研修医の諸問題に対する具体的対応

研修医の諸問題に対する具体的対応
研修医とともに病棟で仕事をしていると、患者診療に直接かかわる問題に加えて、さまざ
まな問題がおこることが多く、指導医としてそのような「事件」に巻き込まれることもまれ
ではありません。中には「いったい私にどうしろっていうの?」という事例も多く、指導医
にとっては悩みの多い毎曰と思います。このセッションでは、研修をとりまくいろいろな
トラブルについて、指導医の立場でどのように対応すればよいのか、経験を共有し、考え
てみたいと思います。事例は私自身が病棟指導で経験した事例に近いシナリオをあげてい
ます。(事例に近いシナリオではありますがフィクションです)。
<シナリオ1>
あなたは、ある内科で指導医として働いています。ある曰、病棟で仕事をしていると、看
護師長から研修医のカルテ記載のことで相談を受けました。その病棟では、深夜に患者さ
んに問題がおこると、当直の研修医が診療にあたり、当直医で処理するには難しい案件の
場合、主治医の担当研修医に呼び出しがかかる診療体制になっています。前曰の深夜帯に
研修医A君が胸水精査目的で担当している患者さんが呼吸困難を訴え、当直の研修医Bさ
んが呼ばれました。診察し、胸部X線検査を行ったところ、気胸をおこしていることがわ
かりました。患者さんは曰勤の時間に胸水穿刺の検査を受けていたのですが、おそらくそ
の合併症だと思われました。当直研修医のBさんは呼吸器内科の当番医に連絡し、胸腔ド
レナージの段取りをつけ、同時に主治医のA研修医に電話しました。ところが研修医A君
は、「B先生のとった処置でそれ以上行うことはない。そのまま診療を続けてくれれば良
い。」と答え、来院しませんでした。B先生はコールした呼吸器内科医とともに診療を続け
ましたが、カルテに「主治医コールするも、来院の必要なし、と。主治医として無責任と思
われる。」と記載していました。看護師長はその記載には問題があると考え、どうしたもの
か指導医のあなたに相談がありました。あなたはB先生に、この記載は問題があるのでは
ないか?と聞いてみましたが、「無責任な主治医を無責任と書いて何が悪いのですか?私は
主治医としてA先生の態度は許しがたいと思います。」と述べています。
あなたは、この研修医A君、Bさんに対し、どのような点に注意して、どのように指導し
ますか?
<シナリオ2>
あなたは、ある外科病棟の指導医です。病棟で仕事をしていると、救急外来の仕事を終え
たばかりの研修医のC君がぼやいています。あなたがどうしたのか問うと、研修医C君は
つぎのような話をしました。
「以前、救急外来で、呼吸困難の患者さんを診たんです。その時サチュレーシヨンがものす
ごく低くて、すぐリザーバー全開で酸素投与したんですが、その人肺気腫の急'性増悪で、
CO2ナルコーシスになっちゃって呼吸器の指導医の先生に怒られたんです。その時は酸素
はどんな人でも0.51くらいから始めて、CO2ナルコーシスをつくらないようにちょっとず
つあげていくもんだ!と教えられたんです。で、昨曰も呼吸困難の患者さんが来たんで酸
素を0.51からサチユレーシヨン9O保つようにちょっとずつあげていったんですが、結局そ
の人心不全とわかって循環器の指導医をコールしたんです。そしたらその先生が来るなり、
何でそんなちんたらした酸素の使い方をするのか?心不全なんだからバーンと酸素投与し
ないと!お前は素人か!って怒り出すんですよ。だいたい来たときに心不全か肺気腫なん
かわかんないんだし、いったいどうしろっていうんですかね?もういやになりますよ」
あなたは外科医で、酸素療法の詳しいことはわからないのですが、この研修医には何とか
いってやらねば、と感じました。
あなたはこの研修医に対し、どんなことに注意し、どのようにアドバイスしますか?
<シナリオ3>
あなたは内科病棟の指導医です。ある曰病棟で仕事をしていると、看護師のDさんが愚痴
っています。聞いてみると次のようなことをいいます。
「研修医のE先生、困るんですよ。今、肺がんのターミナルを受け持っているんですけど、
骨メタがあってすごく痛がっているんです。でE先生に瘤痛管理のことで一応相談するん
ですけど、NSAIDsでまあまあうまくいっているからモルヒネはいらないんじゃない
か、っていうんですよ。でもちょっと動くとすごく痛そうなんです。いっそのことオーベ
ンの先生に直接連絡して相談しようかと思うんですけど、以前そういうことがあった時、
何で僕に相談せずに直接オーベンに相談したんだ!ってすごい剣幕で怒り出したことがあ
って..・・・かといって自分ではなかなか決められなくて、指示出すのもいつも遅くて
箪盛なんですよ。先生何とかいってやってもらえませんか?」
研修医のE君は確かに熟考タイプで、行動に移すのが少し遅いとは感じていましたが、あ
なたから見ると熱心に勉強している研修医であり、看護師からの評価を少し意外に感じま
した。
あなたはこの研修医E君に対して、どのような点に注意し、どのように指導しますか?
また看護サイドにはどのように働きかけますか?
研修医をとりまく人間関係
・研修医のおかれる状況
研修医の諸問題に対する
具体的対応
天理よるづ相談所病院
総合診療教育部・総合内科
石丸裕康
研修医をとりまく人間関係
研修医-看護師関係の研究から
・研修開始初期にまつわる葛藤状況
一看護師「私たちは研修医の指導者ではない」
-医師「社会人としてまともに扱われない、プライドを傷つけ
られる」
・研修指導体制にまつわる葛藤状況
一譜誓鬮議騨医に対し指示を急がせる看護師、
・治療方針や指示にまつわる葛藤状況
一診断治療重視VS安楽重視
・平、藤崎、今中医学教育33(6):443-447;2002
一社会人、医師として未熟
一さまざまな患者さん、さまざまな職場の人々に囲まれる生
活
一学生時代との断絶が著しい
・いろいろな問題が出現
一システムへの働きかけ
一個人への働きかけ
-ある程度分析して介入することが望ましい
研修医をとりまく問題改善への提言
・看護師のコミュニケーション能力を高める
-相手を尊重しながら自分の主張をする訓練
・指導体制の充実
一研修医の判断能力育成と、病棟や救急外来の状況のバ
ランスを判断しながら援助できる身近な指導医の必要性
・研修医の看護に対する理解を深める
-看護実習、多職種カンファレンス
・平、藤崎、今中医学教育33(6):443-447;2002
1
雇璽
顧腱
2
コーチングのコアスキル
コーチング
・コーチングの哲学
一人は皆無限の可能性をもっている
-その人が必要とする答えは、すべてその人のな
かにある
-その答えをみつけるためには、パートナーが必要
である
メディカルサポートコーチング入門(奥田博美)より
。「傾聴する」、「質問する」、「伝える」
.「傾聴する」ゼロポジションで
-先入観を持たず真っ白な心で
一自己解釈しない、評価しない
-否定的言葉(でも、しかし、だけど)は使わない
・背景
一複雑で多様、答えのない時代
一「答えを引き出す」マネージメントの必要性
-相手が話し終わるまでロを挟まない
-沈黙を恐れない
コーチングコアスキル
.「質問する」
・オープン型質問
-なぜ、先週は食べ過ぎたのですか?
-→これから食べ過ぎないためにはどうしたらいいと思う?
.「伝える」YOUメッセージvslメッセージ
●●
―うまくいっているか?→どうなっている?
・未来型質問
コーチングコアスキル
YOU「君は、患者とのトラブルが多い」
|「私は君が患者とのトラブルが多いことを残
念に思っている」
・肯定型質問
-なぜできなかったのですか?
-→どうしたらうまくいくと思いますか?
-→できなかった原因は何だと思いますか?
・YOU「君は良くがんばっている」
.’「私は、君ががんばりにとても感心している」
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