β -Ga2O3 薄膜への Sn ドーピング効果

-Ga2O3 薄膜への Sn ドーピング効果
○ 石橋和也,合田稜平,岩瀬史樹,工藤淳,高原基,船崎優,高倉健一郎,
角田功,大山英典 ( 熊本高専 ),
中島敏之 ( 中央電子 ),渋谷睦夫 ( エコマザー ),村上克也 ( 日本ガスケミ )
Ga2O3 薄膜作製には,RF マグネトロンスパ
ッタ装置を用い,Si 基板及び石英基板上に成
膜した.スパッタ時間は 30 分,スパッタ温度
は常温とし,雰囲気の割合は Ar:O2 = 9:1 と
した.膜中に Sn を添加する方法としては,
Ga2O3 焼結体ターゲット上のプラズマ発生位置
に Sn の粒を置き,同時にスパッタを行い,Sn
の粒数を変える事により添加量を 0%,0.6%,
図 1 に成膜した Sn 添加-Ga2O3 薄膜の透過
率のグラフを示している.可視光領域
( 300~800 nm ) においては Sn 添加量を増やし
ても透過率は 80%を下回っていない.従って,
Sn 添加を行っても可視光領域においては透過
率は良好である.
100
Transmittance [%]
90
80
70
Sn concentration
60
0%
0.6%
1.5%
50
Annealed at 600°C for 15 min
40
200
400
600
800
Wavelength [nm]
図 1.Sn 添加 Ga2O3 薄膜の透過率
200
150
2
-2
Annealed at 600°C for 15 min
Sn concentration
23
2.実験方法
3.実験結果 及び 考察
100
0%
0.6%
1.5%
2
今日,ITO を主流とする透明電極市場が着
実に成長を続けている一方で,In の価格高騰
及び資源枯渇が懸念されており,In の使用量
を低減する代替材料の研究開発が進められて
いる.現在研究されている代替材料の 1 つに
-Ga2O3 がある.Ga2O3 には ( , , , , ) なる
5 つの形態があるが,その中で相は唯一の安
定相である.また一般に,  相以外の準安定
相 ( , , , ) は,高温熱処理により相に転
移する事が知られている[1] .-Ga2O3 は,他の
透明電極材料と比べて,バンドギャップが約
4.9 eV と広く,紫外域における光利用におい
て大きなアドバンテージを持つ.更にドーパ
ントを選ぶ事により電気伝導性を向上させる
事も出来るため[2],-Ga2O3 は透明電極材料と
して使用出来る可能性がある.我々は-Ga2O3
薄膜の作製及び不純物添加による影響を評価
している.-Ga2O3 への n 型不純物として Sn
が挙げられる.現在までに,SnO2 を混入した
Ga2O3 ターゲットを PLD 法により蒸着する事
により抵抗率の低減に成功した例が報告され
ているが [3] ,PLD 法では,実験室レベルの設
備下での小面積・尐量の低速製膜に限定され
るため,産業性に乏しく液晶ディスプレイ用
透明電極への採用は困難である.それに対し,
スパッタリング法であれば,大面積基板上に
安定した高速製膜を行う事が出来る.そこで,
本研究ではスパッタリング法を用いて Ga2O3
ターゲットと Sn を同時に蒸着させる事により,
Sn 添加-Ga2O3 の形成を試みた.
1.5%と変化させた.また,成膜後の結晶性向
上の為,600℃で 15 分,雰囲気を N2 として熱
処理を施した .その後 ,走査型電子顕微鏡
( SEM ) により,断面の観察を行った.また,
分光光度計により光学特性,X 線回折法
( XRD ) により結晶性の評価をそれぞれ行った.
( h) [ x 10 eV m ]
1.はじめに
50
0
4.0
4.5
5.0
5.5
6.0
Photon Energy [eV]
図 2.Sn 添加 Ga2O3 薄膜のバンドギャップ
o
_
 (712)
_
_
 (603)
 (601)
_
 (311)
_
 (202)
 (111)
 (400)
Annealed at 600 C for 15min
Intensity [a.u.]
また,図 1 より,Sn 添加によって短波長側
の透過率は変化しているように見える.バン
ドギャップの伸縮は,紫外域の透明性に大き
な影響を及ぼすため,Sn 添加による Ga2O3 の
バンドギャップの変化を調査した.成膜した
Sn 添加-Ga2O3 薄膜の Tauc プロットを図 2 に
示す.薄膜のバンドギャップは 5 eV 近傍で,
これは既に報告されている値と一致する [4] .
しかしながら,Sn 添加により僅かにバンドギ
ャップはシフトしており,結晶構造が変化し
た可能性が考えられる.そこで,次に SEM に
より断面の観察を行った.図 3(a) にアンドー
プ ( Sn 0% ),(b) に Sn を 1.5%添加した Ga2O3
薄膜の 断面 SEM 画像 を示 す. アン ドー プ
Ga2O3 試料においては結晶粒及び粒界が観察出
来るのに対し,Sn を添加した試料では確認出
来ない.従って,Sn 添加により結晶構造に何
らかの変化があったものと推察される.そこ
で次に,XRD を用いて薄膜中のピーク強度を
調査した.
図 4 に XRD ( 2θスキャン ) の測定結果を示
している.アンドープ の試料からは,-Ga2O3
に起因するピークが観察された.この結果よ
り,アンドープ Ga2O3 薄膜中には 相が形成
されているものと考えられる.一方,Sn 添加
量を増加させていくと,  相のピーク強度は
徐々に弱まり,Sn を 1.5%添加した試料では
相のみが残っているため,Sn 添加後の薄膜中
では相が支配的である事が判明した.
Sn
concentration
0%
0.6%
(311)
1.5%
Si sub
20
30
40
50
60
70
80
2 [degree]
図 4.Sn 添加 Ga2O3 薄膜の XRD スペクトル
4.まとめ
本研究では,Ga2O3 薄膜への Sn ドープ効果
について調査した.Sn を添加しても可視領域
における透過率は良好であった.また結晶構
造の変化により,バンドギャップが高エネル
ギーにシフトした .更に Sn 添 加量に伴 い
Ga2O3 薄膜内における相のピーク強度は弱ま
り,代わりに相が支配的となった.今後,
XRD の結果を考慮し,熱処理の温度や時間を
変化させて  相の形成過程を調査し,また薄
膜の導電率の評価も行う.
参考文献
[1] R. Roy et. al., Polymorphism of Ga2O3 and
the system Ga2O3–H2O, J. Am. Chem. Soc,
74, 719-722, (1952).
[2] N. Ueda et. al., Synthesis and control of
conductivity of ultraviolet transmitting Ga2O3 single crystals, Appl. Phys. Lett., 70,
3561-3563, (1997).
[3] M. Orita, et. al. Deep-ultraviolet transparent
conductive -Ga2O3 thin films, Appl. Phys.
Lett., 77, 4166-4168, (2000).
[4] H. H. Tippins, Optical Absorption and
Photoconductivity in Band Edge of -Ga2O3,
Phys. Rev., 140, A316-A318, (1965).
[ 問い合わせ先 ]
熊本高等専門学校 高倉健一郎,tel/fax 096242-6074,e-mail [email protected]
図 3.(a)アンドープ,(b)1.5%Sn 添加 Ga2O3
薄膜の断面 SEM 像