第1章 1 数列 数列の極限と ε-δ 論法 実数列 {an }∞ n=1 に対し,n を大きくするとき an が実数 α に限りなく近づくとき,{an } は α に収束するという.このとき, an → α (n → ∞) または lim an = α n→∞ と書く. 例 1.1 n → ∞ のとき,次が成り立つ.ただし,a > 1 とする. (−1)n →0 n n2 (5) n → 0 a 1 →0 n √ √ (4) n + 1 − n → 0 (2) (1) 2n2 2 (3) → 2 3n + 8 3 (1)-(3) については省略する. (4) については,次のように有理化を行えばよい: √ n+1− √ 1 n= √ √ → 0. n+1+ n (5) については,a = 1 + h (h > 0) とおいて,二項定理より次に注意する: an = (1 + h)n = 1 + nh + n C2 h2 + n C3 h3 + · · · + > n C3 h3 = n(n − 1)(n − 2) 3 h. 3! これから, 0< n2 < an n2 n(n−1)(n−2) 3 h 3! = 3! 1 → 0 (n → 0) 1 3 h (1 − n )(n − 2) n2 = 0 となる.■ n→∞ an となるから,はさみこみの原理より lim 数列の収束は,はじめの方の幾つかの項は極限値から離れているかもしれないが,ある 番号から先は極限値の近くにいる,というイメージである. 問 1.1 a > 1 とする.はさみこみの原理より,次を示せ: n! an =0 (2) lim n = 0. (1) lim n→∞ n n→∞ n! an n! , より大きくて,0 に収束する数列を探すのだが,n のべき n−p (p > 0) か 0 < r < 1 n! nn をみたす r をとって rn の定数倍を考えれば十分である.考えている数列を書き直して考 えることが必要であろう. 1 ここで,次の定理を考える. 定理 1.1 実数列 {an } に対して an → α (n → ∞) が成り立つならば, a1 + a2 + · · · + an → α (n → ∞) n が成り立つ.■ イメージとしては,ある番号からは an は大体 α だから,はじめの k 個を別にして a1 + a2 + · · · + an a1 + a2 + · · · + ak ak + a2 + · · · + an = + n n n a1 + a2 + · · · + ak n − k ≒ + α→α n n ということである.しかし, 「大体」ってどういうこと? k 個を別にするとは? ≒ なんて記号を使って良いのか? のような疑問が出て,当然である. これを数学的に厳密に議論できるようにしよう,というのが ε-δ 論法である. 数列の収束は,次のように定義される. 定義 1.1 任意の (小さい)ε > 0 に対して,ある自然数 N が存在して (ε に応じてとれて) n ≧ N ならば |an − α| < ε が成り立つとき,数列 {an } は α に収束するという.■ 上に述べた「数列の収束は,はじめの方の幾つかの項は極限値から離れているかもしれ ないが,ある番号から先は極限値の近くにいる」ということを, i) N − 1 までの数列の値には何も触れず, ii) N 番目以降の数列は α ± ε の範囲に入っているという ことで,数学的に言い表している. 関数の連続性の定義が典型的で,その際 ε と δ という文字を通常用いるので,これらを 用いた議論を ε-δ 論法という. 1 1 1 < ε は,n > で成り立つ.よって,N としては 以上の整数であればよい. n ε ε 1 1 1 「誤差」ε が のときは n ≧ 11 であれば < となるし (N = 10 + 1), 10 n 10 1 1 1 ε= のときは n ≧ 1001 ならば < となる (N = 1001).■ 1000 n 1001 例 1.2 「任意の ε > 0 に対して,ある自然数 N が存在して |an −α| < ε (n = N, N +1, N +2, ...) が成り立つ」というのを,簡単に, 「∀ε > 0, ∃N s.t. |an − α| < ε (n = N, N + 1, N + 2, ...)」と書く. 2 これは, 「for any ε > 0, there exists N such that |an − α| < ε (n = N, N + 1, N + 2, ...)」 を簡単に書いたものである.ここで,∀ は any の a(A) をひっくり返した記号であり,∃ は exists の e(E) をひっくり返した記号である. 定理の証明.仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N が存在して n ≧ N ならば α− ε ε < an < α + 2 2 (*) が成り立つ.a1 + · · · + an を N 以前の和と N 以降の和に分けて a1 + · · · + an a1 + · · · + aN aN +1 + · · · + an = + n n n と表して,(*) を用いると a1 + · · · + aN (n − N )(α − 2ε ) a1 + · · · + an a1 + · · · + aN (n − N )(α + 2ε ) + < < + n n n n n が分かる.最左辺,最右辺は,n → ∞ のとき, (n − N )(α − 2ε ) a1 + · · · + aN ε + →α− , n n 2 ε (n − N )(α + 2 ) a1 + · · · + aN ε + →α+ n n 2 である.このことから,自然数 N ′ が存在して,n ≧ N ′ ならば次が成り立つ: a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε) ( ε) ε − = α − ε, + > α− n n 2 2 a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε) ( ε) ε + = α + ε. + < α+ n n 2 2 以上を合わせると,n > max{N, N ′ } であれば a1 + · · · + an <α+ε n a1 + · · · + an → α を意味する. □ が成り立つ.これは, n ε 注意:最後に ε が出てくるように,はじめに を用いて仮定の言い換えをした.当面はこ 2 の方が良い.演習ではこれを正解としている. α−ε< 慣れてくると,必ずしも,このようにすることはなく,次でも良い. 「仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N が存在して n ≧ N ならば α − ε < an < α + ε (*) が成り立つ. a1 + · · · + aN aN +1 + · · · + an a1 + · · · + an = + n n n 3 と表して,(*) を用いると a1 + · · · + an a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε) a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε) + < < + n n n n n が分かる.n → ∞ のとき, a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε) + → α − ε, n n a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε/2) + → α+ε n n である.このことから,自然数 N ′ が存在して,n ≧ N ′ ならば a1 + · · · + aN (n − N )(α − ε) + > α − 2ε, n n a1 + · · · + aN (n − N )(α + ε) + < α + 2ε n n が成り立つ. 以上を合わせると,n > max{N, N ′ } であれば α − 2ε < a1 + · · · + an < α + 2ε n が成り立つ.ε は任意に小さくとれるので,2ε も任意に小さくとれる.よって,これは a1 + · · · + an → α を意味する. 」 n 4 命題 1.2 実数列 {an }, {bn } がそれぞれ α, β に収束しているならば,{an + bn }, {an bn } も それぞれ α + β, αβ に収束する.■ 当たり前のことだという感覚が大切だが,ε-δ 論法に慣れるために証明する.(講義では 省略する) 証明.仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N1 , N2 が存在して ε n ≧ N1 ならば |an − α| < , 2 c ≧ N2 ならば |bn − β| < ε 2 が成り立つ.とくに,N = max{N1 , N2 } とすると n ≧ N ならば |an − α| < ε ε かつ |bn − β| < 2 2 (n ≧ N ) が成り立つ.よって,n ≧ N ならば |(an + bn ) − (α + β)| = |(an − α) + (bn − β)| ≦ |an − α| + |bn − β| < ε ε + =ε 2 2 が成り立つ.これは,{an + bn } が α + β に収束することを示す.□ または,次でもよい.(というか,こちらの方が易しい) 「仮定から,任意の ε > 0 に対して,自然数 N1 , N2 が存在して n ≧ N1 ならば |an − α| < ε, n ≧ N2 ならば |bn − β| < ε が成り立つ.とくに,N = max{N1 , N2 } とすると n ≧ N ならば |an − α| < ε かつ |bn − β| < ε が成り立つ.よって,n ≧ N ならば |(an + bn ) − (α + β)| = |(an − α) + (bn − β)| ≦ |an − α| + |bn − β| < 2ε が成り立つ.ε は任意に小さくとれるので 2ε も任意に小さくできるので,これは {an + bn } が α + β に収束することを示す. 」 積の方も次のように証明できる.後者の方法のみ示す. まず次に注意する. |an bn − αβ| = |(an − α)bn + α(bn − β)| ≦ |an − α| · |bn | + |α| · |bn − β|. 5 n ≧ N とすると,ε は小さい数だから 1 より小として良いので |an bn − αβ| ≦ ε( ε) ε |α| + |β| + 1 β+ + |α| ≦ ε 2 2 2 2 |α| + |β| + 1 ε は任意に小さくできるので,これは {an bn } が αβ に収束すること 2 を意味する.□ となる. 無限大に発散する数列は次のように定義される. 定義 1.2 (1) 任意の (大きい数)K > 0 に対して自然数 N が存在して n ≧ N ならば an > K となるとき,実数列 {an } は ∞ に発散するという. (2) 任意の (大きい数)K > 0 に対して自然数 N が存在して n ≧ N ならば an < −K とな るとき,実数列 {an } は −∞ に発散するという. 6 2 集合の上限,下限 定義 2.1 S を実数全体 R の部分集合とする. (1) M が S の最大値 (最大数) であるとは, M ∈S かつ,すべての x ∈ S に対して x≦M が成り立つことをいう.このとき,M = max S と書く. (2) m が S の最小値 (最小数) 最小数であるとは, m∈S かつ,すべての x ∈ S に対して x≧m が成り立つことをいう.このとき,M = min S と書く. 一般に,R の部分集合は,最大数,最小数をもつとは限らない. 例 2.1 (1) 開区間 I = (0, 1) を考えると,0, 1 は I の要素 (元) ではないのでそれぞれ最小 数,最大数ではない. } {1 ; n = 1, 2, ... とすると,この集合には最大数 1 が存在するが,最小数は存在 (2) J = n しない. この2つの例,どちらにおいても すべての x に対して,x ≦ 1 かつ x ≧ 0 である.これを念頭に置いて,集合の上界,上限,下界,下限という概念を定義する. 定義 2.2 S を R の部分集合とする. (1) M が集合 S の上界であるとは, すべての x ∈ S に対して x ≦ M が成り立つこと である.そして,S の上界の中で最小の数を上限と呼び,sup S と表す. (2) m が集合 S の下界であるとは, すべての x ∈ S に対して x ≧ m が成り立つこと である.そして,S の下界の中で最大の数を下限と呼び,inf S と表す. 例 2.2 (1) I = (0, 1) のとき,1 以上の実数はすべて I の上界であり,sup I = 1 である. 同様に,0 以下の数はすべて I の下界であり,inf I = 0 である. } {1 ; n = 1, 2, ... に対しても,sup J = 1, inf J = 0 である. (2) J = n 7 重要な注意 ±∞ を許せば,部分集合の上限 (下限) は必ず存在する.もし,最大数 (最 小数) が存在するならば,上限と最大数 (下限と最小数) は一致する. } { 1 例 2.3 S = 1 − ; n = 1, 2, ... とすると, n sup S = 1, inf S = min S = 1, max S は存在しない. S を数直線上に書いて確認すれば,簡単な話であることが分かる. 命題 2.1 S を R の部分集合とするとき,M = sup S であることの必要十分条件は (i) すべての x ∈ S に対して x ≦ M であり, (ii) 任意の ε > 0 に対して,M − ε < x をみたす x ∈ S が存在する ことである. 上限が S の元を越える最小の数であることを考えれば,命題は理解できる.(ii) が重要 である.実際,(ii) を否定すると,ある ε > 0 が存在して,M − ε ≧ x がすべての x ∈ S に対して成り立つということになり,M の上界の中での最小性に反する. 下限についても,同様に次が成り立つ. 命題 2.2 S を R の部分集合とするとき,m = inf S であることの必要十分条件は (i) すべての x ∈ S に対して x ≧ m であり, (ii) 任意の ε > 0 に対して,m + ε < x をみたす x ∈ S が存在する ことである. 8 上極限,下極限 {an }∞ n=1 を実数列とするとき, sk = sup an ≡ sup{ak , ak+1 , ak+2 , ...} は k について単調減少であり, n≧k uk = inf an ≡ inf{ak , ak+1 , ak+2 , ...} は k について単調増加である. n≧k ∞ したがって,{sk }∞ k=1 , {uk }k=1 は収束するか,±∞ に発散するかのいずれかである.すべ ての k について,∞ または −∞ という場合もあり得る. この極限を上極限,下極限といい,lim supn→∞ an , lim inf n→∞ an と書く: lim sup an = lim sk = lim sup an , n→∞ k→∞ k→∞ n≧k lim inf an = lim uk = lim inf an . n→∞ k→∞ 例 2.4 an = (−1)n + a2n = 1 + 1 , 2n k→∞ n≧k 1 とすると, n a2n+1 = −1 + 1 2n + 1 であり (supn≧k an ,inf n≧k ak を考えるまでもなく) lim sup an = 1, n→∞ lim inf an = −1. n→∞ 9 3 実数の連続性 実数の全体が数直線であり,連続的につながっていると考える.これを数列のことばで 表すと次のようになり,便利なことがある. 少し準備をする. 定義 3.1 実数列 {an } に対して,an ≦ M がすべての n に対して成り立つような定数 M が存在するとき,言いかえると sup{an ; n = 1, 2, ...} が有限のとき,{an } は上に有界であ るという. 同様に,an ≧ m がすべての n に対して成り立つような定数 m が存在するとき,言いか えると inf{an ; n = 1, 2, ...} が有限のとき,{an } は下に有界であるという.■ 次を実数の連続性という. 定理 3.1 単調増加で上に有界な実数列 {an } は,n → ∞ のときある実数に収束する. また,単調現象で下に有界な実数列 {an } は,n → ∞ のときある実数に収束する.■ 注意:有理数の範囲では,この定理は成り立たない. 例 3.1 an = n ∑ 1 とおく.An は正の数を n 個加えているので,単調増加である. k! k=0 また,k! ≧ 2k−1 (k = 2, 3, ...) だから, ∞ n ∑ ∑ 1 1 <1+1+ =3 an ≦ 1 + 1 + k−1 k−1 2 2 k=2 k=2 となる.つまり,すべての n に対して an < 3 が成り立つ. n ( ∑ 1 したがって,実数の連続性より an = はある実数に存在する.この数が lim 1 + n→∞ k! k=0 ) 1 = e と一致することを学んでいるハズである. n n ∑ 1 例 3.2 an = とおくと,an は n → ∞ のとき収束する. 2 k k=1 an は,正数を n 個加えるのだから,明らかに単調増加である. an ≦ M (n = 1, 2, ...) をみたす定数 M が存在することを示せば,実数の連続性から an π2 の収束が分かる (極限値が幾つかは別の話!実は, である!). 6 1 1 (1) 2 ≦ (k ≧ 2) より k k(k − 1) an ≦ 1 + n ∑ k=2 n ( ∑ 1 1) 1 1 =1+ − =2− <2 k(k − 1) k−1 k n k=2 10 となり,すべての n に対して an < 2 が成り立つ. 次のようにしても,an < 2 (n ≧ 1) が分かる. 1 1 ,...,[n − 1, n] 上に高さ 2 の長方形 2 2 n を書くと,その面積の総和が an である.図を書くと ∫ n 1 1 an ≦ 1 + <2 dx = 2 − 2 n 1 x (2) 区間 [0, 1] 上に高さ 1 の正方形,[1, 2] 上に高さ が分かるから,すべての n に対して an < 2 である.■ 例 3.3 {an } を, a1 = √ 2, an+1 = √ 2 + an (n = 1, 2, ...) によって定める. (1) 0 < an < 2 (n = 1, 2, ...) が成り立つ. (2) {an } は単調増加である. (3) an の極限を求める. (1) an > 0 は定義から明らか.an < 2 は帰納法による. (2) a2n+1 − a2n = −(an + 2) − a2n = −(an − 2)(an + 1) だから,(1) を用いると a2n+1 > a2n が分かる.an > 0 より,an+1 > an が成り立つ. (3) 実数の連続性より an は収束するから,極限値を λ とする.漸化式で n → ∞ とする √ と,λ = 2 + λ となる.λ2 − (2 + λ) = (λ − 2)(λ + 1) だからこの方程式の 0 ≦ λ ≦ 2 を みたす根は 2 だけであり,λ = 2 となる.つまり,an は 2 に収束する.■ 問 3.1 0 < a < b とし,{an }, {bn } を a1 = a, b1 = b, an+1 = √ an bn , bn = a n + bn 2 によって定める. (1) bn > an (n = 1, 2, ...) を数学的帰納法により示せ. (2) {an } が単調増加,{bn } が単調減少であることを示せ. (3) 2n 個の実数 a1 , a2 , ..., an , b1 , b2 , ..., bn の大小関係を不等式で表し,{an } が上に有界, {bn } が下に有界であることを示せ. (4) n → ∞ のとき,{an }, {bn } が同じ値に収束することを示せ. 11 4 収束する部分列 数列 {an }∞ n=1 の部分集合 {ani } (n1 < n2 < · · · ) を {an } の部分列という.{an } は収束し ないが,収束する部分列をもつことがある. 例 4.1 an = (−1)n とおくと,{an } は収束しないが,{a2n },{a2n+1 } は収束する. 1 a′n = (−1)n + についても同様である. n 定理 4.1 (ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理) 数列 {an }∞ n=1 が有界であれば,つま りすべての n に対して |an | ≦ M が成り立つような定数 M が存在するならば,{an }∞ n=1 の 収束する部分列が存在する. 証明のために,次を示す. 命題 4.2 R の有界閉区間の列 In = [an , bn ] (n = 1, 2, ...) があり, I1 ⊃ I2 ⊃ · · · ⊃ In ⊃ · · · をみたすと仮定すると,すべての In に含まれる α ∈ R が存在する.つまり, ∞ ∩ In ̸= ∅. n=1 証明.仮定から, a1 < a2 < · · · < an < bn < · · · < b2 < b1 となっているので,{an } は単調増加であり an < b1 ,つまり上に有界である.同様に, {bn } は単調現象であり bn > a1 ,つまり下に有界である.したがって,実数の連続性より {an }, {bn } はともに収束する. それぞれの極限値を a, b とすると,an < bn より a ≦ b が成り立つ.よって,a ≦ α ≦ b なる α はすべての In = [an , bn ] に含まれる. □ ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理の証明.仮定から,すべての n に対して m ≦ an ≦ M が成り立つような定数 m, M が存在する.I = [m, M ] とおく. ] [ m + M ] [m + M , , M の少なくとも一方には無限個の まず,I を 2 等分すると, m, 2 2 an が含まれる.その一つを I1 = [m1 , M1 ] とする. 次に,I1 を 2 等分すると,少なくとも一方には無限個の an が含まれる.その一つを I2 = [m2 , M2 ] とする. 12 以下,同様に有界閉区間 Ik = [mk , Mk ] の列を考えると, I1 ⊃ I2 ⊃ · · · ⊃ Ik ⊃ · · · となる.Ik に含まれる最小の {an } の要素を ank とすると, mk ≦ ank ≦ Mk である.すると,Mk − mk → 0 だから,これらは同じ値に収束する. 13 □ 5 コーシー列 数列の収束を示す際に,コーシー列という概念が役に立つことがある. 例 5.1 a1 = 2, an+1 = 2 + しても, 1 (n = 1, 2, ...) によって {an } を定める.初めの幾つかを計算 an 1 5 = = 2.5 2 2 5 29 a4 = 2 + = = 2.416... 12 12 a2 = 2 + 2 12 = = 2.4 5 5 12 a5 = 2 + = 2.413... 29 a3 = 2 + と単調でない. なお,この数列は,計算をしないで書くと a2 = 2 + 1 2 a3 = 2 + a4 = 2 + 1 2 + 2+1 1 a5 = 2 + 2 1 2+ 1 2 1 2+ 1 2+ 1 2+ 1 2 となり,連分数と呼ばれる. 定義 5.1 {an } を実数列とする.任意の ε > 0 に対してある自然数 N が存在して,n, m ≧ N ならば |an − am | < ε が成り立つとき,{an } をコーシー列という. 定理 5.1 実数列 {an } が収束することとコーシー列であることは同値である. 上の例では,an > 2 だから ( 1 ) ( 1 ) |an−1 − an−2 | 1 |an − an−1 | = 2 + − 2+ < |an−1 − an−2 | = an−1 an−2 an−1 an−2 4 となるから, |an − an−1 | < ( 1 )n−2 4 |a2 − a1 | となる.したがって,n > m ならば |an − am | ≦ |an − an−1 | + |an−1 − an−2 | + · · · + |am+1 − am | (( 1 )n−2 ( 1 )n−3 ( 1 )m−1 ) < + + ··· + |a2 − a1 | 4 4 4 4|a2 − a1 | ( 1 )m−1 < 3 4 14 となる. 4|a2 − a1 | ( 1 )N −1 < ε となるように N を十分大きくとると,m, n ≧ N 3 4 ならば |an − am < ε となり,{an } がコーシー列であることが分かる. したがって, {an } がコーシー列であることが分かったので,定理より収束する.極限値を λ とする と,漸化式で n → ∞ とすると λ は 1 λ=2+ , λ よって, λ2 − 2λ − 1 = 0 をみたす.λ ≧ 2 より λ = 1 + √ 2 となる. 定理 5.1 の証明. {an } が α ∈ R に収束すると仮定する.このときは,任意の ε > 0 に対し てある自然数 N0 が存在して n ≧ N0 ならば |an − α| < ε が成り立つ.よって,n, m ≧ N0 に対して, |an − am | ≦ |an − α| + |am − α| < 2ε となる.よって,{an } はコーシー列である. 逆に,{an } がコーシー列である,つまり任意の ε > 0 に対して自然数 N が存在して, n, m ≧ N ならば |an − am | < ε となるとする.これから,n ≧ N なら aN − ε < an < aN + ε (n = N + 1, N + 2, ...) が成り立つことが分かり,{an } は有界であることが分かる. したがって,αn = inf{ak ; k ≧ n}, βn = sup{ak ; k ≧ n} は有限である.{αn } は単調増 加,{βn } は単調減少であり, α1 ≦ α2 ≦ · · · ≦ αn ≦ βn ≦ · · · ≦ β2 ≦ β1 が成り立つ. ここで,−ε < ap − aq < ε (p, q ≧ N ) より,q を固定すると, −ε < sup{ap − aq ; p ≧ n} = βn − aq ≦ ε となる.これから, −ε ≦ sup{βn − aq ; q ≧ n} = βn − inf{an ; q ≧ n} = βn − αn ≦ ε となる.よって,n ≧ N ならば α, βn が同じ値に収束することを示し, (注: lim αn = lim inf an , n→∞ n→∞ よって {an } は収束する. lim βn = lim sup an であった) n→∞ n→∞ 15 □
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