中国・台湾における 乳・乳製品市場と 日本産製品への受容性 事務局次長 内橋 政敏 1.はじめに 交渉が凍結されていたWTO農業交渉は事態の打開を模索する動きが活発化している。加えて、日豪 EPA交渉は酪農のみならず、地域経済にも大きな影響が避けられないが、4月中に初会合の開催が決定 した。 このように国際交渉の行方に警戒感が強まるなか、日本の牛乳乳製品を売り込もうと、上海久光百 貨店で、JETRO((独) 日本貿易振興機構)の協力を 得て3月にフェアが開催された。中国富裕層向け輸 出の可能性を探る市場調査を目的としたものであ る。 (社)日本酪農乳業協会では、平成18年度に輸出 促進検討委員会を設置し、輸出に係る情報収集等を 行っている。フェアに先駆けて現地調査が実施さ れ、本会議から、小職が委員として参加する機会を 得たので、店頭での市場調査の結果と併せて一端を 紹介したい。 久光百貨店牛乳類チルド売り場 2.現地調査の目的・概要 現地調査の目的は、上海・北京、台北における 富裕層に対し、グループインタビューにより定性 的に深堀りすることである。上海・北京の回答者 は世帯月収7000元以上(1元≒15円、上海で上位 20%層、北京で上位10%層)、台北では世帯月収 10万NT$以上(1NT$≒4円、台湾の上位20%層) のうち、毎日(台北では週3日以上)牛乳を飲み、 ヨーグルト・チーズも週に一回以上摂る、子供の いる既婚女性を、30歳前後と40歳前後の2グル− プに分けて実施した。 モデレーター(司会者)が、牛乳乳製品の消 上海・北京で好まれる枕型LL牛乳 ─ 24 ─ 費・購入実態や輸入品に対するイメージ、さらに日本産製品についての価格受容性について具体的な態 度を聞き出すのである。インタビュールームの様子をマジックミラー越しに見て、司会者に要望を伝達 し進めるもので、生活者の生の声を聞くことができた。 3.食生活及び購入実態と輸入品へのイメージ 中国は、来年に北京オリンピック、さらに2010年に上海万博を控え、経済成長が著しい。最近では 給与水準引き上げの見込みもあり、 ニューリッチ 層の購買力底上げが指摘されている。 3都市とも、①普段の食事は中華がメイン、②共働きがほとんどで便利さを求める、③病気に罹らな いよう食事に気を使い健康意識が高い、等は共通で、台北では、朝コーヒーを飲むことと外食の頻度が 高く、そのメニューも多様化している点が、上海・北京と異なる。 牛乳乳製品の飲み方・食べ方は、 ①牛 乳 は 栄 養 補 給 と し て 、 3 都 市 と も 「 朝 食 時」が多いが、上海・北京は「夜寝る前」も 同じくらい多い。上海と北京はL L牛乳が多 く、冷たいものは良くないとして普段から常 温で飲み、冬は温めている。台北はチルド牛 乳が多い。 ②ヨーグルトはおやつと飲み物代わりで、ドリ ンクタイプ中心で大部分が果肉入り。 ③チーズはスライス中心で朝食とおやつ。商品 の種類が少なく、味・食べ方の知識が乏し い。 等、飲食のパターンが決まっており、多様化 がまだ進んでいない。3都市の回答者の主な特 上海久光百貨店の輸入LL牛乳売り場 徴は次のとおり。 1)上海 昔から「魔都」と呼ばれるように、人のチャレン ジ精神や好奇心をそそる街とされるが、新しいもの を試したいという意識が強い印象を受けた。しかし 輸入食品の購入経験は少なく、チーズやチョコレー ト、韓国海苔を例としてあげる程度であった。輸入 牛乳乳製品に対し、高品質・高価格・高級感という イメージで捉え、産地別に、「豪州は酪農国で環境 も良い」「欧州はチーズで歴史がある」「日本は同 じアジアで味が合い、技術への信頼高い」という印 象は、世代に関係なかった。 上海ハイパーで通路に山積みされたLL牛乳 ─ 25 ─ 2)北京 上海に比べ輸入品に触れる機会が少ない模様 で、輸入食品になじみがなく、産地に対する具体 的イメージも乏しい。また、新しい輸入品を試し てはみたいが、日常的に購入負担するのは厳しい と、上海に比べ、保守的・堅実で価格がハードル という印象を受けた。 3)台北 機能性へのこだわりや美容に関心が高く、太る ことを気にする発言が多かった。料理の食材利用 上海ハイパーの乳製品売り場 の発言もあり、食が多様化している。日本を身近 に感じ、とくに「北海道」が好意的に捉えられていた。年齢の高い世代は、自国産のまずい食品の経験 からか、輸入品の方が美味しく優れているとの思いが強い。但し、価格には非常にシビアな印象を受け た。 4.売り場・店頭の状況 1)上海・北京の特徴 上海では、百貨店(上海久光、伊勢丹)とハイパ ー(ロータス)、北京ではカルフールを調査した。 牛乳乳製品売り場は広く、店舗内はチルドとLL分 けがされ、販促には値引きより おまけ が中心。試 飲のマネキンも売り場ごとに配置されていた。 牛乳・乳飲料・発酵乳の品数は多い。牛乳はLL 主体で容器はピロー(枕タイプ)、ゲーブル、ブ リック等多様で、輸入品は少なくほとんどが中国大 手の蒙牛、伊利、光明などの製品であった。なお、 チーズはスライス中心で、バターは品・量とも少な い。 台北高級スーパーの牛乳類チルド売り場 2)台北の特徴 百貨店(そごう)と高級スーパーと地場の中小スーパーを調査した。牛乳・乳飲料・発酵乳の品数は 多く、輸入品は見かけなかった。牛乳はチルド主体で、プラスチック・ゲーブルタイプが中心で、味も 遜色ない。発酵乳は甘みが強い。乳製品は国内産と輸入品が同じ程度で、高級スーパーは日本製品のウ ェイトが高い。 ─ 26 ─ 5.おわりに 3都市とも、調査を実施した店舗の牛乳類の品揃えや売り場管理は想像以上に優れていた。しかし、 中国産のLL牛乳は美味しいと感じなかったし、製品の安定度も不明だ。しかし試飲したチルドの特選 牛乳は日本の物と遜色なく感じた。酪農生産現場の飼養管理レベルが向上すれば、いずれ解決する問題 と推察される。 今回の調査では、台北はもちろんのこと、上海・北京との距離を身近に感じた。グループインタビュ ーで「同じアジア人だから嗜好が欧州や豪州より近い」との意見もあったし、日本産乳・乳製品の加工 技術への信頼・評価も確立していると感じた。検疫や知的財産権保護に加え、商習慣の問題等もあり、 慎重に対処すべき課題もあるが、今後、消費者の高付加価値品への要求が高まると予測されることか ら、とりわけ中国国内品で充実していない種類の日本製品の受入可能性、すなわち一定の市場性はある と実感した。 (了) 参考:現地での牛乳販売価格 地域 ブランド 産地 容器 上海 蒙牛 中国 紙ピロー 242㎖ LL45日 光明 中国 ゲーブル 1ℓ 田園 NZ ブリック 1ℓ 伊利 中国 ブリック 伊利 中国 紙ピロー 林鳳營 台湾 光泉 台湾 北京 台北 サイズ 賞味期限 販売価格 円換算 1.90元 29円 チルド7日 7.0元 105円 LL8ヵ月 16.5元 248円 1ℓ LL7 ヶ月 5.3元 80円 486㎖×11 LL5 ヶ月 24.80元 372円 プラスチック 1ℓ チルド10日 62 NT$ 248円 プラスチック 1892㎖ チルド 94 NT$ 376円 注)1元≒15円、1NT$≒4円 台北高級スーパーの乳製品売り場 ─ 27 ─
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