男子体操競技における加点に関する採点規則の改正点と最近の演技傾向

人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
男子体操競技における加点に関する採点規則の改正点と最近の演技傾向
-あん馬、鉄棒について-
Point of Reform on Code de Pointage in Men’
s Gymnastics Tournaments
And Trends in Performance
大 門 信 吾
DAIMON Shingo
Ⅰ.はじめに
採点規則には男子体操競技の演技を国際的な水準で客観的に評価する目的があり、世界トップレベルにある
国内の競技会においても同様の目的で適用されている。跳馬を除く5種目(ゆか・あん馬・つり輪・平行棒・
鉄棒)の採点には、難度・特別要求・加点・演技実施の4つの要素があり、選手の自由演技がどの程度の価値
で構成されているかという「演技価値」(難度・特別要求・加点)と演技そのものを姿勢・技術の観点で評価
する「演技実施」の2つの視点で採点されている。この「演技価値」と「演技実施」の視点での採点は跳馬も
例外ではない。金子(1974)によると採点規則は勝敗の具体的資料であり、トップレベルの選手の得点は少な
くとも9.0以上の高得点で争われることが前提で作成されていること、また10.0の理想演技はその時代の優れた
選手や技術開発の動向等によって揺れ動く要素があることを指摘している。このことは、選手の採点規則への
対応が体操競技技術の急速な発展や高得点の過密化を促し、明確に競技レベルを判定するための規則の改正が、
時代に即応して必要になることに通ずると考えられる。
1997年版採点規則にはそれまでの1993年版からの改正点がいくつかみられ、4つの採点要素では、難度領域
は1D2C3B4Aの要求で配点が2.4と変化はなく、また、特別要求領域は種目毎の項目に改正がみられるものの
配点は1.2といずれも据え置かれている。しかし加点領域は0.40引き上げられ(1.00から1.40へ)、演技実施領域
は0.40引き下げられた(5.40から5.00へ)。体操競技の採点は演技の理想像に対してかけ離れた度合いを減点す
る方式と、減点領域を10.0以下にし、残りの領域を加点する方式とを併用しているが、今回の主な改正点は加
点領域を拡大し、10.0満点の演技構成を困難にすることや加点認定の条件をより厳しくすることによって高得
点を抑制したことが上げられる。また「演技価値」と「演技実施」の割合を1:1にすることにより、「演技
価値」を採点するA審判と「演技実施」を採点するB審判の分業制を導入し、採点負担の軽減と採点の正確さ
の向上を図ったことも主な改正点といえよう。加点には大欠点のない実施でのD難度とE難度、そして1997年
版から新たに設定されたスーパーE難度に与えられる難度加点と、これらの技各々及びC難度の技とのコンビ
ネーションに与えられる組み合わせ加点とがある(日本体操協会編,1997,p.22)。加点を得て10.0満点の演技構
成をすることは、今回の改正でより困難になったと考えられ、選手の立場では1997年版採点規則に対応して、
加点に関する技をどのように演技構成し、どのように実施するかが勝敗の分岐点といえよう。また審判員の立
場では、A・B審判団制は実際の採点実務にさまざまな問題点が生ずることから国内競技会への導入が見送ら
れており、 A・B審判双方の役割を担った資質が要求されている。従って、選手及び実際に採点を担当する審
判員は現在の加点領域に関する規則の改正点とトップレベルの選手の演技傾向に精通することが重要といえ
る。さらに将来は明確に競技レベルを評価するため、採点規則の改正が繰り返されると考えられるが、体操競
技が採点競技である限り、常にルールが選手の演技を的確に評価する役割を果たしているか、現状分析を積み
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重ねることが大切と考えられる。
本研究の目的は、男子体操競技の現状を理解する上で最も有効と考えられる加点領域に関して、1993年版と
1997年版採点規則の比較から高得点を抑制している規則の改正点を実際の演技を通じて指摘するとともに、現
在適用の1997年版採点規則下における国際レベルの演技傾向を明らかにすることにある。なお、本研究は採点
規則によって、演技価値としての基礎点があらかじめ定められている跳馬を除いた5種目を対象としており、
本稿はこれまでのゆか、つり輪、平行棒についての報告(大門,2000)の継続として、あん馬と鉄棒について
報告するものである。
Ⅱ.方 法
1.1993年版と1997年版採点規則の加点に関する比較について
1995年世界体操競技選手権鯖江大会(1993年版採点規則適用)における男子種目別決勝(あん馬・鉄棒)の
演技をVTRにより観察し、加点に関する演技、難度、加点合計、演技価値点を判断し、加点演技の内容を明
らかにする。また、当時の最高峰の自由演技と捉えられるこれらの演技に1997年版採点規則を適用した場合の
難度、加点合計、演技価値点を判断し、公式結果である決定点に現れる影響について考察する。なお技の名称
は採点規則の難度表に準じ、正式名称(技を発表した個人名称を含む)で記載した。
2.国際レベルの演技傾向の現状について
1997年世界体操競技選手権ローザンヌ大会(1997年版採点規則適用)における男子団体決勝(あん馬・鉄棒)
の演技をVTRにより観察し、予選を通過した上位6ヵ国の選手の加点に関する演技、難度、加点合計、演技
価値点を判断し、加点演技の内容を明らかにする。また、加点に関連する技を技の構造群及び技番号ごとに分
類し、技の出現頻度から演技傾向を考察する。なお採点規則によると、加点の認定には大欠点(0.4以上の減
点)のない実施が条件であり、大欠点がある演技は難度も加点も与えられない(日本体操協会編,1997,p.22)
ことになる。VTRにより観察した演技内容には大欠点を伴う実施がみられたが、本稿は選手の演技傾向の把
握を目的としているため、大欠点を伴うが技の実施が明確に確認できる場合(D難度の宙返りの着地で尻餅等)
は加点に関する演技として処理した。
Ⅲ.結果と考察
1.あん馬
(1)1993年版と1997年版採点規則の加点に関する比較について
1995年世界体操競技選手権大会男子種目別における加点演技と採点結果及び、この演技に1997年版採点規則
を適用した結果を表1に示した。表中の加点は難度加点(D難度は0.1、E難度は0.2)と組み合わせ加点0.1の
場合(CとD、CとE、DとD)と0.2の場合(DとE、EとE)の加点されるべき点数を示している。1993年版に
よる採点では、選手8名の加点合計は平均で1.25(±0.34)、実質加点は1.0(±0.18)、演技価値点は9.95(±
0.08)であった。加点合計の平均が1993年版の加点領域の配点である1.0(日本体操協会編,1993,p.19)を上回
っているのに、実質加点の平均が1.0であるのは、組み合わせ加点が最大0.2までしか与えられない(日本体操
協会編,1993,p.27)ためである。従って、実質加点の数字がルール上の加点合計を示している。表1では演技
の失敗で落下したため、難度不足で演技価値点が9.8満点となった中国の選手が1名いたが、残りは9.9満点が2
名、10点満点が5名と種目別にふさわしい高い演技価値点を有している。
これらの演技に1997年版を適用すると、1997年版では組み合わせ加点に上限がない(日本体操協会
編,1997,p.22)ため、加点合計の比較が二つの採点規則による採点結果を反映することになる。1997年版の加
点合計の平均は0.93(±0.28)で、1993年版の平均とでは0.32の差がみられる。あん馬における加点がマイナ
スとなる規則の改正は、①様々な馬背支持(把手を挟んだ馬背支持など)での実施は難度格上げになること
(日本体操協会編,1993,p.52)の廃止。②各技はそれらが組み合わされて実施された場合、難度格上げになるこ
と(日本体操協会編,1993,p.52)の廃止。③フロップルールの採用と一把手上の技の難度認定が整理されたこ
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表1.1995年世界体操競技選手権大会男子種目別決勝「あん馬」における加点演技の内容と採点結果
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
国名
選手名
加点演技
リ.ドンファ ・シュテクリB、一把手上縦向き旋回2回から
シュテクリB連続、一把手上縦向き旋回2回か
ら一把手上下向き270°転向直接横移動∼背面
横移動直接シュテクリB
・シュテクリB、一把手上縦向き旋回2回から
シュ テクリB連続、一把手上縦向き旋回2回か
ら一把手上下向き270°転向直接横移動
黄 華東 ・前移動1/3∼シュテクリB連続4回∼前移動
中国
2/3∼シュテクリB連続4回∼前移動1/3・開
脚旋回倒立ひねり振り下ろし開脚旋回ひねり∼
把手を挟んで開脚旋回横移動ひねり正面支持
・前移動3/3
田中 光 ・把手を挟んで開脚旋回1回ひねり ・把手を
日本
挟んで開脚旋回1回ひねり ・馬端外向き旋回2
回∼後 ろ移動3/3∼前移動3/3∼後ろ移動3/3
畠田好章 ・把手を挟んで開脚旋回1回ひねり∼把手を挟
日本
んで開脚旋回1回ひねり ・ニコライからシュ
テクリA∼シュテクリB連続1/4上向き転向一
把手上縦向き旋回∼馬端外向き旋回2回
フランス プージャド 開脚旋回後ろ移動3/3∼開脚旋回3/4ひねり
・下向き1/4転向、シュテクリB連続すばやく
握りかえて下向き逆移動∼後ろ移動3/3 ・シ
ュテクリB連続1/4転向、一把手上縦向き旋回
2回∼ニコライ ・ニコライからシュテクリA
リン ファン ・ニコライからシュテクリB∼前移動2/3∼ニコラ
中国
イからシュテクリB ・前移動3/3∼後ろ移動3/3
アメリカ ベイジュ ・前移動3/3 ・後ろ移動1/3、一把手上縦
向き旋回2回から下向き270°転向∼下向き転向
直接一 把手上縦向き旋回2回から下向き270°
転向・両把手を挟んだ開脚旋回∼把手を挟んだ
支持での 下向き転向からシュテクリA
ルーマニア ウルジカ ・縦向き開脚旋回後ろ移動ひねり連続・シュテ
クリB連続、一把手上縦向き旋回2回から 一把
手上下向き540°転向∼ニコライ、シュテクリB
から一把手上下向き540°転向・ニコライ、シュ
テクリBから一把手上下向き270 °転向
スイス
難度
・E+E+C
加点
0.7
・E+E
0.8
・E+E+D
0.9
・D+D
0.3
・D
・E・E
・C+D+D
+D
・E+E
・E+E+C
0.1
0.4
0.6
1993年版による採点
加点合計 実質加点 演技価値点 実施減点
1.3
1
0.238
10
1.3
1
10
0.263
難度
決定点
9.762 ・D+E
9.737
1
0.9
9.9
0.25
9.65
0.6
0.7
1.3
1
10
0.263
9.737
・D+C
・D+D
・E+D
0.2
0.3
0.5
1.2
1
10
0.425
9.575
・E
・E+C+E
・D+D
・D・E+E
0.2
0.6
0.3
0.7
0.9
0.8
9.8
0.675
9.125
1
0.9
9.9
0.25
9.65
・D+D
0.3
・D+D
・E+E+E
+E
0.3
1.4
・D+D
1997年版による採点
加点 加点合計 演技価値点 決定点
0.5
1
9.362
9.6
・D+E
0.5
・B+E+C
+E+B
・D+C
0.6
・D
・D ・D
・C+D+D
+D
・D+D
・E+E+C
0.1
0.2
0.6
0.9
9.5
9.237
0.8
9.4
9.15
0.3
0.7
1
9.6
9.337
・D+C
・C+B ・D
・E+D
0.2
0.1
0.5
1
9.6
9.175
・E
・E+C+E
・D+D
・D・D+D
0.2
0.6
0.3
0.4
0.9
9.5
8.825
0.4
9
8.75
1.4
10
9.725
0.93
±0.26
9.53
±0.28
9.195
±0.31
0.2
・C+C
0.3
平均
SD
2
1.4
10
0.275
9.725
1.25
±0.34
1
±0.18
9.95
±0.08
0.33
±0.15
9.62
±0.21
・D
・E+D+E
+D
0.1
1.2
・難度なしとD
0.1
と(日本体操協会編1997,p.44-45)。④採点規則第16条の技の繰り返しを制限する規則(日本体操協会編
1997,p.18)の適用の4つが上げられる。①のケースは、例えば田中、畠田選手の行った1回の開脚旋回での
1回ひねり、所謂シュピンデルという技はD難度であるが、1993年版では把手を挟んだ支持で行えば、1ラン
ク上のE難度に格上げされていた。しかし、1997年版では格上げが認められないため、難度加点や組み合わせ
加点がマイナスとなる。表1ではこの規則の適用によって田中、畠田、黄、ベイジュの4選手の加点にそれぞ
れ影響がみられた。②のケースは、黄選手の前移動(3/3)しながらその中間の二つの把手上でE難度の技
を行う演技とウルジカ選手の開脚旋回でのシュピンデルをしながら後ろ移動(3/3)する演技が該当してい
る。1993年版ではこれら加点技の複合した演技要素の全てを、選手にとって有利になるよう難度認定すること
になっていた。しかし、1997年版では縦向き移動は中間技なしで実施しないとD難度と認定しないこととなっ
たため、これらの演技は加点がマイナスとなる。③のケースは、リ、プーシャド、ベィジュ、ウルジカの4選
手が行った一把手上の技の加点がマイナスとなるものである。これらは、最近一把手上の技の組み合わせが複
雑化する傾向に対応し、1997年版よりシュテクリA、シュテクリB、またはそれらと組み合わされた一把手上
の縦向き旋回(最大2回まで)の三つの技に限定し、それらの技の2連続である2フロップをC難度、3フロ
ップをD難度、4フロップをE難度とするフロップルールが採用されたことによる。また、それらのフロップ
と組み合わされることが多いロシアン(下向き転向)の転向角度による難度認定が格下げされるなど、一把手
上の技の難度認定が整理されたためである。例えば、リ、ベィジュの2選手にみられる一把手上縦向き旋回2
回からの一把手上下向き270°転向は1993年版のE難度から1997年版ではD難度と認定されることが上げられ
る。④のケースは「加点の認定のために、演技の中で最大限1つの技を1回だけ繰り返すことができる。この
規則に違反する技は、加点も難度も得ることができない。」とされる規則(日本体操協会編1997,p.18)の適用
で、ウルジカ選手の演技がこの規則に抵触すると判断される。あん馬ではこの規則の例外に、加点に関わるフ
ロップは2つ実施できることになっているが、3つ目のC難度以上のフロップは繰り返しとみなされる(日本
体操協会編1997,p.45)。彼のニコライ(シュテクリB3回連続)、シュテクリBから一把手上下向き270°転向は
1997年版ではE+B、D+CまたはC+Dと認定される。しかし、加点に関わるフロップの部分が3回目に当た
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るため、この難度が認定されない。従って、選手に有利となるC+Dと認定し、D難度の0.1は残るがC難度と
の組み合わせ加点はなくなる結果と判断される。以上の加点がマイナスとなる規則の改正から、1997年版の加
点合計の平均は0.93(±0.28)で、1993年版の平均とでは0.32の差がみられる。また、1997年版では加点領域
の配点が1.0から1.4まで引き上げられたことから、さらに演技価値点が下がることとなり、演技価値点は平均
で9.53(±0.28)である。このことは、採点規則の改正によって高得点の獲得が困難となったことを示す結果
といえる。
(2)国際レベルの演技傾向の現状について
1997年世界体操競技選手権ローザンヌ大会(1997年版採点規則適用)男子団体決勝における上位6ヵ国、選
手30名の加点演技の内容を表2に示した。全ての加点に関する技は合計184回(100%)でC難度39回(21%)、
D難度96回(52%)、E難度49回(27%)、スーパーE難度0回(0%)であった。組み合わせ加点は合計126回
で、0.1は94回、0.2は32回出現した。また加点合計は35.2点であり、内訳はD難度9.6点(27%)、E難度9.8点
表2. 1997年世界体操競技選手権大会男子団体決勝「あん馬」における加点演技の内容
№
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
国名
中国
選手名
ファンJ.
加点要素
難度
・馬端下向き1080°転向 ・5フロップ ・4フロップ∼前移動2/3∼
・E ・E 後ろ移動ひねり前移動3/3∼馬端外向き旋回2回
・E+C+D+C
リX.
・馬端下向き1080°転向∼前移動ひねり後ろ移動3/3∼下向き1080°転向 ・E+D+E
・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼後ろ移動3/3
・D+C+D
ルY.
・8フロップ∼前移動2/3∼後ろ移動3/3∼下向き720°転向∼前移動
・E+E+C+D+
ひねり後ろ移動3/3
D+D
シェンJ.
・下向き1080°転向∼前移動ひねり後ろ移動3/3∼下向き1080°転向
・E+D+E
・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼後ろ移動3/3
・D+C+D
ツァンJ.
・8フロップ∼前移動2/3∼後ろ移動3/3∼下向き720°転向∼前移動
・E+E+C+D+
ひねり後ろ移動3/3∼前移動3/3∼馬端外向き旋回2回
D+D+D+C
ベラルーシ
A.チョスタック
・8フロップ ・前移動3/3∼横向き開脚旋回1回ひねり
・E+E ・D+C
I.イワンコフ
・8フロップ∼前移動2/3 ・馬端外向き旋回2回∼後ろ移動3/3∼
・E+E+C
前移動3/3 ・開脚旋回1/2転向後ろ移動2/3∼横向き開脚旋回1
・C+D+D ・D+D
回ひねり
I.パブロフスキー
・8フロップ∼シュテクリA直接下向き逆移動∼前移動3/3∼馬端外向
・E+E+C+D+C
き旋回2回
V.ルドニツキー
・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼開脚旋回後ろ移動3/3
・D+C+D
・D+D+D
・馬背支持での上向き移動、下向き逆移動、後ろ移動1/3∼馬背支持で
の上向き移動、下向き逆移動、後ろ移動1/3∼ボルカイ
・下向き逆移動開脚倒立11/4ひねり下り
・D
A.シンケヴィッチ
・8フロップ∼シュテクリB連続直接下向き270°転向∼前移動3/3∼
・E+E+D ・D+C
馬端外向き旋回2回
ロシア
A.ボンダレンコ
・前移動ひねり後ろ移動3/3∼下向き1080°転向∼前移動3/3∼馬端
・D+E+D+C
外向き旋回2回 ・前移動3/3∼後ろ移動3/3∼下向き720°転向
・D+D+D
E.ジューコフ
・6フロップ∼下向き1080°転向∼前移動3/3∼後ろ移動3/3
・D+D+E+D+D
N.クリュコフ
・8フロップ∼下向き720°転向 ・モギリニー∼シュテクリA直接下
・E+E+D
向き逆移動 ・後ろ移動2/3∼前移動3/3∼シュテクリA開脚倒立
・D+C ・C+D+C
1/4ひねり下り
A.ネモフ
・前移動ひねり後ろ移動3/3∼前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼後
・D+D+C+D+D
ろ移動3/3∼前移動3/3 ・横向き開脚旋回1回ひねり∼両把手を
・D+C+D
はさんだ旋回∼横向き開脚旋回1回ひねり
D.ヴァシレンコ
・馬端外向き旋回2回∼モギリニー∼後ろ移動2/3∼前移動3/3∼後
・C+D+C+D+
ろ移動3/3∼前移動3/3∼後ろ移動3/3
D+D+D 日本
藤田健一
・前移動3/3∼下向き1080°転向 ・前移動3/3∼下向き1080°転向
・D+E ・D+E
・一腕上上向き全転向
・E
畠田好章
・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼後ろ移動3/3
・D+C+D
・4フロップ∼7フロップ
・E+E+D
岸本拓也
・前移動3/3∼馬端中向き旋回1回ひねり∼後ろ移動3/3
・D+D+D
・4フロップ∼4フロップ
・E+E
・E+E
斉藤良宏
・4フロップ∼4フロップ ・下向き全転向720°∼前移動3/3∼馬端
外向き旋回2回∼後ろ移動3/3
・D+D+C+D
塚原直也
・4フロップ∼4フロップ∼後ろ移動3/3∼前移動3/3∼馬端外向き
・E+E+D+D+C
旋回2回
アメリカ
M.ドゥツカ
・4フロップ∼3フロップ ・前移動ひねり後ろ移動3/3∼前移動3/
・E+D 3∼馬端外向き旋回2回∼後ろ移動3/3
・D+D+C+D
J.ガトソン
・4フロップ∼4フロップ ・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回
・E+E ・D+C
J.マックレディ
・4フロップ ・4フロップ ・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼
・E ・E
後ろ移動3/3
・D+C+D
J.ロースリスバーガー ・前移動3/3∼馬端外向き旋回2回∼後ろ移動3/3∼前移動ひねり後
・D+C+D+D+D
ろ移動3/3∼下向き全転向直接下向き逆移動(馬端∼馬端)
・後ろ移動2/3∼下向き全転向直接下向き逆移動(馬端∼馬端)開脚
・C+D
倒立下り
B.ウィルソン
・4フロップ∼4フロップ∼後ろ移動2/3∼前移動ひねり後ろ移動3
・E+E+C+D+
/3∼前移動3/3∼馬端外向き旋回2回 ・馬背支持での下向き全転
D+C
向直接下向き正転向移動(馬端∼馬端) ・下向き逆移動開脚倒立
・D
11/4ひねり下り
・D
ドイツ
V.ベレンキ
・9フロップ∼後ろ移動2/3∼モギリニー∼前移動3/3∼馬端外向き
・E+E+C+D+
旋回2回∼後ろ移動3/3
D+C+D
D.ファラゴ
・8フロップ∼後ろ移動2/3∼前移動3/3∼馬端外向き2回∼後ろ移
・E+E+C+D+
動3/3
C+D
S.ハリコフ
・馬端中向き旋回1回ひねり∼前移動3/3∼馬端外向き2回∼後ろ移
・D+D+C+D+
動3/3∼前移動3/3∼後ろ移動3/3
D+D
D.ノニン
・8フロップ ・前移動3/3∼馬端外向き2回∼後ろ移動3/3∼前移
・E+E
動3/3∼後ろ移動3/3
・D+C+D+D+D
S.ファイファー
・8フロップ ・前移動ひねり後ろ移動3/3∼前移動3/3∼馬端外向
・E+E きき旋回2回
・D+D+C
加点合計の内訳(%)
D難度9.6(27%) E難度9.8(28%) +0.1:9.4(27%) +0.2:6.4(18%)
技の頻度(%)
C難度39回(21%) D難度96回(52%) E難度49回(27%) 計184回(100%)
組み合わせ加点の頻度 組み合わせ加点0.1:94回 組み合わせ加点0.2:32回 計126回
−120−
加点 加点合計
0.4
1
0.6
0.9
1.3
0.4
1.3
1.3
演技価値点
9.6
実施減点
0.738
決定点
8.862
9.9
0.7
9.2
9.9
0.588
9.312
9.9
0.763
9.137
0.9
0.4
1.6
1.3
1.6
10
0.363
9.637
0.8
0.7
0.7
0.8
9.4
0.938
8.462
1.4
10
0.463
9.537
1
1
9.6
0.588
9.012
0.4
0.5
1
9.6
0.7
8.9
0.1
1.1
1.1
9.7
0.475
9.225
1.4
10
0.588
9.412
1.2
9.8
0.838
8.962
1.4
10
0.65
9.35
0.8
0.4
1.2
9.8
0.575
9.225
1.1
1.1
9.7
0.675
9.025
1
0.2
0.4
0.9
0.5
0.6
0.6
0.6
1.2
1.2
9.8
0.588
9.212
1.3
9.9
0.463
9.437
1.1
9.7
0.625
9.075
1.2
9.8
0.463
9.337
1.2
9.8
0.363
9.437
0.5
0.6
0.8
0.4
0.4
0.8
1.1
9.7
0.838
8.862
0.8
0.8
9.4
9.4
0.75
0.988
8.65
8.612
1.1
9.6
0.55
9.05
1.2
0.1
0.1
1.4
1.4
10
0.713
9.287
1.4
10
0.45
9.55
1.2
1.2
9.8
0.725
9.075
1
1
9.6
0.825
8.775
0.6
0.8
0.6
0.4
合計
平均
SD
1.4
10
0.688
9.312
0.9
0.5
1.2
0.9
0.5
0.2
1
9.6
1
8.6
35.2
1.17
±0.20
293
9.77
±0.19
19.671
0.656
±0.17
273.53
9.12
±0.3
人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
(27%)、組み合わせ加点0.1が9.4点(27%)、0.2が6.4点(18%)であった。この結果全選手の加点平均は1.17
(±0.20)、演技価値点の平均が9.77(±0.19)で、10.0満点の演技価値点を持つ選手は30名中7名であった。
全選手の加点に関する演技を技の構造群及び技番号に置き換え、C難度の技7(Ⅱ・8∼Ⅷ・8)、D難度の
技14(Ⅱ・34∼Ⅷ・4)、E難度の技3(Ⅳ・5∼Ⅴ・50)の順に出現回数を集計した結果を図1に示した。
ただし、D難度の前移動3/3と後ろ移動3/3には、それぞれ2種類の技が難度表に区分されている(日本体
操協会編1997,p.55-56)が、本稿は演技傾向の把握を目的としているため、この集計はまとめて行った。また、
フロップ技は全てのパターンが難度表に当てはめることができないため、D難度のフロップ技は難度表のⅣ・
29、E難度はⅣ・30に統一して集計した。ローマ数字は技の構造群を示し、Ⅱは旋回技、Ⅲは移動技、Ⅳはシ
ュテクリと上向き転向の技、Ⅴは下向き転向技、Ⅷは終末技である。また、ローマ数字と番号で採点規則の難
度表(日本体操協会編1997,p.48-72) に合致した技を示している。
C難度で出現頻度の高い技はⅡ・18馬端外向き旋回2回が24回と、全C難度の技(39回)の6割以上も占め
ている。また、その他の主なC難度技には、あん馬の2/3部分を縦向きで移動する技(Ⅲ・38とⅢ・48)が
あげられる。D難度ではⅢ・39、44の前移動、Ⅲ・49、54の後ろ移動、Ⅲ・59の前移動ひねり後ろ移動(後ろ
移動ひねり前移動も同一技)が合計70回とD難度の技(96回)の7割以上を占め、圧倒的に出現頻度が高い。
これは、前述の馬端外向き旋回2回とあん馬の3部分を縦向きで移動するD難度の技が組み合わされ、多くの
選手が取り入れる傾向にあることを示すものと考えられる。その他の主なD難度技には、Ⅱ・39横向き開脚旋
回1回ひねり(1回の旋回で)
、Ⅳ・4モギリニー、Ⅳ・29の3フロップ、Ⅴ・49下向き720°転向があげられる。
E難度で出現頻度の高い技はⅣ・30の4フロップが39回と、全E難度の技(49回)の8割を占めている。E難
度の技はこれ以外では、Ⅴ・50下向き1080°転向(9回)とⅣ・5一腕上上向き全転向(1回)の二種類のみ
であり、E難度を得る技は4フロップか下向き1080°転向に限られる傾向にあるといえる。これらのことから、
加点演技の中心は、あん馬の3部分を縦向きで移動するD難度の技とC難度の馬端外向き旋回2回、E難度で
は一把手上の連続技である4フロップと下向き1080°転向に限定される傾向が強いといえる。これらの種類の
限られた技で10.0満点の演技構成をするためには、必然的に1997年版採点規則で唯一繰り返しを2回まで認め
技の構造群及び技番号
−121−
人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
ているフロップ技をE難度で行うとともに、組み合わせ加点を得るため、EやD、C難度の技を中間旋回なしで
直接演技構成することが多くの選手の演技パターンとなっている。従って、あん馬における優劣は多くの選手
の演技構成が単調化しているため、質の高い旋回でミスがない実施が高得点への重要ポイントと考えられる。
また今後は、演技の単調化に歯止めをかけるのであれば、個性ある技での演技構成に高い評価を与えるような
規則の改正が必要であろう。
2.鉄棒
(1)1993年版と1997年版採点規則の加点に関する比較について
1995年世界体操競技選手権大会男子種目別における加点演技と採点結果及び、この演技に1997年版採点規則
を適用した結果を表3に示した。表中の加点はあん馬と同様、難度加点と組み合わせ加点0.1、0.2の場合の加
点されるべき点数を示している。1993年版による採点では、選手8名の加点合計は平均で1.18(±0.18)、実質
加点は1.03(±0.07)、演技価値点は9.99(±0.04)であった。加点合計の平均が1993年版の加点領域の配点で
ある1.0(日本体操協会編,1993,p.19)を上回っているのに、実質加点の平均が1.03であるのは、組み合わせ加
点が最大0.2までしか与えられない(日本体操協会編,1993,p.27)ためである。従って、実質加点の数字がルー
ル上の加点合計を示している。演技の失敗から加点技の難度が認められなかったため、演技価値点が9.9満点
となったロシアの選手が1名いたが、残りの選手は全てが10点満点で、種目別にふさわしい高い演技価値点を
有している。
これらの演技に1997年版を適用すると、1997年版では組み合わせ加点に上限がない(日本体操協会
編,1997,p.22)ため、加点合計の比較が二つの採点規則による採点結果を反映することになる。1997年版の加
点合計の平均は0.5(±0.28)で、1993年版の平均とでは0.68の差がみられる。鉄棒における加点がマイナスと
なる規則の改正は、①各技は基本構造に応じて独自の難度価値を持つが、より複雑な握りでの実施は難度格上
げになること(日本体操協会編,1993,p.152)の廃止。②片手車輪1回から手放し技を実施した場合、難度格上
表3.1995年世界体操競技選手権大会男子種目別決勝「鉄棒」における加点演技の内容と採点結果
No.
国名
1 イタリア
選手名
プレチ
2
ロシア
カルボネンコ
3
ベラルーシ
シェルボ
4
ブルガリア ドーニェフ
5
6
7
8
ドイツ
ベッカー
ルーマニア シャンドロ
中国
日本
張
畠田
加点演技
・順手前方閉脚屈身回転倒立∼順手前方閉
脚屈身回転ひねり倒立 ・トカチェフ∼順
手車 輪とび1回ひねり片逆手懸垂 ・片手
順手車輪 から屈身トカチェフ ・順手車輪
とび1回ひねり片逆手懸垂 ・後方伸身2
回宙返り1回ひねり
・コバチ ・順手車輪とび1回ひねり∼順
手車 輪とび1回ひねり∼ギンガー ・順手
前方開脚屈身回転ひねり倒立 ・アドラ ー
1回ひねり懸垂∼後ろ振りあがり1回ひね
り支持 ・後方抱え込み3回宙返り下り
・順手前方閉脚屈身回転ひねり倒立・順手
車輪とび1回ひねり片逆手懸垂∼屈身トカ
チェフ∼順手車輪とび1回ひねり片逆手懸
垂∼屈身トカチェフ∼ギンガー
・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・順手前方開脚屈身回転ひねり倒立 ・屈
身トカチェフ∼トカチェフ∼トカチェフ∼
順手車輪とび1回ひねり∼順手車輪とび1
回ひねり∼ギンガー ・順手前方開脚屈身
回転ひねり倒立 ・後方伸身2回宙返り2
回ひねり下り
・順手前方閉脚屈身回転倒立∼順手前方閉
脚屈身回転ひねり倒立 ・コバチ ・コバ
チ ・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・順手前方閉脚屈身回転倒立∼順手前方閉
脚屈身回転ひねり倒立 ・伸身トカチェフ
・後方閉脚屈身回転とび逆手倒立∼アドラ
ー 倒立 ・順手前方開脚屈身回転ひねり倒
立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・順手前方開脚屈身回転倒立∼順手前方開
脚屈身回転1回ひねり大逆手懸垂∼逆手背
面車輪 ・逆手背面車輪∼前方伸身宙返り
懸垂 ・順手車輪とびひねり倒立∼順手前
方開脚屈身回転ひねり倒立
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・順手前方閉脚屈身回転倒立∼順手前方閉
脚屈身回転ひねり倒立 ・コバチ ・伸身
トカチェフ ・順手前方開脚屈身回転ひね
り倒立 ・後方閉脚屈身回転ひねり大逆手
懸垂∼逆手背面車輪 ・後方抱え込み3回
宙返り下り
難度
・D+E
・C+E
・D
・D
・D
加点
0.5
0.3
0.1
0.1
0.1
・E
・C+D+D
・D
・C+D
・D
・E
・D+D+E
+D+D
0.2
0.4
0.1
0.2
0.1
0.2
1.2
・D
・D
・C+D+D+
D+D+D
・D
・E
0.1
0.1
1
・D+E
・E ・E
・D
・D+E
・D
・D+C
・D
・E
・C+E+C
0.5
0.4
0.1
0.5
0.1
0.2
0.1
0.2
0.4
・C+E
・D+D
0.3
0.2
・E
・D+E
・E ・D
・D
・D+C
・D
0.2
0.5
0.3
0.1
0.2
0.1
1993年版による採点
加点合計 実質加点 演技価値点 実施減点
1.1
1
0.35
10
1
0.9
9.9
0.975
8.925
1.5
1.1
10
0.275
9.725
1.4
1.1
10
0.25
9.75
1
1
10
0.188
9.812
1.1
1
10
0.313
9.687
1.1
1
10
0.25
9.75
0.1
0.2
平均
SD
1.2
1.1
10
0.225
9.775
1.18
±0.18
1.03
±0.07
9.99
±0.04
0.35
±0.26
9.63
±0.29
−122−
1997年版による採点
加点 加点合計 演技価値点 決定点
0.5
0.3
8.55
8.9
0.2
0
0
0
0.1
0.2
・E
0.5
8.125
9.1
0
・C+C+C
0
・C
0.2
・C+D
0.1
・D
0.1
・D
0.3
8.625
8.9
・C ・C ・C
0
・C+C
0.1
難度
決定点
9.65 ・C+D
・C ・C
・C
・C
・D
・D
・C
・C+C+C
・C ・C・C
0.1
0
-0.2
0
・E
0.2
・C+D
・E ・E
・D
・C+D
・D
・D+C
・C
・E
・B+D+C
0.2
0.4
0.1
0.2
0.1
0.2
0
0.2
0.2
・C+E
・B+C
0.3
0
・E
・C+D
・E ・D
・C
・D+C
・D
0.2
0.2
0.3
0
0.2
0.1
0
8.6
8.35
0.7
9.3
9.112
0.7
9.3
8.987
0.7
9.3
9.5
0.8
9.4
9.175
0.5
±0.28
9.1
±0.28
8.75
±0.39
人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
げになること(日本体操協会編,1993,p.152)の廃止。③終末体勢が片手の場合難度格上げになること(日本体
操協会編1993,p.152)の廃止。④手放し技の直接の組み合わせは、次の部分が1ランク格上げになること(日
本体操協会編,1993,p.153)の廃止。⑤採点規則第16条の技の繰り返しを制限する規則(日本体操協会編
1997,p.18)の適用の5つが上げられる。①のケースは、例えば前方開脚屈身回転倒立(エンドウ)という技
はB難度であるが、閉脚での実施または開脚ひねり倒立でC難度となり、閉脚でのひねり倒立ではD難度にラ
ンクされる。1993年版ではこれらの技を順手支持で行えば、1ランク上の難度に格上げされていた。しかし、
1997年版では格上げが認められないため、難度加点や組み合わせ加点が与えられないこととなる。表1では全
ての選手がこれらの技を取り入れているため、加点のマイナスの対象となっている。②のケースは、プレチ選
手の片手順手車輪から屈身トカチェフが該当し、1997年版では片手の技は両手の技と同格となった(日本体操
協会編,1997,p.142)ため、この技はC難度となり、難度加点が与えられないこととなる。③のケースは、プレ
チ、シェルボの2選手が行った順手車輪とび1回ひねり片手懸垂という技が該当し、②と同様の理由で加点が
マイナスとなるものである。④のケースはプレチ、カルボネンコ、シェルボ、ドーニェフの4選手の手放し技
連続の加点が与えられないことである。1993年版では手放し技の連続は次の部分が難度格上げされたため、流
行のコンビネーションであった。特に順手車輪とび1回ひねりは、当時手放し技として認定されていたため、
終末体勢が片手の場合の格上げや手放し技の連続としての格上げの適用を狙いとして、4選手全てが加点演技
に取り入れている。1997年版では例外として鉄棒のC難度の手放し技の連続に組み合わせ加点0.1を与えること
(日本体操協会編,1997,p.142)になっており、表3では唯一シェルボ選手がこの規則の適用を受けている。し
かし、彼らの手放し技のほとんどは、連続の難度格上げが廃止となったため、加点が与えられない結果となる。
⑤のケースは「同一技は、直接連続して3回実施できない。A審判はこれが実施される毎に0.2減点する。」と
される規則(日本体操協会編1997,p.18)の適用で、ドーニェフ選手の演技がこの規則に抵触すると判断され
る。彼は、この規則がなかった1993年版で手放し技の連続による加点を得るため、トカチェフの3連続を行っ
ているが、この演技は1997年版では前述のとおり0.2の減点となる。以上の加点がマイナスとなる規則の改正
から、1997年版の加点合計の平均は0.5(±0.28)で、1993年版の平均とでは0.68の差がみられる。また、1997
年版では加点領域の配点が1.0から1.4まで引き上げられたことから、さらに演技価値点が下がることとなり、
演技価値点は平均で9.10(±0.28)となる。鉄棒の場合、1997年版採点規則に対応し高得点を獲得することは、
あん馬以上に困難であることを示す結果といえる。
(2)国際レベルの演技傾向の現状について
1997年世界体操競技選手権ローザンヌ大会(1997年版採点規則適用)男子団体決勝における上位6ヵ国、選
手30名の加点演技の内容を表4に示した。全ての加点に関する技は合計182回(100%)でC難度28回(15%)、
D難度92回(51%)、E難度56回(31%)、スーパーE難度6回(3%)であった。組み合わせ加点は合計60回で、
0.1は49回、0.2は11回出現した。また加点合計は29.3点であり、内訳はD難度9.2点(31%)
、E難度11.2点(38%)、
スーパーE難度1.8点(6%)、組み合わせ加点0.1が4.9点(17%)、0.2が2.2点(8%)であった。この結果全選手
の加点平均は0.98(±0.25)、演技価値点の平均が9.58(±0.25)で、10.0満点の演技価値点を持つ選手は30名
中2名のみであった。
全選手の加点に関する演技を技の構造群及び技番号に置き換え、C難度の技10(Ⅲ・8∼Ⅵ・63)、D難度の
技20(Ⅱ・9∼Ⅶ・54)、E難度の技9(Ⅲ・20∼Ⅶ・45)、スーパーE難度4(Ⅵ・15∼Ⅵ70)の順に出現回数
を集計した結果を図2に示した。ローマ数字は技の構造群を示し、Ⅱは振りあがり技、懸垂ひねり技、Ⅲはバ
ーに近い技、Ⅳは車輪技、Ⅴは大逆手車輪、背面懸垂技、Ⅵは手放し技、Ⅷは終末技である。また、ローマ数
字と番号で採点規則の難度表(日本体操協会編1997,p.143-165) に合致した技を示している。ただし、難度表
が空欄であるがその欄に相当すると判断できる技、例えば大逆手前方閉脚屈身回転倒立は空欄のⅢ・60(大逆
手前方開脚屈身回転倒立はD難度でⅢ・59)のE難度とし、処理した。C難度で比較的出現頻度の高い技は
−123−
人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
表4.1997年世界体操競技選手権大会男子団体決勝「鉄棒」における加点演技の内容
№
1
国名
中国
2
選手名
ファンJ.
リX.
3
ルY.
4
ツァンJ.
5
6
シャオJ.
ベラルーシ
A.チョスタック
7
I.イワンコフ
8
I.パブロフスキー
9
V.ルドニツキー
10
11
A.シンケヴィッチ
ロシア
A.ボンダレンコ
12
E.ジューコフ
13
N.クリュコフ
14
A.ネモフ
15
A.ヴォロパエフ
16
日本
藤田健一
17
畠田好章
18
岸本拓也
19
斉藤良宏
20
塚原直也
21
アメリカ
J.ガトソン
22
J.マックレディ
23
J.ロースリスバーガー
24
J.ソロントン
25
B.ウィルソン
26
27
ドイツ
U.ビラーベック
D.ファラゴ
28
S.ハリコフ
29
D.ノニン
30
S.ファイファー
加点合計の内訳(%)
技の頻度(%)
組み合わせ加点の頻度
加点要素
難度
・前方開脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、 ・C+D
その腕を軸にひねり倒立 ・伸身トカチェフ ・大逆手前方開脚屈伸
・D 回転倒立∼大逆手前方閉脚屈伸回転倒立∼大逆手前方開脚屈伸回転倒
・D+E+D
立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり倒立 ・D+C
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、 ・D+D ・D
その腕を軸にひねり倒立 ・伸身トカチェフ ・後方閉脚屈伸回転ひ
・E ねり、握りを換え、その腕を軸にひねり倒立 ・後方閉脚屈伸回転ひ
・D
ねり倒立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・伸身トカチェフ ・逆手背面車輪∼
・D ・D
大逆手前方開脚屈伸回転倒立∼大逆手前方閉脚屈伸回転倒立∼大逆手
・C+D+E+D
前方開脚屈伸回転倒立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり倒立∼前方閉
・D+C+D+D
脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、その ・E
腕を軸にひねり倒立 ・コバチ ・逆手背面車輪∼大逆手後ろ振り、
・C+sE
前方伸身宙返り1回ひねり懸垂 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、 ・D+D
その腕を軸にひねり倒立 ・コバチ ・大逆手前方開脚屈伸回転倒立
・E
回転倒立∼大逆手前方開脚屈伸回転倒立∼大逆手前方閉脚屈伸
・D+D+E
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、 ・D+D
その腕を軸にひねり倒立 ・伸身トカチェフ ・後方開脚屈伸回転ひ
・D
ねり、握りを換え、その腕を軸にひねり倒立 ・D
・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・D
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼コバチ ・伸身コバチ
・D+E ・sE
・コバチ ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E ・E
・ヤマワキ ・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方とび車輪11/2ひねり
・D ・D+D+D
片逆手∼後方とび車輪11/2ひねり片逆手 ・前方閉脚屈伸回転前振り
・D だしひねり順手倒立 ・後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、その
・D
換え、その腕を軸にひねり倒立 ・片逆手後ろ振りあがり11/2ひねり
・D
片逆手後ろ振り ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・後ろ振りあがり1回ひねり倒立 ・コバチ ・コバチ ・前方開脚屈
・D ・E ・E
伸回転倒立とび大逆手倒立∼逆手背面車輪 ・前方抱え込み2回宙返
・D+C
り11/2ひねり下り
・D
・前方開脚屈伸回転ひねり倒立∼後方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼換え、
・C+D+D+D
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸回転ひねり、握りをその
腕を軸にひねり倒立 ・伸身トカチェフ ・D
・コバチ ・伸身背面とびこし1回ひねり懸垂 ・伸身トカチェフ∼ト
・E ・sE・D+C+
カチェフ∼ギンガー ・後方伸身2回宙返り2回ひねり
C ・E
・後方閉脚屈伸回転とび逆手倒立∼前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼コバ
・D+D+E
チ ・コールマン ・コバチ ・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・sE ・E ・D
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・ゲイロード∼前方とび車輪1回ひね
・D ・D+C
り ・前方閉脚屈伸回転倒立1回ひねり大逆手∼逆手背面車輪∼大逆
・E+C+E
手後ろ振り、前方伸身宙返り懸垂 ・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・D
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・伸身コバチ∼ギンガー ・コバチ ・コバチ ・後方開脚屈伸回転1
・sE+C ・E ・E
回ひねり倒立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・D ・E ・コバチ∼後方とび車輪1回ひねり ・コバチ
・E+C ・E
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転前振りだし1回ひねり逆手倒立 ・コバチ・デフ ・E ・E ・E
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・コバチ ・コバチ ・後方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・前方閉脚屈伸
・E ・E ・D
回転ひねり倒立∼後方閉脚屈伸回転ひねり大逆手∼逆手背面車輪 ・D+D+C
・後方抱え込み3回宙返り下り
・D
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方閉脚屈伸回転倒立∼後方閉脚屈伸
・D+C+D 回転ひねり倒立 ・後方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼前方開脚屈伸回転
・D+C
ひねり倒立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・伸身コバチ ・前方閉脚屈伸回転倒立
・D ・sE ∼前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方とび車輪1回ひねり
・C+D+C
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・後方閉脚屈伸回転とび逆手倒立∼前
・D ・D+E
方閉脚屈伸回転1回ひねり大逆手 ・コバチ ・伸身トカチェフ
・E ・D
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼前方開脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開
・D+C+D
脚屈伸回転1回ひねり倒立 ・コバチ ・後方開脚屈伸回転1回ひね
・E ・D
り倒立 ・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方閉脚屈伸回転トカチェフ
・D+E
・コバチ ・後方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼前方閉脚屈伸回転前振り出
・E ・D+C
し倒立 ・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・D
・順手振りあがり1回ひねり倒立∼前方開脚屈伸回転ひねり倒立∼後方
・D+C+D
開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、その腕を軸にひねり倒立
・開脚背面とびこしひねり片逆手懸垂∼前方開脚屈伸回転1回ひねり大
・D+D
逆手 ・後方開脚屈伸回転ひねり、握りを換え、その腕を軸にひねり
・D
倒立 ・バーを越えて前方伸身2回宙返りひねり下り
・D
・前方閉脚屈伸回転1回ひねり片逆手 ・伸身トカチェフ∼ギンガー
・E ・D+C
・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・D
・前方閉脚屈伸回転1回ひねり片逆手 ・前方閉脚屈伸回転1回ひねり
・E ・E+D+D
大逆手∼大逆手車輪1回ひねり倒立∼順手振り上がり1回ひねり倒立
・D
・伸身トカチェフ ・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・コバチ ・コバチ
・D ・E ・E
・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・D
・前方閉脚屈伸回転倒立∼前方閉脚屈伸回転ひねり倒立∼後方開脚屈伸
・C+D+D 回転ひねり、握りを換え、その腕を軸にひねり倒立 ・後方開脚屈伸
・D
回転ひねり、握りを換え、その腕を軸にひねり倒立
・コバチ ・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・E ・D
・前方閉脚屈伸回転前振りだしひねり順手倒立∼コバチ ・伸身トカチ
・D+E
ェフ∼トカチェフ∼トカチェフ∼ギンガー ・D+C+C+C
・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・D
・前方閉脚屈伸回転倒立∼前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・コバチ
・C+D ・E
・逆手背面車輪∼大逆手前方開脚屈伸回転倒立∼逆手背面車輪
・C+D+C
・後方伸身2回宙返り2回ひねり下り
・E
・前方閉脚屈伸回転ひねり倒立 ・コバチ ・D ・E
・順手背面車輪∼順手背面振りあがり開脚後ろ抜き倒立 ・D+D
・後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
・D
D難度9.2(31%) E難度11.2(38%) sE難度1.8(6%) +0.1:4.9(17%) +0.2:2.2(8%)
C難度28回(15%) D難度92回(51%) E難度56回(31%) sE難度6回(3%) 計182回(100%)
組み合わせ加点0.1:49回 組み合わせ加点0.2:11回 計60回
−124−
加点 加点合計
0.2
0.1
1.3
0.8
0.2
0.2
0.4
1.1
0.2
0.1
0.2
0.2
0.9
1.3
0.2
0.6
0.2
0.4
1.4
0.2
0.3
0.2
0.7
0.2
0.3
0.1
0.1
0.1
0.8
0.4
0.6
0.1
0.1
0.1
0.2
0.5
0.2
0.1
0.6
0.1
0.8
0.2
0.7
0.6
0.3
0.6
0.1
0.2
0.8
0.3
0.5
0.2
0.4
0.4
0.5
0.4
0.1
0.4
0.2
0.2
0.4
0.3
0.2
0.6
0.3
0.2
0.4
0.3
0.2
0.5
0.4
0.1
0.4
0.3
0.1
0.1
0.4
0.1
0.9
0.1
0.2
0.5
0.1
0.4
0.1
0.3
0.5
0.4
0.1
0.4
0.3
0.2
0.3
0.3
0.1
合計
平均
SD
演技価値点
実施減点
決定点
9.9
0.5
9.4
9.7
0.938
8.762
9.9
0.613
9.287
10
0.388
9.612
1.4
10
1.125
8.875
0.6
9.2
1.15
8.05
1.2
9.8
0.463
9.337
1.1
9.7
0.788
8.912
0.8
9.4
0.65
8.75
0.7
9.3
0.45
8.85
1
9.6
1.975
7.625
1.3
9.9
0.913
8.987
1.2
9.8
1.25
8.55
1.1
9.7
1.475
8.225
0.7
9.3
0.913
8.387
0.8
9.4
1.238
8.162
1
9.6
0.725
8.875
0.8
9.4
0.538
8.862
0.9
9.5
0.475
9.025
1.1
9.7
0.525
9.175
0.9
9.5
1.125
8.375
1
9.6
0.513
9.087
0.9
9.5
0.413
9.087
0.5
9.1
0.463
8.637
1.2
9.8
0.363
9.437
0.6
9.2
0.55
8.65
0.8
9.4
0.778
8.612
1
9.6
0.425
9.175
0.9
9.5
0.45
9.05
0.7
9.3
0.6
8.7
29.3
0.98
±0.25
287.3
9.58
±0.25
22.772
0.759
±0.38
264.518
8.82
±0.45
人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
Ⅴ・3逆手背面車輪(6回)とⅢ・53前方開脚屈身回転ひねり倒立(5回)で、ついでⅥ・63ギンガー(4回)
やⅥ・13トカチェフ(3回)などの手放し技やⅢ・63前方閉脚屈身回転倒立(3回)がわずかに見られる程度
である。唯一鉄棒ではC難度の連続手放し技には0.1の組み合わせ加点が認められていが、C難度の技はそれ自
体難度加点を得ることができないため、全般的に加点技として出現頻度が少ないのは当然と考えられる。D難
度ではⅢ・29後方閉脚屈身回転ひねり、握りを換えてその腕を軸にひねり倒立(15回)やⅢ・59大逆手前方開
脚屈身回転倒立(7回)、Ⅲ・64前方閉脚屈身回転ひねり倒立(24回)、Ⅲ・74後方閉脚屈身回転ひねり倒立
(6回)のバーに近い技の頻度がD難度の技(92回)の57%と非常に高く、C難度やE難度を含め、これらの技
の連続で組み合わせ加点を得るケースが目立っている(表4)。また、その他の主なD難度技には、手放し技
のⅥ・14伸身背面とびこし懸垂(11回)、終末技のⅦ・49後方伸身2回宙返り1回ひねり下り(8回)があげ
られる。E難度で出現頻度の高い技は手放し技のⅥ・65コバチが25回と、全E難度の技(56回)の45%を占め
ている。また、終末技のⅦ・45後方伸身2回宙返り2回ひねり下り(18回)の32%も高い頻度である。これ以
外のE難度の技は、Ⅲ・60大逆手前方閉脚屈身回転倒立(3回)とⅢ・65前方閉脚屈身回転倒立一回ひねり大
逆手(5回)のバーに近い技があげられる。出現頻度は低いものの、最高級難度のスーパーE難度は単独で難
度加点の0.3を得られることから、加点演技の傾向を分析する上で重要なポイントである。本調査でのスーパ
ーE難度はⅥ・15リューキン(1回)、Ⅵ・35大逆手後ろ振り前方伸身宙返り懸垂(1回)、伸身または屈身コ
バチ(3回)、コールマン(1回)の4種類で、これらは全て手放し技であった。これらのことから加点演技
の中心は、手放し技ではE難度のコバチ、ついでD難度の伸身背面とびこし懸垂で、出現頻度は低いもののス
ーパーE難度は全て手放し技であった。バーに近い技では、前方閉脚屈身回転ひねり倒立を代表とするD難度
の技が中心であるが、CからE難度まで多彩な種類がみられ、その連続で組み合わせ加点を得るケースが目立
った。終末技では後方伸身2回宙返り2回ひねり下り(E難度)が圧倒的に多く、ついで後方伸身2回宙返り
1回ひねり下り(D難度)であった。
鉄棒はあん馬と比べ組み合わせ加点が比較的少ない。一方、加点に関する技は合計43種類の技が出現し、あ
ん馬の24種類と比較すると多彩といえる。これは加点に関連する主な技が、手放し技や終末技であることから、
図2.加点に関する技の出現頻度(鉄棒)
技の構造群及び技番号
−125−
人文社会学部紀要 VOL.1(2001.3)
演技が直接組み合わせることができないためと考えられる。多くの組み合わせ加点はバーに近い技の連続で得
られる傾向にあるものの、加点関連の技は一つの技を1回だけしか繰り返すことができないため、現状では加
点合計もあん馬より低く、高い演技価値点を得ることが困難な状況にある。従って今後は、鉄棒の中心的な加
点技である高難度の手放し技や終末技に習熟するとともに、多彩な加点演技を取り入れることが高得点への重
要ポイントと考えられる。
Ⅳ.まとめ
男子体操競技の現状を理解する上で最も有効と考えられる加点領域に関して、1995年及び1997年世界体操競
技選手権大会における演技をVTRにより観察し、高得点の抑制をしている採点規則の改正点を指摘するとと
もに、1997年版採点規則下における国際レベルの演技傾向を把握し、以下の結果を得た。
1.1995年鯖江大会種目別決勝「あん馬」における選手の加点合計の平均は1.25(±0.34)であり、1997年版
採点規則適用の場合は0.93(±0.28)であった。この加点平均0.32の低下は、①様々な馬背支持(把手を挟ん
だ馬背支持など)での実施は難度格上げになること(日本体操協会編,1993,p.52)の廃止。②各技はそれらが
組み合わされて実施された場合、難度格上げになること(日本体操協会編,1993,p.52)の廃止。③フロップル
ールの採用と一把手上の技の難度認定が整理されたこと(日本体操協会編1997,p.44-45)。④採点規則第16条の
技の繰り返しを制限する規則(日本体操協会編1997,p.18)の適用によるものであった。
2.1997年ローザンヌ大会団体決勝「あん馬」における全選手の加点平均は1.17(±0.20)、演技価値点の平均
が9.77(±0.19)で、10.0満点の演技価値点を持つ選手は30名中7名であった。加点演技の中心は、あん馬の
3部分を縦向きで移動するD難度の技とC難度の馬端外向き旋回2回、E難度では一把手上の連続技である4
フロップと下向き1080°転向に限定される傾向が強かった。
3.1995年鯖江大会種目別決勝「鉄棒」における選手の加点合計の平均は1.18(±0.18)であり、1997年版採
点規則適用の場合は0.50(±0.28)であった。この加点平均0.68の低下は、①各技は基本構造に応じて独自の
難度価値を持つが、より複雑な握りでの実施は難度格上げになること(日本体操協会編,1993,p.152)の廃止。
②片手車輪1回から手放し技を実施した場合、難度格上げになること(日本体操協会編,1993,p.152)の廃止。
③終末体勢が片手の場合難度格上げになること(日本体操協会編1993,p.152)の廃止。④手放し技の直接の組
み合わせは、次の部分が1ランク格上げになること(日本体操協会編,1993,p.153)の廃止。⑤採点規則第16条
の技の繰り返しを制限する規則(日本体操協会編1997,p.18)の適用によるものであった。
4.1997年ローザンヌ大会団体決勝「鉄棒」における全選手の加点平均は0.98(±0.25)、演技価値点の平均が
9.58(±0.25)で、10.0満点の演技価値点を持つ選手は30名中2名のみであった。加点演技の中心は、手放し
技ではE難度のコバチ、ついでD難度の伸身背面とびこし懸垂で、出現頻度は低いもののスーパーE難度は全
て手放し技であった。バーに近い技では、前方閉脚屈身回転ひねり倒立を代表とするD難度の技が中心である
が、CからE難度まで多彩な種類がみられ、その連続で組み合わせ加点を得るケースが目立った。終末技では
後方伸身2回宙返り2回ひねり下り(E難度)が圧倒的に多く、ついで後方伸身2回宙返り1回ひねり下り
(D難度)であった。
Ⅴ.文 献
1)大門信吾(2000年)男子体操競技における加点に関する採点規則の改正点と最近の演技傾向.北陸体育学
会紀要第36号:1-13.
2) 金子明友(1974年)体操競技のコーチング.大修館書店:東京,pp22-28.
3)日本体操協会編(1993年)採点規則男子1993年版.財団法人日本体操協会:東京.
4)日本体操協会編(1997年)採点規則男子1997年版.財団法人日本体操協会:東京.
−126−