ごめんなさい 鳥取県 ほんこうじ 本光寺住職 もり もと しょう わ 森 本 唱 和 今朝は「ごめんなさい」というお話です。 毎週日曜日の午後三時すぎ、きまって小学校四年生の男の子がお寺にきます。 『こんにちは。和尚さん。鯉にエサをあげてもいいですか。』 寺の裏庭には古い池があり、二十匹の大きな鯉が泳いでいます。男の子は鯉のエサ をやり終えると、いつも縁側に腰かけて学校や友達の話をし、帰り際には私がお菓子 などを手渡していました。 しかし、ある日二人で数当ての問題をして、私が間違っていたらお菓子をもう一つ あげる約束をしました。 「それでは問題。好きな数字を一つだけ頭の中に思いうかべて ごらん。」『うん。』「思いうかべた数字に二をかけて。」『うん』などといいなら数当て 問題をしました。しかし私が数を当てたのでお菓子は一つしか渡しませんでした。 すると男の子の顔が急にくもりはじめ今にも泣きそうな表情に…。私が「ごめんよ。 ごめん」と謝りながら、もう一つのお菓子を渡そうとしたところ、男の子はプイと横 を向いて足早に帰ってしまいました。 実はこの数当て問題は、どの数字を思い浮かべても答えは一になると決まっている のです。私は意地悪をしたと大変後悔しました。 次の日曜日。いつものように男の子が来てくれるか心配をしました。しかし書院の 時計が三時の鐘をつげると『こんにちは。和尚さん。この前は腹を立ててごめんなさ い。』と男の子の方から先に謝ったのです。 『ごめんなさい』の一言で逆に私が救われた気持ちになりました。 男の子は両手いっぱいのお菓子をかかえてニコニコと参道を下りていきました。
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