山形大学人文学部「連合山形寄付講座」 2014年度後期 「労働と生活」 第 10 回(2014.12.18) 協同組合とは何か、協同組合の取り組み 「協同組合の意義・労働者自主福祉運動の現状と課題」 鈴 木 正 弘(一般社団法人山形県労働者福祉協議会 専務理事) はじめに 皆さんこんにちは。山形県労働者福祉協議会の鈴木と申します。連合山形の寄付講座は「労働と生活」とい うテーマで、講座が展開をされているわけですが、戸室先生よりお話があった通り、今回から「生活」という ところに重点を置いた講座となります。特に私は協同組合と労働者自主福祉運動というところに絞ってお話を させていただこうかなと思っております。 働く者にとって「労働と生活」は切っても切れない大切な関係にあります。大きな概念として、労働者自主 福祉運動について、冒頭触れたいと思います。これまでの講座では労働組合について学んできたわけですが、 労働組合は労働者の生活、暮らしというところにも支え合いの仕組みをつくってきています。 経営者にとって「経営資源」とは何かと言えば、ご存知だと思いますけれども、 「人」 ・ 「モノ」 ・ 「カネ」 、そ して「情報」と言われます。 それと対比をして、私達の「人間生活に必要な資源」はなんだろうかなと考えてみますと、当然「所得」 。市 場経済である以上、生活に必要な財産とかサービス、そういったものは基本的に所得、お金で買うことになり ます。雇用や就業と言い換えてもいいんですが「所得」が必要。そして「時間」 。自分が使える時間ですね。よ く言われるのは1日 24 時間あるわけですけれども、8時間が労働で、8時間が睡眠、残り8時間が自分の時 間。その自由に使える8時間がいわば極めて大事で、その人のライフスタイルを形づくると言ってもいいので はないでしょうか。そして、3つ目として「安心」ですね。ソーシャルセーフティネットと言われるものです。 年金、生活保護いわゆる社会保障制度。その他に保育、医療・介護などの社会的なサービスを「安心」と置き 換えてみました。4つ目として「仲間」 。ソーシャルキャピタル。人と人との繋がり。一人では存在できないと いうことです。 平安時代の仏教界で地獄の概念というのが出来上がるんですけれども、この前お坊さんといろいろお話をし た時に地獄の中で一番罪深い人が落とされる地獄が「孤独地獄」だとおっしゃっていました。針の山とかいろ んな地獄があるんでしょうけれども・・・。仲間がいたりすると「痛いね」 「痛いね」なんて言いながら「まあ、 どうにかなるんじゃないの」なんて話が出来て乗り越えられるのかもしれません。 「孤独地獄」というのは非常 につらい地獄の中の地獄だということを仰っていました。 「仲間」 、ソーシャルキャピタル、人と人の繋がりということで4つ。 恐らく皆さんにとっての必要な資源は、多種多様に存在するといえますけれども、ここでは「所得」 ・ 「時間」 ・ 「安心」 ・ 「仲間」としてみました。このうち「所得」 、 「時間」 、 「職場の安全」というところはメンバーシップ である労働組合が担っていることをこれまでの講座で学んできたと思います。 その一方で正当な価格で質の高いサービスや例えば万一の病気や怪我。最近では東日本大震災、広島の地滑 り、御嶽山などの自然災害のリスクへの対応。マイホームを持ちたいとか自家用車を持ちたいなどの生活金融 は労働組合や私ども労福協がつくった暮らしの支え合い組織「協同組合」が担っています。いわゆるメンバー シップ、会員となることで得られる物的な精神的な利益。 「共助」共に助け合うということですけれども、そこ を基本とする組織の典型が「労働組合」 、 「協同組合」であるということです。 まとめますと「労働者自主福祉運動」というのは、個々の労働者が日常的に幸福を追求できるような福祉の 体制を労働者自身が関与して作り上げていく「共助の運動」であると理解をして下さればと思います。 1 1.そもそも「協同組合」って それでは、協同組合というのは何かというのをお話しなければなりません。 レジュメ(1)近代的協同組合で最初に成功したのは「ロッチデール公正先駆者組合」と記載をさせていた だきました。18 世紀後半からイギリスでは産業革命が起こって、世界の工場として社会経済が飛躍的に発達を しました。農村から都心に集中してきた労働者は低賃金だったり、長時間労働だったり、深刻な失業問題、貧 困と不景気の嵐、更に物価の高騰、商人の不正、高利貸など、労働者の暮らしは非常に深刻さを増していった と言われています。そうした時代背景の中で 1844 年工業都市であるロッチデールに最初の小さな店舗が開設 をされました。 「ロッチデール公正先駆者組合」が誕生したわけです。 これは 28 人の織物労働者が自分達の生活は自分達で守ろうということで、1人1ポンドずつお金を出し合 って、バター、砂糖などの食料品を売る店舗を開店したのが始まりとされています。当時の商店主の多くは秤 をごまかしたり、異物を混入して重たくしたりというブラック商売が蔓延していた状況と言われています。自 分達の生活は自分達が守らなければならなかったという事情があったんだと思います。 そして当時、ロバート・オウエン、この方も協同組合運動の偉人と言われている方ですが、ロバート・オウ エンの社会主義プログラムの影響を受けて、たくさんの協同運動が組織をされましたけれども、残念ながら次 から次へと失敗に終わっていました。そうした先人達の失敗を踏まえて成功した「ロッチデール公正先駆者協 同組合」は、高い理想の下で他に頼ることなく自分達の力で協同を礎として組合を公平で民主的に組織し、地 道に積み上げていった結果だったと言われています。 それはここに記載をさせていただいていますけれども「ロッチデールの原則」と呼ばれております。広く世 界各国の協同組合の運営に大きな影響を与えることになった原則です。①加入脱退の自由、②民主的運営の原 則、③出資配当制限の原則、④利用高剰余金処分の原則、⑤政治的及び宗教的中立の原則、⑥現金取引の原則、 ⑦教育の推進という7つの原則で運営していった結果、最初は本当に細々としたスタートだったんですけれど も、少しずつ軌道に乗って、僅か 10 年で組合員数は 50 倍に、基金総額は 400 倍に増大していったと言われて います。 こうした成功によって協同組合運動はイギリス全土に広がり、それはやがてフランス、スイス、ヨーロッパ 各地、さらにはアメリカ、ソ連、アジア、アフリカ、オセアニアと世界中に広がっていきました。 次第に国際的な連帯を求められるようになると 1895 年に「国際協同組合同盟」 (ICA)が組織されました。 現在の加盟国は 93 カ国、組合員数は 10 億人を超えております。非常に大きな民間団体です。 どのような組織を協同組合と呼ぶかということになるわけですけれども、協同組合の国際組織である「国際 協同組合同盟」 (ICA)は、1995 年ICA100 周年の記念大会で「協同組合のアイデンティティに関する声 明」というものを採択しております。この声明には 21 世紀における国際協同組合運動の指針として、 (資料1) として準備をさせていただいておりますが、協同組合の定義、価値、原則が明記されています。 定義としては、 「協同組合は自発的に結合した人々の自主自律の組織体であり、その目的は自分たちがオーナ ーとなって民主的に運営する企業体によって、みんなに共通の経済的、社会的、文化的な必要を充たし願望を 達成することにある」と書いてあります。分かりづらいですね。 協同組合の大きな特徴を3点にまとめますと、第1は協同組合を利用する人々が公平に出資をして「協同で 所有する組織」であるということ。それ故に第2の特徴として出資した組合員は平等の議決権(1人1票)を 持ち、組織の方針、意志決定に参加します。この民主的な管理を行う「自治的な組織」であるということです。 確かに株式会社も株主が出資をして、株主が意志決定に参加するわけですが、保有する株の多寡によって議 決権が違ってまいります。それに比べて協同組合では公平・平等な出資、議決権が与えられるということです。 さらに第3の特徴として、協同組合は会員、組合員が参加、利用することで共通のニーズを満たすための「自 発的な組織」であるということです。 そして(資料1)下段に、価値、そして原則を謳っています。この中身は先ほど言いました「ロッチデール の原則」で構成されていることが窺い知れると思います。 世界の協同組合は、この声明を活動の指針にして社会運動としての協同組合運動に取り組んでいます。日本 においてもこのICAに協同組合の中央会や連合会が加盟をしております。この寄付講座の年明けの講座にな りますけれども、生活協同組合、労働金庫、全労済そしてJA農協はもちろん加盟してるわけですが、皆さん 2 が加入している山形大学生協。 その中央連合会である全国大学生協連合会もICAのメンバーになっています。 ですから、皆さんも協同組合セクトの組合員の1人であるということになります。 2. 「国際協同組合年」について ここで「国際協同組合年」について触れておきたいと思います。2009 年 12 月に開催をされました国連総会 は 2012 年を「国際協同組合年」とするということを決議しました。 国連は毎年国際年を制定しているんですけれども、その内容のほとんどが子供とか障害者、女性などの社会 的な弱者、弱い立場にある人々の権利向上だったり、水・森・農業などの環境破壊に警鐘を鳴らすというのが ほとんどでした。ちなみに今年 2014 年はどういう年かご存知の方いらっしゃいますでしょうか?「国際家族 農業年」という年に当たっています。食糧生産として家族農業は大切な役割をもっており、それを支える各種 施策を各国政府はとりなさいという呼び掛け、運動をする年ということです。 協同組合という具体的な組織形態を国際年としたことは極めて異例な事と言われています。 これは 2000 年に「国連ミレニアム宣言」というものが採択されたんですけれども、その中の「ミレニアム 開発目標」が深く関わっています。ミレニアムという単語を初めて聞いた方もいると思いますが、 「千年紀」と いう意味です。2000 年という区切りに国連が目指すべき目標を示したものです。是非ネットなどで検索をして いただければ有り難いなと思います。ターゲットは8つあります。そのターゲット1として「極度の貧困と飢 餓の撲滅」が掲げられています。そしてその解決の為に「協同組合は有効な活動に取り組んでいる」という評 価から指定されました。 20 世紀後半から市場万能主義による経済社会のグローバル化が進展していきます。新自由主義とも言われて おり、各国が設けていたセーフティネットとしてのいろいろな規制を取り払って、市場に委ねるということを 言っているのですが、食糧・水・エネルギー資源などの社会的共通の資本まで投機の対象になってしまいまし た。投機というのは、財を安い時に買って高い時に売って差額から利益を得ようとする行為です。結果として 金融経済危機、食糧危機、環境問題、雇用問題が起こってしまいました。2008 年にはリーマンショックが起こ りました。その1年後の国連総会の決議ということになっています。 日本でもそのマネーゲームの破綻によって金融機関・メガバンクをはじめ製造業も大きな打撃を受けました。 派遣労働者・非正規労働者の雇止め、住む場所も奪われネットカフェ難民・ホームレスや年越し派遣村など、 大きな社会問題になったことは記憶に新しいと思います。 そうした中で前後しますけれども、 (資料2)に国際労働機関、通称ILOと呼ばれているジュネーブに本部 がある国連の専門機関です。1944 年に「フィラデルフィア宣言」が採択されています。国際労働機関の根本原 則を謳っています。よく読んでみると協同組合とほぼ同じ価値観を持っているということに気付かれると思い ます。そしてそれが(資料3)の 2002 年ILO勧告 193 号「協同組合の促進に関する勧告」となり、各国政 府に対して勧告がなされ、そして 2012 年の国連の「国際協同組合年」へと繋がっていったということでござ います。 「協同組合の認知度を高めること」 、 「発展を促進すること」 、 「発展促進に向けた政策を政府に働き掛け ること」が呼び掛けられました。 我国でもこの呼び掛けに応えて「国際協同組合年実行委員会」が結成されて、 「協同組合がより良い社会を築 きます」を共通のスローガンに協同組合と共に私ども労福協も参加して、協同組合の認知度を上げるキャンペ ーンや発展促進に向けた制度政策の要請行動等を行ってきております。山形県でも「山形県協同組合連絡会」 が今年で2回目でしたが、記念行事やシンポジウムを開催しています。 3. 「日本の協同組合の父」賀川豊彦について ここで「日本の協同組合の父」と呼ばれている賀川豊彦さん(1888~1960)に触れたいと思います。 賀川豊彦さんは、クリスチャンで若い時から貧民救済運動に取り組み、アメリカ留学の後、労働運動、農民 運動、普通選挙運動などの幅広い社会改革運動に取り組まれた方です。 特に協同組合運動に関して言えば 1919 年(大正9年)に「共益社」 、1921 年に「神戸購買組合」 、 「灘購買 組合」 、消費者組合ですね。今で言う生協です。1928 年には「中ノ郷質庫信用組合」 。ここはスラム街で有名な 場所ですが、信用組合の前身となるような組織を作ったり、1931 年には「東京医療利用購買組合」 。協同組合 3 が総合病院を作ったり、今の医療生協の原型となるような協同組合の設立に関わってきた方です。1945 年(昭 和 20 年)戦後間もなく創立されました「日本協同組合同盟」 (現在:日本生協連)の初代会長に就任をしてい ます。 彼は「一人は万人のために、万人は一人のために」という社会を実現するために協同組合の精神を7つにま とめました。それが「協同組合中心思想の7カ条」ということでございます。 ①「利益共楽」…生み出した利益は皆で分かち合って共に豊になりましょうということですね。 ②「人格経済」…強欲に走らずに人間を尊重した経済社会としましょう。 ③「資本協同」…皆で元手を持ち寄って生活を豊かにする資本として生かしましょう。 ④「非搾取」 …皆が平等で利益を分かち合いましょう。 ⑤「権力分散」…全ての人が権利を保障され現場に近い所で方針を決定しましょう。 ⑥「超政党」 …これは時の政府、いろんな政党があるわけですが政党に溺れることのない自律した精神で行 動しましょう。 ⑦「教育中心」…これらの精神を絶えず学ぶことが重要です。 この考えは協同組合の発祥であるイギリスの「ロッチデールの原則」を踏まえたものです。協同組合の基本 的精神として現在も引き継がれているものです。 日本全国の協同組合の事務所や応接室に行ってみると、必ずこの賀川さんの「トップスローガン」が掲げら れております。 この中で特に教育中心のところは、他の条項が倫理的なものですので、人の心が非常に移ろいやすいという ことで、絶えずこれらの精神を学ぶ必要があると説いたものと言われております。 ある資料にあったんですけれども、この思想はインド独立の父といわれるマハトマ・ガンジーが唱えた「7 つの大罪」と通じるものがあると言われております。 その罪というのは「理念なき政治」 、 「労働なき富」 、 「良心なき快楽」 、 「人格なき学識」 、 「道徳なき商業」 、 「人 間性なき科学」 、 「献身なき宗教」 。 これは有名な7つの言葉ですが、実際お二人は直接お会いになっていて会談をなさっています。お互いどの ように影響をし合ったかは分かりません。 4. 「協同組合」と「株式会社」はどう違う 「協同組合」と「株式会社」はどう違うかについてお話をさせていただきます。労金でお金を借りるのと銀 行で借りるのと何が違うのか。全労済の制度は保険会社の商品と何が違うのか。生協の冷凍食品とスーパーの 冷凍食品は何が違うのか。 表面的には違いはありません。個別の商品、制度の優位性というのは、当然ですが市場で比較されるという ことになるからです。 「協同組合」と「株式会社」の違いは、その組織の目的、構造、運営、そして先ほどの賀川さんの「協同組 合の中心思想」にあるような倫理的な思想が有るか無いかです。 「協同組合」は利用する組合員の平等な出資に基づいて平等な議決権によって運営される事業体です。 この点が第1に「株式会社」との決定的な違いです。 「株式会社」は商品を利用するか否かに関係なく株主が 保有する株の量で会社運営の発言力が異なります。保険利用者との関係で言うと、保険会社は加入して給付さ れて終わりということになります。 「協同組合」 の全労済は、 その組合員は運営に関与できるということですね。 そして第2の違い。 「協同組合」は営利を目的としない組織であるということです。 (資料5) 、 (資料6)に あるとおり、生活協同組合法と農業協同組合法の2つ準備をさせていただきました。 (資料5)の生活協同組合 法第9条、 「組合は、その行う事業によって、その組合及び会員に最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目 的としてその事業を行ってはならない。 」そして(資料6)の農業協同組合法第8条「組合は、その行う事業に よってその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行っては ならない。 」と記載をされています。もちろん「協同組合」も利益、剰余金が無ければ事業継続が出来ません。 利益、剰余金が出た場合は、法律、定款に基づいて利用する組合への還元金といわゆる事業を継続発展させる ための基金に積立に充てられます。 4 組合の還元金は、 「組合員共通のニーズを満たすための自発的な組織」ということでありますので、利用して もらうことが前提ですから利用多寡に応じて還元されるということになります。要するに「株式会社」は株の 多寡によって配当されるわけですけれども、 「協同組合」はその利用者の利用多寡に応じて還元をされるという ことが前提になっています。 第3の違いは、 「株式会社」の目的は効率を高めて最大限の利益を上げて、株主に最大限の配当をするという ことです。 何よりも「協同組合」の目的は、個別の法律によって、その目的が規定されております。 もう一度資料を見て下さい。消費生活協同組合法 第1条に目的として「国民生活の安定と生活文化の向上 を期すること」であり、農業協同組合法 第 1 条に目的として「農業生産力の増資及び農業者の経済的社会的 地位の向上を図り、もって国民経済の発展に寄与すること」と謳われています。労働金庫法第1条には「労働 者の経済的地位の向上に資すること」ということ。このように「協同組合」には個別の法律が存在しています。 「協同組合」の原則にもあるように、組合員の共通の経済的、社会的、文化的ニーズと願いを満たす組織で あり、単なる「売り手」と「買い手」という関係ではないということです。事業を通じて共通のニーズを満た すために、即ち人と人との関係、助け合い、支え合いを結ぶものと言えると思います。 「協同組合」の活動の目的は、利用する組合員の共助。いわゆる共に助け合うというところに留まらなくて、 「より良い社会をつくること」にあると言われています。 例えば労働金庫に預金したお金はどこかのサラ金への出資には絶対に使われません。預金したお金は投機的 なマネーゲームには絶対に使われません。別の組合員の住宅ローンに融資をされ、そこから得た利子の一部は 私ども労福協が行っている就労支援の資金や福祉・環境など市民団体への支援。結果として地域の共生や活性 化等に繋がる資金循環を生み出します。これが「連帯経済」と言われているものであって、まさに意志を持っ たお金。グッドマネーの流れがそこにはあるということです。 5. 「労福協」について 労福協についてお話をさせていただきます。正式名称は「労働者福祉協議会」と言います。中央組織として は「中央労福協」と言いますが、 「労働者福祉中央協議会」 。 「山形県労福協」は「一般社団法人山形県労働者福 祉協議会」と言います。労働組合と生活協同組合がつくった助け合いの組織です。いわゆる組合員の共通のニ ーズを満たすための自発的組織ということです。 設立と組織の構成を記載しています。 戦後、いろいろな考え方、思想・信条の違いによって、多くの労働組合の中央組織が出来上がっていました。 それがバラバラに取り組まれていた福祉事業でしたが違いを乗り越えて「福祉は一つ」ということで 1949 年 にその前身となる組織「中央物対協」が設立されました。戦後の経済的混乱期、食糧危機であるとか、生活物 資の困窮という、今では到底想像出来ない切実なニーズを満たすために設立されたということです。 話を聞きますと当時の「物対協」の事務所は労働省、国の役所になるわけですが、その建物に間借りしてい た時期もあったと記録には残っています。時の政府も全面的に支援をしていた時期だったと聞いています。 1957 年以降、 「中央労福協」 (労働者福祉中央協議会)へと変遷し、銀行に預金があっても労働者には金を貸 さない。貸してくれるのは質屋と高利貸ばかり。こうした大変な状況から労働者を解放するために労働者の銀 行「労働金庫」を創設したり、暮らしのもしもに備える「全労済」を誕生させてきました。 山形県でも同じように、戦争によって非常に疲弊し、混乱した状況から「山形県労働組合福祉対策協議会」 が 1953 年に発足をしています。以降、組織名の変遷を経て 1976 年に「山形県労働者福祉協議会」が立ち上が って現在も歴史を刻んでいるということになります。 経済社会情勢が大きく変化し、その活動目標も生活物資対策から労働者の暮らしのニーズも多様化していく 中で、労働組合のいわゆる外側にいる人達にも活動の領域を拡大させたいということから、社会的に認知され る組織となるために、2008 年4月から任意団体から社団法人化し、その後の公益法人改革によって、2012 年 4月に現在の一般社団法人山形県労福協に移行したという経過でございます。 資料にも載っていますけれども、県内各地域にネットワークを張って活動を展開しています。 5 6.私たちは「どんな時代」に生きているのか 次に「私たちはどんな時代で生きているのか(この数年間の特徴) 」についてお話をさせていただきます。な んと言っても「貧困社会」に触れなければなりません。 1990 年にバブルが崩壊、弾けた年に、日本経団連(経済団体連合会)が「新時代の日本的経営」という報告 書を出しました。これまで終身雇用、年功序列賃金が日本的経営の特徴だったんですが、これを出来るだけ正 社員を少なくして、単純な作業はパートや派遣の安い労働力をフレキシブルに使って、企業収益を格段に向上 させようという中身でした。 この報告書が出て以降、一気に格差社会、二極化が進行していきました。所得の二極化、働き方の二極化。 正職員、 正社員と相反する非正規労働者の課題。 増える生活保護世帯。 全国で生活保護を受けている世帯は 2013 年度 160 万世帯。受給者が 215 万人を超えました。増加傾向が続いています。大変な状況になっています。ま た預貯金ゼロの世帯。1990 年代は約 10%前後でしたが、2011 年には 30%近い状況になってきています。 そして「貧困の問題」です。相対的貧困率も年々高まっています。 (表1)をご覧下さい。相対的貧困率と貧 困線があります。国民1人当たりの所得、所得額というのは可処分所得。自由に使えるお金ですけれども、そ の国民所得の中央値の半額の部分を貧困線と言います。それ以下の層の割合を相対的貧困率と厚生労働省は言 っています。 2012 年度では16.1%、 貧困線は 122 万円。 16.1%すごいですね。 この15 年前は1997 年では 14.6%、 130 万円でした。貧困率が上がって貧困線が下がっています。 問題は、貧困はただ単に一世代で終わるというわけではないということです。子供の貧困率も極めて高くな ってきています。2012 年度に初めて 16.3%となり、大人の貧困率を初めて超えることになりました。実に6 人に1人が貧困状態なんです。どの調査を見ても「貧困の連鎖」が固定化されつつあると言われています。 また国税庁が民間企業実態調査を発表しています。特に給与所得 200 万円以下の方々はワーキングプアと呼 ばれています。これが 2012 年度では 23.9%。1069 万人を超えています。1994 年では 17.7%、約 8 年間で 315 万人増えています。6.2 ポイント増加しています。給与所得の状況も大変な実態になっているということです。 「市場経済の暴走」が続いています。市場経済とか競争を否定するつもりはありませんが、競争社会の中で 職場は今どういう状態になっているかと言いますと、能力主義・成果主義賃金に切り替わってきています。同 じ時期に入社しても能力によって、誰が査定するかは分かりませんけれども、能力査定給で分けられていきま す。支え合うのではなく勝ち組が優先されて、負けた方は自己責任を問われる傾向が強まっています。 ワーキングプアは自己責任ではありません。社会問題そのものです。誰が好んでワーキングプアになろうと 思って社会に出て行くんですか。そんなことは有り得ません。社会問題です。 そしてもう一つ指摘しておきます。これは経営者が持っていた考え方、倫理観が失われつつあるということ です。金儲け第一主義。昔の経営者は人前でお金の話をしない。お金の話をする人は立派な仕事は出来ないと いう文化が大切にされていました。しかし、 「金儲けはなぜ悪いのですか」 「金で買えない物はないですよ」と いう、剥き出しの資本主義的な発言がまかり通っています。お金中心の社会が当たり前という考え方が、どう ですか皆さん。皆さんの心の中にも浸透してきているのではないですか。 そして、 「雇用が劣化」しています。2012 年の就業構造基本調査で非正規労働者が 2000 万人を超えていま す。率で 38.2%。2042 万人が非正規労働者です。山形県では 16 万 4100 人。率は 35.8%。非正規労働者の増 加とその働き方が社会問題になっています。 雇用の規制緩和は、これまで労働組合の講義の中で多くの方が触れられてきていますので、割愛させていた だきます。労働者を保護する様々な法的な規制があります。緑の小さなハンドブックが以前の講座で渡された と思いますが、 この本にコンパクトにまとめてあります。 新自由主義の発想で次から次へと緩和されています。 また「社会も劣化」してきています。将来に対する何とも言えない不安が拡大していると言われています。 貧乏だけならいいんです。貧困というのは「貧乏」と「孤立」していることを言います。無縁社会とも言われ ています。昨年の自殺者が3万人を切りました。交通事故の死亡者が昨年は 4400 人弱でした。どう考えたら いいんでしょう。この3万人という数字がずっと続いていました。 そして3.11の東日本大震災の原発事故。未だに多くの傷跡を残しています。そういう社会に私達は生き ているということです。 6 7. 「山形県労福協の事業」について 私共山形県労福協が取り組んでいる 「生活あんしんネットやまがた事業」 について触れさせていただきます。 1つは、暮らしの相談活動です。フリーダイヤルで相談に応じています。 (資料7)になります。今年度の相 談件数をまとめたものです。昨年は 486 件の相談がありました。これも同じようなペースで増えています。最 近では非常に複雑で複合的な相談が増加してきています。 実際にあった相談で例をあげますと、この中で奨学金を貰っていらっしゃる方どれぐらいいらっしゃいます でしょうか。何人かいますねえ。日本学生支援機構ですかね。 「知り合いの大学生の奨学金の保証人になりました。十数年前に親と本人から完済しましたということを聞 いていましたが、独立行政法人日本学生支援機構から請求書が届きました。理由は“本人支払い不能のため” と書いてありました。 借りた本人は就職していると聞いています。 親は施設に入所して話が理解出来ない状況。 以前の連絡先に電話しても通じません。私も僅かな年金で生活をしており病気がちで生活が苦しいです。どう したらいいんでしょうか」80 代男性の相談です。こういった形で相談内容が実に複合的ですよね。 ちょっと脱線しますけれども、労福協は大学の「奨学金問題」に長年取り組んでいます。多くの若者が、教 育費の高騰や親の雇用の不安定化・低所得化によって、 「奨学金」という名のローンを借りざるを得ない現状に なっています。 返したくとも返せない状況に置かれているということも、 極めて問題だと言わざるを得ないと、 思っているところです。受益者負担制度、自己責任主義に基づく教育政策。雇用破壊をもたらす労働政策の矛 盾が、その「奨学金問題」に象徴的に現われた構造的な社会問題だと、私共は思っております。月 12 万円ず つ借りられますので、最大 576 万円の借金。そして卒業6カ月後から返済が始まります。今のところ 300 万円 ぐらい借りているのが平均と聞いています。払えないと 10%の延滞金が付きます。遅れるとブラックリストに 載って、クレジットカードも作れない状況になるというのが、普通になってしまいました。 この間の私共の運動で「無利子奨学金」の枠も増加しました。延滞金の付加率も 10%だったものが5%に引 き下がりました。経済的困窮を理由にした返済猶予制度も5年から 10 年に延長されました。 しかし、経済的理由によって大学を退学する人達。これは 2012 年度の退学者は7万 9000 人。そのうち経済 的理由が 20.4%。文部科学省が発表しています。まだまだ不十分ですので、最重要課題として位置付けて多く の皆さんと連帯をして、運動を継続していくことにしています。 こうした相談が毎日のように来ています。私共は解決の糸口を寄り添いながら探すお手伝いをしています。 限界もあります。そういう時は専門的なノウハウを持った団体やそれぞれ得意分野を持つNPOだったり、行 政機関だったり、そういう団体と連携をして行っております。 そして2つ目は「無料職業紹介事業」を行っております。この事業は厚生労働省の許可が必要で、職を求め る人に職業を斡旋しています。厚生労働省所管のハローワーク、山形労働局の指導をいただきながら 2008 年 から実施をしております。 今触れました「生活あんしんネットやまがた事業」は 2009 年に山形県から受託しています。 そして、山形駅西の山形テルサ内にハローワークプラザがあります。そこに設置されている山形県求職者総 合支援センターを運営しています。 「総合的就業・生活支援事業」 として山形県から委託を受けているものです。 また、県の補助事業として「労働教育支援事業」を実施しております。労働関係制度をまとめてハンドブッ クを作成して無料で高校3年生に配布をしております。希望があれば出前講座も開催しています。 各地区労福協には、多重債務対策のネットワークを設置しております。弁護士会、司法書士会、市町村行政 と一緒になって、私共の金融機関「労働金庫」が要となって活動を展開しております。 8.当面の「労働運動の課題」について 私達が取り組んでいる課題は、多岐にわたっていますけれども、何と言っても先ほど触れました貧困・格差 の是正と解消です。これは連合の取り組みになってきますが、何としても最低賃金 1,000 円は必要です。今年 の改定は昨年から 15 円上がって 680 円になりました。680 円以下でアルバイトをしている方いませんね。以 下であれば違法です。例えば1時間 1,000 円として法律で1週間当たり 40 時間という労働時間が決まってい ます。1日8時間働くとして1年間で 52 週。40 時間の 52 週ですから年間 2080 時間働くことになります。こ れに例えば 1,000 円だとするとおおよそ 200 万。年間 200 万以下の皆さんを、ワーキングプアと申し上げまし 7 た。現在の地域別最低賃金では、到底 200 万円には到達しません。貧困層を作らない、ワーキングプアを出さ ないことに繋げるためには、最低 1,000 円を実現をしなければなりません。 そして、非正規労働者の組織化と均等待遇です。労働組合の話の中でもあったと思います。組織率の低下。 山形県内の組織率は 19.1%、全国で 17.9%。5人に1人すら組織化されていません。社会的影響力が低下して いると言わざるを得ないですね。中小企業で働く労働者、非正規労働者をどうやって組織化していくのか、と いうことが非常に大きな課題です。 9. 「労福協」の目指すもの 労働運動も労働組合だけの運動からより広い社会的運動へと広がっていかなければいけないと思っています。 そうした意味でいろいろ申し上げてきましたけれども、この吹き荒れている新自由主義の嵐のおさまった先に ある社会。どうでしょうかね。たぶん希望に満ちていると言えるのでしょうか。おそらく誰も何も用意してく れていないはずです。おそらく私達が不条理を正す行動、運動によってしか「より良い社会」は実現できない ものなのではないでしょうか。全国の労福協が一つになって現実社会の不条理に立ち向かって取り組んだサラ 金問題の「貸金業法の改正」があります。金利抑制や総量規制を実現させました。 「割賦販売法の改正」 。販売 業者とクレジット会社がタッグを組んで商売をする怪しげな割賦販売法があるんですが、それは共同責任とい うことで正しました。生協連と全労済と労福協が実現させた「被災者再建支援制度」 。これは阪神淡路大震災を きっかけに誕生させました。被災者の支援のために国が現金を支給するということはなかったのですが、現金 支給制度をつくりました。 このバックボーンは“福祉は一つ”という旗印でした。労福協の原点“福祉は一つ”という考えを大事にし て考え方の違いを乗り越えて社会の不条理に挑んでいくこと。労働組合と協同組合がつくった労福協ですけれ ども、労働組合のメンバーだけの運動にはならずに、よりウィングを広げて共に助け合うこと。 「共助」が本当 に必要な人の所に届き、包み込む運動がさらに広がるように、社会から共感されるような活動が求められてい ると思っています。 東日本大震災からの復興支援でよく使われた言葉に「お互いさま」 「絆」 「連帯」があります。労福協が目指 す社会をスローガンで言いますと「連帯・協同でつくる安心・共生の福祉社会」です。きれいな言葉ですが、 実は厄介で煩しいものなんです。支え合う人々というのは仲がいい時ばかりではありません。対立をしたり喧 嘩をしたりする時もあります。夫婦や恋人の間を考えてみても分かると思います。一人は自由、気楽でいい、 でも寂しい。二人でいると楽しい。皆さんがやっているサークル活動でもそうだと思います。先輩から譲って もらった本とか、資料とか、情報とか、道具とかを、融通し合いながらやっていると思います。でも、そこに お金が媒介することになると、助け合いとか、困った時はお互いさまの原理は働かなくなります。 連帯というのは二人以上の人が共同して責任を引き受けること。 「絆」というのは家族や友人など、人と人と を離れ難くしている結び付きのことを言います。しかし「絆」という言葉は“ほだし”とも読みます。馬の足 を繋ぎとめる縄のことです。手枷足枷の語源です。それが絆です。つまり人の心や行動を縛るものという意味 になります。助け合いとか困った時はお互いさまと、自由を縛るということは表裏一体の関係にあると言えま す。人は一人では生きられません。結局のところ人間が生きていくということは他人との関係で多少煩わしさ も受入れる。お互いの違いを認め合い、責任を引き受け、折り合いを付けていくことに他ならないと思います。 これが連帯・共同・絆・友愛の意味ではないでしょうか。そして、今「実現したい事柄」を、違いを乗り越え て連携して取り組んでいく。労福協の目指す社会=「連帯・協同でつくる安心・共生の福祉社会」ということ です。是非ともいつか皆さんと一緒に運動が出来る日が来ることを、心待ちにいたしたいと思います。何かつ まらない、まとまらない話になってしまったことをお侘びしながら私の話を終わりたいと思います。 おまけということで、非常に小さくて見づらいのですが、私共、労福協のスタッフが作成した「人生すごろ く図」を付けさせていただいております。人生を過ごす上で、私達はいろんなリスクと付き合っていかなけれ ばなりません。その時に孤立する必要はありません。それは誰にでも起こりうることだからです。絶対に一人 では悩まないで下さい。人は一人では生きていくことは出来ません。 「孤独地獄」という話もいたしました。是 非社会と繋がって、これからの人生、心豊かに過ごしていっていただきたいと思います。 以上で私の話終わりたいと思います。どうもご静聴ありがとうございました。 8
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