V416 BN

第1章
1
数列
数列の極限と ε-δ 論法
実数列 {an }∞
n=1 に対し,n を大きくするとき an が実数 α に限りなく近づくとき,{an }
は α に収束するという.このとき,
an → α (n → ∞)
または
lim an = α
n→∞
と書く.
例 1.1 n → ∞ のとき,次が成り立つ.ただし,a > 1 とする.
(−1)n
→0
n
n2
(5) n → 0
a
1
→0
n
√
√
(4) n + 1 − n → 0
(2)
(1)
2n2
2
(3)
→
2
3n + 8
3
(1)-(3) については省略する.
(4) については,次のように有理化を行えばよい:
√
n+1−
√
1
n= √
√ → 0.
n+1+ n
(5) については,a = 1 + h (h > 0) とおいて,二項定理より次に注意する:
an = (1 + h)n = 1 + nh + n C2 h2 + n C3 h3 + · · · +
> n C3 h3 =
n(n − 1)(n − 2) 3
h.
3!
これから,
0<
n2
<
an
n2
n(n−1)(n−2) 3
h
3!
=
3!
1
→ 0 (n → 0)
1
3
h (1 − n )(n − 2)
n2
= 0 となる.■
n→∞ an
となるから,はさみこみの原理より lim
数列の収束は,はじめの方の幾つかの項は極限値から離れているかもしれないが,ある
番号から先は極限値の近くにいる,というイメージである.
問 1.1 a > 1 とする.はさみこみの原理より,次を示せ:
n!
an
=0
(2) lim n = 0.
(1) lim
n→∞ n
n→∞ n!
an n!
,
より大きくて,0 に収束する数列を探すのだが,n のべき n−p (p > 0) か 0 < r < 1
n! nn
をみたす r をとって rn の定数倍を考えれば十分である.考えている数列を書き直して考
えることが必要であろう.
1
ここで,次の定理を考える.
定理 1.1 実数列 {an } に対して an → α (n → ∞) が成り立つならば,
a1 + a2 + · · · + an
→ α (n → ∞)
n
が成り立つ.■
イメージとしては,ある番号からは an は大体 α だから,はじめの k 個を別にして
a1 + a2 + · · · + an
a1 + a2 + · · · + ak ak + a2 + · · · + an
=
+
n
n
n
a1 + a2 + · · · + ak n − k
≒
+
α→α
n
n
ということである.しかし,
「大体」ってどういうこと?
k 個を別にするとは? ≒ なんて記号を使って良いのか?
のような疑問が出て,当然である.
これを数学的に厳密に議論できるようにしよう,というのが ε-δ 論法である.
数列の収束は,次のように定義される.
定義 1.1 任意の (小さい)ε > 0 に対して,ある自然数 N が存在して (ε に応じてとれて)
n ≧ N ならば |an − α| < ε が成り立つとき,数列 {an } は α に収束するという.■
上に述べた「数列の収束は,はじめの方の幾つかの項は極限値から離れているかもしれ
ないが,ある番号から先は極限値の近くにいる」ということを,
i) N − 1 までの数列の値には何も触れず,
ii) N 番目以降の数列は α ± ε の範囲に入っているという
ことで,数学的に言い表している.
関数の連続性の定義が典型的で,その際 ε と δ という文字を通常用いるので,これらを
用いた議論を ε-δ 論法という.
1
1
1
< ε は,n > で成り立つ.よって,N としては 以上の整数であればよい.
n
ε
ε
1
1
1
「誤差」ε が
のときは n ≧ 11 であれば <
となるし (N = 10 + 1),
10
n
10
1
1
1
ε=
のときは n ≧ 1001 ならば <
となる (N = 1001).■
1000
n
1001
例 1.2
「任意の ε > 0 に対して,ある自然数 N が存在して |an −α| < ε
(n = N, N +1, N +2, ...)
が成り立つ」というのを,簡単に,
「∀ε > 0, ∃N s.t. |an − α| < ε (n = N, N + 1, N + 2, ...)」と書く.
2
これは,
「for any ε > 0, there exists N such that |an − α| < ε (n = N, N + 1, N + 2, ...)」
を簡単に書いたものである.ここで,∀ は any の a(A) をひっくり返した記号であり,∃
は exists の e(E) をひっくり返した記号である.
定理の証明.仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N が存在して n ≧ N ならば
α−
ε
ε
< an < α +
2
2
(*)
が成り立つ.a1 + · · · + an を N 以前の和と N 以降の和に分けて
a1 + · · · + an
a1 + · · · + aN
aN +1 + · · · + an
=
+
n
n
n
と表して,(*) を用いると
a1 + · · · + aN (n − N )(α − 2ε )
a1 + · · · + an
a1 + · · · + aN (n − N )(α + 2ε )
+
<
<
+
n
n
n
n
n
が分かる.最左辺,最右辺は,n → ∞ のとき,
(n − N )(α − 2ε )
a1 + · · · + aN
ε
+
→α− ,
n
n
2
ε
(n − N )(α + 2 )
a1 + · · · + aN
ε
+
→α+
n
n
2
である.このことから,自然数 N ′ が存在して,n ≧ N ′ ならば次が成り立つ:
a1 + · · · + aN
(n − N )(α − ε) (
ε) ε
− = α − ε,
+
> α−
n
n
2
2
a1 + · · · + aN
(n − N )(α + ε) (
ε) ε
+ = α + ε.
+
< α+
n
n
2
2
以上を合わせると,n > max{N, N ′ } であれば
a1 + · · · + an
<α+ε
n
a1 + · · · + an
→ α を意味する. □
が成り立つ.これは,
n
ε
注意:最後に ε が出てくるように,はじめに を用いて仮定の言い換えをした.当面はこ
2
の方が良い.演習ではこれを正解としている.
α−ε<
慣れてくると,必ずしも,このようにすることはなく,次でも良い.
「仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N が存在して n ≧ N ならば
α − ε < an < α + ε
(*)
が成り立つ.
a1 + · · · + aN
aN +1 + · · · + an
a1 + · · · + an
=
+
n
n
n
3
と表して,(*) を用いると
a1 + · · · + an
a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε)
a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε)
+
<
<
+
n
n
n
n
n
が分かる.n → ∞ のとき,
a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε)
+
→ α − ε,
n
n
a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε/2)
+
→ α+ε
n
n
である.このことから,自然数 N ′ が存在して,n ≧ N ′ ならば
a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε)
+
> α − 2ε,
n
n
a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε)
+
< α + 2ε
n
n
が成り立つ.
以上を合わせると,n > max{N, N ′ } であれば
α − 2ε <
a1 + · · · + an
< α + 2ε
n
が成り立つ.ε は任意に小さくとれるので,2ε も任意に小さくとれる.よって,これは
a1 + · · · + an
→ α を意味する.
」
n
4
命題 1.2 実数列 {an }, {bn } がそれぞれ α, β に収束しているならば,{an + bn }, {an bn } も
それぞれ α + β, αβ に収束する.■
当たり前のことだという感覚が大切だが,ε-δ 論法に慣れるために証明する.(講義では
省略する)
証明.仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N1 , N2 が存在して
ε
n ≧ N1 ならば |an − α| < ,
2
c ≧ N2 ならば |bn − β| <
ε
2
が成り立つ.とくに,N = max{N1 , N2 } とすると
n ≧ N ならば |an − α| <
ε
ε
かつ |bn − β| <
2
2
(n ≧ N )
が成り立つ.よって,n ≧ N ならば
|(an + bn ) − (α + β)| = |(an − α) + (bn − β)|
≦ |an − α| + |bn − β| <
ε ε
+ =ε
2 2
が成り立つ.これは,{an + bn } が α + β に収束することを示す.□
または,次でもよい.(というか,こちらの方が易しい)
「仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N1 , N2 が存在して
n ≧ N1 ならば |an − α| < ε,
n ≧ N2 ならば |bn − β| < ε
が成り立つ.とくに,N = max{N1 , N2 } とすると
n ≧ N ならば |an − α| < ε かつ |bn − β| < ε
が成り立つ.よって,n ≧ N ならば
|(an + bn ) − (α + β)| = |(an − α) + (bn − β)|
≦ |an − α| + |bn − β| < 2ε
が成り立つ.ε は任意に小さくとれるので 2ε も任意に小さくできるので,これは {an + bn }
が α + β に収束することを示す.
」
積の方も次のように証明できる.後者の方法のみ示す.
まず次に注意する.
|an bn − αβ| = |(an − α)bn + α(bn − β)|
≦ |an − α| · |bn | + |α| · |bn − β|.
5
n ≧ N とすると,ε は小さい数だから 1 より小として良いので
|an bn − αβ| ≦
ε(
ε)
ε
|α| + |β| + 1
β+
+ |α| ≦
ε
2
2
2
2
|α| + |β| + 1
ε は任意に小さくできるので,これは {an bn } が αβ に収束すること
2
を意味する.□
となる.
無限大に発散する数列は次のように定義される.
定義 1.2 (1) 任意の (大きい数)K > 0 に対して自然数 N が存在して n ≧ N ならば an > K
となるとき,実数列 {an } は ∞ に発散するという.
(2) 任意の (大きい数)K > 0 に対して自然数 N が存在して n ≧ N ならば an < −K とな
るとき,実数列 {an } は −∞ に発散するという.
6
2
集合の上限,下限
定義 2.1 S を実数全体 R の部分集合とする.
(1) M が S の最大値 (最大数) であるとは,
M ∈S
かつ,すべての x ∈ S に対して
x≦M
が成り立つことをいう.このとき,M = max S と書く.
(2) m が S の最小値 (最小数) 最小数であるとは,
m∈S
かつ,すべての x ∈ S に対して
x≧m
が成り立つことをいう.このとき,M = min S と書く.
一般に,R の部分集合は,最大数,最小数をもつとは限らない.
例 2.1 (1) 開区間 I = (0, 1) を考えると,0, 1 は I の要素 (元) ではないのでそれぞれ最小
数,最大数ではない.
}
{1
; n = 1, 2, ... とすると,この集合には最大数 1 が存在するが,最小数は存在
(2) J =
n
しない.
この2つの例,どちらにおいても
すべての x に対して,x ≦ 1 かつ x ≧ 0
である.これを念頭に置いて,集合の上界,上限,下界,下限という概念を定義する.
定義 2.2 S を R の部分集合とする.
(1) M が集合 S の上界であるとは,
すべての x ∈ S に対して x ≦ M が成り立つこと
である.そして,S の上界の中で最小の数を上限と呼び,sup S と表す.
(2) m が集合 S の下界であるとは,
すべての x ∈ S に対して x ≧ m が成り立つこと
である.そして,S の下界の中で最大の数を下限と呼び,inf S と表す.
例 2.2 (1) I = (0, 1) のとき,1 以上の実数はすべて I の上界であり,sup I = 1 である.
同様に,0 以下の数はすべて I の下界であり,inf I = 0 である.
}
{1
; n = 1, 2, ... に対しても,sup J = 1, inf J = 0 である.
(2) J =
n
7
重要な注意
±∞ を許せば,部分集合の上限 (下限) は必ず存在する.もし,最大数 (最
小数) が存在するならば,上限と最大数 (下限と最小数) は一致する.
}
{
1
例 2.3 S = 1 − ; n = 1, 2, ... とすると,
n
sup S = 1,
inf S = min S = 1,
max S は存在しない.
S を数直線上に書いて確認すれば,簡単な話であることが分かる.
命題 2.1 S を R の部分集合とするとき,M = sup S であることの必要十分条件は
(i) すべての x ∈ S に対して x ≦ M であり,
(ii) 任意の ε > 0 に対して,M − ε < x をみたす x ∈ S が存在する
ことである.
上限が S の元を越える最小の数であることを考えれば,命題は理解できる.(ii) が重要
である.実際,(ii) を否定すると,ある ε > 0 が存在して,M − ε ≧ x がすべての x ∈ S
に対して成り立つということになり,M の上界の中での最小性に反する.
下限についても,同様に次が成り立つ.
命題 2.2 S を R の部分集合とするとき,m = inf S であることの必要十分条件は
(i) すべての x ∈ S に対して x ≧ m であり,
(ii) 任意の ε > 0 に対して,m + ε < x をみたす x ∈ S が存在する
ことである.
8
上極限,下極限
{an }∞
n=1 を実数列とするとき,
sk = sup an ≡ sup{ak , ak+1 , ak+2 , ...} は k について単調減少であり,
n≧k
uk = inf an ≡ inf{ak , ak+1 , ak+2 , ...} は k について単調増加である.
n≧k
∞
したがって,{sk }∞
k=1 , {uk }k=1 は収束するか,±∞ に発散するかのいずれかである.すべ
ての k について,∞ または −∞ という場合もあり得る.
この極限を上極限,下極限といい,lim supn→∞ an , lim inf n→∞ an と書く:
lim sup an = lim sk = lim sup an ,
n→∞
k→∞
k→∞ n≧k
lim inf an = lim uk = lim inf an .
n→∞
k→∞
例 2.4 an = (−1)n +
a2n = 1 +
1
,
2n
k→∞ n≧k
1
とすると,
n
a2n+1 = −1 +
1
2n + 1
であり (supn≧k an ,inf n≧k ak を考えるまでもなく)
lim sup an = 1,
n→∞
lim inf an = −1.
n→∞
9
3
実数の連続性
実数の全体が数直線であり,連続的につながっていると考える.これを数列のことばで
表すと次のようになり,便利なことがある.
少し準備をする.
定義 3.1 実数列 {an } に対して,an ≦ M がすべての n に対して成り立つような定数 M
が存在するとき,言いかえると sup{an ; n = 1, 2, ...} が有限のとき,{an } は上に有界であ
るという.
同様に,an ≧ m がすべての n に対して成り立つような定数 m が存在するとき,言いか
えると inf{an ; n = 1, 2, ...} が有限のとき,{an } は下に有界であるという.■
次を実数の連続性という.
定理 3.1 単調増加で上に有界な実数列 {an } は,n → ∞ のときある実数に収束する.
また,単調現象で下に有界な実数列 {an } は,n → ∞ のときある実数に収束する.■
注意:有理数の範囲では,この定理は成り立たない.
例 3.1 an =
n
∑
1
とおく.An は正の数を n 個加えているので,単調増加である.
k!
k=0
また,k! ≧ 2k−1 (k = 2, 3, ...) だから,
∞
n
∑
∑
1
1
<1+1+
=3
an ≦ 1 + 1 +
k−1
k−1
2
2
k=2
k=2
となる.つまり,すべての n に対して an < 3 が成り立つ.
n
(
∑
1
したがって,実数の連続性より an =
はある実数に存在する.この数が lim 1 +
n→∞
k!
k=0
)
1
= e と一致することを学んでいるハズである.
n
n
∑
1
例 3.2 an =
とおくと,an は n → ∞ のとき収束する.
2
k
k=1
an は,正数を n 個加えるのだから,明らかに単調増加である.
an ≦ M (n = 1, 2, ...) をみたす定数 M が存在することを示せば,実数の連続性から an
π2
の収束が分かる (極限値が幾つかは別の話!実は, である!).
6
1
1
(1) 2 ≦
(k ≧ 2) より
k
k(k − 1)
an ≦ 1 +
n
∑
k=2
n (
∑
1
1)
1
1
=1+
−
=2− <2
k(k − 1)
k−1 k
n
k=2
10
となり,すべての n に対して an < 2 が成り立つ.
次のようにしても,an < 2 (n ≧ 1) が分かる.
1
1
,...,[n − 1, n] 上に高さ 2 の長方形
2
2
n
を書くと,その面積の総和が an である.図を書くと
∫ n
1
1
an ≦ 1 +
<2
dx
=
2
−
2
n
1 x
(2) 区間 [0, 1] 上に高さ 1 の正方形,[1, 2] 上に高さ
が分かるから,すべての n に対して an < 2 である.■
例 3.3 {an } を,
a1 =
√
2,
an+1 =
√
2 + an (n = 1, 2, ...)
によって定める.
(1) 0 < an < 2 (n = 1, 2, ...) が成り立つ.
(2) {an } は単調増加である.
(3) an の極限を求める.
(1) an > 0 は定義から明らか.an < 2 は帰納法による.
(2) a2n+1 − a2n = −(an + 2) − a2n = −(an − 2)(an + 1) だから,(1) を用いると a2n+1 > a2n
が分かる.an > 0 より,an+1 > an が成り立つ.
(3) 実数の連続性より an は収束するから,極限値を λ とする.漸化式で n → ∞ とする
√
と,λ = 2 + λ となる.λ2 − (2 + λ) = (λ − 2)(λ + 1) だからこの方程式の 0 ≦ λ ≦ 2 を
みたす根は 2 だけであり,λ = 2 となる.つまり,an は 2 に収束する.■
問 3.1 0 < a < b とし,{an }, {bn } を a1 = a, b1 = b,
an+1 =
√
an bn ,
bn =
a n + bn
2
によって定める.
(1) bn > an (n = 1, 2, ...) を数学的帰納法により示せ.
(2) {an } が単調増加,{bn } が単調減少であることを示せ.
(3) 2n 個の実数 a1 , a2 , ..., an , b1 , b2 , ..., bn の大小関係を不等式で表し,{an } が上に有界,
{bn } が下に有界であることを示せ.
(4) n → ∞ のとき,{an }, {bn } が同じ値に収束することを示せ.
11
4
収束する部分列
数列 {an }∞
n=1 の部分集合 {ani } (n1 < n2 < · · · ) を {an } の部分列という.{an } は収束し
ないが,収束する部分列をもつことがある.
例 4.1 an = (−1)n とおくと,{an } は収束しないが,{a2n },{a2n+1 } は収束する.
1
a′n = (−1)n + についても同様である.
n
定理 4.1 (ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理) 数列 {an }∞
n=1 が有界であれば,つま
りすべての n に対して |an | ≦ M が成り立つような定数 M が存在するならば,{an }∞
n=1 の
収束する部分列が存在する.
証明のために,次を示す.
命題 4.2 R の有界閉区間の列 In = [an , bn ] (n = 1, 2, ...) があり,
I1 ⊃ I2 ⊃ · · · ⊃ In ⊃ · · ·
をみたすと仮定すると,すべての In に含まれる α ∈ R が存在する.つまり,
∞
∩
In ̸= ∅.
n=1
証明.仮定から,
a1 < a2 < · · · < an < bn < · · · < b2 < b1
となっているので,{an } は単調増加であり an < b1 ,つまり上に有界である.同様に,
{bn } は単調現象であり bn > a1 ,つまり下に有界である.したがって,実数の連続性より
{an }, {bn } はともに収束する.
それぞれの極限値を a, b とすると,an < bn より a ≦ b が成り立つ.よって,a ≦ α ≦ b
なる α はすべての In = [an , bn ] に含まれる.
□
ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理の証明.仮定から,すべての n に対して
m ≦ an ≦ M
が成り立つような定数 m, M が存在する.I = [m, M ] とおく.
]
[ m + M ] [m + M
,
, M の少なくとも一方には無限個の
まず,I を 2 等分すると, m,
2
2
an が含まれる.その一つを I1 = [m1 , M1 ] とする.
次に,I1 を 2 等分すると,少なくとも一方には無限個の an が含まれる.その一つを
I2 = [m2 , M2 ] とする.
12
以下,同様に有界閉区間 Ik = [mk , Mk ] の列を考えると,
I1 ⊃ I2 ⊃ · · · ⊃ Ik ⊃ · · ·
となる.Ik に含まれる最小の {an } の要素を ank とすると,
mk ≦ ank ≦ Mk
である.すると,Mk − mk → 0 だから,これらは同じ値に収束する.
13
□
5
コーシー列
数列の収束を示す際に,コーシー列という概念が役に立つことがある.
例 5.1 a1 = 2, an+1 = 2 +
しても,
1
(n = 1, 2, ...) によって {an } を定める.初めの幾つかを計算
an
1
5
= = 2.5
2
2
5
29
a4 = 2 +
=
= 2.416...
12
12
a2 = 2 +
2
12
=
= 2.4
5
5
12
a5 = 2 +
= 2.413...
29
a3 = 2 +
と単調でない.
なお,この数列は,計算をしないで書くと
a2 = 2 +
1
2
a3 = 2 +
a4 = 2 +
1
2 + 2+1 1
a5 = 2 +
2
1
2+
1
2
1
2+
1
2+
1
2+ 1
2
となり,連分数と呼ばれる.
定義 5.1 {an } を実数列とする.任意の ε > 0 に対してある自然数 N が存在して,n, m ≧ N
ならば
|an − am | < ε
が成り立つとき,{an } をコーシー列という.
定理 5.1 実数列 {an } が収束することとコーシー列であることは同値である.
上の例では,an > 2 だから
(
1 ) (
1 ) |an−1 − an−2 |
1
|an − an−1 | = 2 +
− 2+
< |an−1 − an−2 |
=
an−1
an−2
an−1 an−2
4
となるから,
|an − an−1 | <
( 1 )n−2
4
|a2 − a1 |
となる.したがって,n > m ならば
|an − am | ≦ |an − an−1 | + |an−1 − an−2 | + · · · + |am+1 − am |
(( 1 )n−2 ( 1 )n−3
( 1 )m−1 )
<
+
+ ··· +
|a2 − a1 |
4
4
4
4|a2 − a1 | ( 1 )m−1
<
3
4
14
となる.
4|a2 − a1 | ( 1 )N −1
< ε となるように N を十分大きくとると,m, n ≧ N
3
4
ならば |an − am < ε となり,{an } がコーシー列であることが分かる.
したがって,
{an } がコーシー列であることが分かったので,定理より収束する.極限値を λ とする
と,漸化式で n → ∞ とすると λ は
1
λ=2+ ,
λ
よって, λ2 − 2λ − 1 = 0
をみたす.λ ≧ 2 より λ = 1 +
√
2 となる.
定理 5.1 の証明.
{an } が α ∈ R に収束すると仮定する.このときは,任意の ε > 0 に対し
てある自然数 N0 が存在して n ≧ N0 ならば
|an − α| < ε
が成り立つ.よって,n, m ≧ N0 に対して,
|an − am | ≦ |an − α| + |am − α| < 2ε
となる.よって,{an } はコーシー列である.
逆に,{an } がコーシー列である,つまり任意の ε > 0 に対して自然数 N が存在して,
n, m ≧ N ならば |an − am | < ε となるとする.これから,n ≧ N なら
aN − ε < an < aN + ε (n = N + 1, N + 2, ...)
が成り立つことが分かり,{an } は有界であることが分かる.
したがって,αn = inf{ak ; k ≧ n}, βn = sup{ak ; k ≧ n} は有限である.{αn } は単調増
加,{βn } は単調減少であり,
α1 ≦ α2 ≦ · · · ≦ αn ≦ βn ≦ · · · ≦ β2 ≦ β1
が成り立つ.
ここで,−ε < ap − aq < ε (p, q ≧ N ) より,q を固定すると,
−ε < sup{ap − aq ; p ≧ n} = βn − aq ≦ ε
となる.これから,
−ε ≦ sup{βn − aq ; q ≧ n} = βn − inf{an ; q ≧ n} = βn − αn ≦ ε
となる.よって,n ≧ N ならば α, βn が同じ値に収束することを示し,
(注: lim αn = lim inf an ,
n→∞
n→∞
よって {an } は収束する.
lim βn = lim sup an であった)
n→∞
n→∞
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