太陽類似星のベリリウム組成

太陽類似星のベリリウム組成
竹田洋一、田実晃人、川野元聡、安藤裕康、櫻井 隆 (国立天文台) 太陽に類似した早期 G 型主系列星同士を比較すると、恒
本田敏志 (京都大学)
本研究の詳細については文献 [5] を参照されたい。
星の基本物理量は互いに似通っているにもかかわらず、
6708 Å の中性リチウムの共鳴線から導かれる表面層の Li
組成は 2 桁以上ものきわめて大きな散らばりを示している。
我々は 2005 年から 2008 年にかけて岡山観測所の 188 cm 鏡
+HIDESで観測して得られた118個の太陽類似星の高分散分
光データに基づき、この多様性が何に起因するのかという
問題に取り組んだところ、Li 線の強度と幅に密接な関連が
あることを見出し、これから「自転速度が鍵となる重要な
パラメータであり自転の遅い星ほど Li 欠乏が促進される」
という結論に至った[1]。さらにCa II 8542 Åの中心強度から
恒星活動(自転に密接に依存する)との関連をも調べたと
ころ、Li 組成と恒星活動の明らかな正の相関が示されたの
でこのことが裏付けられた [2]。
しかしなぜ自転速度が遅いとLiの欠乏が促進されるのだ
ろうか? 理論的な立場からは、
(自転が速いと剛体的に回
図 1.太陽外層の物理構造.
るが)自転が遅いと対流層と輻射層の境界(タコクライン)
で微分回転が生じてシア混合が生じ、従って低速自転にな
るほど外層混合で Li(250 万度以上で燃える)が内部に運ば
れて壊されやすく表面での欠乏につながるとの興味深い説
が提唱されている[3]。この描像が正しければ対流層と輻射
層の境界部分での混合効率が鍵を握ることになるが、この
境界層付近の混合の様子を探るには Li のみならず Be(350
万度以上で燃える)もうってつけのプローブである(図 1
に太陽外層の構造を示す:文献 [4] より)
。
そこで Be のふるまいを調べるために、2009 年から 2010
年にかけて同じ太陽類似星サンプルをすばる望遠鏡+HDS
で観測して得られた紫外域高分散スペクトルを基に、Be II
3131 Å線を含む領域に対してスペクトル合成法からBe組成
を決定したところ次のような結果が得られた(図 2)
。
― Be は Li の場合とは異なり、散らばりは少なく太陽は他の
星と同程度の Be 組成を示す。
図 2.Be 組成と射影自転速度の関係.
―しかし Li と同様に自転 / 活動が低下するほど Be 組成も緩
く減少する傾向が見て取れる。
―ただし奇妙なのは 4 個の星のみは極めて顕著な Be 欠乏 (> ~ 2 dex)を示し、しかもこれらは他のパラメータは太陽
とほぼ同一で低活動低自転の solar twin である。
―従って、Be については事情がより複雑で、
(1)輻射層の
底で少しずつ起こる(自転が遅いほど効率は良い)混合過
程により Be が少しずつ欠乏して行く「弱い過程」
、
(2)具
体的な機構はよくわからないが自転の遅い星の中の一部に
参考文献
[1] Takeda, Y., Kawanomoto, S., Honda, S., Ando, H., Sakurai, T.:
2007, A&A, 468, 663.
[2] Takeda, Y., Honda, S., Kawanomoto, S., Ando, H., Sakurai, T.:
2010, A&A, 515, A93.
[3] Boubier, J.: 2008, A&A, 489, L53.
[4] Stix, M.: 2002, The Sun, 2nd ed. (Berlin: Springer), ch.6.
[5] Takeda, Y., Tajitsu, A., Honda, S., Kawanomoto, S., Ando, H.,
Sakurai, T.: 2011, PASJ, 63, 697.
おいてきわめて大きな Be の枯渇を引き起こす「強い過程」、
の二種類の Be 欠乏過程があることが判明したのでこの観
測事実を合理的に説明する理論の出現が待たれる。
I Scientific Highlights
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