地域リハビリテーションにおける 小児施設の役割は?―障害児施設の改革

茨城県からの発信―障害のある小児を支える地域リハビリテーション
第5回
地域リハビリテーションにおける
小児施設の役割は?―障害児施設の改革
伊部茂晴
(茨城県立こども福祉医療センター 医務局長,医師)
120 人程度の入所児が常時在籍していたが,この 2,
はじめに
3 年は 40 人前後で推移している。一方外来でのリハ
需要は高くなり,特に近年,発達障害児の作業療法
肢体不自由児施設は,長らく身体的障害を持つ小
希望が増加し,現在外来での訓練回数は理学療法・
児の医療ならびに家族を含めた生活を支援する目的
作業療法ともに患者一人当たり月 1∼2 回となって
で主に入所施設として機能してきた。しかし,障害
いる。県内の小児リハの状況としては平成 7 年開校
児の病像の変化や少子化などの影響により外来機能
の茨城県立医療大学にリハ医療を主目的とする付属
を重視するかたちへ変容してきた。本稿では施設の
病院が開設され,主たる対象は成人とはいえ小児リ
歴史と現状ならびに今後の課題について,地域リハ
ハを担当する職員も配置された。それにより,それ
ビリテーションへの関与を中心に述べる。
までほとんど当センターのみで関わっていたこの分
野のリハの分散が図られた。その後,県内の療法士
茨城県立こども福祉医療センターの歴
史と現状
茨城県立こども福祉医療センター(以下,当セン
の増加とともに各地域の一般病院でのリハも徐々に
拡大される方向にある。
特別支援学校との連携
ター)は昭和 36 年に県唯一の肢体不自由児施設と
して全国で 46 番目に設置された。開所当時,医師
従来より隣接する県立水戸養護学校(肢体不自由)
は整形外科のみで主な対象疾患は先天性股関節脱
とは当センター入所児について連絡会や児童考察会
臼,ポリオによる麻痺性変形,熱傷の瘢痕であり,
などでお互いの情報交換を行ってきた。医療面では,
手術および長期入所によるリハビリテーション(以
通学児童に関しては校医として小児科的に医療的ケ
下,リハ)を行っていた。それらの疾患は予防措置
アの指導を直接学校に出向いて行い,また,整形外
の奏功により激減し,代わって脳性麻痺など脳原性
科では年 2 回整形外科診と称して運動機能の
疾患が施設の有するリハ資産を有効に使う意味もあ
チェックと四肢関節の拘縮や変形などのスクリーニ
り入所児の中心となってきた。入所児の重度化に伴
ングを行い,症状に応じて医療機関,特に当センター
い,昭和 56 年には小児科医の常勤化とともに増床,
に基礎情報としてのカルテをつくっておくことを勧
母子棟を含め 160 床の施設となった。当時,外来診
めている。校内での転倒や発作などで診療が必要な
療は通院リハも含め副次的なものであった。近年に
場合,当センター外来で対応することが多いが,そ
なり障害児における義務教育化や少子化の影響など
の際にも基礎情報は重要である。一方,訓練関連で
により障害児の在宅療育が普遍化されるとともに,
は教職員の希望により当センターでの訓練状況の見
養護学校の寄宿舎増設や重度心身障害児施設の新設
学などを保護者の同意のもと許可しているが,特に
などの影響により入所児数は減少し,ピーク時には
定期的な意見交換は行っていない。
地域リハ 4
(5)
:435−437, 2009 1880−5523/09/¥400/論文/JCLS
茨城県からの発信―障害のある小児を支える地域リハビリテーション
表 あり方検討委員会における今後の方向性 (抜粋)
育等支援事業の実施施設として登録され,活動を開
1 .在宅肢体不自由児への支援強化
外来診療,訓練,短期入所など
2 .重症心身障害児(者)への対応
外来診療,施設入所,短期入所のいずれにも対応する
3 .軽度発達障害児への対応
外来診療および機能訓練の実施
4 .運動発達遅滞を伴う重度知的障害児への対応
外来診療の継続
5 .地域支援の強化
地域療育等支援事業を実施し,特に在宅障害児および地域
の施設への支援強化
6 .他機関との連携強化
1 水戸養護学校との連携強化
2 県立医療大学付属病院との連携強化
3 県立こども病院との連携強化
始した。茨城県にはすでに 7 カ所の事業所が指定さ
ほかの特別支援学校とは従来,情報交換は保護者
れていたが,いずれも重度心身障害児・者および知
的障害児・者が対象で肢体不自由児に対する事業所
はなかった。現在実施している事業は具体的には以
前より行ってきた市町村の通所施設への指導事業や
保健センターや学校での相談事業,地域の療育関係
者に対する地域療育セミナーの開催などであり,個
別の訪問療育は職員の配置が難しく実施できていな
い。
茨城県立こども福祉医療センターにお
ける地域リハビリテーションの役割と
課題
を通じての文書による情報提供,あるいは教職員の
同伴に限られていた。現実的には外来で診ている障
以上より,当センターには昔から障害児の医療お
害児が水戸養護学校以外の特別支援学校に通学して
よびリハを行ってきた歴史があり,経験豊富な職
いる場合,学校での様子は一部を除いて保護者を通
員・職種がいることはさらに地域リハに生かすべき
じてしか知ることはできず,保護者からの訴えや希
であり,短期入所など福祉分野を含め小児リハの中
望がないかぎりわれわれも学校側へ関与することは
心的役割を担うべきであると考えている。障害児に
不可能な状況である。
とってもかかりつけ医としての医療的情報が集約さ
れており,ほかの教育,福祉,医療機関と連携する
あり方検討会の結果
ことにより,より効果的なリハを受けることができ
る。また,入院しての集中的な訓練や手術的治療の
以上のような状況下,県の障害福祉課と識者によ
実施など医療機関でしか成し得ない専門的療育の提
るあり方検討会が 2006 年に開催され,表 のような
供が可能である。
方針が示された。基本的には大きな組織の改変はせ
今回,小児リハ・サポートネットへの参加により,
ず,現状の人員,施設でできることを需要に合わせ
当センターからの情報を障害児に関わるより広い分
て工夫するということであった。しかし,この中で
野の職種に提供できること,また,勉強会や研修を
障害児地域療育等支援事業を行うことや重度の障害
通じて各地域でのリハレベルの向上に役立つことが
児を積極的に診ること,発達障害児についても対応
できると考えている。また,当センターにとっても
することなどが盛り込まれ,従来公的には入所中心
障害児の日常生活の把握や生活環境の把握などは,
で閉鎖的にみられた施設が対象疾患もより広範囲と
従来,患者・家族からの聞き取りが主であったが,
なり,またセンター外の活動も認められたことは画
第 3 者的な視点で見た情報を得ることができるよ
期的なことである。特に特別支援学校との連携強化
うになることも重要である。
も重要な課題に挙げられており,公的な機関である
今後,解決すべき課題としては,センター独自に
当センターが地域リハに積極的に参加し得る基盤は
も在宅児への訪問などを実施し生活の把握を行うこ
できたと考えている。
とや他施設との連携を取るうえで重要なコーディ
ネータとなるべき職種を確定することが挙げられ
障害児者地域療育等支援事業
る。また,同様な展開が未就学児や学校卒業後の障
害児にも適用されるようにすべきであろう。今後,
平成 19 年 4 月より当センターは障害児者地域療
当センターとしては地域療育連携室のような名称で
地域リハ Vol.4 No.5 2009 年 5月
茨城県からの発信―障害のある小児を支える地域リハビリテーション
専門職員の配置を望んでいる。
型の障害児総合医療施設として変わるところなど各
県におけるほかの小児施設の設置状況によってさま
おわりに
ざまである。ただ少なくとも従来と同じかたちでは
存続し得ないというのは確かであり,施設の存在意
肢体不自由児施設は時代の移り変わりとともに重
義としての障害児の地域リハへの参画は重要であ
度心身障害児の入所が中心になるところ,主に外来
り,むしろ中心となって活動すべきと考えている。
地域リハ Vol.4 No.5 2009 年 5月