特集 学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 19 電子情報通信学会 SWIM 研究会の 発表を終えて 國 枝 秀 ACID 特性を実現が困難であるため,BASE という より緩和された制約を持つトランザクション特性を 実現している.この環境の下でデータベーストラン 行 ザクションの挙動を事前に検証することがクラウド Hideyuki KUNIEDA を利用する上で重要となる.GAE はデータベース 情報メディア学専攻修士課程 3年 データストアにアクセスするアプリケーション開発 1.はじめに 私は,8 月 21 日に宮城大学 処理をデータストア,Bigtable, GFS の三層で行う. 言語として JAVA に基づく JDO という API を用い 仙台駅前 る.本研究では,アプリケーションからの要求のフ AER サテライトキャンパスで開催された電子情報通信学 ロー,Bigtable と GFS 間のデータフロー,かつ, 会 2013 年度ソフトウェアインタプライズモデリン サーバ側の時間制約に注目し,CPNtools ではデー グ(SWIM)研究会に参加し,「クラウド環境にお タ処理の流れをモデリングし,UPPAAL では機能 けるトランザクション処理の性能評価」という題目 ごとにデータ処理の待ちをモデリングする. で口頭発表を行った. 本稿では,発表した研究内容と発表を通じて得られ たものについて述べていく. 時間カラーペトリネット(TimedCPN) TimedCPN は制御システムなどのモデリングに使 われていたペトリネットに時間的概念であるデータ 2.研究発表 2.1 2.3 型と関数を導入することで,動的なシステムの性能 概要 評価やスケジュール問題などに対してより表現力を 近年,普及が進んでいるクラウドコンピューティ 高めたものである.TimedCPN を用いることで GAE ングは高度な分散化,多重化,仮想化により,性能 が提供する様々な機能,処理フロー,及びデータフ 予測が従来のネットワークシステムに比べ,困難と ローそして処理時間を厳密に記述した単一的なモデ なる.単純な情報検索やアドホックなアプリケーシ リングが可能となる. ョンでは性能予測が重視されないが,今後,本格的 なトランザクション処理をクラウド上に展開するに 2.4 は,この性能予測が重要となる. CPN による GAE モデリング GAE をモデル化する際に機能的に三つの層に分 本論文はトランザクション処理が可能なクラウド 割し,機能単位別にモデリングを行った.三つの機 環境の一つである GoogleAppEngine(GAE)上での 能をデータストア層,Bigtable 層,GFS 層と呼ぶ. 性能予測を時間カラーペトリネット(Timed Colored 以下は GAE を CPN でモデル化した一部である. Petri Net−Timed CPN)により行う手法の提案をす る.まず GAE の主要コンポーネントの構造と動作 を CPN でモデル化し,トランザクションを表すト ークンを M/M/1 待ち行列モデルに基づき発生処理 させ,CPNtools によりシミュレーションを行い, これを評価する. 2.2 GAE におけるトランザクション処理 ク ラ ウ ド 上 で は 従 来 の RDB で 提 供 し て い た ― 81 ― 図1 CPN によるデータストアモデリング 2.5 システムによるデータ処理も同様に行う.その際, CPN における待ち行列理論 GAE はデータを識別するキーと処理するデータ, 処理時間を評価するために,処理前のコピーのトー タイムスタンプの 3 種類によりデータ処理を行う. クンを保持し,処理後のトークンとキーが一致した 待ち行列理論における待ち時間と処理時間を用い トークンのタイムスタンプの差が処理時間となる. て,クラウド環境におけるトランザクション処理の 性能評価を行うモデルの構築を行う.待ち行列モデ 2.6 性能評価 ルは M/M/1 モデルを用いてモデリングする.到着 性能評価は一般的にデータベースの性能評価に用 時間はトークンの遷移が瞬間的に行われるためシス いられるレスポンスタイムとスループットを用い テムの直前にダミーのプレースとトランジションを る. 配置することで表現を行う.この到着時間の遅延は レスポンスタイムは web ブラウザなどから GAE トランジションのガード関数に,分布関数に従って に対し処理要求等があった際に,トランザクション ランダムな時間を記述することで表現可能である. に対する処理が終了するまでの時間とする. 処理時間の表現も同様にアークのアーク関数に時間 スループットとは,単位時間あたりの仕事量のこ とで,例えば 1 日あたりに実行できるジョブの数や 表現を記述する. 1 分あたりに処理できるトランザクション数を指 以上を CPN で表現すると以下の図となる. す. 3.おわりに 図2 研究会には他大学の教授や企業の方が多く来てい CPN による待ちの表現 たため,発表の際には様々な質問をされ,うまく答 プレース“In”からデータを識別するキーと処理す えられないものもあった.きちんと回答できなかっ るデータ,タイムスタンプをトランジション“Proc- たものについては次回以降の発表に生かし,研究に ess”へ送り,到着時間を加算する.到着時間は平 励みたいと考える. 本研究にご指導ご鞭撻を賜りました新川先生に深 均到着率の逆数である平均到着時間により定義す る . ト ラ ン ジ シ ョ ン “ Process ” か ら プ レ ー ス く感謝の念を申し上げます. “Out”へ遅延時間を保持したトークンが送られる. ― 82 ―
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