KP03 MD シミュレーションによる 口蹄疫ウイルス GH ループの解析 (北里大・基礎生命)〇東 1.はじめに 口蹄疫は牛や豚などの家畜が感染する家畜病 として知られている。口蹄疫の病原である口蹄 疫ウイルスはピコロナウイルス科に属し、突然 変異の頻度が高く、ワクチンの効果も限定的で あるため、感染増殖の機構を解明し効果的な薬 物の開発することが求められている。 口蹄疫ウイルスの粒子は、直径 300Åの擬似 T3 型タンパク質と内部の一本鎖+RNA ゲノムか ら構成される。外殻蛋白質については 1990 年代 にX線解析により立体構造が決定され、NMR や 電子顕微鏡からの知見とともに細胞接着物質で あるインテグリンとの結合部である RGD トリプ レットを含む GH ループは宿主識別部位として の機能が議論されているが、構造は明確に示さ れていない。 そこで、我々は口蹄疫ウイルスの感染増殖メ カニズムに対する計算化学的アプローチとして、 外殻タンパク質の分子動力学シミュレーション により、GH ループの構造と運動を解析したので 報告する。 2.方法 2.1 外殻蛋白質初期構造の選択と操作 対象となる口蹄疫ウイルスの構造は、GH ルー プの構造が決定されている還元状態の X 線構造 を採用した。(1FOD) 口蹄疫ウイルスは同じピコロナウイルスであ るポリオウイルス、ライノウイルスと比較して、 計算中に構造収縮の現象が起きる。このため、 同径方向のポテンシャルはU(r) = K (r – r0)²、ただ しr < r0のときはU(r) = 0 とした。Kは定数、r0はr の初期値である。 2.2 正 20 面体回転対称性境界条件 口蹄疫ウイルスの外殻蛋白質は正 20 面体構造 を持ち、60 個の同一構造のサブユニットの集合 体である。本研究では、この正 20 面体対称性を 考慮し、この外殻蛋白質のサブユニットとこれ に隣接するサブユニット 8 個により計算を行う 正 20 面体回転対称性境界条件を利用した。 [email protected] 寛子、(北里大・理)米田 茂隆 2.3 計算条件 APRICOT プログラムを使用し、AMBER パラ メータ parm99 力場と Tip3 を使い 2 本の MD 計 算をした。(水の井戸型ポテンシャルは計算 1 では 68Å<179Å, 計算 2 では 69Å<178Å) 全原子数 33952、 蛋白質残基数 695、 水分 子数(TIP3) 7965、カットオフ 18Å、温度 300K、 水の井戸型ポテンシャル 1kcal/mol/Ų 、時間ス テップ 2fs(SHAKE) とした。 2.4 CYS の S-S 結合への操作 GH ループは VP1 の 130-160 の領域を指し、天然 型のウイルス外殻蛋白質では領域中 CYS134 と VP2 の CYS126 が S-S 結合している。 PDB の 1FOD では還元状態のため S-S 結合は 切断されている。異なる 2 本の 900ps の MD シ ミュレーションによる平衡化計算の後、S-S 結合 部位の操作を行った。 対象となる 2 つの CYS に関して結合させた後 に、AMBER パラメータの SH-SH の電荷と距離 の値を S-S の値に 4 段階(1 段階 20ps)を経て近 づけていき操作を行った。 3.結果と考察 3.1 平衡化計算と外殻蛋白質の収縮 口蹄疫ウイルス外殻蛋白質は平衡化計算を行 うと内部領域へ収縮するので、操作を行いこれ を防いだ。 右の図 1 は平衡化計算での経過時間による口 蹄疫ウイルス外殻蛋白質の収縮を表したもの。 試行 1 は操作なし、試行 2 は内部領域 VP4 を操 作したもの、計算 1 は水和層の調節と、試行 2 でのとくに内部領域へ移動した残基の主鎖の原 子を束縛したものである。200ps までは全ての重 原子を束縛している。また、計算 1 に関しては 900ps 計算後 80ps かけて GH ループ領域の S-S 結合操作を行い、以降平衡化計算を行っている。 図 1 外殻蛋白質の平衡化計算での収縮 3.2 平衡化計算と実験値の比較 平衡化計算 900ps の全 Ca 原子の RMSD は計算 1 では 1.793、計算 2 では 1.8572 となった。 また、下の図 2 に示したように、ゆらぎも一 致を見ることができる。 MD シミュレーションによる平衡化計算の構造 と運動ダイナミクスは、X 線結晶解析の実験値 を再現できている。特に GH ループ領域や chain 末端部分に関しては値が大きくなっていて、両 者の一致をみることができる。 図3 Rasmol による外殻蛋白質と GH ループ 上は X 線結晶構造、下が計算後の構造である。 下は GH ループ領域が立ち上がり、外部に露出 している様子を見ることができ、すでに X 線解 析などから得られている知見を確認できた。本 研究により、今後より詳細な解析を行う基礎を 得ることが出来たと考える。 【参考文献】 [1] S.Yoneda, et al., J.Comput.Chem., 17,191-203 (1996). [2] T.Yoneda, et al., J.Mol.Graphics & Modelling, 17, 114-119 (1999). [3] S.Yoneda, et al., J.Mol.Graphics & Modelling, 21, 19-27 (2002). [4] S. Yoneda, J.Mol.Graphics & Modelling, 15, 233237(color plate 260), (1997). 図2 MD と X 線解析の温度因子の比較 3.3 GH ループの up position における構造 X 線構造と、S-S 結合操作後 1200ps の平衡化 計算を行った構造を右上の図 3 に示す。
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