資料 - ナカノ在宅医療クリニック

在宅療養者における
排便ケアへの取り組み
∼1事例を通してお通じ日誌を活用した
排便ケアのあり方を振り返る∼
医療法人ナカノ会
ナカノ訪問看護ステーション
○ 長嶺 美由紀
國吉 優子
ナカノ在宅医療クリニック
中野 一司
福元 ゆかり
泊 奈津美
はじめに
 排便は日常生活行為の一部であり、個々の生
活環境や介護状況、疾患など様々な要因によ
り影響されやすい
 訪問看護のケア内容で、排便ケアの占める割
合は多い。(当ステーションでの内服を含めた
排便ケア率は92%となっている)
 排便コントロールが困難であった1事例より、
排便ケアのあり方を検討した
研究方法
 排便コントロールが困難な1事例
(HTLV-1関連脊髄症:HAM)に対し、
お通じ日誌を活用
お通じ日誌使用期間(H20、7月∼11月)
 お通じ日誌の結果と看護記録の内容を照らし
合わせながら分析した
【HAMとは】
成人T細胞白血病の原因ウィルスであるヒトリンパ球向性ウィルス
1型の感染により脊髄に慢性炎症がおこり、両下肢麻痺、排尿、
排便障害をきたす進行性疾患 (難病情報センターより)
事例紹介
Aさん 60歳代 女性 要介護4
 主な疾患名
・HAM(HTLV−1関連脊髄症)H15年診断
・右下肢切断(低温火傷 ASO)H19年5月
・仙骨部褥創V−Y皮弁術H19年8月
・不安神経症
 ADL
・排尿:尿留置カテーテル
・排便:ポータブルトイレ→ベッド上排泄
・食事:普通食 自立
・移動:車椅子(移乗介助必要)
排便処置回数
7月
4
8月
4
9月
13
12
7
10月
13
11
2
11月
9
12
4
9
0
15
13
5
10
3
15
20
25
回数
緊急訪問看護
定期訪問看護
自分で処理
30
35
生活リズム
時
0
1
2
3
4
5
6
7
8
7月
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
緊急
食事 訪看
8月
緊急
緊急
緊急
9月
緊急
10月
緊急
11月
緊急
緊急
緊急
睡眠ベッド臥床
緊急 緊急
緊急 緊急
深夜仕事より帰宅の夫とともに夕食摂取。就寝時間は1時過ぎ
となり、朝が遅い。14時の訪問時に覚醒するときもあった。
食事
訪問前にできるだけ何か摂取しようと心がけるようになった。
1日2食が多い。
緊急訪問看護
緊急訪問は昼頃と14時の訪問リハビリとの振り替え変更
18時前後が多い。午前中に処置希望の時は外出時のみだっ
た。早朝は尿留置カテーテルのトラブルにての訪問。
定期訪問看護
サービス利用時間は14時∼16時半の間に設定されている。
お通じ日誌
食事の摂取時間が不規則であり、
口にしたものを記載してもらうため
に、朝食、昼食、夕食とせず、自由
記入にした
病院用のお通じ日誌を元に、
Aさん用に作成
種類は多いが、排便と食事
量の関連を知るため
お通じ日誌
月 日 ( )
日付(曜日)
︵
時間
いつもベッド
サイドにペット
ボトルを置い
ていたので、
別枠で記載す
るようにした
内容
月 日 ( )
量
内容
時間
月 日 ( )
量
内容
時間
量
①
食
事
・
お前
や日
つの
・食 ②
水べ
分た
量物
・
飲
③
酒
︶
本人が答え
やすいよう
に、短い期
間として前
日∼訪問前
までの流れ
に沿っての
情報収集と
した
水分量(ペッ
トボトル等)
在宅では外
出や来客な
どの行事も
排便への影
響があると思
われたので
とりあげた
就寝時間
起床時間
時間
当
午
日
前
食
中
事
行事予定
お通じについて日時
便意
内容
使用した薬
性状
始( )
自分で実施
浣腸
レシカル
性状
便失禁 残便感 日時
有・無
浣腸
レシカル
有・無
有・無
有・無
浣腸
レシカル
有・無
有・無
浣腸
レシカル
有・無
有・無
浣腸
レシカル
有・無
便意と排便有無との関連を
知るため
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
便意
使用した薬
性状
便失禁 残便感
始( )
有・無
有・無
浣腸
レシカル
使用した薬
始( )
浣腸
レシカル
訪問時に実施
便意
内容
時間
浣腸
終( )
レシカル
有・無
浣腸
レシカル
訪問時のみの記載
であったため、自分
で処置と看護師での
処置の区別をした
便失禁 残便感 日時
浣腸
レシカル 終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
内容
時間
有・無
浣腸
終( )
レシカル
有・無
有・無
有・無
浣腸
レシカル
有・無
有・無
有・無
浣腸
レシカル
有・無
有・無
有・無
有・無
有・無
有・無
有・無
浣腸
レシカル
有・無
有・無
有・無
自然排便はほとんど
なく、薬を使用してい
たため
浣腸
レシカル
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
始( )
終( )
ガス
便の性状の変化にて今後を予測する
ため(ブリストル便性状スケール使
用)、排ガスのみであることも多かっ
たため排ガスの項目も追加した
生活と排便の関連図
お通じ日誌の結果と訪問看護記録より
食 事
生活リズム
排泄
介護力
活動
ベッドサイドに食べ物があ
れば食べられる?
食事
台所まで移動
できなくなった
小型冷蔵庫購入
夫が食べ物を置
いていってくれる
牛乳、ヨーグルト、野菜ジュー
スは起床時に摂取
ほかの食事はおつまみ程度
夫に食べろと介助
されるのもイヤ
便が出ないと食べるのが怖い
オリゴ糖の紹介
排便と食事の関係
について説明
食べたら便が出てきた 食べるのが怖い
生活
リズム
夫は忙しいのに自分は夫のために
何もできない
せめて起きて帰りを待っていたい
深夜就寝し
夕飯は夫と一緒に食べたい
昼頃に起床
夫は仕事で早朝∼深夜まで不在
(飲食業)
夫と一緒に過ごす時間は
1時間/24時間(0∼1時)
趣味は手芸
(友人と一緒に)
買い物・外食
便が出ないと何も
手につかない
幻肢痛
鎮痛剤服用
転倒による痛み
活動範囲の制限縮小
便へ意識が向き
更に落ち込む
更に活動性低下
Ⅰ~Ⅱ度
褥創形成
繰り返す
介護力
日中は一人
夫は早朝から深夜まで不在
サービス利用状況
ヘルパー利用 2回/週(60分)
訪問看護
3回/週(60分)
失禁のときは恥かしくて
助けを呼べない
・夫に迷惑をかけたくない
・飲食業をしている夫に
便処理をさせたくない
思うように動けない
汚すのはイヤ
便意がはっきりしない
いつ出るかわからない
活動
腹部のつぼ・マッサージ
浣腸・摘便
内服:マグラックス、プルゼニド
下痢になり拒否
ポータブルトイレへの
移動が間に合わない
ポータブルトイレへの
自力移乗で転倒あり
ポータブルトイレへ移る
のが怖い
力が入らない
移乗評価・リハビリ
生活と排便の関連図
お通じ日誌の結果と訪問看護記録より
食 事
生活リズム
夫との夕食が
一番大事
食べるのが怖い
排泄
介護力
日中一人
いつ出るか
わからない不安
活動
ポータブルトイレ
へ移れない
Aさんと看護師の排便に対する認識
Aさん
【感情】
・不安 ・恐れ ・恥
【認知】
・だれかが居る時に便を
出してほしい
・便失禁はするのも
見られるのも嫌
・便意がはっきりしない
便が出そうな気がする
便失禁してしまうのでは
・食べると便が出てしまい
そうでこわい時がある
看護師
行動
便を出して欲しい
緊急コールをする
排便処置をする
アプローチをする
行動
【認知】
・排便につながるだけの
食事を摂っていない
・アプローチが結果に
結びつかない
・直腸に便は触れない
毎回浣腸しても効果は
乏しい
・今便を出さないと当番の
看護師が呼ばれてしまう
【感情】
・責任感 ・葛藤
結果
 食事は、「便が出そうで食べるのがこわい」と訴えあり
食事摂取量が少ない状況が続いた。
 夜遅く帰宅する夫との時間を大切に過ごすため就寝時
間が遅くなり起床時間が昼だった。
 活動は片足切断、下半身運動障害、褥創形成により
ポータブルトイレへの移乗が1人では困難であった。
 夫には便の介助はしてほしくないという気持ちが強く、
排便処置を含めて看護師の対応になった。
 本人と看護師との間で、排便に対する認識のずれが
あった。
考察
 一人で過ごす時間が長く、動くことが困難である
ため、自分で後始末ができない状況での排便は
精神的負担が大きい。
 便処理への羞恥心や嫌悪感が食べることへの恐
怖へつながり、全身状態の低下へ影響した。
 排便と精神面の関係は強く影響されやすい。
排便に対して誰が何に困っているかを知った上で
生活状況を把握し排便との関連をアセスメントすることが
重要である
おわりに
排便が気持ちよくできるということは本当に大
切なこと。
腸は「第2の脳」と呼ばれるくらい脳【気持ち】と
直結している。
排便をきちんと見直すことが精神を安定させる
こと、全身の健康状態を保つことにつながると
思われる。