第96回全国高等学校野球選手権大会メディカルサポート

一般社団法人アスリートケア News Letter Vol.52
2014年11月発行
事務局:大阪保健医療大学保健医療学部リハビリテーション学科内 発行責任者:小柳 磨毅
〒530-0043 大阪市北区天満1丁目9番27号 TEL:090-2386-5352(研究会専用) FAX:06-6352-5995(大阪保健医療大学)
第96回全国高等学校野球選手権大会メディカルサポート報告
久田 信壱
一般財団法人 競馬共助会 栗東診療所
【大会中メディカルサポート】
□コンディショニング:7件(昨年夏:0件)
大会中のメディカルサポート参加スタッフ数は
大会期間中のコンディショニングは、利用学校
延べ158名で、大会期間中は1日9~13名体制で行
が4校、利用者数は延べ7名で休息日に利用され実
いました。メディカルサポート件数は173件で処
施しました。治療部位は肩関節を希望する選手が
置内容はテーピングとアイシングが大半を占めま
ほとんどでそれ以外では上腕、肘関節、前腕、腰
した(表2)。
背部でした。低周波、超音波、ホットパックなど
コンディショニング件数は7件と選抜大会に比
の物理療法機器を積極的に使用し時間をかけて実
べると件数は減少しましたが、昨年は0件であっ
施することができました。
たことから、大会前検診時に行ったコンディショ
□熱中症様症状:30件(昨年夏:56件)
ニングの広報の効果であったと思われます。以下
症状の訴えがあったのは試合中6件、試合後24
にサポート記録内容について報告させて頂きま
件で医師の診察を要した選手は2件ありましたが
す。
救急搬送を要する選手はいませんでした。昨年の
大会より熱中症様症状件数が減少した理由とし
表2 受傷部位と処置内容
て、最高気温が平年に比べ0.2~3.6度低かったこ
【はじめに】
どの指導を行いました。また、熱中症予防のため
とと、学校用アンケートで普段飲用しているドリ
第96回全国高等学校野球選手権大会が平成26年
に学校と投手にアンケートを実施しました。大会
ンクの種類を調査した結果、熱中症対策飲料を飲
8月11日~25日(順延日、休養日含む)の間、阪
期間中はアンケート結果を踏まえ、過去の既往者
用している学校が昨年は5校であったのに対し、
神甲子園球場にて開催されました。今大会は台風
などをピックアップし情報を共有することで熱中
今年は11校と増加していることから各学校の熱中
11号の接近による悪天候のため開会式が2日間順
症の発症予防に努めました。
症に対する意識が高まってきていることが考えら
延となりました。開会式が順延となるのは1960年
れます。また、各ベンチ内に大型送風機が2台導
の第42回大会以来54年ぶりで、また開幕日から2
入されたことも減少した要因であると考えます。
日連続で全試合が中止になるのは史上初という幕
表1 大会前検診 関節可動域
開けでした。今年は例年ほどの猛暑ではないもの
【おわりに】
の降雨による雨天中断などがある中、熱戦が繰り
広げられました。決勝戦は、大阪桐蔭高校が、初
shoulder
優勝をねらう三重高校との接戦の末、見事な逆転
勝利で2年ぶりの優勝を果たし、大会の幕を閉じ
ました。
elbow
□試合前処置:50件 (昨年夏:69件)
今大会も会員の皆様のご協力により、大きな問
2ndER
128.8 ± 11.7
123.2 ± 10.6
例年同様、テーピング処置を希望する選手がほ
題もなくメディカルサポート業務を遂行し無事大
2ndIR
38.6 ± 12.1
52.7 ± 12.6
とんどでした。肘関節や手関節を希望する選手が
会を終えることができました。昨年と比較し熱中
3rdIR
24.3 ± 3.1cm
22.3 ± 3.9cm
多い中、腰部の慢性障害に対する処置を希望する
症様症状の件数は減少しましたが、次大会以降も
選手もいました。限られた時間内で実施するた
増加する可能性が高いため、事前準備、早期発
め、的確な評価、処置が行えるよう、日々の研鑚
見、早期対応を行えるよう準備していく必要があ
が重要であると感じました。
ると考えます。また昨今、試合日程や投球数制限
flex
143.2 ± 6.4
148.7 ± 5.3
ext
-1.1 ± 8.6
6.6 ± 5.6
84 ± 7.6
86.6 ± 8.4
□試合中処置:26件 (昨年夏:38件)
の議論など選手を取り巻く環境は常に変化し注目
91.9 ± 10.7
94.6 ± 8.9
死球や守備中のアクシデントによるアイシング
されています。甲子園におけるメディカルサポー
処置が多く、創部処置の中には医師による処置も
トも「選手のためのサポート」を行えるように、
【投手検診】
ありました。試合中の処置は試合の進行に関わる
質の高い評価、分析、そして処置技術の改善に取
□大会前検診
ため、今後も医師や大会役員と密に連携を取り、
り組んでいく所存です。
今大会も主催者の要請を受け、当法人にてメデ
ィカルサポート(大会前検診及び大会中メディカ
ルサポート)を実施しましたのでここに報告させ
forearm pronation
て頂きます。
supination
大会前検診は平成26年8月3日~6日の4日間で行
迅速かつ的確な処置を行うために準備しておく必
われました。対象者は本大会に投手登録された選
□大会中検診
要があると感じました。
(〒520-3005 滋賀県栗東市御園1028 栗東トレ
手152名でした。検診内容は医師による診察、理
準々決勝、準決勝の試合後に医師による診察が
□試合後処置:62件 (昨年夏:74件)
ーニングセンター内)
学療法士による関節可動域測定(肩、肘、前腕7
行われました。対象投手は延べ12名で、連戦によ
試合後処置は処置件数の中で最も多く、死球に
項目)とストレッチ指導を行いました(表1)。
る疲労が蓄積していましたが、投球禁止にまで至
よる打撲に対するアイシングと圧迫処置、捻挫に
医師の診察の結果と個々の測定結果をもとに高校
る選手はいませんでした。診察の結果と投手の疲
対するアイシング処置が多いという結果でした。
野球の障害予防とセルフケアの重要性を視野に入
労部位に合わせてストレッチなどのクーリングダ
また、筋痙攣などの熱中症様症状者にはクーリン
れ選手自身で行えるストレッチやトレーニングな
ウンを行いました。
グや飲水などの処置を実施しました。
- 1 -
- 2 -
一般社団法人アスリートケア News Letter Vol.52
2014年10月発行
事務局:大阪保健医療大学保健医療学部リハビリテーション学科内 発行責任者:小柳 磨毅
〒530-0043 大阪市北区天満1丁目9番27号 TEL:090-2386-5352(研究会専用) FAX:06-6352-5995(大阪保健医療大学)
第96回全国高等学校野球選手権大会メディカルサポート報告
久田 信壱
一般財団法人 競馬共助会 栗東診療所
【大会中メディカルサポート】
□コンディショニング:7件(昨年夏:0件)
大会中のメディカルサポート参加スタッフ数は
大会期間中のコンディショニングは、利用学校
延べ158名で、大会期間中は1日9~13名体制で行
が4校、利用者数は延べ7名で休息日に利用され実
いました。メディカルサポート件数は173件で処
施しました。治療部位は肩関節を希望する選手が
置内容はテーピングとアイシングが大半を占めま
ほとんどでそれ以外では上腕、肘関節、前腕、腰
した(表2)。
背部でした。低周波、超音波、ホットパックなど
コンディショニング件数は7件と選抜大会に比
の物理療法機器を積極的に使用し時間をかけて実
べると件数は減少しましたが、昨年は0件であっ
施することができました。
たことから、大会前検診時に行ったコンディショ
□熱中症様症状:30件(昨年夏:56件)
ニングの広報の効果であったと思われます。以下
症状の訴えがあったのは試合中6件、試合後24
にサポート記録内容について報告させて頂きま
件で医師の診察を要した選手は2件ありましたが
す。
救急搬送を要する選手はいませんでした。昨年の
大会より熱中症様症状件数が減少した理由とし
表2 受傷部位と処置内容
て、最高気温が平年に比べ0.2~3.6度低かったこ
【はじめに】
どの指導を行いました。また、熱中症予防のため
とと、学校用アンケートで普段飲用しているドリ
第96回全国高等学校野球選手権大会が平成26年
に学校と投手にアンケートを実施しました。大会
ンクの種類を調査した結果、熱中症対策飲料を飲
8月11日~25日(順延日、休養日含む)の間、阪
期間中はアンケート結果を踏まえ、過去の既往者
用している学校が昨年は5校であったのに対し、
神甲子園球場にて開催されました。今大会は台風
などをピックアップし情報を共有することで熱中
今年は11校と増加していることから各学校の熱中
11号の接近による悪天候のため開会式が2日間順
症の発症予防に努めました。
症に対する意識が高まってきていることが考えら
延となりました。開会式が順延となるのは1960年
れます。また、各ベンチ内に大型送風機が2台導
の第42回大会以来54年ぶりで、また開幕日から2
入されたことも減少した要因であると考えます。
日連続で全試合が中止になるのは史上初という幕
表1 大会前検診 関節可動域
開けでした。今年は例年ほどの猛暑ではないもの
【おわりに】
の降雨による雨天中断などがある中、熱戦が繰り
□試合前処置:50件 (昨年夏:69件)
今大会も会員の皆様のご協力により、大きな問
例年同様、テーピング処置を希望する選手がほ
題もなくメディカルサポート業務を遂行し無事大
とんどでした。肘関節や手関節を希望する選手が
会を終えることができました。昨年と比較し熱中
多い中、腰部の慢性障害に対する処置を希望する
症様症状の件数は減少しましたが、次大会以降も
選手もいました。限られた時間内で実施するた
増加する可能性が高いため、事前準備、早期発
6.6
め、的確な評価、処置が行えるよう、日々の研鑚
見、早期対応を行えるよう準備していく必要があ
84
86.6
が重要であると感じました。
ると考えます。また昨今、試合日程や投球数制限
91.9
94.6
□試合中処置:26件 (昨年夏:38件)
の議論など選手を取り巻く環境は常に変化し注目
死球や守備中のアクシデントによるアイシング
されています。甲子園におけるメディカルサポー
処置が多く、創部処置の中には医師による処置も
トも「選手のためのサポート」を行えるように、
【投手検診】
ありました。試合中の処置は試合の進行に関わる
質の高い評価、分析、そして処置技術の改善に取
□大会前検診
ため、今後も医師や大会役員と密に連携を取り、
り組んでいく所存です。
shoulder
2ndER
128.8
123.2
優勝をねらう三重高校との接戦の末、見事な逆転
2ndIR
38.6
52.7
勝利で2年ぶりの優勝を果たし、大会の幕を閉じ
3rdIR
24.3cm
22.3cm
flex
143.2
148.7
ext
-1.1
pronation
supination
広げられました。決勝戦は、大阪桐蔭高校が、初
ました。
elbow
今大会も主催者の要請を受け、当法人にてメデ
ィカルサポート(大会前検診及び大会中メディカ
forearm
ルサポート)を実施しましたのでここに報告させ
て頂きます。
大会前検診は平成26年8月3日~6日の4日間で行
迅速かつ的確な処置を行うために準備しておく必
われました。対象者は本大会に投手登録された選
□大会中検診
要があると感じました。
(〒520-3005 滋賀県栗東市御園1028 栗東トレ
手152名でした。検診内容は医師による診察、理
準々決勝、準決勝の試合後に医師による診察が
□試合後処置:62件 (昨年夏:74件)
ーニングセンター内)
学療法士による関節可動域測定(肩、肘、前腕7
行われました。対象投手は延べ12名で、連戦によ
試合後処置は処置件数の中で最も多く、死球に
項目)とストレッチ指導を行いました(表1)。
る疲労が蓄積していましたが、投球禁止にまで至
よる打撲に対するアイシングと圧迫処置、捻挫に
医師の診察の結果と個々の測定結果をもとに高校
る選手はいませんでした。診察の結果と投手の疲
対するアイシング処置が多いという結果でした。
野球の障害予防とセルフケアの重要性を視野に入
労部位に合わせてストレッチなどのクーリングダ
また、筋痙攣などの熱中症様症状者にはクーリン
れ選手自身で行えるストレッチやトレーニングな
ウンを行いました。
グや飲水などの処置を実施しました。
- 1 -
- 2 -
点など色々と教えて頂きました。知らない事も
数多くあったので、とても勉強になりました。
そして、その後は野手に対するクールダウンを
見学させて頂きました。メディカルサポートス
タッフが先頭となってクールダウンを指導して
いる姿を見ると、とても威厳があり、「かっこ
いい」と思いました。自分自身も理学療法士に
なり、あのようなことができるようになりたい
と思いました。そして、そのためには人間とし
てもっと成長し、たくさんの経験をしなければ
ならないと感じました。
最後に、今回の見学を通してとても勉強にな
る事がたくさんありました。しかし、自分自身
の知識の少なさを感じることにもなったので、
この夏休みは勉強したいと思います。そして、
アスリートに関わることについて興味が増して
きたので、もっと積極的に関わっていきたいと
思いました。私が今後理学療法士になった時に
は、アスリートケアの会員になり、現場で活躍
したいと思いました。
「第96回全国高校野球選手権大会
学生見学報告」
大阪保健医療大学 2回生
下村 龍二
私は先日アスリートケアの学生会員として甲
子園の見学に初めて参加させて頂きました。私
は中学・高校と野球部に所属しており、高校野
球にはとても興味を持っていました。そして、
このような企画があると知ったので、今回学生
会員になりました。
まず、はじめにこの見学で印象に残ったこと
は、この大会のあわただしさでした。高校球
児、審判員、報道関係者、そして本会のメディ
カルサポートスタッフが時間に追われながらた
くさんの仕事をしておられ、とてもあわただし
い雰囲気に包まれていました。メディカルサポ
ートスタッフは、試合終了と同時に急いでアイ
シングの準備を行い、ピッチャーにアイシング
を行っていました。氷を真空パックに詰める
係、ピッチャーにアイシングを巻く係、問診を
行う係などそれぞれ役割が決まっており、その
流れるような仕事ぶりを見て、「すごいな」と
思いました。その時にアイシングにおける注意
(〒530-0021 大阪市北区天満1丁目9番7号)
スポーツ関連学会の紹介
平成26年11月~27年1月に国内で行なわれる
スポーツ関連の学会を挙げてみました
学会
第41回 日本臨床バイオメカニクス学会
第27回 日本トレーニング科学会大会
第26回 テニス学会
第20回 スポーツ傷害フォーラム
日 程
会 場
11/21(金)~22(土)
11/22(土)~23(日)
12/5(土)~7(日)
2015/1/24(土)
奈良
東京
東京
大阪
学会URL
http://www.c-linkage.co.jp/jscb2014/
https://sites.google.com/site/scset27/home
http://jsts.cc/
http://sports-injury.jp/
(学会URLをクリックするとHPが開きます)
- 3 -
平成26年度 第2回ワークショップ参加報告
「下肢傷害に対するアプローチ(応用編)午前の部」
近畿中央胸部疾患センター
「下肢傷害に対するアプローチ(応用編)午後の部」
上江田 勇介
医療法人協和会 協和会病院
有馬 佑多
平成26年7月6日に大阪保健医療大学にて開催さ
れた、2014年第2回ワークショップに参加しまし
た。ワークショップのテーマは「下肢傷害に対す
るアプローチ 応用編」でした。総論である「下
肢障害に対するアプローチ ―考え方―」につい
て、椎木孝幸先生(行岡病院)に講演をいただき
ました。その後、実際の内容を午前の部は小川卓
也先生(行岡病院)、午後の部では木村佳記先生
(大阪大学附属病院)に講演していただきまし
た。今回は、午前の部の講義内容を報告させてい
ただきます。
まず椎木孝幸先生の講演では、オーバーユース
による傷害に対する治療法として、安静をとるこ
とにより、炎症(痛み)が軽減し、運動の再開が
可能となるとありました。そのなかでも、安静期
間に何もしなければ再発の可能性が大きく、スト
レッチなどによるコンディショニングが重要であ
ると強調されていました。また、原因を追求する
ために、疼痛評価が重要ですが、特に私が重要と
感じたのが、どの動作で痛みを生じるかという評
価でした。実際に、両脚ジャンプ、スクワット、
レッグエクステンション、着地などの動作を実際
に行ってもらうことで、選手へのフィードバック
としても有効であると感じました。また、患部の
疼痛評価に加えて、関連する関節からも疼痛の原
因を探っていく重要性も学びました。
次に小川卓也先生の講演は、シンスプリントに
ついての内容でした。その中でも、ランニング、
ジャンプなど反復動作により、後脛骨筋、長母趾
屈筋、長趾屈筋、ヒラメ筋への伸張ストレスが、
脛骨起始部の炎症を起こすことを学びました。こ
れらは、回内足、扁平足を有するものに多いこと
がわかりました。アライメント異常から、評価・
治療の話へと進めていただき、病態と問題点のつ
ながりが理解しやすい内容でした。
聴講を終えた感想として、理学療法士1年目で
あり臨床現場において下肢傷害に接することが少
ない私でも、どの講演におきましても基礎医学を
しっかりとふまえた上での実技演習でしたので、
理解しやすく考える幅が広がり意義のある講演で
あったと感じました。
平成26年7月6日に大阪保健医療大学にて開催され
ました、第2回ワークショップ「下肢傷害に対するア
プローチ」に参加したので報告させて頂きます。午
後の部では木村佳記先生(大阪大学附属病院)から
jumper’s kneeの病態、下肢の評価や治療について
講義して頂きました。
Jumper’s kneeとは繰り返されるジャンプ動作に
よって大腿四頭筋にストレスが蓄積された結果生じ
る大腿四頭筋の微細断裂のことをいいます。一般的
には筋力が強く、ジャンプの衝撃が大きい男性に受
傷率が高く、膝蓋腱の膝蓋骨付着部に多いといわれ
ています。痛みや違和感のような症状が長期間続く
ことが多く、治療が難しいとされており、早期に的
確な病態評価、機能評価を行う必要があります。
病態評価では、局所の疼痛、収縮時痛、疼痛発生
動作など組織学的変化を考慮した疼痛に対しての
様々な評価があります。組織学的変化は表面からの
観察は難しく、超音波のように筋や膝蓋下脂肪体の
動きを客観的に捉えることが出来る評価が有用で
す。実技では収縮時痛の評価や、スクワット、ドロ
ップスクワットの姿勢観察やジャンプ動作の着地姿
勢の観察を行いました。ジャンプ時の着地は衝撃吸
収の違いで2から5倍程度違いが生じると言われてお
り、膝関節の動きだけではなく他関節の動きを観
察、評価することが重要です。
機能評価では、膝関節周囲筋や膝蓋下脂肪体の柔
軟性評価、下肢の筋力評価などがあります。実技で
は膝関節だけでなく股関節や足部のモビリゼーショ
ンを行いました。モビリゼーションの際、抵抗が強
くなってしまい筋の緊張を高くしてしまう場面があ
り、的確な動作誘導の難しさを感じました。
治療では、様々な筋力増強訓練、テーピングや足
底板など症例に合わせた治療方法の提供が必要にな
ります。評価において機能障害と動作障害は互いに
影響しており、どちらか片方のみで考えるのではな
く、両方向から考える事の重要性について改めて勉
強することができました。
(〒591-8025 大阪府堺市北区長曽根町1180)
(〒566-0001 大阪府吹田市岸部北1-24-1)
- 4 -
アスリートケア研修報告
医療法人 純幸会 東豊中渡辺病院
瀬戸 菜津美
第26回 日本整形外科超音波学会
参加報告 医療法人ガラシア会ガラシア病院
山本 啓太
平成24年5月より、豊中渡辺病院で行われている
臨床研修制度に参加させて頂いております。水曜
日では、主にACL再建術後や半月板損傷後の患者へ
のリハビリテーションが行われています。私は以
前よりスポーツリハビリテーションに興味があ
り、臨床研修制度への参加を希望致しました。こ
ちらでお世話になるまでスポーツ傷害に関わる機
会がほとんどなく不安感はありましたが、経験豊
富なスタッフの先生方に手厚い指導を受けながら
現在も研修を続けています。
研修時間は18時から開始し、約3時間です。スポ
ーツ活動の復帰を目標とし、膝関節の可動域改善
および隣接関節も含めた筋力強化や疼痛改善への
アプローチを中心に行っています。研修の中で印
象深い内容としては、疼痛への評価およびアプロ
ーチ方法です。術後の経過や時期により疼痛の原
因は様々で、軟部組織である皮膚や皮下組織、関
節包や靭帯、また脂肪体など筋以外の影響も考慮
し、より詳細な評価のもとアプローチを行ってい
ます。また、荷重下でのトレーニングで疼痛が発
生した場合、アライメントを細かく確認する事が
重要になると感じます。そこで、徒手操作やテー
ピングによって関節の肢位および軟部組織の誘
導、筋へのサポートなどを行い、疼痛の原因を明
確にしていきます。術後の炎症による一次的な痛
みだけではなく、姿勢・動作の異常から二次的に
起因する痛みであるかを評価し、それらに対する
アプローチを明確に行う事で、疼痛が軽減してい
くことを多く経験します。術後の痛みはある程度
仕方がない、今までそんな考えがあったように思
います。当たり前の事ですが、その痛みがどこか
らくるものなのか、回避方法はないのかと詳細に
評価することで、効率のよいアプローチ方法に繋
がっていくと感じています。
研修に参加し、患者の情報を共有し、治療を進
めていく中で、経験豊かな先生方が何を考えて評
価しアプローチをしているのか、一つ一つ確認を
しながら観察するポイントや思考過程を学ぶこと
ができ、治療の幅が広がったと感じています。こ
れからも、基礎知識の補充や観察する目を養い、
得た知識を少しでも患者に還元していけるよう努
めていきたいと思っています。
平成26年7月5日(土)に、大阪梅田のブリーゼ
プラザにて、標記学会が開催されました。大変興
味深い内容の中でも特に印象に残った足部と肩関
節について、報告させて頂きます。
まず、皆川洋至先生(城東整形外科)の、足関
節捻挫をテーマにした講演内容について報告致し
ます。一般的に、足首を捻った病歴を“足関節捻
挫”と呼びます。X線では、骨折や脱臼以外の診
断は不可能です。MRIでは、足部の各靱帯の断裂
や裂離骨折、あるいは骨挫傷を明らかにできます
が、時間的、費用的に大掛かりな検査となりま
す。そのデメリットを解決できるのが超音波診断
であります。靱帯の線維配列(fibrillar
pattern)を観察することや、損傷を受けた組織
は血管増生を生じる特徴からカラードプラを用い
て血流を観察することで、組織損傷の有無や程度
が評価できます。また、骨においては骨皮質の骨
折はもちろん、骨皮質から髄腔に入り込む血管を
観察することで、骨内のいわゆる骨梁骨折の評価
が可能です。このように、超音波診断装置は、簡
便かつ非侵襲的に、損傷した組織を確定すること
が可能です。
次に、肩関節について、山内弘喜先生(亀田メ
ディカルセンター)の報告です。インピンジメン
トの指標となる肩峰−骨頭距離を超音波診断装置
を用いて評価し、肩後方関節包のストレッチ(肩
甲骨面挙上30°内旋)後は、肩峰–骨頭距離の減
少が生じたことから、後方関節包ストレッチの重
要性を述べておられました。また、福吉正樹先生
(名古屋スポーツクリニック)は、超音波診断装
置を用いて肩後方組織の硬さを評価し、症候性腱
板断裂患者において棘下筋と小円筋の硬さの増大
により骨頭の前上方偏位(obligate translation)
が生じているため、骨頭の位置を是正した関節可
動域練習が必要と報告されておりました。
最後に、我々理学療法士にとっても、超音波診
断装置を使用して観察できる能力が大きな力にな
ると感じました。今後も超音波診断装置に関して
学んでいきたいと思います。
(〒560-0003 大阪府豊中市東豊中町5-35-3)
(〒562-8567 大阪府箕面市粟生間谷西6丁目14-1)
-5-
臨床教育部
アスリートケア研修制度のお知らせ
アスリートケアでは研修制度を設けており、会員の方であれば、豊中渡辺病院か行
岡病院で研修を受けることができます。
<曜日と時間帯>
・豊中渡辺病院:月曜~金曜の夜診
・行岡病院:月曜・水曜・金曜の夜診
*夜診はPM5時~9時ですが、研修開始の時間については特に設けておりません。業
務を終えてから来て頂いて結構です。
<対象疾患(例)>
・投球障害肩、野球肘
・腱板損傷、肩関節脱臼
・ACL再建術後、半月板損傷
・ジャンパー膝や腸脛靭帯炎などのoveruse
<研修費>
・1000円/月
研修生には指導者が1人つきます。評価方法から治療までわかり易く説明致しま
す。
最初は見学のみですが、徐々に指導者のもと治療も行ってもらいます。研修内容は
一般の運動器疾患にも応用できるものとなっています。
まずは、見学に来て下さい。
・問い合わせ先
行岡病院リハビリテーション科 椎木孝幸
[email protected]
臨床教育部担当理事:椎木孝幸
(〒530-0021 大阪市北区浮田2丁目2番3号)
- 6 -
(社)アスリートケア定例勉強会報告
『学校保健への現状の関わりと展望について』
加来 敬宏
医療法人東和会 第二東和会病院
【はじめに】
(社)アスリートケアでは、各種団体より委託
を受け、甲子園大会でのメディカルサポートを
はじめ、横断的な支援活動を中心的な事業の一
つとして運営されています。一方、縦断的地域
支援事業として平成22年より大阪府下の公立高
校を対象に「学校スポーツの健康相談と指導」
を行い、現在も会員の協力を得ながら、毎月実
施しています。今回、縦断的地域支援の中心的
な事業でもある大阪府立茨木高等学校のクラブ
活動支援の事業を報告します。
【位置づけ】
本年度の社会局地域支援部の事業計画は、本
事業の大阪府立茨木高等学校クラブ活動支援を
含めて、縦断的地域支援の12事業と講習会支援
の4事業が計画されています。
【健康相談事業の始まり】
記念すべき第1回(厳密には第2回目)サポ
ートは平成22年11月17日に小柳磨毅・野谷優の
両理事と高尾昌代(行岡病院)神崎智則(元高
島整形外科)の4名のスタッフで行われまし
た。以後、毎月定期的に数名の理学療法士が相
談員として学校を訪問し、全校生徒を対象とし
た健康相談を実施しています。システム的な運
用が軌道に乗ると、徐々に発展的なサポートに
していこうと学校窓口の教員と相談し、平成23
年3月9日から部活動単位でのサポートも健康相
談と並行して実施しています。
【事業の内容】
年間のサポートスケジュールは毎月の個別健
康相談と部活動サポートに加え4月には新入生
ガイダンス、7月に熱中症予防講義を実施して
います。4月の新入生ガイダンスでは新入生を
対象に、当事業を中心とした我々の活動を紹介
し、成長期に起こりやすい運動器障害の紹介と
予防方法ならびに急性外傷の対処方法を講義し
ています。(図1) 図
1
7月の熱中症予防講義では運動部のマネージ
ャーや体育祭の実行委員などを対象に、熱中症
の分類から症状ごとの対処方法や水分・ミネラ
ルの効率的な摂取方法などを講義しています。
(図2)
図
図
3
症状の程度によっては個別健康相談の際に医
療機関の受診を促すこともあり、実際に受診を
促した生徒の中で、疲労骨折が判明したという
事例も経験しており、医療機関受診の必要性を
判断する重要な役割も担っていると思われま
す。部活動単位でのサポートでは、運動器傷害
の有無に関わらず部員全員を対象に各種競技特
性を考慮したスポーツ傷害予防の講義とパフォ
ーマンスやコンディショニングの向上に関する
実技指導などを実施しています。(図4)
2
毎月の個別健康相談は理学療法士が会場(柔
道場)で待機し、事前に申し込みをしている生
徒が来場するというシステムになっています。
専ら普段の臨床でいうところの柔道場で行う外
来リハビリテーションのようなものでしょう。
個別相談の対応は理学療法士が2人1組の班に
なり、毎回各班5名前後の生徒の相談に乗って
います。相談内容は障害予防から技術指導まで
多岐にわたりますが、その多くは外傷や過用症
- 7 -
候群による疼痛の緩和であり、内容は主に「硬
い部分を伸ばす」、「弱っている筋を鍛える」
といった対症療法のような形になっています。
(図3)また、それ以外にはテーピングの指導
やインソールへのパッド貼付および動作指導な
ども行っています。
図
4
また、ハイスピードカメラやスクリーニング
テストにおいて、特に不良肢位が認められる生
徒は傷害発生のハイリスク群とし、学校教員を
通して個別健康相談を受けるように促し、継続
的に支援活動を行っています。
なお、この「学校スポーツの健康相談と指導
(茨木高等学校)」事業では、平成25年度のべ
138名の利用がありました。
【現状の課題と今後の展望】
当事業は学校行事の一環として行われている
事業であり、開催日は概ね平日です。その点
で、参加するには各々勤務先の理解と協力も不
可欠であり、毎回の継続した参加が困難なスタ
ッフも少なくありません。よって、各生徒へ担
当制により理学療法士の介入が困難となってい
ます。また、本来、競技特性を考慮したうえで
の相談支援が必要ですが、対応生徒が全生徒で
あること、対象部活動も複数にまたがっている
ことから、十分な対応が行き届いていないのが
現状です。今後も縦断的な支援活動をおこな
い、その介入効果を検証し報告していくことが
重要だと思います。
現在、対応する理学療法士が変わっても可能
な限り提供内容に相違がないように、申し送り
媒体として紙ベースの申し送りやiPadなどのIT
機器を利用して行っています。今後も個人情報
に配慮しながら、より良い管理・伝達方法を構
築していきたいと考えております。
【おわりに】
参加スタッフはのべ138名と多くの会員に参
加いただいて成り立っています。平成26年度も
引き続きサポートが行われており、すでにのべ
77名(8月末時点)の生徒が利用しています。
本年度も多数の会員の協力をいただきながら、
サポート活動内容をより良いものにマイナーチ
ェンジしていこうと考えています。
本事業は平成24年度「運動器の10年」世界運
動・普及啓発推進事業において奨励賞を受賞し
ており対外的にも社会的・教育的意義が高い事
業と評されています。本事業が学校レベルでの
スポーツ傷害を予防する支援活動の一端を担
い、理学療法士によるサポートの幅が広がって
いくものと期待しております。
興味がある会員の方はぜひ当会のホームペー
ジ(http://athlete-care.jp/)を参照いただ
き、配信されるメールに沿って、参加申し込み
していただきたいと思います。
(〒569-0034 大阪府高槻市大塚町5丁目20-3)
- 8 -
(社)アスリートケア定例勉強会報告
『学校保健への現状の関わりと展望について』
内容① 大阪府立 木高等学校クラブ支援活動報告
加来 敬宏
医療法人東和会 第二東和会病院
【はじめに】
(社)アスリートケアでは、各種団体より委託
を受け、甲子園大会でのメディカルサポートを
はじめ、横断的な支援活動を中心的な事業の一
つとして運営されています。一方、縦断的地域
支援事業として平成22年より大阪府下の公立高
校を対象に「学校スポーツの健康相談と指導」
を行い、現在も会員の協力を得ながら、毎月実
施しています。今回、縦断的地域支援の中心的
な事業でもある大阪府立茨木高等学校のクラブ
活動支援の事業を報告します。
【位置づけ】
本年度の社会局地域支援部の事業計画は、本
事業の大阪府立茨木高等学校クラブ活動支援を
含めて、縦断的地域支援の12事業と講習会支援
の4事業が計画されています。
【健康相談事業の始まり】
記念すべき第1回(厳密には第2回目)サポ
ートは平成22年11月17日に小柳磨毅・野谷優の
両理事と高尾昌代(行岡病院)神崎智則(元高
島整形外科)の4名のスタッフで行われまし
た。以後、毎月定期的に数名の理学療法士が相
談員として学校を訪問し、全校生徒を対象とし
た健康相談を実施しています。システム的な運
用が軌道に乗ると、徐々に発展的なサポートに
していこうと学校窓口の教員と相談し、平成23
年3月9日から部活動単位でのサポートも健康相
談と並行して実施しています。
【事業の内容】
年間のサポートスケジュールは毎月の個別健
康相談と部活動サポートに加え4月には新入生
ガイダンス、7月に熱中症予防講義を実施して
います。4月の新入生ガイダンスでは新入生を
対象に、当事業を中心とした我々の活動を紹介
し、成長期に起こりやすい運動器障害の紹介と
予防方法ならびに急性外傷の対処方法を講義し
ています。(図1) 図
1
7月の熱中症予防講義では運動部のマネージ
ャーや体育祭の実行委員などを対象に、熱中症
の分類から症状ごとの対処方法や水分・ミネラ
ルの効率的な摂取方法などを講義しています。
(図2)
図
図
3
症状の程度によっては個別健康相談の際に医
療機関の受診を促すこともあり、実際に受診を
促した生徒の中で、疲労骨折が判明したという
事例も経験しており、医療機関受診の必要性を
判断する重要な役割も担っていると思われま
す。部活動単位でのサポートでは、運動器傷害
の有無に関わらず部員全員を対象に各種競技特
性を考慮したスポーツ傷害予防の講義とパフォ
ーマンスやコンディショニングの向上に関する
実技指導などを実施しています。(図4)
2
毎月の個別健康相談は理学療法士が会場(柔
道場)で待機し、事前に申し込みをしている生
徒が来場するというシステムになっています。
専ら普段の臨床でいうところの柔道場で行う外
来リハビリテーションのようなものでしょう。
個別相談の対応は理学療法士が2人1組の班に
なり、毎回各班5名前後の生徒の相談に乗って
います。相談内容は障害予防から技術指導まで
多岐にわたりますが、その多くは外傷や過用症
- 7 -
候群による疼痛の緩和であり、内容は主に「硬
い部分を伸ばす」、「弱っている筋を鍛える」
といった対症療法のような形になっています。
(図3)また、それ以外にはテーピングの指導
やインソールへのパッド貼付および動作指導な
ども行っています。
図
4
また、ハイスピードカメラやスクリーニング
テストにおいて、特に不良肢位が認められる生
徒は傷害発生のハイリスク群とし、学校教員を
通して個別健康相談を受けるように促し、継続
的に支援活動を行っています。
なお、この「学校スポーツの健康相談と指導
(茨木高等学校)」事業では、平成25年度のべ
138名の利用がありました。
【現状の課題と今後の展望】
当事業は学校行事の一環として行われている
事業であり、開催日は概ね平日です。その点
で、参加するには各々勤務先の理解と協力も不
可欠であり、毎回の継続した参加が困難なスタ
ッフも少なくありません。よって、各生徒へ担
当制により理学療法士の介入が困難となってい
ます。また、本来、競技特性を考慮したうえで
の相談支援が必要ですが、対応生徒が全生徒で
あること、対象部活動も複数にまたがっている
ことから、十分な対応が行き届いていないのが
現状です。今後も縦断的な支援活動をおこな
い、その介入効果を検証し報告していくことが
重要だと思います。
現在、対応する理学療法士が変わっても可能
な限り提供内容に相違がないように、申し送り
媒体として紙ベースの申し送りやiPadなどのIT
機器を利用して行っています。今後も個人情報
に配慮しながら、より良い管理・伝達方法を構
築していきたいと考えております。
【おわりに】
参加スタッフはのべ138名と多くの会員に参
加いただいて成り立っています。平成26年度も
引き続きサポートが行われており、すでにのべ
77名(8月末時点)の生徒が利用しています。
本年度も多数の会員の協力をいただきながら、
サポート活動内容をより良いものにマイナーチ
ェンジしていこうと考えています。
本事業は平成24年度「運動器の10年」世界運
動・普及啓発推進事業において奨励賞を受賞し
ており対外的にも社会的・教育的意義が高い事
業と評されています。本事業が学校レベルでの
スポーツ傷害を予防する支援活動の一端を担
い、理学療法士によるサポートの幅が広がって
いくものと期待しております。
興味がある会員の方はぜひ当会のホームペー
ジ(http://athlete-care.jp/)を参照いただ
き、配信されるメールに沿って、参加申し込み
していただきたいと思います。
(〒569-0034 大阪府高槻市大塚町5丁目20-3)
- 8 -
(社)アスリートケア定例勉強会報告
『学校保健への現状の関わりと展望について』
内容② 木場先生と田名部先生の講演
ガラシア病院 リハビリテーション科
(社)アスリートケアでは、傷害予防にお
野谷 優
を頂戴しましたので、報告申し上げます。
いて学校保健に関わっていくことの重要性
を早くから認識し、関わり方を検討してい
元大阪府立茨木高等学校教諭
ました。そこで、大阪府立茨木高等学校の
水球部顧問 生徒指導主事
当時の山口校長に、当法人の小柳代表が相
木場 恒樹(こば ひさき)先生 談したところ、平成22年10月に多くの教諭
とクラブ代表の生徒達へ、傷害予防の講義
木場先生からは、大阪府立茨木高等学校
を行う機会をいただきました。そして、翌
クラブ活動支援の経過と内容について詳細
月から生徒指導主事やクラブ顧問の教諭が
にお話ししていただきました。特にクラブ
立ち会いのもと、生徒達への個別相談会を
活動別に詳細をご報告していただきまし
始めることができるようになりました。そ
た。
の1年後に大阪府立北千里高等学校高校、
ハンドボール部とバスケットボール部
さらに翌年には大阪府立三島高等学校にも
は、前十字靭帯損傷予防に重点を置いて、
関わっていけるようになりました。4年目
片脚ドロップジャンプをハイスピードカメ
を迎えた今年は、この過程を今一度見つめ
ラで撮影しました。その結果、着地直後の
直し、社会の動向に合わせながら今後の活
姿勢からハイリスク群を抽出し、個別相談
動方針を改めて見直す時期でもあります。
で重点的に前十字靭帯損傷予防プログラム
文部科学省は、今年の4月30日付で「学
を指導しました。その他の部員は、集団で
校保健安全法施行規則の一部を改正する省
講義と予防プログラムを指導し、3∼6ヶ月
令案」を決定し、2年後の平成28年4月1日
ごとに再評価を行いました。
から施行されることが決まりました。
陸上部は、ランニングフォームをハイス
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/n
ピードカメラで撮影し、翌月に分析結果を
c/1347724.htm
フィードバックするとともに個別トレーニ
そこで、6月の定例勉強会は、木場先生
ングを指導しました。
には大阪府立茨木高等学校でのクラブ活動
硬式野球部は、肩関節3rd内旋と肘関節の
支援事業の報告について、田名部先生には
屈曲と伸展可動域を計測し、講義とストレ
学校保健の現状と組織・資格制度について
ッチの指導を行いました。そして可動域制
ご講演いただきました。とても貴重なお話
限や投球時痛が著しい生徒には、医療機関
- 9 -
の受診を促しました。また、オフシーズン
の効果はありました。まず、クラブ活動の
には継続して個別指導を行いました。
自主運営において、ウォーミングアップと
ラグビー部は、腰痛予防のために柔軟性
クーリングダウンを指導内容に即して生徒
の評価を行いました。そして、ストレッチ
自ら実施するようになりました。また、個
と腹腔内圧を高めるトレーニングを指導
別競技においては、大会の成績が向上した
し、即時効果を再評価しました。また、コ
者もいました。最後になりましたが、災害
ンタクトやスクラム姿勢の指導も行いまし
共済給付金発生状況(独立行政法人日本ス
た。
ポーツ振興センター)ですが、平成22年度
水泳(水球)部は、練習や競技時に肩痛
は年間201件でしたが、平成23年度は年間
が多く発生しているため、Apley scratch
161件と減少しました。
testを用いて評価しました。そして、スト
また、この事業が定着した背景には、校
レッチをはじめとする肩関節のコンディシ
風である自主自律の精神において、リーダ
ョニングの指導を行い、3ヶ月後の再評価
ー育成プログラムへ位置づけて予算化でき
でも柔軟性の改善は維持されており、肩痛
たことが大きいと考えます。その他の要因
の発生が減少しました。
として、クラブの自主運営における月1回
スキー部は、競技力向上と膝靭帯損傷予
の代表者会議で検討されたことと、保健体
防を目的に、滑走時の前傾姿勢保持のため
育課の協力、クラブ顧問の協力によるもの
の筋力とバランス向上のトレーニング指導
と考えます。また、反対の阻害要因は、顧
を行いました。
問の理解不足や要望と対応の調整不足、ク
サッカー部は、プロサッカー選手のACL
ラブ活動時間の不足により練習やトレーニ
損傷の受傷ビデオを供覧し、FIFAの提唱す
ング重視、年間スケジュールとの調整不
る傷害予防プログラムを中心に指導を行い
足、生徒の理解力不足や主体性の不足が考
ました。
えられます。
バドミントン部は、足関節と足部損傷予
以上。
防に向けて、柔軟性と筋力トレーニング指
導を行いました。指導した理学療法士は、
元実業団の選手経験があるため、実際の動
作指導を交えながらの指導でしたので、生
徒たちの反応も良好であり、指導後は、競
技で頻繁に繰り返すランジ動作の歩幅が増
大しました。
木場 恒樹 先生
クラブ活動別の紹介は以上ですが、導入
- 10 -
(社)アスリートケア定例勉強会報告
『学校保健への現状の関わりと展望について』
内容② 木場先生と田名部先生の講演
ガラシア病院 リハビリテーション科
(社)アスリートケアでは、傷害予防にお
野谷 優
を頂戴しましたので、報告申し上げます。
いて学校保健に関わっていくことの重要性
を早くから認識し、関わり方を検討してい
元大阪府立茨木高等学校教諭
ました。そこで、大阪府立茨木高等学校の
水球部顧問 生徒指導主事
当時の山口校長に、当法人の小柳代表が相
木場 恒樹(こば ひさき)先生 談したところ、平成22年10月に多くの教諭
とクラブ代表の生徒達へ、傷害予防の講義
木場先生からは、大阪府立茨木高等学校
を行う機会をいただきました。そして、翌
クラブ活動支援の経過と内容について詳細
月から生徒指導主事やクラブ顧問の教諭が
にお話ししていただきました。特にクラブ
立ち会いのもと、生徒達への個別相談会を
活動別に詳細をご報告していただきまし
始めることができるようになりました。そ
た。
の1年後に大阪府立北千里高等学校高校、
ハンドボール部とバスケットボール部
さらに翌年には大阪府立三島高等学校にも
は、前十字靭帯損傷予防に重点を置いて、
関わっていけるようになりました。4年目
片脚ドロップジャンプをハイスピードカメ
を迎えた今年は、この過程を今一度見つめ
ラで撮影しました。その結果、着地直後の
直し、社会の動向に合わせながら今後の活
姿勢からハイリスク群を抽出し、個別相談
動方針を改めて見直す時期でもあります。
で重点的に前十字靭帯損傷予防プログラム
文部科学省は、今年の4月30日付で「学
を指導しました。その他の部員は、集団で
校保健安全法施行規則の一部を改正する省
講義と予防プログラムを指導し、3∼6ヶ月
令案」を決定し、2年後の平成28年4月1日
ごとに再評価を行いました。
から施行されることが決まりました。
陸上部は、ランニングフォームをハイス
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/n
ピードカメラで撮影し、翌月に分析結果を
c/1347724.htm
フィードバックするとともに個別トレーニ
そこで、6月の定例勉強会は、木場先生
ングを指導しました。
には大阪府立茨木高等学校でのクラブ活動
硬式野球部は、肩関節3rd内旋と肘関節の
支援事業の報告について、田名部先生には
屈曲と伸展可動域を計測し、講義とストレ
学校保健の現状と組織・資格制度について
ッチの指導を行いました。そして可動域制
ご講演いただきました。とても貴重なお話
限や投球時痛が著しい生徒には、医療機関
- 9 -
の受診を促しました。また、オフシーズン
の効果はありました。まず、クラブ活動の
には継続して個別指導を行いました。
自主運営において、ウォーミングアップと
ラグビー部は、腰痛予防のために柔軟性
クーリングダウンを指導内容に即して生徒
の評価を行いました。そして、ストレッチ
自ら実施するようになりました。また、個
と腹腔内圧を高めるトレーニングを指導
別競技においては、大会の成績が向上した
し、即時効果を再評価しました。また、コ
者もいました。最後になりましたが、災害
ンタクトやスクラム姿勢の指導も行いまし
共済給付金発生状況(独立行政法人日本ス
た。
ポーツ振興センター)ですが、平成22年度
水泳(水球)部は、練習や競技時に肩痛
は年間201件でしたが、平成23年度は年間
が多く発生しているため、Apley scratch
161件と減少しました。
testを用いて評価しました。そして、スト
また、この事業が定着した背景には、校
レッチをはじめとする肩関節のコンディシ
風である自主自律の精神において、リーダ
ョニングの指導を行い、3ヶ月後の再評価
ー育成プログラムへ位置づけて予算化でき
でも柔軟性の改善は維持されており、肩痛
たことが大きいと考えます。その他の要因
の発生が減少しました。
として、クラブの自主運営における月1回
スキー部は、競技力向上と膝靭帯損傷予
の代表者会議で検討されたことと、保健体
防を目的に、滑走時の前傾姿勢保持のため
育課の協力、クラブ顧問の協力によるもの
の筋力とバランス向上のトレーニング指導
と考えます。また、反対の阻害要因は、顧
を行いました。
問の理解不足や要望と対応の調整不足、ク
サッカー部は、プロサッカー選手のACL
ラブ活動時間の不足により練習やトレーニ
損傷の受傷ビデオを供覧し、FIFAの提唱す
ング重視、年間スケジュールとの調整不
る傷害予防プログラムを中心に指導を行い
足、生徒の理解力不足や主体性の不足が考
ました。
えられます。
バドミントン部は、足関節と足部損傷予
以上。
防に向けて、柔軟性と筋力トレーニング指
導を行いました。指導した理学療法士は、
元実業団の選手経験があるため、実際の動
作指導を交えながらの指導でしたので、生
徒たちの反応も良好であり、指導後は、競
技で頻繁に繰り返すランジ動作の歩幅が増
大しました。
木場 恒樹 先生
クラブ活動別の紹介は以上ですが、導入
- 10 -
公益財団法人 日本高等学校野球連盟
提言のうち、個別の健康診断項目で、運動
改正の概要 抜粋
介入によるモデル事業を当面の活動として
理事
器に関する検診について、次のことが指摘
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6686/0
実施していくこと。
田名部 和裕(たなべ かずひろ)先生
されています。
0153211/26gakkouhokennannzenn_sekou
3.
kisoku_kunituuti.pdf
者の橋渡し役を担えるようにすること。
現代の子どもたちには、過剰な運動
1.
学校(校長、養護教諭など)と保護
児童生徒等の健康診断
文部科学省では、平成6年に学校の健康
1.
診断の大幅な改正が行われたが、近年の児
に関わる問題や、運動が不足していること
(1)検査の項目並びに方法及び技術的基
特に2.に関して当面は、理学療法士の
童生徒の健康問題を踏まえ、今後の健康診
に関わる問題など、運動器に関する様々な
準(第6条及び第7条関係)
単独によるスクリーニングを行うことは慎
断の在り方を検討する必要性が指摘され、
課題が増加しています。これらの課題につ
(中略)
重に行うこととし、児童・生徒から医療の
平成24年に有識者会議「今後の学校の健康
いて、学校でも、何らかの対応をすること
ウ 「四肢の状態」を必須項目として
相談を受けるときは、保健室で養護教諭も
診断の在り方に関する検討会」が、設置さ
が求められており、その対応の一つとし
加えるとともに、四肢の状態を検査する際
しくは保健主事等の同席のもとで行うなど
れました。学校の健康診断は、健康状態を
て、学校の健康診断において、運動器に関
は、四肢の形態及び発育並びに運動器の機
の注意が必要です。
把握するという役割と、健康課題を明らか
する検診を行うことが考えられます。その
能の状態に注意することを規定すること。
また、全国の理学療法士の半数以上は女
にして健康教育に役立てるという、大きく
際には、保健調査票等を活用し、家庭にお
二つの役割があるとされています。その中
ける観察を踏まえた上で、学校側がその内
文部科学省の省令改正がなされたこと
も学校保健活動に生かすことができる点で
で、疾病の確定診断を行うことを目的とす
容を学校医に伝え、学校医が診察するとい
で、平成28年4月の施行までに、保健調査
も、その介入効果が期待されるところで
るより、学業やこれからの発育に差し支え
う対応が適当です。そこで異常が発見され
票の見直しが日本医師会学校保健委員会で
す。
のでるような疾病がないかなどを見分ける
た場合には、保健指導や専門機関への受診
検討されており、運動器の10年・日本協会
「スクールトレーナー」は運動器の10
ことがスクリーニングの目的とされていま
等、適切な事後処置が求められます。
でもその素案を検討しています。その中に
年・日本協会が平成25年4月に商標登録を
おいて、スクールトレーナー制度の創設
しています。
す。そこで、学校医がより効果的に健康診
性で、将来自ら体験した育児に関する知見
断を行うためには、担任、養護教諭等が事
2.
運動器に関する検診の実施に当たっ
は、こうした学校の健康診断の見直しの主
前に保健調査票や学校生活管理指導票で子
ては、担任、保健体育の教諭、養護教諭、
旨と課題を踏まえ、理学療法士として以下
どもの健康状態を把握し、学校医に伝える
学校医に対して、整形外科医等の専門的な
の3点が重要になってくると考えます。
ことが非常に重要です。一方スクリーニン
立場から、研修等によって助言を得る機会
1.
グ後、適切に医療につながっていないケー
を積極的に設けることが重要です。
的な立場から適切な助言や役割を果たして
スがあり、学校保健安全法では、保健指導
以上の提言を受けて、文部科学省は、今
いくこと。
において、保護者に対して必要な助言を行
年4月30日付で「学校保健安全法施行規則
2.
うことが求められていることからも、事後
の一部を改正する省令案」を決定、2年後
ーニング効果及び頻回訪問もしくは複数校
処置が適切に行われるような取り組みが求
の平成28年4月1日から施行されることが決
を対象とした配置・定期巡回訪問相談、指
められいます。
まりました。
導、教育・啓発のための適切な業務委員会
以上。
学校の 保健委員会 に参画し、専門
田名部 和裕先生
定期期な学校訪問活動によるスクリ
(〒562-8567 大阪府箕面市栗生間谷西6-14-1)
項目・量及び配置人数等を把握するための
平成25年12月に、有識者会議がまとめた
- 11 -
- 12 -
公益財団法人 日本高等学校野球連盟
提言のうち、個別の健康診断項目で、運動
改正の概要 抜粋
介入によるモデル事業を当面の活動として
理事
器に関する検診について、次のことが指摘
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/6686/0
実施していくこと。
田名部 和裕(たなべ かずひろ)先生
されています。
0153211/26gakkouhokennannzenn_sekou
3.
kisoku_kunituuti.pdf
者の橋渡し役を担えるようにすること。
現代の子どもたちには、過剰な運動
1.
学校(校長、養護教諭など)と保護
児童生徒等の健康診断
文部科学省では、平成6年に学校の健康
1.
診断の大幅な改正が行われたが、近年の児
に関わる問題や、運動が不足していること
(1)検査の項目並びに方法及び技術的基
特に2.に関して当面は、理学療法士の
童生徒の健康問題を踏まえ、今後の健康診
に関わる問題など、運動器に関する様々な
準(第6条及び第7条関係)
単独によるスクリーニングを行うことは慎
断の在り方を検討する必要性が指摘され、
課題が増加しています。これらの課題につ
(中略)
重に行うこととし、児童・生徒から医療の
平成24年に有識者会議「今後の学校の健康
いて、学校でも、何らかの対応をすること
ウ 「四肢の状態」を必須項目として
相談を受けるときは、保健室で養護教諭も
診断の在り方に関する検討会」が、設置さ
が求められており、その対応の一つとし
加えるとともに、四肢の状態を検査する際
しくは保健主事等の同席のもとで行うなど
れました。学校の健康診断は、健康状態を
て、学校の健康診断において、運動器に関
は、四肢の形態及び発育並びに運動器の機
の注意が必要です。
把握するという役割と、健康課題を明らか
する検診を行うことが考えられます。その
能の状態に注意することを規定すること。
また、全国の理学療法士の半数以上は女
にして健康教育に役立てるという、大きく
際には、保健調査票等を活用し、家庭にお
二つの役割があるとされています。その中
ける観察を踏まえた上で、学校側がその内
文部科学省の省令改正がなされたこと
も学校保健活動に生かすことができる点で
で、疾病の確定診断を行うことを目的とす
容を学校医に伝え、学校医が診察するとい
で、平成28年4月の施行までに、保健調査
も、その介入効果が期待されるところで
るより、学業やこれからの発育に差し支え
う対応が適当です。そこで異常が発見され
票の見直しが日本医師会学校保健委員会で
す。
のでるような疾病がないかなどを見分ける
た場合には、保健指導や専門機関への受診
検討されており、運動器の10年・日本協会
「スクールトレーナー」は運動器の10
ことがスクリーニングの目的とされていま
等、適切な事後処置が求められます。
でもその素案を検討しています。その中に
年・日本協会が平成25年4月に商標登録を
おいて、スクールトレーナー制度の創設
しています。
す。そこで、学校医がより効果的に健康診
性で、将来自ら体験した育児に関する知見
断を行うためには、担任、養護教諭等が事
2.
運動器に関する検診の実施に当たっ
は、こうした学校の健康診断の見直しの主
前に保健調査票や学校生活管理指導票で子
ては、担任、保健体育の教諭、養護教諭、
旨と課題を踏まえ、理学療法士として以下
どもの健康状態を把握し、学校医に伝える
学校医に対して、整形外科医等の専門的な
の3点が重要になってくると考えます。
ことが非常に重要です。一方スクリーニン
立場から、研修等によって助言を得る機会
1.
グ後、適切に医療につながっていないケー
を積極的に設けることが重要です。
的な立場から適切な助言や役割を果たして
スがあり、学校保健安全法では、保健指導
以上の提言を受けて、文部科学省は、今
いくこと。
において、保護者に対して必要な助言を行
年4月30日付で「学校保健安全法施行規則
2.
うことが求められていることからも、事後
の一部を改正する省令案」を決定、2年後
ーニング効果及び頻回訪問もしくは複数校
処置が適切に行われるような取り組みが求
の平成28年4月1日から施行されることが決
を対象とした配置・定期巡回訪問相談、指
められいます。
まりました。
導、教育・啓発のための適切な業務委員会
以上。
学校の 保健委員会 に参画し、専門
田名部 和裕先生
定期期な学校訪問活動によるスクリ
(〒562-8567 大阪府箕面市栗生間谷西6-14-1)
項目・量及び配置人数等を把握するための
平成25年12月に、有識者会議がまとめた
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助成研究報告
~第35回日本臨床バイオメカニクス学会発表~
三平面の二次元画像を用いた投球側上肢の定量的評価
医療法人行岡医学研究会 行岡病院 今高
【はじめに】
投球動作における肩外転角度の減少や肩水平外
転角度の増大は、肩、肘関節への負荷を増大させ
て投球障害の発生に関与すると報告されている。
投球動作の正確な分析には三次元動作解析装置
(3D)などが用いられるが環境が限定されるた
め、デジタルカメラと体外指標による三平面の二
次元画像を用いた投球動作の分析方法(2D)を考
案した。本研究の目的は、肩最大外旋期
(MER)、ボールリリース期(BR)における2Dの
分析結果を、3Dの結果と比較することで妥当性
を、さらに検者内、検者間における信頼性を検証
し、3Dの有用性を検討することとした。
【対象・方法】
障害を有さない野球選手20名(年齢:
21.9±4.0歳、身長:172.1±5.8cm、体重
65.0±6.7kg、野球歴:13.4±4.7年)の投球動作
を2Dと3Dで計測した(300fps)。動作解析ソフト
は、2DにはToMoCo-lite、3DにはVICON NEXUSを用
いた。分析位相は、MERとBRとした。解析項目
は、肩水平内外転角度(水平面)、肩外転角度
(前額面)とし、2Dは体外指標として装着した肩
甲帯ラインマーカーと上腕、Vicon MXは体表マー
カーから算出した。肘の移動距離(矢状面)は、
2D、3Dともに右上腕骨外側上顆を指標とした。そ
れぞれの結果について、2Dの3Dに対する計測誤差
を算出した。統計学的分析は、それぞれの項目の
比較のためにピアソンの相関係数検定を用いた。
康詞,他7名
本計測方法の信頼性を検討するために、検者内、
検者間級内相関係数(ICC)を検証した。
【結果】
肩水平内外転角度と肩外転角度の相関係数
(r)は、MERとBRでは0.72から0.88であり、肘の
移動距離は0.8であった。計測誤差は、肩水平内
外転角度と肩外転角度では3°以下であり、肘の
移動距離では0.0±3.0cmであった(表1)。検者
内、検者間ともICCは、肩水平内外転角度と肩外
転角度では0.81から0.98であり、肘の移動距離は
0.69から0.79であった。
【考察】
肩水平内外転角度と肩外転角度の2D評価は、現
状では最も精度が高いとされる3D計測と相関が高
く、平均誤差は3°以下と小さく信頼性も高かっ
たことから、臨床的に有用であることが示唆され
た。さらに、鏡像の利用により三平面の2D評価は
より簡便に行え、画像の記録も可能なことから、
トレーニングの効果判定やフィードバックが可能
である。トレーニング前後に見られる投球動作の
変化も誤差範囲を超えることが多いことから、臨
床評価法として有用性が高いと考えられた。
【結語】
三平面の2Dによる投球動作の妥当性を3Dと比較
し、信頼性とともに有用性を検証した。2Dの肩水
平内外転角度、肩外転角度はMER、BRで妥当性と
信頼性がともに高く、臨床的な有用性が示唆され
た。
表1 平均誤差(3Dを基準)と相関係数 (n=20)
水平外転(°)
外転(°)
肘の移動距離(cm)
平均誤差(3D-2D)
r
p値
MER
0.3±3.5
0.88
<0.001**
BR
-2.5±8.1
0.83
<0.001**
MER
3.0±5.5
0.78
0.01*
BR
2.0±7.6
0.72
0.02*
0.8
<0.001**
MER,BR
0±3.0
*; p<0.05
**; p<0.01
(〒530-0021 大阪市北区浮田2-2-3)
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-文献抄読-
上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎が判明した野球選手の投球フォームの特徴
後藤 英之,他:日本整形外科スポーツ医学会雑誌,34(1),109-115,2014
医療法人永広会 島田病院 瀬尾 充弘
【背景】
れた評価を選択、各項目について0点または1点
上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎(小頭部OCD)
として加点し、姿勢の問題や測定不能な場合は
は野球や器械体操など肘外側部に反復負荷ある
0.5点とした。
いは荷重負荷のかかる種目の選手に好発する。
【結果】
【目的】
投球フォームの合計点数はOCD群が有意に高
本研究の目的は小頭部OCD発症初期の状態に
い点数であった。
おける投球フォームを調査し、小頭部OCD発症
各投球相の平均点数を比較すると、WUにおい
と投球フォームとの関係を明らかにすることで
てOCD群が有意に高い点数を示した。
ある。
各チェック項目ではLCで『投球側の肘屈曲が
90°以上である』の項目においてOCD群が有意
【対象】
に高かった。一方、LCでの『肘下がり』やACで
2009年~2011年にメディカルチェックを実施
の『非投球側の手がたたみ込み』について、
した少年野球選手5~6年生44名(平均年齢11.5
OCD群は正常群と比べ低い傾向にあった。
歳)を対象とした。
【考察】
【方法】
本研究ではOCD群において投球相全体でのフ
X線検査および超音波検査を実施し、初期の
ォーム評価は正常群よりも良い結果となった。
小頭部OCDが判明した4名をOCD群、正常であっ
特にWUでの点数は満点で、その他に投球におけ
た40名を正常群として分類した。投球フォーム
る下半身や体幹の基本的な動作は優れていると
の撮影に際してはネットスローを全力で3球行
評価された。しかし、一方でLCにおける『肘下
い、その中で動きが最も良好に行われたものを
がり』やACにおける『非投球側の手がたたみ込
評価した。
み』の評価は低い傾向にあった。
Wind-up phase(WU)、Early coking phase
このことから、投球相前半までは適切な体
(EC)、Late coking phase(LC)、
幹・下肢の運動により円滑な運動連鎖が行われ
Acceleration phase(AC)、Ball release
ており、正常群と比較して大きな運動エネルギ
phase(BR)の5つの静止画像を作成し、各投球
-を発生されることができると考えられる。し
相で3つのチェック項目を設け、合計15点満点
かし、肘下がりに代表される上肢の肢位の異常
とした。
のために肘関節へのストレスの増加をもたら
例えば、WUでは、体幹の前後傾がない、ステ
し、OCD発症に関与した可能性が示唆された。
ップ脚の高さが適当である、体幹の後方回旋が
みられるかをチェックした。評価にあたっては
(〒583-0875 大阪府羽曳野市樫山100-1)
医師3名によって評価し、2人以上の一致がみら
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特集 −投球制限について− 1
特集 -投球制限について−
「青少年の野球障害に対する提言」
日本臨床スポーツ医学会誌3巻1号(1995)
スポーツを楽しむことは青少年の健全な心身の育
成に必要である。野球はわが国における最もポピュ
ラーなスポーツの一つであるが,骨や関節が成長し
つつある年代における不適切な練習が重大な障害を
引き起こす事もあるので,その防止のために以下の
提言を行う。
日本中学硬式野球協議会は、
リトルシニアやボーイズリーグ
など参加5団体でプレーする中学生投手の、試合と練習での投
球数を制限するガイドライン#1を発表した。今年度を周知期間と
し、来年度から完全適用する。
(2014年4月3日、毎日新聞)
青少年の投球障害予防に関して大きな一歩が踏み
出されました。中学生における規定を提言から具体
例を交えて紹介します。
4) 全力投球数は,小学生では1日50球以内,試合
を含めて週200球をこえないこと。中学生では1日70
球以内,週350球をこえないこと。高校生では1日
100球以内,週500球をこえないこと。なお,1日2試
合の登板は禁止すべきである。
5) 練習前後には十分なウォームアップとクール
ダウンを行うこと。
6) シーズンオフを設け,野球以外のスポーツを
楽しむ機会を与えることが望ましい。
7) 野球における肘・肩の障害は,将来重度の後
遺症を引き起こす可能性があるので,その防止のた
めには,指導者との密な連携のもとでの専門医によ
る定期的検診が望ましい。
1) 野球肘の発生は11,12歳がピークである。従
って,野球指導者はとくにこの年頃の選手の肘の痛
みと動きの制限には注意を払うこと。野球肩の発生
は15,16歳がピークであり,肩の痛みと投球フォー
ムの変化に注意を払うこと。
2) 野球肘,野球肩の発生頻度は,投手と捕手に
圧倒的に高い。従って,各チームには,投手と捕手
をそれぞれ2名以上育成しておくのが望ましい。
3) 練習日数と時間については,小学生では,週3
日以内,1日2時間をこえないこと,中学生・高校生
においては,週1日以上の休養日をとること。個々
の選手の成長,体力と技術に応じた練習量と内容が
望ましい。
日本臨床スポーツ医学会学術委員会
委員長 大国真彦
整形外科専門部会
委員長 渡辺好博
特集 −投球制限について− 2
「投手の投球制限に関する特別規定」
規定に関する説明は次のページです。
野球における肘・肩の障害は,中学生投手に将来重度の後遺症を引き起こす可能性があるので、投球に関し
て下記の制限を設けることとする。
① 3日連投した合計で10イニングを超えて投球することができない。
② 1日の制限イニング数は7イニングまでとする。
③ 2日あるいは3日連投して合計で10イニングを超える投球はできない。
④ 2日で10イニングを投球した場合、または3日連投した(10イニングに達していなくても)
場合翌日は投球禁止。
⑤ 3日目の投球イニング数は前日2日の投球イニング数を加算し10イニングまでとする。
⑥ ダブルヘッダーの連投でも1日7イニングまでとし、翌日投げた場合翌々日は投球禁止。
⑦ 1イニングの投球が完了していない(0/3,1/3,2/3)は、切り上げ1イニングとカウントする。
⑧ この規定はタイブレークにも適用する。
⑨ ノーゲームになった場合でも投球イニングはカウントされる。
適用例
例
1日目
2日目
3目日
4日目
5日目
6日目
3イニング
2イニング
5イニング
投球禁止
2イニング
5イニング
合計10イニング
投球禁止
合計10イニング
投球禁止
合計10イニング
3日
2イニング 1/3 1イニング 2/3 4イニング 1/3
連投
2日
連投
3イ
ニン
グ
3イ
ニン
グ
0イ
ニン
グ
2イ
ニン
グ
投球禁止
3イニング
2イニング
4イニング
投球禁止
4イニング
雨天中止
6イニング
投球禁止
3イ
ニン
グ
7イニング
3イニング
投球禁止
4イニング
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投球禁止
イニング途中でも1イニングと
計算し合計していく
ダブルへッダーで3、翌日3、
翌々日2で仮に10イニングは
もちろん未満でも4連投は禁止
ダブルヘッダーで5、翌日4で合計9イニングで
も次の日は投球禁止とする。
3イ
ニン
グ
4イニング
6イニング
投球禁止
投球禁止
特集 -投球制限について− 3
「投球制限を規定するにあたって」
日本リトルシニア中学硬式野球協会 理事長 林 清一
規則審判部会長 那須野 勉
近年、野球の1試合における投手の投球数が問題視されているなか、骨や関節が成長過程にある
中学生の時期に勝つための選手起用や選手の身体への無理が生じている現状がみられます。
ゲームにおいてもエースピッチャーの連投により肘や肩を痛め次の試合に出場できずにベンチで控
えているケースや、投球をしなくても野手として守備につき結果として故障を余儀なくしている場合
も少なくありません。実際にどれだけの負担がかかっているかは見えない状況です。そこで青少年の
“健全な心身の育成”という観点から、各試合投手の投球数に制限を規定し、勝利至上主義的な考え
方のために将来ある投手の不適切な起用を回避するべきと考えます。
そこで今回、日本臨床スポーツ医学会学術委員会の野球における「青少年の安全なスポーツ実施の
ガイドライン」を参考資料とし、中学硬式野球の投手として適切かつ安全な投球数、または投球イニ
ング数を決め、まずは投手(選手)の心身の安全を考えたいと思います。
過去の平均投球数は資料にもありますように、7イニングス約103球、1イニングスで換算する
と15球の投球数となります。春季選抜大会、夏季日本選手権大会等では5~6日の連戦もありま
す。したがってガイドラインにある中学生の全力投球数は70球の目安から考えて1日MAX100
球が適当数と考えられ、3試合連投になった場合の投手の負担軽減策は3日で10イニングスまでと
し、翌日は休養日とすることがベストと考えます。これは記録をしっかり取れていない現状もあるこ
とから投球数ではなくイニング数で考え、1日7イニングスまでとし、2日連投および3日連投の場
合は合計10イニングスまでと制限します。但し2日で10イニングスと3日で10イニングス未満
の投球であってもそれぞれ連投の翌日は投球禁止とします。その後からは再び投球イニング数を加算
しカウントしていきます。またダブルヘッダ-の連投をした場合は当然合計7イニングスですが、こ
の場合原則投げられるのは翌日までとし翌々日は投球禁止とします。以上制限内容を提案いたしま
す。
春季関東
夏季関東
日本選手権
秋季関東
2013 春季関東
完投投手人数
37 名
39 名
31 名
29 名
13 名
平均投球数
105 球
101 球
100 球
100 球
106 球
#1 中学生投手の投球制限に関する統一ガイドライン
→ http://www.jaba.or.jp/topics/2014/pdf/s_tokyu_g.pdf
編集後記
今号は、投球制限の記事を多く掲載しました。編集をする中で、青少年を対象としたスポーツの根幹にある“健全な
心身の育成”の重要性を再確認しました。将来のある選手の身体を守るためにルールが策定されることは大変望ましい
と思います。ルールの中で自身の技術や精神力を磨いて精一杯奮闘し、子供たちの輝く未来にスポーツが貢献できれば
最高であると感じます。
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