小売事業モデルの革新論 - 日本マーケティング学会

Japan Marketing Academy
論文
小売事業モデルの革新論
─ 分析枠組の再検討 ─
法政大学経営学部・大学院経営学研究科 教授
矢作 敏行
要約
電子商取引の拡大に伴い,価値の提案,創造,獲得を内容とするビジネス・モデル革新が広い関心を
集めるようになった。既存の戦略論を,より具体的な活動システム・ベースにまで深めて議論するビジ
ネス・モデル論はアカデミアとビジネスを架橋する新たな研究分野となっている。小売経営論も例外で
はない。顧客のニーズを充足する市場戦略(業態・出店戦略)とそれを運営・実行する業務システム(店
舗運営・商品調達・商品供給)が小売事業モデルを構成する基本要素となる。筆者による一連の研究を
手掛かりに,従来の小売形態発展論を超えた小売事業モデルの分析枠組を再検討し,価値創造のメカニ
ズムを考えてみる。
キーワード
ビジネス・モデル,価値創造,ロックイン,補完関係,範囲の経済性
al. 2011)という論文を掲げた。小売事業モデ
1. はじめに
ル(Retail Business Model; 略称 RBM)の概念
1990 年代以降,インターネットの普及に端
Format)論や店舗オペレーション,ロジスティ
を発した電子商取引のビジネス・モデル革新が
クス等を統合したアプローチを提案した。
強い社会的関心を集めるようになった。それを
しかしながら,小売事業モデル研究がこれま
契機に,事業領域全般で新しいアイディアや技
でまったくなかったわけではない。従来,盛ん
術を事業化し,価値の創造と獲得の道筋を示す
に論じられてきた小売形態発展論はその一部で
ビジネス・モデル(Business Model; 略称 BM)
ある。本論では,BM 論の観点から小売形態発
研究が活発化した 。
展論あるいはその延長線上で論じられてきた,
BM の定義やその分析枠組には必ずしも共通
筆者自身の一連の実証的研究をとらえ直し,小
の認識がないのが現状だが,研究の重要性につ
売事業モデル(RBM)の革新論の枠組として
いては最近,一致した評価が見られるように
再提示することを目的にする。
なった(Zott et al. 2011 他)
。小売経営(Retail
化に挑んだ先駆的な論文で,小売業態(Store
1)
2. ビジネス・モデル研究の現状
Management) 研 究 に お い て も,Journal of
Retailing が 2011 年,
「小売業におけるイノ
ベーション」という特集を組み,冒頭に「小
ビジネス・モデル(BM)の定義はさまざま
売事業モデルのイノベーション」
(Sorescu et
である。BM 研究が活発化した 2000 年代に公表
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小売事業モデルの革新論
された先行研究から代表的な定義を 3 つ紹介し
収益モデルを説明するものではなく,取引のコ
ておこう。
ンテンツや取引構造,組織設計・管理を通して
価値創造の仕組み(構造)を明らかにするもの
定義① 「事業機会の開拓を通して価値を創
と主張しており,微妙なニュアンスの違いが定
造するためにデザインされた取引のコンテン
義に映し出されている。
ツ,構造,ガバナンスを描き出すこと」
(Amit
1975 年 か ら 2009 年 ま で に 公 表 さ れ た 主 要
and Zott, 2001)
。
103 論文をレビューしたゾットら(Zott et al.
同 ②「 技 術 的 発 展 可 能 性 を 経 済 価 値 の
2011)は,BM の概念にはいまだ共通の理解が
実 現 に 結 び つ け る, 実 務 的 に 役 立 つ 論 理 」
みられないものの,以下の 4 項目では共通点が
(Chesbrough and Rosenbloom, 2002)
。
認められると結論した。
同 ③ 「企業がより優れた顧客価値(低費
① 新しい分析単位として受け入れられつつ
用ないし差異化された製品)をつくり出し,価
ある。
値を獲得するポジションを確立するため,当該
② 企業の活動が分析の中心となる。
産業で自社の資源を用いて活動を遂行する際,
③ 企業がどのように事業を行うかについて
どんな活動を,どのように,いつ行うのかを示
システム次元のホーリスティック(全体論
すもの」
(Afuah, 2004)
。
的)・アプローチである。
④ 単にどのように価値を獲得するか(たと
BM 研究は経営戦略,技術・イノベーション
えば,収益・費用モデル)ではなく,どの
管理,電子商取引の各研究分野にまたがってお
ように価値を創造するかを説明する。
り,その定義は研究対象・目的により微妙に異
ここでは,この共通理解に基づき議論を進め
なっている。定義①は,電子商取引の実証研究
る。要するに,BM は顧客に対する価値の提案,
を行った経営戦略論者によるものであり,価値
創造,獲得という 3 つの概念で構成されており,
創造の事業設計が BM の本質であるとする立場
それを「活動システム」(Zott and Amit, 2010)
が表明されている。同②は,技術・イノベーショ
レベルで具体的に描き出すとの立場である。
ン管理研究の立場から技術革新をどう収益化す
3. 戦略とビジネス・モデル
るかという点を強調した単純明快な概念規定で
あり,同③は,
「ビジネス・モデル」というタ
イトルのテキストブックを早々と著した経営戦
競争戦略論のポーター(Poter, 2001)はかつ
略論者による丁寧な定義である。
て,BM の定義はあいまいであり,
「愚者の言葉」
3 者に共通しているのは,BM とは価値を創
と手厳しく批判したが,いまや学界状況はかな
造する事業活動のシステムを説明した論理であ
り違ってきている。戦略分析と BM 分析は異な
るという点である。しかし,定義②,③が「経
る 2 つの論理であり,相互に代替関係にあるの
済価値の実現」や「価値獲得」
(収益化)を強
ではなく,補完関係にある。事業活動のなかで
調しているのに対して,定義①は,BM は単に
相互に関連づけられ,一体化することで事業の
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持続的な競争優位性の分析が進むとの理解が広
は,BM とは「実現された戦略を映し出すもの」
がっている。その点を説明しておこう。
(Casadesus-Masanell and Richart, 2010)であ
戦略とは,いかに競争に勝つかを示す論理で
り,BM 分析は業務活動を基本単位にしている
ある(Barney, 2002)
。したがって,競争を差
との認識がある。その意味で,BM は戦略の実
異化する独自の製品・サービスの開発・提供が
行プロセスを具体的に描き出す論理であり,そ
戦略構想の核心となる。独自の価値は,どんな
れは戦略にしたがい,方向づけられる。
顧客に,どのような製品・サービスを提供する
ウォルマートの採用した「安売り商法」がよ
かという価値提案に始まるが,当然のことなが
い例である。「安売り商法」という BM は,昔
ら,価値提案という「市場戦略」だけでは競争
から存在した。良い品を安く仕入れて,少ない
相手の参入と模倣を阻止し,持続的な競争優位
経費と最小の利潤を上乗せして,同業他社より
性を維持することができない。
何割か安く売れば,必ず売上高は数倍に伸びる。
戦略分析のツールとして価値連鎖を提唱した
売上高効率が上がれば,家賃や人件費等の固定
ポーターも,その点は承知している。類似の商
費負担が軽くなる。薄利多売は古今東西を問わ
品・サービスを,異なる活動方法で提供する価
ず,優れた商売繁盛の BM だった。
値連鎖の構築が競争優位性の維持が不可欠であ
しかし,薄利多売商法には追随者が現れやす
るといっている。たとえば,世界一の家具専門
い。とりわけ,供給過剰傾向の強かった 1960
店チェーンであるスウェーデンのイケアを例に
年代,米国ディスカウント・ストア業界では一
出して,こう説明する(Porter, 1996)
。
挙に多数の同業者が現れた。それでは,ウォル
イケアは若い顧客に対して手ごろな値段で洗
マートは,どのように競争を差異化したのか。
練された家具やカーテンを提供するという価値
鍵は,スモール・タウン(小さな町)戦略にあっ
を提案している。その価値提案に基づき,種々
た。当時,小売業界リードしていたシアーズ・
の業務活動革新が生み出され,その蓄積が長期
ローバックもKマートも人口が多く,所得水準
的な競争優位性を維持している。セルフサービ
の高い大都市を中心に出店していたが,米国南
ス販売方式や組立式家具の導入により低コスト
部の田舎町出身のサム・ウォルトンは,先行す
を実現する一方,店内にベビー・シッターを用
る企業が無視した人口 5000 人から 2 万 5000 人
意し,割安な北欧料理を提供して,顧客の経験
のスモール・タウンに集中的に出店し,小商圏
価値を高める工夫をこらしている。
高占拠型店舗で米国南西部にドミナント(集中
そこでは市場戦略と業務活動が連携し,価値
出店)地域を構築した(Magretta, 2002)。
提案が価値創造に転化するメカニズムが作動し
スモール・タウンには優れた商品供給システ
ているのである。
ムが不在だった。そこで,ウォルマートは自社
ポーターは当初,BM という言葉に対して
配送センターの周囲に店舗網を配置し,商品
拒絶反応を示したが,実のところ,BM 概念
配送の効率化を図り,EDLP(Everyday Low
の中心をなす業務活動の戦略的重要性を認め
Price) 政 策 を 実 現 し た。 さ ら に, 後 年 に は
ていたことになる。実際,BM 研究者の間に
POS(販売時点情報管理)データに基づき在庫
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小売事業モデルの革新論
管理を徹底し,収益力を向上した。元々,スモー
4. 小売事業モデルの概念化
ル・タウンには余剰市場が乏しく,競争相手が
出店しにくい。そのような市場にいち早く店舗
網とそれをささえる独自の商品供給システムを
1. コンビニエンス・ストア・システムの分析枠組
構築した。それが競争相手の参入を防ぐ障壁と
小売業の活動システムの体系はどのようなも
なった。つまり,スモール・タウン出店という
ので,どのように RBM は構成されているのか,
戦略の選択が模倣困難な BM をつくりあげたこ
筆者自身の研究系譜をたどり,考えてみる 。
とになる。
まず,コンビニエンス・ストア・システムの
この例からわかるように,戦略はどのように
革新性(以下,コンビニ研究)を分析する枠組
競争し,勝利するかを示すのに対して,BM は
として,小売業務システム,商品供給システム,
どのような価値を,どのようにつくり出し,収
組織構造の 3 要素があげられた(矢作,1994,
益をあげるのかという活動システムを描き出し
図− 1)
。小売業務システムでは,即時性ニーズ
ている。その意味で,戦略と BM は補完的であ
に対応した利便性の提供という価値を提案し,
り,BM は価値提案という戦略論と関連づけら
その実現のため小商圏を設定し,年中無休・長
れながら,概念化されている。
時間営業という業態戦略を採用した。小さな店
2)
図 —— 1 コンビニエンス・ストア・システムのイノベーション 3 要素
消費者欲求
流通サービス水準
小売業務
・多品種少量在庫販売
・年中無休 長時間営業
競争優位
商品供給
組織構造
・短リード小ロット
・生産・販売競合
・商品の共同開発
・情報ネットワーク
・同盟関係
・FC
(出所)矢作(1994),17 頁。
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舗で多品種・少量在庫販売を実現するために採
と販売で成り立っている。仕入れた商品を店頭
用された経営手法が単品管理であり,迅速な死
に運ぶのが物流の役割である。したがって,そ
に筋排除・売れ筋投入が繰り返され,店頭品揃
のような広義の「小売業務」活動から仕入れと
えの最適化が絶え間なく追求された。
物流を取り出し,商品供給システムとして一括
商品供給システムでは,ベンターと呼ばれる
る一方,残された小売業態・出店戦略,店舗運
米飯・惣菜等のメーカーと設置した協同組合方
営を狭義の「小売業務」として再定義したので
式による集団的商品開発体制が整備され,活発
ある。
な新商品投入が行われた。また,工場と店舗を
結ぶ管理温度帯別共同配送センターが配置さ
2. 小売りイノベーション「英国モデル」
れ,生・販統合型の短リードタイム・小ロット
コンビニ研究の分析枠組は,その後,研究対
の画期的な納品体制が実現した。
象の拡大を通して,2 度の洗練化を経ることに
組織構造では,フランチャイズ・チェーン
なる。最初は,英国スーパーマーケットを分析
(FC)契約による加盟店の組織化とガバナンス
対象とした小売りイノベーションの「英国モデ
を明らかにする一方,メーカーが専用工場への
ル」研究である(矢作,2000)。コンビニ研究
取引特殊的投資を通してロックイン(封じ込め)
との違いは,大きく 3 点指摘できる。
され,生・販同盟関係(戦略提携)が構築され
第 1 に,「英国モデル」研究ではコンビニ研
る点が強調された。
究で提示した「商品供給」システムを商品の企
コンビニ研究の分析枠組は従来の小売形態論
画・開発,仕入れを内容とする「商品調達」と,
のそれを大きく超えていた。通常,小売形態論
物流機能を中心とした「商品供給」の 2 つに分
は小売りミックスで説明される小売業態論を中
けた(図− 2,3)。
心に議論されており,文字通り外形的な「形態」
これには理由がある。英国スーパーマーケッ
で識別する議論が多かった。それに対して,コ
トの活動システムの大きな特徴は PB(プライ
ンビニ研究では即時性ニーズの充足という価値
ベート・ブランド)商品比率の高さである。メー
提案を明確にした。
カーがつくった NB(ナショナル・ブランド)
また,既存の小売形態論が店舗運営システム
商品を仕入れて,売場に並べるという旧来業務
や商品供給システムといった活動レベルに,ほ
活動では説明することができない。そこで,商
とんど立ち入っていないのに対して,コンビニ
品の企画・開発という意味を含む商品調達とい
の業務活動を小売業務と商品供給の 2 つに分け
う言葉をあて,
「商品供給」システムのなかから,
て,活動システムとして分析し,メーカー・卸
それを取り出した。
や加盟店との関係性を統治するガバナンス問題
また,店舗への納品がメーカー直送方式から
を取りあげた。
自社広域配送センター方式へ,商品別センター
以上のような活動システムの相互依存関係と
から複数管理温度の商品を扱う複合センター
ステークホールダーの組織間関係に着目するのは,
へ,それぞれ転換し,物流費用や店舗運営費用,
当然の帰結であった。小売業は,商品の仕入れ
商品仕入れ価格の削減,そして商品の品質管理
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小売事業モデルの革新論
図 —— 2 小売りイノベーション「一般モデル」
顧客関係
顧客
・顧客価値水準
・小売りサービス水準
組織内関係
小売業務
調 達
供 給
組織間関係
取引関係
(出所)矢作(2000)
,13 頁の図を一部修正して使用。
(注)矢印は作用の方向を示す。
図 —— 3 小売りイノベーション「英国モデル」
顧客関係
顧客
・顧客価値水準
顧客価値
実現
顧客関係
発展
・小売りサービス水準
同2−A
命題1−A
同2−B
同1−B
同3−B
独自商品
開発
組織内関係
チェーン
組織化
小売
サプライ・
チェーン
同3−A
商品価値
伝達
組織間関係
少数性・継続性・戦略性
商品価値
創造
取引関係
(出所)矢作(2000)
,133 頁の図を一部修正して使用。
(注)矢印は作用の方向を示す。
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が追求されていた点を明示する必要性が出てき
1990 年半ば,主要各社は一斉に導入したロ
た(Mckinnon, 1997)
。
イ ヤ リ テ ィ・ プ ロ グ ラ ム(Loyalty Program;
その結果,コンビニ研究では「商品供給」と
略称 LP)は,顧客囲い込みの切り札的存在と
して 1 つにくくられていた「調達」
(商品の仕
なった。LP はリピーターを増やす目的で買い
入れ・企画・開発)と「供給」
(物流)の 2 つ
物金額に応じてポンントを付与するポイント・
を別々の活動システムとして分けた。それによ
カードの導入から始まり,買い物代金を決済で
り,調達と供給が BM のなかで果たす役割を明
きる独自のデビッド・カード,さらには一般的
確にし,後に述べるように 2 つのシステム間に
な金融サービス商品の提供へと発展したマーケ
補完関係が作用する点を,わかりやすく説明す
ティング・プログラムである(根本,2000)。
ることができるようになった。
顧客ロイヤリティを高めるための LP は顧客を
第 2 に,組織構造を組織内関係と組織間関係
ロックインするための手段であり,ICT(情報
(取引関係)の 2 つに分けた。チェーンストア
通信・技術)の発達をテコにした顧客関係管理
組織では,店舗運営と商品の調達・供給の活動
は従来の小売業態戦略を超えて発展している。
間には,明確な分業関係があり,店舗と本部と
いう組織内関係の設計が貫かれている。そのう
3. 日本の優秀小売企業の能力分析モデル
ち本部が担当する商品の調達と供給は組織の境
さらなる洗練化は,日本の優秀小売企業の能
界を超えて,取引先各社とのさまざまな形態の
力研究(矢作,2011;以下,能力研究)を通し
取引関係を結んでいる。
て進んだ。「英国モデル」研究との違いは,狭
日本のコンビニ研究で発見した小売業とメー
義の「小売業務」を組織の内から外の向かう市
カーとの戦略提携は英国スーパーマーケットで
場戦略と,組織の外から内に向かう店舗運営シ
も,
違うかたちで確認できた。英国スーパーマー
ステムの 2 つに大きく分けた点である(図− 4)。
ケットは明確な PB 開発戦略をもち,技術・品
実は,小売業務は顧客接点のある店舗で行われ
質管理の専門家を多数抱えて,メーカーから優
ている点では同一であるものの,活動の方向性
良な経営資源・能力を引き出すことに成功して
と内容はまったく異なっている。
いた。
どのような顧客に対して,どのような価値を
最後に,
「英国モデル」研究では「顧客関係」
提案するかという業態戦略は,チェーンストア
を取り出した。英国スーパーマーケット市場は,
ストア本部における最重要意思決定事項の 1 つ
1990 年代すでに上位チェーンへの市場集中が
であり,具体的な立地条件や競争状況に合わせ
進み,部分的な低価格競争をときおり演じなが
て具体的な店づくりが行われる。その際,もう
ら,主要各社はスーパーストア化を通して品揃
1 つ重要な意思決定事項がある。どの地域に,
えのバラエティの拡大や PB 商品の品質向上,
どの程度の数の店舗を,どのくらいの期間に出
金融サービスの提供と非価格競争へと転換し,
店するかという出店戦略である。既存の小売形
どのように顧客の購買・消費経験を高め,優良
態発展論では,この出店戦略の問題はまったく
顧客を囲い込むかに腐心していた。
といってよいほど,言及されていなかった。
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小売事業モデルの革新論
図 —— 4 小売事業システムの分析枠組み
顧客関係
顧客
消費欲求
消費欲求
大量物流
独自商品
短サイクル
配送効率化
商品調達
商品供給
供給連鎖化
少数性・継続性・協調性
価値創造支援
取引先企業
価値供給支援
組織間関係
業務システム
店舗運営
大量購買
組織内関係
業態戦略
出店戦略
市場戦略
(注)矢印は作用の働く方向を示す。
作用効果の内容は,規模の経済効果の例示。
しかし,同一業態を多数展開するチェーンス
ムにしたがい,本部が調達した商品を品揃えして
トア組織において,出店戦略は店舗運営,商品
販売する点では受動的な立場にあるが,他方で,
供給システムの効率性と直接,関連している。
日々刻々と変わる市場・競争環境への対応や売
とりわけ,一定地域に集中的に出店するドミナ
場で起こる予想外の出来事への対処を任されて
ント戦略は,店舗の管理・指導からチラシ広告
いる点では,自律的な意思決定を行う能動性を
の配布,店舗納品費用まで一般販売管理費の引
求められる。その意味では,顧客接点において
き下げに,大きく貢献している。能力研究で
価値を最終的にデリバリーする極めて重要な役
は,対象企業 9 社のうちイズミ,ヨークベニマ
割を担っているのが店舗運営システムである。
ル,セブン - イレブン・ジャパン,コメリの 4
この店舗運営システムをささえているのが商
社がドミナント戦略の徹底で高い成果をあげて
品調達と商品供給の各システムで,実際に小売
いた。
業態を動かす主要な業務活動は,それら 3 つの
狭義の「小売業務」から取り出した,もう 1
下位システムで成り立っている。その活動シス
つの店舗運営システムは,顧客接点に位置して
テム間にどのようなメカニズムが作用している
いるが,食品スーパーのようにバックヤードの
のか,それが次なる問題として浮上した。
食品加工作業システムやレイバー・スケジュー
5. 価値創造のメカニズム
リングといった店頭からは直接,
「見えない競
争要素」
(矢作,1994,340-342 頁)を含み,そ
れが競争優位性に決定的な影響を与える場合も
1.「独自価値」の創造
ある(岸本,2013)
。
RBM(小売事業モデル)論の核心は,どの
店舗サイドでは本部が決めた店舗運営システ
ように価値はつくられるのかにある。この問い
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に対する答えはさまざまである。イノベーショ
均衡が移動するような大きな衝撃が生じる。
ンに深い洞察を示したシュンペーターであれ
それに対して,残り 2 つの独自価値の創造は,
ば,技術革新を中心とした経営資源の新しい結
どちらかといえば漸進的な歩みとなる。スー
合が価値の源泉となると主張するに違いない。
パーマーケット間の競争が激化し,品揃えや
競争戦略論者のポーターであれば,市場におけ
サービスの拡充によりスーパーストア化する場
る戦略的ポジショニングが独自の価値を提供す
合,戦略的ポジショニングは差異化にシフトす
る要諦と答えるだろう。以下では,RBM 研究
る。逆に,低費用オペレーションを通してディ
の観点から,独自価値に関する概念を整理した
スカウント・ストア化する場合は,低価格戦略
うえで,価値創造の「内なるメカニズム」に言
を指向することになる。
及する。
したがって,小売事業における価値の創造に
価値とは買い手が喜んで支払う金額で表すこ
は,新しい業態の創出という抜本的なイノベー
とができ,その価値をつくり出すのに要した費
ションと同時に,業態内での価値の差異化と低
用以上の金額を買い手が負担することが最低限
価格化という漸進的なイノベーションを含むこ
の条件となる(Porter, 1985)
。しかも,価値は
とになる。
価値連鎖全体から生み出される価値の総額であ
り,優れた価値とは,かりに競争相手より値段
2. ロックイン・補完関係・範囲の経済性
が高ければ,それを相殺してあり余る独自の価
すでに述べた通り,業態戦略による独自価値
値を提供するか,もしくは同等の便益をより安
の提案・創造は,業態を運営する店舗運営,商
い価格で提供するか,のいずれかで実現される。
品調達,商品供給の各業務システムの個別ある
すなわち,前者は新奇性の高い価値を提供す
いは全体の活動を通して実現する。以下では,
る差別化戦略であり,後者がコスト・パーフォー
個別の活動システムの技術革新による効率化で
マンスに優れた製品・サービスを提供するコス
はなく,価値を創造する活動システム間の「内
ト・リーダーシップ戦略に該当する。 換言す
なるメカニズム」革新として,次の 3 点を強調
ると,戦略構築の要諦とする「独自価値」の創
3)
しておく 。
造には,差異化された価値と安価な価値の双方
コンビニ研究で提示された商品調達,商品供
を含んでいることになる。この点は,BM の定
給における取引特殊的投資によるロックイン関
義③で紹介したアファ(Afuah, 2004)の価値
係,「英国モデル」研究で明示した相互依存的
理解と同一である。
な活動システム間の相互補完関係,そしてロッ
したがって,独自価値の提供という戦略的ポ
クイン関係や相互補完関係の適用範囲の拡大に
ジショニングは,
次の3通りを想定できる。スー
伴う範囲の経済性である。
パーマーケットのような大きな業態革新が起こ
い ま や, 日 本 の 消 費 財 メ ー カ ー は 主 要 な
る場合,新奇性のある小売りサービスが優れた
チェーンストアに対して専任営業担当者を配置
コスト・パーフォーマンスで提供される差異化
するのが業界の常識になっているが,有力コン
と低価格の双方の価値が同時に実現し,産業の
ビニエンスストアの場合,それに加えて独自の
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小売事業モデルの革新論
納品基準に基づく専用在庫管理方式,両社の
補完関係は活動を単独で行うより,共同で
トップマネジメントの合意に基づく PB 商品・
行った方が高い価値を生み出す経済効果を意味
専用商品の開発,共同配送センターや専用ライ
しており,RBM の場合,同時並行的に進む活
ン・専用工場の設置等を,メーカーに求めてき
動システムの改革・改善が噛み合い,より大き
た。これらすべての要求は特定取引関係に特殊
な相乗効果を発揮するプロセスを表している。
な投資であり,埋没費用が発生するため,スイッ
コンビニ研究の成果も同様の相互補完関係が
チング・コストが高くなり,取引先メーカーは
作用している。英国スーパーマーケットの場合,
当該取引関係にロックインされる傾向を強める
チェーンストアの大規模化に伴い,商品調達シ
(矢作,1994)
。
ステムの革新の中心には PB 商品開発が据えら
ロックイン関係は,当該取引関係に特有の人
れたのに対して,日本のコンビニエンスストア
的,物的,情報的投資が行われており,アーム
の場合は,弁当・お握り,調理パン,惣菜等の
ズ・レングス(通常取引)関係より,小売業の
専用商品(「デイリー商品」「オリジナル商品」
目標に即した,より高い価値を創造する活動シ
とも呼ばれる)が主体となった。
ステム全体に関わるメカニズム革新が起こるこ
商品供給システムの革新ではイギリス・スー
とになる。
パーマーケットでは広域配送センターと複合管
次に,
「英国モデル」研究で提示した活動シ
理温度帯商品を一括して扱う複合配送センター
ステム間の補完関係の研究命題は,以下の通り
が軸となったのに対して,日本のコンビニエン
である(矢作,2000,132 頁;本稿図−3)
。
スストアでは狭域の管理温度帯別共同配送セン
ターがその役割を担った。
命題 1- A:
「チェーンストア組織の発展は一
活動システム間の相互補完性を高まるうえで
定地域の通過物流(スループット)を大量化し,
大きな効果を発揮していたのは店舗密度を高め
小売りサプライ・チェーン(RSC;商品供給)
るドミナント戦略(出店戦略)である点も確認
を促進する」
(物量・RSC 促進説)
。
されている(矢作,1994;2011)。
同 1- B:
「RSC の拡充は小売業務を効率化
さらに,ロックインされた取引関係から生み
する」
(RSC・小売業務効率化説)
。
出された PB 商品開発や専用工場・共同配送セ
同 2- A:
「チェーンストア組織は大量購買
ンターの設置という事業モデルは,ある商品群
力をテコに PB 商品開発を促進する」
(購買力・
から別の商品群へと適用範囲を拡大した。この
PB 促進説)
。
範囲の経済性が価値創造の 3 番目のメカニズム
同 2- B:
「PB 商品は小売競争を差異化する」
革新となった。
(PB・競争差異化説)
。
有力コンビニエンスストアのメーカーとの
同 3- A:
「RSC の拡充は PB 商品開発を促進
PB・専用商品開発は弁当等の米飯や惣菜から
する」
(RSC・PB 促進説)
。
始まり,調理めん,パン,デザート類へと広が
同 3- B:
「PB 商品開発は垂直統合を介して
り,店頭における独自商品の提供力を強化する
RSC を拡充する」
(PB・RSC 促進説)
。
と同時に,商品供給システムの効率的な活用に
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も貢献した。
事例で取りあげた各社の中核的な組織能力と
ただし,活動システム間のロックイン関係,
関連した資源・能力が生み出す収益源が,おお
補完関係,範囲の経済性の程度は BM により大
よそ特定されている(矢作,2011)。上述した「深
きく異なる。日本の優秀小売企業の能力研究で
いイノベーション」を実現した 4 社に共通して
は,
「市場戦略→店舗運営→商品供給(評価基
いるのは PB 商品・専用商品開発が大きな収益
準は配送センター経由の一括納品比率)→商品
源になっている点であり,さらにセブン - イレ
調達(同 PB・専用商品比率)
」と上流段階に遡
ブン,コメリの 2 社は徹底したドミナント戦略
及するイノベーションの程度が大きい企業は
で店舗運営,商品供給システムの効率化も顕著
「深いイノベーション」を起こしており,模倣
だった。逆に,店舗規模や品揃えといった業態
困難性や収益力の点で持続的な競争優位性を維
戦略に差異化をみい出している「広いイノベー
持しやすいと結論した。セブン - イレブン・ジャ
ション」では,イズミや湖南平和堂,大丸松坂
パン,ファーストリテイリング,ニトリ,コメ
屋のようにテナント収入が収益の底上げに貢献
リの 4 社が代表例であった。
している。
範囲の経済性の点では,共同商品開発をはじ
つまり,活動システムの相互関連性と展開方
め独自の活動の適用範囲が商品分野を超えて拡
向が収益モデルを左右しているとの見解が示さ
大したセブン - イレブンの存在感が際立ってい
れた。
た(南,2011)
。
7. 小売事業モデルの構築に向けて
6. 収益モデル
コンビニエンスストアのイノベーション研究
BM 論の特徴の 1 つは価値獲得の収益モデル
から日本の優秀小売企業の能力研究に至る過程
を含む点である。電子商取引では情報検索サー
で,筆者の小売企業の経営革新行動に関わる研
ビス業のグーグルのように利用者が検索する行
究は漸進的に変化し,研究対象と目的に応じて,
為自体を無料化し,検索に関連して表示される
小売りイノベーション・モデル,小売事業シス
広告に課金するといった新しい収益モデルが
テムと呼称は微妙に変わったが,一貫して活動
次々に考案されている。しかし,収益モデルの
システム全体を取りあげてきた点では変わって
革新は古くは剃刀と替え刃の関係から,小売業
いない。その点では,近年における欧米の BM
における会員制ホールセール・クラブの買い物
研究の系譜と合致している。
代金と年会費の関係まで幅広く存在する。一連
電子商取引を対象に先駆的実証研究を行った
の研究では直接,収益モデルの革新には詳しく
アミット=ゾット(Amit and Zott , 2001)は,
言及していないが,日本の優秀小売企業の分析
BM のデザイン要素を取引のコンテンツ,構造,
では再販売業者である小売業の収益源が単純な
ガバナンスの 3 つに要約した。その分析枠組を
販売価格から仕入れ原価や一般販売管理費を差
小売業に適用したソレッシューら(Sorescu et
し引いた残額でない点を明確に示している。
al. 2011)は,フォーマット(小売業態),顧客
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小売事業モデルの革新論
経験を高まる活動,活動の担い手を統制し適切
経験価値の創造が小売業において何なり重要
に収益配分するガバナンスの 3 つを RBM の構
な要素となるのは「小売業がサービス・プロバ
成概念とした。この概念化は,矢作による市場
イダーである」という事業本質の理解による。
戦略,業務活動システム,組織内・組織間関係
小売業は「物品販売業」には違いないが,すべ
の 3 分類におおよそ対応している。
ての小売業は「顧客満足提供業」でもあり,品
問題は,BM のデザイン・テーマ,すなわち
質保証したモノの集合(品揃え物)を通して買
価値創造の主要なドライバー(駆動力)は何
い物の利便性や快適性を演出し,顧客の期待に
かという点にある。ゾット=アミット(Zott
応えて満足を実現するのが社会的使命にほかな
and Amit, 2011) は,BM 革 新 の ド ラ イ バ ー
らない。
として NICE モデルを提案している。新奇性
その際,「真実の瞬間」となるのは顧客接点
(Novelty)
, ロ ッ ク イ ン(Lock-in)
,補完性
である。小売業が提供する価値は実は,モノの
(Complementarities)
,効率性(Efficiency)の
ように事前に品質水準が決定されず,安定的で
4 つである。
もない。「『顧客満足提供業』である小売企業は,
しかし,新奇性と効率性は市場戦略が提案す
事前に在庫できない無形のサービス(顧客満足)
る独自価値の内容であり,BM の活動システム
を,そのとき,その場で,そのつど(ひとり一
間の相互関連性という意味での「内なるメカニ
人に)顧客接点において手渡す」(矢作,2011,
ズム」を説明するものではない。
「5.価値創造
379 頁)しかないのである。
のメカニズム」では,そう考えてロックイン・
実際,顧客の購買・消費体験の全体で感じる
補完関係・範囲の経済性の 3 つを取りあげた。
経験価値は,極めて個別的であり,異質であり,
また,ソレッシューらは効率性,効果性,顧
なおかつ不安定である。顧客接点では何が起き
客関係の 3 つを BM のデザイン・テーマとして
るかわからない。雪の日にはイノシシの親子が
あげたが,ほぼ同様の理由から活動システム間
店に飛び込んできて大暴れし,雨の日には年寄
のメカニズムに関する議論では除外した。ただ
が濡れた床で転んで怪我をする。すべて現場の
し,ソレッシューらがデザイン・テーマとして
人々が直ちに解決しなければいけない。
取り出した顧客関係には小売業における BM を
店舗では予想外の異常や変動の発生に上手に
考えるうえで,重要な含意が含まれている。
対応しないといけないが,いつも問題を解決で
それは,最終ユーザーと直接,接触し,商
きるとはかぎらない。本来的に,顧客満足とい
品・サービスを販売する小売業の究極の目標が
うサービスの知覚品質・経験価値は状況に依存
顧客の経験価値を高まることにあるという点で
している。
ある。すなわち,独自価値の提供には機能や価
この状況依存的な価値の不安定さを緩和・解
格で測定できる「価値」に加えて,購買・消費
消して,いつも顧客の期待する満足水準を超え
体験における感情的な要素を含む顧客の経験価
るサービスを提供し,経験価値を高めることが
値が決定的に重要な要素となる(Prahalad and
できるか否かが,RBM の残された「究極の課題」
Ramaswamy, 2004)
。
となる。また,そこに独自の価値を提案し,活
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論文
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る BM 論固有の研究課題があり,図 -4 の「小売
り事業システムの分析枠組み」に戻れば,店舗
運営,商品調達,商品供給の各業務システムの
改善と現場での安定的な遂行が最重要の実務的
課題となる。
注
1)ビジネス・モデルの類似用語として「事業システム」
(加護野,1999)があるが,ここではほぼ同義と理
解する。また,矢作が使用してきた「小売イノベー
ション・モデル」
(2000),
「小売事業システム」
(2011)
も同様で,ビジネス・モデルに統一した。
2)小売事業モデルの概念化に関する議論は,筆者によ
る日本商業学会第 63 回全国研究大会での統一論題
基調報告「小売業とイノベーション」(2013 年 5 月
25 日,立命館大学)に基づく。
3)新しいアイディアの提示による新奇性の実現は,独
自価値の提案としての業態戦略の枢要な部分とみな
し,またいわゆる生産性向上による効率化は価値創
造の一般論と考え,活動システム間の革新メカニズ
ムの議論からは除外した。
参考文献
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矢作 敏行(やはぎ としゆき)
法政大学経営学部・大学院経営学研究科 教授。
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