マスコミ論⑤ 放送メディア

2010 年 11 月1日
マスコミ論⑤
放送メディア
1. ラジオの時代
(1) 放送の世紀
① 1906 年:世界最初のラジオ放送
② 米ウェスチングハウス社のデービス副社長、ラジオに着目
1920 年 11 月2日:大統領選の開票日に開局
③ 1920 年代:米国で放送局開局相次ぐ
1925 年:全米で 571 局、ラジオ所有世帯 275 万世帯(普及率 10.1%)
④ 1922 年:英仏、ソ連でもラジオ放送開始
(2) 日本のラジオ放送
① 1923 年:関東大震災で情報不足、混乱
政府「放送用私設無線電話規則」を公布:放送事業は民営、電波は許可制
② 1925 年3月1日:社団法人東京放送局(JOAK)が第一声
同年6月:大阪(JOBK)、7月名古屋(JOCK)が開局
→1926 年:3局を統合、日本放送協会(NHKの前身)
③ 逓信省の監督統制:各放送局に放送監督官配置→原稿の事前チェック
④ 占領時代
連合軍総司令部(GHQ)、軍国主義の排除にマスコミ利用
プレスコード(新聞準則)、ラジオコード(放送準則)を指令
1947 年:放送制度の準備に関する「ファースト・メモ」
1951 年:電波管理委員会、14 地区 16 社の民放ラジオ局に予備免許
⑤ 全国初の民間放送
1951 年9月1日朝6時:名古屋の中部日本放送(CBC)開局
同日正午:大阪の新日本放送(NJB、後の毎日放送)開局
2. テレビの時代
(1) テレビの本放送開始
正力松太郎・読売新聞社長が日本テレビ放送網を設立
① 1953 年2月:NHK東京テレビジョン局が開局
6月:日本テレビ放送開始
② 1957 年:田中角栄郵政相「第 1 次チャンネルプラン」
NHK7局、民放テレビ 34 社 36 局に予備免許
③ 増大するテレビ広告費
2009 年広告費=テレビ 1 兆 7,139 億円、新聞 6,739 億円、ラジオ 1,370 億円
1
(2) 衛星放送のカラー化
① 衛星放送
1963 年 11 月 23 日:日米の衛星放送開始→最初の映像:ケネディ大統領暗殺
1969 年7月 21 日:アポロ 11 号、月面着陸の中継
② カラー化
1960 年:カラー放送開始
1964 年:東京オリンピック開会式のカラー放送
1966 年:カラー用のマイクロ回線網が完成→全国でカラー放送
③ ベトナム戦争は「テレビの戦争」
④ 技術の進歩
ENG(Electronic News Gathering)、SNG(Satelite News Gathering)
3. 多メディア時代
(1) CATV(ケーブルテレビ)
① 難視聴対策用に地上テレビの再送信や自主制作番組制作としてスタート
② CATV普及率
自主放送を行うCATV事業者:535 社、682 施設(2010 年3月現在)
世帯普及率:46.7%、2,478 万世帯→2010 年度末に 50%も
③ ケーブルの空き容量を利用
インターネット接続、IP電話などのサービス→放送と通信サービスを併用
(2) 衛星放送:難視聴対策としてスタート
① 1984 年:BS-2aを利用したNHKの衛星試験放送開始
② 1989 年:NHKの衛星放送:BS-1、BS-2による 24 時間放送
③ 1991 年:衛星民放第1号、日本衛星放送(WOWOW)が開始
④ 2000 年 12 月:BSデジタル放送開始
⑤ 衛星放送CS
CS:遠隔地への電話サービスの充実強化を狙ったメディア→テレビに利用
1992 年:CSアナログ放送
1996 年:デジタル放送開始→2000 年:「スカイパーフェクトTV!」に統合
(3) 激動の時代の放送
① 1988 年9月:昭和天皇崩御
② 1995 年 1 月;阪神淡路大震災:ラジオ放送が災害時のメディアに大きな役割
③ 1991 年1月:湾岸戦争:ABCとCNNがバグダットから生中継
④ 2001 年9月:米国同時多発テロ→アフガン戦争
⑤ 2003 年:イラク戦争→通信衛星と移動中継施設で戦場の生中継
4. 放送産業の構造と特質
2
(1) 公共放送と商業放送の二元体制
① 1950 年:電波法と放送法の成立
NHKのラジオ独占時代→公共放送と商業放送の2元体制
② 1953 年:テレビ放送も2元体制を引き継ぐ
(2) 世界の主流は公共放送、商業放送の二元体制
① 西欧:公共放送単独体制から商業放送の参入を承認
② 米国:3大ネットワークなど商業放送主義から公共放送追加
③ アジア:韓国、中国も2元体制に
(3) 財源
① 公共放送:受信料方式、受信料と広告収入の併用方式、国の交付金、寄付金
② 商業放送:広告方式、有料方式
(4) 2元方式導入の理由
① 戦後、民主主義を根付かせる(日本)
② 商業放送の広告需要の増大で経済振興(フランス、ドイツ)
③ 消費者の多チャンネル欲求(モア・チャンネル)
④ 2元体制の意義:公共、商業放送の補完による「情報の多元化」
(5) 全国放送と県域放送
① 地上波では全国放送をNHK、県域放送を民放が分担
② 民放への出資者
「主たる出資者、役員及び審議機関の委員はできるだけ放送対象地域の住民」
③ 放送対象地域の免許:通常は1県1地域
(6) 民放テレビのネットワーク
① 全国ネットワークの必要性
民放:地域社会を基盤が原則→在京各局をキー局にネットワーク
② ネットワーク(ニュースが中心)
■ AMラジオ
・ 東京放送(TBS)をキー局にしたJRN
・ ニッポン放送・文化放送の2局をキー局にしたNRN
■ FM放送
・ エフエム東京をキー局にJFN(全国FM協議会、81 年)
・ エフエムジャパンをキー局にJFL(ジャパンエフエムリーグ、93 年)
・ 外国語FM局ネットワーク:MEGA-NET
■ テレビ
・ 東京放送(TBS)キー局:JNN(ジャパン・ニュースネットワーク)
・ 日本テレビ(NTV)キー局:NNN(日本ニュースネットワーク)
3
・ フジテレビ(CX)キー局:FNS(フジニュースネットワーク)
・ テレビ朝日をキー局:ANN(オールニッポン・ニュースネットワーク)
・ テレビ東京キー局:TXN
③ テレビネットワークの目的
ネットワーク番組は原則として放送を義務づけられる
④ 地方局の全番組に占めるネットワーク番組の割合:80~90%
民放事業者数(2004 年3月末)
地上系一般放送事業者
(362 社)
テレビジョン放送
127(単営 92、兼営 35)
中波(AM)放送
47(単営 12、兼営 35)
1(単営 1、兼営0)
短波放送
超短波(FM)放送(コミュニティ放送を除く)
53(単営 53、兼営0)
2(単営 2、兼営0)
超短波(FM)文字多重放送(同上)
167
コミュニティ放送
衛星系一般放送事業者
(134 社)
BSアナログ放送
2(単営 0、兼営 2)
BSデジタル放送
19(単営 13、兼営 6)
東経 110 度CSデジタル放送
17(単営 13、兼営 4)
CS放送(東経 110 度CSデジタル放送を除く)
105(単営 101、兼営 4)
有線テレビジョン放送(ケーブルテレビ)事業者
571
自主放送を行う事業者数
5. テレビ業界の売り上げ規模
(1) 成長する衛星系事業とケーブルテレビ事業
億円
テレビ産業の売上高
40000
35000
30000
25000
20000
15000
10000
5000
0
34,298
34,083
35,124
1997年
1998年
1999年
地上系放送
37,378
37,689
2000年
2001年
衛星系放送
38,356
37,355
2002年
2003年
CATV事業者
4
39,698
2004年
NHK
(2) テレビ業界の売上高ランキング
①フジテレビジョン
324,604
②日本テレビ放送網
256、504
③東京放送(TBS)
244,900
④テレビ朝日
208,737
⑤テレビ東京
98,228
⑥スカイパーフェクトTV
75,875
⑦読売テレビ放送
66,895
⑧朝日放送
66,100
⑨WOWOW
61,531
⑩毎日放送
59,769
6. 制度的メディア
(1) 電波法と放送法
放送の特質:放送は制度的メディア→他のメディアと異なる
① 電波法に基づく免許事業である
② 番組の内容に言及する放送法がある
■ 放送を規制する理由
・ 放送が使用する電波には限界がある(電波の希尐性)
・ 社会的影響が大きなメディアである
・ 活字に比べ理解しやすい(大衆把握力が大きい)
(2) 免許事業(放送局は無線局の一種)
(3) 放送法の番組規制
■ 「番組編集準則」
(放送事業者が番組制作で守ること、放送法第3条の2)
「公安及び善良な風俗を害しない」「政治的に公平」「事実をまげない」「対立
する問題は出来るだけ多くの角度から論点を明確に」
■ 「番組種目間調和の原則」
教養番組、教育番組、娯楽番組など放送番組の調和を保つ(放送法第3条の2)
(4) 放送の概念の変化
多メディア・多チャンネル化とデジタル化:放送と通信の垣根が低下
■ 放送の定義(放送法第2条)
「
『放送』とは、公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」
■ 放送の概念のあいまい化
① 日本衛星放送(WOWOW):
「不特定多数」でなく「特定多数」
② CS放送事業者、ケーブルテレビ事業者など委託放送事業者
5
→「直接受信」ではなく「間接受信」、
「無線通信」でなく「有線通信」
7. 規制緩和と放送事業
(1) ハード・ソフトの一致原則
① 放送事業者は財政的基礎があること(電波法第7条)
② 財政的基礎を維持するには、放送事業者は放送局の免許を受けたもの
放送事業者は放送施設の所有者であること→ハードとソフトが一致する
(2) ハード・ソフトの分離
ハード(委託放送事業者)、ソフト(受託放送事業者)
① 放送法改正:1989 年:委託放送制度の導入
→CS放送など放送施設を持たない委託放送事業者を放送事業者に追加
② 2000 年開始のBS放送にも適用
③ 小泉内閣IT戦略本部・IT関連規制改革専門調査会報告書
→通信、放送設備の保有者と、番組などコンテンツ制作者の分離が望ましい
④ 地上波でのソフト・ハード分離は棚上げ状態
(3) マスメディアの集中排除原則
① 社会的影響力のある放送メディアが特定の尐数者に集中することを防止
② 集中排除原則の緩和
8. デジタル放送の時代
(1) 衛星デジタル放送
1996 年 10 月:CSデジタル放送スタート
2000 年 12 月:BSデジタル放送スタート
2002 年 3 月: 110 度CS放送を開始
(2) CSデジタル放送の事業者
① 受託放送事業者(通信衛星の所有者2社)
■日本サテライトシステムズ(JCSAT)
伊藤忠・三井物産・日商岩井グループ:JSAT系衛星を所有・運営
■宇宙通信(SCC)
:三菱グループ:スーパーバード系衛星を使用
② 衛星放送事業者(通称、プラットフォーム)
衛星所有者から放送用チャンネルを借り受け、チャンネル編成
③ 委託放送事業者
番組を供給する事業者、放送法で認定を得た事業
(3) 地上波テレビ放送のデジタル化
2003 年:3大都市圏でデジタル放送開始
2011 年:地デジ完全移行→世界 20 ヶ国がデジタル化
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