22S-01 フェムト秒ライナックのためのマシンスタディ 研究テーマ代表者 (東大院工) 上坂充 実験参加者 (東大院工) 上坂充、中園祥央、上田徹 1. はじめに フォトカソード高周波電子銃はリニアコラ イダーや次世代放尃光源である X 線 FEL へ期待 されており低エミッタンスかつサブピコ秒か らフェムト秒の極短パルス電子ビームの生成 可能な電子源として短時間現象解明を目指し ポンプ&プローブ実験用電子銃として有用で あると期待されている。東京大学原子力専攻の ライナック施設に設置されている S-band の 18MeV Linac (18L)ではサブピコ秒からフェム ト秒時間領域の現象、特に放尃線誘起反応初期 過程の解明を目的としたポンプ&プローブ方 式の高時間分解能パルスラジオリシスシステ ムが構築されておりフォトカソード高周波電 子銃が使用されている[1-4]。電子ビーム発生 用のポンプレーザーと、現象測定用のプローブ レーザーに同光源を用いることで高精度の同 期が可能になるためである。18L はフォトカソ ード高周波電子銃(1.6 cell BNL-GUN -Ⅳ)、 加速管、Q マグネット、シケイン型磁気パルス 圧縮器から構成され、フォトカソード励起用レ ーザー及びプローブ用レーザーの光源は 0.3TW の Ti:Sapphire フェムト秒レーザーを使用し途 中スプリッターで 2 つに分岐し RF 電子銃には 三倍高調波(266nm)に変換して入尃している。 パルスラジオリシス実験において短パルス電 子ビーム、高精度同期システム、大電荷量ビー ムの 3 つが高時間分解能のために要求される。 現在、それぞれの課題について研究が行われ ている[5]。パルスラジオリシス実験で更なる 高時間分解能を実現させるためにより QE の高 いカソードを使用し電子ビームの電荷を増大 させる必要があるが高 QE カソードは大気曝露 に弱く取り扱いが難しくカソード生成時から 電子銃へのインストール時まで一貫して超高 真空に保つ必要がある。 18L ではカソードを大気暴露することなく取 り扱えるカカートリッチ型カソード交換シス テムを導入した。18L に導入されているカート リッチ型カソード交換システム(SPring-8、浜 松ホトニクス、東大)は、工場で生産されたカ ートリッジ管内にカソードが真空封じされて いるため、製膜装置なしで高 QE カソードの使 用が可能でありコンパクトである。このシステ ムは、カソード交換可能な高周波電子銃用端板、 カソード交換装置、及びカートリッジ管から成 る。Spring-8 との違いはカートリッジ管を保管 しておくリボルバーがない点である。カソード 交換可能な高周波電子銃用端板とは通常の端 板にプラグ挿入用の孔を開けたものである。こ のシステムの機構上の問題で、以前の Mg カソ ード用端板の後ろについていた冷却管が取り 除かれていた。 4.5 電子エネルギー [MeV] 4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 z/λ 図 1: 18L 加速感後のエネルギー。現在加速感外 で測定されるエネルギーは 20.8MeV。 図 2: 電場 100%時の電子経路。 電子銃出口で 6nC であった。 蒸発による量子効率劣化が尐なくなり、超寿命 2. 東大光陰極高周波電子銃の課題 化が期待できうる。 一般に空洞に導波管からマイクロ波を供給し 同様に計算すると温度上昇は 0.72 度、熱膨張は た際、空洞に入尃マイクロ波パルスと同じ電力 0.73×10-6m と旧端板に比べて変化量が減尐し が満たされるまでは時間がかかる。そのため空 た。また、共振周波数のずれは 20kHz に抑えら 洞からの反尃波は、パルスの供給の始めに極大 れ、高周波電子銃内の電場強度も規定の 95%に になり、空洞内に電力が蓄積するに従い減尐し なることが分かった。 ていき、パルスの終わりに極大化する。 現在、新端板、カソード交換システムの取り付 東京大学 18L は、高周波を 2μs、10pps 印加で け、真空引き、ベーキングが終了し、エージン 運転している。図 4 に高周波の出力に違いによ グを行っている。エージングは 8 月 10 日から る反尃波形を示す。高周波の出力が小さいとき 15 日にかけて行われ、規定の高周波出力 7MW は、反尃波が時間と共に減尐していく様子が見 まで印加することができた。図 12 に旧端板と られる。しかし、高周波の出力を上げると反尃 新端板の反尃波形を示す。新端板の反尃波形は、 波が途中から減尐しないことが図 4 から分かる。 旧端板に比べて、時間と共に反尃波が減尐し、 つまり空洞内に十分な電力が蓄積されず、電場 パルスの供給終了時にはほとんど反尃波が発 強度が規定より弱くなっていることが分かる。 生していない。これはβ=1の状態が保たれ、 高周波電子銃内の高周波の入尃波形、反尃波形 空洞内に高周波パルスと同等の電力が蓄積さ は、高周波電子銃の Q 値(内部 Q)と導波管の Q れ、規定どおりの電場が発生していると判断で 値(外部 Q)の比であるβに依存する。[6-7] き、良好な結果が得られた。 表 1. RF 印加前後での周波数の変化 RF 印加前 RF 印加後 差 2855.937 2855.781 156 周波数 MHz MHz kHz 高周波の出力を上げるに従って、反尃波形が乱 れることから、高周波電子銃内で生じる高周波 の電磁熱が原因であると予測できる。特に、端 板部の冷却管を取り除いたことで電磁熱の影 響が大きくなり、高周波電子銃が電磁熱で膨張 することで、高周波電子銃の Q 値が変化してし まったことが原因と考えられる。8L の加速管の 前後に Faraday cup が設置されており、 電子ビー ムの電荷量を測定できる。表 1 に各 Faraday cup の電荷量を示す。 カソードの種類にかかわらず、加速管前後の透 過率は悪い。原因は 2.1 節で述べたように、電 場強度が減尐し、ビームエミッタンスが悪くな ったことが原因だと考えられる。 3 倍高調波の変換効率は本施設では2%程度で あり、装置の大型化、それに伴う不安定化を招 いている。装置を小型・安定化するために 2 倍 高調波(400nm)で動作可能なカソードの試験 が望まれる。 Na2KSb は光電子増倍管で使われているカソー ドであり、400nm で最大の量子効率を誇る。取 り出すために必要なエネルギーは 2.0eV で、従 来使用していた Cs2Te の 3.5eV よりも大分小さ く、そのため量子効率を更に稼ぐことが可能と なる。また Cs をフリーにすることにより、Cs 参考文献 [1] T. Hosokai, et al., Phys. Rev. E 67 (2003) 036407. [2] T. Hosokai, et al., Phys. Plasmas. 11 (2004) L57. [3] T. Ohkubo, et al., Phys. Plasmas. 13 (2006) 033110. [4] K. Kinoshita, et al., Jpn.J.Apl.Phys. 45 (2006) 2757. [5] N. Hosokai, et al., Phys.Rev.Lett. 97 (2006) 057004. [6] K. Koyama, et al., NIMA, 608 (2009) S51. 図 3: RF 電子銃壁面熱流束計算結果。電場の乱 れが減尐していることがわかる。
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