先端研究施設共用促進事業【複合極限環境評価法による先進材料開発】 室蘭工業大学 OASIS/FEEMA 計画推進室 利 用 成 果 報 告 書 Ⅰ-1. 利用課題名 建設用資材石膏ボード、及びその廃棄物のリサイクル手法の検討 Ⅰ-2. 利用者名 苫小牧清掃企業組合 エコワークス苫小牧 Ⅰ-3. 利用施設名 室蘭工業大学 FEEMA 施設 Ⅰ-4. 利用期間 平成 26 年 月 日 Ⅰ-5. 利用の目的・ 内容 – 平成 27 年 3 月 31 日 弊社では、長い伝統に培われた経験と技術に基づいて独創的エコプロジェクトを推進 する環境総合企業として、廃棄物の有付加価値のリサイクル商品の製品化に挑戦してい る。 昨今の廃棄物処理の大きな問題として、建設現場から発生する、廃棄物となった石膏 ボード(廃石膏ボード)が挙げられる。廃石膏ボードの主成分である石膏は硫酸カルシ ウムであり、これに含まれる硫酸根は地球上に硫酸塩還元細菌の代謝を受けて硫化水素 となることがわかっている。この作用による処分場・保管場所付近での死亡事故が多発 したこと、更には管理型最終処分場での処理が必要となったことで処分場の受け入れ余 剰が少なくなってきており、重要なトピックスとして各自治体等でリサイクル等が推進 されている。リサイクル方法の多くは、廃石膏ボードを粉砕してコンクリート骨材にす るなど、石膏の性質を変えて利用するものではないため、付加価値はあまりない。そこ で弊社では、石膏ボードを環境負荷の少ない方法で処理し、高付加価値材料として有効 活用する方法を検討したい。 本課題では弊社にて受け入れた廃石膏ボードに環境汚染や人体に悪影響を与える重 金属等の有害物質がないことを確認する。更に化学的・物理的処理によるリサイクル法 を調査・模擬的に実施する。 Ⅰ-6.社会・経済への 波及効果の見通し 産業廃棄物の低減と資源の有効活用に繋がる内容であり、廃石膏ボードのリサイクル 手法の新たな一石を投じることができれば、全国的な廃石膏ボードの処分量と環境負荷 が減少するだけでなく、新たな製品を生み出す起爆剤となり得る。 Ⅰ-7.公開延期の希 望 Ⅱ.成果の概要 有 ( 年間) 無 ○ 1. 検討内容及び結果 今回、産業廃棄物の低減と資源の有効活用を目的とし、産業廃棄物として捨てられた石膏の性状分析を 行うと共に、石膏をリサイクルする為の技術情報調査と、焼セッコウ製造に関する基礎的なプロセス検討 を実施した。以下にその検討結果を述べる。 1.1 石膏ボードに使用しているセッコウの性状 石膏ボードとは二水セッコウ(硫酸カルシウム)を板状にしたものの表面に紙を張り付けたものである。 石膏は状態により、二水セッコウ:CaSO4・2H2O、焼セッコウ:CaSO4・1/2H2O、無水セッコウ(硬セッコウ): CaSO4 の 3 種類に分類されており、石膏ボードには焼セッコウに水を加えて固化させたものである二水セ ッコウが利用されている。今回受け入れた石膏ボードから紙を除去して粉砕し、EDS による成分分析を実 施した(図 1)。石膏ボードの中には石綿(主成分はマグネシウムやケイ素など)や重金属(カドミウム、 ヒ素)を含むものが存在するが、今回受け入れた石膏ボードの主成分である二水セッコウ中にはこれら有 害物質が確認されなかったことから、リサイクルするにあたって特別な化学的前処理が必要ではないこと が確認された。 図 1 粉砕したセッコウの EDS 分析結果 1.2 セッコウのリサイクル手法 二水セッコウに関する反応式を図 2 に示す。 二水セッコウから製造できる汎用性のある物 質は、焼セッコウと炭酸カルシウムである。焼 セッコウは、二水セッコウを 120~160℃で加熱 することで得ることができる。これは工場内キ ルン等の排熱を利用することで製造すること ができ、比較的エネルギーコストが抑えられる 方法である。ただし、強熱しすぎると無水セッ コウとなり、二水セッコウへの反応が難しくな るため、処理条件の管理には十分に注意した い。 図 2 セッコウに関する反応式 一方、種々のカルシウム塩製造の原材料として汎用性のあるものの 1 つに炭酸カルシウムがある。これ はアンモニアと二酸化炭素の存在雰囲気下で起こる反応で、古くから硫酸アンモニウム(硫安)製造法と して知られている。しかし、石膏ボードから炭酸カルシウムを得るリサイクル方法として、 「特開 2001-947 石膏含有産業廃棄物の処理方法」が公開されており、実際の運用に際しては特許問題の観点からかなり難 しく、手法に関する詳細な検討や打ち合わせを重ねる必要がある。 1.3 廃石膏ボードリサイクルの模擬試験 1.2で検討したリサイクル手法のう ち、焼セッコウ製造に関する検討を実施し た。試験は蓋付きガラスシャーレに石膏ボ 重量 (g) ード(1.1で EDS 分析したものと同じも の)を約 3.00g 図りとり、120℃ないし 150℃に加熱したホットプレート上に静置 した。この時、加熱開始から 30、60、90 分後の重量を計測し、重量変化を測定し 3.2 3 2.8 2.6 2.4 2.2 2 た。加熱終了後のサンプルは XRD を測定 120℃ 150℃ 0 30 し、水和の状態を確認した。 60 90 経時変化 (h) 図 3 にサンプル重量の経時変化を示す。 図 3 加熱処理における 3.00g の二水セッコウが焼セッコウにな 石膏ボード粉末重量の経時変化 る時の理論重量は約 2.53g である。120℃ 加熱の場合は 90 分でおおよそ同値程度ま で減少した。150℃加熱の場合は 30 分で到達し、その後の重量はほぼ平衡状態となった。120℃、150℃で 90 分加熱したサンプルの XRD 回折パターンを図 4 に示す。加熱処理を行った両サンプルにおいて、焼セッ コウの存在を示すピークのみが確認できたことから、1.2で想定された反応が進行したことが確認され Intensity (cps) た。 ◆ 10000 9000 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 0 ◆ 未処理 ◆ ◆ 120℃, 90min 150℃, 90min ◆ ◆ ◆ ◆ ★ ◆ 焼セッコウ ★ 二水セッコウ ★ ★ ★ ★ ★ 10 20 30 40 2θ (degree) 図4 加熱処理後における石膏ボード粉末の XRD パターン 2. まとめ 今回サンプルとして使用した石膏ボードは二水セッコウの純度が高く、特別な化学的前処理が必要では ないことから単純な粉砕処理のみでリサイクルの検討が可能なものであった。 焼セッコウの製造検討の結果、120℃という比較的低い温度でも得ることができるため、燃焼炉などの 排熱を利用することで低コストなリサイクルが可能である。短時間での処理を考慮すると処理温度を上げ ることで対応することができるが、無水セッコウ生成の可能性もあるため、利用する熱源によりプラント の形状は検討すべき事項である。 一方、工業製品の原料として付加価値の高い炭酸カルシウムの製造は基本的に可能であるが、既存技術 特許の回避、生産性、経済性の観点からより詳細な検討が必要である。これについては今後の検討課題と し、綿密な相談を行った上で実施したい。
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