電中研・環境科学研ニュース No.24 2008.10 ヨーロッパ安全・信頼性協会(ESREL) & リスクアナリシスヨーロッパ学会(SRA-E) 合同国際会議の報告 概 要 平成 20 年 9 月 22~25 日、 バレンシア(スペイン)の Politécnica 大学(写真左)にて 開 催 さ れ た 「 ESREL 2008 (European Safety and Reliability Association) & 17th SRA-E (Society for Risk Analysis-Europe Conference) 年会の合同会議」に参加した。 通常、双方の学会は別々に年会 を開催しているが、今回は 2000 年以来 2 度目の合同開催であった。このため、テーマは、リスク研究 (リスクマネジメントやリスク・ハザード分析、リスク認知・コミュニケーション、リスクガバナンス におけるステークホルダーとパブリックインボルブメント等)だけでなく、ヒューマンファクターやア クシデント・クライシス等、安全・信頼関連セッションもあり多岐に渡っていた。欧州以外からも多数 の出席者が集まっていたが、日本からの出席者は少なく、我々以外 3,4 名程だったと思う。口頭発表は 約 400 件、ポスター発表は 25 件程、口頭発表やシンポジウムは、大ホールや教室(写真右)など 9 会 場で 4 日間同時並行にて行われ、活発な情報交換が行われた。当日配布された4冊分の Proceedings には 417 件掲載された(プログラム等詳細は http://www.esrel2008.com/index.aspx を参照)。 論文発表 報告者と共著者(当所社会経済研究所・小杉素子)は、「Public Information Requirements on Health Risk of Mercury in Fish (1): Perception and Knowledge of the Public about Food Safety and the Risk of Mercury」、 「同 (2): A Comparison of Mental Models of Experts and Public in Japan」の 2 件ポスター発表を行った。内容は、 (1) 食の安全と魚介類中水銀に関するリスク認知や知識に関する市民意識調査(写真左、共著者)、(2) 魚 介類中水銀の健康リスクに関する専門家と非専門家の知識構造の作成(写真右、報告者)に関する結果 である。ポスターセッションは、口頭発表時間とは別枠にて約 30 分間行われた。場所が建物の玄関ホ ールの片隅だったため、参加者は、発表時間以 外も休憩時間や建物の出入りの際にも立ち止 まってみてくれていた。 メンタルモデル・アプローチは、米国カーネ ギーメロン大 Morgan らが開発した手法であり、 欧米ではリスクコミュニケーション研究手法 として広く認められている。今回の発表では、 職業曝露に本手法を適用して口頭発表した研 究者等から高い関心が寄せられた。また、質疑 では専門家の知識構造の作り方や分析手法、対 象者の選定方法などを聞かれ、関連研究者と活 発な質疑応答やコメントを頂くことができた。 関連研究の発表概要 ◆メンタルモデル研究:「Exploring knowledge translation in occupational health using the mental models approach: A case study of machine shops」カナダのA,-M. Nicolらは、metal working fluids(金属作動流体) の職業曝露による健康リスクについてメンタルモデル・アプローチを適用し、専門家と職業従事者を対 象に、インタビュー調査により健康影響、情報源、情報源への信頼等の知識ギャップを比較していた。 ◆食の安全に関する研究:食の安全研究:我々以外は、魚介類中のメチル水銀に焦点を当てた研究発表 はなかった。食の安全全般に関しては、養殖魚のリスク・ベネフィットに関するメディアからの情報提 供記事の分析研究、ハワイ産パパイヤ(GMO食品)を対象としたハワイと日本の一般市民のリスク認 知調査、ナノテクノロジー食品に関するリスク認知や社会的受容性研究など、リスクコミュニケーショ ンに係る研究、および食品中微生物の毒性を対象とした健康リスク評価研究に関する発表が多かった。 ◆リスクマネジメント研究:不確実性の高い近年のリスク(携帯電話による電磁界とカドミウム汚染土 壌)を事例とし、公衆の意思決定プロセスに関するフレームワークの比較分析など、フレームワークに 関する分析手法や発展研究が印象的であった。 開催地、その他情報 今回の開催地バレンシアは、パ エリア(写真左)発祥の地として 知られ、郊外は稲作地帯が広がる。 また、海に面しているため新鮮な 魚介類も採れ、オレンジの生産も 盛んである。 学会中の昼食は、毎回、特大鍋 でのパエリア2種が振舞われ、本 場の味を楽しむことが出来た。コ ーヒーブレイクには、絞りたてオレンジジュースや名物のオルチャータ(植物の汁から作った超甘い飲 物)も出され、参加者は地元の味を楽しみながら休憩中も熱心に情報交換していた(写真右)。 また、バレンシアには教会など歴史的な建築物や 世界遺産がある中心街(写真左)や、芸術科学都市 として現代建築物が集まる地域もある。後者にある 科学博物館では、世界各国の歴史的科学者の研究成 果や、人類の起源、DNA 模型やスパイダーマン(写 真右)、脳の立体パズル等、様々な展示や科学体験 が出来るようになっている。地球温暖化(写真下) 等、環境問題に関してもビジュアル的に展示されて いた。地元や観光客に対し、環境問題や科学的・専 門的な知見を分かりやすく情報提供し、身近な問題 として考えてもらえるような工夫が多々なされて いた。環境教育的な要素も高く、科学技術のプレゼ ンテーションに関して大変参考になる博物館であった。 所 感 本学会は初めての参加であり、昨年参加した米国リスクアナリ シス学会(環境科学研ニュース No.18)とはセッション構成や雰 囲気、参加メンバーも大きく異なっていた。ポスター発表は件数 が少ない上に当日キャンセルもいくつかあり、発表時間にポスタ ーの前に誰もいない発表も多々見受けられたのは残念であった。 逆に、我々のように気合を入れて(?)早朝からポスターを貼っ て配布物を置き、初めから最後まで対応した人は極めて少なかったため、通りかかった研究者はほぼ立 ち止まって質問してくれた。その点は、当所の研究成果についてアピールでき、質疑時間を有効活用で きたのではないかと思う。口頭発表で使われた教室は、定員 20 名程の小さい部屋が多く、リスクコミ ュニケーションのセッションでは席が足りず毎回立ち見がでる程であった。ホールよりも教室の方が発 表者と聴衆との距離が近く、毎回、自由闊達な質疑応答が繰り広げられ、各質疑のやりとりも大変勉強 になった。 学会中は、あいにく天気が悪い日が多く肌寒い日が多かった。レストラン等のお店では、英語が全く 通じない場合が多く、メニューを見てもさっぱり分からないため、イラスト豊富なスペイン語と日本語 の対応がついた「旅の指差し会話帳」が大変役立った。 問い合わせ先:化学環境領域 窪田ひろみ http://criepi.denken.or.jp/jp/env/inquiry.html
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