原油高騰の裏側

イーストヒル ジャパン株式会社
ジャパン株式会社
原油高騰の
原油高騰の裏側
2008 年 7 月 4 日
2008 年 6 月 27 日、ドル安などの影響で、ニューヨーク・マーカンタイル取引所の原油先物
相場において、WTI8 月物が終盤に 1 バレル 142.96 ドルの歴史高値を更新した。僅かの 5
年で、原油価格は 02 年初の 1 バレル 20 ドルから今の 140 ドル以上に暴騰し、6 倍以上も
値上がりした。こういった猛烈な上昇トレンドの背景には、一体どういうような原因が隠れてい
るのだろう。
もっとも、原油も商品
だから、普通の商品と同
じように、その価格は供
給と需要によって決定さ
図1
百万バレル
/天
89
世界原油需要と
世界原油需要 と 供給
87
85
れる。図表1で示された
ように、1997 年から今ま
で、世界の原油需要が
ずっと拡大しており、欧米
などの先進国のほかに、
83
81
79
77
需要
75
中国、インドなどの発展
供給
73
途上国も経済成長に伴
2002年
2005年
2008年
1999年
い、原油への需要が
益々増加している。特に中国では、高度経済成長と消費水準の向上を背景に、自動車へ
の需要が膨らみ、石油製品のガソリンとディーゼルオイルへの旺盛な需要に繋がった。図表 2
で示されたように、2000 年以来、中国の原油への需要は迅速に増加し、需要量が毎年拡
大している。推計によると、
百万バレル
2008 年中国の需要量は毎
/天
8.5
日 800 万バレルに達し、歴史
8.0
中 中 中中 中 中
的な高水準を更新する可能
図2
7.5
性がある。一方、自動車の
普及と工業化の進行につれ
7.0
6.5
6.0
5.5
5.0
4.5
4.0
年
1999
年
2002
年
2005
年
て、中国において原油需要
は今後も引き続き拡大する
に違い無い。しかし、原油は
採掘すればするほど埋蔵量
が減り、いつか枯渇するもの
2008
である。現在、地表に存在す
る石油は殆ど採掘され、取り残した石油の多くは大深度の地下にあり、従来の採油技術で
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りません。投資などのご利用に際して、お客様ご自身の判断でお願いいたします。
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は採掘が難しいである。つまり、地下の石油を採掘するためには、採油技術の向上を図らな
ければならないので、採油コストの増加に繋がる。現に、埋蔵量の減少と採油技術は今石
油供給のネックとなっている。図表 1 で示されたように、原油供給は殆どの時間で需要と同じ
ペースで増加していたが、2007 年以降に供給が目に見えて鈍化した。これは原油価格が当
時 1 バレル 100 ドルまで迫った原因ともなったかもしれない。そのほか、図表 3 で示されたよう
に、世界の原油剰余生産能力は 2003 年から 2005 年にかけて大幅に減少し、2006 年以
降に回復したものの、ずっと 1997 年から 2007 年の平均水準を下回っている。以上の要素
以外に、天候及び地政的リスクも原油供給に影響がある。例えば、アメリカは夏でハリケー
ンが多発し、原油供給を圧迫することが多い。中東情勢の緊迫化、イラク戦争、イランの核
開発、ナイジェリア武装勢力による石油設備攻撃事件、拉致事件などは共に石油輸出国
機構(OPEC)生産量の不安定に繋がり、原油供給を低下させる可能性がある。まとめて言
うと、需給の不均衡は原油高の原因の一つと言える。
百万バレル
/天
6
5
図3
世世世世世世世世世世
1997年~2007年年年年年
4
3
2
1
0
年
1997
年
2008
そのほか、ドル安、世界的なインフレ高、及び投機資金の移動などもドル建ての原油価
格を押し上げた。2001 年、米経済は IT バブル崩壊と 911 テロ事件の打撃で経済成長が
2000 年の 3.7%から 0.8%まで急落し、10 年に亘る景気成長期は終わり、強いドルの基盤を
揺るがせた。景気リセッションを防ぎ、経済成長を回復させるために、ブッシュ政府は 1.32 万
億に相当する税金を削減し、FRB も 1 年間で連続で 11 回利下げし、政策金利を 6.5%か
ら 1.75%まで引き下げた。これらの金融政策は米景気成長を刺激した同時に、米財政赤
字の増加とドル利回りの低下にも繋がり、ドルを一層圧迫した。そのほか、輸出を促進する
ために、米政府は長年の強いドル政策からドル安を容認する姿勢に転換しつつある。
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りません。投資などのご利用に際して、お客様ご自身の判断でお願いいたします。
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2002 年初~2004 年 6 月
図表 4 の青いドルインデックスチャートによると、ドルインデックスは 2002 年初から 140.00
の高値から下落し、その後値下がりの軌道に乗ってきた。2002 年 11 月と 2003 年 6 月、
FRB が追加利下げを実施し、政策金利を 45 年以来の低水準 1%まで引き下げた。この水
準は 2004 年 6 月まで維持した。その間、米景気が緩和的な金融政策の刺激で回復した
が、景気成長ペースの緩さ、拡大しつつある財政と貿易赤字、低金利及びユーロ高などの
原因で、ドルは値下がりが止まらない。ドルインデックスは一時 40.00 関門を割り込んだ。ドル
安の影響を受け、ドル建て商品の原油は上昇した。なぜかというと、ドルが安くなっても石油
など商品の実質価格が変わるわけではないから、名目価格を引き上げなければならない。そ
のほか、ドル安の進行につれて、産油国の輸出収入が目減りし、その対策として産油国は
相次いで原油価格を引き上げた。図表 4 の緑の原油価格チャートを見ると、原油価格とド
ルインデックスの相関性はその時から高くなっており、ドル安を背景に原油価格は 2002 年の 1
バレル 20 ドルから 2004 年の 50 ドル余りに高騰した。
図4
月足
ドルインデックス
原油
ソース:Futuresource)
(
2004 年 7 月~2006 年 6 月
米景気は落ち着きを取り戻してから徐々に拡大し、FRB が景気過熱を抑制するために
17 回連続で利上げし、政策金利を 5.25%に引き上げ、ドルが再び上昇した。しかし、インフ
レ高進が止まらず、インフレヘッジとして原油は買われた。図表で示されたように、ドルは当時
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反発したが、原油高がそれにもかかわらず継続し、原油価格が 06 年中期に 1 バレル 80 ド
ルまで迫った。原油高により米輸入支出が拡大し、貿易赤字が引き続き膨らみ、さらに
FRB の利上げサイクルで米住宅市場が圧迫された。2005 年後半年から、融資コストの上
昇で米住宅価格は下落し始め、2006 年に下げペースを加速した。ドルは 1 年弱反発し、そ
の後再び下落トレンドに戻った。
2006 年 7 月~現在
FRB が 2006 年 7 月から 2007 年 8 月の間、9 回連続で政策金利を据え置き、利上げ
サイクルを中止した。そして、2007 年 8 月に米住宅市場から発端したサブプライム危機は全
面的に爆発した。サブプライム危機は間もなくほかの国まで波及し、各中央銀行は救済策と
して市場に資金を注入し、流動性が過剰となった。そのほか、株式市場が暴落し、為替市
場も、各中央銀行による利下げで多くの通貨が急速にドルの後を追って値下がったため、行
き場を失った投機資金は商品市場に移動した。そこで、原油価格は暴騰し始め、07 年末
から 08 年初にかけて数回に亘って 100 ドルを打診し、ようやく 08 年 2 月に 100 ドルの心理
関門を突破し、その後さらに上げ足を速めてきた。2008 年 6 月末まで、僅かの 4 ヶ月で、原
油価格は 40 ドルも暴騰し、既に 140 ドル台に到達した。もちろん、ドル安のほかに、投機資
金の影響も大きかった。
統計によると、現在原油市場の投機資金は既に 2600 億ドルまで膨張し、2003 年の 20
倍である。最近の数年間、石油先物市場において、ファンドのネットロングポジションが増える
と必ず原油価格は上昇する一方、ファンドのネットロングポジションが減るたびに、原油価格
は下落すると言える。このことから分かるが、投機資金は既に原油にかかわる金融デリバティブ
市場を完全にコントロールし、レバレッジ作用で厖大な利益を得た。でも、この投機資金はど
こから来たのだろうか。データによると、イラク戦争以来に、テキサス州の石油巨頭とウォール
街の金融投機家が世界石油先物の値決めをしてきた。これを根拠に、市場ではドル安と流
動性過剰による原油高はアメリカ人が仕掛けた罠ではないかとの声も聞える。
世界準備通貨として、ドルの海外資産は遥かに国内資産を超えているため、ドル安で多
数の国の外貨準備は徐々に目減りする一方、アメリカ人は世界的なインフレブームを利用し
て商品先物のベアトレンドを作り、国際原油と農産品価格を操縦し、金融デリバティブ市場
で暴利をむさぼる。商品価格の高止まりによるインフレの高進は、各国の経済成長を圧迫し
た。ベトナムでは、5 月の消費者物価指数は既に 25%を超えている。インフレを抑制するため
に、ベトナム中銀は 5 月 19 日政策金利を 12%まで引き上げたが、これを切っ掛けに資本市
場は暴落し、実質経済にも波及した。ベトナム通貨ドンが大幅に値下げたことを懸念し、第
2 回のアジア金融危機を引き起こす可能性があるとの予想が浮上した。また、中国、インド
ネシア、マレーシア、インド及び中国台湾地区などは、原油需要を抑制するために、相次い
で原油手当てを中止或いは減少し、石油製品価格を引き上げると発表した。一方、アメリ
カ自身は数回のオイルショックを経験してきたことから、原油高を対応する体質が整えており、
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さらに農業、サービス業およびハイテク業に比べて、工業がアメリカ経済で占める比率が低い
ため、アメリカのインフレ圧力は前述の新興経済体ほど深刻ではない。故に、この戦争で最
大の利益を取ったのはほかでもなくアメリカであろう。目下では、アメリカ人は原油が暴騰して
いる内に、ロングポジションの決済に懸命している。あらゆる人が原油価格が必ず上昇すると
信じている時は、アメリカ人にとってまた儲けるチャンスとなる。
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