小児の肺炎に対する clavulanate acid/amoxicillin

VOL. 57 NO. 2
小児の肺炎に対する CVA!
AMPC の臨床効果
101
【原著・臨床】
小児の肺炎に対する clavulanate acid!
amoxicillin(1:14 製剤)の臨床効果
坂
田
宏
旭川厚生病院小児科*
(平成 20 年 10 月 31 日受付・平成 21 年 1 月 29 日受理)
2008 年 1 月から 10 月までに旭川厚生病院小児科外来を受診し,胸部 X 線にて浸潤性陰影を認め担当
医が肺炎と診断した児のなかで,血液検査で CRP 2.0 mg!
dL 以上を示した 58 名の生後 6 カ月から 3 歳
までの小児において,clavulanate acid!
amoxicillin(1:14 製剤)を投与して,臨床効果を評価した。投
与量は原則的に AMPC として 90 mg!
kg!
回を 1 日 2 回に分けて食前投与した。治療開始日に 3∼5 日間
処方し,内服終了時に再診して臨床効果を評価した。保護者の希望で投与 3 日以内に入院した例が 7 名
おり,これらは臨床効果評価不能例とし,副作用について評価を行った。臨床効果では 51 名中 50 名
(98.0%)が 3 日以内に主要症状は改善され,有効と判定された。無効であった 1 名は ampicillin に対す
る MIC が 12 µ g!
mL になる Haemophilus influenzae が検出されていた。副作用として,下痢・軟便が 26
名(44.8%)
,発疹が 1 名(1.7%)に認められた。
Key words: pneumonia,
clavulanate acid!
amoxicillin,
Haemophilus influenzae,
Streptococcus pneumoniae,
child
I. 対 象 と 方 法
Clavulanate acid!
amoxicillin(CVA!
AMPC)は当初,配合
比 1:2 製剤が開発されて,小児の肺炎,尿路感染症などさま
1)
2008 年 1 月から 10 月までに旭川厚生病院小児科外来
ざまな感染症に対して高い有効性を示していた 。しかし,近
を受診し,基礎疾患がなく,胸部 X 線にて浸潤性陰影を
年ペニシリン耐性菌による中耳炎が増加し,有用性を維持す
認め担当医が肺炎と診断した児のなかで,血液検査で
るためにより高用量の AMPC が必要になったことと CVA!
CRP 2.0 mg!
dL 以上を示し,細菌性肺炎と考えられた 58
AMPC による下痢の原因の一つである CVA の含有量を減ら
名の生後 6 カ月から 3 歳までの小児において,全身状態
す目的で 1:14 製剤が開発され,本邦では 2006 年から使用さ
が良好で保護者が外来での治療を希望された場合に,本
れている。
試験の主旨を説明し口頭で同意を得たうえで,CVA!
本邦における 1:2 製剤の適応症には中耳炎,扁桃炎や気管
支炎が認められているが,肺炎は含まれておらず,実際に小児
2)
AMPC を投与して,臨床効果と安全性を評価した。なお,
インフルエンザウイルス抗原,アデノウイルス抗原,お
の肺炎に対する有用性を検討した成績 も少ない。また,1:14
よびマイコプラズマ IgM 抗体迅速検査陽性者は除外し
製剤では中耳炎に対しては臨床試験やその後の投与成績で優
た。さらに,内服が困難であった 2 名は対象から除外し
3,
4)
が,気道感染症は 1:2 製剤の後
た。azithromycin を 1 週間以内に内服した患者は除外し
継薬として,臨床試験が行われずに承認されたことから,1:
たが,他の抗菌薬を 2 日以上内服していても症状が改善
2 製剤と同様に適応症に肺炎は含まれていない。
しなかった患者は対象に含めた。
れた臨床効果が確認された
日本小児呼吸器疾患学会および日本小児感染症学会による
5)
対象患者は上咽頭スワブの培養とともに検体の塗抹標
(診療ガイドラ
『小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2007』
本を作成し,多核白血球の浸潤が多数認められた検体,
イン)
に,原因菌不明の肺炎の初期抗菌薬の一つに,AMPC±
および貪食像が確認された検体から検出された菌を推定
CVA という形で記載されて い る が,前 述 の よ う に CVA!
原因菌とした。
AMPC には肺炎の適応症がないうえに,本邦での投与成績は
投与量は原則的に AMPC として 90 mg!
kg!
回を 1 日
きわめて少ないのが実情である。しかし,著者は本薬剤の抗菌
2 回に分けて食前投与した。治療開始日に再診日が病院
力などから,中耳炎だけでなく肺炎にも有効な薬剤と考え,小
休日と重ならないように 3∼5 日間処方し,内服終了当日
児の肺炎を対象としてその臨床効果と安全性を評価したので
か 1 日後に再診して臨床効果を評価した。発熱・咳嗽な
報告する。
ど主要な症状が消失もしくは著しく軽減していた場合
に,投与を中止した。保護者の希望で投与 3 日以内に,
*
北海道旭川市 1 条通 24
102
日 本 化 学 療 法 学 会 雑 誌
M A R. 2 0 0 9
入院した例が 7 名認められた。これらの例は内服日数が
好中球数が重症度分類にかかわるが,重症に分類される
3 日に達しないため,臨床効果評価不能とし,副作用につ
好中球 10,000!µ L をこえる例が 9 名(15.5%)
,中等症に
いて評価を行った。
相当する乳児で 8,000!µ L 以上および幼児で 5,500!µ L
診療ガイドライン5)で定められた患者の重症度は,全身
以上の例が 18 名(31.0%)であった。CRP または好中球
状態不良,チアノーゼ,基準以上の呼吸数,努力呼吸,
数 の ど ち ら か が 中 等 度 以 上 に 分 類 さ れ る の は 38 名
胸部 X 線で一側肺の 2!
3 以上の陰影,多量の胸水,経皮
(65.5%)であった。臨床症状からはすべて軽症と判断さ
酸 素 飽 和 度<90%,CRP>15 mg!
dL,好 中 球 数<500
れた。検出菌では,H. influenzae が 16 名(27.6%)
,S. pneu-
または>10,000 のいずれか 1 つを満たす例を重症として
moniae が 17 名(29.3%)
,両菌が 12 名(20.7%)から検
いる。そして,全身状態良好,チアノーゼなし,正常呼
出された。13 名(22.4%)
は常在菌しか検出されなかった。
吸数,努力呼吸あり,胸部 X 線で一側肺の 1!
3 以下の陰
外来で治療を完遂できた 50 名の投与期間は 3 日間が
影,胸水なし,経皮酸素飽和度>96%,CRP<3 mg!
dL,
12 名,4 日が 21 名,5 日が 17 名であった。入院となった
好中球数 4,000∼8,000!µ L(乳児)
,2,500∼5,500!µ L(幼
8 名のうち 1 名は本薬剤を投与しても症状の改善を認め
児)
,3,000∼5,000!µ L(学童)のすべてを満たす例を軽症
ず,4 日目に入院して cephem 系抗菌薬を静注投与して
とし,重症にも軽症にも属さない例を中等症としている。
治癒した。7 名は 1∼2 日間本薬剤を内服した後に,保護
臨床効果は日本化学療法学会の小児科領域抗菌薬臨床
者の希望で入院になったが,症状は改善傾向にあり,入
6)
試験における判定基準 に準じて以下のように判定した。
院時の CRP 値も低下していた。3∼5 日間の本薬剤投与
有効:主要症状が 3 日以内に明らかな改善傾向を示し,
した 51 名中 50 名(98.0%)は,臨床効果は有効と評価さ
5 日以内にほとんど消失した場合。やや有効:主要症状
れた。投与中止後 1 週間で,再度肺炎症状を呈した児は
は改善したが,改善に 5 日をこえた場合。無効:投与開
いなかったが,3 名が中耳炎を発症し耳鼻咽喉科にて治
始後 3 日経過しても主要症状が改善しない場合。
療をうけた。副作用として,下痢・軟便が 26 名(44.8%)
,
検出された菌について,Streptococcus pneumoniae は日
発疹が 1 名(1.7%)に認められた。しかし,薬剤を中止
本化学療法学会標準法に準じた微量液体希釈法7),Hae-
した例は認めなかった。下痢・軟便の頻度は年齢によっ
mophilus influenzae は E-test で MIC(Minimal inhibitory
て差は認められなかった。
concentration)
を測定した。β -lactamase 産生能は nitro-
検 出 さ れ た 菌 の 感 受 性 は,S. pneumoniae 30 株 で は
cefin を基 質 と し た chromogenic disc method(セ フ ィ
PRSP が 3 株,PISP が 8 株,PSSP が 19 株 で あ っ た。
ナーゼ,Bekton Dickinson Microbiology Systems)を用
H. influenzae 28 株 で は BLNAS 9 株,BLNAI が 4 株,
いて測定した。S. pneumoniae の分類 は penicillin G に対
BLNAR が 15 株であり,β -lactamase 産 生 株 は 認 め な
す る MIC が 0.1 µ g!
mL 未 満 を penicillin susceptible S.
かった。無効だった例から分離された菌は ABPC に対す
pneumoniae(PSSP)
,0.1 µ g!
mL 以上 2.0 µ g!
mL 未満を
る MIC が 12 µ g!
mL の H. influenzae であった。
8)
penicillin intermediate resistant S. pneumoniae(PISP)
,
III. 考
察
2.0 µ g !mL 以 上 を penicillin resistant S. pneumoniae
2004 年に米国小児科学会で作成された急性中耳炎の
(PRSP)とした。H. influenzae は MIC が 2.0 µ g!
mL 未満
ガイドライン9)では,本薬剤は主要な治療薬に位置づけら
を感受性, 2.0 µ g!
mL 以上 4.0 µ g!
mL 未満を中間耐性,
れている。本邦では,2006 年に急性中耳炎の臨床試験の
4.0 µ g!
mL 以上を耐性とし,β -lactamase 陰性で感受性
成績をふまえて,使用が承認され,日本耳科学会,日本
株 を BLNAS ( β -lactamase negative ABPC suscepti-
小児耳鼻咽喉科学会,日本耳鼻咽喉科感染症研究会から
ble)
,中 間 耐 性 株 を BLNAI(β -lactamase negative
10)
出された『小児急性中耳炎診療ガイドライン』
でも使用
ABPC intermediate resistant)
,耐 性 株 を BLNAR(β -
を推奨されている。診療ガイドライン5)には,生後 2 カ月
lactamase negative ABPC resistant)
,β -lactamase 陽性
から 5 歳までの肺炎を外来で治療する時の選択すべき薬
で耐性株を BLPAR(β -lactamase positive ABPC resis-
剤として AMPC±CVA と表現されて,広域 cephem 系
8)
抗菌薬ととも に あ げ ら れ て い る。し か し,本 邦 で は
tant)と分類した 。
II. 結
果
患者の年齢,治療開始前の白血球数と CRP 値,
分離菌,
AMPC は肺炎の適応症を有しているが,CVA!
AMPC
は適応症には含まれていない。1:2 製剤での臨床試験の
投与期間を Table 1 に臨床効果を認めた 50 例,Table 2
成 績 で,気 管 支 炎 に 対 す る 臨 床 効 果 は 43 名 中 37 名
に投与後に入院した 8 例にわけて示した。58 名の年齢分
(86.0%)が有効であったとしている11)。黒崎らは 24 名の
布は 1 歳が 33 名(56.9%)
と半数以上を占めていた。CRP
細菌性下気道炎の小児に 1:2 製剤を投与し,全例治癒し
値は 2∼3 mg!
dL が 30 名(51.7%)と最も多かった。診
て副作用は認めなかったと報告2)している。1:14 製剤で
5)
療ガイドライン で中等症の基準の一つである 3 mg!
dL
は中耳炎以外の疾患で具体的な有効性に関する報告がな
以上の児は 28 名(48.3%)であり,重症の基準である 15
いのが現状である。したがって,この診療ガイドライン5)
mg!
dL をこえる例はなかった。診療ガイドライン5)では
で肺炎の治療薬として推奨された抗菌薬が適正かどうか
VOL. 57 NO. 2
小児の肺炎に対する CVA!
AMPC の臨床効果
103
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104
日 本 化 学 療 法 学 会 雑 誌
M A R. 2 0 0 9
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を検証する必要があると考え,著者は今回の検討を行っ
検出菌なので,必ずしも原因菌と一致していない可能性
た。その結果,対象とした 51 名中 50 名は本薬剤を 3∼5
はあるが,ABPC に対する MIC が 12 µ g!
mL の株が検
日間内服することで,肺炎の主要な症状に改善を認め,
出された児では,4 日間投与したが症状の改善を認めず,
本薬剤は小児の肺炎にも有効であることを示す成績が得
入院治療を行った。その 1 例を除き,MIC が 8∼12 µ g!
られた。
mL である H. influenzae が 分 離 さ れ た 7 名 で は 有 効 で
診療ガイドライン5)の記載にある,AMPC 単独にする
あった。これは少数例のための誤差によるものか,前述
か CVA を加えた薬剤にするかについてであるが,今回
の理論は肺炎と中耳炎では多少異なるのかは,さらに多
は原因菌として β -lactamase 産生菌が推定された例はな
くの投与例の解析が必要と思われた。
く,AMPC 単独でも同程度の効果であったと予想され
CVA!
AMPC 1:14 製剤の副作用として,下痢・軟便
る。しかし,β -lactamase 産生の H. influenzae が 4∼8%
の頻度が高かった。中耳炎の臨床試験の際には 107 例中
の 頻 度 で 検 出 さ れ る こ と12)と,常 在 菌 が 産 生 す る β -
36 例(33.6%)に下痢・軟便が認められた3)。今回の検討
lactamase が penicillin 系抗菌薬を分解すると考えられ
では重篤な症状ではなかったが,下痢・軟便が 58 例中
ていることから β -lactamase 阻害剤を有する本薬剤を用
26 例(44.8%)と,中耳炎の臨床試験における成績より高
いることは,AMPC 単独より有効な例が多いと考えられ
かった。これは今回対象とした年齢が 3 歳以下であり,
る。
臨床試験より低年齢の児が多かったためと思われる。し
近年,抗菌薬の有効性を pharmacokinetics!
pharmacodynamics(PK!
PD)から考慮することが重要とされて
いる。AMPC 単剤を空腹時に 25 mg!
kg で 13 名の小児
かし,本薬剤の投与を中止するほどの重症例は認めず,
20 例は止痢剤を使用せずに回復した。
CVA!
AMPC 1:14 製剤は乳幼児の肺炎に対する有効
に投与した時の最高血中濃度は投与後 1 時間で 8.9 µ g!
性は高く,広域 cephem 薬である cefditoren-pivoxil や
mL とされている13)。CVA!
AMPC の 1:14 製剤の成績
cefcapene-pivoxil などのこれまでに報告16,17)された抗菌
で,AMPC として 45 mg!
kg を 18 名の小児に空腹時に
薬の成績と大きな差は認められなかった。したがって,
投与すると最高血中濃度は平均で 16.5±7.1 µ g!
mL と
小児の肺炎で原因菌が不明な際に投与される抗菌薬とし
25 mg!
kg 投与時のほぼ倍の値を示した 。β -lactam 薬
て妥当な薬剤と考えられた。しかし,下痢・軟便の頻度
は原因菌の MIC をこえる血中濃度の時間と有効性が比
が高いため,原因菌の MIC が 2 µ g!
mL 以下の菌であれ
例するとされている。Craig らは中耳炎の小児において,
ば,多少減量して投与することも考慮すべきと思われた。
14)
MIC を こ え る 血 中 濃 度 を 維 持 す る 時 間(time above
MIC,T>MIC)
が投与間隔の 40∼50% の場合,80∼85%
の細菌学的効果が得られることを報告15)している。CVA!
AMPC 1:14 製剤の投与 間 隔 は 12 時 間 に な る の で,
MIC が 4 µ g!
mL の場合,その 46% に相当する約 5.5 時
間にわたって MIC を上回る血中濃度が維持されるので,
理論的にも有効15)と考えられる。MIC が 8 µ g!
mL 以上
になると,T>MIC が 40% に達しないため,有効率は低
下することになる。今回の症例のなかには上咽頭からの
文
献
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Clinical studies of clavulanate acid!
amoxicillin (1 : 14 ratio) in children with pneumonia
Hiroshi Sakata
Department of Pediatrics, Asahikawa Kosei Hospital, 1―24 Asahikawa, Hokkaido, Japan
Between January 2008 and October 2008, 58 children with pneumonia with CRP exceeding 2 mg!dL were
treated with clavulanate acid!amoxicillin(CVA!AMPC) as outpatients and evaluated for clinical efficacy.
Patients were 6 months to 3 years old. CVA!AMPC was administered orally at a daily dose of 90 mg!kg as
AMPC 2 times a day before meals for 3 to 5 days. The clinical efficacy of 7 patients could not be evaluated
because they were hospitalized within 3 days after CVA!AMPC treatment. Clinical efficacy rate 98.0% (50!
51). The patient evaluated as poor was infected with Haemophilus influenzae (MIC to ampicillin: 12 µ g!mL).
Adverse effects were diarrhea or loose stool observed in 26 patients (44.8%) and rash in 1 (1.7%).