第7回レジュメ

保険法
第 7 回 保険代位
【目的・内容】
損害保険契約は実損填補契約であり、被保険者が利得することがないよう保険金支払の
効果として 2 種類の代位が保険法上規定されている。約款では、残存物代位、請求権代位
いずれも特別な規定が設けられている。請求権代位に関する問題として、保険給付と損益
相殺との関係や、人保険における請求権代位との関係を巡る実務上の問題を検討すること
を目的とする。
[準備作業]
以下の設例を読んで設問に対する解答を用意してきなさい。その際に、下記にあげる参
照判例・参集文献は必ず読んでおくこと。また、下記の予習項目に関して各自が調べてま
とめてくること。
【予習事項】
1.残存物代位制度の趣旨は何か。
2.請求権代位制度の趣旨は何か。
3.損益相殺とは何か。
4.生命保険契約その他の人保険契約では、なぜ、請求権代位は認められないか。
5.一部保険の場合において、請求権代位につき、学説上、絶対説、差額説、比例説の見
解の相違があったが、保険法では、どのような立場を採用したか。その理由は何か。
6.人身傷害補償保険契約とは何か。
7.人身傷害補償保険契約は、保険法においてはどのような種類の保険契約と位置付けら
れるか。
8.人身傷害補償保険契約において、被保険者が死亡し、被保険者の相続人が保険金を取
得する場合、被保険者の相続人は自己固有の権利として当該保険金を取得するのか、ある
いは被保険者の相続財産の一部として当該保険金を承継取得することとなるか。
[参照条文]平成 20 年改正前商法 662 条、保険法 25 条、26 条、民法 722 条
[参考判例]
・最二判昭 39 年 9 月 25 日 民集 18 巻 7 号 1528 頁
・最三判昭 50 年 1 月 31 日 民集 29 巻 1 号 68 頁
・最二判昭 62 年 5 月 29 日 民集 41 巻 4 号 723 頁
・最二判平成 7 年 1 月 30 日 民集 49 巻 1 号 211 頁
・大阪地判平成 18 年 6 月 21 日判タ 1228 号 292 頁
・東京地判平成 19 年 2 月 22 日判タ 1232 号 128 頁
・東京高判平成 20 年 3 月 13 日判時 2004 号 143 頁
・最判平成 20 年 10 月 7 日判時 2033 号 119 頁
[参考文献]
・山下友信・竹濱修・洲崎博史・山本哲生著『有斐閣アルマ保険法第 3 版』(有斐閣、2010
年)175 頁~184 頁
・洲崎博史「損益相殺と保険代位」金澤理・塩崎勤編『裁判実務大系 26 巻 損害保険訴訟』
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153 頁~163 頁(青林書院、1996 年)
・鴻常夫・竹内昭夫・江頭憲治郎・山下友信編『損害保険判例百選〔第二版〕』140 頁~
141 頁およびそこに引用されている文献
・生命保険判例百選(増補版)20 ~21 頁
・桃崎剛「人身傷害補償保険をめぐる諸問題」判タ 1236 号(2007 年)72 頁以下
・植田智彦「人身傷害補償保険による損害填補及び代位の範囲についての考察」判タ 1243
号(2007 年)21 頁以下
・坂東司朗「人身傷害補償保険における請求権代位により保険者が取得する権利の範囲」
損害保険研究 70 巻 3 号(2008 年)150 頁以下
[問題]
1
Y は、Z 損害保険会社との間で、Y 所有の自動車を被保険自動車、記名被保険者を Y
自身、人身賠償補償金、対物賠償補償金をそれぞれ無制限、搭乗者傷害保険金額を 1,000
万円とする自動車総合保険契約を締結していた。
Y は、友人 A を同乗して先の自動車を運転中、スピードを出しすぎたために、カーブ
を曲がりきれず、自損事故を起こし Y はかすりきず程度で済んだが、A は打ち所が悪く
死亡した。そこで A の両親であるX1及びX2は、Y及びYの両親に対して、自動車損害
賠償補償法 3 条に基づきAの死亡により被った損害を求める訴訟を提起した。これに対し
て、Y らは、先の自動車総合保険契約における搭乗者傷害保険契約における死亡保険金と
して、Z 社からXらは 1000 万円の死亡保険金を受け取っているのであるから、賠償請求
すべき額は、1000 万円を控除した額であると抗弁した。
参考判例に挙げている従来の最高裁の立場から考え、設例において、損益相殺を認めない
という結論となるのか。また従来の最高裁の立場と異なる考え方を採ることは可能か。
2.約款において、残存物代位、請求権代位を行使しないとする旨の規定を設けることは
可能か。可能な場合の理由及びその実際の効用としてどのような場合が考えられるか。
3.X運輸有限会社は、A 産業株式会社所有の冷凍イカを京都府舞鶴市から大阪府大阪市
の料亭まで運送することを引受、上記冷凍イカを X 所有の保冷車(本件車両)に積み込み、
従業員 B 運転手を担当させた。X 社は、Z 損害保険株式会社との間で、自社が所有する
トラックにつき、自賠責保険契約とは別に、任意自動車保険契約(本件保険契約)を締結
していた。B 運転のトラックは、運送の途中、Y運輸株式会社所有の大型トラックと接触
・横転し、本件車両は全損となる事故が発生した。そこで、Xは、Y社に対し、不法行為
に基づく損害賠償請求として本件車両の時価相当額の損害 400 万円ほかの支払を求めて
訴訟を提起した。Z社は、本件保険契約に基づき、本件車両の損害填補として、保険金 300
万円を支払った。そこでZ社は、XY間の訴訟に参加し、Xに対しては、Xの請求にかか
る債権中、保険金支払額相当の債権をZが代位取得したことの確認を求め、またYに対し
ては右金額を支払うよう求めた。なお、本件交通事故では、Bの運転にも問題があったと
して、過失割合は、X5 割、Y5 割と認定され、本件車両の全損によりXの被った損害は
380 万円の 5 割の 190 万円と認定された。
(1) 設例において、Z損害保険会社は、XがYに対して有している損害賠償請求権をどの
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範囲で権利取得することが認められることとなるのか。
(2)Z損害保険会社が代位した請求権における遅延損害金は、年 6 分となるのか年 5 分と
なるか。
4.A さんは、X損害保険会社に対して、任意自動車保険契約を締結し、当該自動車保険
契約には人身傷害補償保険契約が特約として付けられており、人身傷害補償保険金額は
3000 万円と約定されていた。Aさんは自動車運行中、信号無視をして交差点を進行してき
たYさん運転の自動車と衝突して、Aさんは重傷を負った。
Aさんにも、前方不注意とスピード違反などがあり、3 割りの過失相殺が認定されてい
る。
X会社の人傷補償保険契約に適用される約款規定の人傷補償基準によって算定されたA
さんの損害額は 8 千万円とされていた。これに対して、AさんがYさんに対して損害賠償
請求訴訟を提起し裁判所が認めた損害額は 1 億円と認定された。
この場合、人傷基準差額説と裁判基準差額説とでは、X会社がYに対して代位請求を行
える範囲はどのように異なることとなるか。
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