Dep. of Physiology and Biophysics(`10)(専門職学位課程)

組織的な若手研究者等海外派遣プログラム
報告書
京都大学 医学研究科
環境衛生学分野(小泉研究室)
専門職学位課程
2年
島中裕子
滞在期間 : 2010 年 11 月 3 日 2011 年 1 月 12 日
滞在国 : アメリカ合衆国 アラバマ州
滞在研究室 : The University of Alabama at Birmingham (UAB),
Department of Physiology and Biophysics
滞在研究室の教授:Prof. Sasanka Ramanadham
大学時代から海外にずっと興味をもっており、学生のうちに一度は海外留学を経験したいと考
えていました。小泉研究室は、留学生が多く、国際色豊かであったため、その想いは日々強くな
りました。卒業間際のこの時期に留学をすることは、課題研究の都合等、かなり大変でしたが、
小泉先生を始め、研究室のスタッフの方々にサポートして頂き、実現することが出来ました。本
当に感謝しています。
1 留学準備
・滞在先の手配
滞在先の手配に関しては、全面的に Sasanka 教授に協力して頂きました。自分一人で探して
決めるのは、かなり大変だと思います。もちろんすべて英語(留学先の言語)ですし、基本的に
ネットでの検索しか出来ないので、本当に信頼できることろかどうか、相場がどのくらいなのか、
など、現地の住宅事情等分からないことだらけだと思うので、受け入れてくださる先の方々に手
伝ってもらうのが、ベストだと思います。
UAB のある Birmingham という町は、大学の敷地内以外は、基本的に治安がかなり悪く、ま
た財政の苦しい州なので、公共の交通手段はほぼありません。よって、学生も含めほとんどの大
学(医療施設)関係者は車を移動手段として、郊外から通勤・通学しています。私は短期でした
ので、車を所持する予定はなかったため、大学構内を希望しました。コスト面、安全面、便利さ、
英語力の習得(在学生等との交流)の点から考えて、大学寮がベストだと思います。私の場合は
空きがなかったため、大学内にある研究室から徒歩 5 分のアパートメントに滞在しました。コス
トは少し高めでしたが、医療施設(大学病院一帯)や医学研究室のある区域から近くて便利であ
り、常に警備員さんがいてセキュリティーが良いため、海外から来ている研究員やポスドクの
方々(基本的に1年以内の短期滞在者)や、病院に通院しなければならない高齢の患者さん(家
が遠くて通院が不便な方々)、知的障害者(UAB には知的障害者のための福祉学校があるため、
多くの知的障害者の学生がいました。)の学生が利用していました。
基本的なもの(ベッド、机、クローゼット、キッチン、冷蔵庫、電子レンジ)はほとんど備え付
けてありましたし、キッチン道具や寝具等は、Sasanka 先生がすべて貸してくださいました。自
分で用意・調達したものは、洗面道具くらいでした。短期留学であれば、自分で家具等を購入す
るのはもったいないですし、処分にも困りますので、その点を考えても、必要最低限のものが備
え付けてある寮や、大学内施設(私が滞在したアパートメント)のような所が理想的だと思いま
す。
図1. アパートの外観
図2. 部屋の様子
・予め勉強しておくべき実験方法
受け入れてくださる研究室によると思います。私の場合は、事前に詳細なテーマが決まってい
た訳ではなかったので、Sasanka 先生のこれまでの論文を読んで、その研究内容を勉強したり、
そこに出てくる実験方法を下調べしたり、今までに修得した実験技術に関してのプロトコールノ
ートを作成し、復習したりしました。(最低限、C.V.に記載した実験手技に関しては、かなら
ず自力で出来るようにしておくべきだと思います。)
また、UAB では、研究(実験)をすることを大学側に承認してもらうため、化学安全性試験を
パスする必要がありました。もちろん、教材も試験も英語でしたので、あらかじめその教材を教
授にメールで送って頂いて、予習して行きました。
英語(語学)の勉強は、特別な試験等を受けたわけではなく、毎日の通学時間時間に、英語で
映画を見たりして、意識的に耳慣らしをする程度でした。特別に勉強するに越したことはありま
せんが、現地での生活が、一番の勉強になると思います。
・VISA
アメリカは、滞在期間が3ヶ月以内であれば VISA は必要ありませんが、私の場合は、UAB に
short term scholar として受け入れてもらうために取得しなければなりませんでした。なの
で、受け入れ先の先生に取得の有無を聞き、必要であれば、早めに取りかかる方がよいと思いま
す。必要書類の作成等、面倒ですし、何かと時間がかかります。
また、航空券を購入する際にも役立つかもしれません。私は、HIS 旅行会社で航空券を購入し
ましたが、Student VISA を取得していたため、学生専用の少し安いチケットを購入すること
が出来ました。
2 アメリカでの生活
・研究内容(社会医学的意義)
滞在先の研究室ではいくつかのプロジェクトが行われていましたが、その中の一つである「小
胞体ストレス誘導型のβcell アポトーシス」に着目した研究に携わらせて頂きました。
自己免疫によるβcell 欠損によって引き起こされるI型糖尿病では、βcell 細胞死を引き起こ
すバイオメカニズムが未だ明らかとなっていません。しかし最近の研究から、自己免疫I型糖尿
病の進行中に、小胞体ストレスが、炎症サイトカインによって制御される一酸化窒素合成酵素の
産生とβcell アポトーシスに関与することが示唆されています。この研究室では、カルシウムイ
オン依存型リン脂質分解酵素(iPLA2β)を不活性にすることで、小胞体ストレスによるβcell ア
ポトーシスが阻害されることを発見し、この iPLA2βの役割に着目した研究が行われています。
サイトカイン制御によって誘導されるβcell アポトーシスのメカニズムを理解することは、自己
免疫1型糖尿病の生物学的理解を深める上で重要であり、1型糖尿病の治療・予防に大きく貢献
できると考えられます。
この研究室では、
今後、
iPLA2βの機能解析行う方針であるため、
そのために必要となる iPKA2
βノックアウトマウスの作成や iPLA2βノックダウン細胞の安定株樹立に関与させて頂きまし
た。また、このテーマから派生したプロジェクトとして、
「ER stress における LDL,HDL、酸
化型 HDL の役割検討」についての実験も行いました。
滞在先の研究室自体が、去年の夏に UAB に移ったばかりだったので、設備が整っていないこ
とも多かったですし、滞在期間が短期であったこと、サンクスギビング、クリスマス、お正月…
の様に、一年の内で最も働かない holidays season だったことも重なって、なかなか思うよ
うには実験を進めることは難しかったですが、新しい実験系の確立、機械の始動等、ラボの立ち
上げに貢献できたと思います。
また、ノースカロライナ州で行われた学会にも参加し、ポスター発表させて頂きました。同じ
学生とは思えないほど、活発な議論や学問に対する情熱に圧倒されました。
図3 ラボはこのビルの 12 階
図4 ラボの様子
図5 ノースカロライ州(学会会場近くの湖) 図6 ポスター発表
・ 平日の過ごし方
ラボのコアタイムは、大体9時半 18時でした。(治安が悪いので夜遅くまで残ることは許
されませんでした。)基本的には、コアタイムはラボで過ごしました。ただ、毎日のようにどこ
かでセミナーをやっているので、お昼や午後はセミナーに参加することが多かったです。
また、ラボのメンバーは、教授、中国人のポスドクが一人、中国人の技術員が一人、アメリカ
人のマネジャーが一人、学部生が2人の計6人でしたが、学部生は授業のためほとんどラボには
来なかったので、ラボ生活だけでは、英語で会話する機械がほとんどありませんでした。そこで、
現地の学生ともっと交流したかったですし、語学の勉強もしたかったので、ボランティアで日本
語教室の Teaching Assistant をしました。最初、international students のための
英語教室にいきましたが、中国人ばかりで、本場の英語を学べそうになかったので、日本に興味
を持った学生と language exchange をする方が効率的であると考えました。この TA をした
おかげで、交友関係がかなり広がり、勇気を出してチャレンジしてみて本当によかったと思って
います。
図7 日本語クラスの学生さん達と
・ 週末の過ごし方
大学の近くにスーパー等がないので、車を持っている友達に郊外のショッピングモールまで
連れて行ってもらい、一週間分の食料等を調達することと、一週間分の洗濯を行うことは必須
事項でした。友達とご飯を食べにいったり、bar に飲みに行ったりもしましたし、時間がある
時は、Birmingham の観光名所(町のシンボルがあるバルカン公園やマクワイアン科学館、
植物園、Birmingham 発祥のハンバーガー屋さん、アラバマバレエ鑑賞など)にも出かけま
した。クリスマスシーズンには、クリスマス市場やクリスマスコンサート、クリスマスパーテ
ィーに出かけたりもしました。せっかくアメリカにいるのに、家に閉じこもるのはもったいな
いので、勉強するにしても図書館に行くなど、必ず外出していました。
・ 食事
お昼は、お弁当を作って持っていったり、友達と時間が合わせられるときは、学内のレスト
ランや学食のようなところで食べたりしていました。軽食付きのランチセミナーに参加する機
会も多くありましたし、時期的にポッドラック party 等も頻繁にありました。
夜は、基本的には自宅で自炊をしていました。同じアパートメントにする人々と仲良くなる
につれて、ラウンジで集まって食べたり、友達の部屋で食べたり、近くに食べに行く機会も増
えました。
・ 費用
航空券:ユナイテッド航空(シカゴ経由)で、往復約 15 万円
宿泊費(光熱費込み):2ヶ月半で、約 20 万円
生活費(食費、娯楽等):約 20 万
アメリカはかなりのカード社会で、どこでもカードが使えました。現金だけで生活している
人はかなり少なかったです。ただ、チップが必要となる場合もあるので、細かいお金は持って
おく方が良いと思います。
3 感想
初めての海外生活、初めての一人暮らしだったので、不安も多々ありましたが、大きなトラ
ブルもなく2ヶ月半を無事過ごすことが出来ました。
最初は、南部訛りの英語に苦しめられ、コミュニケーションがとれないことが本当に辛かった
です。自分の英語が通じず、それによって馬鹿にされることも多々あり、本当に悔しい想いを何
度もしました。悔し泣きをしたこともありました。また、現地の友達と交流していくうちに、こ
れまでいかに周りに流されてきたか、自分自身の意見がなかったか、周りとの争いをさけて自己
主張をしてこなかったかなど、日本に入るときにはあまり気付かなかった欠点にも気づかされま
した。現地の学生の学問に対する情熱の熱さや知識の深さに圧倒されることもありました。辛い
ことや苦しいこともたくさんありましたが、その想いが、自分自身を変える原動力となりました。
2ヶ月半という短い期間ではありましたが、濃密で刺激的な毎日を過ごすことが出来、本当に幸
せでした。
この留学を実現するにあたって支えてくださった小泉研究室の先生方、私を受け入れてくださ
った Sasanka 先生とそのラボのスタッフの方々、日本から私を支えてくれた家族や友人、アラ
バマで出会ったたくさんの人々…すべての人々に心から感謝しています。
本当にありがとうございました。
図8 ラボのメンバー(Sasanka 先生宅でのクリスマスパーティーにて)