金融・保険関係法

金融・保険関係法
授業科目
遠山 聡
担当者
授業科目群
展開・先端
必修・選択の別
選択
開講年次・学期
3年次・前期
履修条件
とくになし
学習の目標
本講義は、金融業および保険業の健全な運営・発展を目的として存在するさまざまな法制度
を対象として、とりわけ保険法を中心とする約款規制の内容についての理解を深めるととも
に、金融取引や保険取引における具体的な紛争事例を材料として、当該領域における法的諸問
題の解決能力を育成することを目的とする。関係法制度として、監督法規としての金融商品取
引法や金融商品販売法、保険業法などの規制に加えて、消費者保護法規としての消費者契約法
等の規制も、適宜講義の対象とする。
授業の計画
第1 回
第2 回
第3 回
第4 回
第5 回
第6 回
第7 回
第8 回
第9 回
第 10 回
第 11 回
第 12 回
第 13 回
第 14 回
第 15 回
金融取引および保険取引における法規制の概要
被保険利益と利得禁止原則
損益相殺と請求権代位
故意による事故招致
責任保険と被害者の保護
告知義務
保険料の支払いと失効・復活
保険金請求権の帰属主体
保険金受取人の変更
被保険者の自殺
被保険者の故殺
情報提供・説明義務
履行期と消滅時効
保険事故・免責事由の立証責任
総括
教科書
保険法判例百選(別冊ジュリスト 202 号)(有斐閣、2010)
主な参考文献
(1) 山下友信=米山高生編・保険法解説(有斐閣、2010)
(2) 潘阿憲・保険法概説(中央経済社、2010 年)
(3) 山下友信・保険法(有斐閣、2005)
(4) 萩原修編著・一問一答保険法(商事法務、2008)
(5) 甘利公人ほか編・保険法の論点と展望(商事法務、2009)
(6) 落合誠一ほか編・新しい保険法の理論と実務(別冊金融・商事判例、2008)
(7) 山下友信・現代の生命・傷害保険法(弘文堂、1999)
(8) 安居孝啓編・最新保険業法の解説〔改訂版〕(大成出版社、2007)
(9) 損害保険判例百選〔第2版〕(有斐閣、1996)
(10)商法(保険・海商)判例百選〔第2版〕(有斐閣、1993) など。
試験・成績評価
の方法
期末に筆記試験を行う(事例問題)。
成績は、筆記試験の結果を80%、平常点(出席状況、発言等)を20%として、総合的に
評価する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第1 回
全 15 回
金融取引および保険取引における
法規制の概要
事例(授業内容)
(1) 金融機関に対してはその設立から様々な規制が行われている。それはいかなる目的によるか。
(2) 金融・保険等の事業は今や人々の現代生活にとって必要不可欠のものであるが、このような「公共性」は法の
適用・解釈にどのような影響を与えるか。
(3) その他、金融・保険に対してとりわけどのような特別な規制がどのような目的のもとで加えられているか、そ
の概要を理解する。
(4) 平成 20 年 6 月に成立した保険法(平成 22 年 4 月 1 日施行)は、どのような点で現行商法を修正するか。
要点
保険事業や銀行事業等、金融取引は今や我々の社会生活を営む上で必要不可欠なものであるが、それ故に、企業
基盤の維持や取引の健全性確保などの要請が一般の企業と比較してもより強く働くことになる。具体的には、設立
における資本規制、自己資本率規制やソルベンシーマージンを基準とする早期是正制度等の行政による監視システ
ム、募集にあたっての業法的規制および金融商品販売法に基づく業界横断的な規制などがあるが、これらもここで
対象とする金融取引の有する「公共性」に依拠している。
関係条文
保険業法、銀行法、金融商品取引法、金融商品販売法、消費者契約法等
キーワード
事業の公共性、行政によるチェック、早期是正制度、健全性、内部統制
必ず予習すべき文献・判例
とくになし
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
とくになし
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第2 回
全 15 回
被保険利益と利得禁止原則
事例(授業内容)
(1)建物に譲渡担保が設定された。当該建物には、担保権設定者が付けた火災保険契約があったが、担保権者で
ある債権者もまた、火災保険契約を締結した。各契約は有効か。
(2)自動車(再調達価額 200 万円)につき、保険金額を 150 万円とする車両保険契約が付された。その後、当該
自動車は事故により 300 万円の修理費用を要した。車両保険金はいくら支払われるか。
(3)海上運送の目的物である貨物(契約締結時の時価額 800 万円)につき、保険金額を 1000 万円とする運送保険が
付された。その後、運送に供していた船舶の沈没により、貨物が滅失した。事故時の貨物の時価額が 1000 万円
であった。この場合、保険金はいくら支払われるか。
(4)同一の建物(再調達価額 3000 万円)につき、A社と保険金額 1500 万円、B社と保険金額 3000 万円、C社と保
険金額 5000 万円とする火災保険契約を相次いで締結した。その後、この建物が火災で全焼した。保険金はどの
ように支払われるか。
要点
損害保険契約における「被保険利益」概念と利得禁止原則の意義と機能について理解する。
①「被保険利益」とはどのような概念か。
②保険価額に保険金額が満たない場合、保険金支払額はどのように算定されるか。
③保険価額を保険金額が超過する契約は有効か。保険金支払額はどのように算定されるか。
④同一の目的物に複数の損害保険契約を締結し、かつ保険金額の合計額が目的物の時価額を超過する場合、
保険金支払額はどのように算定されるか。保険者相互の調整はどのように図られるか。
関係条文
保険法 3 条、9 条、10 条、19 条、20 条
キーワード
被保険利益、利得禁止原則、保険価額、一部保険、超過保険、超過保険
必ず予習すべき文献・判例
テキストである保険判例百選の第5事件(最高裁平成5年判決)
※以下、百選と略称する。
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第3 回
全 15 回
損益相殺と請求権代位
事例(授業内容)
(1)Aは、交通事故で傷害を負った。Aは、加害者であるBに対して、人損、物損の両方について損害の賠償を請
求したところ、Bは、人損については傷害保険金が、物損については車両保険金が支払われており、その金額を
減額すべきであると主張している。この主張は正当か。
(2)建物(火災時の時価 1500 万円)が火災でほぼ全焼した。建物には瓦礫等のほか、いくつか経済的価値のあるも
のが残っている。保険金支払額はどのように算定されるか。
(3)(1)の事例で、車両保険金は実際の損害額が 150 万円であったところ、一部保険のために 100 万円支払われた。
さらに、Aにも過失が 4 割認定された。AはBに対して、いくら賠償を求めることができるか。
(4)Aは、甲保険会社との間で、所得補償保険に加入していたことから、事故による休業分の保険金が支払われた。
AはBに対して、逸失利益として休業損害分の賠償を求めることができるか。
要点
保険金の受領と損益相殺の法理の関係、損害保険契約における保険代位制度の概要を理解する。
①損害保険金の受領は損益相殺の法理における「利益」に当たるか。生命保険金、傷害保険金はどうか。
②保険代位制度のうち、残存物代位(24 条)とはどのような制度か。
③事故発生において、保険者に対する保険金請求権とは別に、加害者に対する損害賠償請求権も行使できるとす
れば、被保険者はいわゆる焼け太り、すなわち利得を生じさせてしまうことになる。法はこれをどのように調
整しているか。
④一部保険などのために、保険者からは損害の一部のみしかてん補されず、加害者に対しては過失相殺によって
損害賠償の額が減額される場合、被保険者はどのような権利行使が認められるか。
関係条文
保険法 24 条、25 条
キーワード
被保険利益、利得禁止原則、損益相殺、残存物代位、請求権代位
必ず予習すべき文献・判例
百選23事件(最判平成元年)
百選25事件(最判昭和50年)
百選89事件(最判昭和39年)
最判昭和62年5月29日判決・損害保険判例百選〔第 2 版〕33事件
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第4 回
全 15 回
故意による事故招致
事例(授業内容)
(1)A社は、古美術品や絵画の販売・加工を業とする株式会社である。最近、負債をかなり抱えており、経営が危
ぶまれていたところ、A社の倉庫が不審火によって全焼する火事が発生した。A社は火災保険金の請求を行って
いるが、甲保険会社は、A社の代表者Bによる放火を疑っている。
(2)Cは女性Dと自動車の中で密会しているところをDの夫であるEに発見され、車外で「出てこい」と叫んでド
アを開けようとするEに恐怖を感じて、
その場をいち早く立ち去りたい一心で、
アクセルを急加速させたところ、
並走してきたEはその衝撃で吹き飛ばされ、頭部を強く打ち、病院に運ばれたが、その後死亡した。
要点
損害保険契約における故意免責がどのような場合に適用されるかを理解する。
①故意か否かは、どのように認定されるか。
②いわゆる法人契約においては、故意免責はどのような場合に適用されるか。約款にはどのように規定されてい
るか。
③未必の故意は含まれるか。
④故意の対象は、損害か原因事実か。
関係条文
保険法 17 条
キーワード
故意免責、法人契約、未必の故意、認識ある過失
必ず予習すべき文献・判例
百選18事件(東京地判20年判決)
百選19事件(大判昭和7年)
百選20事件(最判平成16年)
百選35事件(最判平成5年)
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第5 回
全 15 回
責任保険と被害者の保護
事例(授業内容)
(1)Aは妻Bが所有する自動車を、妻Bを助手席に乗せて運転中、歩道にいた自転車と接触して、自転車を運転し
ていたCを死亡させた。この事故につき、Cの遺族はBに損害賠償を請求できるか。
(2)Aは自己の所有する自動車を、その子Dを助手席に乗せて運転中、ガードレールから崖下に転落して、AとD
が死亡した。その先後は不明である。AとDの唯一の相続人である妻Bは、自賠責保険金を請求できるか。
(3)Eは、F社が製造販売したお菓子を食べて食中毒を起こし、重度の後遺障害を負った。F社は生産物賠償責任
保険(いわゆるPL保険)に加入していた。F社は、無資力の状態であったことから、Eは保険会社である甲社
に対して債権者代位訴訟を提起した。ところが、その訴訟継続中に、F社は破産宣告を受けた。
要点
自動車損害賠償保障法(自賠法)における被害者保護と保険法の被害者保護を比較して、その概要を理解する。
①自賠法3条の責任(運行供用者責任)の意義は何か。民法709条との関係は?
②自賠責保険と任意保険との関係は?
③自賠責保険により保険金が支払われた場合、その支払い基準は裁判所を拘束するか。
④被害者の損害賠償請求権が混同により消滅した場合、自賠法16条に基づく直接請求権を行使しうるか。
⑤加害者が破産した場合、被害者は加害者が受領すべき保険金から優先的に弁済を受けられるか。
関係条文
保険法 22 条
キーワード
自賠責保険、任意保険、運行供用者、自賠責査定基準、直接請求権、特別の先取特権
必ず予習すべき文献・判例
百選29事件(最判昭和29年)
百選30事件(最判平成18年)
百選31事件(最判平成元年)
東京地判平成 14 年 3 月 13 日判時 1792 号 78 頁
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第6 回
全 15 回
告知義務
事例(授業内容)
(1)Aは、営業職員Bの勧誘を受けて、甲生命保険会社との間で生命保険契約を締結するための手続きを行った。
告知書に記載をして、第一回保険料相当額を交付した。その後、保険者から保険証券の送付がなされる前に、A
は死亡した。
(2)Cは、営業職員Bの勧誘を受けて、甲生命保険会社との間で生命保険契約を締結するための手続きを行った。
告知書には、手術歴を質問する箇所があり、その手術に該当することを知っていたが、Bが「いいえ」と記入す
ることを勧めたこともあり、「いいえ」の欄に○をつけて告知書を提出した。
要点
生命保険契約の成立における危険選択手段である告知義務制度の概要について理解する。
①約款上、生命保険契約に基づく保険者の責任はいつ開始するか(責任開始条項、責任遡及条項)
②告知、第 1 回保険料相当額の支払いを含めた契約申込手続を終えた後、保険者において審査がなされ、承諾
の通知を発する前に、被保険者が死亡した。保険者は、契約の不成立を理由に保険金の支払いを拒みうるか。
③告知義務とは何か。告知すべき事項とは?
④営業職員(外務員)は告知受領権を有するか。
⑤告知義務違反の効果は何か。保険者が契約解除や保険金支払いの拒否を主張できない場合には、どのような
ものがあるか。
関係条文
保険法 37 条、55 条、59 条(生命保険契約に関する規定)
キーワード
告知義務、承諾前死亡、告知妨害、不告知教唆、解除権阻却事由、因果関係不存在特則
必ず予習すべき文献・判例
百選53事件(東京地判昭和54年)
百選59事件(大判大正11年)
百選60事件(大判昭和9年)
百選61事件(東京地判平成9年)
百選62事件(大判明治45年)
百選66事件(大判昭和4年)
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第7 回
全 15 回
保険料の支払いと失効・復活
事例(授業内容)
Aは、甲生命保険会社との間で、生命保険契約を締結しており、保険料の支払いについては毎月Aの預金口座
からの引き落としがなされるものとしていた。ある月、残高不足により保険料の引き落としがなされなかったた
め、甲社から保険料を 2 月分まとめて引き落とすか、コンビニで支払うための用紙を入れた上での不払い通知が
なされたが、結局支払がなされないまま、約款上の猶予期間も徒過した。徒過してから 8 日後に、Aは復活を申
し出たが、告知による審査が通らず、復活は認められない旨の返事が返ってきた。
要点
生命保険契約における保険料の意義、失効・復活規定とその有効性を検討する。
①約款上、保険料の不払いは失効という効果を生じさせる。この約款は有効か。失効と債務不履行解除とでは
どのように異なるか。
②約款上、失効を回避するための制度としてはどのようなものがあるか。
③復活制度とは何か。
関係条文
民法 540 条、541 条、消費者契約法 10 条
キーワード
保険料、失効、復活、催告
必ず予習すべき文献・判例
百選78事件(神戸地尼崎支判昭和55年)
百選79事件(東京高判平成21年)
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第8 回
全 15 回
保険金請求権の帰属主体
事例(授業内容)
(1)Aは多額の負債を抱えたまま他界。Aの遺族は相続放棄をしたため、相続財産管理人であるBは、Aが加入し
ていた生命保険契約は相続財産に含まれると主張している。
(2)Cは、妻Dを受取人として、生命保険に加入していた(受取人欄には「妻・D」と記載)。その後、Dの不貞
がもとで両者は離婚。その後、受取人変更がなされないまま、Cが死亡した。
(3)妻子あるEは、社交ダンスサークルで知り合ったF(夫あり)と知り合い、お互いに離婚をするつもりで共同
生活を始めた(その際、Fを受取人とする生命保険に加入)。しかし、その後それぞれの配偶者などの働きかけ
もあり、EとFは共同生活を解消してそれぞれの家庭に戻っていった。その後Eは心臓発作で急死した。
要点
生命保険契約における保険金請求権の性質、ならびに帰属主体について理解する。
①保険金受取人の保険金請求権はどのような性質をもつ権利か。
②相続放棄等をした相続人は、保険金請求権を行使できるか。
③保険金は、特別受益の持ち戻し(民 903 条)遺留分減殺請求(民 1028 条~)の対象となるか。
④「妻・○○」と指定した場合、離婚した妻は保険金請求権を行使できるか。
⑤「法定相続人」と指定した場合、複数の相続人はそれぞれどの程度の権利を有するか。内縁の妻を含むか。
⑥不倫相手を保険金受取人とする指定は有効か。
関係条文
保険法 42 条
キーワード
保険金請求権、保険金受取人、固有の権利、公序良俗
必ず予習すべき文献・判例
百選68事件(最判昭和58年)
百選69事件(東京地判平成8年)
百選70事件(大阪高判平成11年)
百選71事件(最判平成40年)
百選72事件(最判平成16年)
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第9 回
全 15 回
保険金受取人の変更
事例(授業内容)
Aは、甲生命保険会社との間で、生命保険契約を締結しており、保険料の支払いについては毎月Aの預金口座
からの引き落としがなされるものとしていた。ある月、残高不足により保険料の引き落としがなされなかったた
め、甲社から保険料を 2 月分まとめて引き落とすか、コンビニで支払うための用紙を入れた上での不払い通知が
なされたが、結局支払がなされないまま、約款上の猶予期間も徒過した。徒過してから 8 日後に、Aは復活を申
し出たが、告知による審査が通らず、復活は認められない旨の返事が返ってきた。
要点
生命保険契約における保険金受取人の変更に関する規制内容を理解する。
①保険金受取人変更の成立要件は何か。
②遺言による保険金受取人変更は有効か。
③保険金受取人が死亡して、受取人変更手続がなされないまま被保険者が死亡した場合の指定の効力は?
保険金受取人と被保険者が同時に死亡した場合はどうか。
関係条文
保険法 43 条、44 条、46 条
キーワード
保険金受取人変更、遺言、保険金受取人の先死亡・同時死亡
必ず予習すべき文献・判例
百選75事件(最判平成5年)
百選76事件(最判平成21年)
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第 10 回
全 15 回
被保険者の自殺
事例(授業内容)
(1)Aは、うつ病と診断され、治療を行っていたが、あるとき家族が目を離した隙に、自殺した。
(2)Bは、生命保険契約を締結して3年が経過した頃、ビルの屋上から転落して死亡した。遺書等は残されていな
いものの、Bは多額の負債を抱えており、生命保険契約も複数の会社との間に、高額の死亡保険金で設定された
ものであり、保険金で借金を返済するよう金融業者から強い取立てを受けていたことが影響したものであると保
険会社は判断して、保険金の支払を拒絶した。
要点
生命保険契約における故意免責規定のうち、被保険者の自殺に関する規制と判例法理を理解する。
①「自殺」にはどのようなものが含まれるか。精神障害の影響下での自殺はどうか。嘱託殺人はどうか。
②一定期間内の自殺のみを免責とする約款規定は有効か。
③上記自殺免責期間を経過した後の自殺については、それが受取人に保険金を受領させる目的でなされたもので
あっても保険金支払い義務を免れないか。
関係条文
保険法 51 条
キーワード
故意免責、自殺、自殺免責規定、公序良俗
必ず予習すべき文献・判例
百選81事件(大判大正5年)
百選82事件(最判平成16年)
このほか、 以下の判例も参照。
東京地判平成 4 年 11 月 26 日判時 1468 号 154 頁
山口地判平成 11 年 2 月 9 日判時 1681 号 152 頁
岡山地判平成 11 年 1 月 27 日金法 1554 号 90 頁
東京高判平成 13 年 1 月 31 日判決金・商 1111 号 10 頁(最判 H16 の原審)
東京地判平成 16 年 9 月 6 日判タ 1167 号 263 頁
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第 11 回
全 15 回
被保険者の故殺
事例(授業内容)
(1)夫が妻子を相次いで猟銃で射殺し、自らも命を絶つという無理心中事件が発生した。妻が自らを被保険者とし
て加入していた生命保険契約について、夫が受取人に指定されていた。夫の相続人は保険金を請求できるか。
(2)ある会社では、役員らを被保険者として生命保険契約に加入していた。この会社は、夫が代表取締役社長で、
妻は経理を担当する平の取締役という、いわゆる同族会社である。あるとき、妻が夫の女性関係に悩み、夫を殺
害した後、自らも灯油をかぶって焼身自殺をした。会社は、夫の死亡を原因として保険金請求できるか。
(3)夫が自らを被保険者とし、その子(2歳)を受取人とする生命保険契約に加入していたところ、妻が愛人を使
って夫を殺害した。子は保険金を請求できるか。
要点
生命保険契約における故意免責規定のうち、被保険者の故殺に関する規制と判例法理を理解する。
①保険金受取人・保険契約者による被保険者の故殺を免責事由と定めた立法趣旨は何か。
②保険金受取人等に、保険金取得目的がなかったような場合でも免責か。その後の取得可能性が全くないような
場合はどうか。たとえば、無理心中のようなケース。
③法人契約においては、故殺免責の規定は適用されるか。適用されるとすれば、その要件、範囲は?
④その他、保険金受取人以外の者が被保険者を故意に殺害した場合で、故殺免責の規定が適用されることはあり
うるか。
関係条文
保険法 51 条
キーワード
故意免責、保険金受取人、保険契約者、実質的受取人、法人契約
必ず予習すべき文献・判例
百選83事件(最判昭和42年)
百選84事件(最判平成14年)
百選85事件(大阪地判昭和62年)
百選86事件(東京高判平成18年)
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第 12 回
全 15 回
情報提供・説明義務
事例(授業内容)
(1)自動車保険に加入しているAは、保険料の節約を考え、まだ自動車を運転するのがAとAの妻だけであったこ
とから、26 歳未満不担保特約をつけた。ところが、その後娘(20歳)が運転免許を取得するに至ったのであ
るが、Aは更新の際も同特約をはずさないままでいた。娘が交通事故を起こしたが保険会社からは保険金は支
払われないとの回答であった。Aの救済策はあるか。保険会社の担当者が更新の際に娘が運転免許を取得した
ことを知っていたが、何らのアドバイスもしなかった場合はどうか。
(2)火災保険中に地震損害についてはてん補しない旨の免責条項が存在することの説明を受けていなかったこと
により、地震によって家屋が倒壊しても保険金が支払われなかったという場合、免責条項の説明を受けていれ
ば地震保険に加入していたはずであるとして、損害賠償を請求できるか。自己決定権侵害による慰謝料の請求
は可能か。
要点
生損保共通の法律問題として、保険者、保険仲介者等の情報提供・説明義務に関する規制につき理解する。
①保険者や保険仲介者(代理店、営業職員等の保険募集人)は、保険業法上、保険募集を行うにあたって、
どのような規制を受けるか。その他、どのような法律の規制を受けるか。行政的規制はどうか。
②約款は何故当事者を拘束しうるか。顧客に対する説明の態様、程度はどのようなものであるべきか。
③情報提供・説明義務の違反は、私法上、どのような効果を有するか。
④自己決定の機会喪失を理由に慰謝料を請求できるか。
⑤保険募集人は、顧客に対して格別の助言義務を負うか。負うとすればどのような場合か。
関係条文
民法 1 条 2 項・709 条・715 条、保険業法 283 条、300 条 1 項 1 号、消費者契約法 3 条、4 条等
キーワード
約款規制、附合契約、情報提供義務、説明義務、不当募集、使用者責任、保険仲立人等
必ず予習すべき文献・判例
百選2事件(大判大正4年)
百選3事件(最判昭和45年)
百選4事件(神戸地判平成9年)
百選6事件(東京高判平成3年)
百選7事件(最判平成15年)
百選57事件(東京高判平成16年)
百選58事件(最判平成12年)
このほか、以下も参照する。
東京地判平成 6 年 3 月 11 日判時 1509 号 139 頁
金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」http://www.fsa.go.jp/common/law/guide/ins.pdf
生保協会「契約概要作成ガイドライン」http://www.seiho.or.jp/standard/pdf/gaiyou.pdf
生保協会「注意喚起情報作成ガイドライン」http://www.seiho.or.jp/standard/pdf/attention.pdf
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第 13 回
全 15 回
履行期と消滅時効
事例(授業内容)
(1)Aは、Bの長男である。Bは生命保険に加入しており、受取人を長男Aとしていたところ、Aはその事実を知
らず、Bは仏壇の引出に保険証書をしまい込んでいたことから、Bが病死して3年が経過するまで気づくこと
もなかった。保険契約の存在に気づいたXは、慌てて保険金請求を行った。
(2)Cは自動車事故を起こし、車両保険金を請求していたが、自動車事故があって保険会社の調査が開始された後、
保険会社から免責通知書が届いた。その後、これを不服として訴訟提起した。このケースでの消滅時効期間の
起算点はどの時点か。
(3)Dの夫Eは、突然外出したきり、行方がわからなくなっていたが、行方不明となって5年後のある日、偶然E
の遺体が山中にて発見された。Eの遺体は既に白骨化しており、死亡原因等は一切不明である。当時Eは、小
さな会社を経営していたが、業績が思わしくなくそのことで思い悩んでいたようであることから、Eは自殺で
あるとの疑いももたれていた。Dは、Eが加入していた生命保険契約に基づいて保険金請求手続きを行ったと
ころ、保険会社は時効消滅を理由に保険金の支払を拒絶した。
要点
生損保共通の法律問題として、履行期と消滅時効に関する規制内容について理解する。
①約款上、保険金支払義務の履行期についてはどのように定められているか。支払いが遅延した場合は保険金
請求者は、保険者に対して、遅延損害金の支払いを請求できるか。
②保険法上、保険金請求権につき3年の短期消滅時効期間が規定される趣旨は何か。
③消滅時効期間の始期(起算点)については保険法上規定がない。民法 166 条 1 項は「権利を行使することが
できるとき」から進行すると規定するが、保険金請求権についてはいかなる時点を起算点と考えるべきか。
その際、支払猶予期間(保険事故の調査期間)や権利者(保険金受取人等)が権利の存在や行使可能性を知
るのが遅れた等の事情は、起算点を定めるにあたって考慮されるべきか。
関係条文
民法 166 条 1 項、保険法 21 条、52 条、81 条
キーワード
保険金請求権、履行遅滞、遅延損害金、調査期間(猶予期間)、短期消滅時効
必ず予習すべき文献・判例
百選21事件(東京地判昭和42年)
百選22事件(最判平成20年)
百選88事件(最判平成15年)
このほか、以下も参照する。
最判平成 9 年 3 月 25 日民集 51 巻 3 号 1565 頁
福岡高判平成 16 年 7 月 13 日判タ 1166 号 216 頁
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第 14 回
全 15 回
保険事故・免責事由の立証責任
事例(授業内容)
(1)小規模な同族会社を経営するAは、ある日ビルの屋上から転落して死亡した。警察の実況見分調書によれば、
本件転落死については不自然な点も多く、Aの自殺である可能性もあるという。Aの会社の経営状況は思わし
くなく、多額の負債を抱え、資金繰りも厳しくなっていた様子であり、さらに、死亡する半年くらい前から高
額の生命保険や傷害保険に複数立て続けに加入していたことがわかっている。
(2)Bは、イモビライザー付きの自動車を保有しており、その自動車について自動車保険(車両保険付き)に加入
している。ある日Bから甲保険会社にB所有の自動車が何者かに盗取されたとの通知があり、車両保険金の請
求がなされた。甲社は、盗難の経緯について不審な点が多く、偽装盗難の疑いがあるとして、保険金の支払を
拒絶した。
(3)Cは、乙保険会社の傷害保険に加入していたところ、入浴中に溺死した。とくに目立った外傷はなく、脳疾患
あるいは心疾患の既往症を持つCが入浴中に発作的に意識障害を起こしたことによるものとして、乙社は、保
険金の支払を拒絶した。
要点
生損保共通の法律問題として、保険事故と免責事由の立証責任の帰属についての判例法理を理解する。
①保険法 2 条 6 号(旧商法 629 条)にいう「偶然な」の意義は何か。
②傷害保険の保険事故は「急激かつ偶然な(偶発的な)外来の事故」である。①)の「偶然」と同義か。
③傷害保険において、事故の偶然性(故意ではないこと)は、保険金請求者と保険者のいずれが立証責任を負
うか。
④火災保険、車両保険における事故(火災や自動車事故)の偶然性はいずれの当事者が主張立証すべきか。
⑤盗難保険の盗難はどうか。
⑥傷害保険において、事故の外来性は、保険金請求者と保険者のいずれが立証責任を負うか。
関係条文
保険法 2 条 6 号、17 条、51 条、80 条
キーワード
モラル・リスク、法律要件分類説、不慮の事故、偶然性、外来性、急激性、外形的事実、相当因果関係
必ず予習すべき文献・判例
百選28事件(最判平成16年)
百選43事件(最判平成18年)
百選44事件(最判平成19年)
百選97事件(最判平成13年)
百選98事件(最判平成19年)
百選99事件(大阪高判平成17年)
このほか、以下を参照する。
大阪高判平成 21 年 9 月 17 日金・商 1334 号 34 頁
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。
科
目
金融・保険関係法
担
当
者
遠山 聡
第 15 回
全 15 回
総括:金融・保険取引における今後の課題
事例(授業内容)
これまでの授業の総括を行うとともに、残された法的問題にはどのようなものがあるか、また、今後の課題と
してどのような問題があるかを解説する。講義で扱えなかった、その他の保険法の規制内容、法律問題等につい
てもここで概観する。
要点
総括として、残された課題等を理解する。
①金融取引における現状と課題
②保険取引における法・約款の立法論および解釈論の総括
③保険契約法における現状と課題
関係条文
(全体の総括)
キーワード
総括
必ず予習すべき文献・判例
とくになし。
参考資料(さらに理解を深めるために学習するのが望ましい文献等)
講義において指示する。