学 位 論 文 要 旨 加 工 食 品 中 に お け る 鶏 卵 お よ び 牛 乳 検 出 の た め の ELISA キ ッ ト の 開発に関する研究 Studies on the Deve lopment of Enzyme -Linked Immunosorbent Assay K i t s f o r t h e D e t e c t i o n o f C h i c k e n E g g a n d C o w ’s M i l k P r o t e i n i n Processed Foods 加藤 重城 S h i g e k i K AT O 平 成 26 年 度 2014 食物アレルギー患者は増加傾向にあり、社会的な関心も高い。我 が 国 で は 、 ア レ ル ギ ー 物 質 に よ る 健 康 被 害 を 未 然 に 防 ぐ た め 、 2002 年 以 降 、 厚 生 労 働 省 通 知 ( 食 安 発 1011002 号 、 以 下 、 通 知 ) に よ り 特定原材料として 7 品目(卵、牛乳、小麦、そば、落花生、えび、 かに)の表示が義務付けられた。一方で、食品表示を検証するため の 定 量 検 査 法 と し て Enzyme-Linked Immunosorbent Assay ( 以 下 、 ELISA) が 通 知 で 示 さ れ 、 す で に 開 発 さ れ て い る 2 種 の ELISA キ ッ ト が 通 知 法 と し て 指 定 さ れ て い る 。こ れ ら の ELISA キ ッ ト は 、ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体( 以 下 、P A b )ま た は P A b と モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体( 以 下 、M A b )の 組 み 合 わ せ で 構 築 さ れ て お り 、こ れ ま で に M A b の み で 構 築 さ れ た E L I S A キ ッ ト は な い 。様 々 な 原 材 料 を 混 合 し て 製 造 さ れ る加工食品から、特定原材料のみを正確に検出するためには、高い 特 異 性 を 有 す る 抗 体 が 不 可 欠 で あ る 。 一 般 的 に MAb は PAb に 比 べ 特 異 性 が 高 い た め 、M A b の み で E L I S A キ ッ ト が 構 築 で き れ ば 、特 異 性に優れる新たな検査特性を有するキットの開発が可能と考えた。 そ こ で 、 本 研 究 で は 食 物 ア レ ル ギ ー の 原 因 物 質 と し て 60%以 上 を 占 め る 卵 と 乳 を 対 象 に 、M A b を 使 用 し た 新 た な E L I S A キ ッ ト の 開 発 を 試みた。 さ ら に 、 ELISA キ ッ ト を 開 発 す る 上 で は 、 通 知 法 に 指 定 さ れ た 抽 出方法に対応することが求められる。通知法には、加工食品から特 定原材料を効率良く抽出する方法として、ドデシル硫酸ナトリウム ( 以 下 、 SDS) と 2- メ ル カ プ ト エ タ ノ ー ル ( 以 下 、 2-ME) を 含 有 した抽出液を用いる方法が指定されている。これは、加熱や加圧に よ り 変 性 し た 加 工 食 品 中 の 特 定 原 材 料 タ ン パ ク 質 を SDS と 2-ME で 変性して抽出することにより、食品の種類や加工度を選ばず、混入 1 量 を 正 確 に 測 定 で き る こ と が 特 徴 で あ る 。 そ の た め 、 SDS と 2-ME で 変 性 し た タ ン パ ク 質 を 検 出 で き る M A b を 作 製 す る た め 、免 疫 抗 原 と し て 未 変 性 お よ び 還 元 カ ル ボ キ シ メ チ ル 化( 以 下 、RCM 化 )タ ン パ ク 質 を 選 択 し 、 SDS と 2-ME で 変 性 し た タ ン パ ク 質 を 検 出 可 能 な MAb の 選 択 と ELISA キ ッ ト の 構 築 を 検 討 し た 。 第 1 章 で は 、鶏 卵 白 の オ ボ ア ル ブ ミ ン( 以 下 、O VA )に 対 す る M A b を 作 製 し 、鶏 卵 検 出 用 ELISA キ ッ ト の 構 築 を 試 み た 。未 変 性 ま た は R C M 化 O VA を 免 疫 抗 原 と し て 2 3 種 類 の M A b を 作 製 し 、S D S と 2 - M E で 変 性 し た 鶏 卵 白 を 検 出 可 能 な MAb の 組 み 合 わ せ が 85 通 り 認 め ら れ 、通 知 法 の 抽 出 方 法 に 対 応 が 可 能 で あ っ た 。ま た 、い ず れ も RCM 化 O VA を 免 疫 抗 原 と し て 作 製 し た M A b の 組 み 合 わ せ で あ っ た こ と か ら 、 免 疫 抗 原 の RCM 化 が 適 切 な 選 択 で あ っ た と 考 え ら れ た 。 し か し な が ら 、1 対 の M A b の 組 み 合 わ せ で は ア ヒ ル ま た は ウ ズ ラ の 卵 に対する感度が不足していたため、プレート固相抗体に 2 種類、酵 素 標 識 抗 体 に 2 種 類 の M A b を 用 い た と こ ろ 、鶏 卵 と 同 等 の 検 出 感 度 は得られなかったが、アヒルとウズラの卵も検出が可能であったこ と か ら 、 こ の MAb の 組 み 合 わ せ で 鶏 卵 検 出 用 ELISA キ ッ ト を 構 築 し た 。測 定 可 能 な 鶏 卵 タ ン パ ク 質 濃 度 は 0 . 8 ~ 5 0 . 0 n g / m L( 食 品 試 料 換 算 で 0.3~ 20.0 μg/g) で あ り 、 通 知 法 の ELISA キ ッ ト と 同 等 の 検 出 感 度 を 有 し て い た 。鶏 卵 タ ン パ ク 質 を 1 0 . 0 μ g / g 添 加 し た 5 種 類 の モ デ ル 加 工 食 品 で の 添 加 回 収 試 験 の 結 果 、回 収 率 は 73.6~ 118.0%で あ り 、通 知 の 添 加 回 収 試 験 の 基 準 で あ る 5 0 % 以 上 、1 5 0 % 以 下 を 満 た していたことから、食品成分の影響を受けず正確な測定が可能であ った。さらに、鶏、アヒルおよびウズラの卵以外の食品には交差反 応 を 示 さ ず 特 異 性 が 高 か っ た こ と か ら 、M A b の 特 異 性 が 大 き く 影 響 2 し て い る と 考 え ら れ た 。構 築 し た 鶏 卵 検 出 用 ELISA キ ッ ト は 、加 工 食品中の鶏卵タンパク質量の正確な測定が可能であり、極めて特異 性が高く通知法と同等の測定が可能であることが認められた。 第 2 章 で は 、 牛 乳 の β- ラ ク ト グ ロ ブ リ ン ( 以 下 、 β-LG) を 選 択 し 、前 述 の 鶏 卵 検 出 用 ELISA キ ッ ト と 同 様 に 、通 知 法 の 抽 出 方 法 に 対 応 し た 牛 乳 検 出 用 ELISA キ ッ ト の 開 発 を 試 み た 。 未 変 性 ま た は R C M 化 β - L G を 免 疫 抗 原 と し て 3 8 種 類 の M A b が 得 ら れ 、S D S と 2 - M E で 変 性 し た 牛 乳 タ ン パ ク 質 を 検 出 可 能 な MAb の 組 み 合 わ せ が 151 通 り 認 め ら れ た が 、1 対 の M A b の 組 み 合 わ せ で は 検 出 感 度 が 不 足 し て い た 。 そ こ で 、 プ レ ー ト 固 相 抗 体 に 、 未 変 性 β-LG お よ び RCM 化 β-LG 抗 原 か ら 得 ら れ た MAb を 1 種 ず つ 混 合 し て 組 み 合 わ せ 、 酵 素 標識抗体に 1 種を使用したところ、通知法と同等の検出感度が得ら れ た た め 、 こ の MAb の 組 み 合 わ せ で 牛 乳 検 出 用 ELISA キ ッ ト を 構 築 し た 。こ の こ と か ら 、特 性 の 異 な る M A b を 組 み 合 わ せ る こ と で 検 出感度の向上が認められたと考えられた。測定可能な牛乳タンパク 質 濃 度 は 0 . 8 ~ 5 0 . 0 n g / m L( 食 品 試 料 換 算 で 0 . 3 ~ 2 0 . 0 μ g / g )で あ り 、 通 知 法 の E L I S A キ ッ ト と 同 等 の 検 出 感 度 を 有 し て い た 。牛 乳 タ ン パ ク 質 を 10.0 μg/g 添 加 し た 5 種 類 の モ デ ル 加 工 食 品 で の 添 加 回 収 試 験 の 結 果 、 回 収 率 は 61.1~ 77.9%で あ り 、 50%以 上 、 150%以 下 の 基 準 を満たしていたことから、加工食品中の牛乳タンパク質量の正確な 測定が可能であると考えられた。また、山羊乳および羊乳以外の食 品 に は 交 差 反 応 を 示 さ な か っ た こ と か ら 、M A b の 特 異 性 が 大 き く 影 響 し て い る と 考 え ら れ た 。さ ら に 、構 築 し た 牛 乳 検 出 用 ELISA キ ッ トと通知法を併用することで、牛乳の原材料表示を漏れなく検証す るために利用できることが認められ、新たな検査特性を有する牛乳 3 検 出 用 ELISA キ ッ ト の 提 供 が 可 能 で あ る と 考 え ら れ た 。 第 3 章 で は 、第 1 章 と 第 2 章 で 構 築 し た ELISA キ ッ ト を 、ア レ ル ゲ ン ア イ ELISA 卵 ( 以 下 、 AE-Egg) と ア レ ル ゲ ン ア イ ELISA 牛 乳 ( 以 下 、 AE-Milk ) と し て 製 品 化 し 、 外 部 機 関 で の 試 験 室 間 バ リ デ ーションによる性能評価を実施した。これは、多数の試験室が共通 の試料を分析し、その結果を統計的に解析することで検査キットの 検査精度を評価する方法である。定量検査法の場合、試験室数 8 以 上、試料数 5 以上という規定が通知のガイドラインに定められてい る た め 、 試 験 室 数 14 機 関 、 試 料 数 5( 5 種 類 の モ デ ル 加 工 食 品 ) を 設 定 し 試 験 を 実 施 し た 。そ の 結 果 、回 収 率 は A E - E g g で 6 1 . 6 ~ 8 9 . 3 % 、 AE-Milk で 52.1~ 67.0%で あ り 、 基 準 で あ る 50%以 上 、 150%以 下 を 満 た し て い た 。 ま た 、 室 間 再 現 性 は AE-Egg で 3.7~ 5.7%、 AE-Milk で 6.8~ 10.5%で あ り 、 基 準 で あ る 25%以 下 を 満 た し て い た 。 こ の こ と か ら 、 AE-Egg と AE-Milk は 、 加 工 食 品 中 の 鶏 卵 お よ び 牛 乳 タ ン パ ク 質 を 検 出 す る た め の ELISA キ ッ ト と し て 正 確 な 測 定 が 可 能 で あり、検査精度が高いことが認められた。 本 研 究 で は 、 複 数 の MAb を 組 み 合 わ せ た 鶏 卵 お よ び 牛 乳 検 出 用 ELISAキ ッ ト を 新 た に 開 発 し 、 試 験 室 間 バ リ デ ー シ ョ ン で の 性 能 評 価により定量検査法の評価基準を満たすことを確認した。現在、本 キットは通知の基準を満たすキットとして認められ既に販売を開始 しており、地方自治体や保健所などの行政機関、ならびに食品事業 者などで幅広く使用されている。また、その他の特定原材料につい て も 、 MAbを 活 用 し た 新 た な ELISAキ ッ ト の 開 発 を 進 め て い る 。 本 キットが特定原材料表示の検証に利用され、食物アレルギー患者の 健康被害防止に大いに貢献するものと期待される。 4
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