経常性をもたないとい
損益計算書の見方
う意味である。
例えば資金繰りがきついために、長期的に保有して
損益計算書は非常に分かりやすく出来ている。誰が
いた不動産・株式を売却して利益を計上したり、税務
見てもその会社の経営成績が分かるように出来ている
調査があって計上洩れなどがあって、去年までの決算
のである。
書を訂正した場合の利益などがこれに該当する。つま
・営業利益計算は本業の損得計算
り、企業の経常的な力ではないわけである。
1番上から重要な計算の順にならんでいる。企業活
特別損失は特別利益の逆である、不動産・株式を売
動でいちばん大事なことは「売上」である。2番目は
却したが購入した金額以上で売れなかったために損失
その売上を確保するための「原価」「仕入」である。売
を計上した場合である。
上から売上原価を控除した金額を売上総利益という。
この売上総利益から「販売費及び一般管理費」を控
除した金額を営業利益(赤字であるなら営業損失)と
このように1年間のすべての収益活動を表示したも
のが損益計算書であり、非常に合理的に重要な順に並
び、表示されている。
いう。この販売費及び一般管理費も、販売費から並ん
・表示されている金額
でいることに注目して欲しい。販売費が経費の中で重
売上について、損益計算書の金額は、実現主義と呼
要なことは言うまでもない。が、昨今のリストラはこ
の経費の圧縮であった。
ばれている基準で計上されている。
実現主義とは収益の実現である。儲かりそうな商品
その際、販売費が効率よく使われているのか、多す
を100円で仕入れた。これは150円で売れそうだ。損益
ぎないかのコントロールの意味でも売上∼売上総利益
計算書には売れていないけれど150円で計上しよう、と
と対比しやすい位置に表示してあるわけである。営業
いうのはダメだということである。
利益は売上総利益からこれらの経費を控除した金額を
いう。
つまり「売る」「仕入れる」「経費」といった過程は
本業そのものであり、その本業でどの位の利益が出た
実際に売れた時に売れた金額で計上せよ、という基
準である。権利確定主義とも呼ばれる。逆に、お金を
回収していなくても、売った物については、売上を計
上しなければならない。
のか(または赤字であったのか)を示すのが、営業利
これに対して仕入・経費の計上は発生主義と呼ばれ
益である。本業で利益が出ていなければ生き続けるこ
基準で計上されている。仕入の発生、経費の発生、請
とは不可能である。
求書がまだ来ていなくても納品の段階で仕入は計上し
・経常利益は経常性を有する
営業外収益とは、例えば定期預金の金利(受取利息)、
所有株式等の配当金(受取配当金)など本業以外で経
常的に発生する収益をいう。一般的には金融収益が多
い。
なさいという考え方である。
実際には、まだお金を支払っていなくても、これら
の計上はしなければならない、ということである。
また、販売費および一般管理費の中には減価償却費
がある。長期的に事業に使える固定資産などは、長期
これに対して営業外費用は、借入金の金利(支払利
的に費用に計上するという観点から「経費化」の制度
息)、手形の割引料などの金融費用を表す。これらは営
もある。これに至っては資金の流れとは全く関係ない
業や本業と分けて表示する。
経費計上となる。
営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を控除し
引当金の計上も同様、資金が流出するわけではない。
た金額が経常利益である。毎年経常的に発生する収益
例えば、退職金は長い間勤めた対価として支払われる。
2
給料の見方の違い
給 料
社員の考え
会社の考え
300,000
300,000
社会保険料個人負担
38,775
源泉所得税
13,100
差引手取金額
248,125
社会保険料会社負担
38,775
338,775
「会社の給料観」
90,650
(見方の差額)
所定内賃金の推移
千円
400
363
男性
350
318
327
297
306
262
男女計
185
164
150
87
171
88
334
342
353
女性
273
200
349
357
312
285
250
328
324
282
372
334
305
295
300
351
350
373
195
202
210
214
224
230
237
240
176
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98 年
中央労働委員会事務局(1999年3月)
3
30年なら30年間の営業成績で賄われなければならない。
簡単に言えば毎年毎年経費化して準備しなければ、退
職金を支払った年に大きな経費が発生してしまう。そ
のために引当金計上する。
つまり、資金の流れとは違う売上の実現・費用・損
失の発生に基づいて計算を行うのが損益計算書であり、
後述する資金繰り表(キャッシュフロー計算書)は資
金の流れを追う計算書である。
・人件費について
人件費とは給与・法定福利費・福利厚生費の合計し
たものをいう。給与はその支給総額から社会保険料の
本人負担額を控除した金額で所得税を計算し、控除し
た金額が本人に支給される。
ここで経営者と社員の意識のギャップが発生する。
社員は手取金額で給与を考え、経営者は総支給金額お
よび社会保険の会社負担額、福利厚生のための費用を
人数で割った金額(新年会・慰安旅行の費用等)の合
計金額、さらに通勤にかかる交通費を合計したものを
その社員のコストと考える。
ここでは社会保険と源泉所得税に限って表にしてみ
たが、これだけの違いが、社員と会社との間に給料に
対する意識のギャップとしてある。
どこの会社でも右肩上がりの給与体系に苦戦してい
る。会社の実情に対応する給与体系の早急なる整備が
要請されている。
成果に応じて支払う制度、年俸制、職能給制度、年
齢が上がれば給与が上がるという幻想はもうどこの会
社にもない。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理士、
(株)フォルテッツァ代表取締役、(株)M&A代表取
締役。生命保険会社、会計事務所勤務を経て84年独立。
税理士向け、資産家向け、中小企業経営者向けセミナ
ー講師年間70∼80回。最近は財務に関する講演、特
に中小零細企業向けの「戦略財務システム」の構築に
関する講演が多い。連載、著書も多数。連絡先
TEL0426-21-1261
FAX
0426-21-0690(質問はF
AX以外は受け付けません)。
4
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1024
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから適正保障額を算出 3』
掲載: 1999年6月11日
産、当時の価格は1億円、現在の時価は10億円とする。
「 財産 」 でなく 「 財政 」 状態
一方、バブルのときに1億円で購入した不動産、現在
の時価3000万円。いずれのケースでも貸借対照表に表
貸借対照表とはその会社の財政状態を示している。
示されている金額は1億円である。この購入した資産
財産状態ではなく、財政状態である。会社の決算は一
の計上、あるいは負債の計上はその購入したときの価
般的には1年に1回、決算期を迎える。モノを仕入れ、
格で計上され、未払い等の場合には負債の部に計上さ
売り、代金を支払い、回収し、人件費等の経費を支払
れる。
う。1年に1回、その営業活動を締め、数値で1年間
減価償却資産
を表現する、その結果の残高が、貸借対照表である。
減価償却資産とは、10万円以上の価格でその使用の
その数値は翌年の期首に引き継がれる。貸借対照表は
効果が複数年におよぶ場合の資産である。例えば、乗
損益計算書ともに申告書に添付され、原則として決算
用車は6年間、使用の効果がある、だからその期間に
月後2ヵ月以内に所轄の税務署長あてに提出しなけれ
配分して経費に算入する。期間は6年間とされる。
ばならない。
この期間を耐用年数と呼ぶ。乗用車を3年ごとに乗
取得価格主義
り換えても、10年乗り続けても耐用年数は同じである。
貸借対照表に表示されている金額は取得価格である。
時価ではない。現在、世界的な要請から、時価会計の
必要性を問われている。例えば、30年前に買った不動
引当金
営業を1年間ごとに区切ることから、期間
のずれの調整をさまざまな形で行う。引当金
貸 借 対 照 表
資産の部
負債・資本の部
流動資産
現金預金
受取手形
売掛金
貸倒引当金
棚卸資産
流動負債
支払手形
買掛金
短期借入金
未払金
未払費用
賞与引当金
固定資産
建物
機械設備
車両運搬具
器具備品
土地
固定負債
長期借入金
退職金給与引当金
資本の部
資本金
資本準備金
利益積立金
当期未処分利益
(内当期利益) 投資等
有価証券
資産の部合計
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負債 資本の部合計
1
の制度もそのひとつである。税務上は、平成10年
の法人税改正において引当金の制度は段階的に廃止さ
れる。
貸借対照表もその配列からみていくと、十分に意味
があることを理解できよう。向かって左側が資産の部、
右側が負債・資本の部である。資産の部は資金の運用
状態が、負債・資本の部はその資金の調達手段が表示
されている。
そして、資産の部の合計と負債・資本の部の合計は
必ず一致する。それは資本の部の中に未処分利益とい
う勘定科目があるが、損益計算書との連携がこの勘定
科目でなされるからである。
現金:手許にある現金である。
当座預金:小切手を振り出すことによって現金と
同様の支払手段になる。
普通預金:銀行に行って下ろさなければならない。
定期預金:銀行に行って解約しなければならない。
定期積金:満期まで積まなければならない。
固定資産は売るために所有しているわけではない。
例えば不動産業者が所有している不動産のうち、商品
としてなら棚卸資産に該当し、自社ビルであれば固定
資産になる。固定資産の配列はまず有形固定資産→無
形固定資産→投資等の順になっている。
資産の部 現金化しやすい順に
有形固定資産の配列は、減価償却資産→土地の順に
並ぶ。固定資産の場合には、換金性による配列ではな
資産の部は現金化しやすい順に並んでいる。一番現
金化しやすいのは現金預金に決まっているが、売上代
く固定性による配列である。
同時に減価償却という処理が固定資産の流動資産化、
金を回収したが未だ期日にならない受取手形、未だ回
換金性と考えられる。減価償却は現金の支出を伴わな
収していない売掛金、まだ売っていない棚卸し商品と
い損金である。もちろん、購入したときは現金の支出
いった順になる。
を伴うが、その事業年度以降は現金は出ていかない。
現金預金
このことから、法人税の課税対象額が減少し、手許に
現金預金も次の順に並んでいる。この順を考えると、
現金が増加する結果となる。
資産の部の配列も理解してもらえるのではないだろう
負債の部
か。
重要な支払い順に
負債の部も流動負債と固定負債に分けられている。
流動資産の流れ
資産の部が現金化しやすい順であったのに対し、負債
記載順と実際の流れは逆になる
は支払の重要性の順に並ぶ。一番上が支払手形である。
棚 卸 し 資 産
売 れ ま し た
売 掛 金
次が買掛金(仕入れの代金の未払い分)、その次が借入
金である。
借入金は時間をベースに分けられる。短期借入金は
一年以内に返済し、長期借入金は1年後から返済する
ものである。負債の部の配列は、資金調達の返済の厳
しい順に並んでいる。
集金しましたが、手形でした
受 取 手 形
支払手形は仕入代金の支払を手形を振り出して支払
ったうち、期末現在で未だ期日の到来していないもの
である。しかし、期日が来たら銀行口座にその資金を
預け入れていなければ不渡りになってしまう。甘えが
手形の期日に口座入金されました
許されないものである。買掛金は未だ支払っていない
現 金 預 金
ものであるから、どうしても支払えなければ待っても
らうことも出来よう、短期借入金は、金融機関に話せ
ば延ばしてくれるかもしれない。
未払金は仕入の代金の未払いではなく、経費とか資
産を購入したもので期末現在未払いのものである。仕
2
れる。この間の利益によって総額の賞与予算が組まれ、
この間の社員の成績によって各人への支給額が決定さ
賞与引当金の例
れる。12月の賞与は同様に、今年の6月から11月までの
12月
夏
季
賞
与
の
査
定
期
間
賞与
ま
で
の
未
払
い
計
上
処
理
が
必
要
。
算
時
に
は
、
前
年
12
月
か
ら
3
月
分
賞
与
の
支
払
い
は
6
月
な
の
で
、
決
今
期
1月
決算
3月
実績が元になる。
3月決算であれば、前年の12月から当年の3月末まで
4月
来
期
の実績に対する賞与が決算時には未払い計上の処理を
人
為
的
な
会
計
年
度
2月
5月
しなければ、3月までの正しい決算は出来ないことにな
る。つまり、人為的に1年を区切るから様々な決まりで、
その期間損益計算を成立させなければならない。この
点が専門的であるかもしれない。
貸倒引当金は、期末に受取手形・売掛金等の債権が
6月
存在しているという事実、この事実が、不渡りとか回
7月 冬
季
賞
8月 与
の
9月 査
定
期
10月 間
収できない可能性(リスク)を有している、と言える
のである。
退職給与引当金は退職した年にその退職金全額を経
費に落とすという不合理性、在職期間全期間でその退
職金は負担しなければならない、ということから毎年
計上していかなければならない、ということである。
11月
12月
以上のように引当金の制度は、未だ債務が確定はし
賞与
ていない、しかしその債務が発生する原因が当期に存
在している、そのことに対する会計処理なのである。
資金調達のいい順に
資本の部
入代金の未払いでないことから、支払の厳しさは買掛
金と比較にならない。
次は資本の部である、自己資金である。
固定負債に至っては向こう1年以内に支払うものは
資本の部も資本金・資本準備金(資本金と同様の金
入っていない。資金調達の返済の厳しい順
に並んでいる。経営の安定を考えた場合に、
中小企業の経営上の悩み(3つ回答)
支払手形は無くしていったほうが良い、資
金管理が十分であっても将来のことはわか
りにくいからである。
引当金については損益計算書で触れるべ
きであったのかもしれないが、ここでふれ
国内販売不振
78.2
資金繰り
69.3
販売価格ダウン
55.6
25.0
国内企業との競争激化
20.8
人件費アップ
人手過剰
る。
法人税法上は、引当金の制度は段階的に
廃止されるようである。しかし、法人の決
算が1年という単位に人為的に区切る限
17.0
金利負担
8.2
設備老朽化
6.7
設備過剰
4.1
輸入品との競争激化
3.1
輸出不振
1.9
在庫過剰
1.7
3月決算の法人で、賞与引当金について
原材料高
1.2
考えてみる。賞与の支給は毎年6月と12月
人手不足
0.5
り、会計上は引当金の計上は求められよう。
であるとする。6月の賞与は前年の11月か
0
10
20
30
40
50
60
70
80
「税理士から見た経済実態診断」(日本税理士連合会)1999年4月 〈単位%)
ら今年の5月までの実績に基づいて計算さ
3
銭の払込によるものであるプレミアム部分である)
・利益準備金(過年度の利益の積立である)
・未処分利益(前年からの繰越の利益と当期の利益
の合計金額である)
この順は逆から見ると資金調達の「良い」順に並ん
でいる。今年の利益、前年以前の利益、株主からの払
い込みと言った順である。利益によって資金調達する
ことこそベストの方法である。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理士、
(株)フォルテッツァ代表取締役、(株)M&A代表取
締役。生命保険会社、会計事務所勤務を経て84年独立。
税理士向け、資産家向け、中小企業経営者向けセミナ
ー講師年間70∼80回。最近は財務に関する講演、特
に中小零細企業向けの「戦略財務システム」の構築に
関する講演が多い。連載、著書も多数。連絡先
TEL0426-21-1261
FAX
0426-21-0690(質問はF
AX以外は受け付けません)。
4
Hoken Joho Library
1025
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから適正保障額を算出 4』
掲載: 1999年7月9日
ュフロー計算はまさに「金銭の収支」のことを言う。
資金繰り表とはなにか
時代的な背景を考えれば、「儲かってますか」から「お
金足りてますか」ということである。しかし、その資
儲かっているということは、どういうことであろう
金の源泉が売上等の収益なのか、自社ビルを売却した
か。損益計算での儲けは、必ずしも資金が潤沢である
等本来の収益とは異質の収益なのか、借入金によるも
ことを意味しない。逆に「今期はお金がたくさん残っ
のなのか、その分析が計算書の本質になる。
た」だから儲かっているといえるのであろうか。それ
損益計算重視経営の時代から、資金繰り重視経営の
も借金が増えていれば、いずれ返済しなければならな
時代に入ったと言えよう。とはいえ、キャッシュフロ
いのだから長期的に考えれば、そのお金はなくなって
ーのみで良いのであろうか。
損益計算書の利益とお金
しまう。
キャッシュフロー
■損益計算書の利益
キャッシュフローという言葉が氾濫している。連結
発生主義・実現主義による収益・費用計上になる。
決算が必要な会社にとっては「キャッシュフロー計算
必ずしも資金を伴った段階での計上ではない。モノを
書」を作成・添付しなければならなくなる。キャッシ
売った−資金回収は翌月手形回収−その手形期日が4
キャッシュフロー計算書(直接法)
営業収支
①−②=③
経常収支⑥
=③+④−⑤
総合収支=
⑥+⑦+⑧
営業収入 ①= a + b
売掛金回収 a
受取手形満期期日決済額 b
営業支出 ②= c + d + e
買掛金支払 c
販売費・人件費・管理費支払 e
営業外収入 ④= f + g
受取利息 f
受取配当金 g
営業外支出 ⑤= h + i
借入金元金返済 h
借入利息支払 i
特別収入 ⑦= J + k + l + m
有価証券売却収入 J
固定資産売却収入 k
割引手形入金
−)割引料支払 l
新規借入金入金 m
特別支出 ⑧=n+o 退職金支払 n
固定資産購入 o
前 記 繰 越 金
次 月 繰 越 金
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
1
ヵ月後、ということになれば、売った代金が現金化さ
産という事態になる。
れるのは5ヵ月後ということになる。経費の中には先
■「経常収支」はBSの経常利益と同様
述した資金流出を伴わない減価償却費・引当金の計上
経常的に毎年発生するであろう金融収支を加減算し
がある。これらも資金との関連は購入した時以外にな
た金額である。資金繰り表には減価償却費は計上され
い。
ないが、借入金の元金が資金の流出を伴うことから計
キャッシュフロー計算書は、その資金を源泉別に表
示し、その企業の資金不足の原因がどこにあるのかを
表している。
それは過去の資金収支にすぎない。これに対し、損
益計算書は利益を表現しており、それは近未来の資金
上されることになる。
営業収支がプラスで、経常収支がマイナスになるケ
ースがほとんどである。経費の切り詰めは限界までい
っているが、借入金の元利返済まで回らないというケ
ースである。
収支を表している。ゆえに、キャッシュフローがプラ
・「営業収支」と「経常収支」とは、この会社には
スであり、同時に損益計算書がプラスにならなければ
どの位の返済能力があるかの判定の関係である。バブ
企業の経営は安定しない。
ルがはじけた後、企業は返済に窮し、その際、求めら
■ 資金繰り表とのズレ
れたのは営業収支のうち「いくらが返済に廻せるのか」
損益計算書の項で説明した通り、この計算は必ずし
であった。
も現在の資金を表していない。借入金の返済・減価償
金利は払えるが元金の返済が出来ない、または金利
却費・引当金の計上等々資金繰り表とのズレが生じて
も満額支払えない。金融機関との話し合いはこの数字
くる。
をもとに交渉される。営業収支とはサラリーマンに当
てはめれば、給与から生活費を引いた金額であろう。
キャッシュフロー計算書(資金繰り表)の見方
営業収支はなんとかトントンの会社があった。しか
■「営業収支」は本業の収支
し、返済能力まではない。この会社の場合、会社所有
「仕入れ」「売上げ」「経費を支払う」といった、こ
の不動産・個人所有の不動産を売却して金融機関の借
の企業の本来の活動で資金が余ったのか、不足したの
入金を返済した。営業収支がトントンであるのだから、
かという計算である。
以降は資金が回っている。
この営業収支の段階で資金が不足しているのであれ
ば、リストラ・リエンジニアリングが必要である。ち
■総合収支とは営業収支・経常収支に該当しない
その他の資金取引である。経常性のないことから、
ょうど、損益計算書の営業利益が赤字である企業が継
特別となる。毎期発生するものとは別にし、その事業
続できないのと同様である。この営業収支は基本的な
年度特有であるということを強調して表示する。
考え方として、営業利益と同様である。
・売掛金の回収とは、資金化である。損益計算書に
例えば「所有している株券を売却して資金の穴埋め
をする」
「郊外にあるグラウンドを売却して身軽になる」
計上される売上げは納品の事実であり、こちらは集金
などは本業から出た資金ではない。毎年発生する可能
である。
性もない。企業において重要なことは安定収入の把握
・受取手形期日決済とは集金してきた手形の期日に
おける現金化の事実である。
である。その意味では、損益計算書と同様、経常性が
あるのか否かは重要な判断である。
・買掛金支払とは、仕入れ代金の支払である。月末
に締め、翌月末に支払うとする。全額手形を振り出し、
直接法との相違
そのサイト(手形を振り出してから、決済するまでの
直接法はその資金の収支の原因別に表示される。し
期間)は4ヵ月とする。実際に現金が当社から流出す
かし、間接法の場合には、残高比較から作成されるこ
るのは仕入れてから5ヵ月先の話になる。だから、事
とから、その原因まで遡ることは出来ない。
業計画とは計画的に為されなければならない。5ヵ月
来年4月から、日本の企業に初めてキャッシュフロ
先の支払まで決まってしまうからである。手形を振り
ー計算書の添付が義務付けられるが、暫定的にこの間
出した以上決済できなければ不渡りとなり、事実上倒
接法が採用されたのかは不明である。国際的にもこの
2
キャッシュフロー計算書(間接法)
調達額
運用額
営業活動の部
損益計算書
費用等計上額
収益計上額
調整項目
CFO(①)
投資活動(②)
受取手形・売掛金・在庫の
増減額
減価償却費等々
前払費用等
支払手形・買掛金等の増減
固定資産の購入等
固定資産の売却等
支払配当金
借入金の増減
FCF(③)=①−②
財務活動(④)
現金・預金及び現金等物価の増加・減少=③−④
現金・預金及び現金等物価の期首残高
現金・預金及び現金等物価の期末残高
間接法によっている。間接法による計算書は期首と期
業の未来への投資である。企業は永遠である。得意
末の残高の入力によって作成される。その意味では簡
先・仕入先・従業員・家族のために永遠に継続して事
単に作成される。
業を展開せねばならない。
間接法は「営業活動」「投資活動」「財務活動」3つ
の活動に分けて表示される。
営業活動は直接法の営業収支に近い。損益計算書を
ベースにして、
・カネの出ていかない経費(減価償却費・固定資産
売却損等)、
そのためには、融資を受けて、その資金で固定資産
投資をするのでは既にナンセンスである。固定資産投
資は、自己資本、利益でもって為されなければならな
い。本業の活動によって為されなければならない。
財務活動とは、金融機関他との資金調達の内訳の表
示である。
・カネは出ていっていても経費にならない勘定(前
払費用)、
・カネが入ってこないが売上に計上されている(受
取手形・売掛金)、
・カネは出ていっていないが仕入に計上されている
(支払手形・買掛金)
などを「調整」し資金の増減計算を行う。その結果、
本業での資金の増減はどうなのか,という計算である。
FCFの重要性
営業活動によるCFから、投資活動にかかわるCFIを
控除した金額がFCFである。つまり、本業での資金余
剰から未来への投資を控除したCFである。この金額は
フリーの通り、自由に使えるカネである。この金額の
ベスト会社はソニー、ホンダであり、ワーストはNTT、
トヨタということである。
損益計算書が赤字であっても、営業活動では資金余
企業の未来は間接法においてはこのFCFで表示され
剰があるというケースも当然考えれる。売掛金の徹底
る。しかし、現実的には損益計算書にこそ企業の未来
回収、在庫の一掃処分による「寝ている資金」の回収、
が表示されている。
減価償却費が多額な資産家の法人等が考えられる。
投資活動(CFI)は、固定資産投資を代表とする、企
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理士、
3
(株)フォルテッツァ代表取締役、(株)M&A代表取
締役。生命保険会社、会計事務所勤務を経て84年独立。
税理士向け、資産家向け、中小企業経営者向けセミナ
ー講師年間70∼80回。最近は財務に関する講演、特
に中小零細企業向けの「戦略財務システム」の構築に
関する講演が多い。連載、著書も多数。連絡先
TEL0426-21-1261
FAX
0426-21-0690(質問はF
AX以外は受け付けません)。
4
Hoken Joho Library
1026
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから適正保障額を算出 5』
掲載: 1999年8月13日
用(3,850万円)に遺族の生活費を加算する。ここでは
経営者の死亡退職金を考える
単純に子が稼ぐまでの期間に年間必要金額を計算した。
その金額から個人で加入している生命保険金額を控
算出の根拠を明確に
除した金額が、どうしても残さなければならない社長
経営者に万が一のことがあった場合の必要保障金額
退職金額である。子の退職金額は事業を継続する場合
を算出してみよう。
前回までの財務についての学習は、今回のためにあ
でも同様である。
損金算入限度額を超えた支給額は、「過大役員退職金
った。中小企業経営者に万が一のことがあった場合の、
必要保障金額の計算のためである。
資産勘定
帳簿価額 時価
ここでは、死亡退職金のみをテーマとする。その計
算は事業を継続するのか、辞めて解散してしまうのか
によって異なってくる。
現金預金
35,000
35,000
受取手形
70,833
70,833
売掛金
63,000
50,400
換金化できる数値に置き換え
社長へ貸付金
1,500
0
●会社を解散する場合
仮払金
1,500
0
-382
0
後継者もなく、事業を続ける必要がない場合は、会
貸倒引当金
棚卸資産
1
30,000
15,000
95,000
5,000
車両運搬具
8,000
4,000
工具器具備品
6,000
1,000
120,000
70,000
ゴルフ会員権
1,200
300
繰延資産
3,000
0
資産合計 ①
434,651
251,533
取得し、会社を解散するためには、2億0,213万円の資
負債勘定
帳簿価額
時価
金を必要とする。
支払手形
113,333
113,333
買掛金
33,333
33,333
短期借入金
24,000
24,000
1,000
1,000
236,000
236,000
3,000
7,500
社を解散し、その会社の資産負債を清算しなければな
建物
らない。貸借対照表には、その表示がある。しかし、
貸借対照表の数字は取得した時の価額で計上されてい
る。この数字を換金化できる数字に置き換える必要が
ある。
全ての資産を換金化し、すべての負債を支払、従業
土地
2
3
員にも退職金を支払い、役員の遺族も必要な退職金を
この金額が、後継者不在の場合の必要保障金額にな
る。
遺族の必要額と損金限度額は別
ちなみにこの際の社長(役員)の退職金をいかに算
未払金
長期借入金
4
退職給与引当金
定するかという問題がある。一般的には「最終役員報
社長必要資金
0 38,50
0
酬×役員在位年数×功績倍率」といった計算方法があ
負債合計 ②
410,667
453,667
るが、これはあくまで法人税法上の損金算入限度額で
資産合計 ①
251,533
ある。遺族が必要な退職金は確実に用意しなければな
負債合計 ②
453,667
らないという観点からから考えると、当然この計算方
不足額
-202,133
法は使えない。
何を残し、何を売るのか
遺族の今後に不要な資産は売却する、当然そのロー
ンおよび住宅ローンは返済する(住宅は残す)、その費
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
1)棚卸し資産を処分するとなれば、一山いくらの世界の話であり、半値
が常識とされている。
2)建物については、汎用性があれば別だが通常は取り壊すケースが多い。
その場合には時価は取り壊し費用相当分、赤字になる。
3)土地については、相続税評価額計算のための路線価などより、計算し
直す。
4)法人税法では、全員が退職した場合の退職金総額について引当金計上
で準備することはできない。改正前で40%が限度であり、その後、20%ま
で圧縮されていく。会社を解散するとすれば、全額の支払いが必要になる。
社長の退職金の計算
売却可能個人資産
ゴルフ会員権
自宅
時価
ローン残 コメント
4,000
8,000
35,000
自宅は売却しない方針で考え
る。しかし借金は返済する。
外車
2,500
2,000
小計
6,500
45,000
差引
38,500
遺族の生活費 50,000
個人加入生保 50,000
合計要保障金額 38,500
子が稼ぐまでの期間×500万円
貸借対照表の金額
額」とされ、法人税法上損金不算入となり、法人税の
命保険金が取得されれば、その超える部分の金額につ
課税対象となる。それについては、さらに必要保障金
いては課税される。再び、資金不足の事態になるので
額の計算に加えれば済むことである。
重要なことはこの金額を用意していなければ、会社
が解散できないという事実である。
ある。この計算は次のようになる。
ショート額と課税を含めた対策を ●会社を継続する場合
後継者が存在する場合には、次のリスクがあること
を第2回目で書かせていただいた。
リスク=売上激減・幹部の退職・社長退職金の財
源・取引条件の変更(仕入先)
これらのリスクをどう財務諸表で表現し、その際の
リスクを計算するかである。これらはすべてお金で表
現されるのである。
当然、経営者の死は生命保険契約によって、準備さ
必要資金=資金不足額+(資金不足額−損益計算書
の赤字金額)×(1−法人税等の率)
資金不足額:資金繰り表の当年の資金不足額
損益計算書の赤字の金額:法人税等控除前の課税所
得に近い金額から算定
法 人 税 等 の 率 :実質の税率を使用すべきである。
1999年4月以降開始事業年度で言えば法人税30%+住民
税5.19%+事業税9.6%の合計44.79%で計算する。
保障すべき期間は
保障しなければならない期間は、後継者が経営者の
レベルに達するまでの期間である。最近、創業経営者
の域に後継者が達することが出来るかと考えた時、い
れなければならない。そして、必要な金額は資金繰り
わゆる「カンピュータ」に対してパソコンを活用して、
表によって計算されなければならない。しかし、生命
デジタルな経営を志向することによって可能ではない
保険金の入金は法人税等の課税の問題が生じる。損益
かと考えている。
計算書はこの時、課税所得を計算することに活用する。
社長の域に達する期間を算定するのは無理と考えれ
要保障金額を導く
ば、形式主義的に「40歳」を目安とする。今、後継者
社長に万が一のことがあった場合、前述のリスクを
が30歳、社長が60歳、10年間の確実な付保が必要であ
計算し、いくらの資金がショートするのか。経営者は
財務諸表に慣れている。読めないのは、そこに生保を
るということであろう。
これらの数値の計算は過去の実績に基づいて計算さ
売ろうとしている営業だというのではお粗末である。
れるにしろ、社長に万が一のことがあった場合である
決算書をベースにして、必要保障金額を提案できるよ
から、未来の数値である。社長に万が一のことがあっ
うになるべきである。
たらいくら売上が下がるのか、仕入はどうなるのか、
生命保険金に課税される場合、法人税等の計算が必
要になる。
概算で考えれば、損益計算書の赤字金額を超えて生
販売費及び一般管理費はどうなるのか、これらの予測
を計算しなければならないのである。
未来の営業の数値を計算することは、会社が事業計
2
いずれにしろ、この1億2,863万円を確保しなければ
ならない。法人税を支払った後の金額でである。する
損益計算書
相続開始
前年度
承継1年目
売上高
500,000
250,000
売上原価
400,000
200,000
売上総利益
100,000
50,000
人件費
50,000
40,000
その他の販管費
35,000
36,050
減価償却費
3,000
3,000
最後に、ようやく言いたいことまで来た。この保障
販管費合計
88,000
79,050
金額は生命保険の本質である保障について、それも中
営業利益
12,000
-29,050
営業外収益
1,000
1,000
支払利息
7,800
7,080
500
500
いのだろうか。コストから考えれば定期保険、支払能
経常利益
4,700
-35,630
力があり資産性も考えるのであれば終身保険、節税面
退職金1
0
38,500
退職金2
0
20,000
当期利益
4,700
-94,130
と先述の算式で計算される。
1億2863万円+(1億2863万円―9,413万円)×(1−
44.79%)=1億4767万円
の保障が必要になる。
最低限なら定期保険で
保険料(損金)
その他の営業外費用
法人税等
2,350
税引後当期利益
2,350
前期繰越利益
未処分利益
-94,130
466
2,816
2,816
-91,314
画を作成することと同義である。法人の必要保障金額
の計算は、実に事業計画と同様の計算をしなければな
らないのである。
具体的な必要額をソフトで明示
筆者は、昨年これらをマイクロソフト社のエクセル
を使って『社長の責任』(文末参照)というプログラム
を作成した。以下、それによって計算してみる。
社長に万が一のことがあった場合、売上は半減する
としたケースである。
小法人の経営者について計算することが出来た、最低
保障金額である。これをどういう商品で付保すれば良
をも加味するのであれば逓増定期といったことにもな
資金繰表
売掛金回収
266,050
(内手形回収)
133,025
手形期日決済
170,602
営業外収益
1,000
収入合計
304,627
買掛金支払
198,333
△手形発行
158,667
手形期日決済
219,111
人件費支払
40,000
その他の販管費支払
36,550
支払利息
借入金返済
固定性預金積立
7,080
24,000
6,000
保険料支払額
法人税支払
社長の退職金の他に経営幹部の退職金2,000万円が必
承継1年目
2,350
支出合計
374,758
要となった。人件費はその分1,000万円減少したが、そ
経常収支
-70,131
の他の販売管理費が3%増加している。
借入金
損益計算書上では9,413万円の赤字である。大雑把に
△支払利息
割引手形
言えば、この金額までは法人税が課税されないという
ことになる。
資金繰りを見る
総合収支をみると、1億2,863万円の資金不足が予想
される。つまり、先ほどの損益計算書の赤字よりも大
きいのである。既にこの点については前号までで述べ
△割引料
保険金収入
退職金支払
経常外収支計
58,500
-58,500
総合収支
-128,631
前期繰越
5,000
次期繰越
-123,631
たが、回収・支払と損益計算のズレの問題である
3
ろう。
しかし、最低限の保障という意味では、別の目的は
排し定期保険でと考えたい。
『社長の責任』取扱先:ビジネス企画センタ
ー 電話03(5283)2560 FAX(5283)2565
1本500円 販売単位30本 テキスト付き1,500
円(税別)販売単位10本
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理士、
(株)フォルテッツァ代表取締役、(株)M&A代
表取締役。生命保険会社、会計事務所勤務を経て
84年独立。税理士向け、資産家向け、中小企業経
営者向けセミナー講師年間70∼80回。最近は財務
に関する講演、特に中小零細企業向けの「戦略財
務システム」の構築に関する講演が多い。連載、
著書も多数。連絡先TEL0426-21-1261
FAX
0426-21-0690(質問はFAX以外は受け付けませ
ん)。
4
Hoken Joho Library
1027
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから節税の提案 1』
節 税 と は 何 か
掲載: 1999年9月10日
各国税の規定には同族会社の行為計算否認の規定が
ある。例えば法人税法132条は次の通りである。
生命保険を活用する目的は、保障・節税・資産運用
「税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき
である。法人においても同様である。前回までに、財
更正又は決定をする場合において、その法人の行為又
務から必要保障金額を計算する論理について展開した。
は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不
次に節税について検討したい。
当に減少させる結果となると認められるものがあると
節税とは、計画的に合法的に納税額をコントロール
きは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認
することである。そのことを通して、企業の財務体力
めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準
を維持し、長期的に経営を継続し、その結果継続して
若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することがで
納税し得る体質を作ることである。積極的に言えば、
きる」
支払能力のない所得もあり得る。
とされている。
法人の所得計算のもとになる収益の計上は必ずしも
脱税の規定ではない。節税に対する規制の規定であ
入金を伴わないし、支出がそのまま経費にならないケ
る。「法人税の負担を不当に減少させる結果」とは、ど
ースがあるからである。現金のあるなしに関わらない
ういうことであろうか。一方で節税とは次のように定
利益計上が考えられるわけである。
義されている。「租税法規の予定しているところに従っ
法人税計算上で控除できる繰越損失の金額は5年以内
て税負担の減少を図る行為」である。
である。例えば、過去の事業年度で大きな赤字を出し、
2)脱税と節税
今期不動産を処分して、借金をある程度返済しようと
脱税とは、事実の隠蔽・仮装による課税回避である。
したとする。バブル前に取得した不動産であったので、
これは犯罪である。脱税し、それが調査によって明ら
安く買えた。売った利益が1億円であったとする。
かになった場合には、重加算税・延滞税等の負担が発
今期の事業の方はなんとかトントンだったが、過去
生する。社長が売上金を自分の財布に入れてしまった
の赤字は3億円あり、まだまだ資金繰りは悪い。しか
場合など、社長個人への賞与と認定され、源泉所得
し、その赤字の発生した年から5年は経過してしまっ
税・個人住民税の課税となる。場合によると、脱税し
ている。本業と不動産売却の利益合計に対し、法人税
た金額を超えて課税されるケースも考えられる。だか
等は概算4000万円課税されるのである。金はない。
ら、脱税は割に合わないのである。
節税とは永遠にその納付を避けるものではない。後
同時に「ばれるのではないか」といった不安感も含
に詳述するが、養老保険は2分の1損金でその時の節
めて考えれば、そんなことに気を使わずに経営に専念
税にはなったにしても、満期時には満期保険金と資産
するためにも脱税はマイナス以外のなにものでもない。
計上された保険料との差額については益金(法人税法
まして、世界一の調査能力を持つ日本の国税当局であ
上では、会計上の収益に対応する概念として益金があ
る。ばれないことなどあり得ない。
り、経費に対応する概念として損金がある)に算入さ
3)節税と株主代表訴訟
れる。だからこそ、計画性が要求されるのである。計
節税とは、節税しない場合と比較すると利益を圧縮
画性のない節税など意味はない。この意味で節税は経
し、株主に対する配当を少なくする行為である、また、
営戦略でなければならない。
決算書を悪くする行為である。株主の配当期待権とは
相反する。この意味で株主代表訴訟の対象にならない
節 税 は 合 法 か
1) 同族会社の行為計算否認規定
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
とも限らないのである。
日本の企業のほとんどが、同族会社であるからもめ
1
ないと思いがちだが、従業員にも会社の株を持たせた
場合等、検討する必要がある。株を持たせた以上、毎
年の株主総会にその従業員も参加させなければならな
2
資
金
繰
り
表
(万円)
いし、決算書も見せなければならない。
養老に加入
していた場合
節 税 の 目 的 と は 何 か
現金残
500
養老に加入
していない場合
500
1)社長退職金準備
従業員に対しては損益計算上退職金の準備が計上さ
満期保険金
10,000
役員退職金
7,000
7,000
現金残
3,500
-6,500
れる。しかし、代表者等役員に対しては損益計算上退
職金準備が出来ない。そのため、退職時には多額な経
費が発生し、経営の屋台骨を揺るがすことになる可能
性が高い。
養老保険(2分の1損金)の満期の時期を代表者の
退職時に合わせる。満期時に代表者の退職金が損金に
次に表2の資金繰り表をみる。
算入され、満期保険金による益金が発生する。資金的
養老保険の満期時に5000万円の利益が出るというこ
には満期保険金が財源になる。満期保険金による益金
とは、満期保険金はその倍額であるから1億円の入金
に対する課税は、この損金により課税は発生しない。
であり、退職金を支払っても現金は3500万円残
これは計画的な節税の例である。このことにより会社
る。
は、養老保険を掛け続けることにより社長の退職金を
準備し、課税を平準化したことになる。
しかし、後者は資金面で6500万円の不足である。借
金して社長に退職金を支払うこともあり得ない。その
結果、社長退職金はないのである。「社長さん、一生懸
表1は社長退職金計上時の損益計算書である。一方
命従業員さんのためにがんばっているのは分かります
は満期保険金1億円の養老保険に加入して準備してお
が、ご自分の退職金は確保してください」というセー
り、一方は計画していなかったケースである。前者は
ルストークを是非、中小企業経営者のために実行して
赤字は1500万円で済んでいる。順調に行けば4年目には
いただきたい。
赤字を解消し、利益が計上でき納税も出来る。しかし、
2)経営不振時のリスクヘッジ
後者は毎年500万円の利益が出たにしても13年かかる。
社長退職金準備といった積極的な理由だけではない。
会社は良い時もあれば悪い時もある。どんなに真面目
1
損
に経営していてもである。最悪の場合を想定して準備
益 計 算 書
(万円)
すること、それは社長の死に対しては死亡保障、会社
の経営内容の悪化に対しては節税である。神戸の大震
養老に加入
していた場合
養老に加入
していない場合
災の時、逓増定期保険を解約して当面の資金作りをし
たという話を聞いた。逓増定期に加入していたおかげ
経常利益
500
500
で、助かった方もいたわけである。
黒 字 の 事 業 年 度 の 解 約
保険満期益
5,000
役員退職金
7,000
7,000
当期利益
-1,500
-6,500
1) 実 損
節税目的で加入した生命保険契約を黒字の事業年度
に解約することはどういうことか。先述の例で考えて
みる。
2
2)保障があったという事実
3
損
変な言い方だが、節税で加入したにせよ、生保契約
益 計 算 書
(万円)
は保障を伴う。効果マイナス480万円で保障を買ってい
たと考えれば、実損ではない。
養老に加入
していた場合
養老に加入
していない場合
ある会計事務所で生保による節税の提案を決算対策
の際に行った。私の尊敬する高名な会計事務所である。
経常利益
500
500
決算対策は一般的には3月決算であれば、2月ごろに
行う。2月では1月までの実績を元にし、残った2∼
保険満期益
5,000
当期利益
5,500
500
法人税等
2,200
200
税引後利益
3.300
300
3月の予測を行う。その結果、多額な利益が予想され
た。高額な生命保険契約を獲得した。
しかし、実際に決算の時期になり、決算書を作成し
たら赤字であったというのである。だったら、保険な
ど入る必要がなかったというクレームが発生した。そ
の会計人から私に電話が入り、その対応を相談された。
表3で法人税の2200万円の内、2000万円は保険満期
その私の回答が冒頭の「保障論」である。目には見え
益に対する課税である。税率を40%で計算している。
ないが、万が一の場合にはこれだけの金額の保障があ
養老保険の場合には大雑把に言って、1億円支払って
ったのですよ、の説明にお客さまは納得されたとのこ
満期保険金で同額を取得する。保険料を支払っている
とであった。決算予測は、そのくらい難しい。
時点では、損金に算入される金額は1億円の2分の1
は5000万円であり、その40%が節税されている。
満期時にはその損金に算入された部分が益金になる
ので、同額の課税になる。節税が永遠の効果ではなく、
繰延べであるということをご理解いただけると思う。
しかし、これが逓増定期等の100%解約返戻金がない
場合を考えると、表4の様に、黒字の事業年度での解
約は実損になる。
黒字の事業年度に解約するということは、経済的な
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80回。
最近は財務に関する講演、特に中小零細企業向
けの「戦略財務システム」の構築に関する講演
が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL042621-1261 FAX 0426-21-0690(質問はFAX
以外は受け付けません)。
面からだけ考えれば、加入しない方が良かったという
ことになる。
4
効 果 測 定
(万円)
逓増定期に加入
していた場合
支払保険料
過去の節税額
実質負担
解約返戻金
法人税等
実質入金
効果
2,800
1,120
1,680
2,000
800
1,200
-480
3
Hoken Joho Library
1028
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから節税の提案 2』
掲載: 1999年10月8日
支払った保険料が、解約返戻金をいくら増額させたか
返 戻 率 と は 何 か
の割合である。解約返戻率はこの両面で考える必要が
ある。
節税を目的とした生命保険の活用は商品によって、
微妙に結果を変える。また、それらの意味は果たして
解約返戻率のピークでの解約が一番有利という考え
方もある。
どこにあるのかを検討していきたい。生保節税の本質
表1のケースで、7年目に該当する。判断に悩むの
は、損金算入金額と解約返戻金のギャップにある。保
は、節税で加入したとはいえ保険商品である。せっか
険料の発生によって損金が計上され、その分に対応す
く加入したのであれば、少しでも長く加入して万が一
る法人税等が減額される。
の事態に備えたい。
解約返戻率
そう考えると、私の解約時期の選択は解約返戻金を
単純返戻率とは、<解約返戻金÷支払保険料>の算
式で求められた効果である。しかし、この返戻率は当
然年々変わっていく。
「食い」始める14年目ということになる。単年度消費保
険料が払込保険料を超え始める時である。
消費保険料とは、私の造語であるが、累積もしくは、
例えば、全額損金タイプの解約返戻率のピークは逓
増定期型保険の場合で、7∼8年目である。その後、
年を重ねる毎に危険保険料が増加していく。
その1年でどのくらいの保険料を消費しているのかを
計算するものである。
この考え方は死亡保険金額を消費保険料で除するこ
表1は、全損タイプの逓増定期型保険である。
「解約返戻率」の欄は累計の支払保険料で解約返戻
金を除した率である。単年度解約返戻率とはその年に
とによって、保険金のコスト計算が出来る。
実質返戻率
実質返戻率とは、税効果を加味した返戻率の計算で
表1
経過
年数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
(年、歳、円)
年齢 死亡保険金額
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
保険料累計
解約返戻金
①
②
③
100,400,000
110,290,000
121,170,000
133,160,000
146,350,000
160,830,000
176,820,000
194,300,000
213,580,000
234,660,000
257,940,000
283,510,000
311,680,000
342,550,000
376,520,000
413,880,000
454,840,000
500,000,000
500,000,000
500,000,000
3,607,197
7,214,394
10,821,591
14,428,788
18,035,985
21,643,182
25,250,379
28,857,576
32,464,773
36,071,970
39,679,167
43,286,364
46,893,561
50,500,758
54,107,955
57,715,152
61,322,349
64,929,546
68,536,743
72,143,940
979,020
4,199,350
7,409,390
10,319,480
13,179,420
15,949,200
18,598,850
21,078,320
23,317,680
25,297,000
26,806,190
27,865,380
28,344,650
28,064,130
26,933,910
24,674,070
20,934,860
15,316,480
8,408,190
0
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
解約返戻率 単年度解約返戻率
④=③÷② 増加解約返戻金÷
支払保険料
27.10%
58.20%
68.50%
71.50%
73.10%
73.70%
73.70%
73.00%
71.80%
70.10%
67.60%
64.40%
60.40%
55.60%
49.80%
42.80%
34.10%
23.60%
12.30%
0.00%
27.10%
89.30%
89.00%
80.70%
79.30%
76.80%
73.50%
68.70%
62.10%
54.90%
41.80%
29.40%
13.30%
-7.80%
-31.30%
-62.60%
-103.70%
-155.80%
-191.50%
-233.10%
累積消費
保 険 料
単年度消費
保 険 料
2,628,177
3,015,044
3,412,201
4,109,308
4,856,565
5,693,982
6,651,529
7,779,256
9,147,093
10,774,970
12,872,977
15,420,984
18,548,911
22,436,628
27,174,045
33,041,082
40,387,489
49,613,066
60,128,553
72,143,940
2,628,177
386,867
397,157
697,107
747,257
837,417
957,547
1,127,727
1,367,837
1,627,877
2,098,007
2,548,007
3,127,927
3,887,717
4,737,417
5,867,037
7,346,407
9,225,577
10,515,487
12,015,387
1
ある。税効果とは、法人税・住民税・事業税の節税効
11年改正
果をいう。この際の考え方に2つある。
年800万
年400万
円以下
円以下
年800万
円 超
法人税
22.00%
22.00%
30.00%
は当期の利益を元にして計算された金額に対して乗ぜ
住民税
3.81%
3.81%
5.19%
られる率である。この税率は30%、住民税は法人税に
事業税
5.00%
7.30%
9.60%
30.81%
33.11%
44.79%
ひとつは、このうち事業税については、翌事業年度
において損金算入となる税金である。
節税であるから、800万円超の欄で検討する。法人税
対して17.3%、事業税は法人税の課税対象に9.6%であ
る。住民税の課税対象を法人税の課税対象と同一に勘
合計
違いしている参考書が見うけられるが、注意してほし
い。
いう点にある。
これらを合計して考えると、仮に1億円の課税所得
であれば、
定期保険と比較すると、定期保険の方は死亡保険金
の受取人が法人であることから、役員だけの加入も法
法人税等は、
人税法上否認されることはない。養老保険の場合は
400万円×30.81%+400万円×33.11%+200万円×
「普遍的加入」が問題とされる。
普遍的加入
44.79%=345万3,000円
社員の福利厚生のための加入であることから、普遍
となる。
表1の計算で考えれば節税効果を加味した返戻率は
的な加入状況が求められる。普遍的な加入とは必ずし
も全員加入を意味していない。パートタイマーの社員
次のようになる。
に対してまでも高額な契約には合理性はあるまい。
養 老 保 険 の ケ ー ス
また、件数が増えるために、その後の管理も重要で
ある。退職・入社等のアフタフォローが重要になる。
この商品の魅力は短期もの(10年満期)で支払った
普遍的加入とはある条件に該当すれば、全員加入さ
保険料の全額プラスアルファが満期時に支払われると
せ、ある条件に該当すれば保険金額の増額も認められ
(年、歳、円)
表2
経過
年数
年齢
死亡保険金額
①
保険料累計
②
節税額
実質負担
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
100,400,000
110,290,000
121,170,000
133,160,000
146,350,000
160,830,000
176,820,000
194,300,000
213,580,000
234,660,000
257,940,000
283,510,000
311,680,000
342,550,000
376,520,000
413,880,000
454,840,000
500,000,000
500,000,000
500,000,000
3,607,197
7,214,394
10,821,591
14,428,788
18,035,985
21,643,182
25,250,379
28,857,576
32,464,773
36,071,970
39,679,167
43,286,364
46,893,561
50,500,758
54,107,955
57,715,152
61,322,349
64,929,546
68,536,743
72,143,940
1,604,121
3,208,241
4,812,362
6,416,482
8,020,603
9,624,723
11,228,844
12,832,964
14,437,085
16,041,205
17,645,326
19,249,446
20,853,567
22,457,687
24,061,808
25,665,928
27,270,049
28,874,169
30,478,290
32,082,410
2,003,076
4,006,153
6,009,229
8,012,306
10,015,382
12,018,459
14,021,535
16,024,612
18,027,688
20,030,765
22,033,841
24,036,918
26,039,994
28,043,071
30,046,147
32,049,224
34,052,300
36,055,377
38,058,453
40,061,530
解約返戻金
③
979,020
4,199,350
7,409,390
10,319,480
13,179,420
15,949,200
18,598,850
21,078,320
23,317,680
25,297,000
26,806,190
27,865,380
28,344,650
28,064,130
26,933,910
24,674,070
20,934,860
15,316,480
8,408,190
0
解約返戻率
④ =③÷②
48.90%
104.80%
123.30%
128.80%
131.60%
132.70%
132.60%
131.50%
129.30%
126.30%
121.70%
115.90%
108.90%
100.10%
89.60%
77.00%
61.50%
42.50%
22.10%
0.00%
単年度解約返戻率
増加解約返戻金÷
支払保険料
27.10%
160.80%
160.30%
145.30%
142.80%
138.30%
132.30%
123.80%
111.80%
98.80%
75.30%
52.90%
23.90%
-14.00%
-56.40%
-112.80%
-186.70%
-280.50%
-344.90%
-419.80%
2
保険金も増加していくのであるから、前払い部分(責
(年、歳、万円、%)
表3
経過
年数
年齢
死亡保
険金額
保険料
累 計
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
134
267
401
535
669
802
936
1,070
1,203
1,337
1,471
1,604
1,738
1,872
2,006
2,139
2,273
2,407
2,540
2,674
解 約
返戻金
62
187
314
443
574
708
844
982
1,122
1,264
1,403
1,543
1,665
1,823
1,974
2,121
2,270
2,421
2,574
2,726
解 約
返戻率
0.464
0.699
0.783
0.828
0.859
0.883
0.902
0.918
0.932
0.945
0.954
0.962
0.958
0.974
0.984
0.991
0.999
1.006
1.013
1.019
任準備金)は大きくなる。
超長期の定期保険
大手生命保険会社が4月に発売した超長期定期保険
は、全額損金算入ではないが、そのポイントは解約返
戻率の高さにある。
表3は30歳加入95歳満了の例である。単純返戻率は
18年後に100%を超える。払込んだ保険料が全額返戻さ
れるのである。まるで養老保険のようである。この返
戻率は若い被保険者ほど、男性よりも女性の方が高い。
逓増定期型保険とは逆になる。その意味ではバッティ
ングする商品ではない。
終 身 保 険 の 節 税 性
「入り口と出口」
終身保険を契約者・死亡保険金受取人を法人、役
員・従業員を被保険者とした場合には、資産計上とな
る。定期性の付加保険料が損金になる以外は資産計上
るということである。昭和55年12月にこの取り扱いが
となる。つまり、預金しているのと同様の扱いである。
通達化された。当時の養老保険の現状は30年満期が主
万が一のことがあった場合には、死亡保険金が益金
流であったという。危険保険料が保険料の半額程度と
に計上され、退職金が損金に計上される。同時に資産
いう概算計算も成立したのであろう。
計上された金額を取り崩す。例えば毎年終身保険料300
資産性
万円支払い、10年経過したときに死亡事故があり3億
「半額損金になる定期積金」である。定期積金は金
円の保険金の支払があったと仮定する。
融機関が中小企業の支払能力判断の材料とされている。
毎月、積金が積めるということは、その金額分、返
済能力があると見るわけである。満期になった定期積
金は原則、定期預金とされる。
利益は1億7000万円である。
定期保険のように、全額損金に計上された場合には、
利益は2億円となる。
死亡保険金支払等の「出口」での課税を選択するか、
しかし、金融機関と中小企業経営者との信頼関係が
定期保険のごとく保険料払込時である「入口」で節税
崩壊した今、この方法によって信頼関係を作る必要が
を選択するかの問題である。この点が、全額損金VS2
あるのだろうか、と疑いだしたのである。
分の1損金VS資産計上の選択問題である。当然ながら、
その選択は顧客がしなければならない。
定期性保険における 「 一部加入 」
全額損金と資産計上
今回も資金の面から以上の保険商品を検討する。
普遍的加入とは従業員にも告知義務が生じ、署名押
仮に1000万円利益が出て、利益金額がそのまま期末
印が必要になる。そのことは会社が利益
計上の違いによる比較
が出ているということが従業員にも分か
保険料1,000万円
保険料支払前課税所得
保険料支払金額
保険料損金算入額
資産計上額
法人税等課税額
税引後当期利益
資金流出額
ってしまうということになる。
逓増定期型保険
逓増率が高いほど保険料の前払い性が
高くなる。将来の死亡保険金の支払のリ
スクは将来になればなるほど高くなり、
(千円)
全額損金
10,000
10,000
10,000
0
0
0
10,000
2分の1損金
10,000
10,000
5,000
5,000
1,564
3,437
11,564
資産計上
10,000
10,000
0
10,000
3,453
6,547
13,453
資金
流出
流出
3
終身保険の場合
損金
(経費)
益金
(収益)
役員死亡退職金 10,000万円
死亡保険金 30,000万円
資産計上 3,000万円
利 益 17,000万円
定期保険の場合
損金
(経費)
益金
(収益)
役員死亡退職金 10,000万円
死亡保険金 30,000万円
利 益 20,000万円
に現金として残っていたと仮定する。全額損金の場合
には、保険料を支払って手許には現金はゼロというこ
とになる。
2分の1損金であれば保険料1000万円の他に、法人
税等が156万4000円、資産計上であれば345万3000円課
税される。その金額分の資金流出を考えると資金繰り
がきつくなる計算である。
無論この例の場合には、利益の全額を生保活用して
いるという極論であるが。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80回。
最近は財務に関する講演、特に中小零細企業向
けの「戦略財務システム」の構築に関する講演
が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL 042621-1261 FAX 0426-21-0690(質問はFAX
以外は受け付けません)。
4
Hoken Joho Library
1029
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『BS/PLから節税の提案 3』
掲載: 1999年11月12日
照]。
節税の財務における影響
この商品は超長期の定期保険である。2分の1損金
算入であるため、節税効果は569.2万円―419.5万円=
■キャッシュフロー計算で節税効果を検証する
149.7万円である。支払保険料668.5万円のうち、損金算
解約返戻金とは何か
入は334.2万円、法人税率等は次の通りであるから、合
生命保険を解約すると現金の収入となる。この際の
計税率44.79%減額になるわけである。計算過程は表2
解約返戻金とは資産計上された部分と損金算入された
金額の合計金額となる。しかし、定期預金を含み資産
と呼ばないのと同様に、資産計上された支払保険料を
含み資産とは呼ぶまい。
の通りである。
2年度目以降の課税関係・キャッシュフローは、2年
目と1年目では異なる。
(千円)
表2
ただし、資産計上された保険料と返戻される金額と
の差額は含み資産を形成しよう。当然、資産計上との
11年度改正
年400万 以下
年800万 年800万
超
以下
差額については、法人税法上の益金に算入され課税所
法人税
22.0%
22.0%
30.0%
3,860
2,857
得を構成する。
住民税
3.81%
3.81%
5.19%
668
494
事業税
5.0%
7.3%
9.6%
1,164
843
30.81%
33.11%
44.79%
5,692
4,195
含み資産の効果
毎年1,500万円の課税所得の法人があったと仮定す
合計
非加入合計
加入合計
る。この法人が毎年400万円の大手生保の超長期定期に
加入した場合としなかった場合を比較してみる。
(千円)
表3
生保非加入 生保加入
前提として利益=現金の増加とする。
つまり、期末に前期末よりも資金が1,500万円増加し
ていると仮定する。実際の事業では商品が増加したり、
売掛金が増加したり、逆に仕入代金の未払いである買
掛金が減少したりして利益と現金とは一致しないが、
単年度利益
15,000 15,000
1,164 843
0 6,685
課税所得
13,836 10,814
法人税等
5,170 3,817
現金残
9,830 4,498
事業税損金算入
支払保険料
それでは比較にならないので敢えてこういった前提を
取る。
【2分の1損金タイプのケース】
表4
加入した年の課税関係・キャッシュフロー[表1参
(千円)
表1
(千円)
非加入合計 加入
法人税 3,511 2,604
生保非加入 生保加入
住民税 単年度利益
15,000
15,000
事業税
支払保険料
0
6,685
課税所得
15,000
11,658
法人税等
5,692
4,195
[表2]の税金のうち事業税が損金算入になる。実
現金残 9,308
4,120
行税率とは、この事業税の翌事業年度における損金算
607 451
1,052
762
合計 5,170 3,817
入を考慮して計算した税率をいう。3年目以降も若干税
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
1
額が変わるが、大きな影響はないので2年目以降は同様
戻金は97.9万円である。この金額と現金残731.7万円を
と仮定する[表3参照]。
合計すると829.6万円。加入しなければ930.8万円、初年
[表3]の法人税等の計算は次の通りである[表4
参照]。
度掛けただけなら、101.2万円実質損だということであ
る[表6参照]。
これを新契約から10年間支払いつづけたと仮定する。
2年目以降の節税効果は[表7]の通りである。
その際に加入した場合と加入しなかった場合ではどう
表7
生保非加入
生保加入
変わるのであろうか[表5参照]。
単年度利益
15,000
15,000
1,164
818
0
3,607
課税所得
13,836
10,575
(千円)
表5
事業税損金算入
生保非加入 生保加入
初年度
支払保険料
9,308
4,120
2∼10年度
88,466
40,483
法人税等
5,170
3,686
現金残合計
97,774
44,603
現金残
9,830
7,707
解約返戻金
0
63,200
97,774
107,803
含み資産込み計
前年の事業税が翌年損金に算入される。生保加入し
た場合には節税によって事業税は圧縮されているので、
生保に加入した場合には、手許に残っている資金は
4,460.3万円である。加入しなかったら手許には9,777.4
損金算入も減額されている。
10年間の合計は[表8]の通りである。
万円残っているのである。
(千円)
表8
しかし、その時点で解約したとしたら6,320万円の解
約返戻金がある。これを生保に加入した場合の現金残
に加算すると1億0780.3万円となる。その差額は1002.9
万円となる。節税の効果である。
この間、保険料の支払合計は4,120万円である。10年
間で合計利回り24.34%となる。
ちなみにこの商品は有配当商品である。無配当で計
生保非加入 全損加入
初年度
9,308
7,317
2∼10年度法人税等
78,637
69,360
現金残合計
87,945
76,677
解約返戻金
0
25,297
87,945
101,974
含み資産込み計
算しているので実際の解約返戻金はもっと増加するか
もしれない。
【全額損金タイプのケース】
加入しなかった場合には8,794.5万円現金預金が残っ
次に全額損金算入タイプの商品を見てみよう。
年払保険料360.7万円の逓増定期型保険である。この
結果、加入した年は法人税で161.6万円の節税になる。
ちなみに1年目の保険料を支払った時点では、解約返
ている。加入した場合には7,667.7万円残っている。
しかし、解約した場合の返戻金は2,529.7万円ある。
その「含み」を現金残に加算すると1億0197.4万円、加
入しなかった場合との差額は1402.9万円、支払保険料
の合計は3,607万円、保険料に対しては合計利回り
表6
(千円)
生保非加入 全損加入
38.89%の効果となる。さすがに2分の1損金と比較す
ると節税効果を考慮しては、全額損金は効果は高い。
単年度利益
15,000
15,000
支払保険料
0
3,607
課税所得
15,000
11,393
全額損金と2分の1損金の比較は節税効果のみで考
法人税等
5,692
4,076
慮できない。顧客によっては、いくら返るのかを重視
現金残
9,308
7,317
する。生命保険は長期になればなるほど、返戻率は上
■単純返戻率をキャッシュフローから検証する
がる。まして、法人で加入するのであれば、満期時ま
2
(万円)
表9
経過
年齢
年数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
死 亡
保険金
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
保険料
累 計
134
267
401
535
669
802
936
1,070
1,203
1,337
1,471
1,604
1,738
1,872
2,006
2,139
2,273
2,407
解 約
返戻金
62
187
314
443
574
708
844
982
1,122
1,264
1,403
1,543
1,665
1,823
1,974
2,121
2,270
2,421
解 約
返戻率
0.464
0.699
0.783
0.828
0.859
0.883
0.902
0.918
0.932
0.945
0.954
0.962
0.958
0.974
0.984
0.991
0.999
1.006
■資産として考えた場合、どちらが優秀か
節税効果を加味して考えるのか、単純に解約した場
合の返戻率だけなのか。それぞれの良さを、顧客のニ
ーズに合わせて売ることなのだろう。
解約した場合の単純な返戻率、税効果を加味した返
戻率、その選択の判断基準は経営者の価値観によらね
ばなるまい。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80
回。最近は財務に関する講演、特に中小零細企
業向けの「戦略財務システム」の構築に関する
講演が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL
0426-21-1261 FAX 0426-21-0690(質問はF
AX以外は受け付けません)。
で継続することの方が少ない。解約返戻金(若しくは
率)の高いうちに解約し、勇退退職金の源泉に充てる。
この会社のシミュレーションは[表9参照]どうい
うわけか、万円単位である。外資系が円単位で作成す
るのに比較すると、慣れていないせいか見にくい。し
かし、数字が少ない分、見やすいのかもしれない。こ
の保険は30歳加入の超長期の定期保険である。加入後
18年目には支払った保険料を越える解約返戻金にな
る。この後も解約返戻率はアップしていくのである。
つまり保障は「只」である。これに対し前述の逓増定
期は6∼7年目をピークに解約返戻率は下降してい
く。そして、返戻率は超長期の定期に比較すれば低い
[表10参照]
。
表10
経過
年数
(円)
年齢
1 51
2 52
3 53
4 54
5 55
6 56
7 57
8 58
9 59
10 60
死 亡
保険金
保険料
累 計
解 約
返戻金
100,400,000
3,607,197
979,020
110,290,000
7,214,394
4,199,350
121,170,000
10,821,591
7,409,390
133,160,000 14,428,788
10,319,480
146,350,000 18,035,985 13,179,420
160,830,000
21,643,182 15,949,200
176,820,000
25,250,379
18,598,850
194,300,000
28,857,576
21,078,320
213,580,000
32,464,773 23,317,680
234,660,000
36,071,970 25,297,000
解 約
返戻率
27.1%
58.2%
68.5%
71.5%
3.1%
73.7%
73.7%
73.0%
71.8%
70.1%
3
Hoken Joho Library
1030
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『生命保険で資産運用 1』
掲載: 1999年12月12日
3000万円の月商のために在庫を単月売上の70%程度
余剰資金の運用
ストックが必要とすれば、在庫は1575万円である。
つまり、未だ売っていない商品が1575万円、売った
法人契約の生命保険契約を資産性から捉える。金融
けれど回収もしていない代金が3000万円、回収したが
商品である、満期には満期保険金がある、解約すれば
現金化されない手形が6300万円あるということである。
解約返戻金がある、しかも金融機関にする定期積金と
これに対し商品代金として支払の面を見ると右上図
比較すると、法人税の計算上損金に計上される商品も
の通りである。
資本金1000万円で2000万円の借入
ある。これらを資金運用という側面からみていきたい。
■金融機関依存体質の中小企業
原価率75%。75円で仕入れて100円で売るということ
金融機関は融資が出来ないのが現状である。日本の
である。手形で支払う割合が80%とすると、未だ払っ
中小零細企業は1000万円、有限会社300万円の最低資本
ていない仕入代金2250万円、手形を振り出して支払っ
金制度はあるが、やはり弱小である。手形取引・掛取
たけれど現金決済されていない手形が3ヵ月分、合計
引(末日で締めて翌月回収)・棚卸資産の合計金額は
7650万円が買入にかかる債務である。
常に資金を固定化する。これに対応する支払関連は仕
現金化されていない金額 1億0875万円
入の代金の掛取引分・手形振出未決済金額である。
支払っていない金額 7650万円
月商3000万円の会社があったとする。その会社の債
権債務は下図のようになる。
その差額3225万円。この金額はほぼ固定的に「眠る」
資金と言えよう。であるから、中小零細企業は資金が
今月売った商品代金は翌月100%回収、その回収代金
不足する構造となる。当然、この金額を当初の資本金
の内70%は手形で回収、その手形は3ヵ月のサイト
若しくは利益の積み上げで賄うことが出来れば、借金
(満期までの期間)とすれば、その手形と売掛金の合計
体質にはならない。
金額は9300万円となる。
しかし、現実的には1000万円程度の資本金では当然、
債権・債務の関係 1
売上げ
手形取引
1ヵ月
売上げ
来 月
回 収
3,000
3,000
0.7
売掛金
今月回収
手 形
先月回収
手 形
2,100
2,100
受取手形
受取手形
3,000
6,300
先々月回収
手 形
債権合計
2,100
受取手形
9,300
〈万円)
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
1
債権・債務の関係 2
売上げ
1ヵ月
原 価
来 月
支 払
2,250
2,250
手形取引
来 月
決済手形
翌々月
決済手形
翌翌々月
決済手形
債務合計
1,800
1,800
1,800
7,650
0.8
〈万円)
2000万円以上の借入が必要となろう。であるから、金
定期積金の意味するもの
融機関に依存した経営体質にならざるを得なかったわ
中小零細企業は金融機関の要請されるまま、従来定
けである。
期積金を掛けて来た。3年満期・5年満期といった長期
前置きが長くなったが、次に金融機関の体質の変化
的に資金が「眠る」運用である。満期になると定期預
を見ておきたい。その先に、銀行等の金融機関から運
金に組み入れる、つまりその資金を使うことはなかっ
用商品としての生保商品のイメージが浮かび上がるで
た。使えなかったのが現実である。
あろう。
工場・事務所を新築する、機械を購入するにしても
■融資が出来ない金融機関
この定期預金はそのままで、別個に融資に応じた。盆
低利の時代である。2%台の金利をどう解釈するか。
と暮れには、賞与資金を融資し、その後の半年で返済
仮に100万円を金利2%で、100社に貸したとする。合計
させ、さらに融資したのである。この定積によって、
1億円になるので、金融機関が毎年手にする金利は200
万円ということになる。この内2社が倒産して返済でき
なくなったとすると、1年分の金利はすっ飛ぶ。もろも
低金利時代に
銀行はなぜ融資できないのか
ろの経費を考えると赤字になる。今の時代、金が不足
して借りた会社の倒産率は2%で足りるはずがない。
だから、貸せないのである。貸したら銀行は、自分の
方が危なくなるのである。保証協会、住宅ローンを除
いて貸付不可能と考えるべきである。
例えば
100万円を年利2%で100社に融資
預金保証1000万円の影響
2001年4月から、金融機関が倒産した場合に保障され
る預金額は1000万円である。ただし、決済用資金(当
座預金・普通預金)については除かれると言う。これ
に伴い、それ以降に到来する満期の定期預金は、激減
していると聞く。生命保険契約はこの保障の対象では
ないか。しかしその意味でも定期預金と例えば養老保
険とはライバルである。1000万円を超える預金等は、
銀行は合計1億円の融資をして、
毎年200万円の金利を受け取る
どこに預けても同じである。
定期性預金の利率が余りに低い。借り入れる際の利
率が低いから当然なのだが、定期預金・定期積金の金
利の低さはどうしょうもない。0.1%という金利をどう
考えれば良いのだろうか。予定運用利回り2.1%の生保
倒
産
倒
産
このうち2社が倒産すれば
1年分の金利収入がすっとぶ
業界はもっと誇って良いのではなかろうか。
2
キャッシュフロー計算書
運 用 額
経営成績
営業活動(1)
調整勘定
投資活動(2)
調 達 額
売上原価
販売費及び一般管理費
営業外費用
その他の損失
売上高
営業外収益
特別利益
その他の収益
前払費用
未収収益
受取手形の増加
売掛金の増加
在庫の増加
支払手形の減少
買掛金の減少
減価償却費
引当金繰入
未払金の増加
受取手形の減少
売掛金の減少
支払手形の増加
買掛金の増加
固定資産の購入
有価証券の購入
社長退職金の準備
定期積金の増加額
固定資産の売却
フリーキャッシュフロー
財務活動
(1)−(2)
借入金の減少(返済)
借入金の増加
資本金の増加
差引現金等価物の増加・減少
金融機関はその会社の体力を測定したのである。
(在庫の圧縮、回収の早期化、支払の適正化)の努力で
毎月20万円定期積金を掛けられるということは、毎
乗り切るにも限度がある。しかし、中小零細企業の強
月20万円返済する能力があるということである。その
さは大手企業のように体が大きくないことであり、決
意味では、金融機関は定期積金によって、戦後の中小
断の早さである。今の時代のキーワードは速さと言わ
零細企業の信用力及び財産を確立してきたことも否定
れる、その意味で中小零細企業は大企業ほど簡単には
できない。無理にでも毎月積み続ける、その努力結果
つぶれはしないと思う。
の定期預金は明らかに良かった部分も持つであろう。
その結果、いざという時にはその金融機関は融資に応
法人における資産運用
じていたのである。
金融機関との付き合い方の変化
■余剰資金とは何か
その金融機関が全く金を貸さなくなったのである。
法人における余剰資金とは何であろうか。キャッシ
金を貸さなければ金融機関はどうするのであろうか。
ュフロー計算書を見ながら検討したい。キャッシュフ
企業としては、自己資金中心の経営に変えていかなけ
ロー計算書は、会計基準の相違から比較が出来なかっ
ればならないし、無駄な定期積金もする必要性がない。
た、その改善から生まれたものである。会社が1年間で
金融機関依存型経営の終焉
どのくらい稼いだのかを当期利益で把握するのではな
いざという時に「貸してくれる」金融機関こそ、企
く、現金等価物がどのくらい増えたのかによって判断
業の味方である。先述した通り、日本の中小零細企業
する計算書である。
は資本金が不足している。商いの割には自己資本が少
フリーキャッシュフローとは、企業が自由に使える
なすぎるのである。この少なすぎる資本は経営改善
お金と言われる。それは決算で生み出した利益をベー
3
スに計算される。損益計算書をベースに下図のように
計算される。
図の中の「経営成績」とは損益計算書を指す。その
結果は、当期利益で計算される。その下の「調整勘定」
とは、損益計算書が売上については回収をベースに作
成されないで納品を基準として計上されるので、「お金
が入らない部分」を除外し、「お金が入った分=前年よ
りも今年の売掛金が減少している」を加算する、減価
償却費は購入した時以外は金銭の支出がないので加算
する、といった計算過程である。ここまでの計算で、
本業でどのくらい資金が増加したかを示している。
その下の「投資活動」は、企業が永遠の命を有する
ためには、当期の営業から稼ぎ出した資金のすべてを
当期で使い果たしてはならない、未来のための投資を
しておかなければならない、といった項目がくる。
この意味では社長の退職金準備の生命保険契約は、
ここに表示したいと考える。投資というよりも準備と
言った方が正確かもしれない。
もう一段下の「フリーキャッシュフロー」は、今期
増加した資金から、未来への投資を控除した金額を指
し「自由に使って良いカネ」ということになる。資金
余剰とはこの金額を言う。
しかし、現実的には日本の中小零細企業は弱小資本
である、そのために借入依存体質であるということも
先述した。FCFから借入金を返済した後の、「現金等
価物の増加・減少」後の金額が中小零細企業において
は、余剰資金と呼ぶべきかもしれない。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80回。
最近は財務に関する講演、特に中小零細企業向
けの「戦略財務システム」の構築に関する講演
が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL 042621-1261 FAX 0426-21-0690(質問はFAX
以外は受け付けません)。
4
Hoken Joho Library
1031
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『生命保険で資産運用 2』
法人における資産運用
掲載: 2000年2月11日
図表2
(円)
保険金
5年定期
保 険 料
1年目
10,040
634,227
ある。また、変額保険等であればその運用の失敗であ
2年目
11,538
728,855
る。変額保険の被害は法人の方が気楽だったと言えよ
3年目
13,266
838,013
4年目
15,244
962,963
●自己の勇退退職金の資金準備
5年目
17,522
1,106,865
自分の退職金の準備をしている経営者は少ない。預
合計
●リスクとリターン
生命保険のリスクとは生命保険会社の存続の問題で
う。変額保険での運用の失敗は解約することにより、
その損失は法人の損金に算入されるからである。
4,270,924
金で準備することは、余り意味がなくなった現在、超
長期の定期保険、逓増定期保険により節税効果と万が
一の場合の保障をも含めて、「退職金の財源確保」を提
視点から考え、定期保険の短期ものを考えてみた。
その際に、毎年の保障金額によって、5年定期をベ
ースに各年の保険料を図表2のように計算した。
案して欲しい。
他の金融商品、例えば定期預金には保障はない。保
商品研究1
障があるのであるから、保障コストとしてこの金額を
逓増定期特約付終身保険
控除してみるのは、当然である。
【節税性】次に節税額の問題である。法人税法上損
●保険料を資産運用という視点から見る
金になり、その分所得金額が減少し、納税額が減少す
サンプル1
る効果があるのなら、その分を控除して生命保険の資
50歳・男性、保険金は1億0040万円から
スタートし、逓増定期特約が複利で年15%増加し、死
亡保険金は増加していく。
図表1でこの年齢を選んだ理由は、解約返戻率等に
おいて一番効果があるからである。
産性を考慮しなければならない(図表3)。
図表3
(円)
保険料
損金算入
節税額
実質負担
5,496,548
5,476,118
2,452,753
3,043,795
図表1
保険種類
終身保険
保険金
50万円
年払い
保険料
経理処理
20,430円
資産計上
支払保険料のうち、損金に算入されるのは終身保険
を除いた「逓増定期保険特約」の部分のみである。少
額なので、100%損金に近い。
逓増定期
9,900万円 5,476,118円
合 計
10,040万円 5,496,548円
全額損金
5年間の合計金額は、図表4のようになる。
図表4
保険料
【保障料】危険保険料部分である。しかし、残念な
(円)
損金算入
節税額
差引負担
27,482,740 27,380,590 12,263,766 15,218,974
がらこれらを含む保険料の内訳は生命保険会社本社し
か分からない。
ただ、一番安い保険料を考えたらいくらか、という
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
【解約返戻金】解約した時のキャッシュである。
1
図表5
(円)
保険料
累 計
解 約
返戻金
単 純
返戻率
図表7
増加率
解約返戻金
22,048,210円
実質負担額
÷
10,948,050円
=201.4%
1年目
5,496,548
217,990
3.97%
2年目
10,993,096
5,740,930
52.22%
3年目
16,489,644
11,253,180
68.24%
4年目
21,986,192
16,705,540
75.98%
5年目
27,482,740
22,048,210
80.23%
場合は、節税効果をもたらしているからである。その
6年目
32,979,288
26,052,470
79.00%
結果社外に流出する資金を抑制している。
27,482,740円支払い、満期を迎えたとすると、満期金額
は図表8のようになろう。しかし、単純にこの2つの
単純返戻率とは、税効果を考慮せずに、解約返戻金
金融商品を比較することは不可能である。保険商品の
図表8
(円)
を支払保険料累計で除した率である。支払った保険料
預金残高
利 率
期末残高
のうち、解約した場合いくら返ってくるのか、という
1年
5,496,548
1.00%
5,551,513
2年
10,993,096
1.00%
11,158,542
将来の保障の前払い的な部分である。保障金額は年々
3年
16,489,644
1.00%
16,821,641
増加していく。保険料は平準化されている。
4年
21,986,192
1.00%
22,541,371
5年
27,482,740
1.00%
28,318,298
率である。
この保険商品の場合、非常にはっきりしているのが、
当然、保険金額が高く、死亡する可能性の高い、将
来の保険料を含んでいる。
特に、2回目の保険料支払時の解約返戻金の増加額
に注目されたい。
企業が保険商品でなく定期預金で運用している場合
5,740,930円 - 217,990円=5,522,940円>2年目の支払
には、この預入金額のほかに法人税等の負担をしてい
ることになる。その意味では、図表9のように考えな
保険料5,496,548円
ければフェアでないことになる。
この奇妙な現象は翌年も続く。
●退職予定の65歳までの対
図表9
●正味負担金で見る
(円)
満期金額
支払保険料から保障料・節税効果を控除した金額
(正味負担金額)が満期時(解約時)いくらになるの
か?
前項で検証したことをまとめてみると、図表6のよ
うに考えられる。
5年間
保険料
(円)
保障料
27,482,740 4,270,924
この保険は5年を境に解約
28,318,298
節税効果
返戻率は減少していく。つま
12,263,766
り金融商品として捉えた場
運用原資
合、それ以降は不利な商品と
40,582,064
いえる。では、その後どう考
増加率
図表6
応
69.8%
えるか。例えば、この事例の
場合、50歳の男性社長である。
正味負担
事業承継が65歳と予定してい
12,263,766 10,948,050
れば、5年払込、終身保険の払い済み保険に変更する
節税額
方法が考えられる。
当然、この10年間も保険金額が減少するが、保障は
5年間支払保険料−保障料−節税額=正味負担額
付くのである。その保険料を先ほどの考え方で5年定期
さらにこの増加率(正味返戻率)を計算すると、図
の保険料を控除して、正味負担額を控除し、その率を
表7の計算になる。
計算すると図表10になる。
先述した通り、金融機関に定期積金を5年間合計
2
保障料として、5年ごとに定期保険
図表10
を更新した場合の定期保険を図表11の
(円)
ように計算した。
年数
解 約
返戻金
単 純
返戻率
保障料
正味負担
正 味
返戻率
6
22,404,847
81.52%
349,851
10,598,199
211.40%
【正味負担金額】逓増定期と同様に
7
22,761,498
82.82%
349,851
10,248,347
222.10%
正味負担金額を計算する。その際の節
8
23,118,150
84.12%
349,851
9,898,496 233.55%
税額は図表12の計算になる。
9
23,478,368
85.43%
349,851
9,548,645
245.88%
10
23,838,586
86.74%
349,851
9,198,793
259.15%
11
24,202,370
88.06%
508,690
8,690,103
278.50%
12
24,569,721
89.40%
508,690
8,181,413
300.31%
13
24,933,506
90.72% 508,690
7,672,724
324.96%
くところにある。
14
25,300,857
92.06%
508,690
7,164,034
353.16%
の60%、つまり95年であるから39年以
15
25,671,774
93.41%
508,690
6,655,344
385.73%
降、支払う保険料が全額損金になり、
43年間というのは、解約返戻率のピ
ークから設定した。この保険の特色は
長く掛けるほど、返戻率が上がってい
同時に、保険期間
39年間二分の一資産計上した金額を損
金算入していくのである。そ
図表11
(円)
年齢
∼35歳
35歳∼40歳
41歳∼45歳
46歳∼50歳
51歳∼55歳
56歳∼60歳
61歳∼65歳
65歳∼70歳
合計
期間
6
5
5
5
5
5
5
5
41
年払保険料
189,800
230,500
309,600
433,900
631,700
980,800
1,426,100
2,131,200
6,333,600
の頃の節税効果も含めたほう
保険料合計
1,138,800
1,152,500
1,548,000
2,169,500
3,158,500
4,904,000
7,130,500
10,656,000
31,857,800
が効果は大きくなる(図表
13)。
40年目から毎年100万2825
円の資産計上されている2607
万3450円(1∼39年の損金算
入額と同額)を26年で取り崩
し、支払った保険料133万
図表12
経過年数
保険料
期間累積
保 険 料
損 金
算入額
資産計上
取 崩 額
法人税
節税額
(円)
1∼39年
1,337,100
52,146,900
26,073,450
0
40∼43年
1,337,100
4,011,300
4,011,300
4,011,300
3,593,323
56,158,200
30,084,750
4,011,300
15,271,621
7100円との合計233万9925円が
損金算入される。
11,678,298
【解約時の資金効果】以上のま
合 計
とめとして、超長期の定期保
険の資金効果を表にすると図
表14の通りである。
商品研究2
超 長 期 定 期 保 険
●返戻率の高い時に解約
繰り返すが、生命保険を定期預金との比較をしてい
るのである。定期預金には保障がない、節税が出来な
●節税効果の最大値は
い、それとの対比から考えると無理な理論展開ではな
サンプル 30歳・男性、保険期間95歳・95歳払込満
い。正味に負担した金額から考えると、実に7倍の解約
了・年払保険料 1,337,100円(プラチナステージ)
返戻金が43年目に手に出来るのである。因みに、満期
長期平準定期の取り扱いは周知のとおり、保険期間
まで定期保険
の60%については2分の1損金、その後の期間につい
を続けたらゼ
ては支払う保険料は全額損金、資産計上されている保
ロである。
険料相当額を期間の経過に応じて損金に算入する。こ
のことを資産運用の側面から見る。
やはり、解
約返戻率の高
商品は次のケースを考えた。この年齢は解約返戻率
い時代に解約
が1番高い。税効果が資金の運用に与える影響を見る
すべき商品で
ために、この年齢を設定した。
ある。そして、
図表14
〈円)
支払保険料
56,158,200
法人税節税額
-15,271,621
保 障 料
-31,857,800
合 計
9,028,779
解約返戻金額
63,820,000
増 加 率 706.85%
3
その頃にはニーズは変化しているであろう。73歳にな
った経営者には、後継者があろうし、保障しなければ
ならないのであれば、解約しなければ良いのであるか
ら。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80回。
最近は財務に関する講演、特に中小零細企業向
けの「戦略財務システム」の構築に関する講演
が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL 042621-1261 FAX 0426-21-0690(質問はFAX
以外は受け付けません)。
4
Hoken Joho Library
1032
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『生命保険で資産運用 3』
掲載: 2000年3月11日
まれている。
キャッシュフロー計算書による提案
その意味で資金の「調達」(カネが入ってくること)
になる。この「調整項目」は、損益計算書を資金の流
れに変える役目を持っているのである。
■資産運用効果
これまで、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフ
投資活動はその企業の未来のための投資である。例
ロー計算書・資金繰り表を学んだ。そこで、キャッシ
えば、資産計上される終身保険・損金にならない保険
ュフロー計算書による節税の効果を考えてみたい。
料については、この投資活動に計上するのが妥当と考
生命保険商品を運用商品として活用した場合の、キ
ャッシュフロー計算書上の効果とは、現金等価物で表
現される。一般的な様式は次の通りである。表1の計
えられる。
その資産計上された「保険積立金」は、将来の経営
者に対する退職金の財源準備と考えられる。
算書は、決算書と比較すると、資金の流れが一目瞭然
現金等価物とは、この1年間の営業活動・投資活動・
なので、経営者には評判は良い。経営者の「儲け」の
財務活動の結果、手元に残った現金・流動性預金(も
実感と合うからである。
しくは決済性預金)の合計金額をいう。しかし、この
この計算書は、2期の決算書をもとに作成される。
フォームでは、節税効果が明確でないので、次のよう
営業活動の部、収益計上額及び費用等計上額は損益計
なフォームを考えてみた。「※」印を付した部分が異な
算書から記載される。その次の調整項目は前期と今期
る。
生保加入前のキャッシュフロー計算書
との増減額である。
受取手形・売掛金・在庫が前期よりも増加していれ
ば、運用額(カネが出ていくこと)のプラス項目にな
り、前払費用(資金は支出されているが、費用化され
ていない、つまりカネは出ていっている)と同様、キ
ャッシュフロー計算書の内容を悪化させる。
一方、減価償却費は、固定資産にかかわる費用計上
である。例えば、昨年買った車両は、昨年、資金が流
出し、今期は資金の流出はないが費用計上額の中に含
表2は、生命保険に未加入の場合。この数字は決算
期末の予測数値である。
さらに未加入の状態で、キャッシュフロー計算書に
よる節税効果を測定したものが表3である。
1)この表の記載について、経営者にインタビュー
し、最終予測を聞き出せるか否かである。
2月末までの実績をもとに、残る1ヵ月の予測であ
表1
営業活動の部
損益計算書
運 用 額
費用等計上額
調 達 額
収益計上額
調整項目
受取手形・売掛金・在庫の増減額 減価償却費等々
CFO(1)
前払費用等
支払手形・買掛金等の増減
投資活動
固定資産の売却等
固定資産の購入等
(2)
FCF(3)=1−2
財務活動
支払配当金
借入金の増減
(4)
現金・預金及び現金等価物の増加・減少=3−4
現金・預金及び現金等価物の期首残高
現金・預金及び現金等価物の期末残高
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1
益計算書であり、貸借対照表である。「次年度繰越現金
表2
生命保険に非加入
損益計算書による利益予測
20,000千円
法人税等充当額
7,931千円
当期利益
12,069千円
る。当然、その予測と実績との誤差を怖れてはなるま
等価物」は3月末の残高であり、法人税を支払うのは
5月末となる。効果を測定するには、この時間差を繋
ぎ合わせて考えねばならない。
生保加入後のキャッシュフロー計算書
では、次に生命保険に加入したらどうなるのかを見
ていこう。表5で、使用した生保商品は、保険料
10,000千円・超長期定期・95歳満了のもの。
大手生保の商品を保険料と解約返戻率を借用した。
い。しかし、経営者がその誤差について、納得できる
年齢は30歳加入のレートで計算してある。単純返戻率
インタビューの姿勢を貫くべきであろう。
80%で計算している。
内容から考えると、会計事務所との連係プレーが一
支払保険料10,000千円の2分の1が損金に算入にな
番理想的ではないだろうか。決算書もしくは直近の月
る。よって利益は15,000千円になる。その所得金額に
次決算書(試算表と呼びます)を手に入れなければ正
対して法人税等は下記のとおり、4,796千円になる。こ
確には作成できないからである。
の金額をベースに、表5で、生保加入後のキャッシュ
2)表1と比べると、下から2行目の「法人税等支
払予定額」を「次年度繰越現金等価物」から控除した。
フロー計算書を作成してみた。
表4
法人税等は、決算後2ヵ月後に申告し納付するので、
生命保険に加入
期末現在では未払である。
資金の流出はまだない。だから資金の「増加要因」
として損益計算書の利益に加算しているのである。だ
損益計算書による利益予測
15,000千円
が、節税の効果をキャッシュフロー計算書で確認する
法人税等充当額
4,796千円
ためには、現金等価物をベースに検討しなければなら
ないであろう。そして、解約返戻金相当額をその中に
当期利益
10,204千円
含めて始めて効果が表現される。
3)時間から考えると、3月決算は3月末日での損
表3
キャッシュフロー計算書の仕組み
損益計算書の利益金額
調整項目
減価償却
売上債権の増減
在庫の増減
営業活動
買入債務の増減
未払法人税等
合計
本業の資金収支
固定資産等の購入
投資活動
保険積立金
フリーキャッシュフロー
借入金返済
財務活動
当年の資金増減
前年繰越現金等価物
次年繰越現金等価物
※法人税支払予定額
差引繰越現金等価物
単位千円
増加要因
5,000
12,069
減少要因
備考
資金流出なし
10,000 回収が遅れている
5,000 在庫が増加した
8,000
7,931
20,931
期末に仕入れ増加
15,000
18,000
10,000
8,000 自由に使えるお金
5,000
3,000
28,000
31,000
7,931
23,069
2
金等価物である。
1)本業の資金収支までは、損益計算書の数字が表
生保加入後は24,204千円であり、加入前と比較する
2から表4に変わっている。利益が5,000千円減少して
と「効果1,135千円」の増加である。前述の金融機関の
いる。2分の1損金算入の結果である。
定期預金と比較しても良いと考える。節税効果の部分
2)生命保険料10,000千円支払ったため、当年の資
だけ、資産性において優位にたつはずである。
金増減は加入前が「+3,000千円」が、「−7,000千円」
最後に
になっている。
当初、事業保険販売のための財務によって立つ販売
5,000千円は資産計上であるから、投資活動の部の保
話法を依頼された。それは私の日常活動の文章化であ
険積立金が5,000千円記載されている。社長の勇退時退
る。経営者に本当に必要な生命保険商品とは何なのか、
職金準備である。
当然生命保険は保障商品である、この点から外れるわ
3)前年の「現金等価物」が28,000千円であったこ
とから、次年度への繰越は21,000千円となる。
けにはいかない。
■保障商品
法人税は加入前と比較すると、
経営者にとって必要保障金額はいくらなのか。
7,931千円−4,796千円=3,135千円
従来の計算方法を超えて経営者が納得できる計算は
減少している。
あるのか?
保険に加入したことによる資金圧迫は「当年の資金
この解答は社長に万が一のことがあった場合に、そ
増減−7,000千円」とこの法人税額の減少3,135千円の差
の会社を継続するのか否か、その点から当然保障金額
額、3,865千円である。
の計算が変わるべきであると考えた。
「次年度繰越現金等価物21,000千円」から考えると、
企業は生きている。社長の逝去とともに会社を解散
5年を超えると保険支払能力は消える。この点を考え
してしまうのであれば、その時点での資産処分→換金
ると、この5年間の合計までは算出することが出来よ
化→負債の清算で済むはずである。
う。その後については、同様な営業成績であると、支
払不可能と考えられる。
営上、その資金は足りるのか、足りないとしたらいく
4)この時点での解約返戻金は8,000千円である。解
約はいつでも出来る、現金化できると考えれば、現金
ら足りないのか、資金繰りを考えなければならなかっ
たのである。
■節税商品
等価物と考えて良い。
次年度繰越現金等価物から法人税等支払予定額を控
除し、解約返戻金相当額を加算した金額が差引繰越現
表5
しかし、その後も継続して経営が続くとすると、経
節税の効果を測定するとはどういうことなのか。
資金から考えていくと解約返戻率の確認である。全
キャッシュフロー計算書の仕組み
損益計算書の利益金額
調整項目
減価償却
売上債権の増減
在庫の増減
営業活動
買入債務の増減
未払法人税等
合計
本業の資金収支
固定資産等の購入
投資活動
保険積立金
フリーキャッシュフロー
借入金返済
財務活動
当年の資金増減
前年繰越現金等価物
次年繰越現金等価物
法人税支払予定額
※解約返戻金
差引繰越現金等価物
効果
単位千円
増加要因
5,000
10,204
減少要因
備考
資金流出なし
10,000 回収が遅れている
5,000 在庫が増加した
8,000
4,796
17,796
期末に仕入れ増加
15,000
13,000
10,000
50,000 資産計上保険料
-2,000 自由に使えるお金
5,000
-7,000
28,000
21,000
4,796
8,000
24,204
1,135
3
額損金算入と2分の1損金算入はどう違うのか、長期的
に資金に与える影響はどう測定すべきなのか。逓増定
期とは何なのか、その商品分析の計算方法を考えてみ
た。
■運用商品
節税商品と運用商品としての生命保険との考え方の
相違はあるのか。
実際的にはこの2つの生命保険の活用は境界がない
ように思う。節税効果は解約時の返戻率を引き上げる、
他の金融商品と比較するために保障コストを控除する、
その結果がいくらの解約返戻金になるのか?
実は変額保険を財務において、どう考えるべきなの
か。編集部からの依頼もあり、次回、補講として取り
上げる。
スカンディア生命を始め、変額保険が保険としての
機能以外に運用商品として注目されている現在、検討
してみたいと思う。それも企業向けに考えるのである
から、当然財務に直結した提案になる。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80回。
最近は財務に関する講演、特に中小零細企業向
けの「戦略財務システム」の構築に関する講演
が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL 042621-1261 FAX 0426-21-0690(質問はFAX
以外は受け付けません)。
4
Hoken Joho Library
1033
事業保険獲得セミナー 税理士 井上得四郎氏
『法人における変額保険の販売』
掲載: 2000年4月17日
では問題にしない。
終身保険の法人税法上の取り扱い
法人における終身保険の長・短所
終身保険の税務上の取り扱いはご存知のとおり、図表
1のようになる。
・資産計上する意味──資金繰り上の問題点
養老保険ではないので、普遍的加入は必要ないが、資
資産計上するということは法人税の課税上、損金の額
産計上もしくは給与扱いになる。法人における資産運用
に算入されないということである。単純に現金で仕入れ、
というテーマであるので、役員・使用人の遺族が受取人
現金で売り、減価償却資産もないということを考える。
というケースは今回のテーマとは異なる。また、個人年
つまり、儲けはすべて現金で残るということである(図
金保険については、法人受け取りは考えにくいのでここ
表2)
。
法人税率は単純に45%とした。
「差引手持現金」とは当
図表1
期利益(前提条件によって同時に当期現金増加額)から
終身保険の税法上の取り扱い
死亡保険金
受 取 人
主 契 約
保 険 料
支払い保険料を差し引き、法人税等流出を控除した金額
である。資産計上の保険に加入した場合をみると、2000
万円儲かったのに、手元には1000万円しか残っていない。
しかし、従来、金融機関との付き合いは、この資産計
法 人
資産計上
上された保険料が実に定期積金であり、定期預金であっ
たのである。その意味から考えると、中小企業の経営者
役員
使用人の遺族
はこんな感覚には慣れているかもしれない。
給 与
・ 損金になる時期──入り口と出口
資産計上する保険の良さは、資産計上されるというこ
とだ。損金になるときは、解
約するとき若しくは生命保険
図表2
資産計上の保険料加入
当期利益
損金保険料
課税所得
法人税等流出
差引手持現金
20,000
10,000
20,000
9,000
1,000
全額損金の保険加入
20,000
10,000
10,000
4,500
5,500
金が入金になったときに取り
崩されるということである。
当然、その際には死亡退職金
の計上がされるときであり、
損金としては大きい金額が計
上される。
図表2から10年後に経営者
図表3
に万が一のことがあったと仮
資産計上の保険料加入
経常利益
保険金収入
退職金支払い
資産計上取崩額
差引利益
20,000
300,000
300,000
100,000
△80,000
全額損金の保険加入
20,000
300,000
300,000
0
20,000
定する。10年間であるから全
額損金タイプに加入していた
場合には10年間で4500万円の
節税という効果があった。そ
のときに、3億円の生命保険
金が入金になったとする(図
保険情報ライブラリー copyright(c)2000 Tokushiro Inoue , Hokensha
1
表3)
。
図表4
中小企業の経営者に万が一のことがあったのである。
その際に赤字を出す。その時に節税をする。
「入り口」つ
まり保険料を支払った時点での損金を考えるか、
「出口」
どちらを選択し、どういった商品を検討すべきなのか、
終身保険500万円
6000
4000
2000
金融機関との関係
バブル崩壊の最大の教訓は、自己責任ということであ
る。どんな大企業でも簡単に崩壊する。政府が保護して
8,200
8000
十分な商品説明を要しよう。
死亡保障のある定期積金
30歳・男性/60歳払済み
円
10000
保険金が入金されたときに節税を考えるかで、法人が終
身保険を検討する意味が出てくる。
保険料の比較
5,760
ア
セ
ッ
ト
チ
ョ
イ
ス
ス
カ
ン
デ
ィ
ア
生
命
5,715
バ
リ
ア
ブ
ル
ラ
イ
フ
ソ
ニ
ー
生
命
定
額
終
身
保 某
険 社
0
産運用効果を定期性預金と比較することも出来る。
当然、予定利回りが定期預金の利率等と比較すると問
題にならないので有利さをここでは記述しない。
きた政策がすべて中小企業にとってのものではなく、大
保険料の各社間における相違はもう少し、業界全体で
企業のためであった。しかしそれすらもオールマイティ
検討する必要がある。護送船団方式の時代が終わり、そ
ではなかったことである。
れぞれの会社の持ち味が問われる時代である。保険料は
中小企業の経営者であれ、何にも頼らず己自身の判断
安いほうが良いに決まっているのであるから。
で生きていかなければならないということである。金融
機関と中小企業との関連についても、すでに述べたよう
資
産
運
用
性
に、
「金を貸さない」金融機関にどんな意味があるのであ
ろうか。金融機関が融資できない体質・環境にあること
はすでにご理解いただいた。
その取引の中で、相も変わらず毎月定期積金を続ける
意味がないことも申し上げた。
私が変額保険に加入したのは平成11年2月である。法
人契約である。加入した動機は長期的な運用、自分自身
の退職金準備である。年間60万円程度の保険料なので、
10年で解約したら600万円にしかならない。
時代が変われば又融資できる時代がくるかもしれない
スタッフを被保険者とした、ハーフタックス等々の一
ので、まったく無意味とは言わないが、保障が付いてき
環である。株式投資が出来るのなら必要ないかもしれな
て、なおかつ金融機関での定期性預金と比較して利回り
いが、それに準じた運用を考えていた。運用を考える場
が良いとするなら、融資できる体質に戻るまでその余剰
合、いくつかにリスクを分散すべきである。資金運用は
資金の一部を変額保険で運用することも時代的な対応な
FP的に考えても、長期資金・中期資金・短期資金といっ
のではあるまいか。
た分野に分散し、かつそれぞれのリスクをヘッジする形
・変額保険の保険料
変額保険の「保障料」は他の定額保険に比較して安い。
での運用を考えるべきである。
バブルのころは、株式・不動産・預金といった運用を
この安いと同時に運用商品としてあるのであれば法人に
節税がらみで検討した。節税を目的としたワンルームマ
おける変額保険の活用も考えるべきである。
ンション投資から始まり、その値上がり益を期待した。
30歳の男性が500万円の終身保険に加入する場合で、60
借金もしくは信用で株式も運用した。それらの未来は、
歳払い込み満了を比較してみると図表4のとおりである。
必ず価格が上昇するといった期待が終始した。長期的な
ちなみに、某社の保険料は業界の中では、安いほうで
運用とは、10年以上の期間を考えている。月払いという
ある。業界他社と比べそれでも30%以上安い。前回まで
支払方法もリスクを回避するはずである。50歳の誕生日
の例と同様に保障料を定期保険の保険料で計算し、その
前に契約、60歳のリタイアの時期に合わせた。
金額をコストとして上記の保険料から控除して、残った
・長期的運用商品としての変額保険
金額と解約返戻金を比較し、解約返戻率を計算すると資
世界株式型(2月現在)は図表5のようになる。
2
図表5
図表6
-1.11
過去1カ月
3.70
過去1カ月
-5.96
3.20
世界株式型
14.23
過去3カ月
過去3カ月
4.54
8.90
2000年2月現在
14.42
過去6カ月
過去6カ月
上段 ファンド
下段 ベンチマーク
9.39
20.88
過去1年
33.10
過去1年
11.05
34.76
62.70
過去2年
15.09
過去2年
41.56
17.51
3.88
92.22
過去3年
過去3年
73.11
6.60
104.87
設定以来
96/11∼
-15.0
2000年2月現在
9.00
上段 ファンド
下段 ベンチマーク
7.76
日本株式型
9.20
90.41
10.0
35.0
60.0
85.0
110.0
-10.13
設定以来
96/11∼
-6.44
-15.0
10.0
35.0
60.0
85.0
(%)
この表を見ると、長期的には非常に安定した運用実績
110.0
(%)
図表7
である。一喜一憂すべき商品ではないことが理解できよ
支払保険料
う。ベンチマークとは日経平均株価である。
日本株式型(2月現在)は図表6のようになる。
682,240円
・運用の選択
この会社の場合、7つの運用を選択できる。どういっ
た運用を選択するかは、それぞれの生き方、考え方が決
解約返戻金
定することになる。
私の場合、10年以上の運用を前提に考えた。前述の世
528,756円
界株式型と日本株式型といった、どちらかというと、ハ
イリスクハイリターンである。この会社の場合、年間に
12回の運用の選択変更が出来る。しかし、今まで変えて
はいない。このことにより、リスクは最小限に抑えるこ
図表8
携帯電話の「iモード」による自分の契約の運用の現
主契約死亡保険金
(円)
とが出来ることになる。
2000年
20,164,220
3月
2000年
20,119,140
2月
2000年
20,089,330
1月
1999年
20,056,100
12月
1999年
20,006,530
11月
1999年
20,004,520
10月
況確認、インターネットによる現況確認ができる。
・現状はどうか
月々5万円程度を考え、13回の保険料を支払った段階で
ある(図表7)
。
契約日より10年間は解約控除があるので、契約当初に
は慎重さが必要である。この契約の場合には、26万7000
円の解約控除がある(図表8)
。
運用成績によって死亡保険金額・解約返戻金は増減す
る。しかし、契約時の保険金は最低保障される。本契約
の場合には2,000万円である。それが13ヵ月の運用によっ
3
て死亡保険金は上記の通りに増加している。当然、運用
によっては解約返戻金も支払保険料を超える場合も考え
られよう。
しかし、それらは利益計上されるわけではなく、含み
資産となる。定期預金等が利息を計上しなければならな
いことと比較すれば、保険契約のほうが有利である。
・契約者貸付
こういった長期運用を支えるものとして、契約者貸付
の制度がある。この制度の説明も重要である。長い間に
は法人において資金需要も発生しよう。定期保険にはな
いメリットとしてセールスポイントになるはずである。
法人の資金の運用については、単に死亡保険金目的だ
けで加入しない。もちろん、経営者などに万が一の場合
のリスクヘッジとしての生保の意味は重要である、しか
し、同時に運用による成果も重要になろう。この意味か
らも、個人以上に法人への変額保険の販売は慎重を期さ
なければならない。しかし、期は熟していると思う。
いのうえ・とくしろう 1949年生まれ。税理
士 、( 株 ) フ ォ ル テ ッ ツ ァ 代 表 取 締 役 、( 株 )
M&A代表取締役。生命保険会社、会計事務所
勤務を経て84年独立。税理士向け、資産家向け、
中小企業経営者向けセミナー講師年間70∼80回。
最近は財務に関する講演、特に中小零細企業向
けの「戦略財務システム」の構築に関する講演
が多い。連載、著書も多数。連絡先TEL 042621-1261 FAX 0426-21-0690(質問はFAX
以外は受け付けません)。
4